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SLRの条件緩和措置の打ち切り

最後の最後までどちらに転ぶかわからなかった米SLR(Supplemental Leverage Ratio、補完的レバレッジ比率)の緩和措置延長だが、FRBから当初予定通り3/31で打ち切りとなることが発表された。昨年4月に感染拡大を受けた市場混乱への対応策として、米国債と中銀準備預金をSLRの計算から除外していた。

実際にこの免除規定が銀行のSLRに無視できない恩恵を与えていたので、この打ち切りが銀行の行動に与える影響は大きいだろう。JPMが全四半期決算で公開したように、この免除がなければSLRは6.9%から5.8%へと1.1%悪化していた。Citiの場合は7%が5.9%へと悪化との予想だった。基準の5%は下回らないものの、レバレッジ比率にして1.1%の下落幅は馬鹿にできない。しかし、銀行株は軒並み1%弱の下落にとどまっており、米金利上昇幅も小さく、思ったよりマーケットインパクトが出ていない。

同時に、今後SLRの微修正に関して市場の意見を求めるとしたのがある程度影響したのかもしれない。銀行資本に関しては厳しい意見を言う議員も多く、この見直しが銀行資本の頑健性を失わせることのないよう努力するというコメントもあるので、それほど大きな緩和は期待できないとも思えない。しかし、市場が思ったより落ち着いていたのを見ると、この見直しに対する期待も高かったのだろう。

個人的には国債のレポマーケットを大幅に縮小し、リスクが高いからというよりは単にバランスシートを使う理由で、短期市場の機能が制約されてしまったので、SLRがそれほど意味がある指標とは思えない。逆に銀行がきちんとリスク管理をしようというインセンティブを削がれてしまっているようにさえ思う。安全資産である国債を持っても、デフォルトの危険性の高いハイイールド債を買っても、同じようにレバレッジ比率が悪化してしまうからである。

本来であれば、SLRのようなバックストップとして使われる指標より、バーゼル3先進的手法のような精緻な指標を見ていく方が望ましい。金融危機時に、複雑なモデル等を使って銀行が資本規制を逃れることができたという批判が大きくなったため、簡単に計算のできるSLRが最大の制約条件になってしまったが、SLRができてから7年の間に銀行のリスク管理が高度化されたとは思えず、米国債市場の変動は逆に大きくなってしまったように思う。特に感染拡大を受けた経済パッケージを大量に発動している中、国債発行額は増え続けているため、国債市場を混乱させるのは当局としても望ましくないはずである。

中銀準備金の供給と財務省証券の発行が最近増加していることから、SLRが経済成長の制約となったり、金融の安定性を損なうことになるのであれば、SLRの見直しを検討する必要があるかもしれない」とFRBは声明で述べているので、ある程度問題の認識はしているようだ。結局延期をしてもいつかはそれを終えなければならないので、抜本的見直しを匂わすことで市場混乱を抑えようということなのだろう。

レバレッジ比率が原因で銀行が国債取引を手控えるようになり、今や中央銀行が銀行の穴を埋めるような形になっている。これは米銀の財務諸表や各種統計データを見れば明らかである。この発表を受けて、銀行の行動にも変化が起きることは明らかであり、米金利に対しては上昇圧力として働きやすい。

また、金余りの中預金が集まりすぎると、銀行としてはそれを中銀預金や米国債に回さざるを得なくなるが、それに資本が必要ということになると預金は欲しくないということになる。貸し出せば良いではないかと言われるかもしれないが、相応の引当金が必要になり、それが銀行決算に大きな影響を与えているのは昨今の決算を見れば明らかだ。

SLRが本当に正しく見直されるには、もう一度米国債ショックが起きる必要があるのかもしれない。

BREXITによって欧州から米国への取引シフトが起きている

Brexitが金融機関に与えた影響は意外と大きかったようだ。欧州の銀行のデリバティブ取引シェアが減少し、収益にも影響が出始めているという報道があった。今回もっとも恩恵を被っているのは米銀のようだ。

EUの銀行は英国の取引基盤(Trading Venue)へのアクセスを持てなくなってしまったので、英国の機関投資家や銀行との取引から締め出されてしまった。これを解決するにはEUの銀行は英国に現地法人を設立しなければならなくなる。

結局は多くの取引が、同等性がある程度確保されたUSのSEF(Swap Execution Facilities)に流れている。ディーラー間取引について言えば、US SEFの取引は今年1月に10倍以上に伸びている。確かにUKとEUとの争いに巻き込まれ、それぞれの取引Venueに接続するよりは、すべてUS SEFに持っていた方が簡単だ。

金利スワップは半数以上がこうした取引Venueで取引されておりCDSのインデックス物などは、ほぼすべてが取引Venue上の取引である。ちなみに日本はETP(電子取引基盤)なのだが、こちらはSEFを参考にして作られたが、同等性を確保するためだけに作られた感が否めず、取引に占めるシェアは極めて低い。

アセマネや年金などもUS SEFに移す傾向がみられるようだが、英国のリアルマネーはそのまま英国で取引を継続しており、ここにはEUの銀行がアクセスできなくなっている。UK VenueのシェアはEUR IRSについては未だ11%、GBP IRSでは21%、USD IRSで6%とそれなりのシェアを占めている。

数年前にも書いたことだが、海外でビジネスをする際の拠点は支店と現地法人のどちらが望ましいのかという問題がここでも重要になってくる。現在の規制環境下においては、支店形式は好まれず、自分の国でビジネスをするのであれば、その国の規制を遵守し、資本もその国の中に置いた現地法人が有利なのは当然である。EUの銀行は現地法人ではなく支店形式で海外進出をしているところが多いので、こちらも状況の悪化に拍車をかけている。

一方米銀や英銀は、現地法人形式で海外拠点を作る傾向があるので、かなり有利である。Brexitで英国を締め出そうとしたEUが、実は不利になるという皮肉なことが起きている。ただし、これによって英国にも交渉力が生まれるので、規制の同等性を認め欧州全体の利益を考えるような方向に進むかもしれないという期待も生まれる。

国際金融ハブを目指す日本にとっても、この辺りの動きは非常に参考になる。簡単に国境をまたいでしまう金融取引は、すぐに最もオープンな場所に流れてしまうということは、今回の例を見れば明らかだからだ。

