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内部モデル方式の存続

銀行が自ら計算したものなど信じられないということでIRB(内部格付手法)が存続の危機に瀕している。規制上意味がないのであればリソースを割く必要はないというこで、モデルの高度化などにコストをかけないようになってきている。これまで長年蓄積してきたデータもお蔵入りになってしまっており、長年リスク管理業務に従事してきた身としては忸怩たる思いがある。

銀行が自らリスク管理能力を高めようというインセンティブを削がれてしまうのは仕組上望ましくないのだが、規制は関係なくとも銀行はIRBをメンテナンスすべきかどうかという問題が残る。標準法だけをベースに投資判断をするようになれば、リスクの高い投資をすれば資本効率が上がる。レバレッジ比率なども、リスクの高い社債でも国債でも資本コストが元本だけに依存するのなら、リスクの高い資産を持つ方が資本効率が良くなる。バーゼルのアウトプットフロアや米国Collingsフロアもあるので、ますます簡単な標準法への依存度が高まってしまっている。

こうした簡便法はあくまでもやりすぎを防ぐためのバックストップであり、本来のリスク管理はより高度な内部管理を行っていくことが重要だと思う。銀行の経営陣のリスク管理能力が高ければ、リスキーな取引に対するコントロールが効くかもしれないが、特にデリバティブリスクとなると、ローン、M&Aなどの畑から昇進してきた経営層や、社外取締役の意見が強くなり、細かなリスク管理が行えなくなってきているところが増えているようにも見える。

昨今のコストカット圧力を考えると、何らかの形でIRBを存続させるようなインセンティブを与えた方が良いとは思う。銀行が信用できないというのなら、標準法で資本賦課を行うのはやむを得ないのかもしれないが、過去20年間に蓄積したデータやノウハウを残すためにも、IRBを使うインセンティブを何らかの形で残した方が良い。

銀行サイドも特に海外では巨額の罰金が科されるため、当局をあざむくような行動は取れなくなってきているし、それによって信用を失って破綻の危機に瀕する可能性もある。銀行不信は米国民主党に強かったため、共和党政権かでは少しましになるかもしれないが、今のうちに本来どのような規制が望ましいのかを再考すべき時が来ているのだろう。

JGBリパックのリスク管理について金融庁が警鐘を鳴らしている

金融庁が地方銀行に対し、国債仕組み貸し出しのリスク管理強化を要請したというニュースが報じられた。最初はよくわからなかったが、要するにJGBリパのことだった。SPC(特別目的会社)を設立して国債を入れ、その裏でデリバティブ取引を行うなどと書かれると、怪しい商品に見えるかもしれないが、実際は単純に金利スワップなどのデリバティブ取引を債券の形で行うだけの商品であり、これは日本では昔から活発に取引されているものだ。

一部の報道では、SPCから先で行われているスワップ取引の詳細が地方銀行側には明かされず、ブラックボックスになっているとされているが、さすがにそのようなことはないだろう。

金融機関内部でも、役員クラスがデリバティブに詳しくない場合、仕組みやストラクチャードなどという言葉に嫌悪感を示すことがあるが、こうした報道だけを見ると、再び地方銀行が複雑なリスクを取っているような印象を与えることになる。確かに、複雑なペイオフを持つ商品が売られることもあるが、実際には極めて単純な仕組みであることがほとんどだ。

それよりも、単純に国債を購入して金利スワップで変動金利にするアセットスワップを選んだ方がよいのだが、そうすると金利スワップの時価評価が毎日必要になるため、JGBリパが好まれる傾向にある。JGBリパにすれば、満期保有有価証券として時価評価を避けることが可能だからだ。また、ローン残高として計上できるという理由もあるかもしれない。また、英文のISDAマスター契約の締結や担保管理が煩雑であるという事情も影響している。しかし、SPCの組成や各種契約にかかるコストを考えると、デリバティブ取引をするよりは割高になることは確かだ。

いずれにしても、他国ではそれほどポピュラーな商品ではなく、日本における取引量が突出していることは間違いないだろう。

確かにデリバティブが含まれているため、どんな取引でも可能であり、複雑な商品が地方銀行や信用金庫に売られている場合もあるかもしれない。最近ではフィデューシャリー・デューティーを意識しなければならないため、金融機関側でも慎重になっているはずだ。しかし、もし地方銀行や信用金庫がリスクを理解せずに取引を行っているのであれば、それは改善しなければならない。

とはいえ、そろそろ面倒くさがらずにISDA契約を締結し、証拠金規制に従って担保授受を行い、時価評価を実施するという正攻法に切り替えた方が良いのではないだろうか。金利スワップを用いて金利リスクを適切に管理することは重要である。時価評価を行っていなかった国債ポートフォリオから巨額の損失を出して破綻したシリコンバレーバンクの例もある。

日本でも、デリバティブが投機の象徴ではなく、適切なリスク管理のためのツールとして広く理解されることが望まれる。

米国債クリアリングの準備が進まない

通常、規制施行開始の1年前までに詳細が固まっていない場合は、規制の施行延期が行われることが多いと思っていたが、米国債のクリアリング規制に関しては今のところ延期の話が出てこない。トランプ政権の影響も、まだデリバティブ規制などに及んできていない。

クリアリングブローカーである金融機関は、顧客との契約を年末までに変更しなければならないが、CCPサイドのルールブックも最近変更されたばかりで、その内容を精査して、契約のひな型を作るにはもう少し時間がかかる。顧客資産の分別管理、クリアリングを行わなず執行だけを行うディーラーを使えるようにするモデルなど、いまだ固まっていない内容が多い。

現状ではFICCが唯一のCCPだが、CME、ICEなどが参入をすることになっている。それぞれのCCPがどのようなモデルになるのか、それに応じてどのように分別管理や担保管理のやり方を決めなければならないが、あまりに時間が少ない。SIFMAが標準的な契約のテンプレートを作成しようとしているが、この作業にはまだ時間がかかりそうだ。

金融機関サイドでは、ネッティングオピニオンなどを取って、どの程度の資本コストになるかを正確に予測するのも重要である。FICCとCMEは国債取引、レポ、先物間でのクロスマージンを提供する予定だが、クリアリングのそれぞれの顧客レベルでクロスマージンのベネフィットが得られるかも精査しなければならない。

また、改革が約束されていたSLRについても何らアナウンスがでておらず、G-SIBサーチャージの引き続き制約となる。金融機関サイドも、いくら規制だから顧客を助けるためにクリアリングを提供しようと頑張っても、資本コストが大きく赤字になるようだと、今一つ本腰を入れて作業が進めにくい。これはOTCクリアリングでも明らかになったことである。CCPでの集中清算を進めようと努力したら、あまりにも資本コストがかかるため、ビジネスとして成り立たなくなる可能性は否定できない。

