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アセットスワップの基礎

アセットスワップとは

アセットスワップとは債券購入とスワップを組み合わせたものである。

  • アセットスワップの買い:債券購入+スワップ固定払い
  • アセットスワップの売り:債券売却+スワップ固定受け

要は変動利付債を買いたいのに固定利付債しかないときはスワップを組み合わせることによって変動金利を受け取ることができるというものだ。

アセットスワップの種類

Par Par Asset Swap

最もポピュラーなのはPar Parアセットスワップと呼ばれるものだと思うが、キャッシュフロー的には以下のような構造になっている。円金利スワップを前提としているが、ドルで円社債のアセットスワップを買う場合には通貨スワップになる。

ここでは社債価格が95だと仮定しているので社債購入資金が95、Par(100%)にするために5をスワップカウンターパーティーである銀行に払う。期中は社債のクーポンを受け取ってそれを銀行に払い、その対価として変動金利を受け取る。そして最後に100で社債が償還される。満期到来時に受け取る金額と購入金額が同じパーなので、パー/パーとなる。社債自体は95のアンダーパーで買っているのだが、5をスワップで払うという形だ。

Yield Yield Asset Swap

一方パーではなく、その時の社債価格である95を払うだけで後はスワップ金利で調整するものにYield Yield Asset Swapがある。当初95しか払っていないのでPar Parの時に比べてスワップの固定金利がその時の市場実勢に近くなる。

Market Value Accrued Asset Swap

もう一つ、あまり使われていないとは思うが以下のようなアセットスワップもある。Par ParとYield Yieldを組み合わせたような形だが、Yield Yieldのように当初は95の支払いだが、期中の金利スワップはPar Parと同じになり、その調整を最後の償還時に行うというものである。

銀行にとってのインプリケーション

デリバティブなので、これ以外にもいかようなスワップも可能であり、投資家のニーズに応じて様々な形に対応できる。しかし、銀行にとっては、スワップのキャッシュフローが大きく異なるため、プライシングが異なってくる。XVAなどがかかってくる場合には、プライシングへのインパクトがあるため、投資家にとっても影響が生じる。

まずPar Parの場合だが、上の例では、アップフロント(当初)で5を受け取り、その後少し高めの変動金利を払うような金利スワップになる。つまりスワップをブックした後にそれがすぐにPayableとなる。Payableの説明は面倒だが、将来にその価値を返していくもの、マイナスの時価ポジションとでも言えようか。負けている訳ではないのだが、時価的には負けポジションともいえるかもしれない。

最初に5を借りているという言い方もできるが、この場合投資家が銀行のカウンターパーティーリスクを取っている。したがって、無担保であればCVAが少なくなるので銀行にとってはBenefitがある取引になる。有担保契約の場合は5をもらった瞬間にそれを担保として返さなければならないのでインパクトはない。

逆にこの社債が105円のオーバーパーだった場合は、最初に5を払って徐々にその価値を返してもらう形になる。この場合は投資家のリスクを取っているのだから、CVAが高くなる。もちろん有担保の場合は払った5が担保として返ってくる。

現金担保の場合はプレミアムの受け払いはすぐに担保の受け払いで相殺されるが、国債担保の場合はプレミアムを現金で受け払いし、その同等額を国債で返すという形になるのでレポをやっているようなものである。その場合国債にヘアカットがある場合はそれも考慮する必要がある。

本来であれば、こうした担保の違い等によって精緻なプライシングをするべきで、一部の先進行はかなり綿密な計算をしているものと思われる。ただ、こうした概念はXVAの概念が早くから一般的だった海外金融機関に一日の長があるような気がする。

米国債の流動性に対するブレイナード発言に注目が集まった

次の財務長官の最有力候補とみられているブレイナード氏から米国債市場に関するコメントが出されている。

CCPによる中央清算を行うことによって流動性を高めるべき、ブローカーを介さない直接取引を広めるべきとの主張だ。

さすがに現職理事だけあって、3月の混乱やFRB内での議論を踏まえ、よくわかった上での発言と言えよう。

このまま財務長官に就任するとなれば、米国債取引におけるFICCの占める割合がさらに拡大することが予想される。レポ市場の機能不全についても理解が深いだろうから、今後流動性向上のための何らかの策を打つとしても不思議ではない。

そしてブローカーを通さない取引となると、取引執行プラットフォーム経由の取引にも追い風になる。電子取引やアルゴリズム取引の更なる増加にもつながるかもしれない。

翻って本邦に目を転じると、清算集中はそこそこ進んではいるものの、日本国債の電子取引やアルゴリズム取引が進む気配はほとんど見られない。

米国のように流動性が枯渇したと言う事象があまりないからなのかもしれないが、既にガラパゴス化している国債取引マーケットが、さらに海外に遅れを取ると言う懸念が残る。

そういえば地銀の再編をインセンティブ付けするべく最近アナウンスされた方策が、海外でかなり注目を集めている。金利が低下する中、地方金融機関が佳境に陥っている様は、各国共通の課題のようだ。

