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米国の一人勝ちはいつまで続くか

米国大統領選挙後の米国株への資金流入額が、月$140bnに急増した。これは近年稀に見る水準の投資資金の流入で、2000年以降最高とのことである。本来であれば関税はインフレを誘発し、FEDの利下げが難しくなるという連想が働くはずなのだが、米国株以外に選択肢がないということなのかもしれない。

どこから資金が流れてきたかというと、欧州株から$14bn、Emerging Marketsから$8bn、日本から、$6bn、中国から$4bnとなっている。これで今年の米国株への資金流入は過去最高となり、今後もこの傾向が続くという楽観的な意見が強くなってきた。このペースが続くと予想する声は少ないが、それでも来年も一定の資金流入があると予想するアナリストが多い。Investors Intelligenceの強気指標も最高水準の62.9%となっている。

ファンダメンタルズを見ていると確かにそれを裏付けるようなデータが多い。しかし、ここまで多くの人が強気になると、一度その反動が起きると大きな流れを引き起こすのがマーケットの常である。そろそろ米国株の割合を減らした方が良いとは誰もが言えることだが、そのタイミングをぴたりと当てるのは非常に難しい。

一方、ロンドンの株式市場では、今年に入って新規上場が18社あったが、上場廃止や移管によって88社の企業が退出している。これは金融危機以降最大の退出であり、多くの企業がNYに流れてしまっている。新規上場も過去15年間で最低となり、若干危機的な状況になってきた。ロンドン証取に上場する企業は金融危機以降30%も減少している。

しかも、来年も更にNYへ移行するのではないかと言われる企業が多くなっている。アメリカファーストを訴えるトランプ新大統領のもとでこの流れは加速するのかもしれない。

英国の株価指数であるFTSE100も米国S&P500などに比べるとパフォーマンスがかなり悪く、完全に米国株独り勝ちの様相となっている。

とはいえ、英国も手をこまねいてみているだけではなく、様々な市場改革に乗り出している。資金調達額という意味では英国は未だ世界3位の水準にあり、市場の危機感を感じているからこそ、規制や市場の透明性を高めるために努力を行っている。未だ効果が見られないという批判もあろうが、こうした改革がすぐに結果を生むことは難しい。数年後に何らかの形で結果が出てくることになると思う。

担保リスク管理には規制が必要

CMEから担保管理のスタンダードについてガイダンスが出ている。マージンコールに応えることが出来なかった顧客のポジションをクローズする際に、クリアリングブローカーに一定の裁量権があるというルールがあったが、どこまでの裁量権があるのかについては意見が分かれていた。今回のガイダンスによってルールが明確いなった。

おそらく顧客からマージンコールのタイミングをずらして欲しいという要望があったのだろう。いくつかの銀行が顧客との契約上猶予期間を与えていたことに対して、CMEがルール違反としてEUR25kの制裁金を課したのである。

担保管理実務に関しては、どうしても易きに流れる風潮があるのでこの対応は望ましい。本来は自分が担保を出したのに反対取引から担保が入ってこないとファンディングコストがかかる。したがって大手銀行はISDAのBest Practiceなどに従い、タイトなタイミングでの担保授受を求めるが、事務ミスで振り込めなかった時のリスクを恐れたり、休暇で手続きが滞ったりするのを避けるため極力タイミングを遅らせようとする市場参加者も多い。ただし、金融全体の流動性を確保するためには、迅速な資金移動は必須であり、一部の参加者がこれを滞らせると全体に影響が及ぶ可能性もある。

後発組などで、担保管理を緩めてビジネスを取りに行こうとする銀行が現れると、それを根拠に全取引銀行にルーズな担保管理を求める参加者がいる。本来ならば、自らの手間を省くために金融全体の資金の流れを滞らせるのは望ましくないのだが、顧客の立場が強く、必要のないリスクが存在することになってしまう。残念ながらこれを防ぐには規制が最も効果的だ。証拠金規制後こうした交渉の余地がかなり減った。とは言え、海外とは異なり日本では、まだT+3の受け渡しが残っていたりする。

