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JSCCのクライアントクリアリングに変化?

JSCCの統計情報を見ていて気付いたのだが、最近金利スワップにおいて、クライアントクリアリング経由の取引シェアが上がってきている。2019年からクリアリングされたスワップの想定元本の全体に対する割合を見ると以下のようになっている。

以前は一桁台後半でたまに10%に届くくらいだったのだが、今年に入って軒並み10%を超えている。直近はついに16%を超えるまでになっている。

これまで日本の金利スワップ市場は、ディーラー間取引はJSCCが9割、クライアント取引はLCHが9割という、世界にもまれにみるいびつな構造になっていた。これは米国当局が米国参加者のJSCC参加を認めてないのと、日本の当局が日本の参加者のLCH参加を認めていないという特殊事情から来ていた。

このため、日本ではCCP間の金利差であるCCPベーシスが乱高下しやすいという特殊なマーケットとなっている。もともと流動性がドルなどに劣るところに、こうした市場分断が存在しているので、さらなる流動性低下を招いている。欧州などでは、Brexit後もLCHが欧州クライアント向け業務を継続しており、様々な議論はあるものの、これを禁じてしまおうというところまでは行っていない。

その意味では、JSCCに参加するクライアントが増えてきているということは、このアンバランスを一時的に解消する方向に働くのかもしれない。

日銀の政策変更以降スワップの取引量が急増しているが、JSCCの統計からも明らかなように、2年のバケットに分類される短期のスワップの増加から来ている。したがって、PV01で見るとその増加幅は想定元本で見るほど大きくない。一方、JSCC同様、LCHの取引量も3月から急増している。LCHで特に短期のスワップが増えたという証拠は見られないので、日銀政策変更後は、JSCCにおける短期スワップの取引増が最も大きいのと、JSCCでクリアリングをする顧客が、緩やかながらついに増え始めたというのが大きな変化である。

いずれにしても今年の3月からは金利スワップ市場において何らかの変化の兆し見え始めている。せっかくグローバルな取引フローを取り込めるようになってきたのだから、極力公平性と透明性を高めて、円金利マーケットがグローバルに通用する市場であり続けることを期待したい。

アウトソーシングが難しくなってきた

金融業界では、様々な業務をアウトソースするとともに、ベンダーのサービスを利用するのが一般的だった。しかし、昨年の米国当局のガイダンス公表から、徐々に金融機関の間で、ベンダーの審査を厳しくする傾向が見られ始めている。以前は、金融機関での勤務経験を持つ専門家がFintechを起業して成功する事例も多かったが、実績のないベンチャーがこの分野に割って入るのが難しくなりつつある。

そもそもこのガイダンス自体は2013年頃から存在しており、特に目新しいものではなかったのだが、2021年の市中協議や2020年のQ&A集によって、徐々に形になっていき、2023年の新たなガイダンスにつながっている。

細かく何をしなければならないということを示すというよりは、リスクベースアプローチをとっており、細かいところは個々の金融機関自ら考えるようになっている。昨今の傾向では、こうしたアプローチをとる場合は、細かくルールが決められる場合より、金融機関サイドでできるだけ保守的なルールが作られてしまうことが多い。90年代の日本などでは、ルールが細かく決められ、禁止されていないものはOKといった雰囲気があったかもしれない。しかし、ルールが細かく決まっていないと、あらゆる行動が認められるかどうかを自ら判断することになる。そうすると、不思議なものでより保守的な運営がなされることが多い。

確かに、厳しい規制監督下にある銀行がその業務の一部をアウトソースするのであれば、アウトソース先も同じレベルの管理が要求されるのはもっともなことである。しかし、新しく設立したベンチャーのような場合、株主構造、企業戦略、守秘義務にかかるようなサービス内容の開示のほか、障害が起きないような体制整備や報告体制を銀行並みに整えるのは、並大抵のことではない。

影響の大きい決済サービスのような場合は当然としても、単純な分析、レポート作成、人事評価、研修などのあらゆるベンダーに同じようなデューデリジェンスが要求されると、大人数のコンプライアンス担当を抱えているところでもなければ、途中でギブアップしてしまうところも多いだろう。とは言え、金融機関としても、業務はアウトソースできても責任をアウトソースすることはできないというのが大前提となっている以上、自ら行っているコンプライアンスプログラムに近いものを求めてしまう傾向がある。当然ガイダンスでもリスクの程度に応じて柔軟に対応すべきとしているのだが、どうしてもすべてが保守的な方向に流れてしまいがちである。

このガイダンスに対して各金融機関がどのように対応するかに注目が集まっていたが、TPRM(Third Party Risk Management)という言葉も生まれたように、懸念された通り保守的な方向に向かっているような気がする。金融機関内には、こうしたTPRMをカバーするリスクマネージャーを専属で置くところもある。

日本も米国に合わせる必要はないだろうが、グローバルでここまで各金融機関が力を入れ始めると、完全に無視することは危険になってきている気がする。少なくとも米国のガイダンスを理解したうえで、対応をしていると示せるところまではやっておいた方が良いだろう。

国債保有に規制をかけるべきか

資本コストが金融業界の最大のフォーカスとなる中、ISDAがSLRやG-SIBスコアの計算から米国債ポジションを除外することを求めるレターを出している。コロナショック時に、これらの免除が一時的に認められたが、これが米国債の流動性向上に一役買ったのは間違いない。

感染終息後の免除の恒久化が期待されていたものの、結局2021年3月に免除が終了したが、その際に当局が全体的な見直し作業に着手するとコメントしていた。この辺りの経緯は以前もこのブログでも紹介した。だが、その後見直しの議論が盛り上がった形跡はなく、Basel III endgameの中では、この免除については全く触れられていなかった。いったいどうなってしまったのかと思っている市場参加者が多かったため、先述したレターにつながった。

