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証拠金規制のIM免除規定の落とし穴

初めからわかっていたことではあるが、証拠金規制の免除規定について懸念が生じているとの記事がRisk誌に出ている。これは例えば米国規制の場合、計算された当初証拠金(IM)所要額がIM Thresholdの$50mmを超えない場合は、当初証拠金を拠出するための契約書、カストディアンのアレンジ等が必要なくなるというものだ。

おそらく旧ブログでもどこかで書いたと思うが、これはあくまでも計算された当初証拠金所要額が$50mmを下回ることが前提であり、そのためには当然その所要額のモニタリングが必要になる。$50mmを下回る場合に当初証拠金の授受が不必要になるのは朗報ではあるものの、それを超えてきた時には速やかに担保拠出を始めなければならないが、契約を締結して担保授受のプロセスを確立するには、早くても数か月かかってしまうだろう。したがって、結局はIMの金額を日々計算してモニタリングしていく必要があり、そのためにはSIMMモデル等を準備しておく必要がある。IMの計算モデルは当局承認が必要だが、これもすぐさま取得できるというものではない。

おそらく通常時の当初証拠金所要額が$10mmを下回り、日々の取引がそう多くない場合にはそれほど問題ないのかもしれないが、規制対象外の古い取引が多い場合は、時間が経つにつれて規制対象取引が増えていくため、不断のモニタリングが必要になる。Arcadia等IM所要額をモニタリングするシステムを提供しているところもあるが、一定程度の市場参加者であれば、完全に丸投げするのではなく、ある程度の理解と説明が求められるだろう。

当初この免除が明らかになった時には、対象の参加者の間で安堵の声が聞かれていたが、個人的にはあまり意味のある免除とは思えず、結局準備を進めておいた方が良いというアドバイスをし続けてきたが、業界でこうした対応をしているものなら誰もが推奨してきたことである。特にスワップディーラーにモニタリングの義務が課される米国規制と異なり、双方に義務が発生する日欧の場合は、問題がさらに大きい。欧州はこれを米国のように変更するのではないかという報道が見られ始めているが、日本の場合は、バイサイドなど金融機関以外の市場参加者が知らないうちに規制違反となる可能性が否定できない。ディーラーにモニタリングをして欲しいと依頼するところもあるだろうが、それでミスがあった場合はディーラーではなく当該市場参加者の責任となってしまうのである。

とは言え、日本の場合は今後の対象になってくるフェーズの参加者の数が限定的で、こうした対応ができそうなところが多いので、実はあまり心配する必要はないのかもしれないが、まだ検討が進んでいない場合は早急に準備を進める必要があるだろう。

コロナウィルスがマーケットに与える影響

ウィルスをものともせず米国株は好調を維持しており、米企業の決算見通しもそれほど悪化していない。S&P500の成長率見通しは年初の9.6%から8.1%に下げられているが、それでもまだ高い成長見通しを維持している。

ただフォードなどは今回のコロナウィルスの件がどの程度ビジネスに影響を及ぼすかを見通すのは現時点では困難とのことで、収益インパクトを考慮していない。中国依存度の高いAppleなどは、収益の見通し幅を広げており、航空会社などもこのまま旅行自粛が続けばさすがに影響を受けてくるのではないかと思う。

これだけ日々ウィルス関連のニュースが出ているにもかかわらず、中国やその他のアジア株も暴落というところまで行っていない。中国株は最高値から6%程度の下落、香港株も4%程度の下落にとどまっている。一方で中国のGDP等の見通しを引き下げるアナリストは日に日に増えている。

おそらく、SARSの時など、過去にこうした不安にBetして市場急落を予想するファンドの多くがパフォーマンスを上げられなかったという記憶もあるだろうし、中央銀行の金融緩和が継続する中では、たとえ企業業績が悪化しても資産価格は上がると考えている市場参加者が多い様に見える。

