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ストレスキャピタルバッファが金融機関のリスク耐性を弱める?

8/10月曜にFRBのストレステストの結果が公表されたが、以前もお伝えした通り、10月1日から本格導入されるSCB(ストレスキャピタルバッファ)のインパクトに注目が集まっていた。

予想通りではあるが商業銀行より投資銀行系のGSとMSのSCBが6.7%、5.9%と大きく、最大はドイツ銀行の米国ビジネスにかかる7.8%だった。

SCBは非常に大きな経済混乱が起きた時にどの程度損失が出るかを考慮して追加で資本を積ませるというコンセプトなので、トレーディングポジションの多い銀行のバッファが増えるというのは、一般の人にはわかりやすい指標なのだろう。

このテストをするときに、GDP、失業率、金利、為替など、ストレス環境下で何が起きるかをまず決めて、そのシナリオにおいてどのくらいの損失が出るかということを予想していくのだが、このプロセスをトレーディングポジションに当てはめると、このSCBは一体何の役に立つのだろうかと思ってしまう。

景気が悪化して金利や為替が急激に変化し、市場ボラティリティが激しくなった時に、どれくらいの損失が出るかと金利、為替トレーダーに聞くと、ほぼ全員が利益が出ると言ってくるだろう。ボラティリティが上がるということはBid Offerも広がるだろうし、市場変動に備えて持っているオプションからの利益も上がる。特にエキゾチック物を扱うトレーダーなどはかなりの収益が見込める。ストレステストを提出しなければならない担当としては、ストレス時に収益が増えるシナリオは作れないので、いったいどうやってこの整合性をとっているのか不思議である。

SCBはクレジット物やローンなど、取ったポジションを一定程度保有し、それが不況によって毀損することを想定しているのかもしれないが、金利、為替トレーディングでは巨大なポジションを持つことは少なく、たいていはヘッジされている。特に2008-9年以降の規制強化によって自己勘定取引ポジションを膨らませることができないので、尚更だ。

今回のストレステストではGSをはじめとする5銀行が異議を唱えて結局それは却下されたが、ボラティリティが上がった時にトレーディング収益は下がるのではなく上がるというしごく当たり前の主張だったのかと思う。事実、コロナショック真っ只中の第二四半期はどの銀行もトレーディング収益が最高益に近い数字を叩き出している。

ほとんどの銀行で自己資本比率は向上しており、このコロナ危機によって打撃を受けたのは引当金の積み増しを余儀なくされたローンの方であって、トレーディングはどこも絶好調だった。ストレスキャピタルバッファがこうした経済混乱に備えるものなのであれば、トレーディングポジションの大きい投資銀行系ではなく、ローンの割合が大きい商業銀行系に厳しくあるべきというのは当然の主張だろう。

不況になれば利益が出るというのは、一般的には理解しにくいのかもしれない。まして銀行がそんなプランを作ってきたら当局は一発で却下するだろう。だが、不況になれば利益が出るようになったのは過去10年の規制強化によるものであり、その意味では当局の功績は大きい。リーマンショックの時に損失が出たというのは事実だが、その損失の中身を詳しく見ていけば、それと同じことは今の規制環境下では起きにくいということは容易にわかるだろう。規制以外にも各銀行とも今ではVelocity(取引の回転率)を重視しており、リスクポジションを長期にわたって抱え込むということをしなくなっている。

これで資本賦課が大きいのでトレーディングポジションを減らしていけば、せっかく不況時にショックアブソーバーとしての機能を持っていたポジションがなくなって、逆に金融機関の不況に対する耐性を弱めてしまうのではないだろうか。ストレステストは保険会社、アセマネ、年金基金、ローン中心の銀行など、リスクをとってビジネスを行う業態にはなじむかもしれないが、リスクをすぐにヘッジしてBid Offerで細かく収益を積み上げる証券仲介業を中心とするビジネスにはあまり意味がないのではないだろうか。

10月に向けSOFR-FFベーシスの変動は起きるか

10月のUSD IRSのディスカウント変更プロセスについて書いてきたが、SOFRとFFのベーシス拡大を予想する声が大きくなってきた。確かに6月以降このベーシスは若干拡大しているように見える。

通常リアルマネーと言われる保険会社や年金ファンドは、金利リスクをヘッジするため、長期の固定受けスワップを持つことが多い。一方アセマネのフローは、固定クーポンの社債を買ってそれをヘッジするニーズがあり、どちらかというと固定払いが多くなる。

既存の固定受けスワップは昨今の金利低下によって勝ちポジションが大きくなっているが、割引率変更時にはSOFRを受けてFFを払うスワップを入れることになる。つまりリアルマネーはSOFR受けのスワップをブックし、アセマネは払いのスワップをブックすることになる。

LCHではこのベーシススワップを行わないOpt Outができることになっているが、そうするとこのベーシススワップがオークションにかけられマーケットに出てくることになる。このオークションにかかるスワップの想定元本は、その時のスワップの時価と等しくなるので、スワップの勝ち分がどの程度か、またOpt Outを選択した参加者がどの程度いるかに依存する。