ここへ来て当局サイドからのコメントも増えてきたようだが、FRBに預けられている連邦準備金をSLRの計算から外すことは問題なくとも、これを米国債にまで広げるかどうかについては依然議論の余地があるようだ。シリコンバレーバンクなど米地銀が米国債ポジションから巨額損失を出して危機に陥ったことを考えればやむを得ないのかもしれない。

だが、この問題はSLRの議論とは切り離して考えるべきではないかと個人的には思う。そもそも、IRRBBのように、銀行勘定で保有する米国債の金利リスクに対する資本賦課のフレームワークが米国にないのが問題なのであり、SLRの問題とは別に考えるべきである。

自国の国債をレバレッジ比率から除外するのは、コロナショック時には他国でも一般的に行われていた。米国なら米国債、日本ならJGBというように、自国発行の国債のみについて免除を与えるのは仕方ないのだが、ここまでクロスボーダーの活動が増えている金融においては、本来はグローバルにおける調整が必要なのだろう。ただ、これは政治的に難しい。また、国際的に高格付の国債のみを外すということになると、財政懸念の大きな日本は不利になる。国債の格下げがショックをもたらす可能性が出てくるからだ。

話を米国に戻すと、特に中小銀行の金利リスクに対する規制の緩かった米国では、当局が言うように連邦準備預金のみを免除し、米国債はストレス時に免除しプロシクリカリティの抑制を図る方が望ましいのかもしれない。あるいは、金利リスクに対する規制を強化して、常時免除を模索するという方法もあろう。ただ、そうすると米国債の流動性が低下し、市場ボラティリティが高止まりすることを許容しなければならない。市場ボラティリティが上がると当初証拠金が増え金融全体としてのコストが上がってしまう。

その意味では、日本の規制は非常にうまくいっていると言えるのかもしれない。一部米国債で損失を発生させた金融機関もあるが、全体で見れば特に大きな危機を発生させることはなく、日銀のコントロールのお陰とは言え円金利のボラティリティは落ち着いており、比較的低コストで取引ができている。あまり資本コストを気にせず流動性を提供できる銀行が多いのもプラスに働いている。

ただ、徐々に資本コストの重要性が理解されてきていることから、日本においても、レバレッジ比率から国債を除くかどうかについての議論を海外並みに行っても良いかもしれない。特に今後金利上昇が見込まれる中、海外からは日本の金利上昇にベットする取引が増えてきている。このような投機的圧力が一時的に市場混乱を引き起こす可能性は否定できず、国債の売り圧力を抑える仕組みは今のうちから整えておく必要はあろう。

そのためにもレバレッジ比率の計算からJGBを恒久的に除外しておくのは、一つの選択肢だと思う。当然米国地銀のようなことにならないよう金利リスクに注意する必要があるが、日本で米国のようなことは起きないようにも思う。

現状のように日銀がほとんどの国債を保有していれば問題は少ないが、今後買い入れを減らす方針なのだから、いよいよこうした議論が大事になってくる。海外勢は国債先物やレポによってこうした取引をすることも多いので、国債現物市場のみならず、他の商品も併せてみていく必要があろう。

米銀ストレステスト結果公表

FRBの年次ストレステストの結果が公表され、対象となった31行すべてについて、深刻なストレス環境にも耐えられると結論付けられた。今回のストレステストに基づいて最低所要資本に対して上乗せされるSCB(Stress Capital Buffer)が決められる。

早速業界団体のFinancial Services Forumから、これだけ十分な資本が既に積まれているのだから、ここから更に資本要件を厳格化するBasel III endgameは必要ないとの声明が出されている。

とは言っても業界では資本賦課に対する懸念の声ばかりが聞こえてくるので、これまで以上に資本を求められることが予想されている。不動産価格4割下落、失業率6%上昇といったシナリオは、結構なストレスだとは思うが、これが全く起きないとは言えないだろう。それでも31行総額で$685bnの損失を吸収しても資本が最低要件を満たすというのは、かなりの損失吸収能力が米銀にはあるということを示している。

それでもFRBのコメントによると、ストレス時のショック幅をそれほど変えなかったにもかかわらず、銀行の自己資本比率の低下幅が2.8%となったのは、銀行がリスクの高いビジネスを増やしており、経費も嵩んでいるとのことだ。特に過去最高レベルの増えた、クレジットカードビジネスにおけるリスク増加を懸念している。

大手行の結果を個別に見ると、ストレス時の自己資本は以下のようになっている。

JPM 12.5%
GS 8.5%
CITI 9.7%
BofA 9.4%
MS 10.6%

JPMやBoAは結果発表後、自らの計算はFRBの推計と若干異なるとコメントしている。しかしJPMのローン損失は平均より低い割合にとどまっており、健全性という意味では問題視されていない。

先週Basel IIIが当初案よる緩いものになるのではないかという記事も出ていたが、今後は大統領選に向けて、Basel III最終化がどのような方向に落ち着くのかに注目が集まる。

欧州CCPの新スキームEATM

以前欧州のクリアリングでエージェントモデルを導入しようとする動きについて紹介したが、2020年から続くこの検討も最終段階を迎えているようだ。

残念ながら参加できなかったのだが、6/19にFIAでプレゼンがあった。European Agent Trustee Model(EATM)と呼ばれるこのスキームを使えば、欧州でメインのプリンスパルモデルよりも資本コストが下がる。そもそもプリンシパルモデルでは、ディーラーが顧客とCCPの間に立って取引をするため、想定元本がダブルでかかってくる。一方エージェントモデルでは、基本的には顧客とCCPとのダイレクトな取引となるため、ディーラーの取引元本にカウントされないというメリットがある。