LCHのLIBOR移行プラン

先ほどLCHからもLIBOR移行に関するアナウンスメントがあった。年末までに行われるスワップの一括コンバージョンに関してタイミングが示され、JPY、CHF、EURについては2021/12/3、GBPについては12/17という提案となっている。12月はクリスマスの時期を除くと週末が3回なので、他のCCPが似たような時期に変換を行うとなると毎週末忙しい年末になりそうだ。

なお、6/30からフォールバックフィーとコンバージョンフィーというものが課されることになる。これらのフィーによって早期コンバージョンのインセンティブを与えたいとしている。

変換に際しては元のLIBORスワップと同じRoll dateと計算期間を保ちたいとしている。また、3s6sのようなベーシススワップについては、3month OISと6month OISのようなスワップに変換するのではなく、3m OIS vs 固定金利、6m OIS vs 固定の二つのスワップに分けるとのことだ。この方がコンプレッションがやりやすいからなのかもしれない。

細かい詳細はこれから詰めていくものと思われるが、これで海外主要CCPのプランが公開された。JSCCも同じような方向性になっていくものと思われる。

BISのドル調達関連レポート

昨年2020年の今頃に感染拡大から現金回帰が強まり、ドル資金のひっ迫が発生した。その後中央銀行のドル供給オペレーションによって落ち着きを取り戻したが、この辺りの市場の変化について、BISがレポートをまとめている。結論から言うと以下の3点に集約される。

  • 米国外銀行は、米国内からまたは、オフショアのMMFファンドからドル調達を行っていたが、2020年にはこれがその他の銀行以外からの調達にシフトした。
  • 通常MMFからのドルの最大の取り手である日本の銀行とカナダの銀行のドル調達が2020年3月以降減ったが、これは2020年末までに回復しておらず、最大の減少となっている。
  • 社債発行市場においてはドル債発行のニーズは衰えておらず、2020年3月の市場混乱以降、ドル債のシェアが伸びている。

2020年第三四半期末時点における米国外の銀行のドル負債は、以下のような構成になっている。ここ数年の動きを見ると、米国外のドル預金とドル債が増えてきている。これ以外は米銀や中銀に対する負債である。MMFから銀行以外への調達シフトが起きていはいるが、これが構造的なのかは現時点では不明とされている。

米国内のドル預金24%
米国外のドル預金49%
ドル債23%

この中でドル債調達が過去5年の間に増え続けており、全通貨の社債に占めるドル債のシェアは、2015年末の38%から2020年末には44%に増えている。2020年に関していうと、邦銀と独銀の発行が減っている。2020年末に残存するドル債の総額でいうと英国に本拠を持つ銀行がトップで15.8%のシェア、次いで中国(9.5%)、日本(8.7%)と続く。

これを見る限り、ドル調達ニーズは引き続きあるが、ドル債の発行は今後も増えていくことが予想される。ドルニーズの高まりは2020年3月のような混乱を引き起こす可能性もあるので、今後の動向にも注目したい。特にSLR(Supplemental Leverage Ratio)の免除が3月末以降も継続されるかどうかに注目が集まっているが、この延長が却下されると、米国債市場への混乱、ドル資金に対するニーズの拡大、ドル円ベーシスの拡大といった形でマーケットにインパクトが波及することもあるので注意が必要である。

国際金融都市ロンドンは復活するか

英国財務省が、ブレグジット後のロンドン凋落を防ぐため金融関連規則の見直しに着手していると報じられた。

BrexitによりEU規制の範囲から外れるため、EUのMiFID IIをターゲットにしているようだ。確かに米国ドッド・フランク法と比べ、MiFID IIは規制遵守の手間がかかり、本当に市場のためになるのかわからないようなものも含まれている気がする。

国際金融都市として海外から金融関連サービスの誘致を狙う日本にとっても参考になるだろう。英国自身、これまでの経験からEUよりも効率的かつ効果的に市場を監督規制できると考えている。

英国財務省では、夏には改革案についての意見募集を行い、年末までの法律策定を目指している。法律が絡む内容としてはかなりのスピード感を持って進めているように見える。LIBOR改革にしてもそうだが、英国当局はかなり市場に関する知見を持っており、指導力を発揮している。ひょっとしたら巻き返しも可能かもしれない。

EUには現地取引規制のようなものがあり、EUの株式取引を英国でできなくなったことを受け、オランダ等への取引シフトが起きたが、こうした取引場所に関する規制への対処も視野に入れているようだ。

そのほかにも、取引所を通さずダークプールを経由する取引の上限撤廃や、一つの商品に対するポジションリミットの撤廃のほか、株や債券取引の透明性向上のための制約も見直したいとのことだ。

そして、FCAがいちいち議会での法律策定をすることなしに、自らの権限でルール変更をできるようにすることも検討されている。変化の激しい金融ビジネスにおいては、すべて国会にで議論をして立法化するという手続きを踏んでいては遅きに失する。特に金融専門家の少ない日本ではいつも後手後手に回ってしまうことが多いので、こうした英国の動きは参考になる。

デリバティブ取引は場所を問わないため、どこに拠点があるかはあまり重要ではない。一定のビジネスが英国から、EUではなく米国に移っているのもその証拠である。日経225先物は海外取引所で取引されていることも多いが、世界中あらゆる時間帯で取引できるという利点がある。先物やデリバティブは、取引所は意識する者の、金融機関の取引場所は意識しなくなってきている。日本時間に日本の企業ととりひきをしたとしても、それをロンドン法人につけたり、米国法人につけたりすることは可能だ。当然ドッド・フランク法やMiFID IIに対する注意は当然必要だが、あまり場所自体は重要でなくなりつつある。

この計画は3月上旬の予算案の中で示されたもので、より広範な資本市場改革にも拡大して、さらなる計画を近々発表されることになっている。どのような案が出てくるか注目したい。

CMEのLIBOR移行プラン

EUREXに続いてCMEのプランを見てみる。概ね同じようなプランだが、FallbackでできるフォールバックRFRスワップと標準RFR Swapの違いが分かりやすかったのでまず紹介しておく。リンクにつけたプレゼンの2頁目にある以下の図だが、1がこれまで何度か説明してきたFallbackでできるスワップ、2が標準スワップである。

現在のLIBORは一番上で、Fが金利が決まる日、Pが金利支払日となる。つまり、例えば今後3か月間の金利は今日決まり、それを計算期間の最終日である3か月後に払うというスケジュールである。

ISDAのLIBORプロトコルでできるスワップは金利が後決めなので、FがPの直前に来ている。そして計算期間が前倒しになっている。金利が決まってその日に払うことはできないので、計算期間を2日程度全体的にずらす形だ。