つまり、SOFR-FFベーシスが拡大するということは、固定受けのリアルマネーがOpt Outし、SOFR受けのベーシススワップの方が多くオークションにかけられるということを市場が予測しているということになるのだろうか。また、アセマネは固定払いに偏るとは言え固定受けのニーズもあるため、どちらかというとリアルマネーのフローが大きくなるという予想のもとで動いているのかもしれない。そして金利が下がれば下がるほどスワップの勝ち分が増えるので、この動きが増幅されていくことになる。

一方、スワップの勝ち分をリセットする方法にリクーポニングがあるが、こうした動きも観測されているようだ。つまり、以前1.5%の固定受けのスワップを行っていればその勝ち分が大きくなっているが、その1.5%を例えば0.5%に変更すれば、勝ち分は少なくなる。当然少なくなった分は損をするわけではなく、現金で受け取れる。こうすればディスカウント変更時に行うベーシススワップの想定元本が減らせる。

オークション自体はLCHが10/16に、CMEが10/19に予定されているが、オークションにかけるかどうかの選択はCMEが10/2までにCMEに連絡、LCHが9/4までにクライアントクリアリングブローカーに連絡することになっている。LCHがオークションサイズの予測値を公表するのが9/18である。こうした日程をめがけてマーケットがどのように動くかに注目が集まる。

USD IRSディスカウントレート変更プロセス

今後のマーケットインパクトもありそうなので、LCHやCMEで10月16日から19日に行われるディスカウントレート変更についてまとめてみたい。LCHではUSDのみならずKRW、CNY、INR、BRL、TWDなどのNon Deliverable通貨やMXNスワップも対象となる。また現金決済ではなくスワップ決済のスワップションも、行使によってクリアされた瞬間にSOFR割引となる。

デリバティブ取引は結局は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものなので、割引率(ディスカウントレート)が変われば当然ポジションの時価が変動する。時価が変化すると言うことは、その時点で得したリ損したりする人が出てくる。もともとのスワップのクーポン等のキャッシュフローには何の変更も起きない。

時価とともにもう一つ変化するのがリスク量だ。相対取引でヘッジをしていた場合、CCP取引の方だけ割引率が変更になると、ヘッジのズレが生じてしまう。したがって、従来と同じような状態を続けるには、損をした人はその分の現金を受け取り、得をした人は現金を払い、CCPとの間でリスクをフラットにするための新たなスワップをブックすることになる。

おそらくクライアントクリアリングでLCHに参加している人は、このCash onlyかCash+Compensating Swapかの選択をするよう通知を受け始めているものと思う。ちなみに、Cash onlyを選択することをOpt Outするという。期限は9月4日と報じられている。

通常はSwapも同時に行った方が、リスク量の変化がないので、CCPとしても望ましい。ちなみにLCHではディーラー自身のポジションにはこのOpt Outが認められず、強制的にSwapをブックすることになる。それくらい通常であればSwapもセットで行うのだが、デリバティブ取引に明るくないエンドユーザーの中には、何だかよくわからないスワップを行わなければならないならCash Onlyで良いという選択をする人が多いかもしれない。CMEにはこのような選択肢はなく、強制的にスワップがブックされるようだ。

このスワップはFFとSOFRのベーシススワップになるはずだが、オークションを行うことによってその後解約され、オークション時に得られた情報によってスワップのValuationが行われる。

つまり、このオークションにどのくらいのスワップがかけられるかというのは、その時のスワップの時価とどの程度のエンドユーザーがOpt Outするかにかかってくる。これによってマーケットが動くことも十分予想されるので、今後もモニタリングが必要だろう。

円LIBOR改革第二回市中協議

昨日日銀から第二回の市中協議文書が公開された。意見提出の期限は6月30日となっている。意見募集段階なので、特に目新しい内容はないが、これまでの経緯や今後の対応が良くまとまっており、一読されると良いかと思う。

概ね海外の対応と平仄を合わせた形になっており、実際の準備作業の遅れは目立つものの、内容的には海外とそん色ないところまで来ている印象を受ける。

オペレーション面での懸念から日本だけ決済期間を長くするかという議論もあったが、特にそういった要望を上げていくという雰囲気は感じられない。決済金額の確定から決済までの期間がLIBOR スワップ対比で短いため、システム改修等が必要とした先が一部にみられたものの、全体としては、事務フローやシステム面が日本円 OIS 取引活性化の制約になる可能性は低いことが確認されたとコメントされている。

貸出、債券と区別した上でフォールバックの順序も明確に示されており、海外と比べて特に違和感はない。

移行スケジュールについても海外のベストプラクティスを意識した形になっており、以下のようなタイミングが示されている。

  • 契約当事者間での交渉開始(今!)
  • 後決め複利に対応した体制整備(2021年1Q)
  • 新規LIBOR参照ローンの停止(2021年2Q)
  • 新規LIBOR参照社債の発行停止(2021年2Q)
  • ターム物RFRの確定値公表開始(2021年2Q )
  • LIBOR参照ローン、社債の顕著な削減(2021年3Q)

システム対応は今年中にはほぼ終わらせておかなければならず、来年の今頃には新規LIBORローン、社債はなくなっているというプランだ。契約当事者間の交渉は既に始まっているとは思うが、「どうしましょうねえ」という会話から始まって、「まだまだ不透明な点も多いので引き続き議論を継続しましょうか」という形になっているのではないだろうか。

夏休みが終わったら急速にギアを上げていかなければならないと思う。

日本は在宅勤務になると取引量が減る?

