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米国レポレート急騰に関するBISの分析

9月の米国レポレートの急騰の原因については、法人税支払い、当日の巨額決済、LCR等の規制、オペレーショナルエラー等様々な理由が挙げられているが、今月公表されたBISのQuarterly Reportでは一連の説明を試みている。主に以下のような分析だが、概ねマーケットの実感とも一致する。一部規制のインパクトにも触れているのが興味深い。

  • 米国レポ市場の資金の出し手は米銀大手4行に集中している。
  • これら4大銀の流動性は米国債に偏ってきており、資金提供能力が悪化している。
  • 同時にヘッジファンド等のレバレッジプレーヤーからの資金需要が旺盛になっている。
  • FRBの大規模資産購入によって銀行は準備預金を増やしていたが、2017年10月以降の買入縮小に伴い、現金から米国債に資金を大幅にシフトさせた。4大銀の国債保有は銀行が保有する国債全体の50%を超え、上位25行でカウントすると90%に至った。
  • FEDのバランスシート拡大がマネーマーケットの機能不全を招いた。以前のような短期市場を取引する経験のあるトレーダーがいなくなり、マーケットメーカーが少なくなり、これにLCR等の規制が加わり銀行が資金を融通するよりもためておくインセンティブが生まれた。
  • スポンサードレポによってMMFがHedge Fund等に資金を流すフローが生まれたが、9月からリミットの関係もあるのかMMFが資金提供を渋り始めた。

金持ちの銀行を利する規制緩和を闇雲に批判するのではなく、こうした客観的な分析に基づく規制改革が進むことに期待したい。

欧州のCVA Exemptionは継続されるか

先週4日にEBAからバーゼル3が銀行に与える影響についての分析が公表された。2022年1月の施行により、全般的には23.6%の所要資本増加ということだが、これは既存のCVA Exemptionが継続するという前提の下での結果となっている。この免除がなくなった場合の試算結果が本文の32ページに記載されているが、G-SIBの銀行にとっては、CVA RWAが622%跳ね上がるという試算になっている。全般的に規模の大きな銀行ほど増加が大きく、小規模な銀行の場合は102%増となっている。

銀行全体では免除がなければ578%増となるところが、免除が続けば140%にまで下がるというので、これは非常に大きな違いだ。

したがって、このExemptionを継続すべくロビー活動が続けられている訳だが、今回のEBAの論調では、国際的なCVAの慣行に合わせるためにもExemptionを徐々に外していきたいという意向が読み取れる。これまでは、エンドユーザーに対するスワップのプライスが悪くなるという論点から、慎重に検討が続けられてきたのだが、さすがにEUだけが免除され続けるというのは難しくなってきているように思う。おそらく時間をかけて徐々にExemptionをなくすという方向で話が進んでいくのではないかと思われるが、そうなると欧州銀行のROEに対しては、かなりのインパクトが出てくるのではないだろうか。今後も欧州系のリスク削減がどこまで進むのかが注目される。

参加者破綻時のCCPのSITGの増加が求められた

EUから先週水曜日にCCPの参加者破綻時の損失負担についての新ルールが公表された。まだ正式決定という訳ではなく議会承認等が必要だが、今後のCCPの破たん処理の在り方に一石を投じるものになるだろう。先般のJPモルガンやBlackRockが提案していたペーパーの通り、参加者の清算基金等に手を付ける前に、まずはCCPに負担をさせ、CCPのSkin in the Gameを増やすという方向性だ。

これによってCCPの拠出額は資本の50%にまで倍増する。実際にCCPのルールが変更されるまでにはまだ数年かかるだろうが、今後のCCPの参加者破綻処理の在り方に大きな影響を与える可能性がある。

ユーロがキャリー取引通貨に

ドイツ銀行のアナリストがユーロが円同様のキャリー取引の通貨の仲間入りをしたというレポートを出している。低金利の円で資金を調達し、高金利通貨で運用するというキャリートレードは、主に円が主要通貨であったが、最近はユーロでキャリートレードをする資金の流れが出来てきている。欧州銀行が非居住者向けに出すローンも金融危機以降最高水準に達したとのことだ。