こうしたアナウンスメントが市場の構造を変えるインパクトを持っていると言うことは、国債の電子取引化等も、当局の後押しがあれば、容易に進むのではないだろうか。

市場参加者自らが、マーケットを変化させようという動きが出てこないのが残念ではあるが、金融機関に一定の保守性が求められる以上、やはり日本においては当局の力というのは他国に増して強いのかもしれない。

ワクチンのニュースが市場の雰囲気を変えた

PfizerとBioNTechの新型コロナウイルスワクチン候補の臨床試験の中間解析結果によって、マーケットの雰囲気は一変した。当然ウィルス感染拡大後に好調だったテクノロジーセクターから、これまで打撃を受け続けてきた不動産や航空会社のようなセクターへの資金シフトが起きた。

デルタ航空やアメリカン航空などのような航空株は15%上昇、英国ブリティッシュ・エアウェイズなどは25%上昇した。ショッピングセンターなどの株の中には2日で50%上昇したものもある。ここまで半値以下になっていたものが戻った格好なのだが、これらの株をショートしていたヘッジファンドが巨額損失を被ったようだ。

バリュー株はは6.4%上昇し、1980年代以来の強い上昇となったが、モメンタム株は13.7%下落で過去最悪の損失となったというJPMの分析も報じられている。さすがにここまで動くとコンピューターを使ったアルゴ取引などのフローも変わってくるだろうから、ちょっとした転換点になっている。

ワクチンもめぐる状況は今後も不透明だが、それでも来年以降は前年比の業績が上向くところが増えるだろう。今年好調だったテクノロジー株も、前年比ベースでは大きく伸びないかもしれないが、そうは言っても業績不安が大きいわけではない。

一般的に米国株はテクノロジー株の占める割合が多いが、この流れからすると今後は米国から日本や英国への資金シフトが起きるかもしれない。

債券に目を向けると、一時的には金利の上昇を予想する声が多いものの、不透明性が高まればFRBが行動を起こすだろうから、金利が大きく上昇していくとも考えにくい。

ドル安とヘッジコストの低下もあり、特に日本の投資家から米国クレジット物への投資意欲も上がってくる可能性がある。足元でのドル調達コストは低位安定しているが、為替スワップや通貨スワップによってドル調達を行って米国社債に投資するという動きが出てくると通貨ベーシスのワイドニングも一定程度起きるかもしれない。

ただし、ファイザー等のニュースの後は、ジャンク債に大きな資金流入がみられた。よく見るとジャンク債の利回りは感染拡大前の水準まで完全に戻っている。銘柄選定は重要だろう。

IBORからの移行タイミング

IBORフォールバックプロトコルの批准が進み、一体いつからレートが変更されるのかと聞かれることが多くなってきた。

プロトコルの文言上はIndex Cessation Effective Dateからということになるのだが、これはIndex Cessation Event(LIBORがなくなるか、LIBORが指標性を失ったというアナウンスメント)の後になる。

このIndex Cessation Eventは客観的に判断できなくてはならなず、プロトコル上は細かく規定されているが、要は当局から何らかの公式なアナウンスがあった時ということになろう。

そしてその日(Index Cessation Effective Date)から、個々のLIBORがAdjusted RFR + Spread Adjustmentに変更される。

Adjusted SOFRは、例えば1か月USDLIBORだったら、オーバーナイトSOFRの30日間の後決め複利計算となる。スプレッド調整は、SOFR(日次複利)とLIBORの差の5年間の中央値で計算される。

本当は2営業日の調整とかテナー毎の調整等が入るので、もう少し複雑なのだが、おそらくトレーダーは、各LIBORのテナー毎に日々5年中央値をアップデートして、スプレッド調整がどこに収斂するかをチェックしているはずである。

5年間のうちかなりの部分が明らかになってきているため、理論的にはIndex Cessation Eventが発生した時の収益インパクトはそれほど大きくならないはずだが、ここで損が出ないよう引き続きモニターしていく必要があるだろう。

BLOOMBERGがLIBOR代替指標構築を発表

これまでAmeriborなどのクレジットスプレッドを加味したLIBOR代替レートについて紹介してきたが、新たにBloombergが指標作成に名乗りを上げた。

どのような指標になるかの詳細は明らかになっていないが、BYIと似たようなものになると報じられている。米国当局がSOFR以外の独自の指標の利用を妨げるものではないというアナウンスもあり、この分野の競争が激しくなってきている。

相変わらず米国にはビジネス機会とみれば様々な企業が競い合うダイナミズムがある。CCPもCME、ICE、Nasdaqなどがあり、SEFも乱立している。英国やEU、日本においては、このような動きはほとんどみられていない。どちらが良いのかはよくわからないが、様々な参加者が切磋琢磨して市場を作り上げるのは悪くないことなのだろう。

日本株への注目度の高まりは持続するか

週末にも書いた通りが日本株に対する注目度が高まり、ついに海外勢からの資金流入の兆しが見えてきた。米大統領選挙後、日本株がトップパフォーマーとなっており、新聞でも欧州の投資家からまとまった買いが入ったと報じられている。

米国の友人と話していても、日本株に注目が集まったのは、小泉ブームとアベノミクスの三本の矢以来だと言っていた。といっても今回はそう言った政治的ネタではなく、単純に日本株が見直されている印象だ。