4-6月の第二四半期のJPY SwapのCCP清算額が久しぶりに400兆円を下回った。LCHのシェアがJSCCを上回ったのも久しぶりである。USDやEURも落ち込んでいるが、これらの通貨は第一四半期に取引量が拡大していた。日本の場合は450兆円くらいで安定していたため、360兆円程度への落ち込みはかなり大きい。

興味深いのは、この落ち込みのほとんどはJSCCから来ており、4月に緊急事態宣言が出で、多くの日本の市場参加者が在宅勤務へのシフトを余儀なくされたことも関係しているのかもしれない。

海外は、3月に在宅勤務へのシフトが起きたが、取引量が落ち込むこともなく、逆に市場の変動拡大により、取引量が拡大している。海外当局のSTP規制の影響もあってか、システム投資が完了していたため、たとえ自宅であっても、取引執行から決済までほぼ自動でプロセスできる仕組みが整っていたからかと思われる。

確かにConfirmation送付、取引ブッキング、決済、マージンコール等、日本ではかなりマニュアル作業が多いのは周知の事実であり、自動化、標準化というよりは、特別なマニュアル対応をすることにより顧客獲得競争をしてきたという側面もある。効率性よりも手厚いサービスを売りにしてきたのが裏目に出たとは言えないだろうか。

しかし、LCHで清算する海外勢や外資系が引き続き取引を続けているため、日本の円金利市場が海外勢の動向によって動くマーケットになってしまっている。特にLCH-JSCCベーシスの動きが目立つ。このままでは、大きな市場変動が起きた時にも国内勢が取り残されたり、海外勢の動きによって日本の市場が混乱したりしてしまうのではないだろうか。

確かに巨額のシステム投資を行って業務効率化を図ると、それらの職に従事していた従業員の仕事がなくなってしまう。人の雇用を守るためには自動化や標準化は避けたいという意図が働くのかもしれない。

ただし、機械は感染しないが人は感染する。もしかしたらコロナがこの流れに終止符を打つのかもしれない。

通貨スワップのRFR移行はどのように行われるのだろうか

昨日ドル建て社債のLIBOR移行対応の遅れについて書いたが、もう一つドルが関係するものに通貨スワップがある。日本円LIBORについてはUSD LIBORなどの他の通貨の動きを見てからと様子見が続いているが、通貨スワップはYen LegだけでなくドルLegもある。つまりUSD LIBORが移行するのであれば、片方のLegだけは移行をしなければならない。しかも通貨スワップはCCPでクリアされたものが事実上ないため、全てが相対の交渉となる。

移行時のスプレッドは過去5年間の中央値を使うことで合意形成はできているが、この5年間は通貨によって異なる可能性が高い。Libor Discontinuationのアナウンスメントが今年末までに出る可能性があるというFCA高官の発言もあったが、この5年間の計算は通貨スワップの場合かなり複雑になる。

ドルLegだけをまずは変更し、その後に円Legも変更するという二段階の価格変化が起きるということもあるのだろうか。それとも面倒だから遅い方に合わせて一気に変更するのだろうか。

この移行時期についてヒントを与えるものとしては、早ければ9月にも公表が見込まれているIBA(Ice Benchmark Administration)の市中協議の結果に注目が集まる。

今後ISDAのフォールバックプロトコルに批准した市場参加者と、批准していない参加者が存在する上に、通貨ごとにタイミングがずれるとなると、様々な組み合わせが存在することになり、かなり市場が混乱することが予想される。これまでは、EONIA-ESTRへのディスカウント変更、FFからSOFRへのディスカウント変更、USD IRSやGBP IRSの移行の話が中心だったが、そろそろ通貨スワップについても議論をしていく必要があるだろう。

ASIAのLIBOR移行の遅れが目立ってきた

アジアではなかなかLIBOR対応が進まないという報道がRisk.netに連続して出ていた。確かに欧米に比べると日本を含むアジアではどうも期限が近いという切迫感がない。

各種メディアで報じられている通り、アジアでも数多くのドル債が発行されており、その金利指標をどうするかは、全ての発行体にとって一大事のはずなのだが。

少なくともこれまでに発行した社債のFallback文言がどのようになっているかは分析しているとは思うが、発行時期によって様々なバリエーションがある。例えば、非常に古いものになるとScreenに表示されたレートを使うといったものから、Dealer Poll(ディーラーに提示してもらう)を取ってその平均を取るとか、Pollを取って最後のLIBORで固定するとか、Determination Agent、Calculation Agentになっている銀行がReasonable DiscretionやAbsolute Discretionで決めるというものなどがあるかと予想される。中央銀行等によって決められた代替レートを使うという文言も見たことがある。

数年前に発行されたものであれば、何らかのフォールバック文言が入っているかもしれない。直近のものであればARRCの推奨文言が入っているだろう。ISDAのDetermination文言が使えるものもあるだろう。

さすがに来年1月1日くらいからはUSD LIBOR参照の社債発行はなくなり、標準フォールバック文言を入れていけば良いので新規についてはそれほど心配はないのかもしれないが、既存の社債について全く社債権者に働きかけを始めていないということになると、かなり先行きが懸念される。

とは言え、こうした対応を一般企業の財務担当者が行うのは、かなり大変だろう。社債発行企業を集めたセッションか何かが本当はあった方が良いのかもしれない。

割引率変更時にCash Compensationを行わないのがマーケットスタンダード?