ユーロ圏の過去12ヶ月の国際収支黒字分455bnユーロのうち2/3はこうした資金の流れによるものとのことだ。これがユーロ安、為替のボラティリティ低下の一因になっている。一方で、こうした通貨はリスクオフになった時に急激な資金還流を招き、通貨高になりやすくなる。

通常は徐々に通貨安が進むが何か起きると一気に通貨高になるというのは円でよくみられる事象だが、これがユーロにも発生することになるのだろうか。こうなると円にとっても何らかの影響が出てくるのかもしれない。キャリー通貨が分散すると、以前あったような急激な円高が少なくなるのだろうか。

年末にドルは逼迫するか

STWF(Short term wholesale funding)への依存度を米G-Sibが高めているとの報道があった。

このうち30日以内に満期となる短期のファンディングについて、以下の中でFirst Tierの割合が高まっている。

First Tier :レベル1のHQLA(米国債や流出の可能性の低い預金)
Second Tier:レベル2A HQLA(MBS等)
Third Tier:Level 2B HQLA(社債、地方債等)
Other:その他HQLAではない資産に裏付けされたファンディング

当局から危険とみなされる資産を避け、HQLAが増えてきているものと思われるが、そうは言ってもG-Sib資本チャージに関係するSTWFスコアを改善させるためには、30日以内に満期を迎えるような短期のレポを減らすインセンティブは残る。

FRBが十分な流動性を供給しているので年末に大きな問題が生じるとは考えにくいが、銀行が積極的にバランスシートを提供するかというと、これも難しいだろう。こうした規制が変わるには年末の市場混乱といったEvidenceが必要なのかもしれない。

G-Sib(グローバルなシステム上重要な銀行)リストの変化

毎年誰がG-Sibリストに入るかが話題になる。G-SibになってしまうとCapital add-onが課されるため、追加の資本コストが必要になる。TLACや追加の当局による監督も加わるため、金融機関にとっては無視できない問題である。G-Sibサーチャージを避けるために、バランスシートを縮小させる動きがマーケットの攪乱要因となったりもする。

バーゼルが定める算定式によって一定の水準(最近は130)を超えるとG-Sib認定がされるが、この130近辺にあり最近話題になっているのが、中国のBank of Communication、そして日本の野村證券と農林中金だ。今年は、ついにカナダのTD BankがG-Sibカテゴリ1に入った。三菱はカテゴリ2、みずほと三井住友がカテゴリ1となっている。

G-SibになってしまうとRWAの1%の追加資本が必要になるため、その影響は小さくない。サイズ、相互連関、複雑性、クロスボーダーの活動、持続可能性という5つのカテゴリのうち、野村證券の場合は、複雑性スコアが高くなっており、農中はサイズを表すスコアが近年上昇している。

各銀行とも、この分類を下げるよう何等かの努力をしていると思われるが、それによってマーケットが変動するのはあまり望ましくないように思う。シンプルな方が望ましいので仕方がないのかもしれないが、一定の水準を超えたら急に資本賦課を上げるのではなく、徐々に負担を上げるような仕組みはできないのだろうか。

担保管理、流動性管理の外注化

JPMがCCP向けの担保管理業務をスタートアップであるBatonに外注というニュースが出ている。Batonとの話は他のディーラーを含めて以前から話があったが、カストディアンに近い業務を手掛けていたこともあるJPMが採用したとなると、こうした動きが一気に加速するかもしれない。複数のCCPに拠出している担保を効率良くほぼリアルタイムで決済することが可能になる。

JPMはこれによるコスト削減効果を公表していないが、Batonによるとコストが半減してもおかしくないとのことだ。また、コスト削減以外にも、効率的に現金を動かすことにより、利子収入が20-25bp上昇するとのコメントもBatonはしている。