その意味ではCCPが担保管理の事務フローを厳格化する今回の動きは、規制と同等の効果を持つため、市場全体にとって望ましいことである。

日本の場合は、システム障害や、事務ミスが起きた時のためにタイミングをタイトにしたくないと言うところも多いが、CMEのガイダンスを見ると、こうした特殊市場は例外として除外されている。稀に障害が起きるからといって通常のリスク管理を緩めるのは本末転倒である。

アルケゴスに代表されるように、当初証拠金を引き下げるべく各銀行に無理を言って、立場の弱い銀行がこれに応じてしまい、全体としてのリスクを増やしたという事例も多い。重要顧客を繋ぎ止めるために、顧客に便宜を図ってリスク管理を弱め、その結果市場変動を増幅させたり、流動性ショックを与えて大きな影響を与えないよう、ある程度当局やCCPがこうした牽制を効かせることは、市場の安定化には有効である。

アルケゴスなどの例もあるので、海外では銀行検査において、こうした圧力に負けてリスク管理を緩めたケースなどを調べていたとしても不思議ではない。やはり、規制やルールで定めてしまうのが最も透明性が高いのだろう。優越的地位を活かして便益を得ようという意味では、ある意味下請けいじめにも共通するものがある。下請けいじめも違法行為として注目を集めているが似たようなものかもしれない。

逆にこうした罰金があると、顧客が銀行に無理な要求をしたとしても、罰則があるのでといって断ることが容易になる。本来規制でがんじがらめになるのはよくないのだが、こうした取引ルールについては、規制で明確化していくしかないのだろう。

システム障害リスク

7月に起きたクラウドストライクのシステム障害は、総額100億ドルを超える経済損失を与えたと言われている。システム依存度が高くなると、そのリスクへの対応が重要になってくる。DMMビットコインが不正引出しの影響で廃業に追い込まれたのもそうだが、サイバーセキュリティなどの対策も併せて重要になってきている。こうしたシステム投資をケチると会社の屋台骨を揺るがすような大事故に繋がってしまう。

10月にはBloombergのチャットが30分程度ダウしただけで、市場機能が一部麻痺した。Bloombergと言えば2015年に起きたシステム障害で、英国債の買入償却が延期されたこともあったが、ここまでくると、当局がバックアッププランを求めたとしても不思議ではない。当然電話やメールで対応するというプランはあるのだろうが、これは現実的には結構難しいというのは現場にいる人ならよくわかるだろう。

同じように取引所やCCPのシステムがダウンした場合のバックアップも海外では話題になるが、そのために複数のCCPと接続しておく必要がありコストは嵩む。あるCCPがサイバーアタックなどでクラッシュしても、当局が精算集中規制を一時的に解除して、相対取引を認めるとは考えられない。なぜそのために他のCCPを使うといったバックアッププランを準備していなかったのかということになる。

過去には様々なBCPプランについて議論してきたが、例えば地震リスクを例にとると、電話が使えるか、オフィスに入れるか、電車が動いているか、メールが送れるかによって対応が全く異なってくる。議論していると誰かが、こんな時はどうするんだ、もしこれが起きたらどうなるんだと言い出し永遠と議論が続くことになる。コロナショック時はこれに近い危機ではあったが、WhasAppや個人携帯とかで何とかしのぐくらいは問題ないかと思いきや、海外当局の対応は極めて厳格なものだった。

日本で地震が起きて電話回線が繋がらなくLINEだけが使えた場合、どうしてもヘッジしなければならない取引をLINE電話機能で顧客から受けてしまったらどうなるのだろう。外資系の人であれば、散々厳しく言われているのでおそらく規制違反はできないので断るという結論になる可能性が高い。

システム障害時にマニュアルで取引のブッキングを行うと、リアルタイムレポーティンクに繋がっていなかったり、自動リミットチェックを通らなかったりと、様々なミスが発生してしまう。当局からの罰金もかなり大きいので、結局何かバックアップ手段を試すよりは、そのまま大本の障害が回復するのを待った方が得策ということになる。

そうすると色々なベンダーに対するライセンス要件や規制を厳しくするという方向になり、新規参入によるイノベーションが起きにくくなる。BCP対応にも多大なコストがかかり、普段は必要のない施設やシステム、人員などを常に確保しておかなければならない。

