海外との会議で最初よく思ったのは、「なぜ皆こんな初歩的な質問をするんだろう」という疑問だ。中には自分が参加していることを主張するために質問するとか、単に聞き返すだけの人も多い。だが、これに慣れてくると実はこの方が効率的なのではないかと思うようになってしまうから不思議だ。
逆に海外から言われるのは、なぜ日本人は会議中や顧客訪問中にウトウトする人がいるんだという点だ。彼らにとっては顧客との会議中に寝ている人がいるのが信じられないらしい。確かに思い起こすと外国人が会議中に寝ているのはほとんど見たことがない。といっても自分自身もつい睡魔が襲ってくることもあり、人のことは言えない。
彼らは常に発言しようと身構えているので、会話にEngage、つまり、積極的に参加している。人間しゃべりながら寝ることはできないからだ。試しに日本の会議でも眠くなった時に何でもよいから質問をしてみると、見事に眠気が飛ぶ。
こういう会議に慣れた外国人が日本に来て会議をするとあまりの反応のなさにびっくりして帰っていく。自分のプレゼンに問題があったのかとか聞かれるので、いつも言葉と文化の問題だろうと答えておくのだが。
日本でもアクティブラーニングということが言われるようになっているが、確かに誰かの講義をウトウトしながら聞いているよりは、自分もたまに発言をしながら学んでいく方がよっぽど身になるのだろう。
海外留学時にもやはり授業中寝ているのは日本人が多く、向こうの学生はコーラ片手にたまにスナックでも食べながら質問しまくっていたが、寝ている人はあまり見かけなかった。
当然海外企業でも議事進行が完全に決まっていてその通りに粛々と進むものも稀にはあるが、たいていはすぐさま質問が入って、あちこちで議論が始まり収拾がつかなくなるが、そこで生まれるものも多い。
日本でも、完璧な資料を用意してそれを読み上げていくという会議から、簡単な1ページの図表だけを示して議論をするという会議がもう少し増えても良いのではないかと思う。
予定通りISDAからIBORプロトコルの手続き開始のアナウンスメントが10/23にあった。といっても、大手金融機関はこれに先立つエスクロー期間に既に手続きを進めているので、開始時点から257社がすでに手続き済となっており、日本からもメガバンク、大手証券が既に批准者リストに名を連ねている。
先にアナウンスがあったように2021年1月25日が発効日となっている。大手行以外の批准は日本では現時点ではそれほど多くないようだが、今後急速に増えていくことが予想される。だが重要なのは、これに批准したからすべて終わりではないということだ。実際取引タイプごとにかなりの作業が必要になり、下手をすると移行に際して損失が発生したり、リスク量の変化からヘッジがワークしなくなったりする可能性もある。
先週行われたLCHとCMEのディスカウント変更がスムーズに行わたことを考えると、今のうちに相対取引は極力CCPにバックロードしておくというのも一つの手だろうし、早めにLIBOR取引を解約して新レートでの取引を入れるというのもありだろう。
実際CCPのディスカウント変更以降SOFRの取引は増えているようなので、やはりCCPのCleared Swapからマーケットが動いていく流れが今後も出てくるのだろう。
市場はバイデン勝利を織り込んでいるが、そうなると気になるのはバイデン氏の政策が与えるインパクトだ。まずは法人税の21%から28%への引き上げだが、これは金融機関の純利益減少につながる。特に米国内の収益貢献が大きい銀行へのインパクトが大きいが、国際的に収益を上げている大銀行への影響は比較的少なくなる。
とは言え、現状の経済環境だと、たとえ民主党が上院を掌握したとしても増税に反対する声は出てくるだろうという報道が多い。一方景気刺激策にも相当の資金が流れ込み、低所得者支援も加速するだろうから、銀行が積み立てている引当金の戻りもあるだろう。金利上昇によって金融セクターが恩恵を受ける可能性も市場に織り込まれつつある。まずは人種問題、格差問題、環境問題、ヘルスケア等にフォーカスされるだろうから、増税は2022年以降という報道もある。
これまで報じられている内容からすると、バイデン勝利+民主党上院制覇で、米金利上昇ということになるのだろうし、事実今週の10年債利回りの上昇率は8月以来となっている。イールドカーブのスティープニングを予想する声も多い。2回目の景気刺激策実施の可能性も高くなり、加熱する株式に対しても警戒感が薄れてきているようだ。生産指数インデックスなども上昇しており、何となく楽観ムードが漂っている。
金融規制に関しては、バイデン政権では当然規制強化という論調だが、金融取引税の導入の話も出ていたし、ウォーレン氏の発言権が増すのではという懸念もある。ただ、現状のマーケットを見ていると、トランプ政権下よりは規制が強化されるだろうと言われている割には、そこまで変化はないのではないかという雰囲気も感じられる。4年前のことがあるので誰も確信はないのだろうが、やけに市場も落ち着いているような気がする。
