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日本の在宅勤務の現状

日銀が金融システムレポート別冊シリーズとして在宅勤務についてにのアンケート結果を公表している。この内容について報道では、金融機関の4割が在宅で私用端末を認めているとして、安全性に課題があるという見出しになっている。コメント欄にも、「信じられない」、「個人情報や機密情報保持は大丈夫なのか」という懸念が寄せられている。

個人的には逆に9割強が会社貸与端末を利用というのが逆に驚きだった。海外では、ほとんどが私用端末を使って会社やVirtual PCにアクセスしている。当然会社のシステムと私用端末は完全に遮断されており、ダウンロード等何もできない仕組みになっている。所謂VDI方式というものだ。私用端末がウィルスに侵されたとしても当然会社のシステムに影響はない。いつアクセスしているか、どのような仕事を行っているのかもかなりの部分までモニタリング可能である。

確かに日本では専用線を使っていると安全でネット接続は危険と思われている節がある。日銀端末についての記事もあったが、海外ではネットで接続する際の対策に力を入れているのに対し、日本はやはりネット接続を避けるという方向なのかもしれない。海外では国債入札も自宅端末からできるといったら日本では非常に驚かれる。当然私用端末からだ。それでも情報漏洩やシステム問題は日本の方が多く発生しているような印象も受ける。

確かに取引のコンファメーションを電子で送ると言ったら、紙で郵送してほしいとかFAXで送ってほしいという依頼が日本では数年前までは頻繁にあった。電子署名なども断られるケースが多い。実際に「もの」がないと信用されないようだ。書類偽造や印鑑偽造の方がよっぽど技術的には簡単なように思うのだが。

そうは言っても今回のコロナショックでは、このあたりの意識もかなり変化してきているようだ。日銀アンケートにあるような在宅勤務は、感染拡大がなければ実現不可能だったかもしれない。もうこのような時代なのだから、ネットを避けることに労力を注ぐよりは、ネット上の安全技術に磨きをかけた方が良いのだろう。

銀行は有事に資本バッファを使えるのか

現在の銀行資本規制上は、資本バッファというものがあり、今回のコロナ感染拡大のような有事においては、それを取り崩せるような施策が打たれることが多い。とは言え実際には銀行がこのバッファを使えていないという批判が以前から上がっていたが、今般バーゼルから、資本バッファは本来の役割を果たしているという反論があった。

カウンターシクリカルバッファ、GSIB追加バッファなど様々なバッファがあるが、確かにコロナ対策として、資本バッファを取り崩して貸し出しを延ばしてよいというメッセージは各当局から発せられてはいる。しかし、銀行内部にいる者にとっては、これが緩和されたからといってすぐに使おうという気にならないようだ。これはあくまでも一時的な緩和であり、危機が去ればまた元に戻さなければならないとか、そうはいってもこの緩和に頼るようでは、健全性が劣っていると見なされかねないという理由もあるとは思う。

そしてそれにもまして重要なのは、資本対比のリターンに対する要請が厳しいというのが大きいような気がする。海外の大手銀行では、案件ごとにROEの計算を行っており、資本対比のリターンが低いものには手が出せない。たとえ当局が資本規制を緩めてもそれを前提に、案件のハードルを下げているようには見えない。結局レバレッジ比率規制の緩和も3月には終わってしまうのである。

最近では日本ですら、シェアではなく収益性を重視する声が聞かれるようになってきた。欧米では自社株買いや配当制限がかかっているが、収益性の低いローンを急増させてしまうと、制限がなくなった時でも配当が払えないという可能性もある。また、格下げによって調達コストが上がったり、競争力が下がったりしてしまう。

経済を支えるためにリターンを度外視してローンを出すべきというのはわかるが、ここは公器としての銀行と営利企業としての銀行のバランスが求められる。この点については、何となく日本は公器よりで、欧米は営利企業寄りという感覚がある。

しかし、コロナだからといってもともと潰れるはずだった企業までが延命され、結果的に将来国民の税金が上がるというのは、経済全体に望ましいことなのだろうか。コロナ対策で増やしたローンが焦げついて格下げされたら、その銀行は国が救うのだろうか。

バーゼルの言い分も理解できるが、やはり資本バッファがその役割を果たしているとは、どうにも思えない。

LIBORから新レートへの一括変更

EurexとLCHがEONIAからESTRへの一括変更を検討していると報道されている。EURスワップに関しては、6月27日にディスカウントレートが変更になってからも、依然ESTRへのシフトが思うように進んでおらず、ESTR参照のスワップは未だ全てのOISの2%しか取引量がない。Eurexは若干この割合が高めだが、その移行ペースは思ったより早くない。

だが、このまま二つのレートが混在するのは、管理が面倒なのと、CCPにとってもデフォルト時のオークションが問題になる。当然フォールバックがトリガーされ一気に混乱が起きるよりは、それ以前にポジションを移行した置いた方がオペレーション面でもリスクが少ない。

この変更は来年の上半期に起きる可能性が高いが、最終期限を考えるとUSDやJPYのような他の通貨においても同じような時期にCCPが変更してくる可能性が高い。

とは言え、まだCCPにクリアリングされたスワップは、このようにCCPサイドで透明性高く移行が進んでいくため、相対で交渉するよりはかなり楽だ。こう考えると、まずは今のうちから昔の相対取引等クリアリングに移せるものは極力CCPにバックロードしておくのが望ましいのだろう。

