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ISDA SIMM v2.7による担保額の変化

SIMM Version 2.7が公表された。これはISDA SIMMモデルの定期的アップデートだか、今回から2021-2023年のデータが対象となり、2020年のコロナショック時のデータが除かれることになるため、ほぼ初めてといって良いくらい必要担保が減る可能性がある。2008-2009年のデータはストレス期を代表するデータとして残るが、それでもかなりの削減となりそうだ。

これによってIMが減れば、€50mm(米国では$50mm、日本では50億円)の閾値を下回ってIMを出さなくてもよくなるバイサイドなどが出てくるかもしれない。

Risk.netでは20%減という分析結果が報道されているが、既にオフセットが大きい大手ディーラーの削減幅はそこまでないかもしれないとのことである。

リスクウェイトの詳細を見てみる。円金利商品については1mと3m、10-20yが若干増えているが、6m, 1y, 3yが減っている。いずれも1-2ポイントなので、あまり影響は大きくなさそうだ。ドルやユーロについては、1-5yが増えているが、15yが-5ポイント、20yが-4ポイントと大きく減っている。このインパクトは結構ありそうだ。

クレジット商品も概ねリスクウェイトが小さくなっているが、ハイイールドの金融債とテクノロジー、テレコムセクターのリスクが上がっている。全般的にはかなりの削減になりそうだ。

一方ハイイールドのRMBS/CMBSなどは1300から2900へと2倍以上に増えており、今回最も影響を受ける商品になりそうだ。株式は概ね小さくなっている。コモディティも貨物、北米電力などを中心に小さくなっている。為替はボラティリティの高い通貨についてリスクウェイトが上昇している。またブラジルレアル(BRL)がHigh Volatility通貨の分類から外れる一方、アルゼンチンペソ(ARS)がここに加わったので、BRLを取引する市場参加者のIMが減るが、ARSを取引する市場参加者には不利になる。

実際に新しいパラメーターでIMを計算してみると違いが良くわかるが、全般的にIMとしてカストディアンに眠ることになる担保が少なくなるのは市場関係者には朗報だろう。これで急な市場変動が起きて批判が起きるのが若干懸念されるが。

中国国債がCCPの適格担保に

LCHが、来年から中国国債₍CGB)を担保として受け入れる予定とRisk誌が報じた。当面はドル建てとユーロ建のもののみとなるが、その後オフショアの人民元建ての国債も受け入れることを検討しているとのことだ。

グローバルでは、非現金担保の占める割合が60%であるのに対し、アジアでは20%だそうだ。昨今現金以外の担保ニーズが急速に高まっていることを考えると、アジアの市場参加者にとって歓迎すべき動きだろう。

あまり普段から見ないデータなので間違っているかもしれないが、これらの国債のサイズをちょっと調べてみると、ドル建てとユーロ建てのCGBが$41bn、オフショア人民元建てが$18bnであるようにみえる。昨年の外貨建てCGB発行額が$60bnくらいだったと思うので何か抜けているかもしれない。若干の誤差はあるだろうが、中国のサイズからするとかなり少ない印象だ。オンショアの中国国債が$14tnだとするとその0.4%しかない。

逆に言うとオンショアCGBが適格担保になればかなりのマーケットインパクトとなる。HKEXなどではオンショアCGBを受け入れることは問題ないだろうが、グローバルCCPがこれをどの程度認めるようになるかに注目が集まる。

中国は昔からオンショアのCGBへのアクセスが難しく、ディーラーがアクセストレードと称してTRSのような形で、CGBや社債などのリターンを提供してきた。一方でオフショアの債券が海外投資家向けに販売されていたが、オンショアとオフショアのベーシスが大きく、この裁定取引で収益を上げる取引をするタイプのトレーダーも多い。

Bond Connectなど、一連の市場開放政策を受けて徐々に市場環境が変わりつつあるが、デリバティブのネッティングも可能になったこともあり、今後はこうした国際化の流れが加速するかもしれない。

中銀に頼った流動性計画が可能になった?

昨日9/26に行われたFRBのBarr副議長のスピーチが興味深い。これまで金融当局は、銀行がストレス時にも自ら資金を確保し、存続できるように計画を立てなければならないというスタンスであった。つまり、銀行の内部流動性ストレステストにおいて、中央銀行に頼ることは許されないという、ある意味当然ともいえる前提となっていた。

また、中銀から流動性供与を受けたとなると、その銀行が危ないのではないかという憶測を呼ぶため、かなり危機的な状況になっても、中銀に助けを求めたくないといういわゆる”Stigma”の問題もあった。しかし、このため破綻してしまっては元も子もないので、FRBは中銀の流動性供給プログラムはどんどん使ってほしいという方向に変化してきた。

米国シリコンバレーバンクが迅速に連銀の資金供与を受けることができずに破綻したことを受け、FRBは普段からこのプログラムにアクセスできるよう、様々な改善をしてきた。今回は銀行が自ら危機時に対応するための流動性を確保すべきと述べてはいるものの、流動性ストレス時のプランに連銀窓口貸付や政府のレポプログラムが使えると断言している。

日本でも、銀行危機が起きたときは、日銀が最後の貸し手として緊急資金供与を行うだろうということは暗黙の了解となっていたと思う。だからこそ最後の貸し手と呼ばれていたはずだ。ただし、日銀に頼ったプランを立てるのはおかしいので、こうした資金にアクセスできないという前提で、流動性ストレス時のプランを立てるのが通常であった。しかし、コロナショック時には、日銀もStigmaを気にせず流動性供給プログラムを使ってほしいというニュアンスのことを述べており、実際にアクセスした銀行も多かった。

ここ2年くらいでこの流れは明らかになりつつあったが、今回はっきりと中銀に頼っても良いということが米国で明らかになったので、その他の国の金融規制にも影響を与えることは間違いない。おそらく日本でも同じような変化が起きてくるのだろう。

スピーチの内容はYouTubeでも見られるが、質疑応答でも確実にStigmaはないと言い切っており、今後は銀行の流動性計画のあり方が大きく変わることになる。最後にSLRについての質問も出ていたが、何も決まっていないというゼロ回答だったのが少し残念だったか、何らかの検討はされているようなので今後のアナウンスに注目したい。

円金利スワップの取引量が急増?

円金利スワップの取引量増加が著しい。JSCCの統計情報を見ると、昨年ほぼ倍に増えた取引量が、今年更に倍近くになるペースで取引されている。2024年については、8月までのペースが続くとしてAnnualizeしてみると以下のようになる。ものすごい伸び率である。Durationではなく元本であり、おそらく短期の取引が伸びていることを考えると、リスク量の伸びはここまでではないだろうが、それでも目を引くグラフである。

マイナス金利政策とYCCの終了によって金利が動く世界になったからという理由もあるが、それにしても不思議なくらいの増加であり、ちょっと実感と合わない。

円金利スワップと言えば、2010年頃は全通貨の金利スワップの6%近くを占めていたのだが、最近は2%程度に減っており、英、オーストラリアの後塵を拝していた。果たしてこれで円金利スワップの復活となるのだろうか。

JSCCで清算された取引だけだと偏るかもしれないので、金融庁の店頭デリバティブ取引情報も見てみる。こちらは日本の決算期である3月末において金融商品取引業者等から報告を受けているデータなので、時期と対象会社が少し異なるが、概ねのトレンドはつかめる。2024年分はまだ公表されていないので2023年までだが、これを見ると、先ほどのグラフほどには2023年も伸びていない。こちらも単位は兆円である。

