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レバレッジ比率一時緩和に効果はあるか

ECBから資本規制の追加緩和のアナウンスメントがあった。4月に米国で行われたのと同様のレバレッジ比率規制の一部緩和だ。米国と同じように中央銀行に預けられている銀行預金をレバレッジ比率の分子から除外できるというものになる。

この預金は総額2兆ユーロともいわれているので、金額的には大きいように見える。米国は中央銀行預金と米国債を来年3月までレバレッジ比率の計算から除いて良いとしていたが、ECBは来年6月27日までとしている。ECBの試算では、3月末のユーロ圏の銀行の合計レバレッジ比率は5.36%とのことだが、これが5.66%に上昇することになる。G-SIBsにとっては、TLACの要件緩和にもなるとのことである。

ただし、このレバレッジ比率は、免除期間中もこの中央銀行預金を含んだ比率の開示を続けなければならないとされている。レバレッジ比率規制導入以前にも、厳密には従わなくても良いものの、その水準を公開しなければならない期間があったが、各銀行とも実質的にはすでに規制が導入されているかのように順守していた。危ない銀行とみなされるの嫌ったという理由もあると思う。

したがって、免除があったとしてもそれを利用してレバレッジ比率を下げれば、健全性が低いという印象を市場に与える可能性があるため、積極的にレバレッジを取るという行動にはならないだろう。

金融機関内でも規制が緩和されたのだからポジションを増やそうという号令がかかるかというと、一部のコロナ対応融資以外ではそうしたことは起きにくい。

したがって、いつもの四半期末のひっ迫を和らげる効果くらいはあるかもしれないが、銀行の行動が大きく変わるとは思えない。米国でも同様で、レバレッジ比率規制の一時的緩和はあまり銀行の行動に影響を与えていないように見える。

レバレッジ比率規制は、内部モデルによるリスク管理等のバックストップとして作られたはずのものなので、基本に立ち返って恒久的に緩和し、リスク管理高度化のインセンティブを与える方が、業界にとって望ましいのではないだろうか。

USDのCCP割引率変更に伴うベーシススワップの動き

LCHとCMEにおける米金利スワップの割引率変更まで一か月を切ったが、移行時のオークションのサイズについての情報がLCHから出始めた。概ね予想通りという報道もあったが、公表直後ドル金利のトレーダーからは、そのサイズの小ささに驚きの声が上がっていた。この発表を受けてSOFRとFFのベーシスは1bpほどタイトニングした。

ベーシススワップのワイドニングもあり、一部ディスカウントの変更時に大きな市場変動があるのではないかという憶測もあったが、若干拍子抜けといった感がある。

10月中旬までにさらなる変更があるだろうが、現時点でオークションにかけられるベーシススワップ(FF払いSOFR受け)のサイズは30年ポイントでわずか$1.5mm程度のDV01となっている。このサイズだとほとんどマーケットインパクトはないだろう。その他の年限(2、5、10、15、20年)は逆方向のようだが、2年で$3mm、5年で$4mm、10年で$1.5mmのDV01なので、こちらもそれほど大きくない。15年は$1mm、20年は受払交錯でほぼフラットとのことだ。

リアルマネーからのSOFRベースの債券発行が短い年限に集中していたためか、2年、5年バケットの量が大きくなっているが、長い年限になるとバランスの取れたポートフォリオになっている。

CMEからは同様の詳細が公表されないので全体像はわからない。LCHからは、10月1日と10月15日にオークション情報が更に明らかになるが、全体の傾向としては大きく変化しないように思う。

SWAPTIONのLIBOR移行対策

LIBOR改革に関連して、デリバティブ取引の割引率変更時に利益や損が出たときに、それを現金でやり取りして相殺するかどうかについて市場では活発な議論が展開されている。特にスワップションについての話題が多い。

金利スワップがCCPで清算されるようになったため、スワップションの権利行使時にスワップが発生すると、それがCCPで清算される。つまり相対の取引なのだが権利行使時にCCPでクリアされ、CCPの割引率で評価される。以前のスワップションでは、どこのCCPで清算されるか、その割引率は何かなどは事前に合意する必要はなかったが、昨今ではこれが重要な取引条件の一部を構成するようになっている。

LIBOR改革によって、こうした不透明性を避けるために今年の3月30日にSupplement 64が公表された。3月30日以降に行われた新規取引が対象になっており、割引率(Agreed Discount Rate)と、CCP(Mutually Agreed Clearinghouse)をコンファメーションで指定することになっている。

ARRCの当初案では、割引率変更時にその差額を現金でやり取りすることが推奨されていたが、実際にEONIAからESTRへの変更時にはこの現金の交換を行わないところが多かった。今般ARRCから新たなRecommendationが出されたが、10月16日までにこのCash Compensationを行うかどうか合意できなかった場合は、3/30以前の取引であってもSupplement 64の対象とするように契約を変更することが推奨されている。

なかなかわかりくいRecommendationだが、要はこれまでの損益をやり取りする推奨をあきらめ、市場慣行が変わらない限り当事者同士の判断に委ねることにしたという判断と受け止めている。

わざわざARRCがそのスタンスを変えてきたということからも推測されるように、実際にCash Compensationを行うという市場慣行があと一か月で確立する確率は低いため、当初の契約通りに契約を履行しCash Compensationを行わないということになるという結末が最も現実味を帯びているのだと思われる。