CCPとしては、いつまでもレガシースワップが残るのは望ましくないため、一定の期限を設けて一括変更を発表するのではないだろうか。そして、一括変更がオペレーション的に難しいのであればその期限までに徐々に移行を進めていくというのが現実的な流れだと思われる。そう考えると、まずはバックロードは今年後半か来年第一四半期には進めておかなければならなくなる。あまりここまで進んでいる市場参加者は少ないのが若干気になるが。。。

アジアのNDFマーケットが急速に伸びている

アジアにおけるNDF市場に関するIMFのペーパーでNDFの取引が急増している様子が紹介されている。COVID19でNDFの動きが激しかったため、ここから他のマーケットに影響が広がることを政策当局者としては注視しているようだ。このペーパーにある2013、2016、2019年の取引量のグラフを見ると、最近の取引の伸びには目を見張るものがある。2019年の取引量は3年前の2倍以上に伸びており、グローバルにおけるシェアもアジア通貨が6割程度になっている。INRなどは3倍、TWDは2.7倍、KRWは2倍とのことだ。2020年にはこれがさらに伸びていることが予想される。

NDFはヘッジコストが高いため、市場混乱が起きた時に投資家がヘッジをあきらめ、現地通貨建て社債等の売却に動くという懸念も挙げられている。取引量の大きな通貨はINR、KRW、TWDだが、この3通貨でグローバルNDF取引の55%を占めており、CNYが5%とのことだ。アジア以外では、BRLが14%、RUBが2%である。主要3通貨については、NDFの取引量がSpotやFowardと比べても格段に大きいという特徴もある。特に台湾では、ドル建ての債券であるFormosaがグローバルでも有名だが、このヘッジニーズが恒常的に入っているようだ。

NDFは現金決済のあるFX Forwardとは異なりマージン規制の対象となっているため、取引量の多い市場参加者は当初証拠金の拠出をしなければならない。そして延期されたとは言え、来年、再来年に対象会社が広がるため、CCPでの清算も増えてくるかもしれない。LCHもNDFのクリアリングを強化しているという報道もあったが、来年以降クリアリングに移行する動きが本格化する可能性がある。金利スワップと同じようにクリアリングNDFと相対NDFでプライスに差をつけるところが出てきているというコメントが報じられたこともあったが、おそらく金利スワップと同じようなクリアリングへのシフトが起きてくるのだろう。

特に今回のコロナで明らかになったのは、NDF市場はオンショアの為替市場よりも変動が大きく流動性インパクトも大きかったという事実だ。ローカルマーケットが動かなかった時でもNDFマーケットだけが海外投資家のフローの影響を受けて変動するというケースも散見される。ただこれは裏を返せば、NDFのトレーディングは収益機会が大きいということなのかもしれない。

米金利上昇懸念の高まり

景気回復期待と、さらなる米国の財政支出期待の高まりから、米長期国債の金利上昇を予測する声が大きくなってきた。インフレ期待も高まり、10年金利がコロナショック前の2%まで戻るのではという声まで聞かれる。民主党勝利の可能性が高まったこととも関係しているのだろう。

大統領選でバイデン勝利となり、上下院双方も抑えるようなことになると、大胆な景気刺激策を打ち出しやすくなる可能性が高い。上院での民主党勝利の確率も今週になって61%から68%に上がった。

確かに現状のコロナ対策財政パッケージをめぐる混乱を見ていると、民主党が圧勝し上院も握れば、財政政策的にはかなり柔軟性が増すように思う。このパッケージも、政府案は1.8兆ドルということで、先の1.6兆ドルよりは上積みされたが、民主党の2.2兆ドルには届かない。そもそも民主党案は3.5兆ドルだった。共和党議員の反対もあるため、選挙前にこれが合意に至るかどうかは現時点では不透明だ。

あとは選挙後にFEDがどう出るかだが、金利が上がれば、現状の80兆ドルの国債買い入れプログラムに変更を加えてくる可能性が高い。おそらく長期金利上昇を抑えるために長いところの国債の買い入れを進めることになるのだろう。株価への影響も懸念されるが、いずれにしても安全なのは金融株ということなのだろうか。とは言えバイデン政権がウォールストリートに優しい政策をとるとは思えない。行き過ぎた規制を修正する動きが少しずつみられてきたが、この流れが止まるのだろうか。

IBOR FALLBACKプロトコルのタイムライン決定

昨日10/9にISDAからIBOR Fallbackプロトコルに関する声明が出されている。米国司法省から、競争上の悪影響が及ぶ可能性が低く、金融業界に対する大きな便益をもたらす可能性があるという、前向きなレターを受け取ったことから、次のステップへ進める旨のアナウンスメントとなっている。

一応米国外でも同様の確認を進めていると書かれているが、大きな反対が寄せられることは想定されていない。今回の声明により明らかになったタイムラインは以下の通りである。
– IBORフォールバック・プロトコルを2020年10月23日にLaunch
– 施行開始は2021年1月25日
なお、プロトコルは1/25の発効後も批准可能となっている。これでようやくプロトコル批准に向けた作業が動き出す。