元本がダブルでカウントされるということは、SLRなどの資本コストが高くなるうえ、G-SIBSスコアの計算上不利になる。このため、コストの高いクライアントクリアリング業務から撤退するディーラーが相次いでいる。

もっとも以前紹介した通り、米国ではこのエージェントモデルに対しても資本賦課を上げようという動きがあるのも事実である。幅広くCCPでの清算集中を促しておきながら、清算集中を支援するクライアントクリアリング業務に対して資本規制を強めるのは本末転倒との批判が起きている。

EATMには英国法とドイツ法の2種類があるようだが、これはCCPの属する国ではなく、市場参加者の属する法域によって決まるようだ。LCHでは英国法のリーガルオピニオンと当局承認の取得を進めている。英国の市場参加者は、英国版のスキームによってLCHとEurexに参加できるようになるようだ。

Brexit後の域内CCPの拡大を目指している欧州にとっては、英国からクリアリングのシェアを欧州に移すためには、無視できないプロジェクトである。Eurexはロンドンの顧客シェアを拡大させるため、金利スワップについて英国の顧客向けにサービスを始める予定だ。健全なCCP間の競争があれば、このようにお互いがサービスの充実に向けて検討をするので、これは市場にとっても望ましいことである。

この新たなエージェントモデルはプリンシパルモデルに取って代わるものではなく、併用されるものである。参加者破綻時にポーティングをする際にもエージェントモデルからプリンシパルモデルへの変更が可能となっている。したがって、現在プリンシパルモデルを適用している場合にBack upブローカーを選定しようとしたら、別にプリンシパルモデルを提供できるブローカーにこだわる必要はない。

米国が極端な規制に向かう中、欧州でユーザー目線にたった仕組みができてくれば、昨今ように米系が上位を独占する動きに変化が表れるかもしれない。または規制の制約の少ない日本などが、もう少しプレゼンスを高めれられれば良いのだが。

欧州がバーゼル3最終化を2026年1月に延期

予想通りではあるが、6/18に欧州がFRTBの施行開始を1年延期すると発表した。カンファレンスのkeynoteスピーチの中でコメントされているので若干回りくどい言い方になっているが、スピーチ後半に差し掛かったところで、米国が2026年1月までにバーゼル3最終化を行う可能性は極めて低いと述べており、これを理由に2026年1月へと1年の延期を決めたとのことである。

資本規制によってビジネス環境が大きく変わるようになっていく中、タイミングがずれることによって競争上大きな影響があるため、ある意味当然の結論と言えよう。これを受けて、スイスなどでも延期を求める声が上がっており、ROEをあまり気にしないカナダや日本だけが先行適用している程度になっている。

それにしても、海外では日々取引を行う際にCapital Costを非常に気にするようになってきている中、日本の状況には少し危機感を覚える。CVAもそうだったが、当初証拠金のコスト、その他ファンディングコスト、Capital Costとなどが、すべてトレーダー毎に日々Allocationされるのが普通になっている中で、これをどんぶり勘定で管理しつづけていると、株価が上がっていかないのではないだろうか。また、こうしたコストが高い取引を押し付けられてしまう可能性もある。

当初証拠金などはグループ全体でIM Thresholdを加味しながら最適化するようになっているのだが、異なるEntityにまたがる全体的なリスク把握が、日本ではあまり重視されていないように思える。現在盛んに行われるようになった各種最適化についても、日本では元本のコンプレッション程度にとどまっている。この辺りを進めていかないと急速に海外に後れを取ってしまわないか心配である。

FRTBとCVA Capitalの施行は延期されるか

欧州でBasel III FRTBの延期を求める声が強くなっているが、米国の状況が不透明になってきているので、おそらく欧州でも延期となるのではないだろうか。

大手銀行にとって、資本が最大の制約になりつつある中、資本規制の施行タイミングや内容が異なると、一部の銀行を利することになってしまう。それほどまでに、資本は重要であり、このルールの違いによって、各銀行はその行動を大きく変えている。実はFRTBは、日本ではすでに一部導入されているのだが、資本やROEを現場レベルで細かく管理する必要がないからか、あまり大きな問題になっていない。

欧州がFRTB施行開始を遅らせるとすると、CVA Capitalの扱いが焦点になる。当然CVAについてもFRTBに併せて延期されると考えるのが自然なのだが、これはすでにEBAによって却下されたとの報道もある。CVAについては、FRTBほど強くPush Backするところが少ないのかもしれない。また、欧州の場合は事業会社をCVA資本賦課の対象から外してしまっているのも事態を複雑なものにしている。

事業会社向けエクスポージャーがCVA資本の対象外だとしても、会計上CVAの計上はしなければならず、それに対するヘッジも行うところがほとんである。新たなCVA資本のフレームワークでは、従前のようなシングルネームCDSのヘッジに加えて、為替や金利スワップによるマーケットリスクヘッジを資本賦課の計算時に考慮できるようになる。しかし、事業会社向けのCVAが免除になると、こうしたヘッジだけが浮いてしまう。

こうした実際のリスク管理と会計や資本計算の手法が異なるケースはほかにもあるが、個人的な経験では、これらは極力揃えていった方が望ましい。これが食い違うことにより、誤ったインセンティブで取引が行われてしまうことがあり、総合的にみるとリスク管理として望ましくないことが起きかねないと思う。

米国債のClearingとExecutionの分離

予想通りではあるが、来年末から清算集中の義務付けが予定されている米国債についても、清算(Clearing)と取引執行(Execution)を分けるべきという意見が出てきた。