LIBOR改革にともない割引率が変更される際には、Swaptionなどの相対取引の時価が変更になるため、利益や損失が出ることがあるが、これを現金で決済(Cash Compensation)して、スムーズに移行させることをECBの委員会やARRCが推奨していた。しかし、JPMorgan、ドイツ銀、野村等が顧客に対してこの現金支払いを行わないと連絡しているというニュースが出ている。

今週月曜のEONIAからESTRへの変更は滞りなく行われたと思っていたのだが、やはり業界でコンセンサスが取れなかったのかもしれない。契約上きちんと定義していないことはやらない、業界標準のやり方が固まって、単純に当初の契約通りに処理をするというのが理由として挙げられている。ただし、一部の銀行はこの支払いを行う方針を打ち出しており、業界としてもかなり混乱している印象を受ける。

確かに銀行としても、自分のポジションが損をした場合だけ現金支払いを受けられず、自分が得をするときにはそれを相手方に払い出すとなる可能性がある。当局がバックについている委員会で推奨されているのだから、全員が受け払いをするというのが最も美しい解決策だと思っていたのだが、現実はそれほど簡単にはいかないようだ。

しかし、こうなると10月のUSD FFからSOFRへのディスカウントレート変更に際しても大きな問題が発生する可能性がある。そもそも現金決済を合意したとしてもその金額まで完全に合意するのは難しい。

相対の担保契約も年末までに変更するというのがARRCのベストプラクティスだったが、この変更時にも時価の変化によって損益が発生するので、こちらも予定通りに進むかどうかが怪しくなってくる。

当局がステップインしない限り、デリバティブでもLegacy契約が残ってしまうことになりかねない。10月までに何らかの解決策が見いだされることが期待される。

日本で流通しているLIBOR参照のドル債に対する対応が遅れている

感染拡大への対応からLIBOR改革が遅れるという期待は少なくなり、急ピッチで準備を進めなければならないというのがようやく業界の認識になりつつある。とは言え、欧米に比べると日本の動きは鈍く、ドルなど他通貨の動きを見ながら動けばよいという雰囲気が漂っている気がしてならない。

確かに、新レートへのConversionなどは他通貨の事例を参考にしながら動けるのかもしれないが、日本の市場参加者が持っているドルのポジションや、ドルで発行した社債等の対応は、USD LIBORについてものもなので、米国と同じタイミングで進めなければならないはずである。にもかかわらず、最近発行されたドル債はLIBOR参照のものばかりであり、これをSOFRにするというニュースはアジアでは皆無に等しい。

投資家の方も普通にLIBOR参照の社債の購入を続けているように思える。LIBOR廃止に対応するには、社債権者集会を開催し、すべての社債保有者からの同意を取って、フォールバック条項を加えておかなければならないのだが、あまりこうした動きが進んでいるようには見えない。

これを行わず、いきなりLIBORがなくなったら、その時のレートで固定クーポンに変わってしまうということが起きかねない。日本に入ってくる情報が少ないから仕方がないのかもしれないが、社債を発行している会社はすぐにでも動かないと間に合わなくなるのではないだろうか。

ターム物RFRの構築はいつか

IBA(ICE Benchmark Administration)から、米ドルSOFRのターム物金利が試験的ではあるものの年末までに利用可能になるというコメントがあった。FTSEやCEMも同じような時間軸で見ていて、既に試験的なタームレートを提供しているCMEも、ベータ版を今年後半にリリースすると発表している。

ARRCも各社からの提案受付を9月に始め、来年前半には公表を始めたいとしている。後決め複利のSOFRよりは、ターム物を選好する声も大きいことから、ターム物の構築が進むかどうかはLIBOR改革の鍵となっている。ローンや証券化商品、社債市場にも影響を与えるので、この動向には注目が集まる。

ARRCとしては、ターム物の発展には流動性向上が必要としているが、10月に予定されているCCPの割引率変更やCMEの先物の取引量拡大に応じて、今後流動性が上がっていくのではないかと期待されている。英国でも似たようなことが起きているが、直近の動きを見ていると、SOFRのような新レートを参照したOTC Swapよりも先物の流動性向上が先に起こり、ターム物の構築へとつながっていくという流れのようだ。ベンチマークプロバイダーの中には先物データを利用していないところもあるようだが、この辺りも徐々に変わっていくかもしれない。

日本ではQUICK社が既に試験的な公表を始めているが、未だこれを利用した取引はほとんどみられていないものと推測される。日本の場合は先物というよりはOTCの取引からレートを構築していかなければならないものと思われるため、市場参加者の積極的な協力が不可欠になるのだろう。

7月末にEUにおいて各種規制緩和が公表される模様

欧州当局から資本規制緩和の延長と配当支払停止措置の延期が7/28にでもアナウンスされると報道されている。3月までの時限措置を10月まで延ばすというものだが、配当停止については年末までという報道もある。