確かに、規制により流動資産の重要性は増しており、米国レポ金利急騰に際しては、JPMトップが規制を批判するコメントも出していた。流動性の重要性を痛いほど理解している銀行としては、こうしたところで流動性負担を軽減できるのであれば、単なるコスト削減以上の効果があると見込んだのかもしれない。

CCPに対する担保拠出額が急上昇している中、LCH、Eurexを含めた10にも上るCCPをつないで流動性確保をするというのは、確かにメリットが大きいかもしれない。

こうした動きは日本では遅れがちだが、今後の金融の行方を考えると、早めに対策を立てておいた方が良い分野かもしれない。

LIBOR改革は当局主導で進む

英国当局のFCAが先週木曜に来年第一四半期からはLIBORベースのスワップの提供を止めるべきと述べたレターを公表した。

ヘッジ等の明確な理由がある場合はそれを妨げるものではないが、標準スワップはLIBORではなくSONIAに持って行きたいとのことだ。確かにSONIA参照のスワップを行うことは現時点でも不可能ではなく、業界がその気になればできないことはないということなのかもしれない。というよりは、こうした当局の強いPushがない限りは、なかなか一気に移行させるということが難しいのだろう。

レターで述べられている通り、新規の変動利付債や証券化商品等でSONIAを参照するものが多くなってきており、SONIAを使うローンも増えてきた。しかし、既存のスワップについては、あまり移行が進んでいない。

また、各銀行に対して、LIBORの移行に関して法的に責任を有する取締役クラスを選任するよう求めている。日本でも来年どこかで似たような話になる可能性が極めて高くなってきた。そろそろ移行作業を本格化させなければならない時期がきたようだ。

LIBOR改革が一歩前進

今しがたISDAからLIBOR改革に関連したレポートが公開された。

参加者からの意見をまとめているが、過去5年間のHistorical Median Approachを大部分の参加者がサポートしたとのことだ。スプレッドの計算に経過期間を含めず、外れ値を除外せず、マイナスのスプレッドも除外しないという方向になりそうだ。計算期間に関しては、2営業日のいわゆるBackward Shiftを選好する参加者が多かった。

これによって2006年版のISDA定義集が変更されることになるが、今年中の最終化と来年実施が予定されている。

概ね予想通りの結果であまりマーケットインパクトは少ないものと思われるが、週明けの動きに注目したい。

LIBORからRFRへのシフトを加速するには

あらゆる場面で何度も議論はされているが、実際にはなかなか具体的な動きにはつながらないのがLIBOR改革である。だが、そろそろ当局がしびれを切らす時期に入りつつある。既に各国でLIBORを参照する取引のデータを当局が求めているだろうが、今後は定期的にこの割合が減っているかを示していく必要が出てくるものと思われる。

こうした移行を加速させるにはいくつかのやリ方があるが、最も簡単なのは、LIBORにリンクした商品の残高に対して資本賦課を行うというものがある。またはLIBORにリンクした商品を適格担保から外してしまうとか、LCR上のHQLAから外してしまうという方法も考えうる。

ほかにもLIBORリスクをいつまでも過大に抱えている会社に対してスプレッド上乗せを義務付けCVAを積み増してしまうという意見も報道されていたが、CVAは公正価値なので、おそらくCVA Capitalに手を加える方が現実的だろう。

その他は、通常の銀行検査で指導を加えていく方法で、日本ではこちらの方がなじみがあるのかもしれない。

来年は海外のCCPでの割引率の変更も予定されており、実際に行動を起こさなければならない時期に入ってくる。欧米の金融機関の場合は資本賦課を導入すれば一気に経営層が動き出し、急速にシフトが進むことが予想される。

まずはLIBOR参照資産の正確な把握を今年中には進め、それがどの程度減っているのかを月次程度で示せるようにしておかなければならない。来年これが全く減っていないとなると、LIBOR改革に非協力的と思われても仕方がないだろう。