金利スワップなどの他の商品では、顧客のためにクライアントクリアリングサービスを提供することにより、自社での取引執行を促すこと利益相反とされている。このため、クライアントクリアリング取引を担当する部門と自社のトレーディング部門との間に情報障壁を設けるのが一般的だ。

クリアリングは他社で執行した取引情報も得ることになるため、その情報を使って自社のトレーダーが利益を上げようとするのは望ましくないという考え方だ。CFTCでスワップなどのクリアリングを推し進めてきたGensler氏がSECで国債のクリアリングを担当しているのだから既定路線ではある。

英語のトレーディング用語では、プライスコンペで負けて、他社に取引が取られたというときにDone Awayという言葉が良く使われる。一方、あまり現場では聞かないが、自社が勝って執行に至った取引をDone withという。現在米国債のクリアリングを独占しているFICCのSponsored Clearingでは、Done with、つまり自社で執行した取引のみをクリアリングするのが一般慣行になっている。これを、コンペに負けて他社に取られたDone Away取引についてもクリアリングするようにと、先週Gensler氏が発言した。

このように金融においては商品によって取引慣行が異なるケースが多かったが、最近ではすべてが統一される方向に向かっている。以前コメントしたレポのヘアカットも、参照する債券によって決めらる傾向が強かったが、Swapのようにカウンターパーティーの信用力に重きを置く動きが強まってきた。

日本でもレポのクリアリングを行っていたJGBCCがJSCCに統合され、リスク管理手法も同じようなものになりつつある。以前であれば、商品が異なるのだから、他のやり方は通用しないという意見が強かったが、そういう意見は通らなくなりつつある。同じように、日本は特殊だからというのも主張しずらくなってきているように感じる。独自のCDSのDC、NAFMIIなど、自国主導のやり方を貫こうとしている中国を除けば、あらゆる市場慣行が統一されていくことになるのだろう。

決済T+1化がシステム投資を拡大させる

米国の証券決済T+1化が始まり、トムネの需要が大きくなるという報道が以前からあった。これはTommorow Nextの略で、約定日の翌営業日スタート、翌々営業日エンドの取引をいう。約定日の翌営業日に取り組み、2営業日目に決済をするということになる。

例えば、ドル円の取引であれば、月曜に取引を約定し、月曜をValue Dateとした円売りドル買い(円買いドル売り)と火曜をValue Dateとした円買いドル売り(円売りドル売り)を行うといった取引を指す。T/Nと表記されることもある。

一方2営業日に取り組み、3営業日目に決済を行う取引をスポネといい、S/Nと表記することもある。

通常決済リスクを負わない形で取引をするためにCLSを通す場合は、スポット為替の決済はT+2となる。一方米国のT+1化の後は決済を早めるためにトムネを使うニーズが高まる可能性がある。しかしCLSを通さないとなると、相対取引となり決済リスクが残ってしまうので、売り買いを効率的にネットしていく必要がある。

様々な時間帯に異なる価格で約定される取引が多数あるとネッティング効率が悪くなるので、BloombergがT+1でのベンチマークのFixingを公表することを計画している。金利スワップでクーポンを統一したスワップを行ったり、CDSで固定スプレッドを統一するのと同じ原理だ。

そもそもこうした足の速い取引に対するリスク管理には昔からあまりフォーカスが当たってこなかった。カウンターパーティーリスクを合算する際に、全世界で取引をしている場合はNY Closeからバッチプロセスが走るシステムなどもあるだろうから、NYではT+1でのデータしか入手できず、アジアや欧州では、時差の関係からT+1.5、T+2になるということもあるだろう。

しかしT+2のデータだけを見ていては、そのデータを確認した瞬間には、かなりのT/Nが既に消えているかもしれない。また、1日前に行われた取引が計算に入っていないかもしれない。

決算機関はT+1の次はT+0という話が出てくる可能性も高いので、各金融機関ともリアルタイムに近い形でのリスク把握が求められるようになっていく。その時にデータを人の目で確認することは不可能なので、巨額のシステム投資が必要となる。だが、これをきちんとやっておかないと、何か問題があった場合に、数百億円の罰金を払うことになるかもしれないので、早めに準備を進めておくことが望まれる。

CDX Financialsの取引開始の延期

前回紹介した、米国の金融セクターのCDS インデックスであるCDX Financialsの取引開始が直前に延期された。IHS Markitのアナウンスによると、複数のディーラーによってRaiseされたRegulatory Concernによるものと書かれている。すべてのディーラーが取引できるよう、必要であれば何らかの変更を加え、as soon as possibleに市場参加者にアップデートするとのことだ。

銀行が自身のCDSを売ることはできないが、インデックスで1/25くらいならこれが可能になるかもしれないと前回のブログで書いたが、どうやらこの懸念が理由のようだ。これは昔から議論されていることであり、欧州では問題になっていない。てっきりこの懸念については解決し取引開始に至ったと思っていたが、取引自体は可能でも資本賦課をどう計算するかについて、懸念が残っていたものと推測される。

確かにこのインデックスを取引した時に、巨額の資本コストがかかるのであれば、ディーラーにとって取引をするインセンティブはない。または、銀行に対するカウンターパーティーリスクであるCVAをこのインデックスでヘッジした場合にヘッジ効果が認められるかはっきりしなかったからなのだろうか。いずれにしても取引開始予定日の1営業日前の延期発表は極めて異例だ。

米国の規制は、日本に比べて、細部まではっきりと決められていないことが多く、ルールベースというよりはプリンシパルベースのアプローチをとる規制が多い。このため、ルールにないから大丈夫だと思ったという言い訳は通じず、各金融機関が規制の精神に照らして自ら判断しなければならない。

規制としてはこの方が本来望ましいとは思うものの、罰金が巨額になっていることもあり、金融機関サイドとしては、極端に保守的な解釈するケーズが散見される。ひょっとしたら、今回のケースも、いくつかの銀行が資本賦課を保守的に見積もったため、取引ができないと判断したのかもしれない。

となると当局も交えた明確化が必要になってくるので、as soon as possibleに解決したいと書かれてはいるものの、しばらく時間がかかってしまうかもしれない。

CDSの取引が少ない銘柄をインデックスに入れる?