2022年9月に延期されたIMビックバンまで後2年を切った。これによって、当初証拠金の拠出義務が、地銀や生保などに広がることになる。大手行を対象にした2016年9月のフェーズ1から毎年適用会社が拡大されてきたが、これがコロナによって延期され、2021年9月にデリバティブ想定元本残高80億ユーロ超のフェーズ5、2022年9月に80億ユーロ超のフェーズ6が予定されている。これを受けて以前あった標準法かSIMMかということが話題になっているようだ。
標準法はグリッド方式とも呼ばれ、想定元本に以下のような一定の掛け目をかけた簡便法で、誰でも簡単に導入できる。
この簡単さが受けるのか、デリバティブのエンドユーザーが最初に考えるのは、システムやモデル開発等は面倒だからこれを使ってしまおうという方法のようだ。ただし、売り買い双方の取引があるときそれを相殺させることが「完全には」できないので、計算される金額は多くなる。完全にはと言ったのは、以下のようなNGRによって最大6割オフセットまでは可能だからだ。
ここで計算された当初証拠金額は自分が拠出する担保額というよりは相手方に徴求する金額なので、自分のコストにはならないと思う人もいるかもしれないが、実際は相手方の銀行やディーラーがその担保拠出コストを織り込んでプライシングしてくるため、自分の取引コストが高くなることに注意が必要である。標準法を使っているというだけで敬遠されてしまう可能性も否定できない。
そうなると、ほとんどの市場参加者はISDAのSIMMを使うことになる。ISDAのペーパーを見ると難しそうに思えるかもしれないが、この計算はそれほど難しくない。結局は2週間99%のVaRを計算するようなものだ。相手方も同じ考え方を用いているので、毎日答え合わせもできる。
プロシクリカリティに注意するため、2週間VaRは2008年などのストレス期間を含めての計算になるだろうから、例えば10年金利で20bpくらいの金利の動きとする。10年なので10をかけてだいたい2%くらいが当初証拠金となる。先ほどの標準法の掛け目だと4%だからやはりSIMMの方が低くなる。イールドカーブコントロールで10年の変動が抑えられているということもあるだろうが、一方これが30年金利になるとSIMMの方が高くなるだろう(5年超をすべて同じ掛け目にしているのもどうかとは思うが)。
資本計算のカレントエクスポージャー方式が簡便にリスクを表す指標として使われたためか、日本ではグリッド志向が強いような気がする。取引先リスクのリミットを決める時も想定元本に掛け目をかけて決めているところもあるのではないだろうか。SIMMの導入を良い機会ととらえて、モデルによって簡単なリスク量把握ができるような環境ができると金融の発展につながるかもしれない。
今年は、欧州で5000憶ドル超、米国で1.2兆ドルにも及ぶ社債発行が行われてきたが、直近ではこのペースに陰りが見えてきた。一方で市場には潤沢な資金が継続して流れ込んでおり、金余りの様相を呈している。この流れが継続すると信用スプレッドのタイト化は続くだろうし、中小企業まで新規社債発行の動きが広がっていくことになるのだろう。大企業はほぼ来年までの資金調達を終えているように見えるため、第四四半期はサイズの小さな発行が主流になり、全体としてのボリュームは減少することが予想される。
一部の企業の中にはその信用スプレッドが、感染拡大前の水準をも下回っているところがある。つくづく市場は政府、中央銀行の行動によって動くものだという認識を新たにさせられる。それでもさすがにここまでスプレッドがタイトになる(社債価格は上昇する)と、そろそろ投資適格社債ポートフォリオから資金を引き上げる動きもみられて始めているようだ。特に社債ETFからは9月以降資金が流出しており、個別の社債へその資金は流れているようである。
また、AT&T、BPなどのように社債のバイバックを行い債務を減らす動きも見られ始めている。今年は社債発行は多いが、同時にバイバックも昨年比40%増程度で推移している。危機前に資金手当てをしておこうとした企業が、実は経済混乱は思ったよりひどくないため、無駄な債務はやはり減らそうとしているようだ。大統領選で思ったほどの混乱が起きないという予想も市場のセンチメントを変えているのかもしれない。
それにしても日本の社債市場ではこうした話があまり聞かれない。外債発行をした場合はグローバルな投資家の需要を集めるため、海外と全く同様の動きになるが、円債市場は全く別物のようだ。円債を発行するよりは銀行にローンを借りた方が楽ということなのだろうか。確かに周りにも株を買う人は多いが、社債を買う人はあまりいない。円債に投資するファンドも海外に比べると少ない。