同時にARRCからもプレスリリースが出ており、プロトコルへの批准を呼び掛けている。特にデリバティブポジションの大きな市場参加者に対しては、10月23日の開始日2週間前のエスクロー期間のうちに批准することを推奨している。つまり来週早々から手続きに入るところが出てきそうだ。

来週にはLCH/CMEにおけるUSDのディスカウント/PAI変更が控えているが、今年後半から来年は忙しくなりそうだ。

しかし、考えれば考えるほどこの移行には困難が伴う。前もって新レート移行の準備計画を練っているところは問題ないが、何も準備をせずにプロトコルさえ批准しておけば良いだろうと思っている市場参加者が多いと、突然アナウンスが出た時には大パニックになるのではないか。

特に最近はXVA、担保の違いによる価格変化、ディスカウントを変更した際に生じるクロスガンマヘッジ、証拠金規制対象前と後の取引の扱い、IMの偏りから生じるCCPやBilateralの当初証拠金のファンディングコストと、把握しておかなければならないパラメーターが多すぎる。これをすべてのカウンターパーティーと精査、合意して短期間に移行するのは本当に可能なのだろうか…

USDのDISCOUNT変更が近づいてきた

SOFR/FFベーシスの方向感が定まらない。一時期ワイドニングしていたスプレッドがLCHのAuctionサイズ公表を受けて縮小に転じたと思いきや、その後いったん拡大した。その後は縮小を続け最近また少し拡大傾向にある。LCHでオークションにかけられるベーシススワップのサイズはそれほど大きくはなかったが、CMEはこれを開示していない。LCHのシェアは9割近くだろうから、あまりCMEは影響しないはずなのだが、顧客フローが多いため、CMEの方がリスクが一方向に偏っている可能性がある。すでに締め切りが過ぎているため、オークションサイズは確定しているはずであるが、意外とCMEの影響が大きいのではないかという声も聞かれる。

やはり生保重要の高い30年に注目が集まるが、第二回のアナウンスメントを見ると、結局当初よりオークションサイズは$511㎜から$382mmへと減少しており、アナウンスメント後スプレッドも縮小している。一方反対の方向にはなるが、20年はサイズが大きくなっている。

ここからは新しい情報は出てこないが、Discount変更まで10日ほどとなったので、来週以降のマーケットの動きに注目したい。

米国不動産市況の悪化

コロナショックで不動産市場がどの程度インパクトを受けるかは今後の注目だ。最近の報道では、米国の商業用不動産は、その価値が25%程度減価しているのことだ。ショッピングモール、ホテルなどの稼働率が極端に落ちているので、考えてみれば当然の結果ではある。

CMBSの取引データを見てみても、大型ホテルなどはCMBSに組み入れた時より価値が半分程度に下落しているものもある。ローンの返済が滞っている物件もかなり多くなってきた。これからこうした物件の価値が急速に下がることが予想される。以前泊まったLAのHoliday innも2015年当初に比べ27%ダウンと報道されていた。新しく評価替えをするホテルなどの商業用不動産は、軒並みこのような減価を強いられることになるのだろう。

CMBSに組み入れられている物件のLTVは過去4年で約60%とのことだったが、最近はこれが90%程度になっているようだ。今後さらにこの状況が長引くと、市場混乱が起きてくる水準である。

金融危機時に米国不動産市況が悪化した初期の頃、米国住宅ローン市場に端を発する価格下落は日本には波及しないなどと言われたが、結局時間差で日本の不動産市場に影響を与えた。当然ウィルスの広がりは日本で落ち着いているのだが、結局マーケットはつながっているので、その動向には引き続き注意が必要だろう。

割引率変更に伴うUSDスワップション取引の価格変更に関するARRCガイドラインをめぐる混乱

米国では、市場参加者間でARRCのガイドラインをめぐる混乱が起きているようだ。5/14の当初ガイダンスによると以下の2点が推奨されている。

  1. 市場参加者は、2020年10月16日以降に期限が到来する米ドルスワップションについて、ISDAのSupplement 64の対象となるように修正し、合意された割引率としてSOFRを指定するとともに、これらの価格差を現金交換(Cash Compensation)する。
  2. 市場参加者は、2020 年 6 月 30 日までに、カウンターパーティに連絡し、上記1に従うか決定する。

その数か月後、大多数の市場参加者はCash Compensationが市場の意向に沿ったものと思ってはいるものの、現実にこれは難しいのではないかということが明らかになったと書かれている。これを受けて9/11に以下のガイダンスが加えられた。

  1. 2020 年 10 月 16 日までに、Cash Compensationに関する合意がなされていない場合には、スワップションを修正して Supplement 64 の対象とし、Agreed Discount Rateを指定するべきである。

そして、このガイダンスは任意のものであり、何ら法的義務はなく、カンターパーティー間の合意に基づいて決められるべきであると結ばれている。

一つだけ明らかなことは、Supplement 64の対象にするということなので、10/16以降に存続するスワップション取引の割引率はSOFRに変更されるという点だ。スワップションにはオプション部分とUnderlying Swapがあるが、おそらくオプション部分については10/16以降の変更になるだろうが、Swap部分の割引率に関しては既に変更している銀行もあるのではないかと思われる。