一方、小型株やエネルギーデリバティブの取引規制緩和の話も出ている。これはMiFID IIの修正として近日中にアナウンスされるようだ。ついでにと言ってはなんだが、リサーチの手数料を取引と分離するリサーチアンバンドリングについても何らかの緩和が行われるとの憶測記事もある。€10億ドル未満の投資会社についてこの規制の対象外とする緩和のようだ。

他にもベンチマーク規制についての変更も予定されているが、EUの市場参加者がWMRのような為替ベンチマークが使えなくなるという内容も議論されている模様だ。

全般的にはコロナショックを受けた規制緩和と配当規制、Research Unbundling等に代表されるMiFID IIの緩和、EU独自のベンチマーク規制強化が含まれているようだが、来週以降のニュースに注目したい。

EURのディスカウントレート変更まであと数日

ついにEONIA(Euro OverNight Index Average)からESTR(Euro Short-Term Rate)へのディスカウントレートの変更が2/27、今度の月曜に行われる。当然取引の時価が変わるため、得をする人もいれば損をする人もいる。CCPでクリアされている取引については混乱なく移行が進むだろうが、相対取引をどのように移行させていくのかは非常に興味深い。特にSwaptionでこの移行がどうやって進むかに注目が集まる。

ECBがサポートする委員会ではここで発生した損益は現金のやり取りによって相殺すべきであり、ここから損得が発生しないようにすべきとの指針を打ち出してはいるものの、相対契約に対する法的強制力はない。

10月にはUSDについて同様の変更が控えているため、来週以降のマーケットで何が起きていくかは非常に興味深い。日本円の場合は既に翌日物金利での割引が行われており、ディスカウントレート自体の変更は発生しないが、ドル金利スワップやドルスワップションを取引している参加者にとっては無視できない動きである。

自分勝手にここから儲けてやろうという参加者が出てこないことが切に望まれる。

CFTCがクロスボーダースワップルールの最終案を承認

待ちに待ったCFTCのクロスボーダー規制の最終案が公表された。これでリーマンショックに端を発するDodd Frank法の大きな改訂が完了することになる。

日本を含む海外市場参加者との取引について米国同局がどこまで関与するかが明確化されたため、日本にとってもポジティブなニュースである。たとえ日本国内の取引であったとしても米国に本社を持つ外資系が関わった場合に、どこまでドッド・フランク法が関与するかは常に厄介な問題であった。もともと、TOTUSレターを手配して米国人が関与しないよう、様々なプロセスを追加しなければならなかったが、昨年のTOTUSレターの廃止に続いて、今後はUS Personが関与したとしてもドッド・フランク上のスワップディーラーの要件がかからなくなる(まだ全文を読んではいないが、おそらくそのはず)。

これで、日本の規制にさえ従っていれば、米国規制の影響を受けることなく取引ができるようになるはずだ。いわゆるANE問題がクリアになることになる(ANE=Arrange、 Negotiate、Execute。米国人が取引のアレンジ、交渉、執行にかかわると米国規制に服すというルール)。

もともと日本では、米国人が関与すると米国規制に従わなければならないというコンセプトだけが有名になってしまい、その詳細がわかりにくいということで、かなり厄介な規制であった。当然のことながら、日本の市場参加者からすると、面倒なので米国と関係していそうなら止めるとか、相手に米国と関係していないことを証明させるという選択肢しかなかったのだと思う。

しかもANEの定義があいまいで、取引のアレンジに関わるとは、どこまでを指すのか、交渉にはどのような話が含まれるのかを定義するのが難しく、このためにNY州法の弁護士に多額のフィーを払うよりは、止めてしまえという判断もあったのではないだろうか。

今回のドラフトを読んでいて面白いのは、JFMC/IBAJのコメントが多数引用され、採用されている点だ。JFMCはJapan Financial Markets Councilの略で、日本の金融市場関係者からなる業界団体、IBAJは言わずと知れた国際銀行協会である。ほかにJSCCのコメントも引用されている。日本の意見が米国でも評価され、採用されているということになる。コメントレターの作成に関わった市場関係者の方々の努力に感謝したい。

BISのドル調達に関するレポートが今後のドル逼迫を懸念

BISからドル調達と中銀のスワップラインのレポートが出ている。リーマンショック以前と比べて銀行以外のドルニーズが高まっているとともに、欧州銀行からカナダと日本の銀行へのシフトが見られるとある。ほかにもロシア、トルコ、台湾などのドル調達も増えている。FRBのスワップラインのある国が多いが、このラインを持たない中国のドル調達も1兆ドルを超えているのが興味深い。

ドル資金を短期の為替スワップで調達している国として、カナダと日本の大きさが目立っている。一方、オーストラリアの銀行はドル資金の出し手となっており、英国の銀行も近年借り手から貸し手に回っている。カナダと日本はMMFと為替スワップからドルを調達し、それを貸出、準備金、米国債保有へと回している。ここでMMFや為替スワップ市場の混乱によって、金融環境が引き締められる時に、銀行以外のセクターもドル資金を奪い合う可能性があるため、そのリスクが懸念される。