一方市場標準のOISは、計算期間はずれないが、金利支払日を後ろにずらす。金利決定日のFが計算期間の最後に来ているので後決めと言われる。一方LIBORは前決めである。つまり、LIBOR移行によってこれまで前決めだった金利が後決めに変更されるため、資金決済のオペレーションのシステム化が遅れる日本ではこれがネックになっている。TORFなどのターム物RFRでは前決めが使えるので、TORFの流動性向上を待ちたいという市場参加者がいるのかもしれない。

後決めだと、例えばローンを借りた時に、今後3か月の金利は最後に決まりますよと言われるようなもので、しかも決まった日から二日後にそれを振り込んでくださいと言われるようなものである。資金決済がオートメーション化されている海外ではそれほど問題ないが、決まった金利の通知を受けて、それを振り込み指示するという手作業を行っていると、2日後に着金が間に合わないということも起きる。担当者が休暇の時に対応できないとか、祭日に対応できないという問題もある。

とは言え、後決めが主流というのは特にデリバティブの世界では一般的になっており、これを覆すのは困難だと思われるので、後決めのシステム対応を進めるしかない。

さて、話をCMEの移行プランに戻そう。他のCCP同様、CMEでも一括変換の検討は行われているが、それが望ましいのか結論づけてはいない。他のCCPとの調整も必要であり、Duratrionや割引率変更のリスク、ヘッジ会計や税務面への考慮が必要としている。

それぞれの変換手法についての課題が以下のように整理されている。

ISDA Fallback

  • 後決め等から発生するオペレーション面やリスク管理面の懸念
  • 業界で広く認知された方式
  • LIBOR移行後のSwaption行使によって発生したスワップが清算可能

標準OIS

  • 上と同じオペレーション面、リスク管理面の懸念
  • Swaption行使後のスワップが清算できない

Observation Period Shiftを行ったOIS

  • リスク管理面での懸念に対応
  • 支払日がISDA Fallbackと同じ
  • Swaption行使後のスワップが清算できない。

これらの点を明確にした上で、市場参加者への意見を求めている。これだけ見ると3番目の観測期間シフト方式を選好しているような印象を持ってしまうが、おそらく他のCCPの動向を踏まえて2の方向になるのではないかと個人的には予想している。

方向性は3月末までには決めるとしており、そこから30日のコメント期間に入る。詳細な計画は4月か5月上旬に公表するようだ。タイミングやオペレーションの詳細については、具体的な言及はない。いずれにしてももう少しすれば様々な情報が出てくるものと予想される。

EUREXのLIBOR移行プラン

各CCPのLIBOR移行の詳細が明らかになってきた。一昨日3/11にEUREXからもプランが公開されている

2021年12月31日以前にCHF、GBP、JPY、USD LIBOR取引をRFRにコンバートする予定となっており、他のCCPと概ね同じようなやり方になりそうだ。RFRは当初のLIBORスワップと同じ計算期間(Observation Period)で決済日が後ろにずれる標準RFR取引となり、ISDAのFallbackで発生するスワップのようなObservation Period Shiftがない。

変換時のスプレッドは、過去5年間のヒストリカルスプレッドの中央値で、価値評価がずれる場合は現金受け渡しによって決済する。ただし、LIBOR vs LIBORのベーシススワップについては、コンバージョンをせずに現金決済をするとある。つまり3か月LIBORと6か月LIBORのような取引は3m RFRと6m RFRのベーシススワップに変えるのではなく、そのまま解約する方法を導入するということのようだ。

そしてLIBORスワップはその後清算非適格となる。このコンバージョンのタイミングや手法、そして法的な解釈等の詳細は今後アナウンスされるとある。これについては、2020年12月の市中協議の結果も踏まえてなされる。

これはEURについての市中協議だが、EONIAから€STR flat(つまりスプレッドを加えない単なる€STR)への一括変換で、価値変化分は現金決済するという案が支持されている。変換日は2021/11/19が提案されているが、大多数がこれに賛同したとある。とは言え、それより早いタイミングを望む意見も多かったようで、結局2021/10/15金曜とその後の土日という提案になっている。当然他のCCPとの調整みあるだろうが、円についても10月から11月くらいのタイミングを意識しておく必要があるだろう。その他、円も含めたFRAを清算非対象とし、短期のスワップとして存続させることについても触れられている。

詳細については更なるアナウンスを待つ必要があるが、各CCPで変換の手順や変換後のスワップに違いが発生すると混乱が生じる。通常CCP同士で調整をすることはあまりないのかもしれないが、ここまでの大きな業界全体の変更となると、やはりCCP間で調整し、極力同一の方法で変換できるように調整をしてもらうのが望ましいだろう。

LIBOR移行の今後の予定

ISDAのガイダンスから、備忘録的に今後のスケジュールを記載しておく。

LIBORの種類最終公表日Index Cessation Effective Dateスプレッド調整決定日Synthetic LIBORの使用可能期間(案)
EUR LIBOR2021/12/312022/1/12021/3/5なし
GBP LIBOR2021/12/312022/1/12021/3/52022/1/1 –
(1,3,6month)
JPY LIBOR2021/12/312022/1/12021/3/52022/1/1 -2022/12/31
(1,3,6month)
USD LIBOR
(O/N, 12m)
2023/6/302023/7/12021/3/5なし
USD LIBOR
(1w, 2m)
2021/12/31
その後2023/6/30まで線形補間
2023/7/12021/3/5なし
USD LIBOR
(1,3,6m)
2023/6/302023/7/12021/3/52023/7/1 –

こうしてみると通貨ごとに少し扱いが異なるのがよく分かる。GBPについてはもともとSynthetic LIBORの議論がされていたので驚きはないが、来年以降もSynthetic LIBORが使える形になっており、現行の案だと期限が明示されていない。EURについてはそもそもSyntheticレートは必要ないという判断になっている。円についてはSynthetic LIBORの検討はされるものの1年以内と期限を区切っている。

USDは18か月延長があったため、Index Cessation Effective Dateはすべて2023/7/1となっているが、1, 3, 6monthについては、その後もSynthetic LIBORでの対応となり、こちらも期限は明示されていない。1 weekと2monthについては、基本的に他の通貨と同じように年末までの命だが、その後近接するテナーのレートから補間して計算されるため、Index Cessation Effective Dateは2022/1/1ではなく、2023/7/1ということになる。Synthetic LIBORの期限についてはGBPと同じように明示されていない。