このガイダンスに従うと、10/16以降はスワップションの時価が自動的に変更され、合意があったかどうかに関係なく、マージンコールも新しい時価に基づいて行われるということになるのだろう。Cash Compensationを行うかどうかはその後当事者間で議論をすることになる(あるいはマージンDisputeになる?)のだろうが、これを一つ一つ交渉するというのは気が遠くなる作業である。

そもそもARRCのガイダンスの行間を読むと、当初はCash Compensationを推奨したものの、EURの割引率変更時に明らかになったように、実際にこれを行うところがほとんどなかったため、本当はガイダンスの変更をして、Cash Compensationをしない方向に変更したかったのかもしれない。もちろん当初ガイダンスに従って、既に交換してしまったところもあるかもしれないので、苦肉の策として当事者間に判断に委ねるということになってしまったのではないか。

9/24のISDAの文書においても、ISDA will not set or discuss calculation of any resulting compensation paymentsとして明確な回答が避けられている。

確かに一社一社これらの交渉をするのは不可能に近いので、米国では単純にCash Compensationを行わないということでほぼコンセンサスが出来上がっているという話も聞かれるが、これは後数週間もすれば明らかになっていくのだろう。

TIBORの動き

LIBOR改革の進展に合わせて細かいベーシスが様々な動きを見せているが、いつもよくわからないのがTIBORである。全銀協のデータを見ていると、約2年半ぶりくらいにDTIBORが上がっている。これが動くのはほぼ2年半ぶりだろうか。

そもそも日本円TIBOR(DTIBOR)は国内行を中心とする15行をパネル行とする企業向け融資指標に使われており、無担保コール市場の実勢を反映させた指標、ユーロ円TIBOR(ZTIBOR)はオフショア市場の実勢を反映させた指標ということになっている。ZTIBORのパネル行は14行でDTIBORとあまり変わらない顔ぶれとなっている。

以前はこの二つの指標はほぼ同水準だったが、グラフに示されているように最近その乖離が大きくなっている(単位は%)。DTIBORとZTIBORの統合の予定やLIBOR改革が関係しているものと思われる。

出所)全銀協

3か月物や6か月物のFixingは上記のように離れているが、5年とか10年の長期になると、双方とも市場実勢に従うためか、似たような動きをしており、なんとなくLIBORに近くなっているように思える。5年ポイントを見ると、DTIBORの方が低く、ZTIBORの方がLIBORに近くなっている。10年は同じくらいだったが、最近5年のようにZTIBORの方がLIBORに近く(よりプラス方向)になり始めた。

このまま行くとZTIBORの長い方はどんどんLIBORに収斂していくのだろうか。将来的にDTIBORが残るということであれば、今後は長いところもDTIBORの流動性が上がっていき、ZTIBORやLIBORに近づいていくのだろうか。

そもそもIBOR改革の流れの中でTIBORが残っているというのは日本の特徴だが、一応TIBORは指標として適切とのお墨付きになっているので、今後も存続可能なレートとなっている。今後リスクフリーレートと棲み分けがどうなるかにも注目が集まる。

LIBOR改革関連で最もマーケットが動いているのは、もしかしたら、このTIBORがらみのレートなのかもしれない。米国のSOFR/FFベーシスで取引機会を狙っているヘッジファンドなどは、実はこのDTIBOR、ZTIBORで裁定機会を捉えた方が収益機会が大きいのではないかなどと思ってしまう。

企業の資金調達手段の多様化に向けて

米国企業の社債発行ペースが止まるところを知らない。年後半には失速すると思われていた投資適格級の社債発行は第三四半期も$267bnと非常に高水準となった。

3月にFRBが金利をゼロ近辺に引き下げ、社債買入を発表したことにより、資金が一気に社債市場に流れ込んだ。米国債金利が急速に下がる中、スプレッドに厚みの残る社債には引き続き資金が流入しているようだ。

とは言え、今後の原則を予想する声も多く、第四四半期は償還が新規発行を上回るだろうとするレポートも出ている。社債のバイバックのアナウンスメントも複数出始めている。過去10年で第三四半期までの発行額が$600bn-$800bnだったことを考えると、今年の$1.4tnはさすがにペースが速い。M&Aの減少もこれに拍車をかけるだろう。

当然ここからの景気動向、米大統領選の影響、今後の財政支援策等にもよってくるが、年末に向けてある程度落ち着いてくれば、債務削減に取り組もうという動きが出てくることが予想される。

ただし、長期的に見れば社債からの資金調達は続くことが予想され、銀行ローンから社債やその他の資金調達手段への調達の多様化の流れは止められないだろう。小規模な資金調達においてはいわゆるダイレクトレンディングによる資金調達が欧米中心に増えている。プライベートエクイティやソブリンウェルスファンドなどの資金がこういった資金調達に流れているようだ。感染拡大移行こうした資金調達手段の多様化には拍車がかかっているように見える。

こうした流れはやはり海外中心に広がっており、日本でイノベーションが起きる機運は相対的に低い。オーバーバーキングと言われて久しいが、わざわざ資金調達の多様化などの努力をしなくてもローンが得られるからということなのだろうか。日本の社債市場の発展も道半ばであり、いかに海外投資家の資金を惹きつけられるかが重要になってくる。