マイナス金利になったり、中央銀行がお金を刷り続ける中では、現金を持っていることも危険なはずなのだが、やはり投資をする方が危険と思う人の方が多いのだろう。日本の資産運用ビジネスの拡大に期待したい。
暴落を危惧する声をよそに、米国テクノロジー関連株が引き続き好調だ。最近若干の調整はあったとはいえ、2000年代初めのドットコムバブルを超える勢いだ。S&P500に占めるテクノロジー関連株のシェアは40%に近づき、1999年の37%を超えた。
以前のような単なる熱狂というよりは、リモートワークなどの環境変化の波に乗って、着実にキャッシュフローを生み出しているので、この株価上昇は正当化できるという意見も多い。PERで比較してみるとApple、Facebook、GoogleのAlphabet等は軒並み30台中盤で、極端に高いという感じはしないが、Netflixは90近く、Amazonなどは130近くになっている。
ある一定の企業の影響力が強まるといつも起きることだが、今後は規制の動向が気になる。金融規制の金融株に与える影響を考えるとこれが懸念材料の一つとなることは明らかだ。米国民主党からは、独占状態にあるプラットフォームを他のビジネスラインから分離させるべきという意見が出ている。iphonや検索エンジン等を分離するということなのだろうか。
もう一つ気になるのは株式デリバティブ市場の動きだ。今週月曜はColumbus Dayで米国は休日だったが、株式市場はオープンしており、株式オプションの約定額が急増した。特にAppleのオプション取引(主にコールの買い)が今年2番目に大きかった模様だ。
いつものごとくコールを売った銀行はそのポジションをカバーするために現物株を買う。これが株価上昇につながるというもので、ソフトバンクの米国金融市場における知名度を高めた手法である。とは言え、今ではNasdaq Whaleという別名で呼ばれているソフトバンクのような大口投資家のフローというよりは、サイズが小さな注文が多かったようなので、小口投資家がこぞってこの手法を取り入れているようだ。新iPhoneの話もあったが、Apple株は月曜に6.4%上昇しており、株式分割後最大の上げ幅となった。休みで仕事もないけど外にも出れないからデイトレードでもするかという感じなのかもしれない。
そのうち日本でもオンラインブローカーが安い手数料でオプション取引を広げようとすれば、日本でも同じようなことが起きるのだろうか。こうして上げられた株はどこかで暴落するのだろうか。
日銀が金融システムレポート別冊シリーズとして在宅勤務についてにのアンケート結果を公表している。この内容について報道では、金融機関の4割が在宅で私用端末を認めているとして、安全性に課題があるという見出しになっている。コメント欄にも、「信じられない」、「個人情報や機密情報保持は大丈夫なのか」という懸念が寄せられている。
個人的には逆に9割強が会社貸与端末を利用というのが逆に驚きだった。海外では、ほとんどが私用端末を使って会社やVirtual PCにアクセスしている。当然会社のシステムと私用端末は完全に遮断されており、ダウンロード等何もできない仕組みになっている。所謂VDI方式というものだ。私用端末がウィルスに侵されたとしても当然会社のシステムに影響はない。いつアクセスしているか、どのような仕事を行っているのかもかなりの部分までモニタリング可能である。
確かに日本では専用線を使っていると安全でネット接続は危険と思われている節がある。日銀端末についての記事もあったが、海外ではネットで接続する際の対策に力を入れているのに対し、日本はやはりネット接続を避けるという方向なのかもしれない。海外では国債入札も自宅端末からできるといったら日本では非常に驚かれる。当然私用端末からだ。それでも情報漏洩やシステム問題は日本の方が多く発生しているような印象も受ける。
確かに取引のコンファメーションを電子で送ると言ったら、紙で郵送してほしいとかFAXで送ってほしいという依頼が日本では数年前までは頻繁にあった。電子署名なども断られるケースが多い。実際に「もの」がないと信用されないようだ。書類偽造や印鑑偽造の方がよっぽど技術的には簡単なように思うのだが。
そうは言っても今回のコロナショックでは、このあたりの意識もかなり変化してきているようだ。日銀アンケートにあるような在宅勤務は、感染拡大がなければ実現不可能だったかもしれない。もうこのような時代なのだから、ネットを避けることに労力を注ぐよりは、ネット上の安全技術に磨きをかけた方が良いのだろう。
現在の銀行資本規制上は、資本バッファというものがあり、今回のコロナ感染拡大のような有事においては、それを取り崩せるような施策が打たれることが多い。とは言え実際には銀行がこのバッファを使えていないという批判が以前から上がっていたが、今般バーゼルから、資本バッファは本来の役割を果たしているという反論があった。