金商業者等なので、外資系の日本法人は含まれているのだろうが、海外エンティティ経由の取引はおそらく入っていない。また平均取引残高3000億円未満の市場参加者のデータも含まれていない。ただ、金融庁のデータも90%はCCPとの取引なので、ここまで異なるのも違和感がある。そうするとJSCCはクライアントクリアリングが急速に伸びているのだろうか。

確かに2024年は急速に伸びているが、2023年は前年の倍近くにはなっているものの、実際の取引量で見ると100兆円に満たない増加である。

JSCCのデータはAとBの取引を2件としてカウントするだろうが、金融庁の取引情報はこのダブルカウントを除いていたか定かではない。時間のある時に調べてみたい。

2024/10/3追記:JSCCの統計データは片道だったようです。ただし来月11月から変更されるとアナウンスされています。

いずれにしても2023年は円金利スワップの取引量がかなり増加したが、今年は更にその増加が加速しているということは言えそうだ。この動きが続くのかどうか注目していきたい。

レバレッジ比率規制の緩和の議論が進まない

バーゼルendgameの緩和の話が注目を集める一方で、レバレッジ比率の話が出てこない。そもそも、3年前に米国SLRについてコロナ禍の一時的緩和が延長されなかった時には、かなりのマーケットインパクトが予想された。しかし、当局が同時にレビューを行うことを約束し、将来的な恒久的緩和の道を残したことにより、市場の変動を抑えたという印象があった。だが、その後どのような検討が行われているかについての情報が少ない。

そんな中、Bank Policy InstituteがWeb上で問題提起を行っていた。書かれてことは至極もっともな内容で、同意する点が多いので、ここで改めて紹介しておく。

レバレッジ比率は、その定義上、リスクベースの自己資本規制を補完するバックストップとして設計された。つまり、あくまでもバックストップであり、これがBinding Constraintとなってはならない性質のものである。もしこれが最大の制約となれば、ディーラーは米国債のような安全資産のマーケットメークを行うより、リスクの高い債券を売買した方が資本効率が高いこととなる。

おそらく制度設計当初はこれほどの影響があるとは思わなかったのだろうが、財政赤字の増加と金融緩和によって、米国債と連邦準備預金が予想以上に増えたのが第一の誤算である。つまりこの増加分を誰かが保有しなければならないのだが、SLR設計当初はここまで残高が増えることは想定されていなかった。実際に2020年4月にはコロナウィルス拡大によって、SLRの計算から米国債と準備預金を一時的に外したが、これが銀行のマーケットメイク能力を高めたことには疑いの余地がない。

その後、FRBからはSLR緩和のコメントはいくつか出ているが、おそらくFDICやOCCなど、その他の当局との調整がついていないのだろう。

以下の図はリスクベースの資本規制とSLRのどちらの手法で資本余力があるかを比較したものである。CitiとWellsを除けばリスクベースの方が余力が大きくなっている。つまり、SLRの方がBinding Constrantになっているということを示している。

https://bpi.com/wp-content/uploads/2024/07/Figure2_slr.png

こうした制約により米国債市場の流動性が落ちているため、レバレッジ比率規制の修正は不可欠となっている。調整方法としては以下のような方法が紹介されている。

  1. 最低要件の3%は維持したまま、eSLRのバッファである2%を半減させる。
  2. SLRの分母から米国債と準備預金を除く
  3. トレーディング勘定で保有されている米国債を計算から除く
  4. 財務省のリバースレポをSLRから除外する

いずれに選択肢についても、その理由が詳しく説明されているが、確かに既に別のところで資本要件が課されているので、それぞれ緩和できてもおかしくはない。だが、3や4はかなりハードルが高いことが予想される。準備預金については日本を含め除外されているところも多いことから、2の選択肢は比較的検討しやすい。ただ米国債すべてとなると、他の当局が難色を示すかもしれない。

なぜ半分かという理論づけが弱いが、バッファを2%から1%に減らすというのは、意外と進めやすいかもしれない。そもそも日本を含むその他の国は3%の最低要件のみを適用しており、米国だけがバッファを設けている。この辺りはトランプ氏が大統領となった場合には緩和されやすいのかもしれない。

いずれにしても政府債務がこれだけ膨らんで、米国債の流動性が脅かされている中、Basel III Endgameの緩和によってSLRが更に制約になるのは望ましくない。やはりレバレッジ比率はあくまでもバックストップであるべきである。

COVID-19 のパンデミックによる市場の機能不全に対応してFRB が米国債を大量に購入したことに対応するために行われた。現金と国債をSLR の分母から外すことで,FRB は銀行がこれらの資産に対して保有する必要のある資本の額を事実上引き下げ,危機の間,財務省市場と経済を支えるために銀行のバランスシートを自由にした。2021年3月に一時的なSLR 緩和措置が終了した後、FRBはSLRのいくつかの修正 案について近々意見を募集すると表明した[3] が、3年以上経った現在も公開協議は開 始されていない。

DeepL.com(無料版)で翻訳しました。

Basel III Endgameのインパクト

FRBのBarr副議長から、米国Basel III Endgameの緩和についてのアナウンスがあり珍しく日本の新聞でも報道された。大銀行に対する資本負荷の増加が当初の19%から9%に減るだろうとのことで、かなりの譲歩となる。資産規模2500億ドル以下の中堅銀行をバーゼル規制から除外するという内容も含まれている。昨年シリコンバレーバンク破綻後から比べるとかなりのトーンダウンとなった。

修正案の内容は各種メディアで洩れ伝えられてきたが、講演の内容をFRBのウェブサイトで改めて確認すると、かなり興味深いものとなっている。講演の冒頭で、自己資本規制が強化されれば、銀行のコスト増を招き、ひいてはそれが家計、企業、顧客に転嫁されると述べており、米国の一般市民への影響を懸念したような言い方になっている。

資本強化によって、住宅を初購入する人、マイノリティの地域社会、低・中所得の借り手が影響を受けることを懸念するといったコメントもあり、世論を気にした言い回しが目立つ。実際に住宅購入者に配慮した緩和もなされている。

金融業界にとって重要なのは、「市場リスクとデリバティブ」と題したセクションだが、まず内部モデルを使うインセンティブを高めるよう配慮されている点が目を引く。これはリスク管理のレベルを高めるために重要だ。

そしてクライアントクリアリングに対する資本要件を大幅に緩和するとも書かれている。クリアリング顧客向けのCVAが削減され、G-SIBスコアの計算からもクライアントクリアリングの取引が除外されるものと思われる。クライアントクリアリングの未上場企業に対するリスクウェイトも下がりそうだ。これは、信用力が高いものの上場していないファンドやPrivate Equityなどに対する取引に有利に働く。

また、レポの最低ヘアカット導入も欧州同様見送られることとなった。全般的に、言い方は悪いが銀行の完全勝利といった内容だ。しかし、金融危機後に進めてきた規制強化によってCCPでの清算を進めてきたため、清算取引に対する資本賦課を緩和するのは理にかなっている。シリコンバレーバンク破綻後に行き過ぎた規制強化が、数々の議論を経て落ち着くべきところに落ち着いたという感じだ。

ある程度この緩和を予測していたためか、大手銀行がすでに資本増強を見送り始めているとも報じられている。JPMなどは、直近16億ドルの優先株の償還を迎えた後は、1/4以上の資本が減少する。BoAも13%削減、GSやウェルスファーゴなどについてもTier1資本の削減が見込まれる。特に資本規制強化を見越してTier1を積み上げてきた分が必要なくなるので、大手行の経営に余力が生まれROE向上の余地が生まれる。