日本では株式のショートはできるものの、社債では難しい。CDSの流動性も極めて低い。社債を買ったら満期まで保有を続け、何も起きないことを願うというスタイルが多いように思う。

もしかしたら銀行が減ってくれば、いざという時のために銀行の与信枠を取っておくため、社債やその他の調達をメインにしようという会社も増えてくるのかもしれない。

ISDAのLIBOR移行プロトコル批准プロセスが開始される

米国司法省からISDAのLIBORプロトコルのレビューが終了した旨のアナウンスが出ている。競争上の悪影響がないという点が明確になったとしているので、これでプロトコルがようやく批准開始となる。当然の結果だとは思うが、これによって当初7月の予定だったものが10月にずれ込んでしまった。これでエスクロー期間が始まり、来年1月中下旬に発効となることになるのだろう。

いよいよ本格的に準備が始められる。といっても本来はProtocolは万能ではなくあくまでもBackstopなので、事前移行作業を進める必要があるのだが、いまだプロトコルさえ批准してしまえばOKと思っている参加者が多そうなのが気になる。システム整備の遅れた日本において、一気にFallbackしたらそれを同時期に全部捌ける会社はあまりないと思うのだが。

市場の雰囲気が変化し始めた

直近では、米国で物価をめぐる議論が盛んに行われているが、米国労働局のデータを見ると、想定したような物価の動きになっており、日本の統計に比べると肌感覚にあうようなうごきに見える。

8月のデータ(前年比)を見ると、学食や職場の食堂の食品価格が3%下がっているのに対し、家庭での食品価格が4.6%上昇している。出社頻度が減るためスーツや高級衣料の物価が17%下がり、化粧品価格も3%減だが、パジャマの価格が4%上昇している。新聞やケーブルテレビの価格は思った通り上昇している。ホテルや航空券は当然のことながら急減している。授業料上昇にも歯止めがかかり、カメラ、ミシン、自転車等の価格上昇がみられる。

とは言え、全体的な需要は弱く、第二波、第三波の懸念もあるため、インフレを予想する声は少ない。特に少なくとも大統領選までは追加の大型政府支出が見込めないことが明らかになってきたため、これまでの流れが逆回転するかもしれない。失業や家計所得の減少からの需要減もあって、一般的にはデフレ圧力がかかりやすいかと思われる。

これまで上昇を続けてきた貴金属価格も下がり始め、テクノロジー株の上昇とドル安基調にも終止符が打たれ、インフレ期待は一気に下がり始めた。米国債のスティープナー推奨をする意見も一気に後退した。社債価格もハイイールド債を中心に現金を引き上げる動きもみられる。とは言え、その資金の流れる先がないため、引き続き株価が支えられる可能性もあるので、このまま膠着状態が続くのだろうか。

IBOR Fallbacks Protocolの公表が遅れている

LIBOR改革に関するISDAのProtocolの公表が遅れに遅れている。先週水曜の9/23のISDAのアナウンスには、週の初めに当局にレターを送り、その中で、プロトコルの発効日を2021年1月中旬から下旬と想定していると書かれている。独占禁止等、公平な競争環境を確保するためのレビューによって遅れているとは報道されていたが、ここまで遅れることなるのは想定外だったに違いない。米国司法省からのフィードバック待ちとのことだが、このプロセスはISDAサイドではコントロール不能とのことで、若干のFrustrationが表れているようにも思える。

司法省からのゴーサインが出た時点で、ISDAは約2週間の期間を与えて公式な効力発生日を伝えることになっている。この期間に市場参加者は「in escrow」でプロトコルに批准できることになっている。この期間をエスクロー期間という。つまり、批准の事実は公開されないものの、プロトコルが有効になった時点で批准の効果が発生することを確約するといった意味になろうか。

プロトコルの発効はその後約3か月後とされているが、年末だと混乱するため、来年1月の後半までは発効しないと見込まれている。FCA高官からのLIBOR Cessationのアナウンスが年末までに出てもおかしくないというコメントは注目を集めたが、過去5年中央値のスプレッド調整の計算は、すでに決められた方法に基づいて行われる。これはプロトコルの発効日に関係なく行われるということだ。

以前日本でも地銀の統廃合を進めたい金融庁と、公正取引委員会の意見の相違が明らかになったことがあったが、同じような事情なのだろうか。いずれにしても、ただでさえ時間のない中対応に苦慮している業界にとっては、早急なアナウンスメントが強く望まれることろである。

流動性維持のための規制緩和が継続

米国FRBが、米国債やレポ取引の障害にならないよう、NSFRの修正を検討しているという発言が23日にあった。NSFRはその性質からして流動性規制であり、資本規制とは異なるため、一連のバーゼル3からは切り離すべきという言い方になっている。

NSFRによって、他の銀行からの短期ファンディングが安定した調達とはみなされないうえ、国債保有やリバースレポを行うとそれに応じた(国債は5%、レポは10%)安定調達が義務付けられる形になるため、危機時に銀行が必要な流動性供給ができなくなるという批判があった。