日本の銀行は準備金と米国債を使ってドル調達を継続できるとされているが、中銀スワップラインの利用度も高いということが淡々と書かれている。一方カナダの銀行は多額の短期ドル調達を行っているものの、中銀スワップラインを使っていないので、まだ余力があるという判断のようだ。

今後の世界経済の情勢次第では、数か月以内にドルが逼迫する可能性も示唆されており、ドル調達が困難になる危険性があると結ばれている。

別のBISのレポートによると、ドルは世界経済活動の25%を占めており、クロスボーダーのローン、社債の半分はドル建てである。そしてこのドルを必要とする主体が金融機関以外や、新興国に広がっているため、その影響の度合いが図りにくくなっているように思う。次に世界的な金融危機が起きるとしたら、ドル調達に起因するものになるのかもしれない。

日本の場合は、低金利から海外投資が増えたたためのドルニーズであるが、通常の決済にドルが必要な局面も多い。あまり極度にドル依存が増えるのは、金融市場の安定という点からはあまり望ましくないのかもしれない。

やはりAMERIBORがドル建てローンでは主流になるのだろうか

ARRCがクレジットスプレッドを反映させた新レートの検討に入っていると報じられた。銀行の調達コストが上がった時にリスクフリーレートで貸し出しをすれば銀行の収益が悪化する懸念から、銀行の信用力を反映させた新レートの構築が期待されていたが、これまでSOFR以外のレートについてはあまり積極的ではなかったARRCが検討するというのは若干意外感がある。

もともとは、そのためにCSGが作られたと思っていたのだが、CSGの検討があまりうまくいっていないのかもしれない。確かに、6月のミーティングを最後にWorking Groupは開かれていないようであり、何のアナウンスメントも出されていない。期限が迫る中これだけの大きな問題を扱うのは、急場しのぎで作ったコミッティーでは難しいということなのだろうか。

こうなると、市場ではAmeriborが代替レートになるのではないかという憶測も強くなってくるのではないか。

Synthetic LIBOR問題

Synthetic LIBORに関する質問が増えてきた。6/23にFCAに対してSynthetic LIBORなるものを作る権限を与えるというニュースが出てから、一部のマーケット参加者の間でLIBORが存続するのかという不思議な期待感が盛り上がってしまったようだ。

LIBORのパネル行がレートを提出しなくても、何らかの計算式に基づいてLIBORと名のついたレートが存続すると聞くと、準備が遅れている人たちにとっては飛びつきたくなるニュースなのは間違いない。

しかし、これが米国や日本など他の準拠法の下で問題なく使えるかは定かではなく、訴訟になったらどのような結果になるのかわからない。また、円のSynthetic LIBORが作られるかどうかもかなり疑わしい。FCAはSynthetic LIBORの計算にはターム物が使われることを示唆しているが、まずはターム物のRFRができるかどうかが重要であり、これについては当初想定よりもかなりの遅れがみられているからだ。

おそらくターム物の取引が比較的進み始めている英国ではこの問題はそれほど大きくならず、当局もSynthetic LIBORの利用は極限まで少なくすべきとのスタンスを取っている。米国でも当局がSynthetic LIBORの利用を制限する可能性が高いので、ひょっとしたらこのSynthetic LIBOR問題は日本に最もインパクトがあるのかもしれない。

2021年末以降パネル行がレートの提示を停止した後も、何らかの計算式に基づく円LIBORがスクリーンに表示され続けるのであれば、準備が間に合わない日本の市場参加者は、それを使い続けるのだろうか。さすがに海外がSynthetic LIBORの利用を限定的なものにとどめようとする中、日本だけがこれを大々的に使い続けることはないのだろうが、これに期待する声がちらほら聞こえてくるのも事実である。

どうしても移行ができないTough LIBOR契約が残ってしまうのは仕方ないのだろうが、極力この割合を減らすよう業界としては努力すべきだろう。

デリバティブのファンディング調整FVAとは

FVAとはFunding Valuation Adjustmentの略でCVAのようにデリバティブの時価にファンディングコストを反映させる評価調整である。

FVAの直感的理解

例によって正確性よりも直感的理解に重点を置いて説明する。例えば3%の金利でお金を借りて、それを1%で貸すとそのローンは完全に失敗である。

調達コストを考えずにローンを出すとこのようなことが起きるので、それを防ぐために3%というファンディングコストを考慮するのがFVAと言う考え方である。

例えば為替のオプションなどを買うと、最初にプレミアムを支払わなければならない。単純にオプションが安いから買ったなどとトレーダーが言うとき、もしかしたら3%で借りて1%で貸すということをしているのかもしれない。その時はそのトレーダーに対して、プレミアムは現金で払うのだから、そこにかかる調達コストを考慮してもらわなければならないが、これがFVAということになる。ただしこれが有担保取引の場合、払ったプレミアムが次の日などに担保として返ってくるため、FVAはほぼなくなる。

こういうとトレーダーは、じゃあ現金を払わないスワップの場合は、FVAは必要ないのかと言ってくる。ここが難しいところなのだが、現金を払わなくても、そのスワップが勝ちポジションなら、そのスワップをすぐに解約すればそれが現金として返ってくるため、お金を貸しているような状況である。よくデリバティブの勝ちポジション=ローンのようなものであるというのはこういった理由である。