TLAC(総損失吸収力 Total Loss Absorbing Capacity)とは

TLACはTotal Loss-Absorbing Capacityの略で、銀行デフォルト時の損失をカバーするための原資の合計という意味合いがある。最近は細かい説明がWebにもかなり上がっているので、別の観点から話を進める。

銀行が破綻すると預けた預金が返ってこなくなり影響が大きいので、何とか銀行だけは存続させて、国民の税金を使わない形で、経済に支障がないようにしようと言うのが趣旨である。

このために持株会社の下に傘下の銀行を置いて、何かあったら持株会社をつぶしても銀行を存続させるという仕組みになっている。国によっても若干制度が違うが、一般的にTLAC債が持株会社から発行されることが多いのはこれが理由で、持株会社が発行した社債を持っている人が損をしても、傘下の銀行の預金や債券は守られることになる。

そうなると、当然〇〇ホールディングスという持株会社が発行した社債の方が、〇〇銀行の社債よりもリスクが高いことになる。したがって、持株会社の方が格付も低いし、社債のクーポンも高くなる。したがって、社債投資を行う際は、どの銀行の社債かということのほかに、どこのエンティティが発行しているか、またその発行した国の法制では、どの順番で債務が毀損していくのかを分析する必要がある。

ただし、いくら分析したといっても、本当に大型破綻が起きる段になると、政治的に社債権者が損をするベイルインができるかは定かではない。海外では、個人投資家の債券だけは守るとか、その場になってから想定もしていなかった処理がなされるという事例もあった。

元英国中銀副総裁のポールタッカー氏が述べていたように、社債投資家は銀行の破綻リスクを織り込んでおらず、未だに救済されると思っている人が多いように思う。感染拡大を受けてここまで資金投入が増えているため、銀行も救済されるという連想が働いてしまっているのかもしれない。

おそらく投資家のうち25%程度しか本当のTLACの意味を分かっていないというコメントをした人もいたが、実際にベイルインのプロセスはその場になってみないと確定しないことも多く、そのリスクを正しく見積もるのは極めて困難である。現に、イタリアやドイツの銀行が救済される例が散見されており、ベイルインの可能性を低く見積もる投資家が増えたとしても不思議ではない。

劣後債のようにある程度リスクが見積もれ、スプレッド差についても何らかの感覚がある場合は良いが、これがTLAC債になると、あらゆる角度からの分析を加えないと、それが本当に割安なのか割高なのかはよく分からないのではないかと思う。

デリバティブ取引の当初証拠金とは

証拠金規制で一躍有名になった当初証拠金(Initial Margin、IM)だが、これはOTCデリバティブの世界では昔からISDAの用語に従って、独立担保額(Independent Amount、IA)と呼ばれており、ヘッジファンド等との取引では一般的に使われてきた方法である。

通常デリバティブ取引で勝ちポジションがあるときに相手方が破綻すると、その勝ち分が返ってこないので、その分の担保をもらっておく。これが変動証拠金(Variation Margin、VM)である。

しかし破綻した瞬間からポジションクローズまでに、為替が動いたりして勝ちポジションが大きくなると、その分は取り返せない。この部分のリスクをカバーするのが当初証拠金である。

以前からこの金額の計算方法には様々なやり方があったが、最近は2週間99%のVaR(または期待ショートフォール)に収斂してきているように思う。通常ISDAの下でデフォルトが起きると、普通に催促した後にPotential Event of Defaultの通知を出し、一定の猶予期間を経てようやくEvent of Default通知が出せ、最終的にクローズアウトに至る。

この期間はISDAのバージョンや相対で定めた条項によって異なるが、概ね2週間あれば十分だというのが一般的な考え方である。マージンコールが日次ではなく一週間に一回だったり、担保の受け渡し期限が翌日ではなく3日後だったりすると、その分の調整が必要になる。リスク計算や資本計算も本来はこれらの日数を加味して計算するのが望ましい。

日本では、証拠金規制導入前は日次のマージンコールに抵抗感を持つ市場参加者がいたり、担保の受渡しに3日欲しいというところが多く、決済期間の長さがグローバルでは問題になることが多かった。

昨今ではJGBの決済期間短縮化も進み、以前のように3日必要という人も少なくなり、翌日決済の割合が増えつつある。とは言え、送金に時間のかかる日本のシステムは、いつも海外から不思議に思われる。

実際は可能なのだが、期限に違反するのを恐れるために、極力長めに期間を取っておきたいという文化的な要素と、システムで対応するよりは人海戦術で対応する方がコスト安という要素もあるのかもしれない。また、契約上決められた支払いなのに、上席の承認がいるなどということもあるやに聞く。

この期間は、クローズアウトまでの期間が短い取引所取引や、CCPにおける取引では、2週間が2日とか1週間に短縮化される。即時決済が進めば、本来はIMの金額を減らすことも可能になるのではないかと思っている。

特にこのIMは、通貨スワップ、オプション取引、CDS等、まともにVaRを計算すると想定元本の半分近くになってしまうこともあり、円滑な取引の妨げになっている。このIMのファンディングコストをプライシングに入れるMVAの登場もあり、デリバティブがコスト高になる一因になっている。

将来的には決済期間の即時化、短縮化等によってIMの水準を落とせるよう、技術革新が起きることが期待される。

為替決済リスクの高まりに当局が注目し始めた

3月の市場変動を受けて為替決済リスクを意識する声が高まった。CLSの調査を受けてグローバル外為市場委員会が先月公表したレポートによると、現在CLS経由の取引は全為替決済の1/3に留まるとのことである。確かリーマンショック時には半分くらいのシェアだったと思うので、他の資産がCCPや取引所に移行していく中、若干逆行する流れとなっている。CLSが主要18通貨しか扱っていないことは以前から問題になっていたが、人民元やルーブルなどの通貨の取扱高の増加に伴い、グローバルベースの決済リスクが高まったためとのことである。