とは言え、VIXなどの指数は徐々に上昇しており、不安感を持つ参加者の増加も見られる。FEDの金融緩和が継続し、大統領選挙もあるためしばらく株はロングかと思っていたのだが、少し雲行きが怪しくなってきた。若干株価暴落シナリオを見ておいた方が良いのかもしれない。

US SOFR Rate参照スワップションがSDRに初登場

米国リスクフリーレートであるSOFRリンクの初のスワップションが取引されたことがSDR(Swap Data Repository)上で確認されたとRisk.netが報じている。これでLIBOR改革がまた一歩進むことになる。SOFRのボラティリティマーケットは事実上存在していないため、既存のレートからの類推でプライシングしたのだろうが、ディーラー間ではなくGSとバイサイドというところも興味深い。10年SOFRスワップ参照の1年及び2年オプションだったようで、報告しなければならない$170㎜基準を超えたサイズの取引のようだ。

CMEとLCHは10月16日及び17日にディスカウントレートFFからSOFRに変更することになっているが、それ以前にLIBOR参照で取引されたスワップションがどのように扱われるかに注意が必要であるため、SOFR連動のスワップションのニーズは高まっていくものと思われる。

CMEやLCHで清算された取引はその時点で価値が変更され、現金で差額決済を行うとともに、FFとSOFRのベーシスリスクヘッジもCCPとの間で行われる見込みだが、相対で取引されているスワップションについては相対での決済となることが想定される。10/16-17より後にスワップ決済となるスワップションはCMEやLCHでクリアリングされることになり、現金決済のスワップションの場合もその時点でのCCPのDiscout Rateで割り引かれた現金決済となる。そこで生じるValuationの差については当事者同士で合意しなければならないが、これには大きな混乱が予想される。

米国のLIBOR改革を引っ張っているARRCが、今般この際にどう市場慣行を作るか意見募集を始めたが、コンセプトとしては簡単だが、実際にどのように評価額の差額計算を行うかまでは決めることが難しいのではないだろうか。円の場合は割引率変更はないものの、オペレーション面で何らかの影響があるかもしれない。特に、LCH UnderlyingのスワップションとJSCC Underlyingの差が気になる。いずれにしてもまずはARRCの議論を見守りたい。

綱渡りの米金融政策

米国FRBから流動性規制の緩和とも取れる発言が目立つようになってきた。表面上は規制を緩めるというトーンにならないように細心の注意を払っているように見えるが、流動性逼迫時に銀行が現金を市場に放出しやすい様に工夫を凝らしているようだ。

パウエル長官が上院議員に宛てた書簡の中で、米国債を連邦準備金と同様に扱っても良いのではないかと述べている。当然国債の場合は資金が必要な時には現金化する必要があるので、流動性という意味では現金に劣るため、銀行はストレスシナリオを考えるときには、現金を選好するが、FRBとしてはこれを完全に現金同等として(Fully Substitutable)扱うことができるように考えている。銀行は流動性の多くを市中からではなく中央銀行に頼るようになってしまっているが、この状態が長く続くと金融機能が麻痺してしまうという危機感の表れだろう。

LCR(流動性カバレッジ比率)のHQLA(高品質資産)の定義上は、連邦準備金と米国債がともにレベル1に分類されているため、国債の流動性を上げてもLCRに影響はないが、ストレステスト時の扱いを変えることによって市場に影響を与えようということのようだ。パウエル長官のコメントの趣旨を詳細に理解するには、Randall Quarlesのスピーチが非常に参考になる。これを読むと、流動性危機時には、Discount Window(連銀貸出)を使うことによって、FRBが国債を担保に資金提供をすることを保証することによって、銀行がストレスシナリオにおいて国債を現金と同等に扱えるようにするというプランになっている。

これと同時にFRBは9月から続いている資金提供プログラムの更なる縮小を発表した。翌日物のレポ取引を通じた資金供給額の上限を1200億ドルから1000億ドルに引き下げた上、ターム物(2週間)のレポ取引を通じた資金供給額の上限も従来の300億ドルから250億ドルに引き下げる。

市場予想よりは少し大きい縮小だが、まだ市場に大きなインパクトを与えるほどにはなっていない。夏に向けてさらに縮小が続くだろうが、この影響を緩和させるために、どう軟着陸させるかということにFRBは苦心しているように見える。

ユーロ金利スワップのクリアリングはEU域内に移るか?