こうした数々の課題を考えると、やはり延期しかないのではないかと思えてくる。そうなると来年6月が国債、再来年末がレポというタイムラインが適当なのではないだろうか。延期されないとなると、日本でも対象となる市場参加者が一定程度いるため、これから急ピッチで契約やオペレーションの準備を整えなければならないだろう。

政治的リスクとデリバティブ解約権

今年のISDAの目標の一つに1998 FX Definitionsの改訂が含まれている。ロシアのウクライナ侵攻を受けて為替市場で混乱が生じたが、これに対応するため、市場標準の確立が望まれている。これはロシアルーブルへの対応にとどまらず、中国や台湾などの取引がどのように扱われるかという点で、アジアにとっても非常に重要である。

ロシアと同様にアジアでは、オンショアとオフショアで市場が分かれている国が多く、政治的リスクが顕在化した場合、これらの市場で分断が起きることが予想される。海外では、このような危機に備えてどのような対応を取るべきかについて当局の関心が強いが、日本でも同様の対応方針を決めておく必要がある。

万が一、台湾に対する軍事侵攻があった場合、為替市場では大きな混乱が起こるだろう。台湾ドルの暴落、西側諸国の経済制裁、中国の外貨流出禁止などが発生する可能性が高い。中国企業と取引をしていた場合、経済制裁によってデリバティブ取引の支払いができなくなり、デフォルトが発生する。この場合、支払えないのは西側諸国側であり、デフォルトが発生するのは中国企業ではなく、米国や日本サイドである。ただし、デフォルトではなくIllegalityとなる可能性が高いが、米国や日本サイドがAffected Partyになる点は変わらない。

このような場合、中国企業は期限前解約を行うことができ、その際の価格決定権も持つことになる。オフショア市場は混乱しながらも価格を得ることができるだろうが、オンショア市場は比較的落ち着いているかもしれないも価格がオフショアの投資家には見えずらい。いずれにしても、解約価格がどのように決まるかは予測が難しい。現在でもオンショアCNYとオフショアCNHでは価格差があり、裁定取引が活発に行われているが、政治的混乱時にそのスプレッドがどの程度乖離するかは予測できない。また、資金の国外流出が禁じられた場合、担保が受け取れるかも不確実である。

FX Definitionsの話に戻ると、この定義集の中で、Disruption Eventがどのように規定されるかが注目されている。ウクライナ危機はDisruption Eventに該当しなかったため、自動的に取引を解約することはできず、各社ごとに交渉して解約の道を模索するしかなかった。

為替取引の場合、ロシアの時のように経済制裁が発生しても、何らかの猶予期間が設けられることが多い。確かロシアの時は米国が3ヶ月、英国が1ヶ月だったと思われるが、この期間内に期限が到来する取引は満期を待てばよいとされる。市場の規模を考えると、中国元の場合は3ヶ月程度が与えられる可能性があるが、保守的に1ヶ月としてプランを策定する企業が多いだろう。

本来であれば、猶予期間内に満期を迎えない取引については、自動的に解約手続きを進めることができるようにしておくほうが不確実性が少なくなる。経済制裁におけるIllegalityの行使については、どちらをAffected Partyとするのか、双方をAffected Partyに指定することができるのか、または解約価格について共通の価格決定メカニズムを設けるなどの手当てが望ましいと考えられる。

通貨スワップマーケットが拡大

いつも注目しているClarusの通貨スワップに関する統計によると、2024年の通貨スワップ取引数は前年比12%増加し、2018年以降、取引数は毎年少なくとも10%のペースで増加している。取引量は21%増加し、主要三通貨(EURUSD、JPYUSD、AUDUSD)では過去最高を記録した。特に、昨年過去最高を記録したドル円については、2024年も43%という驚異的な伸びを見せている。

ドル円の通貨スワップ取引数は13%増加しており、取引量の伸びが目立っている。通常、取引量が増加する理由としては、取引期間の短期化が挙げられるが、年限を見る限り、それほど短期化は見られない。つまり、単純に取引当たりのサイズが大きくなったことが原因であると言える。年限の平均は約5年で、引き続きEURなどの他の通貨よりも短い。

日本の通貨スワップには、外債発行に伴うスワップや外債投資に関連するものがある。外債投資の場合、短期の為替をロールするケースが多いが、一定の長期社債をリパックして円に倒す生命保険会社の投資などには、10年超の長期スワップが伴うこともある。

2024年は、銀行をはじめ、武田薬品工業の$3bn、NTTの$2.4bn、楽天の$2bn、ソフトバンクの$1.9bnなどが上半期のニュースで報じられた。2024年は円建ての普通社債や外債ともに過去最高の発行額となると予測されており、大規模な起債に伴う通貨スワップが影響を与えていると思われる。また、これらの取引はSEF(取引所)を経由して取引されないため、Clarusが指摘するSEFのプレゼンス低下に寄与している可能性がある。

日本では投資といえば株式が主流で、NISAでも株式投信や個別株が注目されている。しかし、金利が上昇してくると、資産運用のポートフォリオの一部として社債投資が増加する可能性がある。報道によれば、社債発行時には特に海外を中心に旺盛な需要が見られている。負債が大きな大企業にとっては、社債で一定額の資金調達を行い、銀行融資の枠を確保するという戦略が重要になるであろう。

今後も社債発行は増えていくことが予想され、それに応じて通貨スワップマーケットも順調に伸びていくことになろう。

中国の市場開放策

貿易の世界とは異なり、金融分野では中国の市場開放が進んでいる。投資家も、リターンが得られるのであれば、中国への投資意欲は引き続き一定程度見られるようだ。香港金融管理局(HKMA)は、最近、Bond Connectを通じて市場にアクセスしている投資家に対して、オフショアでのレポ取引を認めるプランを発表した。オンショアレポ市場の海外投資家への開放も、そう遠くないのかもしれない。

さらに驚くべきことに、レポ取引のマスター契約にGMRAを使用することが可能になるようだ。中国では、国際的なマスター契約ではなく独自の契約を選好する傾向があり、これが取引開始に時間とコストを要する一因となっていた。もちろん、中国独自のマスター契約であるNafmii(ナフミーと発音されることが多い)も使用できるが、GMRAも選択肢として認められることになるようだ。

また、レポ取引においては、国債の所有権が移転されることが明言されている。つまり、英国法で一般的な譲渡担保方式である「Title Transfer」方式が採用されることになる。これは、かなりグローバルスタンダードに近い方法であり、日本を含めた国際的な投資家にとっては、取引のハードルが大きく下がることを意味する。

唯一、担保の再利用が認められない方針のようなので、ファンディングコストは割高になる可能性がある。中国国債マーケットへの影響を抑えたかったのかもしれないが、将来的にはここもグローバルスタンダードに合わせてくることが期待されている。

