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LIBOR利用状況調査結果が金融庁、日銀から公表された

昨日LIBOR利用状況調査結果の概要が金融庁、日銀から公表された。デリバティブ取引に関しては想定元本ベースでの調査となっており、残高は6300兆円となっている。そのうち約半数が2021年末を超えるもので、特に対処が必要なものとなる。貸出等の運用が164兆円、預金、債券等の調達が97兆円であった。

ぼ全ての先が、LIBOR参照契約の規模を継続的に把握できる体制を構築済みとされている。しかし、一言でLIBOR参照契約といっても様々なものがあり、それが各金融機関でどのように把握されているか、個人的にはもう少し知りたいところである。単純に契約上LIBORが使われているものの特定はそれほど難しくない、しかし、LIBORが変わることによって時価が変わる取引はそれ以外にもたくさんある。

つまり、LIBOR Discountを行っている取引などは、時価計算時の割引率にLIBORが使われているので、厳密にはLIBORの変更による影響を受ける。つまり、ドル金利スワップであったとしても、それに対するISDAのCSA上の担保が円現金であったら、一部でLIBOR割引をしているところもある(通常は翌日物無担保金利だろうが)。こうなると例えばLIBORと全く関係ないと思われているようなCDSなどのような取引でもLIBOR変更による影響を受ける。

海外当局はこれをContractual、Non Contractualとして区分し、データ提出を求めているところもあるようだが、この結果を見ると、日本の場合は単純に想定元本のみで集計されている。資本計算の標準法を見てもそうだが、日本はやはりローンの文化で、デリバティブのリスク管理も想定元本で行う慣行が続いている。1000億円の1年スワップと同額の30年スワップでは、Discountを無視すれば30倍近くになり、これを想定元本でくくってしまうというのは、デリバティブに携わる人にとっては違和感があるのだろうが、ローンの価格を現在価値を考慮して管理していなければ、ローンの世界では貸出元本は変わらない。

もう一つ驚いたのが、 フォールバック条項の手当がある契約が一部を除いてほぼ皆無であったという記述である。LIBORがなくなった時に、どの金利に移行するのか相対で一つ一つ交渉するのは困難であるため、早急にフォールバックを決める必要がある。デリバティブ取引についてはISDAの検討に乗っかればよいだろうが、相対のローンや仕組債については、かなり面倒なことになる可能性がある。

この報告書は、最後にこう締めくくられている。「金融庁及び日本銀行は、2021年末という時限を意識し、金融機関に求められる今後の対応が適切に 行われているか、モニタリングを実施していく。その際、今後の各金融機関における移行状況を踏まえ、より具体的なマイルス トーンを設定することやオンサイトモニタリングの実施についても検討していく。 」

今のところ英国のように以降の期限を当局が決めたり、前述した担保ヘアカットを変更したりといった手段を使うより、金融庁検査や日銀考査といったツールを使っていくという方針のようだ。もっとも日本の場合はその方法で十分に効果があるのかもしれないが。今後は他行の状況などを睨みながら、自分だけが後れを取って当局に指摘されると言うことを避けるために、神経質な横並び情報の収集が行われることになるのだろう。おそらくどこかの銀行が非常に進んで対応しているということがニュースになると、うちも早く対応しなければという焦りが生まれ、それが移行を加速させるというパターンになるものと思われる。

LIBOR移行が遅れることによるペナルティ

英国中銀が中銀貸出の担保にLIBOR参照資産を使っている場合はヘアカットを上げるというアナウンスをした。これまでは、移行を促すコメントが主体で、実際の取引に影響のある目立った施策はなかったが、これにより、コストに影響が出始めるため、更に英国での移行が加速することになることは間違いない。

担保のヘアカットとは、通常その担保の信用力が低いから、担保価格の変動が大きいからという理由で、例えば100円の担保を出したとしても90円しか借りられないというもので、この例では10%のヘアカットが適用されているということなる。ISDAの世界で言うValuation Percentageと同じだが、Haircut=1-Valuation %となる。通常このヘアカットは、2週間99%といったVaRの計算等によって求めているところが多いものと思われる。日銀担保にもこの価格が適格担保要領で定められており、JGB担保にも一定のヘアカットが適用されている。

以下の様に記載されている為、10月1日以降にLIBOR参照担保を使う場合は通常のヘアカットに10%を足して担保価値を計算することになる。その後来年の6月1日以降はこれが40%、来年末以降は100%、つまり無価値ということになる。

The haircut add-on will be 10 percentage points from 1 October 2020, 40 percentage points from 1 June 2021 and 100 percentage points from 31 December 2021. For the avoidance of doubt, haircuts will be capped at 100 percent.