その割にはこの発言後大手銀行の株価は上がるどころか下がったところを見ると、市場としてはもう少し大胆な緩和を予想していたのかもしれない。しかし、個人的にはこれくらいの緩和が適当だったのではないかという印象だ。足元では第三四半期の業績不安から銀行株が売られたという事情もあるので、ここから銀行株は持ち直す可能性もある。

米国の規制後退を予見して、EUと英国も最終化を先送りにしてきたが、今後はどの程度厳しい規制が入るかというよりは、どこまで緩和されるかという点に焦点が移る。もちろん、ここで大きな市場ショックや銀行危機が発生すれば全く逆回転するだろうが。

金融機関の対応も大きく変わることになるが、海外の場合は人員配置にまで影響が及ぶので混乱が大きい。膨張し続けるリスク管理部門の人員増加に歯止めがかかるかもしれないが、内部モデルを担当していたクオンツの人員削減は止まるかもしれない。金融機関の経営は、市場動向や顧客ニーズというよりは、規制の方向に注意を払うことがより重要になってしまったように思う。

米国ストレステストの結果に対する不服申し立てが初めて認められた

GSがFRBのストレステストで資本増強の必要性が示唆されていたが、その後の不服申し立てを受け、FRBが修正を受け入れることとなった。早速GSからはその旨のアナウンスメントが出されていた。ストレステストの結果が公表された際には、GSはStress Capital Buffer(SCB)の予想外の増加を受けて自社株買いを抑えるとしていたが、これで資本余力が生まれることとなる。SCB自体は6.4%から6.2%に引き下げられたとのことなので、その影響は小さくない。

FRBは、ストレステストの透明性を高める狙いもあり、2020年からこうした申し立てを受け付けるようにしてきた。しかし、これまで9件の申し立てはすべて否認されてきたが、今回は決定が覆る初めてのケースとなる。


当初結果では、重大なストレスのかかった状況で$40bnの損失が出るという計算だったが、GSとしては、すでにリスクを処理していた消費者向け融資部門のグリーンスカイについての追加損失について反論をしたようだ。FRBとしても、処理をほぼ終えていたものに対する損失だったので、反論しにくかったのかもしれない。

通常大手米銀に対して要求されるTier1資本には、4.5%の最低基準額、ストレステストの結果も踏まえた最低2.5%のストレス資本バッファー、そしてグローバルにシステム上重要な銀行に対する追加チャージがかかる。近年はこのSCBとG-SIBにかかる追加チャージが米銀の軽系を大きく左右するようになってきている。

今回の修正によって、GSの最低ティア1資本は13.9%から13.7%へと緩和される。JPMが12.3%、BoAが10.7%、Citiが12.1%であることを考えるとやはり証券系のGSとMS(13.5%)に対する要件が高くなっている。この要件を満たせないとボーナス支払いに対する制限や配当制限がかかるため、その影響は大きい。

配当制限はまだしも、ボーナス制限が大きな問題になるというのが、日本との大きな違いなのだろう。しかしFRBの文書を読むと反論を受けてきちんと検証した形跡が伺われ、当局と銀行が健全な議論を闘わせている様子が伺われる。資本規制の重要性からすると、今後もこうした緊張感のある議論が続いていくのだろう。

米国バーゼルIII Endgameの修正が意味するもの

米国のBasel III最終案について、早ければ今月9月19日にも詳細が明らかになるという報道が相次いでいる。今回は金融業界サイドのロビー活動も、訴訟を含む前例のないレベルで展開されており、資本規制強化はアメリカ一般市民の生活を脅かすとした主張も功を奏したのか、一定の譲歩を引き出せそうな雰囲気になっている。

今回の修正案では、オペレーショナルリスクに関する規定を中心に変更が加えられるとするコメントも紹介されている。ウェルス・マネジメントやクレジットカード業務など、手数料ベースの非金利業務に対して銀行が割り当てなければならない資本の削減が見込まれている。

また、今回の修正は、以前の計画を全面的に書き直すものではないが、G-SIBの市場リスクに関して内部モデルを使える余地を広げるものになると報道されている。依然詳細な内容はわからないが、内部モデルが利用できる範囲が拡がることはリスク管理の進歩のためにも望ましいことである。

というのも、金融危機後の各種規制導入が進むにつれ、金融機関のリスク管理能力が低下しているような気がするからである。特にデリバティブリスクに精通したトップマネジメントが少数派となり、ローン残高や想定元本などのサイズのみを抑えようという動きが強くなってきた。内部モデルで自らがリスクを定義し制御していた頃とは異なり、標準法でリスクが大きいとみなされる取引に注目する傾向がますます強まっている。

こうした昨今のルールの下では、レバレッジ比率やバランスシートの制約が大きいため、単純に想定元本の大きい取引がリスキーとみなされる。単純な例を挙げれば、元本100億円で1%の固定金利と変動金利を交換するスワップと、元本10億円で10%の固定金利と変動金利を交換するスワップは同じキャッシュフローになる。しかし、元本は100億円のスワップの方が10倍大きい。これはあくまでも極端な例だが、いくらでも複雑なフォーミュラのキャッシュフローに変更することは可能である。

またVaRやPFEが実際のリスクを正しく把握してこなかったという声も大きくなっており、特に米国ではVaRからストレステストへと、リスク管理の手法のメインストリームが大きく変化しつつある。VaRやPFEは一定の確率で起きる事象なのだから、それが頻繁に起きたからといってリスク管理の失敗とは言えないと思うのだが、内容もよくわからずにPFEは適切なリスク指標ではないと報じられるケースも増えているようだ。本来であれば、VaRの限界を理解した上で、リスク制御を行えば良いものを、すべてストレステストに変えてしまうと、ストレスシナリオがどんどん極端なものになっていくだけである。

その意味でも、今回の米国のBasel III Endgameがどのように決着するかは極めて重要である。今後数週間の間に出てくる最終案に注目が集まる。

8月に起きた市場変動に対するBISの分析

先月8月5日の市場変動についてのBISの分析ペーパーが出ている。基本的には各種報道されている通り、キャリートレードの巻き返しが主要因としている。株式や各種オプション取引も、急激な市場変動がないということを前提としたストラテジーなので、一旦市場変動が起きると急速にポジション解約が進み、市場変動が増幅される。

しかも、近年は高速取引が増えているほか、市場変動がVMのみならずIM所要額をも引き上げるため、さらに変動が加速する。このペーパーの著者も言っているように、市場が落ち着いているときに巨額のポジションが蓄積され、それが一気に解約されるというリスクが高まっている。

レバレッジのかかったキャリートレードは、8月5日に至るまで相当に大きくなっており、それが一気に解約されているが、最も大きかったが、円ショートのポジションだった。これだけが原因ではないだろうが、結局最も大きく変動したのが日本株だった。きっかけは前の週の日銀の政策変更と米雇用統計だったが、この二つともそれほど大きなトリガーとは言えない。ポジションが大きくなりすぎると、ちょっとしたニュースでも急激な市場変動が起きる。

著者は8月5日までに蓄積された投機的な円キャリートレードのポジションは$14bn程度としているが、実際はデリバティブポジションなども併せて$160bn程度はあったと予想している。このポジション解消の動きの要因として、FX業者による個人投資家のポジション解消を挙げている。つまり、メディアで報道されている分析をデータで実証した形になっている。そして、円やスイスフランといったキャリートレードの常連とされる通貨以外にも、中国元、マレーシアリンギットがFunding通貨として使われていると推測している。