また、いくつかのCCPが、中国国債を担保として受け入れることを検討していると報じられている。中国側も、マーケット間のつながりが強い金融市場において孤立することが得策ではないと判断したのか、一連の市場開放策が加速している。今後、金融分野において中国が一定のシェアを確保していくことが予想される。

株式リスク管理と債券リスク管理の融合

主にデリバティブ取引のフロントのFirst Line Risk管理については、株式と債券ではその管理手法に大きな違いがある。

株式デリバの場合は、十分な担保、特に当初証拠金を確保することが主流であり、担保プロセスやシステムリスクも含めて管理することが重要であるが、債券の場合は無担保の取引も多く、個別の与信管理がより重要になる。そのため、CVAなどのカウンターパーティーリスクのプライシングは主に債券取引で行われることが多く、株式の場合は、ごく少数の無担保取引に対してCVAをチャージするのが一般的だった。

株式デリバの場合は、通常商品と年限などに従った標準当初証拠金テーブルに従って担保を取るのが重要となる。株式オプションなどでは、オプションプレミアムのX倍を徴収したり、取引所が決める証拠金の3倍を取るなどといった慣行もある。

一方債券の場合は、金利のデルタリスクなど、ある程度単純なリスクについては標準テーブルを使うが、例えば2年のペイヤースワップションの売りと10年のレシーバースワップションの買い(デュレーションニュートラル)といった取引も多く、すべてのパターンをテーブルに入れるのが困難となる。また取引のバリエーションも多く、デュレーションニュートラルにならなかったり、金利スワップやレポとパッケージにしたいという要望も多く、当初証拠金の計算が複雑になる。

したがって、こうしたパッケージ取引については、全取引をモデルに入れてVaRを計算したり、シナリオを想定してストレス時にも十分な担保が確保できるよう精査をする。しかし、取引相手であるヘッジファンドやバイサイドからは当初証拠金が多いというクレームが入ることも多く、一筋縄ではいかない。

ヘッジファンドのトレーダーなどは商品やリスクには非常に詳しいが、リスク管理の専門家ではないので、プレミアムを払ったオプションを買ったのになぜ当初証拠金を出さなけばいけないのかといった初歩的なクレームをしてくる。払ったプレミアムが担保として即時に返されるというところまでは、担保オペレーションに詳しくないと気が回らないようだ。

それでもほかの銀行はそんな当初証拠金を取らないとか、もっと低い金額しか提示してこないと交渉が始まることもあるが、そうなるとCVAが発生するため、債券の場合はCVAチャージをかける。ヘッジファンドのトレーダーは、IMに文句はつけるものの、担保コストよりは取引のプライシングにセンシティブなので、CVAをチャージすると他のディーラーに流れていく。あるいはブラフだった場合はそのまま取引に至ることも多い。

したがって、リスクをきちんと評価せずにCVAを取らなかったところは、こうした取引を集中的に行うことになり、何かストレスが起きた時に巨額損失を被ることになる。いわゆる逆選択の問題だ。

しかし、株式商品の場合は、当初証拠金の交渉になった場合に、CVAをチャージしてプライシングに反映させるという慣行は、業界全体であまりないように思う。したがって、顧客関係を重視してIMを引き下げたところにリスクが集中する。若干プライシングを悪くして他の競合ディーラーに本当にもっていくかどうかを調べることもできない。そもそも、取引を一つ一つモデリングして、リスクを評価している時間もない。特に電子取引が進んでくると、個別にIMを計算してリスク評価をするのは困難になってくる。

したがって、株式の1st Lineのリスクマネージャーは、債券ほどリスクに詳しい必要はなく、それよりは、システムやプロセスの知識が必要になる。システムやプロセスの管理には人も必要なので、株式の場合は1st Lineのリスク管理者の人数も多くなる。またリスク管理者という名前で呼んでいないところも多いだろう。

このような状況だと、例えばアルケゴスのような巨額の集中ポジションを持っている顧客がいた場合、元本のX%という当初証拠金を取ることが唯一のリスク管理方法となり、ポジションの集中度合いや、参照資産である株式のボラティリティなどを詳しく評価していなかったことは予想に難くない。流動性の低い債券の場合は社債の発行額に対して参照資産のサイズが大きすぎないかというチェックは常識なのだが、流動性の高い株式の場合は、有名上場企業の場合こうしたチェックが必要ないことも多い。

しかし、おそらく債券系のフロントオフィスリスクマネージャーであれば、アルケゴスの取引を見た時にポートフォリオベースでストレステストを行い、当初証拠金が十分かどうかを検証し、新規取引にCVAチャージをかけて取引をAwayとすることができたのではないだろうか。つまり、あそこまでのサイズになると、債券型の個別分析が必要になっていたのだと思う。

一方で取引の自動化、電子化は、為替や国債を中心に進んできており、株式型のリスク管理が求められるようになってきている。特に近年では、最大のリスクはシステムリスクやサイバーリスクであると考えられる。マーケットが混乱にしているときに、大規模システム障害やサイバーアタックがあった場合のリスクは計り知れない。

今後は株式型と債券型のリスク管理を融合させて、標準化された取引を大量にプロセルする場合は株式型の管理を、特殊な取引やサイズの大きい取引はリスク管理に精通したリスクマネージャーが個別に詳細な分析を行うといったことが必要になってくるように思う。

米国債の現物の清算集中規制施行開始を控えて、銀行などのFCM経由ではなく、自らCCPのメンバーとなることを検討する市場参加者が増えている。銀行であれば、レバレッジ比率規制やG-SIB規制などに従うため、相応の資本コストを要求されるが、新たなメンバーにはこうした規制がかからないことが多く不公平ということで、当然既存のFCMである銀行からは、不満の声が聞かれる。同じことをしているのだから、新規参入をするマーケットメイカーやバイサイドに対しても同様の規制をかけるべきだという議論だ。

至極もっともな主張であるが、そもそも顧客のためにクリアリングをする際にグロスの想定元本で資本賦課をするレバレッジ比率規制や、顧客のために拠出した担保に応じて資本コストがかかる現行規制が実態に即していないように思う。もともとすべてのOTC取引を中央清算するというのが狙いだったのに、それに従って清算すれば、大きな資本コストがかかるというのも無理筋な話だ。銀行の主張も理解できるが、そもそも保守的すぎる規制を銀行以外にも適用するのは、少し厳しすぎるのかもしれない。

しかもこうした資本コストは清算取引に限ってデザインされたものではなく、大きな資本規制の中の一項目に過ぎない。CCPの直接参加者が銀行以外にも広がっている現状に鑑みれば、本来銀行規制というよりは、各CCPのルールで公平性を担保していくものだと思われる。特にIMや清算基金などのCCPのリスク管理ツールは商品ごとに異なるはずであり、一律の資本規制よりは、リスクに即した細かな対応を取ることができる。