余談になるが、最近はCCPのルールにみられるように、先物とOTCの共通点が増え、証拠金規制、資本規制等により商品間の垣根が低くなってきたように思う。ただし、各商品に関わる人はやはり結構分かれており、為替の人、コモディティの人、先物の人はキャラが立っていると思うのは私だけだろうか。特にコモディティ先物に関わる人は比較的強面な人が多く、為替もちょっとそれに近いような感覚がある。いずれも自分の商品に誇りを持っており、業界の活動にも強い思い入れがあるように思う。

話を元に戻すと、CLSでは当然新興国通貨とドルやユーロなどのペアの取引の取り扱い開始を検討しているが、最近のCLSのシェア低下を受けてこれが急務になりそうだ。CLSは元々FRBの支援のもとで設立され、グローバル外為市場委員会等とも連携しており、官製というイメージもあるが、実際は、かなり独占的地位を確保しているようにも見える。

今回も、CLSが規制当局や中央銀行と、新興通貨の取り扱いについて議論を進めていると報じられている。確かに金融安定を目指す当局に対して、金融決済リスクを減らすための業務拡大は非常に刺さりやすいトピックだろう。とは言え、清算集中規制などがあるわけではなく、マージン規制も現金決済為替取引は当初証拠金の対象外である。CLSを使わないで決済することも十分可能で、特に日本では大手も含めて決済リスクに対する意識は海外ほど高くない。だが、最近では、金融庁の平成28事務年度金融行政方針外為決済リスクに係るラウンドテーブルの成果もあり、信託銀行を含めたCLS加入が加速しつつあり、急速にキャッチアップを図っている。生保最大手のCLS加入のニュースも記憶に新しい。

一方で、独占企業でもあることからかCLSのサービスやフィー水準が妥当なのかという議論があるのも事実である。CLSのCCP向けサービス等も、フィーが下がればもう少し普及が進むのかもしれない。当局のサポートは別として、決済分野などは、フィンテックの出番が結構あると思うのだが、この分野でも健全な競争が必要だ。その意味ではIHS Markitが昨年株式取得したCobaltなどの新興企業の動向に注目したい。CitiやStandard Charteredなどもサポートしていることから、サービス内容を高めていけばCLSに匹敵するサービスを提供することは可能だろう。

特に日本においては、ドル調達ニーズが高いこともあり、為替市場の安定化は非常に重要である。日本では大手企業の決済リスクは低いと思われているからか、CLSの利用は海外より遅れているうえ、日本時間にドルを決済したいというところもあったり、第三者送金等、外為行為規範で推奨されないような慣行も多い。しかし、いざという時のために、グローバル基準に合わせていった方が危機時のリスクを低減できると思う。

SA-CCRへの移行が始まった

バンカメが先陣を切ってSA-CCRに移行したと報じられた。米銀には移行期限の2022年1月1日より前に、自主的に移行するオプションが与えられていたが、思ったよりも早く移行するところが現れたという印象である。欧州系には早めの移行が許されていないので、米銀に有利という意見も当初は見られたが、最近ではそのメリットは大きくないのではないかという声も聞かれていた。

別途記事を書いたが、SA-CCRへの移行によって資本賦課が削減できるかどうかはポートフォリオやビジネスフォーカスによって異なってくるので、バンカメの場合は、全体的に見たときに移行した方が資本要件が緩和されるという結論に至ったということなのだろう。事実RWAは$15bnの減少となっている。

金利スワップ等のOTCデリバティブのクリアリング取引では、この削減幅は大きくないと言われており、削減効果の大きい上場物デリバを重視したのではないかと報じられている。3月のコロナショックで各行のRWAが急上昇したということも、この決断の背景にあったのかもしれない。

株式オプション取引のクリアリングにおいてこの削減効果が大きいので、もしかしたら昨日もポストした昨今のオプション取引の急増も関係しているのだろうか。確かに、これによってプライムブローカー業務を拡充し、急増する顧客ニーズに応えることはできる。ただし、このような資本計算手法の変更は一定の準備期間が必要なため、これだけが理由とは思えないが。

他にも追随する銀行が出てくるかが注目だが、いずれにしても1年半後には移行しなければならないのだから、今年後半にもSA-CCR対応行が増えてくるのだろう。

ネット情報が株価を動かす

今年の初めの頃から米国のオンラインフォーラムが株価を動かしているという噂が出ていたが、昨日FTの一面に出たソフトバンクのニュースもこれに関連した記事になっている。今般のテクノロジー株の上昇でソフトバンクが40憶ドルもの利益を株式オプション取引から上げたというニュースだが、これはwallstreetbets(別名WSB)というオンラインフォーラムで流行っていたやり方である。単純にコールオプションをディーラーから買うとディーラーがそのヘッジのために株を買うため、株価上昇を促すことができるのではないかという理論だ。

孫社長からの指示で行った取引と報じられているが、米国動向に詳しい孫氏が、米国で流行っていた取引に目を付けたとしても不思議ではない。WSBにも、ソフトバンクがWSBの戦略をまねたとのコメントも多くポストされている。ソフトバンクのこの取引が最近の米株上昇に寄与したのではないかとも報じられているが、どちらかというと、すでに流行っていた戦略にソフトバンクが乗っかり、上昇を加速させたということなのではないかと思われる。確かにここ一か月くらいの単一株式のコールオプションの買いはこれまでにないくらいに急上昇している。一方プットオプションの買いもじりじりと増えてきているので、そろそろ転換点を迎えてもおかしくない。