早く移行を促すコメントを出し続けるよりは、このようなコストに影響を与える変更は本当に効果があると思う。ほかにもLIBOR参照商品の多い銀行に対してはそれに応じて資本賦課をかける等、様々な手法が考えられるが、今後は口先介入から具体策に移っていくのだろう。日本でも同じことをする可能性はあるが、日本の場合は通常の当局検査でも一定の効果が出るものと思われる。

米国当局が新資本規制案を最終化

先週水曜に米国当局が大規模銀行に対する新たな資本規制案を最終化させた。これによってシステム的に重要な大規模銀行に対する所要資本が$46bn増えると報道されているが、Quarles FRB副議長が支持して話題になっていたCountercyclical Capital Bufferの導入は見送られたようだ。Stress Leverage Buffer導入も見送られている。

FEDによるとこの新規制により大規模銀行に対する資本賦課は平均的に7%増えるものの、小規模銀行の負担は軽くなり、10%程度の所要資本削減が見込めるとのことである。今年のストレステストは34行に対して行われ、結果は6月30日に公表されることになっている。

一見大銀行に対しては資本規制の強化のように見えるが、規制項目の簡素化等も行われているようであり、基準さえ満たしていれば、FEDの承認なしに配当を上げる等の柔軟な対応が可能になっているようである。

最近はこのように規制緩和なのか強化なのかよくわからないような変更が多い。もしかしたら、銀行に対する規制緩和というと議員や一般国民の受けが良くないため、ヘッドラインとしては厳格化させるように見せておいて、実質的には行き過ぎた規制の修正を進めているのかもしれない。

コロナが変える金融業界

ここまでくるとさすがにコロナについても言及したくなるが、金融業界にとってもかなりのゲームチェンジャーになる可能性が高い。大手グローバルバンクは家から会社のシステムにほぼアクセスでき、家で会社の電話と同等のセットアップをすることも簡単あろうから、モニターさえあれば何とかなるものと思われるが、それでもセールストレーディング業務は自宅勤務が長引くとかなり厳しいという話が業界では聞かれる。

JPM等大手がオフィスを複数に分ける話がニュースに出ているが、今後は一か所ではなく数か所で分散して仕事をするのが一般的になっていく。そして狭いスペースに人を詰め込むのではなく、階を分散したり、近隣にオフィスを分散することになるかもしれない。ミーティングスペースも10人程度が入る密閉された会議室より、個室や少人数の部屋が好まれたり、またはオープンスペースの会議が増えることになるのだろうか。

テレワークは増えると思うものの、それを恒常的に行うのが難しい業界の場合は、オフィススペースが足りなくなる。空調を外気を入れられるようなものに変えたり、エレベーターを分けたりという工夫もビルによっては必要になる。人と人とのスペースを取り、狭い部屋に大人数を入れることを避けるところも出てくるだろうし、ジム併設などを売りにするメリットもなくなる。喫煙ルームの運命もどうなるかわからないので、やはり禁煙がベストか。居住スペースについても、テレワーク支援対策の整った物件が人気を博すかもしれない。

取引プロセスもなるべく人手を介さない方向にシフトする動きが加速するだろうし、オートメーション、STP化は急務である。日銀やブローカーから指定された端末を使うという慣行は見直されるだろうし、郵送が減り、印鑑文化も根底から覆る可能性がある。オフィスが閉鎖になったら担当者が印鑑を抱えて出るようになどというのは滑稽でしかない。

働き方改革も自宅勤務を踏まえて労務管理を見直す必要がある。銀行窓口もさらに減るだろうし、通帳記入のためにわざわざ銀行に出向くというのもばからしくなってきている。金融商品販売についても、支店で説明というよりは、ビデオ会議のようなやり方が増える動きも出てくるだろうが、顧客者保護とのバランスが問題になる。

この騒動が一時的に収束したとしても、また寒くなれば流行の時期を迎える可能性が高いので、一過性のものというよりは、今後の金融のあり方を大きく変えるものになる可能性がある。

危機時に中銀サポートを前提とすることが容認され始めた?

ECBがCCPに対して銀行免許なしに流動性サポートを供給する可能性に言及した。あくまでもCCPは自らのリスク管理体制を強化すべきであり、中銀や当局に頼るべきではないというのが当初の考え方だったが、CCPでの清算が義務化され、ここまで金融インフラとして確立してくると、こうした動きは歓迎すべきだと思う。現時点で銀行免許を持っているのはEurexとLCHのフランス現法だけだが、これが欧州の他のCCPにも拡げられる可能性がでてきた。

米国でも重要性の高いCCPに対しては、かなりの制限はついているものの、中銀アクセスは可能な建付けになっており、この条件緩和の議論が継続中である。当然マーケットにとっては、これによってCCPの管理監督が強化されようとも、その代わりにCCPへの中銀アクセスが認められるのなら、市場安定に資するものと思われる。

欧米がこのような流れになっている中、日本のCCPに対しても同様の議論が巻き起こるかに注目が集まる。おそらく、現在JSCCに参加しているような大規模金融機関が破たんした場合には、市場の崩壊を避けるため、日銀から何らかのサポートが得られる可能性が高いと考えている市場参加者は多いようだ。ただし、それを最初から当てにして仕組みを構築するのと、本当に危機が発生したときに金融対応をするというのは、似て非なることである。