原発リスクのように人の命に関わるリスクや、クラウドストライクのように企業の存続に関わるようなリスクは何としてでも避けるべきなのだが、金融の信用リスクや市場リスクのようにある程度のリスクを取るからリターンもあるというビジネスの場合はどこまでリスクを削減すべきなのだろうか。

現状はかなり極端なリスクに備えて資本を積む、リスクを絞るという傾向がかなり強くなってきた。どこまでやるかは非常に難しい問題であるが、現状は若干厳しすぎる方にバランスが偏りつつあるのではないだろうか、またその偏り具合が国によってもかなり異なってきているようにも感じる。トランプ大統領になってこの流れに変化が起きるのかについて注目が集まる。

英国CCPルール改正?

欧州のクリアリングに関する規制はEUのEMIRで定められているが、Brexit後基本的に英国もこれを踏襲する形になっていた。EU側がEMIR3.0の議論を進める中、英国でも若干独自色を出した改正がなされるのではないかという報道が出ていた。何らかのアナウンスメントが今月か来月にでも出るのではないかと言われている。

欧州のルールは、どちらかというと保護主義的になってきており、LCHからEURスワップのクリアリングをEU域内に移そうということで、域内で最低限クリアリングをしなければならない取引量を定めたりしているので、英国が規制の独自色を強めるのはある意味当然の流れなのだろう。

英国では、2022年の9月にトラス政権の大型減税が金利の急上昇を招き、担保が出せなくなったアセマネなどのバイサイドが、手持ちの国債を現金化して担保に充てるという動きが市場の混乱を増幅させた。この時に適格担保を現金以外に広げるべきという議論が持ち上がった。その後のコモディティ価格の急騰でさらなる担保不足が発生し、銀行の保証状を適格担保として認めるべきという議論も盛り上がった。そして今回のEMIR3.0でこれが認められることになりそうだ。

英国では特にトラス政権時代の経験があるため、同じような適格担保の拡大が盛り込まれる可能性が高いものと思われる。これ以外にもどのような独自色を出してくるかに注目が集まるが、CCPのルールはFMI原則がベースになっているので、それほどドラスティックなものにはならないかもしれない。ただ、日本ではあまりこうしたルールの修正が行われていないため、海外の動向を睨みながら、グローバルな流れから取り残されないよう注意を払っていく必要がある。

金融規制を巡る方向性があっという間に変化した

トランプ前大統領が当選してから、銀行規制を巡る環境は大きく変わりつつある。すでにSECトップのGensler氏が1月に辞任するとの報道が出ており、FDICのトップであるGruenberg氏も1月に辞任するようだ。ここまで素早く人が変わるとは、つくづく米国というのはすごい国である。

11月20日(水)のHouse Financial Services Committee(下院金融サービス委員会)において、規制当局サイドから、新たなルール作りの開始はトランプ次期政権が発足する来年以降になるだろうという発言があった。しばらくの間は、新たな銀行規制の導入は見送られるとの見通しが支配的になってきている。

一方FRBはPowell議長、Barr副議長ともに辞任することはないと言っているが、これは中銀の独立性を考えたら当然のことではある。それでもBarr副議長は少し前にBasel III Endgameの緩和についてアナウンスをしたばかりであり、今回の委員会でもその立場を貫いている。Yutubeで、別の委員からこの緩和は根拠がない、銀行に屈したのではないかと指摘された際に、緩和を正当化していた姿を見ると、少しリーズナブルにふるまおうとしているようにさえ見える。

いずれにしてもFDICとOCCも共和党が勢力を持つことになるだろうから、規制をめぐる状況は大きく変わることとなる。

決済期間短縮化がグローバルスタンダードに

欧州も決済期間のT+1化に向けて動き始めた。この度、ESMAから、2027年10月11日がT+1化のターゲットとして示された。9月にアナウンスをした英国に合わせたものと思われる。