マージンコールによって引き起こされるプロシクリカリティについても言及されており、市場変動によってIMが増えたものとしてJSCCの株式インデックスのIMが60‐80%の増加、国債先物のIMが43%増加した点を挙げている。

全般的にこうした金融市場におけるリスクテイクが高まっている点を著者は懸念している。マーケットが落ち着いた後も、レバレッジを効かせたポジションの一部が急速に再構築されている点も指摘されている。こうした市場変動は金融システムの構造的変化を反映しているとの主張はもっともであるが、さすがに規制強化がこれを引き起こしているまでは書いていないようだ。

キャリートレードは昔から存在しており、日本でも急速な円高が起きないことを前提とした輸入企業の為替ヘッジ(にレバレッジを加えたもの)が原因で、リーマンショック後に多くの中小企業が破綻した。為替取引にレバレッジをかけていなければ今も存続していたと思われる企業も多い。

構造変化により、あの時と同じことがより簡単い起こりやすい状況になっているというのだから、一層注意が必要ということなのだろう。今回の相場でもそうだったが、マーケットはオーバーシュートしやすくなっているため、一時的には思いもよらぬ変動が起きる可能性があり、それが突如巨額のマージンコールを引き起こしてしまう。

為替介入は批判されることも多いが、ここまで市場変動が激しくなってくると、要は株式市場のサーキットブレーカーと同じようなものなのだから、頻繁に行われない限り、もう少し正当化されても良いのかもしれない。

Basel III Endgameが大幅緩和される?

英国局は、米国での規制の状況を見極めるため、銀行資本改革を少なくとも2016年1月まで延期する予定だと報じられた。先にEUが同様の延期を発表しているため特に驚きではないが、金融業界で注目を集めてきたバーゼル3エンドゲームの延期が確実になってきた。Until at least Jan 2026と報じられていることから、さらなる延期の可能性もあるかもしれない。

直接には、英国総選挙の公示によって規制当局が動けない期間ができるため、金融機関に1年の準備期間を与えるためには延期がやむなしという結論に至ったとされている。

これとは別に、英国では再来週の9月12日に、バーゼル3.1の2度目の改訂版を公表する予定とのことである。これがほぼ最終版に近いものになると予想されている。ちなみにバーゼル3.1は英国におけるバーゼル3最終案のことを指す。おそらく3.1という呼び方を使っているのは英国だけではないだろうか。

英国、EU、米国によって、実施スケジュールは何度も延期されてきた。イングランド銀行は昨年、米国が発表した2025年6月のスケジュールに合わせてスケジュールを変更した。米国では、当初バーゼル案よりも厳しい規制を課すとして激しい論争が巻き起こり、今年初めにパウエル議長が見直しに言及したところだ。あまりに厳しい規制のため当局を相手取った訴訟を起こすとした銀行まである。

政治家も、これまでは銀行を厳しく締め付ければ人気が出たということもあり、規制強化を訴える議員が多かったが、ここへ来て逆の動きも見え始めている。米国の驚くべきところは、メディアをロビー活動に活発に使うという点である。日本のテレビでバーゼル3を廃止せよなどというCMを見ることはないが、米国では政治的なCMや業界のロビー活動に関連したCMをよく見かける。

以下の動画などは、バーゼル3によって一般市民が買うものの価格が上がる、家が買えなくなる、子供を進学させる、退職後の生活が厳しくなるなどと訴えている。日本では考えられないCMだ。

このようなCMはこれだけでなく、検索すればほかにも似たようなCMが見つかる。一般大衆に訴えかけるCMまで出てきたということは、Basel IIIがかなり骨抜きになる可能性が出てきたということなのだろうか。

こうした米国の動きを察知したEUも既にバーゼル3最終化を延期し、今回英国がこれに加わる。

それだけ資本コストが世界の金融機関の収益性にインパクトを与える重要な要素ということになる(日本はすでに3月に導入してしまったが)。東証のPBR改善要請もあったことから、今後は資本効率を重視した経営が重要になってくるが、そうなると日本でも資本コストに対する見方も変わってくるかもしれない。

AI時代の取引執行コスト

引越し、車や不動産の売買その他あらゆるサービスで相見積もりを取るのが一般的だが、金融取引でもこれはある程度同じである。しかし、だからといって自分の行いたい取引を数多くのディーラーに聞きに行くと、マーケットを動かしてしまうというのが大きな違いである。

引越し業者10社に聞いたとしても、引越し業界全体の引越代が上がるということはないが、金融取引の場合は、逆効果になることがある。したがって、流動性が低くサイズの大きい取引は、1社でExclusiveに行ったり、せいぜい2~3社に絞って取引をすることが多い。取引を受けるディーラーサイドも、他に情報が漏れない方がマーケットインパクトが少ないので、Agressiveにプライスを出せる。

引越しで多くの業者の見積もりを一括で取ることがあるように、電子取引だと多くのディーラーに情報が流れていくことがある。為替や株式などでは、これを避けるためにサイズをスライシングして小分け注文にすることも多い。金利スワップやJGBの場合は、ボイスで取引をすることになる。だが、これもテクノロジーの進歩によって将来的には解決される問題だろう。

特に為替取引においては、取引をスライスせずに一括でフルサイズの取引を行うケースが増えてきており、CBOEでは全体の1/3、360tでは7割がフルサイズオーダーになっているとも報じられている。確かに株式取引などを海外で行う時も、オーダーは一回で出したものが、時間差で色々な価格で執行されていき、最終的には一つの平均価格でまとめて報告されてくることがあるが、これも似たようなものなのだろう。

当然どのような取引が収益性が高いかといった分析は簡単に行えるので、それに応じて営業職員、そして顧客すら評価することは可能だろうし、AIの利用が本格化する中、こうしたことを実際にやっているところも多くなっているものと予想される。また先日8月5日のようにマーケットが一方向に動いているときは、逆張りのフローなどは、非常に助かる取引なので、Agressiveに取りたい取引となる。つまり、ヘッジファンドやFX証拠金業者のように、市場の流れに従ってパニック売りをするようなフローは、ディーラーとしても難しい取引となり、実需に基づいた取引は、ありがたい取引ということになる。

難しいのは、最初の取引を執行した後、同じ取引をほかのディーラーで執行されるというものだろう。例えば、あるディーラーが顧客から円を買った後に、さらにその顧客が断続的に円を売り続けたら、円がさらに弱くなって最初に買った円から損失が発生するということになる。もちろん、為替の流動性から考えるとこのようなことは稀かもしれないが、流動性の低い商品、あるいはサイズの大きな取引だとこうしたことが起きても不思議ではない。

これを防ぐために取引プラットフォームでは、最初のオーダーから次のオーダーまで、ディーラーに若干の時間を与えるような仕組みを導入しているところもあるようだ。これをグレーアウトピリオドというらしい。

こうしたマーケットインパクトを予測することによって、顧客サイドはベストプライスを得ることができるようになるし、ディーラーサイドも顧客に良いプライスを提供できるようになる。あるいはプラットフォーム側でマーケットインパクトを減らすような仕組みを導入することも可能だろう。いずれにしても、金融取引の執行方法というのは、今後こうした側面を考慮しながら進化していくのだろう。順番としては、流動性の高い株式や為替で起きたことが、国債や社債、デリバティブ取引に波及していくことになるのだろう。