日本の配当利回りが約2.8%で、米国の2.2%よりも高く、多くの新興市場の配当利回り3.0%に匹敵するという点も注目を集める一つの要因となっている。

ファイザー社のワクチンもEU、英国、日本がまずは大量注文をしており、最初に恩恵を受けるだろうなどと海外メディアでは報道されている。日銀の地域金融機関支援制度まで海外で報道されている。

そうは言ってもこれまで何度も裏切られてきた古い世代は、どうしても慎重になってしまうのだが、しばらく資金流入は続くのかもしれない。これで日本も元気になってほしいものである。

米国のLIBOR代替レートは複数候補が併存することになる

先週金曜に銀行監督当局としてはLIBORに変わる代替レートを特定の候補に限定しているわけではなく、銀行が選択できるとコメントしたというニュースが出ていた。基本的には既にこのブログで述べつくした内容ではあるが、ローンにおいてはSOFR以外のレートが使われる方向性を改めて確認したことになる。

ニュース上ではAmeriborのことも書かれているが、実際どのような発言があったのかは、実際の発言内容が見つからなかったのでよく分からなかった。しかし、これでSOFRに一本化するのではなく、複数のベンチマーク併存という方向性が確実になってきたと言えよう。金融機関としては、それぞれのレートについて金利カーブをシステム的に準備する必要があり、複数ベンチマークを用いたポジション評価をしなければならなくなる。

それほど大きな問題ではないものの、通常金融機関はカーブごとにBid Offer VAなどの様々なリザーブを取っていることが予想される。カーブが増えれば、そのカーブに依存したポジションを解消する際にビッドオファーを払わなければならないので、その分のリザーブが必要になるところが多いだろう。

しかしこのままカーブの種類が増えて、各種VAが増え続けるのは、本当に金融の将来にとって有益なのだろうか。複数のベンチマークが併存するのは避けられないのかもしれないが、無用に複雑性が増して、流動性やプライシングが悪化してしまうと、ユーザーの利便性を損なってしまうのではないだろうか。

FVAはトレーディング損益か?

Risk誌にFVAは通常の損益ではなく、その他の包括利益(OCI: Other Comprehensive Income)に入れるべきだと意見が紹介されていた。3月に海外大手銀行が巨額のFVA損失を出したことも影響している。

FVAの会計計上方法

FVAをヘッジするのはかなり難しく、本当にヘッジになっているかどうかもよくわからないので、個人的には賛成である。そもそも、FVAの計算方法には確立した方法がなく、自らの社債スプレッドを使って計算しているところもあれば、業界の平均スプレッドのようなものを使っているところもある。

計算方法が違う以上、これを変更すればヘッジ量も変わる。つまり経済的に必要なヘッジというよりは、会計上の損益変動を減らすためのヘッジとなっている。同じ理由からストラクチャードノートのDVAがOCIに移ったことを考えると、FVAも同様の扱いにするというのは理にかなっている。

FVAのヘッジ

FVAを競合他社の社債やCDSでヘッジすることも可能だが、そもそもこれにどこまで意味があるのかよくわからない。カナダのようにFVAヘッジを市場リスク資本計算から除外するような措置があれば話は別だが、このヘッジは結局マーケットリスクキャピタルを使うことになるので、資本規制上も望ましくない。

FVAの正確性

そもそも日本ではFVAを計上しているところは一部の証券会社にとどまっており、その意味では収益に影響を及ぼしていない。OCIにすらレポートされていないということだ。海外でも、どこまで真面目にFVAの計算を行っているかもよくわからず、個人的にはかなり保守的にレポートする銀行とそうでないところの差が非常に大きいように感じる。こうしたスタンスの違いで損益変動が大きく変わるというのは、やはり問題なのではないかと思う。

日本株に楽観論?

日経平均株価が約30年ぶり以来の高値を付けた。社会人になったころの株価に戻ったというのは何とも感慨深い。しかも外国人ではなく日本の個人投資家の買いが株価を押し上げている。より日本の個人投資家が株式市場に入ってきているようだ。

トヨタなどの大手の決算は比較的好調で、感染拡大度合いも欧米とは異なり低位で推移しているため、株価暴落を予想する声をよそに楽観論も漂い始めた。確かに近年大きく上げていた海外株に対すると下値安心感がある。

海外メディアでも日本株好調の記事を目にすることが多くなり、比較的コロナをうまく抑え込んでいると思われているところもあるので、ここから海外投資家の関心も高まっていくのかもしれない。

考えてみれば巣ごもり消費で業績を上げているGAFAばかりが強調されるが、任天堂やソニーなども同じような恩恵を受けているのではないだろうか。

日本株に投資しては裏切られてきた記憶を持つ人は多いだろうし、人口減やデフレなどもあり、リターンだけを考えれば海外株の方が格段にパフォームしてきたが、やはり日本の企業にも元気になってほしいものである。