イギリスがEUを離脱し、フランスがユーロのクリアリングをEU域内で行うというプレッシャーを強め始めた。既にEUの金融規制を決める場にはイギリスは発言権を持たないため、今後こうした動きは続くのだろう。

ただ、現時点で全ユーロ金利スワップの9割をクリアするLCHからポジションを移管していくのは、市場参加者にとっては手間でしかない。EUのクリアリングハウスであるEurexも健闘しているものの、 異なる通貨間のネッティング効果もあるので、 LCHからのすべてのシェアを奪えるとは思えない。フランス財務省及びフランス中銀が市場参加者に対し、この移行が優先事項である旨と伝えたとの記事がロイターに出ていたが、今後最終権限を持っているECBがどのような態度に出るかに注目が集まる。LCHはあと1年程度は免除規定によりEU域内の顧客にクリアリングサービスの提供をできるが、その後どうなるかについては不透明性が残る。

もう一つのオプションは、レポ取引と同様に、LCHが現在のパリ現法であるLCH SAにすべてのポジションを移すというものだが、これでフランス側を満足させられるかも不明である。

これがこじれるようだと、既に米国現法を稼働させているLCHが米国シフトを進めるという、EUサイドにとっては望ましくない結果になることもあり、最終的には英国で同等性を確保しつつ現在の業務継続というのが妥当な線だと個人的には思う。

複数CCPによる市場分断をバーゼルが懸念

Baselから12月にCost of Clearing Fragmentationというペーパーが出ている。CCPが複数存在するために市場が分断され、ヘッジやリスク管理が難しくなっているという趣旨だ。特にドル金利のLCH/CMEベーシスについての言及が中心だが、JSCC/LCHベーシスの存在についても触れられている。

米国では、事業会社が固定クーポンのドル債を発行すると、それを変動化するスワップが発生することが多い。つまりディーラーが固定金利を事業会社に払う。これをヘッジするには、ディーラーはインターバンクで取引を行うが、これは当然固定受けになる。つまり相対取引で固定払い、インターバンクのCCP(これはLCHが中心)から固定受けのポジションがたまる。したがって、CCPに対する当初証拠金が大きくなり、これ以上固定を受けたくないという心理が働く。CCPの場合は、一定程度ポジションが偏ると、当初証拠金が急速に増える仕組みになっているため、是が非でもその方向を避けようという銀行が出てきてもおかしくない。とは言え、マーケットリスクリミットがあるためヘッジをしないという選択肢はなく、コストをチャージして逃げようというのが最も簡単な方法になる。ブローカー間で取引がついてしまうインターバンクでプライスを悪くするのは無理なので結局は事業会社に対するスワップにチャージをするしかなくなり、結局は発行体がコストを払わざるを得なくなる。金融危機の反省からCCPへの移行を進めたためにエンドユーザーである事業会社がコスト高に苦しむという構図になっている。これにバイサイド中心のCMEとディーラー間中心のLCHという問題が重なり、あちこちで市場分断が起きてしまう。

では事業会社がクライアントクリアリングに接続してCCPで清算すれば良いということになるが、担保授受に慣れていない事業会社は取引の精算には及び腰となるケースが多いだろう。あとはディーラーが固定受けをしているスワップをCCPにバックロードする方法もあるが、これもそのようなニーズは今となっては稀である。

CCPは自らのリスク管理強化のために当初証拠金をしっかりと取っておく必要があるため、担保金額を下げることはできない。ということで現状八方ふさがりの状況になってしまっており、市場の流動性悪化に拍車がかかっている。