日本国債市場の電子化は進むか

米国債のT+1化、清算集中規制への動きなど、米国債をめぐる環境は大きく変わりつつある。もし日本で同じような国債のクリアリングが義務付けられれば、オペレーション面での懸念がクローズアップされそうなものだが、取引の2/3が電子で取引されている米国債市場では、比較的スムーズに移行できるのかもしれない。

日本で清算集中義務を課すことになれば、電話で注文を出しているボイスの取引を即座にクリアリングにつなぐなどの処理が必要になるが、その前段階の準備として、やはり電子取引への移行が必要になってくると思われる。

JSDAのデータを見ると、日銀の政策変更もあり、ここ数年の取引量は大きく伸びている。特に海外からの取引の伸びが著しい。海外ファンドなどは電子取引に慣れているので、海外のフローが増えると、電子取引の割合も増えてくる。

Risk.netの3月の記事では、Dealer to Clientの電子取引の取引数シェアは2020年の30%から60%にまで伸びているのではないかという市場参加者のコメントが紹介されていた。JSDAのデータと電子取引プラットフォーム3社(Tradeweb、Bloomberg、Yensai.com)のデータから推計したとのことである。ここで注意が必要なのは、これが取引のシェアということである。つまり小規模な取引が電子で、サイズの大きい取引がボイスで行われる現状では、当然このような結果になる。では取引のシェアでみると20%に満たない。それでも2020年の12%から18%に伸びているとのことである。

これは今に始まったことではないが、日本ではサイズの大きな取引は電子ではなくボイスで行う慣行が強く残っている。ディーラーサイドでも、1チケット1億円を下回るような小口取引をボイスでマニュアル対応するのは困難だが、数百億円を超えるような大口取引であれば、ボイスで対応しても問題ない、あるいはボイスで取引したいというニーズがあるものと思われる。大口の取引がコンペにかけられるとマーケットを動かしてしまう可能性もあるからだ。

特に日本の大手銀行や生保のフローはサイズが大きいものが多いので、これらが電子にすぐに移行することはなさそうである。しかし、海外のフローの中にはそれなりのサイズのものも含まれており、こうした取引が電子で取引されるようになれば、JGBの流動性も上がってくることになる。特に最近の海外フローの増加を見ていると、これが日本で電子のシェアが上がるきっかけになるかしれない。

ただし、米国並みの電子化を進めるには、規制面からのPushが必要な気する。なぜなら、国内の大手金融機関や生保が積極的に電子に移行するインセンティブがあまり見いだせないからである。電話で交渉してマーケットの情報を受け取ったり、各種サービスを受けながら取引する方が、取引担当者も安心だろう。ディーラーサイドも、いくらブッキングをマニュアルで行わなくてはならなくても、大口の注文はボイスで受ける方を好む気がする。

米国では、デリバティブ取引もそうだが、清算集中規制のほかにSEFの利用を義務付け、ほぼリアルタイムの取引報告を義務化している。取引を手作業でさばいていてはこうした報告に間に合わないため、否が応でもシステム投資を進めなければならなかった。日本にはETPの規制はあるものの、リアルタイムレポーティングの規制はなく、SEFのようなプラットフォームを使わなければならないという厳しい規制がない。

米国では、もちろん取引の公平性と透明性を高めるという目的のもとでこうした規制が作られたのだろうが、裏には複雑化する金融の変化に対応するため、人手を介した作業を極力排除し、金融機関にシステム投資を促すためという目的があったとするのは勘繰りすぎだろうか。

いずれにしても結果的に米銀のシステム投資は大きくなり、取引処理の自動化やシステム化が世界一進むことになった。これにAIを使った処理が加わったことで、ますます米国の優位性が高まっているようにも思える。日本でも、DX投資促進税制などが導入されているが、金融システム投資に対する税制優遇など、日本の金融機関が競争力を高められるような仕組みを作れないものだろうか。

キャリートレードとは

今回の8/5に起きた株式市場の暴落後、キャリートレードが打撃を受け、そのアンワインドが市場の動きを加速させたという記事が目立った。その後市場が回復すると、今度はヘッジファンドが円キャリートレードを復活させたという記事も出ている。

報道の中では、今回キャリートレードの60%とか75%が解消されたといったニュースも出ている。といってもどのくらいのキャリートレードが行われているかを示すデータはなく、唯一頼りにされているのがCFTCの為替先物のポジションとなっている。60%とか75%というのは、たいていこのCFTCのデータをもとに判断しているものと思われる。

ではキャリートレードとは何かというと、「低金利の通貨で調達した資金を高金利の通貨に換えて資産運用し、運用益に加えて金利の利ザヤを稼ぐ取引のこと。」といった説明が一般的である。例えば円で調達してドルの資産を買うといった行動になる。この説明だと、キャリートレードを解消するには、ドル資産を売って得たドルを円に交換し返却するというイメージとなる。

キャリーを稼ぐというのは現場でも良く使われる用語だが、何かの資産を保有することによって日々お金が入ってくる取引を指す言葉として使われる。社債を保有してクーポンが入ってくる取引が代表例だ。先ほどの定義に照らせば、為替スポット取引で円を売ってドルを買い、そのドルで米国債を買うような取引がキャリートレードの例となる。

実際にこうした取引もあるのだが、一般的に言われるキャリートレードとは、おそらく単に円を売ってドルを買うという為替取引を指していることが多い。ミセスワタナベと言われる日本の個人投資家が円を売ってドルを買う取引もキャリートレードで、単純にこの為替のポジションが解消されたと考える方がしっくりくる。個人投資家がFXでドルを買えば、スワップポイントが稼げるので、これがキャリー稼ぎになる。逆にこれを解消して円を買いにくれば、それがキャリートレードの解消となる。ヘッジファンドであれば、為替の先物やフォワード取引で円を売る取引を解消する取引だ。

したがって、円キャリートレードの解消といっても、単に円安に賭けていた取引が解消されただけということになる。特に円を売って高金利通貨であるメキシコペソやトルコリラを買うという取引が大きく影響を受ける。経済理論に従えば、ペソやリラは減価するので、ただで稼げるものはないはずなのだが、実際にはこのキャリートレードで収益を上げる投資家は多い。

そしてこのキャリートレードが為替レートの変動につながっている。しかも、市場変動によってパニックになった投資家がキャリートレードを一気に解消したり、追証によってポジション解消を余儀なくされたりするので、一般的には円高の方がスピードが速くなることが多い。為替介入時には、投機的な動きに対しては断固として対処するという声明が出される。たいていは海外ヘッジファンドを想定しているように思えるが、日本の個人投資家のFXのポジションも、一定程度の影響力を持っているのだろう。

Eurexが清算基金を15%引き上げ

EurexがDefault Fund Operational Bufferというものを9月から導入することとなったが、あまり好意的に受け入れられていないようだ。

先月7月9日に公表されたESMAのCCPに対するストレステストにおいて、Eurexの集中リスクやマーケットストレスに対する備えが十分でないという結果を受けての変更かと思われる。Eurexとしては、当局の指摘に迅速に応えたということなのだろうが、やはり拙速に対応した感は否めず、負担増の不公平感を問題視するディーラーからの反応が良くない。

集中度合いの高いポートフォリオの清算コストに対しては、以下のような不足額がESMAによって指摘されている。

ICE Clear Europe €3bn
Eurex €2bn
European Commodity Clearing €1.2bn
Euronext Clearing €0.4bn