Sponsored repoが米国レポ市場を変える

今年3月にFICCのSponsored repoのメンバー基準が緩和されたこともあり、FICCが米国レポ市場に占める割合が着実に拡大している。

そもそもSLRの影響で米系はレポ市場におけるプレゼンスを格段に落としているのは既に紹介した通りだが、このSponsored repoを使えば、MMF等の資金の出し手と行うレポと、反対方向のヘッジファンド等と行うリバースレポがネットできるため、バランスシートを使うことなく取引ができることになる。いわばレバレッジ比率規制がその拡大を促した仕組みと言えるだろう。

Sponsored repoは、OTCのクライアントクリアリングのようなものと捉えるとわかりやすいかもしれない。クリアリングブローカーたるSponsoring Memberが顧客のためにCCPで取引を清算することにより、実際の取引はすべてFICCを通したものとなり、オフセットする取引のネッティングが可能になる。このためレポ取引の最大の取引主体はFICCということになっている。

このSponsor Bankが少数の銀行に集中してしまっていることが、9月17日のレポレートの急騰を招く一要因となったと言われてもいるが、直近になってSponsor Bankの数が増え続けているようだ。

これまでは、四半期末が近づくと欧州銀行がバランスシートを縮小させることによりレポ市場が逼迫し、それをFEDが補うという形が続いていたが、欧州系がBaselのWindow Dressingとの批判を受けて四半期末のみにバランスシートを縮小する慣行を諦めつつあるように思えるため、こうなるとやはりSponsored repoに対する期待は高まる。またEBAのストレステストの変更も欧州系の行動に影響を与えることになるだろう。

レバレッジ比率規制の緩和は見込みにくいことから、今後もこの傾向には拍車がかかると思われ、ほとんどがFICC経由になる日も近いのかもしれない。Sponsored repoを使う場合とそうでない場合の資本コストの差はあまりにも大きいので、米国債投資を行う日本の投資家も早めに準備を進めていくことが必要だろう。

レバレッジ比率が短期金融市場を麻痺させている

一部の欧州系銀行のレバレッジ比率に対するバッファが減り続けているとの報道があった。平均的には、3%の最低比率を満たすために必要なティア1資本よりは約1.7倍程度の資本を確保しているようだが、ドイツ銀行、BNP、ABN Amro、SocGen等の余裕が少なくなっているとのことである。

バーゼルの分析によると、欧州銀大手行にかかる資本規制の中で最大のものがレバレッジ比率で、約6割の銀行がレバレッジ比率によって最大の制約を受けている。レバレッジ比率規制は、本来であればリスクベースで見た規制のバックストップとして導入されたものなので、これが最大の制約となっているというのは当初の意思に反すると思うのだが、米国でも同様の事象が起きている。

つまり、リスクの高い取引を減らしてもレバレッジ比率は向上せず、レポやJGBなどの安全資産を減らさないとこの状況は改善しないということになる。

ロジックは単純で、100億円のJGBを受け取って資金を貸し出すレポを行うと、レバレッジ比率によって3億円の資本を積まなければならなくなる。この資本に対して税引き後で10%を超えるようなリターンを上げるためには、5-6000万円近い収益が必要となる。米国の場合は5%が基準なので、1億円程度の利益が必要になる。レポでこのような収益を上げることは不可能なので、もし取引毎にハードルレートを計算して取引承認を行えば、レポビジネスからは撤退するのが経済的には得策ということになる。したがって、米国の大手銀行はほとんどレポ取引を行っておらず、総合採算で取引が継続できる銀行のみが市場に残る形になっている。

しかし、いくら短期の資金繰りが危険だからっといって、リスクの少ない取引をここまで規制する必要があるかには若干疑問が残る。お金を循環させるのが金融の役割であるはずなのに、資金の流れを止めてすべて中央銀行が資金供給をするようになってきている気がする。