とは言え、グローバル規制の考え方は、こうした本当の危機に備えて資本や流動性を常日頃から確保しなさいという方向になっている。つまり、欧米のように最初から一定の条件で中銀の流動性に頼れるということになれば、無駄な資本、流動性確保を日々行う必要性から解放される。おそらく日本の参加者破綻などの危機時に流動性提供を約束している欧米金融機関の多くは、その資金額に対して資本手当てをしているところがほとんどだと思われるが、この負担がなくなる。

これまでは、こうした点も含めて保守的な対応がなされてきたのだが、米国短期市場の混乱等により、欧米当局の考え方が少しずつ変化してきているように思う。先日ここでも書いた米国FRBの連銀貸出の話も同様である。

日本の場合はこうした資本コストが高いため、他国のCCPで清算するようなインセンティブが働かないよう、日本でも同様の議論が盛り上がることが期待される。

CCPの参加者破綻時の損失補償はどうあるべきか

Eurexが27日の金曜に主催したセミナーでCCPの損失補償について議論になったという記事が出ている。顧客資産を預かるアセマネやディーラーサイドからは、参加者破綻によって非デフォルト参加者の精算基金やVMGH(Valuation Margin Gains Haircutting)が使われた場合には、後々それが返還されるべきという意見が出されている。これに対し、CMEやEurexは当然反対の立場を取っている。

EUの議会でも話題になっているようだが、こうした事態が起きたときには管財人が公平に回収した資金を返却すべきというのはもっともらしい主張にも思えるが、今一つ府に落ちない。そもそも参加者破たん時には、その参加者のIMやGF(Guarantee Fund)が使われ、それでも足りなければ非デフォルト参加者のGFや勝ち分を諦めるVMGHへと進んでいく訳だが、CMEが述べているように、破綻参加者から後に回収があった場合は、当然それがCCPに返却され、それを一定の割当方法に基づいて非デフォルト参加者や顧客に返却するプロセスは現状の規則でも確立されている。ただし、それが不十分だったとしても、CCPの将来的な利益をもってさらに返却させるような仕組みにはなっていない。個人的には一旦破綻管理プロセスが終わった後は、破綻参加者の回収額を超えてCCPが補填するのは行き過ぎだと思うのだが、この点について意見が分かれているようである。

またIM Haircutについても意見が分かれているようだが、さすがに非デフォルト参加者のIMを破綻処理に組み込むのは個人的には反対である。IMは自分の破綻時に使われるのは構わないが、他社の破綻時にまで使われるものとなると、会計上、資本規制上の扱いも変わってきてしまうのではないか。

これらの点については、議会やこうしたセミナーでも意見集約ができていないので、様々な考え方があるのだろうが、マーケットインフラストラクチャーとしてのCCPの重要性と、参加者負担のバランスが崩れないように活発な議論が望まれる。

LIBOR改革の進捗についての海外当局の動きが加速

英国当局のFCAからアセマネ会社のCEO宛にLIBORからの移行を促すレターが先週木曜に送られたとFTが報じている。顧客からの要望を待つのではなく、自ら積極的にLIBORの使用を止めるようにとの通達だ。

LIBORからの移行が遅い銀行には中銀貸出の条件を厳格化するという話もある。2021年以降に満期を迎えるローンや債券も9月以降は新規で取り組むべきことは実質的にできなくなる模様だ。

記事にもあるように、FCAがここまで踏み込むのは異例とのことだが、さらに進めて責任者を指名させることもできると結ばれている。これはおそらく他の規制と同じように責任者を任命して、目標が達成できなかった際には、その個人が責めを負うということなのだろう。

確かに英国では、何か重大な問題があったときには責任者の個人資産の差し押さえをするという規制変更があってから、突然様々なプロセスが保守的になった。現在でも、英国法人が絡む意思決定だけは極端にConservativeと業界では言われているが、この個人責任の原則が関係しているものと予想される。

日本ではここまでする例は少ないが鉄道会社の事故で役員が裁判にかけられたりすることはあるので、全く新しい考えという訳ではない。いずれにしても、当局が業界に任せておいてはLIBOR移行は間に合わないと思ったのだろう。日本では、移行を急ぐようにとの発言が聞かれるくらいだと思うが、今後は同様の動きが加速していく可能性は高まっているものと思われる。

LIBOR改革による割引率変更でスワップション決済時に混乱が起きるか

2/16にも書いたが、10月からLCHやCMEといったCCPで適用されるEURやUSDスワップの割引率が変更になるのに伴い、スワップションの時価変更をどのように決済するかという議論が盛り上がっている。CCPで清算される取引は権利行使後にCCPで清算され、自動的に時価が変更になり、CCPを通じて変動した時価分の精算が行われると思われるが、清算集中規制がかからずCCPでクリアしない取引については不透明性が残る。