これを防ぐにはCCPを統合するか、CCP同士の相互接続を実現するか、あるいは極力参加者が偏らないように、すべての参加者が複数のCCPを行き来できるようにするか、清算集中規制をすべての市場参加者に広げるかしかないと思われる。個人的には、各国当局が協力して相互接続するのが最も望ましいと思うが、国の金融システムの根幹にかかわることなので、実現にはかなりのハードルがあるものと思われる。

ISDAが公表停止前トリガーについての意見募集を再度行うことを発表

予想通りISDAが公表停止前トリガーをフォールバックに入れるかどうかの市中協議を今月末に再度行うとのアナウンスがあった。昨年3月のケースでは、市場参加者のコンセンサスを得られなかったが、今般のVDA、IBAのレター及びLCHが公表停止前トリガーを規則に入れる検討を始めたことを受けて、再度市場参加者の意見を募集することになった。ISDAではLIBORの恒久的な公表停止にかかるフォールバック条項について議論してきたが、公表停止前トリガー発動時にも同様の対応を取るかが焦点になる。

そもそもLIBORが市場実勢を表さないと当局に判断された場合に、その状況がどれくらい続くか、またCCPがどのような対応を取るかが不明では、市場参加者も態度を決めにくいということだったが、期間は1、2ヶ月になりそうで、CCPの態度も明らかになったことから、これは必然的な結果と言えよう。公表停止前トリガー発動時にフォールバック条項が有効になることがISDAプロトコルに規定されれば不透明性がなくなるため、個人的には今度こそはかなりの市場参加者が同意するものと予想している。そうでないと一部の取引はトリガーされ新レートに移る一方、昔のままのレートに留まる取引が残ってしまうと、リスク管理の観点からはかなり複雑なことになるからである。クリアリングされた取引と相対取引で異なるレートになってしまうのも市場参加者としては何とか避けたいと思うだろう。前回サーベイでは27%が賛成、28%が反対、残りの22%が公表停止前トリガーを任意に加えるべきとの回答だったが、今後は再投票の結果に注文が集まる。

とは言え、このような結果になるのは最初からほぼ明らかだった。CCPとしては、ゾンビLIBORの取引が残ったまま参加者破綻が起きれば、そのポジションの解消のためのオークションが困難を極めることは明らかであり、極力新レートに移りたいというニーズがあるのは容易に想像できる。だからこそ、公表停止前トリガーのアナウンス時にリスクフリーレートに上乗せするスプレッドを直ちに固定することを提案しているのだろう。

地政学リスクはあるが買わないリスクもある

今週火曜日くらいにはウィルスの拡散は懸念ではあるものの、病気自体の深刻度は低いとの連想から株式購入を進める人が多かったが、今日になって、また懸念する声が聞かれ始めた。またこれで株価が少し下落するのだろうか。マーケットでは、今後を不安視する声が聞こえているものの、買わないリスクを考えて結局リスク資産買いに動くという流れが続いている。この金余り効果を除くと、今回のリスクオフは、以前のウィルス感染のケースよりも実はたちが悪いのかもしれない。特に経済指標に影響が出始めるのは3月なので、本当のクラッシュは少し先となりそうだ。とは言ってもウィルス関係ニュースで株の動きが左右される環境はこのまましばらく続くのだろう。

フェイルに関する欧州規制の延期

以前コメントした決済フェイルに関する欧州規制の3ヶ月延期が決まった。買い手が資金を期限内に送金しなかった場合、売り手が証券を引き渡さなかった場合にかかるペナルティーの導入が11月から来年2月に延びることになる。この新規制で決められているBuy-inルールに基づくと、フェイルが発生した場合はカストディアンやCCPがその証券を市場価格で購入し、7営業日以内に相手方に引き渡さなければならない。フェイルの元凶となった市場参加者は取引サイズに応じたペナルティーとともに、その取引された市場価格と当初の価格の差額を補填しなければならない。