または、通常は銀行はそのポジションをヘッジしているので、ヘッジサイドは負けポジションで担保を出しているのだが、勝ちポジションの方が無担保だと、下図の左側から担保は来ないが、右側で現金が出て行っていると説明すると理解してもらえることが多い。

そうすると今度はトレーダーが、じゃあオプションを無担保で売った時やスワップの負けポジションがあった場合には逆にFVAをもらえるのかと聞いてくる。理論的には確かにそうなのだが、FVAを計上していない銀行が多い日本などでこれをやりまくると、簡単に利益が積み上げられるが、Payable(無担保の負けポジション)が巨額になり、今度はDVAやFVAの変動が激しくなる。

理論的には、このファンディングのベネフィットのことをFBA(Funding Benefit Adjustment)、コストの方をFCA(Funding Cost Adjustment)といって分けて整理する(FVA=FCA-FBA)こともあるが、実務上はあまり使わない用語である。

FVAの計算に使われるスプレッドは何か

さて、次は具体的な計算方法である。FVAはその名の通りファンディングコストなのだから、その銀行の無担保社債のスプレッドを使うというのが最も一般的かと思う。例えば、JPMの当局向け報告書によると、estimated market funding cost based on the bank’s own credit risk とある。ほかにも、アセットスワップスプレッドを使っているところもあるという報道もある。

ただしこれだと自社のファンディングコストが高い銀行に不利なため、業界平均のスプレッドを使うところもある。会計上は出口価格というのが重要になるので、あるスワップ取引を他社に買い取ってもらう場合には、リスクの取り手となりうる様々な銀行がFVAを提示してくるが、その平均的なところに落ち着くのではないかという考え方だ。

もし銀行が全員自社の無担保社債のスプレッドなどを使うようになると、Receivableが大きくなる取引については、調達スプレッドの低い優良行のFVAが最も低いこととなり、ファンディングコストが高い銀行は一生コンペに勝つことはなくなってしまう。こうした銀行であっても業界平均スプレッドを使えば、同じ土俵に立てるし、スワップの売買が容易なのであれば、この方法にも一理ある。

銀行預金を集めて低利にファンディングできているのだから、スプレッドは社債スプレッドよりも低いはずという主張をする銀行もあるかもしれない。いずれにしてもFVAには細かく規定がある訳ではないので、銀行ごとにかなり異なった計上方法をしていたとしても不思議ではない。

DVAとの二重計上問題

また、DVAとFVAの一部であるFBAが二重計上なのではないかという点も良く問題になるが、クレジットの評価調整であるDVAとファンディングの評価調整であるFBAは同じとは限らない。特にCDSのスプレッドと社債スプレッドが乖離することも多いため、DVAをCDSスプレッドで、FVAを社債スプレッドで計算していれば自然と差は生じる。

少なくとも、各行の財務諸表を見てみると、CVA、DVA、FCA、FBAの4種類を計上しているところが多い。もしかしたらDVAを計上した上で、それを上回る部分をFBAに計上しているところもあるかもしれないが、この辺りは企業秘密なのだろう。ただし、実際のディールプライシングでこの4つを全て考慮しているかも定かではなく、競争環境なども加味しながら柔軟な運用がなされていたとしても不思議ではない。

FVAのヘッジ

CVAとは異なり、FVAはヘッジがかなり困難である。昨今の米銀決算で、XVAの変動が大きくなっているのはおそらくFVAによるものだろう。自社発行の仕組み債等では、DVAを別計上してヘッジしていないところが多いと思うが、おそらくFVAも同じようなものであり、本来はトレーディング収益に含めるべきではないという意見も強くなってきているが、個人的にもその方が納得感がある。

最後に一つ、税制の違いもFVAに影響する。海外では、収益からCVAやFVAを引いたものに税金がかかっていたが、日本ではCVAを控除できなかったためCVAのような評価調整の導入が遅れた。CVA等の公正価値評価の調整についても、税務上の「みなし決済損益額」として認められることを明確化する方向で議論が進んでいるので、今後はFVAについても会計計上する方向で議論が進んでいくことになるだろう。

社債におけるLIBOR移行

LIBOR問題はデリバティブの移行が先行しており、業界の動きとしても今のところデリバティブ周りの準備が着々と進んでいる一方、社債については比較的記事や話題になることが少ない。しかし、社債については一般企業が発行するので、その扱いについては今後徐々に問題が認識されていくことになることが予想される。

円建て社債については日本でも各種委員会で議論されているが、ドル債を発行するところも多いため、海外動向にも注目しておく必要がある。各国法制も考慮しなければならないので、かなり面倒な作業になることが予想される。特に社債にフォールバック条項を導入するには、例えば日本であれば原則社債権者集会の開催が必要になり、そのための時間的余裕も必要になる。集会の招集、通知、実際の決議、裁判所の認可を限られた時間のなかで行うのは簡単ではない。