各業界団体が混乱を避けるために何らかのプロセスを確立しようとしているが、それも合意ができた後の新規取引からの適用となるようで、既存の取引の決済については当事者同士の合意に委ねられることになる。ここで自分が得をする取引だけ割引率変更を行い、損をする取引については元の割引率を使い決済しないという参加者が出てくるのではないかという懸念が出ている。

確かに過去にOISディスカウントへの変更が起きたときには、これに乗じて利益を出した参加者は多く、大手ディーラーでもこれに乗じたところがあったので、その記憶があるのだろう。

とは言え、今回のLIBOR改革に乗じて自分だけが得をしようという行動を取る参加者は少ないのではないだろうか。前回のOISディスカウントへの変更とは異なり、当局も交えた議論になっているため、ディーラーサイドでこうした行動を取るところは皆無だと思われるし、当局がこうした行動は慎むようにとのコメントを一言でも出せば、混乱は避けられるように思う。当然あらゆる可能性を想定して対応を検討すべきではあるため、予断は許さないのは確かではあるが。

円の場合は既にOISディスカウントなので時価変更自体はUSDやEURほどの問題にならないと思われるが、ARRCやEUの代替金利関連の委員会で議論されているように、決済のやり方等に何らかの業界標準の方法が確立されれば、オペレーション面での変更が起きるかもしれない。

CEMからSA-CCRへの移行は進むか

米国当局は資本計算において従来のCEMからSA-CCRへの移行を、2022年1月1日の期限を待たずに、早ければ今年の4月には認めたが、日本や欧州の銀行はしばらくはCEMを使い続ける模様だ。CEMはいわゆる標準法のようなもので、想定元本に一定の掛け目を適用し、取引同士のネッティングを一定程度簡便法によって認めるものであるが、よりリスクを反映したSA-CCRよりは資本賦課が大きいことが多い。

欧州では早期適用を認める発言は聞かれていないため、米国が最初に資本削減の恩恵を被ることになる。顧客から受け取った担保と特にエクスポージャーの相殺ができるようになるため、特にクリアリング業務に対するインパクトは大きいものと予想される。とは言え、実際の計算をしてみるとそれほど効果は大きくなかったという声も聞かれるため、商品やポートフォリオによっては早期適用をしない方が良いということもあるようだ。

日本においては、元本に掛け目をかけるという方法は、そのシンプルさゆえかかなり広く使われており、資本計算のみならず銀行のリスク管理に使っているところもある。これによって一定の取引がかなり難しくなっており市場を歪めているのは明白なのだが、これを改善しようという声はあまり聞かれない。どんなに優良企業であっても外部格付がないために資本賦課が大きく取引ができなかったり、証券化関連の取引困難になったりという影響もあるのだが、取引毎に資本対比の収益性を考えるという慣行は、日本ではあまり一般的ではない。こうしたことの積み重ねが日本のROEの低さにつながっているような気がしてならない。

円は安全資産ではなくなった

ここのところの円安で、マーケットでは円は既に以前のような安全資産ではなくなったという声が大きくなってきた。これまで何かリスク回避的な事象が発生すると円が買われ円高になるというのが定石だったので、リスクオフに備えたヘッジとしてドル円ショート(円買い)を持っている投資家が多かったのだが、今回はこうした投資家は損失を被っており、損切に動いているように見える。

このブログでも従来のような円高が起きなくなっているという指摘を昨年からしてきたが、ユーロなど円以外のキャリー通貨が生まれてきたからという理由によるものだったのだが、今回の円安はやはり日本に対する不安という面が大きいように思う。それを裏付けるように、 今回の円安を引き起こしたフローは東京時間というよりはNY時間、LN時間で起きている。

FTにも書かれていたが、ウィルスの広がりとGDPの下落等の経済指標の悪化が円安を誘発しているという分析が支配的になっている。この状況下では日銀の更なる金融緩和の可能性もあるので、それが円安を加速させるという事情もあるだろう。日銀としては、長期金利は下げたくないものの、緩和をしなければならないということで難しいかじ取りが迫られる。これもあって黒田総裁の金曜のコメント(金利のターゲットの短期化)という発言につながったのかもしれない。そうすると10年をゼロとしていた金利のターゲットが例えば5年でゼロあるいはマイナス10bpとかになるのだろうか。

あとはFTが指摘しているように世界中の投資家が3月の年度末に向けたGPIFのリバランスに注目している。信託勘定が1月に2兆円の外債を買い越しているというデータも話題になったが、GPIFのリバランスを受けて他の投資家も外債投資に流れているという説だ。

クレディ・スイスの世界の富に関する報告書も注目を集めたが、2000年末から昨年半ばまでの間に世界の成人1人当たりの資産保有額は2.3倍になったのに対し、日本はわずか1.2倍となっている。このままではますます日本のプレゼンスは低くなってしまう。円安になればさらにこの差は広がるが、未だに円高は悪という意識がはびこっている。確かに自動車会社等の輸出企業にとって円高は厳しいのかもしれないが、本当に円高が悪なのかどうかはしっかりと分析をしてみる必要があるだろう。