ほかにもプロダクト別の不足額も詳細に示されており、CCPのリスク管理を見るには非常に有用なレポートとなっている。おそらくEurexはこのレポートで指摘された不足に対応するために、比較的容易に導入可能な清算基金の引き上げ(15%Up)に踏み切ったのだろう。

CCPのデフォルトマネジメントにおいては、当初証拠金(IM)と清算基金(DFまたはGF)のバランスが重要となる。特にクライアントクリアリングの顧客としては、清算基金が増えても何ら変化は生じない。CCPの仕組み上、清算基金はディーラーが拠出することになっているからだ。一方IMを増やすと顧客の拠出担保が増えるため、ディーラーにとっては影響が生じない。

したがって、DFの上昇はディーラーに不利、IMの上昇は顧客に不利(?)ということになる。ここで?を付けたのは、顧客がリスクを増やした分担保が増えるので、本当に不利と言えるかどうかは疑わしいためだ。本来自己責任原則を貫けば、リスクを増やした参加者が負担を増やすべきというのが正しい。

ではDFが増加したらその分を顧客に請求すれば良いのではないかと思われるかもしれないが、通常ディーラーは、このDFを負担する代わりにそれを手数料として請求する。手数料を上げるのは、競争上の理由から困難が伴うため、今回のような変更は単純にディーラーのリスク増、と収益源につながる。

どちらが正しいとも言えない問題なのかもしれないが、リスクの自己責任原則からすると、やはり集中リスクを加味するようIMモデルを変更する、あるいはIMのConcentration Chargeの計算を見直すというのが王道ではなかったのだろうか。

米国におけるクロスマージンの拡大

Getting to Grips with Treasury Clearingという題名で、ISDAから米国債のCCPでの清算集中規制に関して見解が示されている。一例として、FICCとCMEが米国債と金利先物で提供しているようなクロスマージンが米国の資本規制上認められていないことを問題視している。確かに実際にリスクがある程度相殺されているのだから、その効果を認めないとクロスマージンのインセンティブが削がれる。

来年末から米国債の現物が、再来年6月からレポに対してCCPでの清算義務されるようになっていく中、クロスマージンが資本削減につながらないと、銀行のバランスシート制約によって、十分な流動性が提供できるかどうかが怪しくなってくる。

また、FICCとCMEはクロスマージン制度を顧客向け取引にも拡大する予定と一部のメディアで報じられた。CMEがFCM登録されたディーラーを介して顧客取引をクリアするFCMモデルを使っているのに対し、FICCはFCMモデルとは異なるディーラーの関与度が少ないモデルを使っているため、このクロスマージンがどのようにワークするのかは明らかになっていない。そもそもCMEは自分で米国債クリアリングに参入するという話もあったので、このクロスマージンを行うことによって、そのプランをあきらめることになるのかにも注目が集まる。いずれにしてもクロスマージンの対象を拡げ、当初証拠金のみならず資本のベネフィットを与えることは、清算集中規制導入を控えて不可欠になってくると思われる。

また、バーゼルⅢ EndgameやG-SIBサーチャージについても、CVAに関する一部ルール変更やG-SIBの複雑性と相互関連性スコアの調整も主張している。ほかにもSLRのようなリスクセンシティブではない指標がディーラーのマーケットメークを阻害している点も挙げられており、いずれも市場機能の回復には極めて重要な指摘だと思われる。

米国には、金融デリバティブ、クリアリングなどのあらゆる問題を取り扱うGMACという会議体があり、当局も積極的に関与している。GMACでの議論の内容は、Yutubeでも公開されている。また、ISDA、SIFMA、FIAがそれぞれ専任の職員を雇用して、こうしたロビー活動にあたっている。日本にも国債取引に関しては、様々な会議体があるが、デリバティブとなるとLIBOR改革時の委員会以外にはあまり目立ったものはない。日本でもGMACのような開かれた場での議論があっても良いのではないだろうか。

エンドユーザー同士のレポ

担保ニーズの高まりにより、エンドユーザー同士でレポ取引や株券貸借取引を行うPeer-to-Peer(P2P)サービスが脚光を浴び始めているという記事があった。IMには現金以外も使えるが、VMは通常現金に限定されているため、大きな市場変動時に資産を現金化して担保コールに応えるという行動が、市場の変動をさらに加速させてしまうことが問題になっている。

担保用の現金確保には、手持ちの資産を担保にした短期借入が有効である。また、銀行借入に加えて、レポ取引や株券貸借取引が一般的に行われてきたが、規制強化によって銀行がこうした取引を行うことが困難になった。これが市場の変動をさらに大きくしているが、これぞまさに規制のunintended consequenceといえよう。

それでは銀行を通さずにバイサイド同士でレボやストックローンを行おうではないかということで、冒頭のP2Pの話につながってきた。今後は、バイサイドの多くも対象となる米国債レボの清算集中規制導入を控えて重要課題になっている。

バイサイド同士の証券貸借取引に関しては、2014年から、米国およびカナダの有力根金ファンドが定期的に集まってSecurities Financingについて議論を重ねてきた。2020年には有力バイサイド35社が非営利団体であるGPFA(Global Peer Financing Association)を設立した。設立メンバーはCalPERSなどの大手米国年金ファンドが中心になっているが、Webにある地図を見ると日本のメンバーも入っているように見える。

P2Pになると、バイサイド同士がGMRAなどのマスター契約を締結し、お互いに取引をすることとなるが、ダイレクトに無格付けの相手方の信用リスクをとることになるので、カウンターパーティーリスクの管理が必要となる。

2022年にステートストリートが立ち上げたVenturiでは、ステートストリートがCCPのようにカウンターパーティーリスクの保証を行うので、バイサイド同士が取引相手のリスクを気にすることなく取引ができる。つまり、参加者はステートストリートにてフェースすることになり、相手方のバイサイドのカウンターパーティーリスクを負わない。また、担保の時価評価、取引報告や担保管理サービスも一体になっている。

先日紹介したFSBのレポートでも、バイサイドに対して担保拠出のための流動性確保を課題として挙げているが、P2Pを含め、あらゆる流動性確保の手段を準備しておくことが重要になる。

大手バイサイドの中には銀行並みのシステム、オペレーション機能を持つところがあるため、P2Pのハードルはそれほど大きくないだろうが、すべてを銀行に頼ってきた中小ファンドにとっては、Venturiのようなサービスは極めて有効だろう。タクシー会社を介することなく、ユーザー同士がつながるライドシェアや、ホテルや不動産会社を介さずユーザー同士をつなぐAirbnbなどと同じようなことが、金融業界にも起きているということなのかもしれない。

残念ながら、GPFAやVenturiがどの程度の取引を行っているかは定かではないが、まさに現代のニーズに合ったサービスかと思う。日本でも地銀が持っているJGBを海外ファンドに貸し出すといった需要は極めて大きいものと思われる。地銀がヘッジファンドのカウンターパーティーリスクをとるのは難しいが、CCPやVenturiのようなプラットフォームを挟めば、ビジネスとして成り立つかもしれない。

ここまで規制が強化された金融においては、無駄をなくす努力、リソースの最適化が非常に重要になってくる。日本でこうしたサービスを生み出そうという動きがないのが残念だが、今後の重要課題の一つだろう。

リスク管理業務に起きている変化

4月にLloyds Bankがリスク管理部門の人員削減を行ったことが大きく報道され話題になった。FTの記事(Lloyds Bank axes risk staff after executives complain they are a ‘blocker’)のタイトルからわかるように、リスク管理部門がビジネスのBlocker、つまりビジネスを妨げているという苦情があったからという、金融ではよくある話だ。