11月や12月だと休暇や年末作業で忙しくなるため10月を選んだようだ。大抵の金融機関は週末にシステム更新作業を行うため月曜が選ばれることが多いが、四半期末初めての月曜は避け、2週目の月曜が選ばれた。こうなるとアジアが最初に影響を受けることになるが、これはいつものことである。これに応じて、関連する決済関連の法律やガイドラインの更新が行われるとのことだ。

米国のT+1化が終了していることもあり、同じような作業になるためそれほど大きな混乱にはならないものと思われる。米国と欧州は事務フローがかなり似通っているので、日本や中国、インドといった国でプロジェクトを立ち上げるのに比べると標準化や自動化も進んでいるため、作業がしやすい。

またこれに併せて一連の事務フローが変わることになるが、一層システム化、自動化の流れが加速することになる。一昔前であれば、顧客の様々なニーズに細かく応えることに重きを置いていたこともあったかもしれないが、昨今では、一律同じ事務フローで、標準化されたプロセスを自動的に行うことが最優先されるようになっている。そして、できるだけ人の手を介さないような事務フローが求められる。

システムコストはかなり大きくなってきたが、その分人件費が削減されているのと、何と言っても人為的ミスが減ってきているのが大きい。規制も極力システム化、自動化を促進するようなものが多くなっているので、金融はますます装置産業化してきたが、ちょっとしたトラブルが莫大な影響を及ぼすこともあるため、この流れは変わらないだろう。

日本には。あまりSTP化を促すような規制はないのと、顧客のカスタマイズ要望に応えなければならないことも多いため、自動化の進み具合は若干遅い。システム開発に莫大なコストをかけるよりは人海戦術で対応しようというケースも多いように思う。

ただ海外のシステム化の動きを見ていると、取り残されるリスクもあるので、人が行ってきた作業のシステム化をもう少し進めていった方が良いように感じる。

G-SIBスコアとは

以前にもG-SIBについて紹介したが、今年は特にG-SIBスコアが話題になることが多いのでおさらいをしてみたい。

まずは主要行のバーゼルG-SIBスコアを見てみる。

左から米系、欧州系、日系、中国系の過去数年10年のスコア推移を並べてみたが、国ごとの傾向が明らかに出ている。この辺りの数字はOFRのウェブサイトからダウンロードできる。

米系:順調に減少してきたがここ数年で再び上昇

欧州系:10年間順調に減少

日系:着実に上昇してきたが、ここ数年で減少に転じた

中国系:概ね一貫して上昇基調

以前のブログでは、コンプレッションやROEなどの収益率向上努力によって欧米ではスコアの削減努力が行われてきたが、日本と中国ではあまり削減努力がなされてこなかったと書いたが、最近では日系の削減努力の加速が目立つ。米系は削減努力を継続してはしているものの、ビジネスの成長によってスコアが上がっているようだ。

もう少し細かく見るためにG-SIBスコアの詳細をバーゼルのペーパーで確認してみる。

G-SIBスコアは以下の5つの構成要素からなるが、一見何が何だかよくわからないので少し詳しくバーゼルぺーパーを読んでみる。

  1. Size
  2. Interconnectedness
  3. Substitutability
  4. Complexity
  5. Cross-Jurisdictional Activities

Sizeは基本的にレバレッジ比率の計算に用いるTotal Exposureであり、銀行勘定、トレーディング勘定にかかわらず、すべてのエクスポージャーを合計したものである。デリバティブ資産と負債は別途計算しグロス計算しなければならないように読める。時価相当部分とデリバティブPFE(CEMなので、想定元本に掛け目をかけたもの)を計算に入れる。クライアントクリアリングで顧客のデフォルトリスクをCCPに保証している場合はこの計算に入れなければならない。

Interconnectednessは、金融機関同士のTotal Exposureである。銀行、証券のほかに保険、アセマネなどが含まれる。したがって、金融機関同士でデリバティブ取引を行っていると、SizeとこのInterconnectednessにカウントされてしまうようだ。さらに、CD、自ら発行した社債、自らの株式の市場価値、優先株などもここに加算される。

Complexityはレベル3アセット、OTCデリバティブ取引の想定元本が入る。つまりコンプレッションが重要になる。コンプレッションをするとSizeとInterconnectednessに含まれるDerivative PFEも減ることになるので非常に重要だ。