担保需要の高まりと資金融通プロセスのオートメーション化

担保として拠出しなければならない流動資産に対するニーズが高まっているというペーパーがCapcoから出されている。今回の分析では推定$100bnを銀行やバイサイドの投資家が調達しなければならないという結果になっている。証拠金規制で当初証拠金の対象となる会社が今年の9月と来年の9月に増えていくことから、相対取引のIMニーズが高まり、清算された取引についてCCPに拠出するIMや清算基金ニーズも高まる一方である。

このコスト増により一定の方向の取引が困難になり、取引流動性が悪化するという事象も発生している。こうした流動性ニーズの高まりも米国短期金融市場の混乱につながっているのだろう。これ以外にも銀行はストレステストに備えて十分な流動性を確保しておかなくてはならず、何も使う必要もないが手元に置いておかなければならない。しかも国債ではなく現金が必要だったり、いざとなれば中央銀行貸出があるにもかかわらず、こうした貸出に頼る形にストレステストプランは認められない。もっとも米国で今月話題になっているFRBの方針転換(米国債を連銀準備預金と同等に扱うよう検討)は大きな前進である。

担保拠出の期限も以前は日本では3日の猶予があったが、最近は1日が普通になってきており、海外ではその日のうちに担保をやり取りするT+0決済も増えてきている。この負担を嫌うがために無担保にして取引をするバイサイドもある。日本の証券自己資本比率は海外に比べるとリスクに応じたものになっていないため、特にファンドとの取引を信託銀行経由で行う場合などは資本コストが大きくなり、バランスシートコストもかかる。通常はこうした取引を銀行間でヘッジするが、そちらは有担保かつ短期間でに担保授受となるため、厳密に計算すると全く割に合わないが、日本ではこうしたコストまで細かくプライスに反映させる慣行がないため、金融機関が腹切りで赤字を垂れ流しながら取引をするということになる。

また、担保決済や時価情報、その他様々な顧客要望に応えるコストもあるので、日本のオペレーションの負担は世界で類を見ないほど高く自動化も困難である。海外にオペレーションを移すのも日本語サービスの問題で限界がある。こうしてなるべく日本から撤退したいという本国の意向と日本で継続したい日本の支店、現法との闘いが永遠に続く。おそらくこれは過剰サービスを続ける金融機関が倒産し、数が少なくなるまで消耗戦が続くのだろう。

paypayなど即時決済ができるこの時代に、担保授受に2日欲しいとか3日かかるというのも理解に苦しむが、この決済のところを改善すれば、もっと効率的な取引が促進され、取引流動性も上がるのではないだろうか。為替の世界でもドルは通常NY時間での決済なのだが、日本時間にドルが欲しいとか言われると、数時間のファンディングが必要になる。これくらい何でもないと思われているのかもしれないが、厳密にここにもファンディングコストがかかる。CLS等の決済ができれば問題ないのだろうが、日本ではこれも遅れている。

あらゆるコストを犠牲にしてまで顧客サービスを充実させるというおもてなしの文化も良いが、このままでは海外との競争についていくことはできない。手数料競争激化もあり自動化を海外並みに進めていく必要性は誰もが理解しているのだが、すべてに完璧を要求する「お客様は神様」文化も変えていかなければならないのかもしれない。ただ、一部には、あまりにも日本の給料が安くなってきている上、サービスの質も高いので、機械化するよりは日本の安い労働力を活かしたらどうかという議論まで出ているのは皮肉ではあるが。

証拠金規制のIM免除規定の落とし穴

初めからわかっていたことではあるが、証拠金規制の免除規定について懸念が生じているとの記事がRisk誌に出ている。これは例えば米国規制の場合、計算された当初証拠金(IM)所要額がIM Thresholdの$50mmを超えない場合は、当初証拠金を拠出するための契約書、カストディアンのアレンジ等が必要なくなるというものだ。

おそらく旧ブログでもどこかで書いたと思うが、これはあくまでも計算された当初証拠金所要額が$50mmを下回ることが前提であり、そのためには当然その所要額のモニタリングが必要になる。$50mmを下回る場合に当初証拠金の授受が不必要になるのは朗報ではあるものの、それを超えてきた時には速やかに担保拠出を始めなければならないが、契約を締結して担保授受のプロセスを確立するには、早くても数か月かかってしまうだろう。したがって、結局はIMの金額を日々計算してモニタリングしていく必要があり、そのためにはSIMMモデル等を準備しておく必要がある。IMの計算モデルは当局承認が必要だが、これもすぐさま取得できるというものではない。

おそらく通常時の当初証拠金所要額が$10mmを下回り、日々の取引がそう多くない場合にはそれほど問題ないのかもしれないが、規制対象外の古い取引が多い場合は、時間が経つにつれて規制対象取引が増えていくため、不断のモニタリングが必要になる。Arcadia等IM所要額をモニタリングするシステムを提供しているところもあるが、一定程度の市場参加者であれば、完全に丸投げするのではなく、ある程度の理解と説明が求められるだろう。