大統領選後に金融業界に対する圧力はどう変わるか

米国大統領選挙の混乱が続いているが、それでも共和党が上院を支配しそうな勢いになってきた(追記:結局バイデン候補当確)。これにより大胆な景気刺激策を打てなくなるという憶測が強まった。金融業界にとってどのような影響があるかと考えてみると、まずはトランプ政権下で35%から21%まで下げられた法人税だが、バイデン政権になればこれを28%まで戻すというのが公約となっている。しかし上院を共和党が取れば、それほど簡単にはいかないかもしれない。

民主党が上院を取れば、銀行に対して厳しい立場を貫くウォーレン議員が財務長官ポストの有力候補だったであろう。しかしマサチューセッツ州にいる共和党知事がこれに反対することが予想される。日本の報道では金融規制強化が進むのではという報道が多いようだが、ある程度の増税のリスクはあっても金融規制が突然強化されるような方向にはならないように思える。

もともとバイデン氏はデラウェア州出身で、デラウェア州といえば様々な金融法人が設立されている州として有名であり、金融の重要性が高い州である。

そうなるともう一人の候補であるブレイナード氏のスタンスも重要だが、いずれにしてもFRBは民主党寄りの政策を取るようになるのではないかという声が多い。銀行のストレステストの緩和に反対し続けてきたブレイナード氏の意向が反映されるとなると、資本バッファの積み増しが要求され、銀行の資本コストは跳ね上がる。あまり金融規制に対して強い声を上げている印象はないものの、金融危機後に導入された銀行規制の緩和にはいつも反対票を投じているという印象がある。

総じてみると、大きく規制緩和が行われるような可能性は低いが、結局規制緩和を訴えたトランプ政権下でもそれほどの緩和はなされていない。そう考えると今までの状況が続くということになるのだろう。

スワップのノベーションはどのように行われるか

通常ヘッジファンドや海外の年金ファンド等は、いくつかの金融機関と取引を行うが、取引解約時にはNovationが行われることが多い。デリバティブの世界のNovationは簡単に言うとカウンターパーティーの交替である。自分の契約をだれか別の人に譲渡するということだが、結局その際に取引相手が変わることになるからだ。

日本ではこうしたファンドは少ないのだが、世界のデリバティブ市場においては、全体の取引量のかなりの部分はヘッジファンドやアセマネがマネージするファンド経由になっており、流動性に大きな影響を与えている。本気でスワップをやろうというのならこうしたファンドとの取引は避けて通ることはできない。これは円スワップでも同様である。

取引頻度が多いため、ノベーションやアロケーション、担保決済、電子取引、取引報告等の事務が煩雑になり、それをサポートするシステムやオペレーションフローが必要になる。こうしたシステムやオペレーションがネックになっているのか、言語の問題なのかよくわからないが、ファンドとの取引先は外資系がメインになっている気がする。

通常ファンドは複数の銀行にクォートを求めるので、複数の金融機関と取引をすることが多い。例えば以下のようにA、B、C、Dとそれぞれ1、2、3、4件のスワップを持っている例を想定する。

この場合、真ん中のヘッジファンド(HF)が利益確定のため全部の取引を解約しようとした場合、AからDの各銀行にそれぞれの取引解約を依頼するようなことはせず、すべての取引を示した上で全部を引き受けてくれる銀行を探すことになる。ここでAが提示したすべてのパッケージのプライスが良くコンペに勝ったとすると、ノベーションが行われ、以下のような関係に変わる。AはHFとの取引一つを解約し、残りの取引はHFが抜ける形(Step out)になる。例えばBから見るとカウンターパーティーがHFからAに変わったという形だ。HFがStep out、AがStep inし、BがRemaining Partyとなる。

レバレッジ比率規制や証拠金規制やOISディスカウントがなかった頃は簡単で、こうしたノベーションが即座に行われていた。現在では、AにとってはB、C、Dと取引を持つことになるため、レバレッジ比率の計算に入れなければならなくなり、証拠金規制対象のファンドであれば証拠金が増えるかどうかのチェックもしなければならない。また、ディスカウントの差などをチェックするために、それぞれとの担保契約(CSA)の確認も必要である。金融危機直後は、こうしたチェックのために回答が遅れてトラブルになることもあったかもしれないが、最近は理解が進んでいるようである。

ただし、CCPによる清算集中が進んでからはこれが楽になった。こうした手間を省くため、清算集中規制の対象になっていないヘッジファンドサイドも自主的にクリアリングをするようになっている。CCPを通じたフローの場合、ノベーションが行われた後すぐにCCPで清算されるため、当初の図のHFがCCPに変わったような形になる。

そしてこの後、ABCDそれぞれがCCPに持っている他のポジションと合わせてコンプレッションが行われ、これらポジションが削減されていくため、レバレッジ比率への影響も少なくなり、ポジションが極端に偏らない限りCCPに対する当初証拠金への影響も軽微となる。ディスカウントはCCPがしてする標準的なディスカウントになる。

CCPでの清算ができな通貨スワップやスワップションについては引き続き従来の問題は残るが、取引の大部分を占めるスワップについては、かなりフローが確立してきた。

ヘッジファンドというと何か日本ではハゲタカ的なイメージがあるが、こうしたファンド勢は市場の流動性向上には不可欠な存在になっている。日本でも資産運用の機運が高まり、ファンドが増えてくれば、こうした取引形態を行うところが増えてくるかもしれない。本邦でもノベーションなどの事務フローを海外並み高度化していかないと、世界に後れを取ってしまうだろう。