カウンターシクリカルバッファ、GSIB追加バッファなど様々なバッファがあるが、確かにコロナ対策として、資本バッファを取り崩して貸し出しを延ばしてよいというメッセージは各当局から発せられてはいる。しかし、銀行内部にいる者にとっては、これが緩和されたからといってすぐに使おうという気にならないようだ。これはあくまでも一時的な緩和であり、危機が去ればまた元に戻さなければならないとか、そうはいってもこの緩和に頼るようでは、健全性が劣っていると見なされかねないという理由もあるとは思う。
そしてそれにもまして重要なのは、資本対比のリターンに対する要請が厳しいというのが大きいような気がする。海外の大手銀行では、案件ごとにROEの計算を行っており、資本対比のリターンが低いものには手が出せない。たとえ当局が資本規制を緩めてもそれを前提に、案件のハードルを下げているようには見えない。結局レバレッジ比率規制の緩和も3月には終わってしまうのである。
最近では日本ですら、シェアではなく収益性を重視する声が聞かれるようになってきた。欧米では自社株買いや配当制限がかかっているが、収益性の低いローンを急増させてしまうと、制限がなくなった時でも配当が払えないという可能性もある。また、格下げによって調達コストが上がったり、競争力が下がったりしてしまう。
経済を支えるためにリターンを度外視してローンを出すべきというのはわかるが、ここは公器としての銀行と営利企業としての銀行のバランスが求められる。この点については、何となく日本は公器よりで、欧米は営利企業寄りという感覚がある。
しかし、コロナだからといってもともと潰れるはずだった企業までが延命され、結果的に将来国民の税金が上がるというのは、経済全体に望ましいことなのだろうか。コロナ対策で増やしたローンが焦げついて格下げされたら、その銀行は国が救うのだろうか。
バーゼルの言い分も理解できるが、やはり資本バッファがその役割を果たしているとは、どうにも思えない。
EurexとLCHがEONIAからESTRへの一括変更を検討していると報道されている。EURスワップに関しては、6月27日にディスカウントレートが変更になってからも、依然ESTRへのシフトが思うように進んでおらず、ESTR参照のスワップは未だ全てのOISの2%しか取引量がない。Eurexは若干この割合が高めだが、その移行ペースは思ったより早くない。
だが、このまま二つのレートが混在するのは、管理が面倒なのと、CCPにとってもデフォルト時のオークションが問題になる。当然フォールバックがトリガーされ一気に混乱が起きるよりは、それ以前にポジションを移行した置いた方がオペレーション面でもリスクが少ない。
この変更は来年の上半期に起きる可能性が高いが、最終期限を考えるとUSDやJPYのような他の通貨においても同じような時期にCCPが変更してくる可能性が高い。
とは言え、まだCCPにクリアリングされたスワップは、このようにCCPサイドで透明性高く移行が進んでいくため、相対で交渉するよりはかなり楽だ。こう考えると、まずは今のうちから昔の相対取引等クリアリングに移せるものは極力CCPにバックロードしておくのが望ましいのだろう。
CCPとしては、いつまでもレガシースワップが残るのは望ましくないため、一定の期限を設けて一括変更を発表するのではないだろうか。そして、一括変更がオペレーション的に難しいのであればその期限までに徐々に移行を進めていくというのが現実的な流れだと思われる。そう考えると、まずはバックロードは今年後半か来年第一四半期には進めておかなければならなくなる。あまりここまで進んでいる市場参加者は少ないのが若干気になるが。。。
アジアにおけるNDF市場に関するIMFのペーパーでNDFの取引が急増している様子が紹介されている。COVID19でNDFの動きが激しかったため、ここから他のマーケットに影響が広がることを政策当局者としては注視しているようだ。このペーパーにある2013、2016、2019年の取引量のグラフを見ると、最近の取引の伸びには目を見張るものがある。2019年の取引量は3年前の2倍以上に伸びており、グローバルにおけるシェアもアジア通貨が6割程度になっている。INRなどは3倍、TWDは2.7倍、KRWは2倍とのことだ。2020年にはこれがさらに伸びていることが予想される。
NDFはヘッジコストが高いため、市場混乱が起きた時に投資家がヘッジをあきらめ、現地通貨建て社債等の売却に動くという懸念も挙げられている。取引量の大きな通貨はINR、KRW、TWDだが、この3通貨でグローバルNDF取引の55%を占めており、CNYが5%とのことだ。アジア以外では、BRLが14%、RUBが2%である。主要3通貨については、NDFの取引量がSpotやFowardと比べても格段に大きいという特徴もある。特に台湾では、ドル建ての債券であるFormosaがグローバルでも有名だが、このヘッジニーズが恒常的に入っているようだ。