当初この免除が明らかになった時には、対象の参加者の間で安堵の声が聞かれていたが、個人的にはあまり意味のある免除とは思えず、結局準備を進めておいた方が良いというアドバイスをし続けてきたが、業界でこうした対応をしているものなら誰もが推奨してきたことである。特にスワップディーラーにモニタリングの義務が課される米国規制と異なり、双方に義務が発生する日欧の場合は、問題がさらに大きい。欧州はこれを米国のように変更するのではないかという報道が見られ始めているが、日本の場合は、バイサイドなど金融機関以外の市場参加者が知らないうちに規制違反となる可能性が否定できない。ディーラーにモニタリングをして欲しいと依頼するところもあるだろうが、それでミスがあった場合はディーラーではなく当該市場参加者の責任となってしまうのである。

とは言え、日本の場合は今後の対象になってくるフェーズの参加者の数が限定的で、こうした対応ができそうなところが多いので、実はあまり心配する必要はないのかもしれないが、まだ検討が進んでいない場合は早急に準備を進める必要があるだろう。

コロナウィルスがマーケットに与える影響

ウィルスをものともせず米国株は好調を維持しており、米企業の決算見通しもそれほど悪化していない。S&P500の成長率見通しは年初の9.6%から8.1%に下げられているが、それでもまだ高い成長見通しを維持している。

ただフォードなどは今回のコロナウィルスの件がどの程度ビジネスに影響を及ぼすかを見通すのは現時点では困難とのことで、収益インパクトを考慮していない。中国依存度の高いAppleなどは、収益の見通し幅を広げており、航空会社などもこのまま旅行自粛が続けばさすがに影響を受けてくるのではないかと思う。

これだけ日々ウィルス関連のニュースが出ているにもかかわらず、中国やその他のアジア株も暴落というところまで行っていない。中国株は最高値から6%程度の下落、香港株も4%程度の下落にとどまっている。一方で中国のGDP等の見通しを引き下げるアナリストは日に日に増えている。

おそらく、SARSの時など、過去にこうした不安にBetして市場急落を予想するファンドの多くがパフォーマンスを上げられなかったという記憶もあるだろうし、中央銀行の金融緩和が継続する中では、たとえ企業業績が悪化しても資産価格は上がると考えている市場参加者が多い様に見える。

とは言え、VIXなどの指数は徐々に上昇しており、不安感を持つ参加者の増加も見られる。FEDの金融緩和が継続し、大統領選挙もあるためしばらく株はロングかと思っていたのだが、少し雲行きが怪しくなってきた。若干株価暴落シナリオを見ておいた方が良いのかもしれない。

US SOFR Rate参照スワップションがSDRに初登場

米国リスクフリーレートであるSOFRリンクの初のスワップションが取引されたことがSDR(Swap Data Repository)上で確認されたとRisk.netが報じている。これでLIBOR改革がまた一歩進むことになる。SOFRのボラティリティマーケットは事実上存在していないため、既存のレートからの類推でプライシングしたのだろうが、ディーラー間ではなくGSとバイサイドというところも興味深い。10年SOFRスワップ参照の1年及び2年オプションだったようで、報告しなければならない$170㎜基準を超えたサイズの取引のようだ。

CMEとLCHは10月16日及び17日にディスカウントレートFFからSOFRに変更することになっているが、それ以前にLIBOR参照で取引されたスワップションがどのように扱われるかに注意が必要であるため、SOFR連動のスワップションのニーズは高まっていくものと思われる。

CMEやLCHで清算された取引はその時点で価値が変更され、現金で差額決済を行うとともに、FFとSOFRのベーシスリスクヘッジもCCPとの間で行われる見込みだが、相対で取引されているスワップションについては相対での決済となることが想定される。10/16-17より後にスワップ決済となるスワップションはCMEやLCHでクリアリングされることになり、現金決済のスワップションの場合もその時点でのCCPのDiscout Rateで割り引かれた現金決済となる。そこで生じるValuationの差については当事者同士で合意しなければならないが、これには大きな混乱が予想される。

米国のLIBOR改革を引っ張っているARRCが、今般この際にどう市場慣行を作るか意見募集を始めたが、コンセプトとしては簡単だが、実際にどのように評価額の差額計算を行うかまでは決めることが難しいのではないだろうか。円の場合は割引率変更はないものの、オペレーション面で何らかの影響があるかもしれない。特に、LCH UnderlyingのスワップションとJSCC Underlyingの差が気になる。いずれにしてもまずはARRCの議論を見守りたい。

綱渡りの米金融政策

米国FRBから流動性規制の緩和とも取れる発言が目立つようになってきた。表面上は規制を緩めるというトーンにならないように細心の注意を払っているように見えるが、流動性逼迫時に銀行が現金を市場に放出しやすい様に工夫を凝らしているようだ。