こんなニュースが出ると米国などでは当局から睨まれそうなものだが、実際の中身を見てみると、Non Financial Riskが重要とコメントしていたり、あらなたにリスク管理の仕事を130新設していたりと、完全に減らすというよりは人員配置の見直しに近い。

このニュースを受けてRisk.netではほかの会社にもヒアリングをしていたようだ。20社にヒアリングをして少なくとも4社が似たようなことを検討していると報じている。人が増えれば重要度も増すというコンセプトのもと、2線のリスク管理部門がEmpire Buidlingのため、人員増強を図ってきたと証言するコメントも見られる。

だが、Lloydsの記事にもあるように、重要なリスクの性質が変わってきたというのが他の銀行でも確認されている。やはり、サイバーリスク、データ管理、外注先のリスク管理など、Non Financial Riskの対象範囲が広がってきている。

Financial Riskだと3線管理はほぼ定着していると思うが、Non Financial Riskの3線管理となると、銀行によってやり方がずいぶん異なるようだ。そもそもNon Financial Riskのスキルはマーケットリスクやカウンターパーティーリスク管理とは異なり、あまり専門家というのが存在していない。法務コンプライアンス部門や、オペレーションなどから人をフロントに移して対応していることが多いようだ。

日本の銀行では1.5線という言葉が使われることが多かったが、海外でも1.5 lineというコンセプトが生まれつつある。特に新しい分野のリスクについては、既存の2線の部門に完全にフィットするところがなく、フロントで様々なリスクを日々管理する方向になっていることが多いようだ。2線は、リーガルコンプライアンス、IT、オペレーションなどと担当が厳密に分かれているが、データ漏洩のリスクはITなのかコンプライアンスなのかといった議論にもなるので、フロントですべてのNon Financial Riskをカバーした方が話が早いのかもしれない。

こうしたリスクに関しては、日本の銀行の方が対応に長けているのかもしれない。海外ではリスク管理者についても専門性が重視され、市場リスク管理の専門家はずっと市場リスク管理を担当することが多い。日本では、様々な部署を経験することが多く、例えばサイバーリスクがフォーカスになれば、新しいチームを作って担当を付けることも容易である。

特に新しい分野で専門家が存在しないようなリスク管理業務に関しては、適切な人員を選びチームを作って稼働させることが簡単にできる。また、海外でよくあるEmpire Buildingというのが日本では起きにくい。人事部が適切な人員配置を検討するので、誰かひとりが人を増やしてパワーバランスを変えるのは困難である。

以前はNemawashi文化、判断が遅いと批判されたが、今や規制強化によってグローバルバンクでも根回しは必須になっている。誰もApproveと言いたくないので判断も遅くなった。こうなってくると実は日本の金融にもチャンスがあるのかもしれない。

通貨スワップのIM

証拠金規制導入時に、為替取引までIMを拠出するのは困難という抵抗を受け、スポットFXとフォワード為替取引がIMの対象外となった。そこまでは良かったのだが、それなら通貨スワップも同じようなものではないかということで、元本交換部分のみを計算から除くことで落ち着いた。証拠金規制は、導入から年数が経ち、すっかり事務フローとしても確立したのだが、今となってみると、同じ取引のうち一部だけを除くというのは、極めて無理なプロセスに思える。

これによって、証拠金計算のみならず、ポートフォリオの最適化や資本計算等の障害にもなっている。特に通貨スワップには、CSAの通貨による割引率の違いやMTM条項の有無、ブッキングの方法、ベースカレンシーの違いなど様々な問題がある。

MTM条項とは、四半期ごとに為替の動きに対応して元本をリセットするものである。ブッキングの問題とは、例えばEURJPYの通貨スワップをそのまま一つの取引としてブックするか、USDJPYとEURUSDに分けてブックするかという問題である。ベースカレンシー問題は、現状のようにドル金利が高い状況では、ドルで計算する米銀にとって、ドルクーポンの為替リスクはないが、円をベースとする邦銀の場合はこれが大きくなるという問題である。また米銀にとっては、USDJPYのMTM通貨スワップより、EURJPYのMTM通貨スワップの方がIMが大きくなる。

こうした手間を省くため、いくつかの為替フォワードに分解すれば、証拠金規制のIM計算の対象外にすることもできてしまう。

MTM条項付のスワップに関しては、ISDAからガイドラインが出ている。MTM条項がついているということは、四半期ごとに元本がリセットされるため、元本が変更になった分について四半期ごとに支払いが起きる。これはある意味元本交換のようなものなのだから、IMの計算の対象外ではないかと思う人もいるが、これは間違いである。

つまり、取引時点で確定している元本交換についてはSIMMの計算から除くことができるが、その時点では確定していない、フォワードからImplyされるようなキャッシュフローは、IMの計算に含むということである。もっと厳密にいうと、リセットしたばかりの次の支払額はFixされているのでSIMMの計算から除き、それ以降のまだFixされていないものはSIMMの計算に入れるということになる。

規制上の定義では、any risks or risk factors associated with the foreign exchange transactions associated with the fixed exchange of principal embedded in a cross-currency swapにはIMが必要とされている。ここでいうfixedは取引時点で固まっているキャッシュフローを指すという理解であり、その時点でfixされていない将来の支払いは除くことができないというロジックである。

通常債券発行時に事業会社などと行う通貨スワップは、固定vs固定のNon MTMのスワップになることが多い。ディーラーとしては、四半期ごとのリセットがないため、スワップのエクスポージャーが大きくなり、その分バランスシートや資本を使うことになる。このため、ディーラーは標準的な変動vs変動のMTM条項付のスワップを好む。コンプレッションなどの効率も高くなる。だが、このSIMMのガイドラインに従えば、マーケット標準のMTM条項付の変動vs変動の通貨スワップの方がIM負担が大きくなってしまうのである。

例えば、事業会社との通貨スワップのコストを抑えるために、最適化を行いマーケットスタンダードの変動vs変動のMTM条項付スワップを反対方向で入れると、IMが逆に増えるということになってしまい、為替のリスクは大きく軽減されるにもかかわらず、Optimizationなどしない方が良いということになる。実質的なリスクは減るのに、元本交換がSIMMから除かれているがために、IMが増えてしまうのである。

昨今では証拠金削減、資本コスト削減のためにあらゆる最適化取引が検討され、金融機関のバランスシートコストやポートフォリオとしてのリスクを小さくするような努力が行われているが、元本交換を除いてしまったがために、IM計算がリスク削減を反映しなくなってしまっているのである。そしてこの差を利用すれば、リスクが増えるがIMが減ることが起きてしまうのである。

通常の為替でも、NDFだとIMがかかるが、現物決済の為替フォワードにしてしまえば、IMはゼロになってしまう。現物決済の方が決済リスクがあるのでリスクは大きいはずなのだが、NDFだけ不当にコスト高になっているといっても過言ではない。

以前は、CCPで決済リスクを取るのは困難ということだったのだが、実際は現物やレポ、そして一部のCCPでは為替取引や通貨スワップもクリアリングするようになってきている。このような状況の中、清算集中規制もIM規制もかからないから楽だという理由で、為替取引が極端に増えるのはあまり健全とは言えない。大きな事故が起きる前に、為替取引についても清算集中やIMの規制をかけるべきなのではないだろうか。これは、VMすら取らない無担保為替取引の多い日本では特に重要な課題である。

極端な事情変動に備えて現金担保を無尽蔵に積んでおくのは正しいか?