WSBは2012年頃から存在していたのだが、多くの人が職を失ったり、在宅勤務になった今年、急速にその存在感を増してきたように思う。一応価格操作を意図したようなコメントはご法度とはってはいるものの、株価が不自然な動きをした場合にやり玉に挙げられるケースが多くなってきている。インサイダー取引という訳ではないだろうが、ここまで影響力が大きくなってくると、規制強化という話にもなるかもしれない。正直あまり詳細には追っていなかったのだが、今回のニュースもあり一層知名度が高まりそうだ。

トランプ大統領のTweetがマーケットを動かしたり、Twitterのコメントを分析して株価の行方を予測するインデックスが作られたりと、ネット情報の影響は日に日に高まっている。こうした動きは株式市場の流動性を上げて市場の安定性向上に寄与するというよりは、市場変動を激しくする方向に働く。

ソフトバンクは、まだ日の目を見ない将来性の高いベンチャーに資金を回すという役割を果たしてきたが、今回のような取引が金融の発展に資するとは思えない。何か他の理由があるのかもしれないが、投資損失を取り戻そうと躍起になっているとしたら黄信号とも言えるだろうか。このニュースを受けてコールオプションを解約するという連想も生まれてくるだろうし、これをきっかけに一旦大きな調整が起きる可能性も考慮しておく必要がありそうだ。

無料サービスによってビジネスを拡大を目指すのは悪か?

欧州ESMAから、MiFID IIのResearch Unbundlingによる悪影響はなかったという分析結果を出している。2006年から2019年までの8000社について分析を行ったとのことだ。

2018年にMiFID IIの一環として導入されたこの規制は、リサーチを無料で配る代わりに取引執行を求めるという慣行が不透明として、リサーチには独自の料金を払うように求めたものである。これによって、調査対象企業が大企業に集中し、小型株の調査の質が悪化し、これらの中小株の取引き流動性にまで影響を与えたという批判が一部ではあったが、それを真っ向から否定した形だ。

リサーチレポートが発行される企業数は確かに減少しているものの、これはMiFID IIの影響ではないという主張のようだ。アナリストの数も減ってはおらず、リサーチの質も特に変化していないとの主張となっている。

先に紹介したように7月に欧州委員会からこのUnbundlingの一部緩和策が発表されていたが、やはり規制緩和は一筋縄ではいかないのかもしれない。

とはいえ、リサーチを無料提供することがそれほど悪なのか、個人的にはよくわからない。弁護士事務所やコンサル会社もよく無料でセミナーをやったり、規制アップデートなどを無料で行って、その後のビジネスにつなげようとしている。メルマガを無料で配って優良プログラムに誘導したり、特売品や何らかの特典を打ち出して集客を図る小売店やサービス業も多い。

何かをしてもらったらお返しをしたくなるという人間の返報性に訴えるやり方なのだが、このようなことは古今東西様々な業界で行われてきたことのように思える。確かに、銀行が自分のポジションに都合の良いリサーチを発行するのはまずいし、特別な報酬としてみなされてはいけないといか、投資家の利益を損なうような利益相反があっては困るなどという観点もあるだろうが、リサーチを別料金にすればこれがなくなるという類のものでもないような気もする。

ただ、昨今の世論からすると、規制を作るのは比較的簡単だが、規制を緩和するのはかなり厳しいので、しばらくはこのままの慣行が続くことになるのだろう。

市場構造が変わり始めた?

FRBがインフレに対するスタンスを変更して国債保有に慎重になる動きが出てくるのではないかという懸念が聞かれるようになってきた。コロナショックに際しても米国債は安全資産として選好されたが、インフレが起きるとなると様相が異なってくる。

特に金融緩和が極端に進む現状では、株価が下落した場合に債券価格も下がるということが起き始めている。これまでのような資産間の相関が見られなくなり、すべての資産が一方向に動く傾向が今後も強まっていくように思う。

ウィルス感染が拡大してから、中央銀行は巨額の資金を市場に投入してきた。そしてこの流動性供給と株価の間には以前から強い相関がある。したがって、感染拡大によって企業倒産が加速し、景気が減速するという一般的な連想とは裏腹に、株価が上昇を続けてきたというのはある意味自然な話である。何しろリーマンショック時を超える量的緩和を行ってきたのだから。

市場関係者のほとんどは株価上昇が早すぎると感じており、実体経済から乖離していると考えている。つまり何かきっかけがあれば株価は急落しやすい。ただし、大きな流れを変えるのはFRBの金融政策ということになるのだろう。少しでも金融引き締めの兆しが見えたらその時が株価のピークになるのかもしれない。良くも悪くも中央銀行がマーケットの趨勢を決めるようになっている。日本などもイールドカーブコントロールという言葉が示す通り管理相場になっている。

だからこそインフレ政策をめぐるFRBの方針転換がここまで注目を集めているのだろうが、これまでのところ、株価に対する影響というよりは、国債への影響を懸念する声の方が多い。そうすると、何が安全資産かという議論については、実は株式なのではないかなどという報道も見られるようになってきた。特に従業員一人当たりの無形資産がの水準の高いハイテク、プラットフォーマーの株が安全なのではないかと言われている。