来週6/4より、米国のCDSインデックスにCDX Financialsが加わる。金融機関を対象にしたインデックスは欧州でも取引されており、特に目新しいことではないが、今回は、CDSの流動性が低い銘柄が含まれている点が新しい。つまり、日本で例えれば、CDSなどが取引されない横浜銀行や千葉銀行などが、CDSのインデックスに含まれているようなものだ。

通常は流動性が高い銘柄から25や50銘柄選択してインデックスを組成するが、今回は、あえて流動性の低い銘柄を入れることによって流動性を上げようという試みである。

まったく取引がないということはないのかもしれないが、インデックスの中の25銘柄のうち10行はDTCCの統計上Activeに取引されている銘柄には入っていない。これでCDSのシングルネームの流動性が上がってくれば非常に面白い取り組みとして注目されることになろう。

そもそも、昨年のシリコンバレーバンクなどの米地銀破綻は、大手金融機関のCDSでヘッジしていたとしても、効果は限られていた。しかし、このCDX Financialsがあれば、もう少しヘッジ効果が大きかったはずである。

そして一旦インデックスが出来上がると、インデックスと全銘柄の平均との差であるSkewを取引するところが増える可能性があり、そうなるとCDS市場の流動性が上がることになる。Skewの他にも、社債とCDSのスプレッド差を取引するベーシス取引なども増えてくれば、CDSの流動性にポジティブな影響がある。日本ではこうした裁定取引をする市場参加者が少ないが、流動性向上のためには、こうしたフローは重要である。その意味で、日本ではイメージの悪いヘッジファンドなどにも存在意義がある。

また、銀行の金融リスクヘッジにも使えるかもしれない。金融機関が金融機関を参照するCDSを売買するのは困難なのだが、インデックスであれば、IMが高くなる可能性はあるものの、取引可能になるかもしれないからだ。例えば、JPMのCDSをJPMから買う人はいない。JPMがデフォルトして債務がカバーされるときに、JPMに支払いを求めに行っても意味がないからだ。同様にJPMのCDSをCitiから買っても、相関が大きいため、あまり意味がなくなる。CCP経由で取引をする方法もあるが、インデックスのうち1/25であれば、自己参照、高相関の問題が若干緩和される。

CDSは流動性を向上させるのが最も大切なので、こうした取り組みは非常に興味深い。流動性に苦慮している日本でも参考になるところもあろう。

米国決済T+1短縮化完了

米国決済のT+1化が大きな問題なく行われた。過去1年近くにわたって準備してきたのだが当然ではあるのだが、フェイルの件数も増えなかった。特に、27日(月が米国休日であったため、29日(水)は24日(金)のT+2、28日(火)のT+1に当たり、Double Settlement Dayとして注目が集まっていた。

DTCCのDaily Reportを見ると、注目の29日のフェイルはCNS上で1.90%、CNS外でも2.92%と、普段より逆に低くなっている。30日には少し上昇しているが、それでも極端に多いわけではない。

9pmまでにアファームされた取引も94.55%と極めて高い割合となっている。特にこの日は注意してプロセスをしようという意識が働いたのかもしれない。

報道を見ていても、若干の遅れや軽いトラブル程度で大きな問題にはならなかったようだ。あれだけ騒がれた、時差のあるアジアでの混乱も、今のところ何も聞こえてきていない。これで、グローバルでT+1が標準となるだろうが、今度はいつt+0に移行するかに注目が集まる。

円金利スワップ市場の活発化

昨年末にJSCCの金利スワップの取引量が過去最高を更新した後、1月2月は若干取引量が落ちていたのだが、3月4月と更に過去最高を更新してきた。

グラフから明らかなように、数年前まで100兆円に届くかどうかというレベルだったものが、ついに月間300兆円に到達し、別次元にシフトしたように見える。

ようやくYCCから脱却し、金利のある世界に入り始め、ヘッジニーズが増えたのと、海外からの円金利市場に関する投資意欲が増しているのを感じる。JSCCのクライアントクリアリングの取引残高を見ると、同じ3月4月にほぼ倍になっており、海外顧客を含む顧客フローもかなり伸びていることがうかがわれる。

CFTCの制約により米国顧客がまだ参加できていない中でこの取引増となっているのだから、米国顧客の参加が叶えば、ますます円金利スワップ市場の厚みは増していくことになる。

米国証券決済のT+1化がついに始まる

1年以上にわたって準備してきた米国の証券取引の決済期間のT+1への短縮化が、ついに来週火曜(5/28)から始まる。メディアではそこそこ騒がれており、各社オペレーション部門でも、かなりの時間を割いて準備が進められているが、フロントのセールス、トレーダーの意識はそれほど高くない。各社ともトレーニングは実施しているので、これが起きることくらいは認識しているだろうが、今一つどういったインパクトがあるか計りかねているようにも見える。

時差の関係するアジアでは、フェイルが増えるといった直接の影響に加えて、ストックローンや為替取引でスプレッドが拡大するといったコスト面でのインパクトがあるかもしれない。比較的手作業の介在する証券貸借取引などでは、オペレーションの混乱を避けるため、一時的に株を貸すサイドが若干取引を手控える可能性もある。つまり、株の空売りが減ることになる。最終的には自動化を進める動きが活発化するのだろう。