その意味では、米国債の清算にはそれほど大きな資本は必要ないかもしれないが、レポであればギャップリスクをカバーするためにより資本コストがかかるのは当然だ。CCPサイドでは商品ごとのリスクの大きさに応じて当初証拠金(IM)を取っており、いざデフォルトが発生すれば、多くの場合そのIMで損失をカバーできるようになっている。確かにIMが足りず、清算基金にまで手を付けるケースが散見されるが、リーマン破綻時などにもリーマンの拠出したIMで損失がすべてカバーできたのも事実である。

本来はリスクに応じたIMをしっかり取っておき、清算基金に対して資本賦課をかけるというのが筋なのだろう。ただし、G-SIBスコアは影響の大きな銀行に対して計算されるものなので、クリアリングのサイズに応じてある程度考慮されるのは仕方ないだろう。ただし、想定元本に依存したスコアの計算方法は改めても良いかもしれない。

こうすれば、CCPに参加するメンバー間での不公平感はなくなり、メンバーも着実に増え、金融全体の効率化に資するものと思われる。実際、バイサイドがデフォルトオークションに参加したことにより、ポジション解消がスムーズに行えたケースもある。

あとは、日中に大きなリスクを取って日の終わりにはポジションがフラットになるため清算基金がかからないRelative Value Fundのエクスポージャーであるが、これは日中のリスクをリアルタイムでモニタリングし、拠出されたIMに対して一定の上限を設けるなどの仕組みが必要になるのだろう。

デリバティブ取引のみならまだしも、米国債のような巨大なマーケットの清算集中が始まると、CCPの直接参加者が増えてくるのは必然の流れかと思う。それに応じて規制やCCPのルールも進化していかなければならないのだろう。

AMERIBORのAFXをICEが買収

年末年始が日本ほど長くない海外では、この時期でも様々な動きがみられる。今年はICEのAFX買収のニュースが飛び込んできた。AFX(American Financial Exchange)は日本でそれほど知名度が高いわけではないが、LIBOR改革時にクレジットセンシティブレートの代表格であるAMERIBORのレートが話題になった。一時はAMERIBORを参照するスワップなども増え始め、米国地銀のローン金利として一定の支持を得ていた。

LIBOR改革でリスクフリーレートはSOFRやTONAに移行したが、こうしたリスクフリーレートで貸し出しを行っていると、銀行に何らかのショックがあった場合に、銀行の貸出金利に比べ調達コストが上がってしまうため、銀行の経営環境が一気に悪化するとして、銀行の信用コストを反映したレートが求められた。AMERIBORは、1000行以上の米国銀行の無担保借り入れコストを反映した金利インデックスとなっているので、銀行危機が起きればレートが必然的に上昇する。それにつれて貸出金利も上昇すれば、銀行の収益に与えるダメージを軽減することができる。

一時期はICEのBank Yield indexやBloombergのBSBYなど複数のクレジットセンシティブレートが存在していたが、IOSCOからのサポートが得られず、最近はあまり話が聞かれなくなっていた。SOFRに代わるメインインデックスとして使うのは難しくても、何らかの金融ショックが起きた時にのみ代替として使う道も模索していたようだ。

このままクレジットセンシティブレートは下火になっていくと思っていたが、数々の金融指標を持つICEによる買収により、AMERIBORが若干延命されるかもしれない。とは言え、米国の一部のマーケットで使われるのみで、成功したとしてもTIBOR程度の地位に収まるように思う。

それにしても欧州で同じような銀行の信用リスクを織り込んだ指標の話が活発になされなかったのが興味深い。欧州では、€STRのようなリスクフリーレートの貸し出しが増えているのだろうか。その点日本はグレーな部分も使いながらうまく対応していると言えるのかもしれない。

住宅ローン金利などを見てもそうだが、TONAなどに連動している訳ではなく、一般的な金利指標とは異なる動きをしているが、それほど大きな不満が出ているわけではない。おそらく日本の銀行危機が起きれば、円金利が上がらなかったとしてもローン金利を上げられるような仕組みになっているのだろう。とは言っても銀行が多いので、あまり極端なことを行えば借り換えが起きてしまう。

米国だとすぐに透明性だとか公平性ということが言われるが、どのようなモデルが望ましいのかはよくわからないところである。

信用リスク移転マーケットの発展に必要なこと

Credit Risk Transferについて耳にすることが多くなってきた。当初は証券化商品を担当する部門から、ローンのリスクトランスファーに関連するディールの話を聞くことが多かったが、そこからデリバティブへの応用という形で話が進んできた。以前からデリバティブ取引のRisk Transferに携わってきた身としては若干不可解に思えてしまうが、もしかしたら、ずっと下火だったリスク移転の話がここから盛り上がりを見せるのかもしれない。

昨年後半にFRBがリスク移転についての要件をQ&Aの中で明確にしたことから、SRT(Synthetic Risk Transfer)の形で米国で注目が集まった。これをデリバティブ取引にも広げて、資本削減やG-SIBスコアの削減などを図る動きが欧州でも活発化してきたのが昨年の初めくらいからである。

デリバティブ取引のリスク移転についておさらいすると、金融危機前後にCDSとともにCCDSがいくつか取引され、こうした取引が技術的に難しいという場合は、保証やRisk Participationが使われた。昨今でもコモディティの世界では普通にFourth Trigger CDSが取引されている。これは通常の3CE(3つのクレジットイベント)に加え、ISDA上のデフォルトを4つ目のクレジットイベントに加えるというものだ。

昔は信用枠をリリースしたり、リスク集中を避けるためにクレジットリスクを減らそうという動きが中心だったが、近年ではリスクを減らすというよりは資本コストを減らすためにこうした取引が行われることが多くなってきた。当然厳しい資本規制下にあるのは大銀行になるが、こうした規制の影響を受けない保険会社やアセマネなどのバイサイドやヘッジファンドなどがリスクを取れば、Win Winとなる。または国際基準行などのように厳しい資本規制の対象とならない地銀など、その他金融機関がリスクを取ってリターンを上げることもできる。

リスク移転の最も簡単で確実な方法は、取引をそのまま移してしまうNovationだ。しかし、通常は相手方に知られずにヘッジしたいというニーズが多く、CDS、CCDSなどサイレントでできるリスク移転が好まれる。本来であれば、より取引を継続的に行い長期的に顧客サービスを提供するために、一部リスクを外したいと言えば、顧客である事業会社なども理解してくれそうなものだが、銀行の営業としては、大事な顧客にリスクを他に移すということはなかなか言いずらいというのが現状だろう。