NDFは現金決済のあるFX Forwardとは異なりマージン規制の対象となっているため、取引量の多い市場参加者は当初証拠金の拠出をしなければならない。そして延期されたとは言え、来年、再来年に対象会社が広がるため、CCPでの清算も増えてくるかもしれない。LCHもNDFのクリアリングを強化しているという報道もあったが、来年以降クリアリングに移行する動きが本格化する可能性がある。金利スワップと同じようにクリアリングNDFと相対NDFでプライスに差をつけるところが出てきているというコメントが報じられたこともあったが、おそらく金利スワップと同じようなクリアリングへのシフトが起きてくるのだろう。
特に今回のコロナで明らかになったのは、NDF市場はオンショアの為替市場よりも変動が大きく流動性インパクトも大きかったという事実だ。ローカルマーケットが動かなかった時でもNDFマーケットだけが海外投資家のフローの影響を受けて変動するというケースも散見される。ただこれは裏を返せば、NDFのトレーディングは収益機会が大きいということなのかもしれない。
景気回復期待と、さらなる米国の財政支出期待の高まりから、米長期国債の金利上昇を予測する声が大きくなってきた。インフレ期待も高まり、10年金利がコロナショック前の2%まで戻るのではという声まで聞かれる。民主党勝利の可能性が高まったこととも関係しているのだろう。
大統領選でバイデン勝利となり、上下院双方も抑えるようなことになると、大胆な景気刺激策を打ち出しやすくなる可能性が高い。上院での民主党勝利の確率も今週になって61%から68%に上がった。
確かに現状のコロナ対策財政パッケージをめぐる混乱を見ていると、民主党が圧勝し上院も握れば、財政政策的にはかなり柔軟性が増すように思う。このパッケージも、政府案は1.8兆ドルということで、先の1.6兆ドルよりは上積みされたが、民主党の2.2兆ドルには届かない。そもそも民主党案は3.5兆ドルだった。共和党議員の反対もあるため、選挙前にこれが合意に至るかどうかは現時点では不透明だ。
あとは選挙後にFEDがどう出るかだが、金利が上がれば、現状の80兆ドルの国債買い入れプログラムに変更を加えてくる可能性が高い。おそらく長期金利上昇を抑えるために長いところの国債の買い入れを進めることになるのだろう。株価への影響も懸念されるが、いずれにしても安全なのは金融株ということなのだろうか。とは言えバイデン政権がウォールストリートに優しい政策をとるとは思えない。行き過ぎた規制を修正する動きが少しずつみられてきたが、この流れが止まるのだろうか。
昨日10/9にISDAからIBOR Fallbackプロトコルに関する声明が出されている。米国司法省から、競争上の悪影響が及ぶ可能性が低く、金融業界に対する大きな便益をもたらす可能性があるという、前向きなレターを受け取ったことから、次のステップへ進める旨のアナウンスメントとなっている。
一応米国外でも同様の確認を進めていると書かれているが、大きな反対が寄せられることは想定されていない。今回の声明により明らかになったタイムラインは以下の通りである。
– IBORフォールバック・プロトコルを2020年10月23日にLaunch
– 施行開始は2021年1月25日
なお、プロトコルは1/25の発効後も批准可能となっている。これでようやくプロトコル批准に向けた作業が動き出す。
同時にARRCからもプレスリリースが出ており、プロトコルへの批准を呼び掛けている。特にデリバティブポジションの大きな市場参加者に対しては、10月23日の開始日2週間前のエスクロー期間のうちに批准することを推奨している。つまり来週早々から手続きに入るところが出てきそうだ。
来週にはLCH/CMEにおけるUSDのディスカウント/PAI変更が控えているが、今年後半から来年は忙しくなりそうだ。
しかし、考えれば考えるほどこの移行には困難が伴う。前もって新レート移行の準備計画を練っているところは問題ないが、何も準備をせずにプロトコルさえ批准しておけば良いだろうと思っている市場参加者が多いと、突然アナウンスが出た時には大パニックになるのではないか。
特に最近はXVA、担保の違いによる価格変化、ディスカウントを変更した際に生じるクロスガンマヘッジ、証拠金規制対象前と後の取引の扱い、IMの偏りから生じるCCPやBilateralの当初証拠金のファンディングコストと、把握しておかなければならないパラメーターが多すぎる。これをすべてのカウンターパーティーと精査、合意して短期間に移行するのは本当に可能なのだろうか…