とは言え、ドットコムバブルの頃も、急上昇する株価を正当化するための理論が数多く登場していたことを思うと、何が本当かよくわからない。いずれにしても9月は市場が大きく動く傾向があるので、要注意だ。

インフレに関して言うと、感染拡大を受けて金利は低位安定を続けるだろうし、特に米国のような先進国ではインフレが進むとは思いにくい。これまでも低金利、デフレ等日本が先頭を走ってきたことを考えると、海外先進国も日本と同じような状況になる可能性が高いように思う。インフレが起きるとしたら新興国からで、それが最後に先進国に押し寄せてくるという動きになるのだろう。

コロナショックはXVAトレーダーのヘッジ手法を変えるか

市場変動が起きると必ず繰り返されることだが、今回は原油価格とクレジットスプレッドの動きからCVA損失が膨らんだケースが散見された。海外で石油会社と金利スワップを行った後に、金利急低下が起き銀行の勝ちポジションが増えたが、それと同時に原油価格が急落し、石油会社のクレジットスプレッドが拡大、クロスガンマヘッジが効かずCVA損失が急拡大してしまったというものだ。

原油価格が下落した場合にこれが必ず起きるというのであれば、原油ヘッジをするというのも理にかなっているが、CVAモデルにそのような影響を組み込もうという動きもある。同じことは為替ポジションでも起きるが、例えば円高に振れるとクレジットスプレッドが拡大する自動車会社のようなカウンターパーティーと金利スワップを行った場合は、直接為替リスクを抱えている訳ではないが、CVA計算に為替のインパクトを入れるというものだ。

そもそもCDSの流動性が高ければこのような問題が大きくなることはないのかもしれないが、個人的な経験でも、ひとたび危機が発生してCDSスプレッドが急拡大すると、その時点でCDSヘッジを買おうとしても時すでに遅しである。このような状況は、海外よりも日本において顕著に表れる傾向があると思う。通常時は10bpもないビッドオファーが一気に20、50と上がっていくのは危機下にあるマーケットでは珍しいことではない。

ここで無理して極端にワイドなビッドオファーを払ってヘッジをするより、しばらくマーケットが落ち着くのを待ってからヘッジしようというのはトレーダーとして自然な心理である。とは言え、リーマンショック時のように、マーケットが落ち着くことなく、一方向にワイドニングを続けるということもあるので、あまり「待つ」というオプションに頼り続けることもできない。

ここで、これ以上のCVA損失を避けるために、一部のXVAトレーダーは、いくらか為替、金利、コモディティなどのオプションを買ってヘッジするということを行っているのではないかと思われる。当然これらのヘッジはいわゆるマクロヘッジの一環であり、資本計算上ヘッジとして認められるわけではない。

こうなると、iTraxxなどのインデックス物に需要が集まるのは当然のことである。実際、3月のコロナショックでは欧州のインデックスCDSの取引量は倍増している。CDSの場合は株式に比べて、危機時にはすべての銘柄がワイドニングする傾向があるので、CDS indexヘッジはある程度正当化される。

ただし、今回3月まではすべてがワイドニングしていたところ、4月に入ると元に戻る銘柄とそうでない銘柄が二極化した。優良銘柄やインデックス物がタイトニングする中、引き続き懸念のある業種の銘柄などは、引き続きワイドニングが拡大し、実際のヘッジも個別CDSヘッジが増えている。個別のヘッジが増えるとさらにCDSが拡大するといういわゆるNegative Feedback Loopが起きる。これは欧州ショック、ギリシャショックの時に起きたことと同じである。当時は確かEURの金利が低下するとともにCDSが拡大を続けたためにさらなる金利リスクヘッジが必要になり、それが金利をさらに押し下げるという負の循環に陥ってしまった。

ここのところのマーケットは落ち着きを取り戻しているが、3月4月のような動きを見てしまった海外のXVAトレーダーの間では、もう少しCDSのOptionを取引してもよいかという議論が上がっているようだ。日本ではほとんどCDSのOption取引は見られないが、何か新しいヘッジを考えないと、また個別CDSを高値で掴まされて安値で売るということの繰り返しになりかねない。

やはり、様々なツールを使ってマクロヘッジをしていくしかないと思うのだが、そう考えるとXVAトレーダーは完全にトレーディングとなる。よくXVA管理はトレーディング業務かリスク管理業務かという議論が巻き起こるが、マーケット感覚のないリスク管理者が機械的にヘッジをすると、高値づかみの安値売りの典型例になってしまう。やはりXVAトレーダーには常にマーケットをモニターし、取引に参加していくトレーディングスキルが必要になるように思う。

日本は金融政策のフロントランナー?

FRBのパウエル長官の木曜のコメントで明らかになったように、インフレーションについてこれまでより柔軟な対応を取るという姿勢を打ち出した。平均的には2%をターゲットにするという言い方で、もちろんインフレが急上昇するような局面では適切な行動を取るとは言っていたものの、一定程度のインフレを許容するという方向のようだ。もともと古くはインフレ抑制がFRBの主な役割だったこともあったと思うが、ある意味大きな方針転換といえるだろう。

これを受けて米国のイールドカーブがスティープニングした。長期金利が上がると銀行業績が上向くという連想なのか、銀行株も上昇した。社債投資家にとってみれば、インフレは実質金利の低下につながるため、長期金利が上がったという意見も聞かれる。

とはいえ、高いインフレ率を達成するには、短期金利はしばらく低いまま据え置こうということになる可能性が高い。最近の国債入札を見ても、短い年限には需要が集まるが、長期債の入札が弱含む傾向がみられる。こうした理由から今後もスティープニング圧力がかかり続けると予想する声が大きくなってきた。

さらに、コロナ対策で資金も必要だろうから、長期債発行も増えるかもしれない。特に明らかにはされていなかったが、日本のように中銀が国債の買い入れを増やすという方向性も考えられる。またこうした望ましくない金利をコントロールするために、日本のようなYCC導入という話も、再度出てくるかもしれない。

長期化する低金利と低インフレ、ゼロ金利、マイナス金利、YCCと、日本は他国に先駆けて変化を経験しているように思える。そうすると海外のマーケットも入札と国債買い入れ中心の取引になり、低金利、低ボラティリティが常態化するようになるのだろうか。

LIBOR改革後には管理しなければならないベーシスリスクが多くなる?