パウエル長官が上院議員に宛てた書簡の中で、米国債を連邦準備金と同様に扱っても良いのではないかと述べている。当然国債の場合は資金が必要な時には現金化する必要があるので、流動性という意味では現金に劣るため、銀行はストレスシナリオを考えるときには、現金を選好するが、FRBとしてはこれを完全に現金同等として(Fully Substitutable)扱うことができるように考えている。銀行は流動性の多くを市中からではなく中央銀行に頼るようになってしまっているが、この状態が長く続くと金融機能が麻痺してしまうという危機感の表れだろう。

LCR(流動性カバレッジ比率)のHQLA(高品質資産)の定義上は、連邦準備金と米国債がともにレベル1に分類されているため、国債の流動性を上げてもLCRに影響はないが、ストレステスト時の扱いを変えることによって市場に影響を与えようということのようだ。パウエル長官のコメントの趣旨を詳細に理解するには、Randall Quarlesのスピーチが非常に参考になる。これを読むと、流動性危機時には、Discount Window(連銀貸出)を使うことによって、FRBが国債を担保に資金提供をすることを保証することによって、銀行がストレスシナリオにおいて国債を現金と同等に扱えるようにするというプランになっている。

これと同時にFRBは9月から続いている資金提供プログラムの更なる縮小を発表した。翌日物のレポ取引を通じた資金供給額の上限を1200億ドルから1000億ドルに引き下げた上、ターム物(2週間)のレポ取引を通じた資金供給額の上限も従来の300億ドルから250億ドルに引き下げる。

市場予想よりは少し大きい縮小だが、まだ市場に大きなインパクトを与えるほどにはなっていない。夏に向けてさらに縮小が続くだろうが、この影響を緩和させるために、どう軟着陸させるかということにFRBは苦心しているように見える。

ユーロ金利スワップのクリアリングはEU域内に移るか?

イギリスがEUを離脱し、フランスがユーロのクリアリングをEU域内で行うというプレッシャーを強め始めた。既にEUの金融規制を決める場にはイギリスは発言権を持たないため、今後こうした動きは続くのだろう。

ただ、現時点で全ユーロ金利スワップの9割をクリアするLCHからポジションを移管していくのは、市場参加者にとっては手間でしかない。EUのクリアリングハウスであるEurexも健闘しているものの、 異なる通貨間のネッティング効果もあるので、 LCHからのすべてのシェアを奪えるとは思えない。フランス財務省及びフランス中銀が市場参加者に対し、この移行が優先事項である旨と伝えたとの記事がロイターに出ていたが、今後最終権限を持っているECBがどのような態度に出るかに注目が集まる。LCHはあと1年程度は免除規定によりEU域内の顧客にクリアリングサービスの提供をできるが、その後どうなるかについては不透明性が残る。

もう一つのオプションは、レポ取引と同様に、LCHが現在のパリ現法であるLCH SAにすべてのポジションを移すというものだが、これでフランス側を満足させられるかも不明である。

これがこじれるようだと、既に米国現法を稼働させているLCHが米国シフトを進めるという、EUサイドにとっては望ましくない結果になることもあり、最終的には英国で同等性を確保しつつ現在の業務継続というのが妥当な線だと個人的には思う。

複数CCPによる市場分断をバーゼルが懸念

Baselから12月にCost of Clearing Fragmentationというペーパーが出ている。CCPが複数存在するために市場が分断され、ヘッジやリスク管理が難しくなっているという趣旨だ。特にドル金利のLCH/CMEベーシスについての言及が中心だが、JSCC/LCHベーシスの存在についても触れられている。

米国では、事業会社が固定クーポンのドル債を発行すると、それを変動化するスワップが発生することが多い。つまりディーラーが固定金利を事業会社に払う。これをヘッジするには、ディーラーはインターバンクで取引を行うが、これは当然固定受けになる。つまり相対取引で固定払い、インターバンクのCCP(これはLCHが中心)から固定受けのポジションがたまる。したがって、CCPに対する当初証拠金が大きくなり、これ以上固定を受けたくないという心理が働く。CCPの場合は、一定程度ポジションが偏ると、当初証拠金が急速に増える仕組みになっているため、是が非でもその方向を避けようという銀行が出てきてもおかしくない。とは言え、マーケットリスクリミットがあるためヘッジをしないという選択肢はなく、コストをチャージして逃げようというのが最も簡単な方法になる。ブローカー間で取引がついてしまうインターバンクでプライスを悪くするのは無理なので結局は事業会社に対するスワップにチャージをするしかなくなり、結局は発行体がコストを払わざるを得なくなる。金融危機の反省からCCPへの移行を進めたためにエンドユーザーである事業会社がコスト高に苦しむという構図になっている。これにバイサイド中心のCMEとディーラー間中心のLCHという問題が重なり、あちこちで市場分断が起きてしまう。