SOFR/FFベーシスの方向感が定まらない。一時期ワイドニングしていたスプレッドがLCHのAuctionサイズ公表を受けて縮小に転じたと思いきや、その後いったん拡大した。その後は縮小を続け最近また少し拡大傾向にある。LCHでオークションにかけられるベーシススワップのサイズはそれほど大きくはなかったが、CMEはこれを開示していない。LCHのシェアは9割近くだろうから、あまりCMEは影響しないはずなのだが、顧客フローが多いため、CMEの方がリスクが一方向に偏っている可能性がある。すでに締め切りが過ぎているため、オークションサイズは確定しているはずであるが、意外とCMEの影響が大きいのではないかという声も聞かれる。
やはり生保重要の高い30年に注目が集まるが、第二回のアナウンスメントを見ると、結局当初よりオークションサイズは$511㎜から$382mmへと減少しており、アナウンスメント後スプレッドも縮小している。一方反対の方向にはなるが、20年はサイズが大きくなっている。
ここからは新しい情報は出てこないが、Discount変更まで10日ほどとなったので、来週以降のマーケットの動きに注目したい。
コロナショックで不動産市場がどの程度インパクトを受けるかは今後の注目だ。最近の報道では、米国の商業用不動産は、その価値が25%程度減価しているのことだ。ショッピングモール、ホテルなどの稼働率が極端に落ちているので、考えてみれば当然の結果ではある。
CMBSの取引データを見てみても、大型ホテルなどはCMBSに組み入れた時より価値が半分程度に下落しているものもある。ローンの返済が滞っている物件もかなり多くなってきた。これからこうした物件の価値が急速に下がることが予想される。以前泊まったLAのHoliday innも2015年当初に比べ27%ダウンと報道されていた。新しく評価替えをするホテルなどの商業用不動産は、軒並みこのような減価を強いられることになるのだろう。
CMBSに組み入れられている物件のLTVは過去4年で約60%とのことだったが、最近はこれが90%程度になっているようだ。今後さらにこの状況が長引くと、市場混乱が起きてくる水準である。
金融危機時に米国不動産市況が悪化した初期の頃、米国住宅ローン市場に端を発する価格下落は日本には波及しないなどと言われたが、結局時間差で日本の不動産市場に影響を与えた。当然ウィルスの広がりは日本で落ち着いているのだが、結局マーケットはつながっているので、その動向には引き続き注意が必要だろう。
米国では、市場参加者間でARRCのガイドラインをめぐる混乱が起きているようだ。5/14の当初ガイダンスによると以下の2点が推奨されている。
- 市場参加者は、2020年10月16日以降に期限が到来する米ドルスワップションについて、ISDAのSupplement 64の対象となるように修正し、合意された割引率としてSOFRを指定するとともに、これらの価格差を現金交換(Cash Compensation)する。
- 市場参加者は、2020 年 6 月 30 日までに、カウンターパーティに連絡し、上記1に従うか決定する。
その数か月後、大多数の市場参加者はCash Compensationが市場の意向に沿ったものと思ってはいるものの、現実にこれは難しいのではないかということが明らかになったと書かれている。これを受けて9/11に以下のガイダンスが加えられた。
- 2020 年 10 月 16 日までに、Cash Compensationに関する合意がなされていない場合には、スワップションを修正して Supplement 64 の対象とし、Agreed Discount Rateを指定するべきである。
そして、このガイダンスは任意のものであり、何ら法的義務はなく、カンターパーティー間の合意に基づいて決められるべきであると結ばれている。
一つだけ明らかなことは、Supplement 64の対象にするということなので、10/16以降に存続するスワップション取引の割引率はSOFRに変更されるという点だ。スワップションにはオプション部分とUnderlying Swapがあるが、おそらくオプション部分については10/16以降の変更になるだろうが、Swap部分の割引率に関しては既に変更している銀行もあるのではないかと思われる。
このガイダンスに従うと、10/16以降はスワップションの時価が自動的に変更され、合意があったかどうかに関係なく、マージンコールも新しい時価に基づいて行われるということになるのだろう。Cash Compensationを行うかどうかはその後当事者間で議論をすることになる(あるいはマージンDisputeになる?)のだろうが、これを一つ一つ交渉するというのは気が遠くなる作業である。