日本円についてもSynthetic LIBORの可能性を検討する余地が残されたのは歓迎されるが、なぜ日本だけが1年の期限付の提案となったのだろう。まあ確かに永遠にSynthetic LIBORに頼るということだと、日本の場合移行が進まなくなってしまうので、その方が良いのかもしれないが。

買い控えの反動により経済回復が加速する

感染拡大を受けたロックダウンにより増えた貯蓄額が、主要国で2.9兆ドルに上り、一旦これが消費に回ると経済回復が加速するという分析が報道されている。そのうち半分くらいは米国だが、日本も10%近い32.6兆円くらいと推計されている。

確かに自分の行動を振り返ってみても、旅行や外食を一切せず、特に大型の買い物をしようという気もなかった。使うものがないので株式投資に回したという人も米国では特に多かったようだ。そうなると飲食、旅行、スポーツ観戦やコンサートなどのイベントに戻ってくる資金はかなりあるだろう。

そうなると米国の経済成長率は現在の予想の4.6%から倍の9%になるとの分析だ。当然コロナの時期に増えた負債返済に回す動きもあるだろうが、米国に比べると日本ではこの影響は少なそうだ。米国ですら家計負債総額はそれほど増えていないというデータもある。この点ではリーマンショック時とは全く異なる。欧州でも貯蓄額の上昇がみられる。フランスなどではロックダウン解除後にすぐに飲食に対する消費が急増したという経験もある。

そのうち巨額増税があるだろうが、しばらくは各国政府も経済支援を続けるだろうから、それまでは少し時間があると思われる。あとは、失業率とインフレ懸念だが、雇用に関しては明るい兆しが見えつつある。

ここまで思い切った政府支出が正当化されるとなると、今後は、何らかの危機があった時の方が株式等の資産価格が上昇し、何もない時の方が株価上昇のペースが抑えられるということになるのかもしれない。

2021年末のLIBOR公表停止発表

昨日3/6、待ちに待ったLIBORの公表停止予定の公表がFCAからあり、ISDAからも矢継ぎ早にアナウンスがあった。日本の新聞でも報道されているくらいなので重要性は認識されているだろうが、最重要ポイントは、これでLIBORと新RFR(Risk Free Rate)の差が決定し、言わば二つのレートの交換レートが決まったということである。

つまりLIBOR = RFR + spreadという計算になり、この数字は過去5年の中央値から簡単に計算できるし、情報ベンダーの端末から得ることもできる。このスプレッド調整を巡っては、過去にもこうしたアナウンスが市場を動かしたことがあったが、今回は3月にはアナウンスがあることがある程度予想されていたこともあり、特に大きなマーケットインパクトはなかった。それでもLIBOR-OISのマーケットは、昨日の夕方は神経質な動きを見せたようだ。

3m GBPの場合はスプレッドが11.93bp、6mだと25.66bp、ドルはそれぞれ26.16bp、42.83bpと報じられている。ドルの3s6sベーシスは結構動いたようだ。

FRBのRandal Quarles氏からは、今後数か月当局は残ったTransiction Riskの管理を、企業がきちんと行うかに焦点を当てると述べている。TつまりLIBORからきちんと移行作業を行っているかを監督当局がモニタリングするということだ。

さらにFCAがJPYのSynthetic LIBORについて言及したのも興味深い。第二四半期に、1m、3m、6m JPY LIBORについて、Syntheticなレートを一年間使うことについての市中協議を行うとしている。日本の報道では、円について参考値の公表を1年間続ける仕組みを検討しているとされていた。仕組みの検討と言っているので誤りではないが、これはLIBORの公表が継続されるというよりは、RFRにスプレッドを乗せたSyntheticレートのことを言っているので、従来のLIBORの公表が継続されるという訳ではない。ただ、タフレガシー契約と言われる移行困難な商品が存在しているのは明らかであったので、これは望ましい結果と言えよう。

また、年末までにLIBORが指標性を喪失することはないというコメントもあったようで、年末まではLIBORが存続することが確認されたことになる。不確実性がなくなるという意味では歓迎だ。

これで特に海外では事前移行に弾みがつくことが予想される。日本の場合はもう少し様子見の期間が続くだろうが、夏からは急速に移行が進むことになるだろう。

レバレッジ比率規制緩和継続が危うくなってきた

昨年感染拡大を受けてレバレッジ比率規制緩和が行われたが、その期限がもうすぐ到来する。この期限延長が認められるかどうかにマーケットの関心が集まっており、もしこの時限措置が延長されなければ、マーケットインパクトも心配されている。

銀行トップからはこの期限延長を求める声が多く聞かれ、それがマーケットの安定につながるという主張がなされていた。個人的にもその通りだと思うが、世論的には銀行の主張に屈したくないという雰囲気があるのも理解できる。

やはり今回も銀行規制緩和反対はのエリザベスウォーレンが反対の声明を発している。この資本規制緩和の継続は、金融危機後に導入された厳格な規制のフレームワークをSubstantiallyに弱めるものだとコメントしている。

銀行にとってみれば米国債を保有するだけでレバレッジ比率の悪化を招くため、当然米国債を保有するインセンティブがなくなる。したがって、米国債の取引を避けるのは当然のことで、これによって米国債の流動性が悪化した。レバレッジ比率自体がリスクを増やすとは全く思えず、FEDがこれだけ流動性を供給し続ける中、それを銀行が吸収できないのは問題だと思うのだが、やはり銀行支援をすると政治的には望ましくないのだろう。

延期を求める議員も多数いるのだが、ウォーレンのような実力者が発言するとやはり影響は大きい。このような憶測によってマーケットは若干神経質になっているが、やはり規制緩和延長は難しいのかもしれない。日本の年度末に向けて米国金利市場においては更なる混乱が予想されるが、これだけ何度も流動性ショックが起きてもレバレッジ比率重視の傾向が変わらないということだと、もっと大きな流動性危機が必要なのかもしれない。

公表されている声明によると、銀行は感染拡大を規制をなし崩し的に緩和する「言い訳」として使っているという辛辣なコメントで批判している。なぜそこまでレバレッジ比率を重視して、その他のリスク管理手法を中止しないのか理解に苦しむところである。