日本におけるLIBORからのシフト(その2)

先週末にOISの取引量拡大についてコメントしたが、その後新聞でも同様の内容が報道されていた。もともと日本では、金融に関するニュースが海外に比べて少なかったが、今回の報道記事は、きちんと調べて書かれていて良い記事だったと思う。

LIBORがなくなるとは言え、プロトコルさえ批准すればOKと思っている市場参加者が多いのか、このままでは来年以降何が起きるか非常に不安な状況である。計算期間の最後に金利が決まる後決め複利が日本では敬遠される傾向があり、ターム物リスクフリーレートであるTORFに期待する声が多いが、TORFの流動性を上げるにはOISの取引を増やすことが重要だ。したがって、どのタイミングでOISの取引が増えていくのかに注目が集まっているわけだが、期限を考えるとそろそろ限界が近づいている気がしてならない。

10月の日銀金融システムレポートを読むと、71頁に以下のようなくだりがある。

「⾦融機関に対しては、LIBOR 利⽤状況調査の継続的な実施やヒアリング等を通じて、個別⾦融機関の対応状況を確認し、必要に応じて直接的な働きかけを⾏っていく。」

そして脚注34にこう書かれている。

「第 2 回 LIBOR 利⽤状況調査について、現時点では、2020 年 12 ⽉末を報告基準⽇とし、2021 年 1〜3 ⽉中の調査票の発出を予定している。前回調査(2019 年6⽉末時点)以降における、移⾏作業の進捗等を確認することが主眼である。」

つまり年末時点でLIBOR取引を集計して、1年半前と比較してどの程度移行が進んでいるかを確認するということになる。あまり進捗がみられないと、「必要に応じて直接的な働きかけを⾏っていく」ことになるのだろうか。

もしかしたらこれがきっかけで12月までにOIS取引を増やしておこうという動きが出てくるかもしれない。前回の調査結果を見ると、PV01で集計することの多い海外とは異なり、想定元本ベースでの報告だった。第2回がどうなるかわからないが、日本はデリバティブはリスク量というよりは元本という文化が支配的でもあり、継続性の観点からも、想定元本で継続される可能性が高い。つまり、短期のOIS取引を増やせば元本は大きくなるので、移行が進んでいるように見えることになる。

このからくりに気づく人が増えれば、12月に向けて急速に短期のOISの取引量が増えるかもしれないが、いずれにしてもOISへの移行が進むのは業界にとっても望ましいことである。

USD LIBORの代替指標候補AMERIBORとは何か

LIBOR改革によりドルLIBORに代わるレートとしてSOFRへの移行が進みつつあるが、一方で米国地方銀行を中心にAmeriborを推す声が強くなってきた。

Ameriborとは、AFX(American Financial Exchange)が作成した金利指標で、無担保ローン市場における日々の取引実績に基づいた加重平均レートである。日数計算はActual/360、休日調整はFollowing、小数点5位を四捨五入したレートである。SOFRなどと同様IOSCO準拠のベンチマークとして承認されている。

American Financial Exchangeというと米国を代表する金融取引所かと思ってしまうが、つい5年前の2015年に設立されたばかりの自主規制取引所である。当初は6社のメンバーだったが、その後着実にメンバー数を200社以上に増やしている。これは全米銀行のおよそ1/4であり、メンバー銀行の資産量でいうと全米銀行資産の約14%を占めている。平均的に20憶ドルの取引があり、通算では1兆ドルを超えている。

米国債を担保にしたオーバーナイトの資金調達コストに連動するSOFRと異なり、多くの米国中小銀行の無担保資金調達コストをより良く表していることから、主に米国地銀がサポートしている。3月にSOFRが急激に下がる中、銀行の資金調達コストが下がらなかったことから、逆ザヤを懸念する銀行からの支持が多い。

こうした地銀は米国債保有高が少なく、それを担保に資金手当てをするというよりは、無担保での調達に頼ることが多いので、Ameriborの方が確実に自身の資金調達コストに連動する。何らかの危機が発生すれば有担保より無担保の調達コストの方が上昇しやすいが、貸出金利が有担保の調達コストに連動していると、一気に収益が悪化するからである。LIBORとの相関も99.74%(2020/10現在)とLIBORに近い動きをしている。その他詳細はAFXの月次レポートに詳しい。

またSOFRが米国外の銀行の行動にも影響を受ける一方、Ameriborは米国の一定の銀行の調達コストを反映したものであるため、特に米国地銀にとっては都合が良い。

このような懸念から2020年2月に地銀10行がFRBにレターを送り、Ameriborの検討を呼び掛けた。そして、5月にFRBパウエル長官は、SOFRがLIBOR代替金利の有力候補であるとしながらも、銀行がそれぞれの状況に合わせて適切な金利指標を選ぶことを容認し、中小銀行にとってはAmeriborの利用をサポートした形になっている。LIBORの代替レートとして幅広く認めたというよりは、中小銀行など一部の銀行にとっては有力候補だというトーンのようだったが、これによって複数のベンチマークが併用される可能性が一気に高まり、Ameriborに対する期待も高まった。