また、リスク移転は相対での取引となることが多く、なかなかお互いのニーズがマッチするような状況を見つけるのが難しい。何かオークションのようなプロセスや、いくつかの投資家のマッチングをするようなサービスがあれば、マーケットが膨らむかもしれない。そして、マッチング後もMTMの計算支援、デフォルト時の判定等まで弁護士と協力して公平なプロセスを確立できれば、金融の発展に資するものと思われる。

日本には社債市場の発展が必要

海外でクレジット関連のETFや先物取引量が増加してきている。もともと多くの企業が銀行借り入れよりも社債によって資金調達を行っていたため、社債市場の規模は海外の方が圧倒的に発展している。日本が間接金融中心のために劣っているわけではないが、目まぐるしく変化する現在の環境において、社債によって機動的に資金調達を行える方が望ましい。経済発展の初期には、銀行が重厚長大産業に集中的に資金を投入することに意味があったが、米国ではITベンチャーへの資金提供を行うベンチャーキャピタルが重要な役割を果たしており、これらの企業は銀行ローン以外にも社債を積極的に発行している。

日本でも楽天などが10%を超える金利で巨額のドル建て社債を発行したことが話題となったが、ドル社債であれば、世界中の投資家から資金を調達できる。日本には銀行が多いものの、融資方針はどこも似通っており、10%以上のリターンが見込める場合でも、借り入れ可能な金額には限度がある。一方、海外の投資家であれば、10%のリターンが得られる社債には様々な投資家が資金を提供するだろう。

海外では格付けの低い企業も頻繁に社債を発行しており、社債を参照資産としたETFも増えてきている。今年は特に社債の先物取引量が急増している。電子取引の増加に伴い、社債市場のマーケットメイクを行うCitadelやJane Streetなどの参入もあり、流動性がますます高まっている。日本では「NISAで投資」といえば「株」が一般的だが、海外では「債券」をポートフォリオに加えることが極めて一般的である。

近年、CBOE、CME、Eurexなど、海外取引所も社債の先物取引を相次いで取り扱い始めている。特にEurexの今年の成功が注目されている。ETFの取引量が増えたため、先物取引がやりやすくなったという背景もある。先物市場の発展には、ETFの流動性が不可欠だとの声も多い。また、海外ではCDSの流動性も高く、リスク管理には社債のショート、ETF、先物、TRSなど様々なツールが利用されている。

日本では社債発行量が極端に少なく、社債をショートすることもできない。ほとんどの社債は満期保有を前提とした投資家によって保有され、頻繁に社債を売買する市場参加者は少ないため、取引量が増えにくい。銀行からローンが引けなかった場合に社債市場にアクセスするのは、大企業に限られる。もっとも、楽天のようにドル債を発行すれば、厚みのある海外資本市場へアクセスすることは可能である。しかし、為替リスクのヘッジも必要とあり、通貨スワップ取引などのセットアップが必要となる。その意味では為替ヘッジの必要のない米国は有利である。

投資家の観点から見ると、社債への投資を考える人は少なく、多くの資金は株式に向かう。NISAで投資できる投資信託のほとんどは海外社債を基にしたもので、日本の社債に投資できる商品はほとんど存在しない。また、投資信託は多いものの、ETFは少なく、しかも海外のように手数料が安くないため、ETFのメリットは少ないかもしれない。もしETFがもう少し増えれば、引け値や投信の基準価格に振り回されることも減るだろう。

「貯蓄から投資へ」という流れは着実に進んでいるように見えるが、次に起きる変化として、銀行から証券へ、ローンから社債へ、株式投資から分散投資への移行も必然的に進むだろう。

米国投資家のJSCCへのアクセス

米上院議員が米国投資家が日本のJSCCにアクセスできるよう求めたレターをCFTCに送ったと報じられた。また、BlacRockやシタデルなどがメンバーとなっているCommittee on Capital Market Regulation も同様のレターを送っている。日本円の金利スワップの清算を認めることで、米国の顧客の取引コストとリスクを軽減することができるとしている。

特にJSCCスワップを取引できる能力の重要性が経済的に増しているとも書いているが、これは日銀の政策変更によって金利変動が大きくなっていることを指しているのだろう。

今回のレターを送ったBoozman議員は以前にも同様のリクエストをCFTCに出しているが、CFTCのBehnam長官は議論を約束したものの、その方向性については、明確なコメントはしていなかったように思う。円金利が変動するようになり、ヘッジニーズが増したことから、多くのバイサイドがJSCCへのアクセスに注目し始めたことにより、ついに米国内の意見がまとまってきたように見える。JSCCとしても長年地道に会話を続けてきたのだろうが、やはりユーザーである資産運用会社などの米国投資家からのリクエストに、米上院議員からのサポートが加わるとなると心強い。

他に正式にDCO登録をしているCCPがいる中、Exempt DCOのステータスでJSCCだけが認められるのはおかしいという意見も出ていたが、日本の倒産法のもとでは、どんなに努力をしてもDCO登録はかなり困難のように思える。

業界のためには、垣根なくスムーズな取引が行われることが望ましく、そうでないと流動性が分断してしまう。そもそも日本円金利は2種類のTIBORがあったり、様々なベーシスリスクが多く、海外参加者からはトリッキーなマーケットとみられていた。しかし、LIBORもTONAに移行し、ZTIBORもなくなるため、少し流動性が集中してきた。LCH/JSCCベーシスの変動も少なくなれば、さらに流動性が上がる。流動性が上がると、市場の厚みが増し、極端な市場変動も起きにくくなるだろう。

トランプ政権の発足とそれに伴う人事変更による不透明感は残るが、是非とも不必要な市場分断が少なくなることを願いたい。規制による市場分断は、百害あって一利なしだと思う。

G-SIBが流動性に与えるインパクト

毎年年末になると流動性が逼迫してくるが、今年は特にその影響が大きそうだ。特にG-SIBの問題についての話になることが多く、様々な報道でも問題が指摘されている。大統領選後米銀の株価が急上昇したことにより、G-SIBスコアが上がってしまったことが関係しているのではないかという話を以前したが、金利スワップの取引量が増えていることも要因の一つかもしれない。

特に欧州のようにプリンシパルモデルを使っていると、CCPと顧客の間に立って取引をするブローカーにとっては、取引量がCCP側と顧客側でダブルでカウントされる。顧客のためにクリアリングをすればするほど、所要資本が増えてしまう。その他の資本計算上はCCP向けのリスクウェイトが低くなっているケースがあるが、G-SIBの場合は単なる想定元本である。つまり自らリスクを取ってポジションを取るよりも、顧客のためにCCPに繋いであげる方がより不利になるということである。