決済リスクを減らすという意味では望ましい規制だろうが、ここまで市場慣行になっていると市場参加者の行動を一気に変えるのはなかなか難しいだろう。その意味では延期を歓迎する声は多いだろうが、3ヶ月程度ではあまりインパクトはないものと思われる。むしろこの規制をなくすことが不可能ということが明らかになったということなのかもしれない。前回も書いたように、こうした期限を守ろうとする参加者の多い日本ではあまり影響がないのかもしれないが。

LIBORからRFRへの移行の進捗状況

Clarus FinancialのWebサイトで主要通貨の金利スワップがどの程度LIBORからRFR(Risk Free Rate)に移っているか分析している。GBPが最も進んでおり、SONIAやSOFRのみならず、オーバーナイト金利である、Fed Fund Rate等も含めてRFRと定義しており、CCPで清算された取引のみを対象としているものの、全体間をつかむには非常に参考になる。

最も進んでいるのは英ポンドで想定元本ベースで71%が新レートでの取引となっている。特にこの1月に急上昇しているのが興味深い。米ドルは想定元本ベースで25%、2019年平均よりも低い水準であるほか、そのレートはほとんどがSOFRではなくFFである。EURも24%で特に移行が進んでいるようには見えない。オーストラリアドルは83%と最も進んでおり、カナダドルは59%となっている。最も遅れているのが円で、わずか7%という結果になっている。PV01ベースでみるとなんと3%である。ブログでも述べられている通りこの3月2日のSONIA以降期限に向けた動きに注目が集まる。

やや唐突感のある米商務省の為替市場に対するルール発表

昨日月曜日、米国商務省がAnti-Subsidy Dutiesについてのルールを最終化した。日本語では反補助金関税だっただろうか、中国など、自国通貨を不当に安く誘導している国に対する措置である。米中のフェーズ1合意をした直後のことで、 米財務省が中国を為替操作国から除いた後でもあり、 若干唐突感がある。何をもって不当とするかがキーになるが、基本的には財務省の専門性に頼るとしているが、異なる結果が出たとしても不思議ではない。すべての輸入品に課せられるものではないが、米国の不利益にあるものならこの対象となる可能性がある。

貿易不均衡を批判する大統領の意向には沿うものであるが、WTOのルールにも合致しているかどうか微妙であり、通常は金融政策に疎い商務省が音頭を取っているのが不思議でもある。とは言え、これがモニタリングリストに載っている日本などにも適用される可能性があるため、注意が必要だ。それほど為替市場に影響があるとは思えないが、一応注視していきたい。

EUのストレステストが厳格化

EBAが発表したEUのストレステストのシナリオがかなり厳しいものとなった。前回のテストがあまりにも甘いという批判があったからなのかもしれない。対象は51行で、Brexit前の基準日を使っているためかイギリスの銀行4行も対象となっている。興味深いのは金利のストレスシナリオにゼロ金利またはマイナス金利が長期間継続した場合が入っている点だ。これまでは金利が急上昇した時がリスクということが多かったが、今やこの低金利環境が長く続くことが銀行にとって最大のリスクということなのかもしれない。テストの結果は7月31日に公表されることになっている。2022年までのGDPの成長率は-4.3%という想定であり、 米国テストに比べるとまだ緩やかではあるが 、それでも以前に比べるとかなりシビアだ。

失業率は3.5%にまで上がり、株式市場は先進国で25%下落、EMで40%下落という想定だ。居住用不動産価格は16%下落、商業用不動産は20%の下落となっている。このストレステストは米国CCAR同様銀行の所要資本に密接に関係してくるため、銀行の投資行動に影響を与える。ROEを保つために一部ビジネスからの撤退や縮小もありうるため、注意が必要である。海外のストレステストがここまで厳しくなってくると日本でも似たようなことが起きる日も近いのかもしれない。

LIBOR公表停止前トリガー公開後に起きること

LIBOR廃止に向けたPre-cessation Trigger(公表停止前トリガー)が発動されたら何が起きるかについて、徐々にその全貌が見え始めてきた。まずは、英国当局であるFCAとIBA(ICE Benchmark Administration)からISDAに送られたレターが参考になる。これは、LIBORが市場実勢を反映していないと当局が公表した場合のトリガーであるが、この瞬間に引き続きLIBORを参照した取引が続けられるのか、また既存のLIBOR取引はどうなるのかという問題である。