銀行が米国債を担保に資金を供与し、その米国債を担保に資金を調達すると、当然NSFRが悪化する。最終案では、このような批判に一部答える形で、何らかの修正が入るのではないかとのことだ。おそらく、国債についてはゼロ%、国債のレポに対しては5%というように、所要安定資金の割合を引き下げるのではないかと言われている。

確かに、NSFR 導入の話が出てから、銀行は国債や FRB準備預金を増やし、ローンや流動性を支えるリバースレポのシェアを減らしてきた。奇しくもコロナショックによって、その問題点がさらに明らかになり、FRBがさらなる市場介入を余儀なくされた。昨年9月と今年3月の混乱がなかったら、このような規制緩和はこれほど短期間に行われなかったのかもしれない。

そのほか、FRTBなど一連のバーゼル3の残りのルールの最終化を一度に行うという発言もあった。2023年1月に向けて順調に準備が進んでいる様子がうかがわれる。

一時期NSFRを考慮するため各種取引のプライシングに影響が出ているという報道が出ていたこともあったが、最近ではそういった話が聞かれなくなってきた。レバレッジ比率もそうだが、一度その基準を達成してしまうと、日々の取引までコントロールしなくても、財務部門の方で対応が可能ということなのかもしれない。今回の変更も財務部もにとっては朗報で、取引を抑えることはしなくてもよいというメリットはあるのだろうが、マーケットのプライシングにはそれほど大きな影響はないのかもしれない。

通貨ベーシススワップの変動要因

いつも説明もなく、社債発行により通貨ベーシス拡大とか書いてしまっているので少し補足説明をしておく。企業が債券発行を行うと、それに応じて各種ヘッジ行動が起き、マーケットにインパクトを与える。

円のニーズがある企業が、海外投資家から幅広く資金調達をするためにドル債を発行することがあるが、通常は発行によって得たドルをスワップで円転する(円に倒すと言ったりする)。円のニーズが高まる方向なのでドル円ベーシスが縮小する。ドル投円転と言ったりもする。

一方海外企業が日本の低金利を目当てに円債を発行する(サムライ債)場合は、円で集めた資金をドル転するため、ドルのニーズが高まる方向になり通貨ベーシスは拡大する。この方向は円投ドル転だ。発行した円を受け取ってこれをドルに換える通貨スワップを行うが、円を受け取ると円金利を払うので、円金利受け、ドル金利払いの通貨スワップになる(当初元本交換と金利交換は逆向きになる)。円金利を受けてドル金利を払うこの通貨スワップを行うことをベーシスの受けと言ったりもする。当然逆はベーシスの払いだ。

その他、ドル債を買うために通貨スワップや為替スワップでドル調達をすることもあり、これもドルニーズが高まるため通貨ベーシスが拡大する方向だ(円投ドル転)。要はドルが欲しい人が多いとドル調達コストが上がり、ベーシスが拡大する。

この通貨スワップの裏には数多くのスワップが絡んでくるのだが、サムライ債発行を例にとってどのようなスワップ取引が行われるかというと以下のようになる。矢印は金利の方向であるので当初元本交換は逆方向になる(発行体は円資金を当初元本交換として受け取り、その後円固定金利を支払い、最後に円を返す)。

海外の発行体は円を持たないので、ドル固定金利を払って円固定金利を受ける通貨スワップを銀行と行う。銀行の方は円固定受け6か月変動金利払いの円金利スワップを行い、ドル固定払い3か月変動受けのドル金利スワップを行う。この金利スワップはディーラー間なのでCCPで清算され、資本コストは限定的になる。

そして、市場で一般的に取引されている3か月変動同士の通貨スワップを行い、その調整のために3か月物変動金利と6か月物変動金利の交換をする円の3s6sのベーシススワップを行う。この3s6sもCCPで清算される。

つまりサムライ債ひとつ発行するだけで、通貨ベーシススワップ、円金利スワップ、ドル金利スワップ、円の3s6sの単一通貨ベーシススワップが取引されることになる。レバレッジ比率規制でCEMを使っている場合などは、想定元本がかなりの金額になるので、資本賦課もばかにならないが、それでもCCPで清算できる部分が多いので何とかなっている。

市場への影響をまとめると、サムライ債が発行されると、円金利には低下圧力がかかり、ドル金利には上昇圧力がかかる。そしてドル円ベーシスの拡大圧力と、3s6sベーシスの拡大圧力がかかる。マーケットがこのような動きをしたときは、トレーダーは何か発行があったのではないかと予想し、ニュースを確認する。これと逆のことが起きた場合はドル債の発行を疑うという恰好だ。

これから海外投資家にReach outする際に、ドル債発行をしたいという企業も増えてくると思われるが、こうした裏にあるスワップとそのマーケットインパクトについても注意を払っておく必要がある。

欧州の危機対応資金は企業ではなく国債に流れた?