日本円Synthetic LIBORに対する期待

LIBORの公表停止、または公表停止予定を発表すると、LIBORとRFRとのスプレッド計算が行われることになるが、そろそろ停止予定の発表があってもおかしくない。USDの公表停止は18か月延期されたが、スプレッド計算のトリガーとなるアナウンスメントは、様々な通貨について同時に出る可能性が高いので、これが行われるとマーケットへのインパクトも予想される。

英国では、新レートへの移行やフォールバック条項の導入が困難なタフレガシー契約については、Synthetic LIBORの利用可能性が高まっている。英国当局のFCAがIBA(ICE Benchmark Administration)に対してLIBORの算出方法を変更させる権限を行使する、という回りくどい言い方で報道はされているが、要はLIBORの代わりにSynthetic LIBORが使えるということだ。

計算方法はRFRに何らかのスプレッドを加えるものになるだろうが、これによって、LIBORが公表停止になったとしても、新レートに移行できなかった古いレガシー契約に対する手当ができることになる。

USDの場合は既に18か月の延長があるので問題がなく、CHFとEURについては、それほど取引も多くないので、おそらくSynthetic LIBORが使われることはないと想定されている。USDとともに、引き続き検討とされているのがJPYである。

社債のバイバックや新レートへの移行、あるいは既存の契約に頑健なフォールバック条項を入れたりといった手当が進んでいけば、Synthetic LIBORに頼る必要はないのだが、日本の現状を見るとこの移行作業が進んでいるとは到底思えない。したがって、Synthetic LIBORに期待している市場参加者がかなり多いものと予想される。

欧米ではタフレガシー契約に対して立法的解決策の検討が行われているが、日本ではこうした議論があるとは聞いたことがない。海外からも、日本の状況を憂慮する声が日に日に大きくなっているのを感じる。英国法だったりNY州法だったり、異なる準拠法で行われた取引もあり、本来であれば厳密な分析をしておくべきなのだろうが、なかなか統一見解がない。

極力新レートへの移行が望ましいと思っていたのだが、やはり日本円Synthetic LIBORの利用に向けて声を上げていくべきなのだろうか。だとするとすぐにでも作業を始めなければならない。あるいは、現状は様子見をしている日本の投資家も年末に向けてどこかで一斉に動き出すのだろうか。

ターム物リスクフリーレートはいつから本格的に使われるか

マーケットではまだ全容が見られないターム物RFRに対する期待が強い。金利が最初に決まるFoward lookingな前決め金利だからというのが大きいのだろう。特に金利が決まってからすぐに決済ができないという日本での期待が最も強いようだ。

昨年11月のEURのRFRワーキンググループで行われたターム物に関する市中協議では、40%が金利の前決めを希望し、58%が後決めを支持した。日本で同じような調査をしたら半分以上は前決めを希望するだろう。日本でTONA後決め複利金利かTORFなのかという二択の議論が起きているのがその証拠だと思う。どちらが主流になるかわかるまでは移行作業を行わないという意見すら聞かれる。

日本のターム物金利であるTORFの算出手法は、TONAに基づいて決まるため、TONAなしにTORFが存在するのは不思議な話なので、本来は二択というよりは、TONA→TORFという順序になるはずである。何となく気持ちはわからなくもないが、どうせTORFに行くことになるのなら最初からTORFに統一したいという声も最終投資家から聞かれる。しかし、このままTORFを待っていたらいつまでたってもLIBOR移行ができず、年末になって大慌てをすることになるのが目に見えている。

確かに日本におけるローンや債券のフォールバックレートの第一順位はターム物RFRとなっている(参考)。新規LIBORローンや債券が第三四半期からは使わないことが推奨されているので、TORFへの移行が進むという期待があるのだろうが、果たしてそうなのだろうか。

英国ではGBP建てローンのうち、フォワードルッキングなターム物SONIAに移行するのは少数だと繰り返しコメントされており、デリバティブ市場でも大きな移行があるとは想定されていない。米国では、AMERIBORやBSBYといったクレジットスプレッドの含まれた金利への移行の動きもあり、ターム物RFRへの移行が進んでいる様子はうかがわれない。

各国のターム物の公表は以下のようなスケジュールで進んでいるが、先行する英国での移行が進まず、米国も流動性が全く伸びていかない中、日本だけが突然TORFを使うようになるとは個人的には全く思えない。EURに至っては、参考値すら公表されていない。

日次参考値公表確定値公表
JPY2020/102021年央
GBP2020/72021/1
USD2020/102021 Q2

そろそろ前決めのTORFの流動性向上を待つよりも、後決め複利でも良いからすぐさま行動を起こす時期が来ているように思う。逆にTORFへの期待感がLIBOR移行を遅らせることになっているとしたら本末転倒である。

LIBORプロトコルに批准しない市場参加者を締め出すことはできるか

以前、一部海外ヘッジファンド等でLIBOR移行プロトコルに批准していないところがあると報じられていた。スプレッドがどのくらいに決まるかなど、最後の最後まで自分に有利になるかどうかを見極めてから批准するということらしい。

各国当局があそこまで早めの批准を呼び掛けているにも関わらず、最後までオプションを持っておこうとするのもさすがと言わざるを得ない。日本の参加者ではこんなことは起きないだろう。

こうしたプロトコルを批准していないヘッジファンドからNovationを受けてしまった場合はどうなるのだろう。プロトコルができる前の昔の取引は、ディーラー同士の取引になっており、批准時点でのすべての取引がプロトコルでカバーされるので問題ない。しかし最近になってNovationを受けてしまった場合は、ひょっとしたらプロトコルでカバーされないものがあるかもしれないし、何か特別な文言が当初のコンファメーションに入っているかもしれない。

となると、いちいち取引コンファメーションを取り寄せたりするのは面倒なので、プロトコルに批准していない先からはNovationを受けないという慣行が広がれば、こうした姑息なファンドをマーケットから締め出し、批准のインセンティブをつけることができるのではないか。これが本当かは法的に確認してみなければならないが、やはり業界を挙げて努力をしているときに、自分の利益だけを考えて動く投資行動は避けるべきだと強く思う。

英国FCAのLIBOR移行に関するスピーチ

JSCCのデータによると昨年10-11月にかけてOIS取引が一時的に盛り上がったと思っていたのだが、その後この流れが加速する雰囲気が感じられない。一時期日本円TIBORとユーロ円TIBORのベーシスも動いたことがあったが、その動きも落ち着いてしまった。LIBOR移行に関しては、日本のマーケットは完全に待ちの状態になってしまっているようだ、