欧州Eurexでは、この問題を解決するために米国のようなエージェントモデルであるEATM(European Agent Trustee Model)を導入し、ダブルカウントを避けようという動きが継続しているが、ドイツの源泉税の関係で難航しているらしい。一方イギリスではこの問題は発生しないようだ。

しかしここまで市場流動性に影響が生じてくるとG-SIBの計算式も見直した方が良いのではないかと思えてくる。CCPに清算集中せよと言っておきながら、それをサポートしようとすると、資本コストが急増してしまうというのは不思議な話だ。

マーケットが急変したときに、以前であれば銀行がある程度の在庫を抱えながら市場インパクトを吸収していた。最近では、市場が急変動した場合には銀行は指をくわえて静観する以外にない。なかなか売れない資産を顧客から抱えて、市場が落ち着いたときに売却するということは、現在の規制環境下ではほぼ難しい。売れない資産を買ってしまった瞬間にレバレッジ比率が悪化し、NSFRやLCRにも悪影響が及び、G-SIBスコアの上昇に従って資本コストも増えてしまうからだ。

銀行が本来の役割を果たせなくなった分をシャドーバンキングがカバーしてきたのだが、当然シャドーバンキングのサイズが大きくなってくると、それに対する規制が強化される。だが、それが銀行に戻るかというとそういうわけではないので、結局は市場の流動性が悪化するという当たり前の結果になっている。

G-SIBスコアは細かく見ていくと、ダブルカウント、トリプルカウントではないかという項目も多い。今年の状況を見ていると、何らかの改善が望まれる。

米国の一人勝ちはいつまで続くか

米国大統領選挙後の米国株への資金流入額が、月$140bnに急増した。これは近年稀に見る水準の投資資金の流入で、2000年以降最高とのことである。本来であれば関税はインフレを誘発し、FEDの利下げが難しくなるという連想が働くはずなのだが、米国株以外に選択肢がないということなのかもしれない。

どこから資金が流れてきたかというと、欧州株から$14bn、Emerging Marketsから$8bn、日本から、$6bn、中国から$4bnとなっている。これで今年の米国株への資金流入は過去最高となり、今後もこの傾向が続くという楽観的な意見が強くなってきた。このペースが続くと予想する声は少ないが、それでも来年も一定の資金流入があると予想するアナリストが多い。Investors Intelligenceの強気指標も最高水準の62.9%となっている。

ファンダメンタルズを見ていると確かにそれを裏付けるようなデータが多い。しかし、ここまで多くの人が強気になると、一度その反動が起きると大きな流れを引き起こすのがマーケットの常である。そろそろ米国株の割合を減らした方が良いとは誰もが言えることだが、そのタイミングをぴたりと当てるのは非常に難しい。

一方、ロンドンの株式市場では、今年に入って新規上場が18社あったが、上場廃止や移管によって88社の企業が退出している。これは金融危機以降最大の退出であり、多くの企業がNYに流れてしまっている。新規上場も過去15年間で最低となり、若干危機的な状況になってきた。ロンドン証取に上場する企業は金融危機以降30%も減少している。

しかも、来年も更にNYへ移行するのではないかと言われる企業が多くなっている。アメリカファーストを訴えるトランプ新大統領のもとでこの流れは加速するのかもしれない。

英国の株価指数であるFTSE100も米国S&P500などに比べるとパフォーマンスがかなり悪く、完全に米国株独り勝ちの様相となっている。

とはいえ、英国も手をこまねいてみているだけではなく、様々な市場改革に乗り出している。資金調達額という意味では英国は未だ世界3位の水準にあり、市場の危機感を感じているからこそ、規制や市場の透明性を高めるために努力を行っている。未だ効果が見られないという批判もあろうが、こうした改革がすぐに結果を生むことは難しい。数年後に何らかの形で結果が出てくることになると思う。

担保リスク管理には規制が必要

CMEから担保管理のスタンダードについてガイダンスが出ている。マージンコールに応えることが出来なかった顧客のポジションをクローズする際に、クリアリングブローカーに一定の裁量権があるというルールがあったが、どこまでの裁量権があるのかについては意見が分かれていた。今回のガイダンスによってルールが明確いなった。

おそらく顧客からマージンコールのタイミングをずらして欲しいという要望があったのだろう。いくつかの銀行が顧客との契約上猶予期間を与えていたことに対して、CMEがルール違反としてEUR25kの制裁金を課したのである。

担保管理実務に関しては、どうしても易きに流れる風潮があるのでこの対応は望ましい。本来は自分が担保を出したのに反対取引から担保が入ってこないとファンディングコストがかかる。したがって大手銀行はISDAのBest Practiceなどに従い、タイトなタイミングでの担保授受を求めるが、事務ミスで振り込めなかった時のリスクを恐れたり、休暇で手続きが滞ったりするのを避けるため極力タイミングを遅らせようとする市場参加者も多い。ただし、金融全体の流動性を確保するためには、迅速な資金移動は必須であり、一部の参加者がこれを滞らせると全体に影響が及ぶ可能性もある。

後発組などで、担保管理を緩めてビジネスを取りに行こうとする銀行が現れると、それを根拠に全取引銀行にルーズな担保管理を求める参加者がいる。本来ならば、自らの手間を省くために金融全体の資金の流れを滞らせるのは望ましくないのだが、顧客の立場が強く、必要のないリスクが存在することになってしまう。残念ながらこれを防ぐには規制が最も効果的だ。証拠金規制後こうした交渉の余地がかなり減った。とは言え、海外とは異なり日本では、まだT+3の受け渡しが残っていたりする。

その意味ではCCPが担保管理の事務フローを厳格化する今回の動きは、規制と同等の効果を持つため、市場全体にとって望ましいことである。

日本の場合は、システム障害や、事務ミスが起きた時のためにタイミングをタイトにしたくないと言うところも多いが、CMEのガイダンスを見ると、こうした特殊市場は例外として除外されている。稀に障害が起きるからといって通常のリスク管理を緩めるのは本末転倒である。

アルケゴスに代表されるように、当初証拠金を引き下げるべく各銀行に無理を言って、立場の弱い銀行がこれに応じてしまい、全体としてのリスクを増やしたという事例も多い。重要顧客を繋ぎ止めるために、顧客に便宜を図ってリスク管理を弱め、その結果市場変動を増幅させたり、流動性ショックを与えて大きな影響を与えないよう、ある程度当局やCCPがこうした牽制を効かせることは、市場の安定化には有効である。

アルケゴスなどの例もあるので、海外では銀行検査において、こうした圧力に負けてリスク管理を緩めたケースなどを調べていたとしても不思議ではない。やはり、規制やルールで定めてしまうのが最も透明性が高いのだろう。優越的地位を活かして便益を得ようという意味では、ある意味下請けいじめにも共通するものがある。下請けいじめも違法行為として注目を集めているが似たようなものかもしれない。