フェイルの件数については、6/15に公表されるSECのフェイルレポートが重要だ。また5/31のMSCIのリバランスで混乱が起きないかどうかにも注目が集まる。為替取引では、流動性の落ちるNY時間引け後、つまり日本時間の早朝に取引量が落ちないか注視していきたい。CLSの決済締めであるNY時間午後6時前後も重要な時間帯だ。特に金曜の引け後は日本やアジアがすでに土曜で動いていないため、流動性は極端に落ちる。月末でもあり、MSCIのリバランスの時期も近く、前日は米国メモリアルデーの休日にもあたるので、来週火曜は注目だ。

とはいえ、ここまでオペレーション部門で準備してきたので、パニックになるようなことはなく、ジワジワと変化が起きてくるような形になるのだろう。

ストレステストの弱点

あまりにも大きな市場変動が起きるからか、ストレステストがリスク管理のメインツールとして使われるようになってきた。従来はPFEのようなリミット管理に加えて、想定外のストレスがかかった場合に何が起きるかを把握するという意味でストレステストやシナリオ分析が行われてきたが、このような極端な状況に耐えられるようにストレステストの結果をリミットに使うべきという意見が米国当局からも多く聞かれるようになってきた。

金利が200bp上昇した時と言ったシナリオならまだしも、ある特定のシナリオをベースにリミット管理をするのには違和感を覚える。実際のリスクが増えるにもかかわらず、リミットに空きを作ることが理論的に可能だからだ。決められたシナリオに関してのみリスクを減らしても、それ以外のリスクが増えてしまう。

例えば、不動産不況、クレジット損失が多発するシナリオによってリミットが制限されていた場合、CLOや証券化商品を売って国債を買えばよい。リターンが低くなる分は国債の量を増やして賄うことになる。おそらくマネジメント的にも、リスクの高い資産を売って、安全性の高い国債に乗り換えたと言えば聞こえはよい。

勘関で起きたことに似ている。安全資産である国債保有を増やした後に、米金利が急上昇し、シリコンバレーバンク(SVB)などの地銀ショックが起き、日本の一部金融機関も米国債ポートフォリオから大きな損失を出してしまったのである。

最近は金融機関でも、一見わかりやすいクレジットリスクを気にする人が増え、マーケットリスク管理がおろそかになっているように思える。デフォルトリスクを避けるために巨額のCDSヘッジをしたがるリスクマネージャーやマネジメントがいるが、CS01などで必要とされる以上のヘッジを行うと、スプレッドがタイトになった時にCDSから大きな損失が出てしまう。特にトップマネジメントがリスク管理に詳しくない場合は、こうしたことが行われがちであるので、CROの役割は重要である。

ロシア危機や米地銀危機、英国Giltショックなど、大きな市場変動が起きるたびに新たなシナリオを増やしていくと、リスク管理が複雑になり、その仕組みを利用してほかのリスクを増やそうとする人が出てくる。非常に危うい状況になっているように感じる。

本来は、バーゼルのIRRBBくらいの考え方がちょうど良いのかもしれない。米国はIRRBBを適用せず、CCARをメインとしているが、様々なイベントが起きるたびに、より極端なシナリオが追加されていく。CCARの方がより細かく包括的にリスクを捕捉できるという反論もあろうが、リスク管理は複雑にしすぎるとワークしなくなる。今年はFRBが最大のリスクを抱えるヘッジファンドのデフォルト、金利急上昇のシナリオ等の4シナリオを追加したが、金利上昇シナリオはSVBの破綻を受けたものだろう。

一方IRRBBでは金利変動時のリスクや資産の評価損を表すEVEの開示が求められる。IRRBBでは、金利のパラレルシフト、カーブシフトなどの6つのシナリオのもとで、EVEがどのくらい減るかをディスクローズしなければならない。そしてそれがティア1資本の15%以上になればリスク量が巨大と見做され、追加の資本を求められたり当局の指導が入ったりする。

おそらく米国がこれを適用していればSVBのようなケースでは一定の抑止効果を発揮していたのではないだろうか。

金利ポートフォリオのPV01が100億円あったときに、金利が100bp上昇すれば1兆円の損失が出るというのは、極めて簡単な概念だ。例えば以下の二つでどちらがリスクが大きいか、考えてみていただきたい。

  1. 1兆円のCLOを保有
  2. PV01で100億円の米国債を保有

金融機関によって答えは変わるだろうが、経営トップ層などでは、1を嫌がる人が結構いるかもしれない。個人的には2は怖くて仕方がない。1の場合は価格が半分になれば5000億円の損失で、最悪1兆円の損失である。一方2の場合、米国のように金利が300bp上昇すれば3兆円の損失になる。

やはりこうしたリスクを経営層に正しく、しかもわかりやすく説明できるリスクマネージャーの役割は極めて重要である。

ISDA Margin Survey 2023

ISDAから昨年のマージンサーベイの結果が公表されている。これは、証拠金規制が最初に適用になったフェーズ1の大手ディーラー20社とフェーズ2の5社及びフェーズ3の7社の合計32社から得られた回答を元にまとめたものである。証拠金規制フェーズ6までが完全に終わった後のサーベイであるため、今後は、規制対象が拡大することによって証拠金が急拡大することはなくなる。

証拠金残高、特に当初証拠金は毎年増え続けており、2023年は前年比40%増の$432bnへと膨らんでいる。変動証拠金は13.5%減の$984bnで、合計では$1.4tnの証拠金となっている。