そもそもARRCのガイダンスの行間を読むと、当初はCash Compensationを推奨したものの、EURの割引率変更時に明らかになったように、実際にこれを行うところがほとんどなかったため、本当はガイダンスの変更をして、Cash Compensationをしない方向に変更したかったのかもしれない。もちろん当初ガイダンスに従って、既に交換してしまったところもあるかもしれないので、苦肉の策として当事者間に判断に委ねるということになってしまったのではないか。
9/24のISDAの文書においても、ISDA will not set or discuss calculation of any resulting compensation paymentsとして明確な回答が避けられている。
確かに一社一社これらの交渉をするのは不可能に近いので、米国では単純にCash Compensationを行わないということでほぼコンセンサスが出来上がっているという話も聞かれるが、これは後数週間もすれば明らかになっていくのだろう。
LIBOR改革の進展に合わせて細かいベーシスが様々な動きを見せているが、いつもよくわからないのがTIBORである。全銀協のデータを見ていると、約2年半ぶりくらいにDTIBORが上がっている。これが動くのはほぼ2年半ぶりだろうか。
そもそも日本円TIBOR(DTIBOR)は国内行を中心とする15行をパネル行とする企業向け融資指標に使われており、無担保コール市場の実勢を反映させた指標、ユーロ円TIBOR(ZTIBOR)はオフショア市場の実勢を反映させた指標ということになっている。ZTIBORのパネル行は14行でDTIBORとあまり変わらない顔ぶれとなっている。
以前はこの二つの指標はほぼ同水準だったが、グラフに示されているように最近その乖離が大きくなっている(単位は%)。DTIBORとZTIBORの統合の予定やLIBOR改革が関係しているものと思われる。
出所)全銀協
3か月物や6か月物のFixingは上記のように離れているが、5年とか10年の長期になると、双方とも市場実勢に従うためか、似たような動きをしており、なんとなくLIBORに近くなっているように思える。5年ポイントを見ると、DTIBORの方が低く、ZTIBORの方がLIBORに近くなっている。10年は同じくらいだったが、最近5年のようにZTIBORの方がLIBORに近く(よりプラス方向)になり始めた。
このまま行くとZTIBORの長い方はどんどんLIBORに収斂していくのだろうか。将来的にDTIBORが残るということであれば、今後は長いところもDTIBORの流動性が上がっていき、ZTIBORやLIBORに近づいていくのだろうか。
そもそもIBOR改革の流れの中でTIBORが残っているというのは日本の特徴だが、一応TIBORは指標として適切とのお墨付きになっているので、今後も存続可能なレートとなっている。今後リスクフリーレートと棲み分けがどうなるかにも注目が集まる。
LIBOR改革関連で最もマーケットが動いているのは、もしかしたら、このTIBORがらみのレートなのかもしれない。米国のSOFR/FFベーシスで取引機会を狙っているヘッジファンドなどは、実はこのDTIBOR、ZTIBORで裁定機会を捉えた方が収益機会が大きいのではないかなどと思ってしまう。
米国企業の社債発行ペースが止まるところを知らない。年後半には失速すると思われていた投資適格級の社債発行は第三四半期も$267bnと非常に高水準となった。
3月にFRBが金利をゼロ近辺に引き下げ、社債買入を発表したことにより、資金が一気に社債市場に流れ込んだ。米国債金利が急速に下がる中、スプレッドに厚みの残る社債には引き続き資金が流入しているようだ。
とは言え、今後の原則を予想する声も多く、第四四半期は償還が新規発行を上回るだろうとするレポートも出ている。社債のバイバックのアナウンスメントも複数出始めている。過去10年で第三四半期までの発行額が$600bn-$800bnだったことを考えると、今年の$1.4tnはさすがにペースが速い。M&Aの減少もこれに拍車をかけるだろう。
当然ここからの景気動向、米大統領選の影響、今後の財政支援策等にもよってくるが、年末に向けてある程度落ち着いてくれば、債務削減に取り組もうという動きが出てくることが予想される。
ただし、長期的に見れば社債からの資金調達は続くことが予想され、銀行ローンから社債やその他の資金調達手段への調達の多様化の流れは止められないだろう。小規模な資金調達においてはいわゆるダイレクトレンディングによる資金調達が欧米中心に増えている。プライベートエクイティやソブリンウェルスファンドなどの資金がこういった資金調達に流れているようだ。感染拡大移行こうした資金調達手段の多様化には拍車がかかっているように見える。