逆にこうした罰金があると、顧客が銀行に無理な要求をしたとしても、罰則があるのでといって断ることが容易になる。本来規制でがんじがらめになるのはよくないのだが、こうした取引ルールについては、規制で明確化していくしかないのだろう。

システム障害リスク

7月に起きたクラウドストライクのシステム障害は、総額100億ドルを超える経済損失を与えたと言われている。システム依存度が高くなると、そのリスクへの対応が重要になってくる。DMMビットコインが不正引出しの影響で廃業に追い込まれたのもそうだが、サイバーセキュリティなどの対策も併せて重要になってきている。こうしたシステム投資をケチると会社の屋台骨を揺るがすような大事故に繋がってしまう。

10月にはBloombergのチャットが30分程度ダウしただけで、市場機能が一部麻痺した。Bloombergと言えば2015年に起きたシステム障害で、英国債の買入償却が延期されたこともあったが、ここまでくると、当局がバックアッププランを求めたとしても不思議ではない。当然電話やメールで対応するというプランはあるのだろうが、これは現実的には結構難しいというのは現場にいる人ならよくわかるだろう。

同じように取引所やCCPのシステムがダウンした場合のバックアップも海外では話題になるが、そのために複数のCCPと接続しておく必要がありコストは嵩む。あるCCPがサイバーアタックなどでクラッシュしても、当局が精算集中規制を一時的に解除して、相対取引を認めるとは考えられない。なぜそのために他のCCPを使うといったバックアッププランを準備していなかったのかということになる。

過去には様々なBCPプランについて議論してきたが、例えば地震リスクを例にとると、電話が使えるか、オフィスに入れるか、電車が動いているか、メールが送れるかによって対応が全く異なってくる。議論していると誰かが、こんな時はどうするんだ、もしこれが起きたらどうなるんだと言い出し永遠と議論が続くことになる。コロナショック時はこれに近い危機ではあったが、WhasAppや個人携帯とかで何とかしのぐくらいは問題ないかと思いきや、海外当局の対応は極めて厳格なものだった。

日本で地震が起きて電話回線が繋がらなくLINEだけが使えた場合、どうしてもヘッジしなければならない取引をLINE電話機能で顧客から受けてしまったらどうなるのだろう。外資系の人であれば、散々厳しく言われているのでおそらく規制違反はできないので断るという結論になる可能性が高い。

システム障害時にマニュアルで取引のブッキングを行うと、リアルタイムレポーティンクに繋がっていなかったり、自動リミットチェックを通らなかったりと、様々なミスが発生してしまう。当局からの罰金もかなり大きいので、結局何かバックアップ手段を試すよりは、そのまま大本の障害が回復するのを待った方が得策ということになる。

そうすると色々なベンダーに対するライセンス要件や規制を厳しくするという方向になり、新規参入によるイノベーションが起きにくくなる。BCP対応にも多大なコストがかかり、普段は必要のない施設やシステム、人員などを常に確保しておかなければならない。

原発リスクのように人の命に関わるリスクや、クラウドストライクのように企業の存続に関わるようなリスクは何としてでも避けるべきなのだが、金融の信用リスクや市場リスクのようにある程度のリスクを取るからリターンもあるというビジネスの場合はどこまでリスクを削減すべきなのだろうか。

現状はかなり極端なリスクに備えて資本を積む、リスクを絞るという傾向がかなり強くなってきた。どこまでやるかは非常に難しい問題であるが、現状は若干厳しすぎる方にバランスが偏りつつあるのではないだろうか、またその偏り具合が国によってもかなり異なってきているようにも感じる。トランプ大統領になってこの流れに変化が起きるのかについて注目が集まる。

英国CCPルール改正?

欧州のクリアリングに関する規制はEUのEMIRで定められているが、Brexit後基本的に英国もこれを踏襲する形になっていた。EU側がEMIR3.0の議論を進める中、英国でも若干独自色を出した改正がなされるのではないかという報道が出ていた。何らかのアナウンスメントが今月か来月にでも出るのではないかと言われている。

欧州のルールは、どちらかというと保護主義的になってきており、LCHからEURスワップのクリアリングをEU域内に移そうということで、域内で最低限クリアリングをしなければならない取引量を定めたりしているので、英国が規制の独自色を強めるのはある意味当然の流れなのだろう。

英国では、2022年の9月にトラス政権の大型減税が金利の急上昇を招き、担保が出せなくなったアセマネなどのバイサイドが、手持ちの国債を現金化して担保に充てるという動きが市場の混乱を増幅させた。この時に適格担保を現金以外に広げるべきという議論が持ち上がった。その後のコモディティ価格の急騰でさらなる担保不足が発生し、銀行の保証状を適格担保として認めるべきという議論も盛り上がった。そして今回のEMIR3.0でこれが認められることになりそうだ。

英国では特にトラス政権時代の経験があるため、同じような適格担保の拡大が盛り込まれる可能性が高いものと思われる。これ以外にもどのような独自色を出してくるかに注目が集まるが、CCPのルールはFMI原則がベースになっているので、それほどドラスティックなものにはならないかもしれない。ただ、日本ではあまりこうしたルールの修正が行われていないため、海外の動向を睨みながら、グローバルな流れから取り残されないよう注意を払っていく必要がある。

金融規制を巡る方向性があっという間に変化した

トランプ前大統領が当選してから、銀行規制を巡る環境は大きく変わりつつある。すでにSECトップのGensler氏が1月に辞任するとの報道が出ており、FDICのトップであるGruenberg氏も1月に辞任するようだ。ここまで素早く人が変わるとは、つくづく米国というのはすごい国である。

11月20日(水)のHouse Financial Services Committee(下院金融サービス委員会)において、規制当局サイドから、新たなルール作りの開始はトランプ次期政権が発足する来年以降になるだろうという発言があった。しばらくの間は、新たな銀行規制の導入は見送られるとの見通しが支配的になってきている。

一方FRBはPowell議長、Barr副議長ともに辞任することはないと言っているが、これは中銀の独立性を考えたら当然のことではある。それでもBarr副議長は少し前にBasel III Endgameの緩和についてアナウンスをしたばかりであり、今回の委員会でもその立場を貫いている。Yutubeで、別の委員からこの緩和は根拠がない、銀行に屈したのではないかと指摘された際に、緩和を正当化していた姿を見ると、少しリーズナブルにふるまおうとしているようにさえ見える。

いずれにしてもFDICとOCCも共和党が勢力を持つことになるだろうから、規制をめぐる状況は大きく変わることとなる。

決済期間短縮化がグローバルスタンダードに

欧州も決済期間のT+1化に向けて動き始めた。この度、ESMAから、2027年10月11日がT+1化のターゲットとして示された。9月にアナウンスをした英国に合わせたものと思われる。