既に一部中小銀行では貸し出しレートとして使われており、10月には初のAmeribor参照債券がSignature Bankから発行された。他にも複数のベンチマーク候補があるが、中小銀行向けにはこのAmeriborが一歩抜きんでているように見える。取引量はそれほど伸びていないようだが、Ameribor先物取引も昨年8月から始まっている。

今後はこうした銀行からのヘッジニーズによりAmeribor参照の金利スワップ等も出てくるかもしれないが、これが米国の地銀のみに使われる一部の指標になるのか、クレジットスプレッドを考慮した貸し出しレートを使いたいというその他の金融機関の間でも広く使われるようになるのか、今後の動向に注目が集まる。

FICCビジネスの変遷

債券トレーディングが好調だ。一時期のリストラの嵐が嘘のようだ。FICC (Fixed Income, Currencies and Commodities)と言われるこの部門は、2008年以降の金融危機において諸悪の根源とされ、各種規制強化と相俟って、10年以上に亘ってリストラが続けられてきた。収益は半分近くまで落ち込み、数千人規模のリストラが何度も繰り返された。2012年のUBS(5,600人)、2015年のCredit Suisse(6,000人)、ドイツ銀行(9,000人)等大幅削減が行われてきた。自己勘定取引の禁止と債券商品に不利な資本規制によって、業界地図は大きく塗り替わった。

それが今回の感染拡大を受けた市場変動によって完全に息を吹き返した。社債による資金調達やビジネスリスクをヘッジするという行動自体は、経済活動を行うにあたって必要不可欠なものであり、債務がある以上はそれを何とかしなければならないというニーズが出てくるのは当然である。久しぶりに債券部門への採用も進んでおり、一時はFICCからの撤退とビジネスモデルの変革を訴えていた銀行ですらFICCの再拡大を検討し始めているようである。

とは言え、昨今の収益拡大は特に米系の大手に集中しており、以前のような多数の参加者が競争する状況には戻っていないように見える。自己勘定取引が減少し、トレーダーもリスクを取って収益を狙いに行くような行動がしにくくなり、どちらかというとプラットフォーム商売になってきている。特に海外では電子取引への移行が進み、米国債や為替取引では、リスクを取って儲けるというよりは、機械で巨額の取引をさばき収益を上げている。つまりテクノロジー投資が重要になっており、これが一つの参入障壁となっている。

中堅銀行が大手銀行のトレーダーを高給で引き抜くというようなことが起き始めるのかもしれないが、現在の環境においては、成果が出にくくなっているのではないだろうか。邦銀でも外国人トレーダーを破格の給料で雇うというのは避けた方が良いのかもしれない。それよりはプラットフォームやビジネスモデルを構築してきた実績を持つ人を取って、十分なシステム投資を行っていくのが肝要だろう。特に日本の金融機関のシステム予算は、海外と比べて格段に低い気がする。JGBのマーケットがすぐに電子取引に移行するとは思いにくいが、このままだと日本のマーケット自体が海外に取り残されてしまうかもしれない。

日本におけるLIBORからのシフト

JSCCのデータを見てみると、最近いくつかの変化がみられる。まずはOIS取引の増加だ。2018年が16.2兆円、2019年が23.1兆円だったものが、ことし10月までで28.4兆円に増加している。特に10月は6.4兆円と今年最大となり、取引量の多かった3月を上回っている。

もう一つは日本円TIBOR(DTIBOR)だ。8月を除けば、全般的にユーロ円TIBOR(ZTIBOR)と比べてDTIBORの取引量が多くなってきている。短い年限はZTIBOR、長い年限はDTIBORが多い。このまま行くと、今年は一年を通して初めてDTIBORがZTIBORを上回るかもしれない。D-Zのベーシススワップも昨年の2倍程度清算されている。

LIBOR参照スワップは今年はかなり減ってきているが、一部LCHに流れたと思っていたが、最近ではLCHの取引量も減ってきているようである。

TIBORについては将来的なDとZの統合をにらんで、DTIBORへ取引をシフトさせているのかもしれない。また、LIBORがなくなるのに備えて、今のうちからDTIBORにシフトさせる動きもあるのだろうか。

OISの増加は、今後のTORFの流動性確保のためにも望ましいだ。プロトコルの批准も始まり、LIBOR改革のタイムラインも厳しくなってきたため、更なるマーケットの変化が望まれるところである。

ESG投資を401k対象から除外

ESG投資が盛んになってきたが、米国労働省はこの度、退職金プランの401kへの投資対象先に関しては、あくまでもリスクリターンを重視すべきであり、それ以外の環境や社会的目的に基づくべきではないという法案を最終化したと報じられている。

あれだけ批判の声が上がっていたにも拘らずそのまま最終化されたのには正直驚きを隠せない。今年のESG関連投資を組み込んだファンドの7割が旧来のファンドのパフォーマンスを上回ったという記事もあったが、ESGだからといってリターンがないがしろにされているという懸念もよくわからない。