LIBORプロトコルが1/25に発効し、批准者も着々と増えてはいるが、実際の取引にはほとんど変化がみられない。流動性がないから移行が進まないというにわとり卵の問題なのかもしれないが、今の状態は坂の上で止まっている雪玉のようなものなのだろう。誰かが押してやれば玉は転がり始め、あっという間に雪崩のようにその流れが大きくなるはずなのだが、皆がその玉を周りから見守っているような感じだ。ディーラーはやらなければならないことはわかっているので横から押してはいるのだが、やはり投資家の上からの一押しがないと本格的に球は転がり始めない。あるいは当局がそれを押しても良いのだが、日本では業界のことは業界に任せるべきという雰囲気がある。

日本より進んでいる英国の例を見てみよう。FCAのEdwin Schooling Latterの1/26のスピーチを見ると、様々な踏み込んだ発言をしており、市場参加者も彼の発言にはかなり注意を払っている。

既に決まっているスケジュールであるが、英国では新規のLIBOR貸し出しは3月末以降はできない点を強調している。そしてデリバティブ取引のFallbackを合意するが重要とし、For many firms, it is a regulatory obligation to have fallback arrangementsと述べている。Fallbackをアレンジするのは多くの会社にとって、規制上の義務という言い方だ。

英ポンド建てスワップにおいてはCCPで清算されないOTCのスワップ全体の約9%であり、そのうちプロトコル批准者のポジションは85%に上る。未だ批准を終えていない参加者に対しては、すぐにでも批准するよう呼びかけている。

Tough Legacyと言われるLIBOR移行が困難な古い取引に対する対応としてSynthetic LIBORにも言及している。EURやCHFについてはSynthetic LIBORの必要はないだろうが、GBPについてはこれが必要であり、円とドルについてもその必要性について検討を続けるとしている。IBAの市中協議でどのような意見が寄せられたか、それに応じてIBAがどのような決断をするかに注目が集まる。発言内容を見ていると、そう遠くない将来に結果が公表されるように思える。LIBORとRFRのスプレッド調整の計算のトリガーとなるので、次に起こるイベントとしては最も重要だ。

スプレッドが決まれば、Synthetic LIBORのスプレッドも決まり、この辺りの詳細が次なる市中協議に直ちにかけられることになる。この意見募集の内容もある程度固まっているように思える。米ドルは18か月の猶予があり、GBPもSynthetic LIBORの利用がほぼ確実な中、やはり円の行方が最も不透明だ。

Synthetic LIBORの可能性はあるものの、事前移行が可能なのであれば、年末を待たずにすぐにCompunded RFR(複利のリスクフリーレート)にConvertするべきとも述べられている。

日本では年度末の3月に移行が進むとは思えないので、この間に出されるIBAやFCAからの発表に応じて4月以降急速に作業を進めることになるのだろう。

LCHのLIBOR変換プランが明らかになった

LIBORからRFR(Risk Free Rates)への移行についてのLCHの意見募集については、一部報道を除いて詳細が公になっていなかったが、2/16にその結果が公開された。

タイミングについては、 Index Cessation Effective Dateかその直前ということで大部分の参加者の了承を得られた。そして、ISDA Fallback によってできるスワップではなく、標準RFRスワップに一気に変換されるということもほぼ決まった形になっている。

先日も解説した通り、Fallbackで発生したスワップは、標準RFR Swapとほぼ同じなのだが、計算期間等が微妙に異なっており、2種類のスワップが清算されることに対する懸念があった。市場参加者の中には、Fallback Rate RFR Swapを今から取引しようとする向きもあったらしく混乱が生じていた。Fallbackのスワップはあくまでも移行に際して一時的に発生してしまったスワップであり、今後主流になる市場標準のスワップとは異なるので、この方向性は歓迎されるだろう。参加者破綻時のオークション等CCPのリスク管理上も望ましい。

タイミングとしてはCessation Effective Dateということなので、年末になるのだろうが、過去の経験からすると、年末年始やクリスマス休暇の頃にこのような一大イベントが来るとは思いにくい。そうすると現実的には11月頃ということになるのだろうか。おそらく他のCCPも同じことをすると予想されるので、忙しい月になりそうだ。

変換方式については現金決済を好まない参加者が多く、RFRのレグに複利計算をしないスプレッドを加える方式になりそうだ。その方がCash Flowが大きく変わらず、ヘッジも継続され、リスクの変化も少ない。未実現損益が実現してしまうという懸念もあるのだろう。

オペレーション的には、一旦LIBOR Swapを解約して、新規のRFR Swapを立てることになる。つまり、既存の取引IDがなくなり、新たな取引IDが作られるということになり、法的にも旧取引が消滅し、新規のRFR Swapが一気に発生するということになるのだろう。実際はLIBORレグがRFRレグに置き換わり、計算期間や決済日は標準RFRスワップのConventionに従うことになる。LIBORではない固定金利のレグ等はそのままだ。スプレッド調整で若干残ってしまったValuationの差については少額の現金決済が発生する。

概ね市場参加者が予想していた方向性になっており、返還方法についても違和感はない。ここでCCP取引の変換方法のスタンダードが出来上がったような形になったので、他のCCPも追随することになろう。

こうなると、CCPで清算しない相対取引についても同じような時期にRFRに移行しておかないとミスマッチが生じてしまう。市場標準RFRであれば既に清算可能な取引が多いだろうから、相対取引もRFRに移行するという機運が高まる可能性がある。

それにしても日本に置いては気持ち悪いくらい様子見の姿勢が続いているような気がする。ローンと債券が第二四半期末を目途にしているが、デリバティブも時期を明示していかないと、最後の最後まで待ちたいという投資家が出てきても不思議ではない。

11月にCCPの取引が完全移行するのであれば第三四半期の始め、つまり7月くらいから流動性の移行が起きていかないと、スケジュール的にかなり厳しくなるだろう。

国際金融都市になるには何が必要なのか

英国の金融センターとしての地位低下が止まらない。いくら長年金融の国際的なハブとして機能していても、金融取引はあっという間に国境をまたいで移動してしまう。

先日も紹介した通りオランダのアムステルダムが、あっという間に欧州の株式取引の中心地となった。アムステルダムの1月の一日平均の欧州株式取引高はEUR9.2bnとなり、シェアを落としたロンドンのEUR8.6bnを超えたと報道されている。従来の取引高の半分がロンドンから移った計算だ。昨年までの取引高で言うと、ロンドンの次はフランクフルト、パリと続いていたのだが、アムステルダムは一気にトップに躍り出た。金融サービス業の比率が15%程度を占める英国にとって、年間GBP9.5bnの損失が見込まれるという調査結果も報道されている。