このレターの中で、FCAはこの公表を行った後にLIBORが存続する期間について、極力短くすべきであり、期間の定義としてa
period of months, not yearsと述べている。IBAの方も、実態に即しないとされてしまった指標を公開し続けることはしたくないと述べており、市場参加者としても市場実態を表さないと当局が認めた指標を長期間にわたって使い続けるわけにはいかないだろう。

LCHの公表停止前トリガーについては先週もご紹介したが、CCPも当局がLIBORが実勢を反映していないと公表した場合、例えば当局が1ヶ月後に効力発生日を定めた場合、公表日にリスクフリーレートとのスプレッドをFixするのではなく、効力発生日にFixすることを提案している。この期間もどれくらいあるかが重要だが、やはり1ヶ月未満といった想定をしておくのが無難だろう。

おそらく当局公表後はLIBORのパネル行も早晩レートの提出をストップすることになるだろうから、やはり公開後は直ちに新レートに移る努力をしていく必要がある。そうなるとCCP以外の相対取引についても公表停止前トリガーを入れていく必要があると思われ、ISDAはおそらくその方向に動いていくのだろう。

リスクオフセンチメントが変える投資行動

ウィルスの影響が投資行動に影響を与え始めている。1月に$23bnの資金が高格付け社債市場に流れ込んでおり、先週だけでも$2.9bnの資金がハイイールド債から流出している。ここまでの資金流出は昨年8月以来とのことだ。1月前半の発行額が多かったため、それでも1月は活発な社債発行があったが、月の後半にかけてかなりの減少が起きている模様だ。

SARS等過去の経験からすると、しばらくして市場がリバウンドすることが多いのだが、今回は少し異なる様相を呈していると言う声が市場関係者の間からは聞かれる。これまでのウィルス発生時と異なるのは、ソーシャルメディアの発達、グローバルのサプライチェーンの相互関係の高まり、既に高止まっていた資産価格の3つがその理由という報道もある。今後は経済指標に与える影響も無視できなくなってきている。しばらくは様子見だが、そのうち株の投げ売りを誘発するようだと注意が必要だろう。

LIBOR改革に対するバイサイドの対応

LIBOR改革に関し海外当局の焦りが手に取るように感じられるようになってきた。今日のNY時間には米国ARRC(Alternative Reference Rates Committee)からバイサイド向けのチェックリストが公表されることになっている。欧米では、銀行は当局向けのレポート等も求められているため、ある程度の準備を進めているが、進んでいると言われる欧米でも生保やアセマネのようなバイサイドの準備はかなり遅れているとのことである。方向性がはっきりするまではシステム改定も行えないし、しばらく待ちの状態というところが多いようである。

英国では1月20日にアセマネ業界向けに英国当局であるFCAからレターが出されている。やはりLIBORに関しては英国が一歩進んでいる感はある。既に新レートであるSONIAが存在しているというのも大きい。

日本では、いくつか当局からコメントは出ているが、やはり準備に本腰を入れているところはそれほど多くないような印象を受けるが、2021年末の期限前にLIBORからの移行が強制的に起きる可能性も捨てきれないため、早急な対応が必要だと思われる。日本では本件についてはかなり詳しく勉強している実務家が多く、専門家の間の理解はかなり進んでいる。とは言え、お勉強の段階に留まっている感は否めず、それを行動に起こしているところが少ないという印象を受ける。この場でも実務面にフォーカスしたサマリーを少しまとめてみようと思う。

CCPのデフォルトオークションにバイサイドの参加を促すべきか

米通貨監督庁がCCPの参加者破たん時のポジション整理におけるオークションにバイサイドの参加を認める方向との報道があった。契約書類を簡素化し、できるだけ多くの参加者にオークションに参加してもらい、オークションの成立確率を上げようとの狙いだ。Nasdaqの参加者破綻時の教訓を活かし、同じようなことが起きない様にとの配慮だ。