ただし、ファンドマネージャーが、そうした投資がいかに受益者のリターンにつながるかを示せれば例外的に認められるとされている。当然投資顧問会社は反対をしてる。そもそも退職後の生活を支える資金なのだから、投資目的は環境問題や社会的問題と結びつけるべきではないという発想なのかもしれないが、こうした投資がリターンを生まないとも限らない。

一応禁止というわけではないのだが、そのための申請手続き等が煩雑になる。しかし購入者が限られてしまうということで、他のファンドに比べて不利になったりしないのだろうか。2018年にはこうしたファンドを401kに組み込んでいるのは2.8%くらいだそうなので、すぐに大きなインパクトがあるとは思えないが、こうしたファンドへの資金流入額が第三四半期に98憶ドルと過去最高を記録している中、今後の影響は相応にあるのではないかと思われる。ESG関連ファンド資産も2012年には5兆ドルにも満たなかったものが、今年は17兆ドルを超えている。まあこの法案も選挙の結果次第で変わるのかもしれないが。

金融トレーディング専門用語

金融機関にいると、ロングとかショートとかいう言葉が頻繁に使われるが、慣れないと結構面倒だ。基本的にロングは買持ち、ショートは売り持ちなのだが、債券の世界では商品特性の違いもあるので厄介だ。また、受けと払いの方向もわかりにくい。会社による違いもあるかもしれないが一応主なものを整理しておく。

デルタショート

固定金利払い変動金利受けの金利スワップを行うと、金利ショートになる。金融機関によってプラスマイナスが異なることもあるが、一般的にはショート方向をプラスの数字で表すところが多いのではないだろうか。債券をショートするのと同じ方向で金利が上がれば利益が出る。

反対に固定受けだとロングとなりマイナスの数字として表れる。社債をロングするのと同じ方向で、金利が下がれば利益が出る方向だ。

クレジットロング

クレジットリスクを取るという方向なので、社債の買い、CDSの売りをクレジットロングという。全員がこう言うのか定かではないが、CVAトレーダーはこの言い方を使っている。CDSをロングするという場合もあるが、これはCDSの買いになるのでヘッジ方向、つまりクレジットショートになり、結構面倒なので、クレジットリスクを取っている方をロングと言う方がCVAトレーダーにはわかりやすい。

通貨ベーシスの受け

ベーシスが受けられたのでドル円ベーシスが拡大したなどというが、日本のカウンターパーティーがドル調達をする方向の通貨スワップを行ったときに、取引を行った金融機関行サイドではベーシスを受けることになる。日本の企業がドル調達をするということは、企業サイドが当初ドルを受け取って円と交換する。その後ドル金利を払い円金利を受け、最後にドルを返して円を受け取る。

現状通貨ベーシスはマイナスだが、このような取引が増えるとドル円ベーシスがマイナス方向にさらに拡大する。サムライ債を発行して円を調達し、それをドルに交換するような場合も同じ方向になるのでベーシス拡大要因になる。反対にドル債を発行して円に倒すときはベーシスの払いとなり、ドル円ベーシスは縮小しマイナスが小さくなる。

ドル円のショート

為替の場合はスポットでドルを売って円を買う場合にはドル円のショートという。最初にドルが来ているので、それをショートするということなのだろう。ドル円が下がるというと円高方向に進むということになる。

相場の強弱を表す用語

相場の方向を表す言葉には様々なものがある。一般的に国債が買われているときは「強い」というが、反対語は「弱い」ではなく「甘い」である。国債が買われて金利が低下しているときは、売られて金利上昇するとと言われる。野球の打者の打率で3割2分9厘などというが、これは0.329。厘の後は毛、糸、忽と続く。0.329155だと3割2分9厘1毛(もう)5糸(し)5忽(こつ)となる。前日の引け(終値)から0.5bp下がれば5糸強(ごしづよ)と言う。他にも様々な特殊用語があるが、国債トレーダーに外国人がほとんどいないのは、これらの特殊用語のためなのかとすら思ってしまう。

外国人トレーダーは債券が買われているときはStrongFirmBullなどと言うが、売られているときはWeakBearということが多く間違ってもSweatとは言わない。当然日本語で牛とか熊とも言わない。

Better offeredというと売られる方向だ。日本語でもオファーが強いなどと言う。あまり上がらないということでHeavyということもある。相場の重しになるという日本語と近いのだろう。

相場が上がっているときにラリーする(英語ではRally)という言葉も良く使われる。辞書では反発する、回復すると書かれているが、単純に上がっているときにもラリーすると言っているように思う。UnderperformingOutperformingも良く使う言葉だ。相対的な意味合いがあるので、30年だけが強いときに30年がアウトパフォームするという。

改めて見てみると相場の世界は日本でも海外でも不思議な言葉が多い。

SOFR Swapへの移行が進み始めた

LCHとCMEにおけるディスカウントレート変更が無事終了し、SOFR参照の取引量が増加してきた。一時は30年で9bp近くまで拡大していたSOFR/FFベーシスもオークション後に5bp台に縮小したことを考えると、オークションは問題なく行われたといってよいだろう。LCHにおけるベーシススワップの解消コストも、20年以下の年限で0.16bpから0.46bp、最も高かった30年でも0.58bpと、比較的落ち着いた結果となっている。CMEも全体的に0.14bpのコストだったようだ。