と、新聞紙上では騒ぎになっているのだが、実際この影響はそれほど大きいものなのだろうか。日本で取引をしていても特に外資系は米国法人や英国法人を通して取引をすることが多く、取引執行機関もスワップであれば米国SEF(Swap Execution Facilities)を使ったりすることもある。特にOTCデリバティブや先物を普段取引をしている感じでは、それがどこで執行されているのかはトレーダー自身はあまり意識していない。当然取引執行を確認したり、取引報告をするオペレーション部門にとっては大きな違いなのかもしれないが、今や世界中どこでも取引ができる。

重要なのは流動性である。日本時間に東証で取引をした方が日本株は流動性があるだろうし、金利スワップも日本時間に日本のJSCCで取引をした方が流動性があるかもしれない。だがそれは流動性のある時間帯や取引Venueの話で取引執行場所がどこであるかはあまり関係がない。日経225先物はシンガポールのSGXや米国CMEでも取引できるし夜間取引の流動性も高い。わざわざ日本に住んでいなくても取引が可能だ。

また、国の経済に影響があるのは、やはり雇用だろう。確かにロンドンから人を移す動きはあるが、取引がアムステルダムに移ったとしてもロンドンの方がまだ金融機関の人員は多いと思う。つまり、ロンドンにいる人がアムステルダムの取引執行機関を使っているだけであれば、英国にとっては言うほどダメージが大きくはないのではないだろうか。あるとすれば取引税などの税金減くらいだろうか。

したがって、金融機関のオフィスや人が本格的にロンドンから脱出してしまうと、英国経済に対する影響が出てくる。今のところロンドンには引き続き金融人材が集積しており、一部テクノロジー部門を賃料の安いところに移したり、取引執行にかかる人的資源をEUに移したりする程度ではないか。もちろん、徐々に移行は進んでいるが、経営層、トレーダー等は引き続きロンドンにとどまっているように思う。そしてこれらの中枢の人材は英国から出る時はおそらくNYに行くのではないだろうか。

香港やアジアもなぜ金融都市としての評判が高まったかというと、人が集まったからである。その意味で低い所得税率や相続税率は人を集めるのに一役買った。そして優秀な人材が集まるにつれ、相乗効果が生まれ、インターナショナルスクールや英語を話せる病院など、世界中から人を惹きつけることになった。

とは言え、英語を話す人が今よりも少なかった80年代などは、それでも海外から日本に人が押し寄せてきた。優秀な人材が集まり、外資系もこぞって日本に参入した。日本からアジアに金融の中心が移っていったのは、言語や税金の問題もあるが、やはり日本の成長力や市場に魅力がなくなってしまったからなのだろう。

日本の成長がかつてのペースに戻ることはないだろうから、やはり極力許認可制度の簡素化、迅速化を進め、国際人材を呼び込むような工夫を続けていくしかない。日本に勢いのあった80年代ならば日本のやり方を貫いても問題なかったが、現状ではやはりビジネスのやり方を国際慣行に近づけていくしかないのだろう。

インフレの波及効果

米国GDPが4.9%に拡大すると予想され、景気回復を予想する声が多くなってきた。直近のデータを見ても着実な回復基調が見て取れる。ワクチン接種の進展と米国の1.9兆ドルの追加経済対策の影響が大きい。消費者物価指数も1.4%に上がり、原油価格上昇等から、6月には平均的に2.8%程度への上昇を予測する声が聞かれる。

10年のBreakevenは追加経済対策によって上がり始め、日本の物価連動国債までもが若干影響を受けている。その他、インフレ懸念からプラチナの価格が上がったりもしている。ビットコインの上昇にも関係しているかもしれない。

ただし、失業率だけは改善しないと見る意見が多いようだ。最近の雇用統計の影響もあるが、新規雇用数の回復が遅れるという意見が強くなっている。今年の平均的な失業率は5.3%くらいという予想で、米労働局発表の1月の失業率は6.3%であった。

景気刺激策の継続から資産価格は支えられ、株価ももうしばらくは上昇を続けるのかもしれない。インフレも2%を超えるが米国の場合はしばらくは許容範囲内だろう。日本でも同様な経済対策が続くだろうし、海外対比日本だけが引き締めに動くと円高懸念も高まる。ただし、日本だけがインフレ率が上がってこない。

海外の友人と話をしていると、米国その他の国の企業では、給料にインフレ調整がかかっている。つまり毎年2%とか3%物価上昇に合わせて基本給が上がっていく仕組みだ。例えば、2000年に給料が100、毎年3%給与上昇があると仮定すると、以下の表のように、複利効果によって20数年で給与格差は2倍になる。

海外日本
2000100.0100.0
2005115.9100.0
2010134.4100.0
2015155.8100.0
2020180.6100.0
2025209.4100.0

その分物価も上がっているのだから生活水準は変わらないという人もいるかもしれないが、この差は大きく、国際比較をした時の相対的な日本の地位は下がっていく。このまま行くと日本の給料は先進国中最低水準になってしまう。

定年後は物価の安いアジアに移住という話が以前あったが、そのうち物価が安く良質なサービスを受けられる日本の人気が高まり、逆に海外からの高所得高齢者の移住が加速するようになるのではないか。そうして物価が上がると日本の賃金で働く人々が苦境に陥ってしまう。何らかの防衛をしないと日本の資産は海外に買い漁られてしまうかもしれない。

逆に、海外資産に投資すればそのまま値段が上がっていく。当然為替レートである程度調整されるはずなのだが、介入によって変動が抑えられている。つまり、日本にいながら海外企業のために働き、海外資産に投資していけば、食費や生活必需品は安い日本の物価を享受することができてしまう。ネット経由で海外の仕事を請け負うのは簡単になった今、これは十分可能なのだろう。ただし、為替手数料、送金手数料、税金を考慮する必要があり、投資についても日本の証券会社の品揃え、手数料に限界があるため、海外証券口座を持つ必要がある。

物価上昇が当たり前の国では物価連動債やインフレヘッジの取引も多くなる。イギリスやオランダなど欧州ではこうした年金ファンドの金融取引が非常に活発である。日本にも物価連動国債はあるが、取引量は少なく流動性にも難がある。インフレを経験した人が少なくなっているのでヘッジなど考える人が少ないのかもしれないが、このままお金を刷り続ければ、どこかで突然物価上昇が起きてもおかしくない。