オークションの性質を考えると至極当たり前のことだが、これはCCPの安全性を高めるために非常に重要な変更だ。もっともクライアントクリアリングに参加しているバイサイドに限られると思うので、クライアントクリアリングのないCCPではこれは難しいのだろう。本来ならさらに一歩進めて、CCPに参加していないバイサイドにもオークションの機会を与えて、その後のクリアリングの仕方を何とか工夫するところまでいけば、オークションの成立確率は更に上がることになるだろう。一時的にCCPで清算しない相対取引を認めるとか、その他短期的な例外措置を設けるといったことが考えられるかもしれない。

特に流動性がなくなり、ディーラーのリスク許容度が落ちている昨今ではこうした変更は非常に重要である。銀行以外のファンドや、マーケットメーク専門業者も出てきているため、流動性の主体が銀行以外にシフトしているという背景もある。

クリアリングブローカーとしてもクライアントクリアリングサービスを提供しているバイサイドが突然巨大なポートフォリオを落札した場合、その顧客向けの清算基金を拠出しなければならなくなる。したがって、クリアリングブローカーサイドにも一定程度のインセンティブが必要であるし、こうしたケースに対して、一時的な例外措置等を認めても良いのかもしれない。

今後はこうした慣行が一般的になっていく可能性も高く、日本を含む米国外のCCPがどのような対応を取るかに注目が集まる。

LCHがPre-Cessationトリガー導入を検討

一昨日LCHがPre-cessationトリガーの適用検討を公表した。これはLIBORが当局より金利動向を適切に反映していないと判定された場合に、清算されたLIBOR取引を新レートに自動的に置き換えるというものだ。参加者の承認が得られれば正式決定となる。ゾンビLIBORを抱えたまま参加者デフォルトが発生し、残ったポジションのオークションでBidが困難になる状況も考えられるため、CCPとしては妥当な判断なのだろう。

こうなるとLCHで清算された金利スワップと相対のスワップの参照レートが異なることになってしまう。また、JSCCが同じような対処をしないとLCH SwapとJSCC Swapの差も生じてしまう。また、JSCCも同じ対処をしたとしてもタイムラグが生じると一定期間二つのレートが混在することになってしまう。

当然ISDAでは、再度参加者にコメント募集を行い、同じようなトリガーをフォールバック条項に標準文言として入れるかどうかの判断をすることになるのだろう。前回は合意に至らなかった点であるが、CCPがトリガー適用を決めたとなると若干様相が異なってくることが予想される。

英国では当局のPushもあり、LIBOR改革の議論が急ピッチで進んでいる。日本の動きはまだ鈍いがおそらく数か月もすると急速にCatch Upが進むことになるだろう。

マネージド型CDOの復活

マネージド型シンセティックCDO復活の兆しがあるようだ。既に2017年ころから、せいぜい2年か3年という短期のスタティック型シンセティックCDOは少なからず取引されていたが、ここへきて、マネージド型かつ期間の長いものに注目が集まっている。JPM、野村、BNPの名前が挙がっており、第一四半期中には取引が行われる見込みとReutersが報じている。CDO(Collateralized Debt Obligation)は、資産担保証券の一つで、ローンや社債などから構成される金銭債権を担保として発行される証券化商品だが、シンセティックとつくと、CDSを裏付けとしたCDOになる。