LIBORからの移行がなかなか進まない。一言にLIBORからSOFRに移行するといってもマーケットによってそのSOFRの計算方法が異なることが混乱に拍車をかけている。シンジケートローンは単利、スワップは後決め複利、住宅ローンは前決め複利だったりと様々なレートになっていて、ヘッジやリスク管理も難しくなっている。LIBOR一つだった時とはかなりの違いだ。

フォワードルッキングなターム物SOFRに対する期待も高まるが、現状のSOFRリンクデリバティブの取引量を見ると、来年前半まではあまり拡がっていくとは思えない。まずはSOFRリンクの米国債発行に期待が集まる。

スワップは後決め複利だが、これは過去3か月などの日々のSOFRを複利計算して金利を後で決めるという方法である。当初これが決まった時はほかの金利も追随するだろうと思ってしまったのだが、結局様々な計算方法が混在することになりそうだ。

ローンの場合、計算期間が終わってから金利が決まるという手法だと、繰上弁済が行われた時の金利を決めるのかといった問題がある。住宅ローンにおいても、今後3か月間の金利は今はわからないけど、3か月後に確定するという方法はなじみにくい。米国では金利が先に決まっていないと政府機関の適格ローンとならないという問題もある。

こうしたマーケットの声を総合すると、やはりターム物金利が最も求められているもののように思う。それが確立するまでのつなぎとして後決め複利があるが、米国債などで後決め複利の発行が増えていって市場参加者の抵抗感がなくなれば、これが存続するという可能性もあるかもしれない。

最終的にはターム物や後決め複利に収斂していくだろうから、ベーシスリスクは少なくなっていくと思われるが、信用コストを反映したローン金利、Tough Legacyの問題もあるので、しばらくの間は数多くの金利指標が併存することになるだろう。

こうした金利はおおむね同じように動くだろうが、ひとたび市場が混乱すると、そのベーシスが大きく開くこともあり得る。こうした市場混乱期にLIBOR移行によって損失が発生する市場参加者が相次いだということにならないよう、秩序ある移行が望まれる。

国債の電子取引は増えるか

コロナショックによって電子取引が増えたかどうかというのはよく話題になるが、JPMのレポートによると、債券市場においては、電話から電子取引への劇的なシフトが見られたとのことだ。

市場不安定な中では、電子でクォートするのを避け、電話での取引に限るトレーダーもいたと思うが、顧客側からすると、在宅でディーラーに電話するよりも、画面上で取引執行する方が楽だということだったようだ。確かに家族がいたり、宅配便が来たりと落ち着かない環境では、電話をするより、画面執行の方がやりやすいという心理は理解できる。

過去2年間で米国債取引の約半分が電子的に行われていたが、これは4月に70%に急増し、その後も上昇を続けた後6月には77%に達したとのことである。多くの顧客が電子取引に慣れ始めているため、たとえ彼らがオフィスに戻ったとしても完全に元に戻ることはないという見通しのようだ。

株式や為替と比べると債券の電子取引化の速度は緩やかだったが、このコロナ対応によって移行が加速する可能性がある。特にオンザランについては、かなりの部分が電子的に行われることになるだろう。オフザランですら3月以降は電子の割合が増えているようだ。

とは言え、全取引が電子に移行するとは結論づけておらず、1億ドル以上といった大きな取引については引き続き電話取引を志向する傾向もあり、流動性が極端に枯渇した時などはトレーダーの関与が必要になるだろう。今後はすべてが電子に移るというよりは、トレーダーの電子に関わる度合いが強くなるという方向性なのかもしれない。

翻って日本国債のマーケットを見ると、米国債のような電子取引が占める割合は少なく、コロナを受けてもその状況には大きな変化は見られない。日本国債の場合は、オフザランが取引されることが多く、回号ごとに価格がずれることもあるので、そもそも電子取引になじみにくいのかもしれない。ただ、少ないながらも着実に電子取引を増やそうという動きは見られ始めており、今後数年の動きに注目が集まる。

今後CCPで清算されるプロダクトは増えるか

GSがLCHのNDFのクライアントクリアリング業務を開始することの報道があった。この商品では7社目のクリアリングブローカーということになる。証拠金規制の最終フェーズに向けて当初証拠金規制の対象となるファンドやアセマネ等が相対取引からCCP取引にシフトすることを見込んだ動きと思われる。NDFは一日約2500億ドルと一定程度の取引が行われているが、日本の市場参加者のシェアは大きくないものと予想される。

バーゼルは4月、コロナ感染拡大による業務の混乱を理由に、最終フェーズを遅らせる勧告を行った。これにより、店頭デリバティブ想定元本(AANA)が500億ユーロを超える企業は来年9月にフェーズ5の対象となり、80億ユーロ以上500億ユーロ未満の企業は再来年9月に最終のフェーズ6対象となることとなった。