2012年のISDAの予測では、証拠金規制が完全導入されると市場から担保に必要な現金が吸い上げられ、マーケットインパクトも出てくることが懸念されていた。当時は必要担保額が$0.8tn、ストレス期で$4.1tnに増えると予想されていたが、実際2023年のIMは$0.4tnと予想の約半分となっている。今回のサーベイが32社に限定されていることを考えると実際市場で取られている当初証拠金は2012年の予想と近いのかもしれない。

一方で、昨今の金利変動やウクライナ情勢を受けたコモディティ価格の乱高下は、当時の想定を超えているように思えるので、実際は懸念したほど必要担保は増えなかったと言えるのかもしれない。

当初証拠金には主に国債が使われており、規制IM全体の72.7%を国債が占めている。これは受け取った担保をカストディアンに分別管理をする必要があるため、Title Transferで現金を受けるよりはSecurity Interestで国債を受ける方が、法的に簡単だからという理由がある。それでも2021年から若干現金が使われるようになっているのが興味深い。

また、Other Securitiesに分類される国債以外の担保が増えてきているのも最近の傾向である。10%代前半だったものが、2023年には、全体の25.2%まで上がってきている。数年前から社債を担保に出したいというニーズが高まってきていたが、それを裏付ける形となっている。

一方CCPに拠出する担保も年々増加傾向にあり、金利系で$332bn、CDSで$60bnとなっているが、最近は増加が少し頭打ちになっているようだが、クライアントクリアリング分は少しづつ増えているようである。

全般的に従来の金利スワップやCDSのような商品に関しては、証拠金規制のインパクトはほぼ落ち着いたように見える。あとは国債のクリアリング、新しく増え始めている為替商品のクリアリングによって、どれだけ担保が増えていくかに注目が移る。

バーゼルのカウンターパーティーリスクマネジメントガイダンス公表

バーゼルから、カウンターパーティーリスクマネジメントのガイドライン「Guidelines of Counterparty Credit Risk Management」が公表されている。特に目新しい内容という訳ではないが、何かイベントがあった場合には、ここに書かれていることを普段から行ってきたかどうかが問われることになるため、自社のリスク管理方針と照らし合わせて項目を確認しておくと良いと思う。

概ね以下のような項目について望ましいベストプラクティスが書かれている。

  • デューデリジェンスとクライアントオンボーディング
  • 信用リスク削減(担保、保証やその他のリスク削減)
  • エクスポージャー管理(エクスポージャーの捉え方、ポテンシャルエクスポージャー、ストレステストとシナリオ分析)
  • ガバナンス(人とカルチャー、リスクフレームワーク、レポーティング、リミットと例外管理)
  • インフラ、データ、システム
  • ポジションクローズアウト(要注意リスト、デフォルトマネジメント)

冒頭にも書かれている通り、このようなリスク管理の強化はLTCMやArchegosの破綻というカウンターパーティーリスクイベントを意識して作られている。その意味では、日本で起きているカウンターパーティーリスク損失というよりは海外ヘッジファンド発のものが念頭にある。とは言え、日本でもこうした海外ファンドとの取引が増えているため、無視できる内容という訳ではない。むしろ、海外に遅れないようにリスク管理を強化すべきセクターとなる。

確かに、日本に比べると海外の方がリスクの高い取引が多く市場のボラティリティも大きい。戦争などの地政学的リスクもあり、最近のコモディティ価格の乱高下もカウンターパーティーリスク管理を一層困難にしている。海外で業務を行う金融機関に対しては、こうしたガイダンスに注意を払い、リスク管理を継続的に高度化していくことが望まれる。

このガイダンスでも人の重要性が強調されているが、リスク管理に通じたプロフェッショナルを十分に配置し、それをトップマネジメントに報告する仕組みづくりが肝要である。ここ数年で、リスクマネージャーに対するニーズは大きく高まってきた。日本に比較して海外の方がリスクマネージャーの社内的立場が弱いと感じたこともあったが、最近では、リスク部門がかなり強力になってきている。それも長年リスク管理に携わってきたプロに対するニーズが高まり、給与水準にも変化が生じてきているようにも思える。

リスク管理の経験のないフロントの人間が、異動や転職でリスクの世界に入ってくるということも以前に比べて少なくなり、本当のプロが求められるようになったということは悪いことではない。とはいえ、規制の要請もあるのだろうが、若干リスク管理が増えすぎて保守的な方向に振れているようにも思える。3線管理は重要なのだが、1線と2線の線引きが曖昧になり、1線の中でもカウンターパーティーリスク、マーケットリスクのみならず、いわゆるNFR(Non Financial Risk)へとリスクの範囲が拡大している。

3線管理の問題は、フロントが商品によって複数部門に分かれているため、債券のリスク管理、株式のリスク管理といった形で、複数のリスク管理者が必要になる点だ。そして今度はそれらの部門すべてのリスクを統括する人が必要なのではないかという議論になる。本来であれば2線が管理してきたところだが、2線から1線にリスク管理をシフトさせているところでは、1線のリスクがだんだん増えていく。といっても2線の要員を減らすわけにもいかず、結果的にリスクを見る人が増えていく。

どこかに最適解があるのだろうが、ここまで規制がきびしくなると、なかなか後戻りはできない。だた、昨今起きているイベントを見ると、人が増えれば解決するという問題でもないのは明らかである。リスク管理の高度化と厳格化は望ましいことなのだが、人の質を保ちつつ、効率的に組織運営をするというのも重要な視点だろう。

信用リスク移転マーケットの拡大

CDSの流動性が低い日本では、以前からCVAのヘッジにCLNが使われるケースがあった。クレジットイベントに相対のISDA契約の下での取引のevent of default を加えるForth trigger CDSの形だ。通常はiTraxx Japanでヘッジするのが一般的なのだが、以前はCapitalのReliefも少なかったため、何とかカウンターパーティーリスクを完全に消そうという努力が行われていた。Indexのヘッジ効果が50%認められる可能性のある今では、そこまで頑張ってヘッジする必要はないかもしれないが、それでもデフォルトリスクをダイレクトにヘッジできるメリットは大きい。