11月や12月だと休暇や年末作業で忙しくなるため10月を選んだようだ。大抵の金融機関は週末にシステム更新作業を行うため月曜が選ばれることが多いが、四半期末初めての月曜は避け、2週目の月曜が選ばれた。こうなるとアジアが最初に影響を受けることになるが、これはいつものことである。これに応じて、関連する決済関連の法律やガイドラインの更新が行われるとのことだ。

米国のT+1化が終了していることもあり、同じような作業になるためそれほど大きな混乱にはならないものと思われる。米国と欧州は事務フローがかなり似通っているので、日本や中国、インドといった国でプロジェクトを立ち上げるのに比べると標準化や自動化も進んでいるため、作業がしやすい。

またこれに併せて一連の事務フローが変わることになるが、一層システム化、自動化の流れが加速することになる。一昔前であれば、顧客の様々なニーズに細かく応えることに重きを置いていたこともあったかもしれないが、昨今では、一律同じ事務フローで、標準化されたプロセスを自動的に行うことが最優先されるようになっている。そして、できるだけ人の手を介さないような事務フローが求められる。

システムコストはかなり大きくなってきたが、その分人件費が削減されているのと、何と言っても人為的ミスが減ってきているのが大きい。規制も極力システム化、自動化を促進するようなものが多くなっているので、金融はますます装置産業化してきたが、ちょっとしたトラブルが莫大な影響を及ぼすこともあるため、この流れは変わらないだろう。

日本には。あまりSTP化を促すような規制はないのと、顧客のカスタマイズ要望に応えなければならないことも多いため、自動化の進み具合は若干遅い。システム開発に莫大なコストをかけるよりは人海戦術で対応しようというケースも多いように思う。

ただ海外のシステム化の動きを見ていると、取り残されるリスクもあるので、人が行ってきた作業のシステム化をもう少し進めていった方が良いように感じる。

G-SIBスコアとは

以前にもG-SIBについて紹介したが、今年は特にG-SIBスコアが話題になることが多いのでおさらいをしてみたい。

まずは主要行のバーゼルG-SIBスコアを見てみる。

左から米系、欧州系、日系、中国系の過去数年10年のスコア推移を並べてみたが、国ごとの傾向が明らかに出ている。この辺りの数字はOFRのウェブサイトからダウンロードできる。

米系:順調に減少してきたがここ数年で再び上昇

欧州系:10年間順調に減少

日系:着実に上昇してきたが、ここ数年で減少に転じた

中国系:概ね一貫して上昇基調

以前のブログでは、コンプレッションやROEなどの収益率向上努力によって欧米ではスコアの削減努力が行われてきたが、日本と中国ではあまり削減努力がなされてこなかったと書いたが、最近では日系の削減努力の加速が目立つ。米系は削減努力を継続してはしているものの、ビジネスの成長によってスコアが上がっているようだ。

もう少し細かく見るためにG-SIBスコアの詳細をバーゼルのペーパーで確認してみる。

G-SIBスコアは以下の5つの構成要素からなるが、一見何が何だかよくわからないので少し詳しくバーゼルぺーパーを読んでみる。

  1. Size
  2. Interconnectedness
  3. Substitutability
  4. Complexity
  5. Cross-Jurisdictional Activities

Sizeは基本的にレバレッジ比率の計算に用いるTotal Exposureであり、銀行勘定、トレーディング勘定にかかわらず、すべてのエクスポージャーを合計したものである。デリバティブ資産と負債は別途計算しグロス計算しなければならないように読める。時価相当部分とデリバティブPFE(CEMなので、想定元本に掛け目をかけたもの)を計算に入れる。クライアントクリアリングで顧客のデフォルトリスクをCCPに保証している場合はこの計算に入れなければならない。

Interconnectednessは、金融機関同士のTotal Exposureである。銀行、証券のほかに保険、アセマネなどが含まれる。したがって、金融機関同士でデリバティブ取引を行っていると、SizeとこのInterconnectednessにカウントされてしまうようだ。さらに、CD、自ら発行した社債、自らの株式の市場価値、優先株などもここに加算される。

Complexityはレベル3アセット、OTCデリバティブ取引の想定元本が入る。つまりコンプレッションが重要になる。コンプレッションをするとSizeとInterconnectednessに含まれるDerivative PFEも減ることになるので非常に重要だ。

Substitutabilityにはカストディアンに預けてある資産、現金支払い額、株式及び社債のUnderwriting、各種取引量が入る。

Cross-Jurisdictional Activitiesは国際基準行のように海外との取引が多いところに課せられる。海外投資、海外向けローン、デリバティブ取引、外国債券、レポ、株券貸借取引などが該当する。

これは全世界共通のバーゼルルールだが、米国にはこれとは別のMethod2があり、Substitutabilityの代わりにShort Term Wholesale Fundingが使われている。これは銀行預金、担保付借入など1年未満の短期借り入れが中心になるので、預金を持たず短期資金に頼りがちな証券会社のスコアが大きくなる。もしかしたら野村證券がG-SIBから抜けたのは、バーゼルルールでこのShort Term Wholesale Fundingが入っていないからなのかもしれない。

ざっと見てみただけなのだが、かなり重複しているような印象があり、特に国際的に活発に取引を行い、金融機関との取引が多くなる大手金融機関にとってはかなり重複が激しくなる。Systematically Importantを図るのだから当然なのかもしれないが。

特にAssetとLiabilitiesをグロスで集計しているようだが、デリバティブ取引に関しては、時価のみならずPFE、想定元本まで加算されるので結構厳しい。コンプレッションが重要になる理由がよくわかる。

単に自社債や自社の株式が入っているところも興味深い。株価や社債価格が上がれば自動的にスコアが上がってしまう。その意味では米国大統領選後に米銀の株価が急上昇したことがG-SIBスコアの悪化を加速させたのかもしれない。となると、このQ4にさらなるバランスシート削減の圧力がかかったとしても不思議ではない。

米銀のMethod2のスコアを見ると、上のグラフのようにここ数年の上昇が目立つ。630点を超えると上のバケットに入り、資本賦課が高くなるので、630点の攻防が重要だが、GSなどはすでに696点に上がっており、2026年からの資本コスト上昇が避けられそうもないと3月頃に報道されていた。通常は年末に米銀がスコアをアグレッシブに削減するということが当局からも指摘されているが、今年もある程度こうしたバランスシート削減が行われそうだ。特に大統領選以降米銀の株価が急上昇しているため、スコアが予想外に大きくなってしまっている可能性が高い。

ただでさえ流動性にプレッシャーがかかる時期に、銀行が手持ちの債券や株式を売り、レポやデリバティブ取引残高を減らせば、マーケットにかなりのストレスがかかることが予想される。今年の年末は一波乱あるかもしれない。