CLOが規制の影響で伸び悩む中、CDOが若干形を変えてある程度の復活を遂げるのは、ほぼ既定路線のようだ。確かにここまで利回りを得るのが難しくなると、CDOにニーズが集まるのも無理はない。金融危機で痛い目にあった投資家には未だアレルギーもあるだろうが、それほど長い取引でなければ、投資ニーズは一定程度あるだろう。ただし、マネージド型となると、ポートフォリオ入れ替えのコストが発生するのと、昨今の流動性の中でそれが頻繁に可能なのかというハードルも残る。以前のような格付を付与した債券の発行も、担保コスト、XVAコスト、ファンディングコスト等を加味すると以前よりは簡単ではないだろう。また、金融危機後に導入された規制により、CDOポジションをそのまま抱えると、銀行は追加資本賦課を受けたり、レバレッジ削減を行わなければならない。投資家も単なる社債に投資してデフォルトした場合と、CDOで損失を被る場合はサラリーマンリスクはかなり異なる。

こうした事情から、特に日本ではこの販売額が伸びるとは思いにくいが、まずは海外でどのくらいの規模で発行が伸びていくかに注目したい。

消去法による投資が活発化

欧州で少しでも金利のつく債券に大きなニーズが集まっている。先週はスペインが火曜の10年債入札で10bnユーロの発行額に対して53bnユーロの需要を集めている。イタリアは7bnの30年入札に対して47bnユーロの需要が集まった。その他の国も軒並み強い需要を年始から集めている。ECBが月間20bnユーロの債券購入を行っているうえ、金融緩和とマイナス金利政策を継続するという見込みから、このような旺盛な需要につながっている。現金をカストディアンに持っているとマイナス金利をチャージされるという事情もあってファンドマネジャーがプラス金利なら何でも書いたいというニーズもあるのかもしれない。

1月は比較的発行が多かったが2020年は欧州全体としてみるとそれほど発行額が例年に比べて多いわけではなさそうということもあり、投資家が我先に債券購入を進めているようだ。一方マイナス金利の発行が多いドイツ国債に対する需要はかなり弱い。

こうなると、リスクを見極めて投資をするというよりは、マイナス金利を食らうくらいなら、どんどん投資をするという行動を誘発してしまうのではないだろうか。低格付のハイイールド債などの投資も増え、行き場を失った資金があらゆるプラス金利のリスク資産に流入しているように見える。とは言え、大統領選までは米国は何としてでも市場を支えようとするだろうから、11月までは何とかもつのかもしれないが、12月前には資金を他人移した方が良さそうだ。

日本株への注目は高まるか

中東問題やウィルスの話はあるものの、年始からマーケットは堅調な動きを見せている。各国中央銀行の金融政策が最大のドライバーであることは間違いないが、企業決算、地政学リスク等を考えると、市場関係者の間では極めて慎重な意見が多い。ダボス会議でも、BridgewaterのCIOのコメントにもあるように景気拡大は終わり、中央銀行は金融緩和も引締めもできないという苦しい立場に追いやられてるように見える。

マイナス金利政策については、銀行業界から多くの批判が出ているが、やはり自らの収益低下の言い訳に聞こえるのか、ロビー活動の成果は全く出ていない。最近では、マイナス金利政策の長期化が経済に与える悪影響を説明することにより、別の方面から説得を試みているように見えるが、確かにマイナス金利政策のおかげで、資金がリスク資産に急速に流れているのは事実であり、これが資産価格上昇を招いているというのも誤った指摘ではないだろう。今年だけで19兆ドルにも上るという社債のリファイナンスの規模もクレジットマーケットにとっては懸念の種である。通常のリセッションは、こうした債務不安から株価急落が誘発され、景気後退という流れを辿る。ダボス会議である投資家代表がコメとしたように、中央銀行が次のリセッションを2021年か2022年に先延ばしはしているものの、最終的には確実にそれは起きるのだろう。

過去の株価や不動産価格の動きを見ていると、今ここで投資を増やすかどうかというのは非常に難しい選択だが、投資しないリスクもある。その中で唯一過去対比それほど割高に見えないのは日本株なのかもしれない。日経平均株価では、過去20年で2回表れた月足のゴールデンクロスに近づいている。ここを達成すると、現在の価格から2割高の2万9000円付近までの上昇が視野に入るとの見方がある。確かに何かショックがあった時の傷は既に急上昇した他のセクターよりも、浅くなるのかもしれない。