考えてみれば自分が生まれて初めてバスに乗った時の運賃は子供料金で25円だった。大卒初任給も以下のように10年ごとに上昇し続け1995年以降はほぼ横ばいである。(→参考)やはり日本経済が成長していたころは物価も上がっている。

1965年 月2.3万円
1975年 月8.4万円
1985年 月14万円
1995年 月19.4万円
2020年 月20.9万円

こう考えると、今後の年金はどうなってしまうのだろうか。海外の年金は当然物価調整が入るのでインフレがあれば需給金額も増える。二本も一応インフレ連動だったが、2004年のマクロ経済スライドの導入によって訳が分からなくなってしまった。少なくとも完全にインフレに連動しているとは思えない。

こう考えていくと、日本を取り巻く環境は厳しいが、海外と渡り合って成長する企業も少しずつでてきており、製品の品質、サービスは世界最高水準である。ただ、経済・金融関連についてはかなり遅れていると認めざるを得ない。

金融オペレーションの自動化が急務

金融のオートメーション化が急速に進み始め、海外では装置産業のようになりつつある。システムへの依存が高まり、金融業界で働く人材は減るものの取引量は急拡大を続けている。特にバックオフィスと言われるオペレーション部門の業務の自動化、STP化が顕著であり、電子取引とつながれているところの取引などはほとんど人手が介在することはない。

翻って国内の状況を見ると、特に債券関連では電話取引の割合が依然高く、取引の約定記録をメールで送ったり、その内容を複数の人で確認して間違いがないことを確認して送ったりという業務が一般的になっている。1円の違いのために何人もの人が残業するということが昔言われたが、間違いを許さない文化というのも、効率性向上の障害になっているかもしれない。。

昨年2020年3月などは、グローバルで取引量が急増し、その後ほとんどの従業員が在宅勤務になった後も、海外では高水準で取引が続けられている。日本の場合は4月の緊急事態宣言で急速に取引量が落ち込み、その後も海外に比べた取引の低迷が目立つ。人がオフィスにいなくてもすべての業務が完結する欧米と比べ、会社に通勤して実際に目だ確認しなければならない日本の金融業務は雲泥の差ができてしまっている。

海外でも昨年取引量が倍以上に増大した時にはかなりの混乱がみられた。日本で同じような取引業急増が起きたら、完全に破綻していたと思われるレベルだ。特に海外ではファンドのアロケーションというものがあるので、一旦執行した取引を傘下にある複数のサブファンドに割り当てるプロセスが一般的なので、処理件数が多くなる。貯蓄から投資への流れの進んでいない日本ではファンドの数も少ないので何とかなっているが、今後日本の金融を海外並みにしていくには、こうした事務対応の強化が急務である。

今のまま日本に海外からの参加者が増えて取引が急増すると、確実にシステムが止まるか、事務負担増に耐えきれずに事故が起きることになってしまうだろう。

海外では、特に先物の分野において、取引執行からその確認、アロケーション、CCPにつなぐところまでの業務の標準化が検討されており、このためのプラットフォームを業界で作ろうという話も出ている。店頭デリバティブ(OTC)に関しては、MarkitServのおかげもあり、ある程度フローが確立しているが、先物の方が若干遅れている感がある。こうした流れに日本が全く参加できていないのが歯がゆいところである。

いくら日本の金融資産が1900兆といっても、その運用のために膨大な人を雇って目でチェックするマニュアルプロセスを導入しなければならないとすると、大手運用機関は二の足を踏んでしまうだろう。日本の労働法の下ではそうした人々を解雇することも不可能なので、その人たちの仕事を守るために人海戦術を続けることになってしまう。

海外に行って銀行の明細書に誤りがあるのを見つけた時にはびっくりしたのだが、言えばすぐに何事もなかったかのように修正されて終わる。日本だったら、けしからん、上を出せ、改善策を提示しろと言われ、人を増やしてチェック体制を整えますということになるところだ。さすがにAIやシステムチェックが優秀になってきたので、海外でもミスが少なくなってきた。この辺りの意識改革をしていかないと日本の金融に未来の遅れは取り戻せないと思う。

マイナス金利プロトコルは破綻してしまうのか

先週マイナス金利プロトコル脱退の話をしたが、どうしてこのようなことになるのか少し考えてみた。従来の担保契約(CSA)では、金利がマイナスになったらゼロとみなすという文言が入っている契約と、そうしたことが何も書かれていないサイレントCSAがある。このサイレントCSAの解釈は各国法制や個社ごとに異なっていたが、プロトコルを批准すればそれが解決される。英国法ではサイレントCSAはフロア有と解釈されるという話が当時あったが、米国法や日本法では曖昧なまま議論が進んでいた記憶がある。

あくまでも個人的な予想なのだが、ここで、サイレントCSAを締結していて勝ちポジションを多く持っている市場参加者がいたとする。解釈があいまいなので何もせずに担保金利を受け渡ししていない状況なのだが、マイナス金利プロトコルに批准すれば担保をもらった上に金利までもらえるということに気づいてしまう。そして突然プロトコルに批准して相手方に金利を払うように要求するということが可能になる。

突然依頼を受けた方は、これまで金利にフロアがあると思って時価評価も行っていたところ、急にディスカウントカーブが変わるため、One Timeで損失を計上することになってしまう。文句を言おうにも、業界で合意して作成したプロトコルに批准しただけなので、如何ともしがたい。

もっと悪者がいたと仮定すると、オプションをしこたま買いまくってプレミアムを払い、取引の時価を思いきりプラスにしてからプロトコルに批准すれば、巨額の利益が上げられてしまう。このゲームには抜け穴があったということになってしまうのだろうか。確かに当時はこんなことには気づかなかった。プロトコルからの脱退は年一回だったと思うので、なかなか防衛手段がない。

ISDAのWebを見ると2019年に新規批准したエンティティが37社、2020年が30社となっているが、今年に入っても新規批准者がみられる。単純に英国金利の低下によって批准をしているところ、新規のグループ法人や現地法人等を作ったために批准をしたところが多そうだが、実際のところはよく分からない。少なくとも上で書いたような悪事を働いているように見えるところは少なそうだ。

上で書いたようなゲームをしようにも、批准日や批准者がすべて公開されるので、よっぽどのことがない限りそこから利益を上げようとするのは得策ではないように思うのだが。。。