では事業会社がクライアントクリアリングに接続してCCPで清算すれば良いということになるが、担保授受に慣れていない事業会社は取引の精算には及び腰となるケースが多いだろう。あとはディーラーが固定受けをしているスワップをCCPにバックロードする方法もあるが、これもそのようなニーズは今となっては稀である。

CCPは自らのリスク管理強化のために当初証拠金をしっかりと取っておく必要があるため、担保金額を下げることはできない。ということで現状八方ふさがりの状況になってしまっており、市場の流動性悪化に拍車がかかっている。

これを防ぐにはCCPを統合するか、CCP同士の相互接続を実現するか、あるいは極力参加者が偏らないように、すべての参加者が複数のCCPを行き来できるようにするか、清算集中規制をすべての市場参加者に広げるかしかないと思われる。個人的には、各国当局が協力して相互接続するのが最も望ましいと思うが、国の金融システムの根幹にかかわることなので、実現にはかなりのハードルがあるものと思われる。

ISDAが公表停止前トリガーについての意見募集を再度行うことを発表

予想通りISDAが公表停止前トリガーをフォールバックに入れるかどうかの市中協議を今月末に再度行うとのアナウンスがあった。昨年3月のケースでは、市場参加者のコンセンサスを得られなかったが、今般のVDA、IBAのレター及びLCHが公表停止前トリガーを規則に入れる検討を始めたことを受けて、再度市場参加者の意見を募集することになった。ISDAではLIBORの恒久的な公表停止にかかるフォールバック条項について議論してきたが、公表停止前トリガー発動時にも同様の対応を取るかが焦点になる。

そもそもLIBORが市場実勢を表さないと当局に判断された場合に、その状況がどれくらい続くか、またCCPがどのような対応を取るかが不明では、市場参加者も態度を決めにくいということだったが、期間は1、2ヶ月になりそうで、CCPの態度も明らかになったことから、これは必然的な結果と言えよう。公表停止前トリガー発動時にフォールバック条項が有効になることがISDAプロトコルに規定されれば不透明性がなくなるため、個人的には今度こそはかなりの市場参加者が同意するものと予想している。そうでないと一部の取引はトリガーされ新レートに移る一方、昔のままのレートに留まる取引が残ってしまうと、リスク管理の観点からはかなり複雑なことになるからである。クリアリングされた取引と相対取引で異なるレートになってしまうのも市場参加者としては何とか避けたいと思うだろう。前回サーベイでは27%が賛成、28%が反対、残りの22%が公表停止前トリガーを任意に加えるべきとの回答だったが、今後は再投票の結果に注文が集まる。

とは言え、このような結果になるのは最初からほぼ明らかだった。CCPとしては、ゾンビLIBORの取引が残ったまま参加者破綻が起きれば、そのポジションの解消のためのオークションが困難を極めることは明らかであり、極力新レートに移りたいというニーズがあるのは容易に想像できる。だからこそ、公表停止前トリガーのアナウンス時にリスクフリーレートに上乗せするスプレッドを直ちに固定することを提案しているのだろう。

地政学リスクはあるが買わないリスクもある

今週火曜日くらいにはウィルスの拡散は懸念ではあるものの、病気自体の深刻度は低いとの連想から株式購入を進める人が多かったが、今日になって、また懸念する声が聞かれ始めた。またこれで株価が少し下落するのだろうか。マーケットでは、今後を不安視する声が聞こえているものの、買わないリスクを考えて結局リスク資産買いに動くという流れが続いている。この金余り効果を除くと、今回のリスクオフは、以前のウィルス感染のケースよりも実はたちが悪いのかもしれない。特に経済指標に影響が出始めるのは3月なので、本当のクラッシュは少し先となりそうだ。とは言ってもウィルス関係ニュースで株の動きが左右される環境はこのまましばらく続くのだろう。

フェイルに関する欧州規制の延期

以前コメントした決済フェイルに関する欧州規制の3ヶ月延期が決まった。買い手が資金を期限内に送金しなかった場合、売り手が証券を引き渡さなかった場合にかかるペナルティーの導入が11月から来年2月に延びることになる。この新規制で決められているBuy-inルールに基づくと、フェイルが発生した場合はカストディアンやCCPがその証券を市場価格で購入し、7営業日以内に相手方に引き渡さなければならない。フェイルの元凶となった市場参加者は取引サイズに応じたペナルティーとともに、その取引された市場価格と当初の価格の差額を補填しなければならない。

決済リスクを減らすという意味では望ましい規制だろうが、ここまで市場慣行になっていると市場参加者の行動を一気に変えるのはなかなか難しいだろう。その意味では延期を歓迎する声は多いだろうが、3ヶ月程度ではあまりインパクトはないものと思われる。むしろこの規制をなくすことが不可能ということが明らかになったということなのかもしれない。前回も書いたように、こうした期限を守ろうとする参加者の多い日本ではあまり影響がないのかもしれないが。