対象会社は、そこそこの規模の会社だが、CDS市場での取引が行われていないところとなる。一方CDSの流動性はないものの、社債が流通しているため、ディーラーによっては、Bespokeにマーケットを作ってヘッジをすることもあった。また、複数の銀行が、それぞれに集中しているリスクを交換しあうというアイデアも検討されたが、実際に約定にまで至ったケースは少ないだろう。

CDSやCLN、保証などを使ってこうしたクレジットリスクのポートフォリオのリスク分散を図ることは可能である。こうした場合いつも守秘義務のハードルが立ちはだかるが、CDSでサイレントにヘッジすることが可能なのだから、第三者が間に入ってリスクの最適化をすることは可能なのではないかと思われる。

このようなリスク外しのニーズがある一方で、日本でよく知られた会社のリスクならとっても良いという参加者がいるのも事実である。だからこそ日本ではCLNが比較的盛んに取引される。ネックになるのは会計で、日々時価評価をすることを嫌うところが多い。満期保有にしてPLが日々ブレないようにしたいというニーズが良く聞かれる。その意味ではCDSよりはCLNや保証の方が好まれるマーケットである。

一方米国では、FRBが昨年2023年9月28日のFAQで、ローンの信用リスクを移転するCRT(Credit Risk Transfer)にCapital Reliefを与える道を開いた。実はドイツなどの欧州やカナダではこうしたCRTは広く行われていたのだが、米国では数年前にRegulation Qを保守的に解釈するようになったため、あまり取引が行われてこなかったという経緯がある。

ディール毎に承認を得るのは非現実的であったが、昨年から、一定の条件を満たせば個別承認を省略できる可能性が高くなった。銀行向けのレターによれば、CLNの合計残高が$20bnまたは銀行の資本の100%のどちらか低い方を上回らない限り、毎回承認を取りに行く必要はないとされている。

さらに今般大手銀行のみならず、米地銀5行に対しても同様の承認が与えられた。昨年からのディール数も増えていることから、今後CRTマーケットが大きな注目を集めるようになるかもしれない。そして、このリスク移転のガイドライン緩和に際しては、CDSのみならず、日本で好まれる保証形態も含まれている。こうなると、ISDAの下でのCDSや時価評価を避けたい投資家へとすそ野が広がるかもしれない。海外ではPEファンドなどがメインだが、日本では地銀などもこうした投資を行うようになっていくかもしれない。

NISAはやはり国内個別株に流れた

日本証券業協会の3月末のNISA口座の開設・利用状況が公開された。先月書いたように、これまで個別株にすでに投資していた投資家が、新NISA開始に合わせて成長枠のポジションを一気に増やしたという仮説を裏付ける形になっていると思う。これまで既に投資を行って資産を築いている投資家にとっては、一気に新NISAの枠を使い切ろうというのは自然な行動だろう。

口座開設は昨年同期比1.3倍、投資額が約3倍となっているが、成長枠での投資額は1月から1.68兆、1.28兆、0.9兆と減速傾向にある。積立枠の方はコンスタントに0.26-0.27兆となっているので、積み立て枠の残高は着実に積みあがっていくことが予想される。

個別株は全体の半分くらいだが、うち9割超が日本株となっている。前月もコメントしたように、NISAが始まると、オルカンや米株インデックスにお金が流れるだけという人が多かったが、実際は日本株へ流入している。ただし、投信だけを見ると海外、内外に分類される投信が多いので、海外に流れているというのもあながち間違いではない。経験の長い投資家が国内株を新NISAへ移行させる動きは当初よりは少なくなるだろうから、今後は国内個別株ではなく海外投信が増えていくことになろう。

為替取引の未来

為替のスポット取引の電子化はかなり進んだが、直近ではフォワードや為替スワップ、NDFにおける取引が急速に増えている。

こうしたスポット以外の1日の取引量は、昨年比2倍近くに増えているというデータもある。フォワードについては、従前3ヶ月未満がほとんどだったが、最近では1年を超えるような取引も増えてきている。今後は為替取引のかなりの部分が電子取引に移行していくだろう。

一方大手ディーラーはスポット取引のInternalizationを進める傾向が顕著になっている。外部の取引プラットフォームで取引を行いマーケットを動かしてしまうよりは、内部で売り買いをマッチングさせることができれば、マーケットインパクトを抑えることができ、取引コストも低減できる。

2016のバーゼルのレポートでは、63%のスポット取引がinternalizeされており、多いところでは90%を内製化している。こうなると、規模の経済が働くようになり、取引量の多い大手銀行が有利になる。為替関連取引からの収益の60%は、上位10銀行が上げているというデータもある。

すると今度は、パブリックプラットフォームでの取引が少なくなり、価格の透明性を低下させる懸念が発生する。内製化を完全に禁じることは難しいだろうが、米国の規制はこうした取引をなるべくパブリックな執行Venueを使うように義務付ける傾向があるので、SwapをSEFで取引させたように、極力パブリックな執行機関経由で取引させる規制が生まれるかもしれない。

アルゴやHFTの台頭もあり、取引を小刻みに分けて行い、マーケットインパクトを減らすという努力も続けられているため、そもそも価格が見えにくくなる要因は内製化に限らない。

ここ数年の電子化の拡がりと、内製化の増加は、今後の為替マーケットの方向性を変えていく可能性がある。しばらく、注意を払っていく必要がありそうだ。