こうした流れはやはり海外中心に広がっており、日本でイノベーションが起きる機運は相対的に低い。オーバーバーキングと言われて久しいが、わざわざ資金調達の多様化などの努力をしなくてもローンが得られるからということなのだろうか。日本の社債市場の発展も道半ばであり、いかに海外投資家の資金を惹きつけられるかが重要になってくる。
日本では株式のショートはできるものの、社債では難しい。CDSの流動性も極めて低い。社債を買ったら満期まで保有を続け、何も起きないことを願うというスタイルが多いように思う。
もしかしたら銀行が減ってくれば、いざという時のために銀行の与信枠を取っておくため、社債やその他の調達をメインにしようという会社も増えてくるのかもしれない。
米国司法省からISDAのLIBORプロトコルのレビューが終了した旨のアナウンスが出ている。競争上の悪影響がないという点が明確になったとしているので、これでプロトコルがようやく批准開始となる。当然の結果だとは思うが、これによって当初7月の予定だったものが10月にずれ込んでしまった。これでエスクロー期間が始まり、来年1月中下旬に発効となることになるのだろう。
いよいよ本格的に準備が始められる。といっても本来はProtocolは万能ではなくあくまでもBackstopなので、事前移行作業を進める必要があるのだが、いまだプロトコルさえ批准してしまえばOKと思っている参加者が多そうなのが気になる。システム整備の遅れた日本において、一気にFallbackしたらそれを同時期に全部捌ける会社はあまりないと思うのだが。
直近では、米国で物価をめぐる議論が盛んに行われているが、米国労働局のデータを見ると、想定したような物価の動きになっており、日本の統計に比べると肌感覚にあうようなうごきに見える。
8月のデータ(前年比)を見ると、学食や職場の食堂の食品価格が3%下がっているのに対し、家庭での食品価格が4.6%上昇している。出社頻度が減るためスーツや高級衣料の物価が17%下がり、化粧品価格も3%減だが、パジャマの価格が4%上昇している。新聞やケーブルテレビの価格は思った通り上昇している。ホテルや航空券は当然のことながら急減している。授業料上昇にも歯止めがかかり、カメラ、ミシン、自転車等の価格上昇がみられる。
とは言え、全体的な需要は弱く、第二波、第三波の懸念もあるため、インフレを予想する声は少ない。特に少なくとも大統領選までは追加の大型政府支出が見込めないことが明らかになってきたため、これまでの流れが逆回転するかもしれない。失業や家計所得の減少からの需要減もあって、一般的にはデフレ圧力がかかりやすいかと思われる。
これまで上昇を続けてきた貴金属価格も下がり始め、テクノロジー株の上昇とドル安基調にも終止符が打たれ、インフレ期待は一気に下がり始めた。米国債のスティープナー推奨をする意見も一気に後退した。社債価格もハイイールド債を中心に現金を引き上げる動きもみられる。とは言え、その資金の流れる先がないため、引き続き株価が支えられる可能性もあるので、このまま膠着状態が続くのだろうか。
LIBOR改革に関するISDAのProtocolの公表が遅れに遅れている。先週水曜の9/23のISDAのアナウンスには、週の初めに当局にレターを送り、その中で、プロトコルの発効日を2021年1月中旬から下旬と想定していると書かれている。独占禁止等、公平な競争環境を確保するためのレビューによって遅れているとは報道されていたが、ここまで遅れることなるのは想定外だったに違いない。米国司法省からのフィードバック待ちとのことだが、このプロセスはISDAサイドではコントロール不能とのことで、若干のFrustrationが表れているようにも思える。
司法省からのゴーサインが出た時点で、ISDAは約2週間の期間を与えて公式な効力発生日を伝えることになっている。この期間に市場参加者は「in escrow」でプロトコルに批准できることになっている。この期間をエスクロー期間という。つまり、批准の事実は公開されないものの、プロトコルが有効になった時点で批准の効果が発生することを確約するといった意味になろうか。
プロトコルの発効はその後約3か月後とされているが、年末だと混乱するため、来年1月の後半までは発効しないと見込まれている。FCA高官からのLIBOR Cessationのアナウンスが年末までに出てもおかしくないというコメントは注目を集めたが、過去5年中央値のスプレッド調整の計算は、すでに決められた方法に基づいて行われる。これはプロトコルの発効日に関係なく行われるということだ。
以前日本でも地銀の統廃合を進めたい金融庁と、公正取引委員会の意見の相違が明らかになったことがあったが、同じような事情なのだろうか。いずれにしても、ただでさえ時間のない中対応に苦慮している業界にとっては、早急なアナウンスメントが強く望まれることろである。
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