欧州銀行が保有するイタリア、スペインなどの周辺国の国債保有を増加させている。コロナショック前に比べると15%程度増えているという報道があった。

3月の7500億ユーロの緊急資産買い入れプログラムが6月に13.5兆ユーロへと拡大され、市場に豊富な流動性を供給し、債券価格安定に資したことは間違いない。しかし、その目的通り必要なところに資金が回ったのかどうかは定かではなく、結局それがリスクの高い国々の国債保有に回っただけなのかもしれない。米国でも同じようにローンが増えずに国債投資に資金が回ったという報道があったので米国も同じだが、信用力に不安のある国の国債に回っている点が欧州の特徴だ。

欧州危機時にはこうした周辺国へのエクスポージャーが多いだけで市場の不安を煽ったため、金融機関もこうした国の国債保有には消極的だったが、今回はそうした心理的なタガも外れてしまっているように思う。

現在の資本規制の下では、国債を保有したとしても資本賦課がほぼ無視できるので、銀行が国債保有をしやすいのではないかという意見もある。一方、企業向けローンや社債保有を増やしてしまうとあらゆる資本比率に影響を与える上、引当金も積まなければならない。

特にローンの場合は急に減らすこともできず、社債も一たびマーケットが荒れれば売却が難しくなる。また、SLR、NSFR、LCR、ストレステストと、複雑に絡み合う資本への影響を考えると、国債を保有しておいた方がインパクトが理解しやすいという側面もあろう。

日本でも同じようなことが他国に先駆けて起きていたが、日本の場合は日銀の国債保有シェアが大きい。とはいえ、感覚としては海外よりは企業向けローン等に資金が回っているような印象を受ける。時間のある時にデータを見てみたいと思っている。

日本においては、資本賦課が低いからローンより国債というような議論を聞くことは海外より少ない気がする。あまり資本対比のリターンに気を使わなくて良いということの裏返しなのだろうか。または日本の銀行には、営利だけでなく、社会的責任を重視するという文化があるかもしれない。

コロナがXVAに与えた影響

JPMの財務データからCVA/FVAの情報を見てみた。予想通りコロナショックによって第一四半期、第二四半期ともに変動が大きい。

これらはヘッジ考慮前なので、ヘッジ後はこの影響は小さくなる。第一四半期のアナウンスでCredit Adjustment&Othersで$951mmの損失が出ていて、そのほとんどがファンディングスプレッドの拡大によるものという記述があるので、CVAはかなりの部分ヘッジされており、ほとんどの損失はFVAから来ているものと推測される。自社のファンディングコストをヘッジするのは容易ではないし、これを敢えてヘッジする金融機関は少ないと思えるからだ。

10Kには計算根拠についての情報も出ており、いわゆるポテンシャルエクスポージャーやExpected Exposureなどの年限毎のグラフも見ることができる。Management’s discussion and analysisのセクションでAVGとして示されているのがExpected Exposure、DREがデリバティブリスクをローン相当額に変更したLoan Equivalent、PeakがPFEに、それぞれ相当するものと思われる。Peakは97.5%の信頼区間のVaRに近いようだ。Expected Exposureは$30bn-$40bn程度であることと、CVAやFVAの金額が公表されていることを考えると、JPMのFVAに計算しているスプレッドや、カウンターパーティーの信用スプレッド等もある程度逆算できるように思う。ここまでのDisclosureがあるというのはさすがだ。

$951mmというのは結構なサイズだが、Q2にFVAの利益が$676mmとなっており、かなりの部分を取り戻している。一方CVAの方はQ1の$924mmをQ2で$207mm取り戻した形になっているが、ヘッジがあるので実態はよくわからない。つまり金融機関の社債スプレッドが動くと、この規模での収益のアップダウンがあるということになる。

以前はCVAがある程度DVAでオフセットされていたが、FVAが入ってくると市場混乱期には損失が膨らむことになり、プロシクリカリティは増すことになる。ローンのリザーブも増えるだろうから、その影響は更に大きくなる。その分市場のボラティリティが増すのでトレーディング収益が上がるので、全体としては大きな問題にならないのかもしれないが、これは自己勘定ポジションを抑える金融危機後の規制強化の恩恵なのかもしれない。

デリバティブKVAの計算方法

なぜレバレッジという用語が使われるのか

レバレッジ比率規制とは、リスクを取るなら一定の資本を積みなさいという規制の中の最も単純なものである。リスクを表すにはレバレッジエクスポージャー、資本を表すにはティア1資本が使われ、この比率が概ね3%を超えなければならない(国によって若干異なる)。3の資本で100のリスクを取れるので、33.3倍(100/3)のレバレッジがかけられるという意味で、レバレッジ比率という言い方になっている。

リスク量とリンクしないレバレッジエクスポージャー

レバレッジエクスポージャーは保有している債券の価値などのバランスシート金額とデリバティブPFEに分かれる。単純なバランスシートなので、安全な国債だろうと危険なジャンク債だろうと同じ金額として扱われる。

そしてデリバティブPFEは想定元本に、5年超の通貨スワップだったら7.5%、1年から5年までの金利スワップなら0.5%のような掛け目をかけて計算される。当然SA-CCRに変更されれば計算方法が変わるが、CEM(カレントエクスポージャー方式)の下ではこのような単純な計算になる。

ここで重要なのはCEMでは担保を加味していないということである。そして、+100の勝ちポジションと-100の負けポジションがあれば相殺してリスクゼロなのだが、このネッティングも完全には加味されない。完全にはといったのは、一応NGR(Net-to-Gross Ratio)によって0.4*AGross + 0.6*NGR*AGrossのように部分的には考慮される。ここでAGrossは、各取引の勝ち負けの絶対値を足しあげたものである。NGRはANet/AGrossで計算されるが、ANetは各取引の勝ち負けをそのまま合計したものである。