今のところ現金決済が行われる為替フォワードを対象にする予定はなさそうで、NDFの清算のみが進むことになるが、決済リスクさえ何とかなればFX Forwardの清算も不可能ではないはずだ。これにはCLSとの連携が現状では不可欠だが、このあたりの分野でもFintechの新規参入があれば望ましい。これが可能になれば、通貨スワップの清算も視野に入ってくる。

コロナ環境下の在宅勤務で明らかになったように、日本の市場参加者のシステム対応とオペレーション業務の効率化は世界に比べて格段に遅れている。こうした業務を人海戦術で乗り切るだけの人員を抱えているため、システム投資を増やして効率化しようというインセンティブが働きにくいのかもしれない。

そんな状況の中、CCPが標準オペレーションを確立し、全市場参加者がそれに対応すべくシステム投資をするというのが、日本が一気に海外に追いつく唯一の方法なのではないかと思ってしまう。

日本の企業が外債を発行する際などに行う通貨スワップもクリアリングできないため、カウンターパーティーリスクやCVAの負担が大きくのしかかってくる。Notional Resetがあってもヘッジ会計を適用できるようにして、それをクリアリングし、決済リスクをCLSのような機関と管理するということができれば、日本のスワップ市場の透明性向上には大きく資すると思うのだが。まずはNDFの広がり、そしてその後のFX Fowardの清算可能性に注目したい。

BREXIT後もLCHは安泰?

Brexitによってスワップのクリアリングが英国からEUに移るという話もあったが、やはりLCHの地位は盤石のようだ。

EU域内でLCHに代わるCCPとして期待されたEurex Clearingは、コロナ感染拡大に関連する市場混乱もあって、新たなシェア拡大を達成できていない。EURの金利スワップのシェアは15%を割ったままである。EUR Swapの精算額を見ると、LCHの45.8兆ユーロに対し、Eurexは7.3兆ユーロであり、全体の約14%となっている。これは今年末の達成目標だった25兆ユーロに遠く及ばない。

証拠金規制の延期がアセマネ等のクリアリングへのシフトを遅らせているというコメントもあったが、これはLCHでも同じことである。最終フェーズが2021年9月となったが、これによってEurexに傾くかというと疑問が残る。コロナがなければ銀行がもう少しロンドンからの移転を進めていたという意見もあるが、これもかなり疑わしい。むしろ在宅勤務が完全にワークすることが分かった今、わざわざ人を移動させる必要があるのかは疑わしい。

このままで行くと、おそらくEUは今後数週間のうちに、12月以降もLCHがEU顧客向けにEUR IRSの清算業務継続を認めることになるのではないかと思われる。そして、BOEもESMA等のEU規制当局がLCHを監督する権限をある程度認めるという方向が市場にとっては最も望ましいのではないか。もっとも複数当局の関与というのはこれまでもあまり認められてこなかったのでハードルは高いが、今後EUにシフトすることが起きないとも限らないので、英国としてもある程度の妥協は必要かと思う。

2年超のJPY IRSについてはLIBORからRFRの移行が進んでいる?

7月からISDA-Clarus RFR採用指標が公表されるようになっているが、今後はこれを見ながらLIBORからRFR(リスクフリーレート)への移行進捗を確認していくことになるだろう。

これは基本的にはCCP/取引所で清算された取引が対象になる。グラフで見ていくと、やはりGBPの移行が最も進んでおり、EURやUSDが遅れているのがわかる。

一つだけ気になるのが、2年以上の年限で見てみるとJPYが最も移行が進んでいるという点である。これを見るとPV01で見たときに7月は約45%がすでにRFRで取引されてたという結果になっている(6月は何と6割超)。全年限ベースでは1.7%なので、かなりの開きがある。

データの定義を見てみても、TONAインデックスにリンクしている清算取引となっているので、JSCCとLCHのデータがメインなのだろうが、JSCCのOIS取引はそれほど多くはないはずである。

ちょっと調べてみようと思うが、何かわかる方がいれば是非。

SA-CCRとは

リーマンショックでカウンターパーティーリスクやCVAが注目されたときに、そのリスクについても資本を積むべきという話が出た。ではリスク量(RWA:Risk-weighted asset)をどう計算するかだが、貸出金額が決まっているローンとは異なり、デリバティブの想定元本をリスク量としてしまうとやりすぎである(100億円のローンと100億円の金利スワップでは全くリスク量が異なる)。じゃあ100億円に1%などの掛け目を掛けて簡易計算したらどうかというのが最も簡単な標準方式である。これに対して銀行のモデルを使って精緻に計算しようというのが内部モデル方式である。

この標準法としては、カレントエクスポージャー方式(CEM)というものが使われてきたが、担保やネッティングを完全に反映していないので、あくまでも簡便法に過ぎないということで、より実態に近づけたのがSA-CCRである。Standardised Approach for Counterparty Credit Riskの略である。

これは、CCR資本、CVA資本、レバレッジ比率等の計算に使われ、標準法と内部モデルを使った先進的手法のギャップを埋めるべく考案された手法と言える。CEMに比べると、担保取引と無担保取引の区別、ネッティングやヘッジの考慮、超過担保の認識などにおいて改善がみられる。

これで資本賦課が少なくなったかというとそう簡単な話ではなく、このインパクトは、デリバティブポートフォリオとネッティングセットなどに依存するので、金融機関によって異なる。完全により詳細な分析が必要である。企業向けの無担保デリバなどでは逆に資本賦課が大きくなることもあるからだ。