SOFRスワップの取引量もオークション周りの日で過去最高を記録し、その後も着実に取引量が増えることが期待されている。オークションにかかる取引については11月19日までレポートしなくても良いことになっているため、実際の取引はもっと多かったとも思われる。特に長期の取引が多くなっているようだ。

先にポストしたように、今回のLCHのオークションは興味深い示唆を与えてくれた。通常は取引が一方向に偏っていると思われていたが、実際はかなり受け払いが均衡していたという点だ。30年こそ予想通りの方向での偏りが若干見られたが、20年以下のところはほぼ受け払い交錯という形だったように思う。そうなるとCMEか、相対取引で偏りがあるということになるのだろうか。CMEのオークションの詳細はあまり公表されていないが、今回オークションがスムーズに完了したことを考えると、クライアントクリアリングのポジションには、それほど大きな不均衡はなかったと言える。そうなるとやはりCCPでクリアリングされていない、相対取引に偏りが残っていることになるのだろう。

クリアリング規制のかからない事業会社等が固定クーポンの社債を発行したときには、銀行はその事業会社と固定払い変動受けのスワップをすることになる。そのヘッジはCCPに行くだろうから、相対取引で固定払い、CCP取引で固定受けというSplitになる。

今回はそのうちCCPから固定を受ける方向のディスカウントが変更になり、相対取引の固定払いの方は変更が起きていない。つまり、ここでかなりのミスマッチが生じているのではないだろうか。

まあおそらく、大手行はこのあたりを加味した上でヘッジを行っているだろうし、CCPの当初証拠金が増えないようにMVAを取っていると思われるので、特に大きな問題にはならないのだろう。さすがに大手邦銀は大丈夫だろうが、こういった準備をせずにドル金利スワップを抱えている銀行がいるかどうか気になるところである。

アルゴ取引は市場流動性を高めるか

BISからアルゴ取引が為替マーケットに与えた影響についてのペーパーが本日付けで公表されている。色々な意見はあるものの、3月の市場混乱期にはアルゴ取引が市場の効率化に好影響を与えたと分析している。当然危機を増幅するという危険性はあるものの、むしろ取引執行にプラスになったという結論をBISのペーパーで導き出しているのは興味深い。

以前フラッシュクラッシュが起きた時は、アルゴ取引がその変動を増幅させたとする論調が多かったため、若干この結論には驚いたが、何となく感覚とも合う気がする。

アルゴ取引を行えば、巨大な注文を小分けにして市場にインパクトを与えないような取引執行をすることが可能になる。取引量は多くなり、市場に出てくる取引執行量が分散されるという効果があるのだろう。現在アルゴ取引はSpot FXの20%近くを処理するようになってきているようだが、徐々にそのユーザーのすそ野が広がり始めている。

そもそもアルゴで行っているような取引は、以前から自動化はされていなくても、手作業で似たようなことが行われていたため、単にその効率性を向上させただけなのかもしれない。こうなると優秀なアルゴ、電子執行システムを持つところが競争優位に立つことになる。残念ながら、この点に関しては海外企業の方が強みを持つ企業が多いように感じる。

それほど難しいことではないのだが、人海戦術に頼り十分なシステム投資をしてこなかったツケが回ってきているのではないだろうか。あるいは海外で増えている高速取引を主に行うファンドや機関投資家が日本には少なく、日本は事業会社向けの地道なサービスから収益を上げるという構造が定着してしまっているからかもしれない。

金融以外ではこうした技術を応用しようという動きはみられるが、なぜか金融においては、いつも海外の後塵を拝してしまう。とは言え、BISまでお墨付きを与えたような流動性供給の役割を日本が担えないというのは何とも悲しいところである。今後の発展に期待したい。

AMERIBOR参照債券が発行された

LIBORからSOFRへの移行が叫ばれる中、銀行の調達コストを加味しないSOFRでの貸し出しに対する懸念が発生し、信用スプレッドを反映したレートの検討が進められてきた。

そしてついに今月初めにAmeribor参照の債券発行が行われたようだ。$375mmの5年債ということでそれほど大きなサイズではないが、地銀が発行するサイズとしてはまずまずの大きさだ。Ameribor参照の債券が発行されたとなると、Ameribor参照の金利スワップも行われるようになるのかもしれない。既にAmeribor参照のローンは取引されているようなので、意外と地方銀行や中堅銀行で広く利用される可能性が出てきた。

SOFRのターム物がまだ確立していないため、Ameriborがなくなった場合はSOFRにフォールバックするという条件になっているようで、今後はターム物のAmeriborも作られるようだ。

欧州ではこのような議論にはなっていないが、銀行の調達コストが急上昇した時に、リスクフリーのSOFRで貸し出しを続けてしまうと採算割れになってしまうという懸念は各国で高まっている。日本ではTIBORがあるから問題ないということなのかもしれないが、結局複数のレートが使われるようになるのだろうか。Ameribor vs SOFRのようなベーシススワップマーケットも生まれてくるのだろうか。