なぜデリバティブPFEというかというと、これはPotential Future Exposureと似たような概念を使っているからだと思われる。有担保の場合マージンコールの合間の2週間のVaR等を見ることになるが、金利スワップの2週間VaRは年限によって0.5%から1.5%程度、通貨スワップの2週間VaRが5%とか7.5%というとだいたい感覚に合うからである。

レバレッジ比率からのKVA計算

前置きが長くなったが、この辺りの詳細は検索すればいくらでも出てくるだろう。重要なのはこれが実取引に対してどういう影響を与えるかという点だ。

まずは、レバレッジ比率が最大の制約になっているような場合は、ここから簡単にKVAが計算できるという点だ。バーゼル3の先進的手法、標準的手法等ほかの資本規制の制約が大きい金融機関は別の計算が必要だが、それでもレバレッジ比率のKVAはある程度の目安にはなる。

例えば$500mmの10年通貨スワップを行った場合、適宜最低レバレッジ比率(3%とか5%)、NGR、ROEターゲット等の前提を置いて架空の試算をしてみる。

PFE資本コスト
ディーラーA銀 (NGR 0%)$15mm$467k
大手B銀行 (NGR13%)$18mm$558k
C生保(NGR97%)$31mm$978k
地銀D行(NGR62%)$29mm$902k
アセマネE社(NGR45%)$25mm$782k

NGRはポートフォリオが大きくなると0%に近づいていき、一方向の取引が多いと100%に近くなっていくので、適当にNGRの前提を上のように置いてみた。資本コストは税引後のROEを10%に保つべく14%程度、割引率も14%としたが、税金やその他コストを考えるともう少し高くすべきかもしれない。当然各金融機関ではもう少し高度な計算をしているだろうが、ここでは単なるコンセプトの説明に重点を置く。

結果を見ると、$500mmの取引をポジションが一方向に偏った地銀D行と行うには、$902kくらいの利益がないとROE10%が達成できないということになる。さらに、無担保または担保が現金ではない場合は、これに将来のデリバティブの時価(これはオンバランスになる)がレバレッジ比率の分母に加わるので、さらにバッファが必要となる

また、この計算は10年間解約がないという前提になっているが、数年後に解約される可能性があればこの計算は全く異なるものになる。例えば、アセマネE社の$782kを基準にすると、1年後に解約されるなら$142k、5年後に解約されるなら$597kとKVAが減少する。また、金利スワップであれば、コンプレッション等により想定元本が減る可能性があればそれも考慮する必要がある。

すべての取引についてこのような分析をするのは難しいだろうが、大きな取引については、それがROEハードルを満たしているかを計算する必要がある。また、システム化によってこのような計算を簡単にできるツールを作ることも可能だろう。

資本規制が強化され、収益性が重要になってくる金融業界においては、こうした資本コスト対比の収益性分析はますます重要になっていくだろう。

社債発行の急増がもたらすリスクと市場の構造変化

コロナウィルス感染拡大を受けて各国中央銀行が潤沢に資金を供給し、金利低下や政府の債券買取プログラムの拡大を受けて、社債市場からの資金調達も急増している。これを受けて、リスクの高い企業にも潤沢な資金が流れ込み、米国の15%はすでにゾンビ企業になっているとの報道まである。2000年にも似たようなことがあったが、このままのペースでいくとその時のレベルを超えるのは時間の問題だ。

8月までの社債発行額は1.9兆ドルを超えており、これは2017年に記録した年間発行額のピークとすでに同水準になっている。大統領選前に発行してしまおうというニーズもあるだろうから、今年の発行額は過去最高になるのは間違いない。

昨今の発行実績や販売状況も好調で、どんな大型起債も簡単にマーケットに吸収され、銀行がローンを出せないような規模でも社債なら需要が集まっているように見える。

資本市場の流動性が枯渇し、社債の満期時にそれを継続することができなくなったら何が起きるのだろうか。国や中央銀行が経済を支え切れているうちは良いが、社債のデフォルトが多発し、クレジット市場が崩壊すると、一気に景気への影響が出ることが懸念される。

日本は銀行からの資金調達が中心と長らく言われてきたが、海外でこれほどの調達が可能ということが明らかになると、ローンから資本市場へのシフトというものが起きてくるかもしれない。特にドル債で幅広くニーズを募れば、手間をかけて銀行からローンを借りるよりは、資金調達をする企業にとっては望ましい場合もあろう。ただし、ドル債を発行した場合はそれを通貨スワップなどによって円転しなければならず、企業にとっては、海外投資家にアクセスするためには、ISDAを締結してデリバティブ取引をする必要性が出てくる。

本来担保が出せれば問題はないのだろうが、為替レート等に応じて担保を出すというのは、企業にとってはかなりのハードルになる。こうなると、先進的な銀行としてはXVAを計算した上である程度ヘッジをする必要が生じ、CDSの流動性も重要になる。逆に言うと、こうした日本企業の海外起債が、CDS市場の流動性向上を後押しするようになるのかもしれない。