本来簡便法であるはずなのだが、計算はやってみると意外と面倒で、複雑なインプットも多くなっている。計算法を理解するにはバーゼルのペーパーについている計算例が最適ではあるが、簡単に説明できるものではないのでここでは割愛し、SA-CCRのコンセプトだけに止める。適用状況などについてはブログでアップデートしていく予定である。

LIBOR代替レートとしてCMTの注目度が上昇

TradewebとIBA(Ice Benchmark Administration)のベンチマークであるCMT(Constant Maturity Treasury)がLIBOR後継候補として注目を集め始めた。これはオンザランの米国債の出来高加重平均をトラックするベンチマークで、特に住宅ローンにおいて利用度が高まっているようだ。

CSG(Credit Sensitivity Group)の参加者もSOFRの代替レートとしての可能性に言及しているため、社債やローンにおいて広く使われるようになるかもしれない。ターム物SOFRはトライアルバージョンが今年末にも公表されることになっているが、CMTも30年までの12の満期というタームストラクチャーを持つという利点がある。

とは言え、米国債に連動するため、信用リスクを反映していないという点SOFRと同様の問題が残るため、銀行ローンに対する問題がすべて解決されるわけではない。

おそらく年末までにLIBORの使用を取りやめるFannie MaeやFreddie Macなどの政府機関系の住宅ローンからCMTの取り扱いが広がっていく可能性がある。

LIBOR代替レートとしてはAmeribor、CMTなどのほかにもいくつかの候補が挙げられており、米国では今後どのようなレートに収れんしていくのかが不透明になってきた。

ストレスキャピタルバッファが金融機関のリスク耐性を弱める?

8/10月曜にFRBのストレステストの結果が公表されたが、以前もお伝えした通り、10月1日から本格導入されるSCB(ストレスキャピタルバッファ)のインパクトに注目が集まっていた。

予想通りではあるが商業銀行より投資銀行系のGSとMSのSCBが6.7%、5.9%と大きく、最大はドイツ銀行の米国ビジネスにかかる7.8%だった。

SCBは非常に大きな経済混乱が起きた時にどの程度損失が出るかを考慮して追加で資本を積ませるというコンセプトなので、トレーディングポジションの多い銀行のバッファが増えるというのは、一般の人にはわかりやすい指標なのだろう。

このテストをするときに、GDP、失業率、金利、為替など、ストレス環境下で何が起きるかをまず決めて、そのシナリオにおいてどのくらいの損失が出るかということを予想していくのだが、このプロセスをトレーディングポジションに当てはめると、このSCBは一体何の役に立つのだろうかと思ってしまう。

景気が悪化して金利や為替が急激に変化し、市場ボラティリティが激しくなった時に、どれくらいの損失が出るかと金利、為替トレーダーに聞くと、ほぼ全員が利益が出ると言ってくるだろう。ボラティリティが上がるということはBid Offerも広がるだろうし、市場変動に備えて持っているオプションからの利益も上がる。特にエキゾチック物を扱うトレーダーなどはかなりの収益が見込める。ストレステストを提出しなければならない担当としては、ストレス時に収益が増えるシナリオは作れないので、いったいどうやってこの整合性をとっているのか不思議である。

SCBはクレジット物やローンなど、取ったポジションを一定程度保有し、それが不況によって毀損することを想定しているのかもしれないが、金利、為替トレーディングでは巨大なポジションを持つことは少なく、たいていはヘッジされている。特に2008-9年以降の規制強化によって自己勘定取引ポジションを膨らませることができないので、尚更だ。

今回のストレステストではGSをはじめとする5銀行が異議を唱えて結局それは却下されたが、ボラティリティが上がった時にトレーディング収益は下がるのではなく上がるというしごく当たり前の主張だったのかと思う。事実、コロナショック真っ只中の第二四半期はどの銀行もトレーディング収益が最高益に近い数字を叩き出している。

ほとんどの銀行で自己資本比率は向上しており、このコロナ危機によって打撃を受けたのは引当金の積み増しを余儀なくされたローンの方であって、トレーディングはどこも絶好調だった。ストレスキャピタルバッファがこうした経済混乱に備えるものなのであれば、トレーディングポジションの大きい投資銀行系ではなく、ローンの割合が大きい商業銀行系に厳しくあるべきというのは当然の主張だろう。

不況になれば利益が出るというのは、一般的には理解しにくいのかもしれない。まして銀行がそんなプランを作ってきたら当局は一発で却下するだろう。だが、不況になれば利益が出るようになったのは過去10年の規制強化によるものであり、その意味では当局の功績は大きい。リーマンショックの時に損失が出たというのは事実だが、その損失の中身を詳しく見ていけば、それと同じことは今の規制環境下では起きにくいということは容易にわかるだろう。規制以外にも各銀行とも今ではVelocity(取引の回転率)を重視しており、リスクポジションを長期にわたって抱え込むということをしなくなっている。

これで資本賦課が大きいのでトレーディングポジションを減らしていけば、せっかく不況時にショックアブソーバーとしての機能を持っていたポジションがなくなって、逆に金融機関の不況に対する耐性を弱めてしまうのではないだろうか。ストレステストは保険会社、アセマネ、年金基金、ローン中心の銀行など、リスクをとってビジネスを行う業態にはなじむかもしれないが、リスクをすぐにヘッジしてBid Offerで細かく収益を積み上げる証券仲介業を中心とするビジネスにはあまり意味がないのではないだろうか。