FSBからマージンコールにまつわる流動性問題についてのペーパーが出ているが、ストレステストを行い十分な流動性を確保すべきという、当たり前の提案にとどまっている。結局は極端な市場変動に備えて十分な現金を保有しておくべきというものだが、ある意味当たり前のことであり、問題解決にはつながらない。

規制強化によって、ディーラーが市場変動時にリスクを取ることができず、バランスシート制約によって在庫を抱えられなくなっているので、市場の変動が以前にもまして大きくなっている。それはどんな状況にも対応できるほど膨大な現金を準備しておければ良いが、それでは非効率極まりなく、年金ファンドなどは、十分なリターンが出せなくなる。

一方で現金以外の担保をVMにも使えるようにすべきという市場参加者のの意見がRisk.netで紹介されていた。記事の中ではMarket Participantsの意見とされていたが、おそらくこれはバイサイドからの意見だろう。セルサイドは、現金以外の担保を受け取ってしまうとそれを他の担保に使うことができないので、デリバティブのプライシングが変わってしまう。当然不可能なことではなく、実際に相対取引で現金以外をVMとして受け入れるケースもあるが、XVAデスクが価格調整をしてリザーブを積むのが一般的だ。割引率も変わってしまうのでデリバティブ取引の時価評価まで変わってしまう。

本来であれば、バイサイドが保有する資産をレポによって現金化すれば、この問題は解決する。しかし、レポを行う資本コストやバランスシートコストが膨大になってしまったので、これをすべての顧客に提供するほどの余裕は銀行にはない。だが、バイサイドからすると、銀行規制の強化によってバイサイドが不利益を被るのはおかしいという主張なのだが、現実的には昨今の規制コストを考えるとレポ業務を縮小せざるを得ない。

バランスシート規制を緩めてレポ取引のコストを下げれば、現在起きているかなりの問題が解決するだろうが、規制緩和は政治的に難しいだろう。

何か解決策がないか色々と考えていたのだが、急激な市場変動時にのみ現金以外の担保をVMとして認めるというのはどうだろう。これだとプロシクリカリティも防げる。あまりにも想定外の市場変動があった時のみ、例えば1週間だけといった形で、こうした担保をVMに拠出できれば、ある程度の混乱は防げるのではないか。

VMとして受け取ると、割引率が変わり時価評価も変わってしまうというのなら、一時的にIMとして受け入れて、落ち着いてからVMに振り替えるというのはどうだろう。特に、毎日のマージンコールに加えて、日中のマージンコールをする場合などは、一旦IMとして受け入れて後にVMに変えればプライシングへの影響は軽微になるはずだ。

よく考えると週次のマージンコールの契約もあるが、VMが現金であれば、日次マージンコールと同じように時価評価が行われている。MPORが長くなるので、その分XVAや資本コストが少し上がっているかもしれないが、週次でOISディスカウントができるのなら、一時的に非現金担保をIMとして受け入れて1週間後に現金をVMとして拠出するくらいなら許容されるのではないか。

ただし、そうは言っても1か月も非現金をVMに受け入れることはできないだろうからせいぜい1週間だろう。ただ、急に現金がなくて破綻するよりは、とりあえず持っている資産を担保に出して時間を稼いでおき、数日から1週間の間に現金を工面する、そしてその間にマーケットが落ち着いていれば、その現金も必要なくなるという仕組は作れないだろうか。

CCPであれば、日中マージンコールが顧客にかかった場合は、クリアリングブローカーが証拠金を短期的に建て替えることがある。この場合、ディーラーサイドでは、まずとれるものを取っておいて、現金を建て替えるというケースはあると思われる。

または、CCPの方でレポを行い国債を受け入れて現金に換えてVMに充てるというプログラムを作っても良い。単なるレポだと難しいが、ヘアカットを多めにとって、例えば50の現金のために100の社債を拠出するといったプログラムだけでも、現金のひっ迫を抑えることができる。

いずれにしても、ここまで市場変動が大きくなってくると、すべてのシナリオに備えて膨大な現金を積んでおくのには限界があると思う。規制緩和が無理ならば、むやみに極端なシナリオに対して膨大な現金を常日頃から持っておくことを要求するだけでなく、何らかの対応策を考えておくことが必要だと強く思う。

ISDA Document Negotiation Survey

ISDAから契約交渉に関するサーベイが公表された。デリバティブ取引の基本契約としては完全に市民権を得たISDAマスター契約であるが、その交渉にかかる時間は思ったより短縮化されていないようだ。証拠金規制でIM拠出が義務付けられ、カストディアン契約等新たな契約が増えたという事情もあるが、それでもここまで標準化されてきたのだから、もう少し迅速に契約締結が可能かと思っていた。

おそらく規制強化と人員不足という理由もあるのだろう。また、自動化やシステム化のための予算がつけにくいという事情も関係しているかと思う。契約交渉のために積極的に人員とコストをかけるところは多くないのは事実である。

契約の中身についてみていくと、ISDAのVersionには1992年版と2002年版があるが、未だに1992年版が半数近く残っているのは驚きだ。各種猶予期間やクローズアウトのやり方などを改善した2002年版を使うべきなのだが、やはり既存のISDAの書き換えはあまり進んでいないようだ。以下が契約のバージョンごとのシェアである。一部1992年版にアドホックに改善を加えるケースもあるが、それでもたったの7%である。

56% 2002年版ISDA
39% 1992年版ISDA
7% 修正1992年版ISDA

実際にデフォルトが起きた時や、ロシアの経済制裁時などは、2002年版の方が実際には有利だった。とはいえ、やはり普段から問題なく取引ができているのだから、わざわざ面倒な契約交渉をしたくないという事情もあるので、本来であれば、新しいバージョンができたときは、一斉に変更するような仕組みが必要なのかもしれない。ISDAのプロトコルに批准することによって一斉に契約の更新を実現することは一般的なので、ISDAのバージョンについても同じことはできないのだろうか。

その他、ISDA Createなど、システム的に契約交渉を行うツールが用意されているにもかかわらず、実際に使っている人は少ないようだ。驚きなのは、80%以上のケースで、メールやWordファイルのやり取りで契約交渉を行っており、20年前からほとんど進歩していない。

契約にかかる時間であるが、半数近くが3か月以上という結果になっている。これは以前からほとんど変化しておらず、2006年との比較では若干悪化してさえいる。1年以上かかるものもあるが、ここまできたら、優先順位が低く何もしないで放っておいている状況に近いものと思われる。

本来であれば、契約に必要な重点交渉項目だけを選択することによって自動的に契約書を作成し、それを当事者間で合意できれば望ましい。そうすれば各種契約項目のデータベース化も容易にできる。そもそもISDAマスターの場合は、ローンのように銀行が一方的に与信供与をする訳ではなく、両当事者ともに与信を供与する側になりうる。このため、できるだけ両当事者に同じ条件が適用できるようにするのが望ましい。片方が信用力に極端に劣る時のみ解約条項、保証、各種トリガーを交渉する必要があるが、それ以外は標準的な条項を双方が適用すれば、本来はそれほど時間がかからないはずだ。

そしてこうした条件だけが合意できたら、あとはAIで自動的に契約を作成すればよい。細かい表現を読み込む必要性がなくなれば、英語の問題も少なくなるはずだ。こうした契約のAI化は、日本にとっても非常にメリットが大きいものと思われるので、何とか進化させたいところだ。