海外の新規発行債については、SONIA(Sterling Over Night Index Average)参照債券の新規発行が先行しており、SOFR(Secured Overnight Financing Rate)参照の社債も増えつつある。SONIA参照の新発債については、これまでのところ、デリバティブ同様後決め複利方式が使われることが多そうだが、SOFRについては、複数の方式が使われているように見える。

ただし、これまで発行されたSONIA/SOFR債の多くは金融機関発行のものであり、金融機関以外がいつ頃新レートにシフトするかは、ターム物のSONIA等の流動性がどこまで上がってくるかにもかかってくるのかもしれない。問題は既発債の扱いだが、何もしなければ、前の金利期間に適用される最後の利用可能金利を参照してしまう、つまり固定利付債になってしまう可能性がある。

最も簡単な対応方法は、繰上償還、買入消却を行って、LIBOR参照社債を減らし、新レートで新たな発行をするというものである。これが不可能な場合は、債権者に同意を求めた上で既存の条件を変更し、参照金利をLIBORから代替レートに変える必要があるが、これが現在海外で懸命に行われている作業である。この修正は両社にとって望ましい変更のはずなので、通常は手数料なしで変更が行われているようである。後は、既発債を新レート参照の新発債に交換するという方法も考えられる。

通常はここで話が終わるはずなのだが、それでも移行できないTough Legacy契約の議論が最近盛り上がっており、Synthetic LIBORの話もここから出てきている。社債保有者から必要な同意が得られない、同意を得るまでに時間がかかる、あまりにも多くの契約があると言った理由で、全部の契約を移行するのが現実的に不可能ということが明らかになりつつあるからである。FCAの6/23のTough Legacy契約に対するアナウンスもあり、移行不可能な契約については何等かの対応が取られる見込みになってきた。

とは言え、LIBORが形を変えて存続するというよりは、一部の極度に限定された契約についてのみ認められるものであり、Synthetic LIBORとは言っても、結局はRFR+スプレッド調整という形になるのであれば、LIBOR存続とは程遠い。名前にLIBORとついているのが紛らわしい。

しかし、日本企業でドル債などを発行した会社はこれからこのような準備を全て時間内に行えるのだろうか。円建てであれば日本独自の対応がある程度できるのかもしれないが、海外投資家も保有する社債の場合は、グローバルスタンダードを意識せざるを得ない。日本だけLIBOR対応が遅れていると、今後の日本の社債発行にも影響が出てしまう。ISDAのような業界団体での対応が難しいので、何か当局主導の対応が必要なのかもしれない。

LIBOR移行スケジュール

FCAのSchooling Latter氏の発言以降LIBORからの移行時期に関する話題ばかりになってきているが、LIBOR Discontinuationのアナウンスメントが、早ければ今年の11月か12月に来るかもしれないということで、それまでのプロセスに注目が集まっている。発言の中では12月の最終週とも言っていたように記憶しているのだが、確かに11月か12月とも言っていたので早い方のタイムラインが報道では主に使われているようだ。

いずれにしてもプロセスとしては正式なアナウンスの前にIBA(ICE Benchmark Administration)が市中協議を行うことが求められている。市中協議ともなると、市場参加者からコメントを集めて取りまとめる必要があるので通常数か月かかるのが一般的である。そうなると9月頃というのが大方の市場予想のコンセンサスになりつつある。

この市中協議の内容自体はそれほどControvercialなものにはならないだろうが、どの通貨、どのテナーが含まれるかという点に注目が集まる。おそらく当然のようにUSDとGBPは含まれるだろうが、ひょっとしたらJPYが除かれることはないのだろうか。また、日本だけ遅らせようという動きは出ないのだろうか。

これまではUSDとGBPが先行して移行準備が進んでおり、日本においては単にその行方を見守っているという立場を取る人が多かったように思う。日銀・金融庁のDear CEOレターで若干作業を始めたところもあるかもしれないが、海外に比べると格段に遅れた動きになっている。決済などについても欧米のように短いタイムフレームでの決済が難しいことから、時差の問題と相まって、細かいオペレーション面の調整に手間取っている。システム整備もお世辞にも進んでいるとは言い難い。この状況の中市中協議を行えば、JPYだけ遅らせて欲しいという意見が殺到する危険性があるかもしれない。

確かにこの状況の中頑張って顧客にLIBOR改革の説明に行っても、なかなか理解が得られないばかりか、詳細な説明や質問を全顧客から受ける羽目になってしまい、相当な労力を費やすことになってしまう。緊急事態宣言ではないが、やはりお上から何か宣言が出ない限りは動かないというのが日本の企業文化なのだろうか。

CFTCのルール変更に関する公開ミーティング開催決定

7月22日と23日にCFTCからクロスボーダーを取引を含むSwap Dealer登録にかかる閾値についてのアナウンスメントがあると発表されている。日本においては、CFTCのSwap Dealerに登録してまでデリバティブを取引しようとは思わないため、US Personとの取引を絞っているという報道もされたことがあるが、何らかの変更があるのなら日本にとっても影響が出てくる可能性がある。同時に資本要件についても何らかのアナウンスメントががあるようだ。

他にも、CCP周りについても大きな変更があれば、以前の2年前の9月のようにマーケットが動く可能性もある。ちょっと日本からは参加しにくい時間帯ではあるが、何とかコールインしてみようと思う。