Substitutabilityにはカストディアンに預けてある資産、現金支払い額、株式及び社債のUnderwriting、各種取引量が入る。

Cross-Jurisdictional Activitiesは国際基準行のように海外との取引が多いところに課せられる。海外投資、海外向けローン、デリバティブ取引、外国債券、レポ、株券貸借取引などが該当する。

これは全世界共通のバーゼルルールだが、米国にはこれとは別のMethod2があり、Substitutabilityの代わりにShort Term Wholesale Fundingが使われている。これは銀行預金、担保付借入など1年未満の短期借り入れが中心になるので、預金を持たず短期資金に頼りがちな証券会社のスコアが大きくなる。もしかしたら野村證券がG-SIBから抜けたのは、バーゼルルールでこのShort Term Wholesale Fundingが入っていないからなのかもしれない。

ざっと見てみただけなのだが、かなり重複しているような印象があり、特に国際的に活発に取引を行い、金融機関との取引が多くなる大手金融機関にとってはかなり重複が激しくなる。Systematically Importantを図るのだから当然なのかもしれないが。

特にAssetとLiabilitiesをグロスで集計しているようだが、デリバティブ取引に関しては、時価のみならずPFE、想定元本まで加算されるので結構厳しい。コンプレッションが重要になる理由がよくわかる。

単に自社債や自社の株式が入っているところも興味深い。株価や社債価格が上がれば自動的にスコアが上がってしまう。その意味では米国大統領選後に米銀の株価が急上昇したことがG-SIBスコアの悪化を加速させたのかもしれない。となると、このQ4にさらなるバランスシート削減の圧力がかかったとしても不思議ではない。

米銀のMethod2のスコアを見ると、上のグラフのようにここ数年の上昇が目立つ。630点を超えると上のバケットに入り、資本賦課が高くなるので、630点の攻防が重要だが、GSなどはすでに696点に上がっており、2026年からの資本コスト上昇が避けられそうもないと3月頃に報道されていた。通常は年末に米銀がスコアをアグレッシブに削減するということが当局からも指摘されているが、今年もある程度こうしたバランスシート削減が行われそうだ。特に大統領選以降米銀の株価が急上昇しているため、スコアが予想外に大きくなってしまっている可能性が高い。

ただでさえ流動性にプレッシャーがかかる時期に、銀行が手持ちの債券や株式を売り、レポやデリバティブ取引残高を減らせば、マーケットにかなりのストレスがかかることが予想される。今年の年末は一波乱あるかもしれない。

年末にかけてドルの短期市場に混乱が起きるか

今年は年末にかけてマーケットが神経質になってきている。FRBの金融引き締めの影響でファンディングコストが上昇しているのが背景にあるが、それ以外にも銀行のバランスシート制約等によって、大手銀行が金融仲介機能を果たせなくなっているのも大きい。

Risk.netにもFFとSOFRのベーシススワップの取引量が9-10月に昨年対比4倍以上になったという記事が出ているが、それ以外にもレポや株式貸借など、短期のファンディング市場において資金ひっ迫を懸念する論調がメディアで目立ち始めた。

おそらく年末に向けてバランスシートやG-SIBスコアの上昇を抑えようという動きが、レポレートやSOFRなどの上昇とファインディングコストの上昇を招いているものと思われる。ファインディングコストの上昇を懸念するニュースが例年より多く、年末に向けて短期の資金を提供できる銀行は少なくなってくるだろうから、このままの状況が続けば、何らかの緊急資金支援が行われる可能性も否定できなくなってきているのではないだろうか。また重要な決済日にレポレートが急上昇するといった事態も想定される。

5年ほど前も、FFレートとSOFRのスプレッドが300bp近くに開いたことがあったが、同じような雰囲気も感じられる。今年もSOFRは10月まで比較的落ち着いた動きを見せていたが、そこから急速に担保付のSOFRが上がり始めFF vs SOFRベーシスが開き始めた。短期資金を確保しようというニーズが急速に増えると、レポや株券貸借取引のレートが跳ね上がる。

金融危機後の規制改革によって金融市場は安全になったのは確かだが、これは主にカウンターパーティーリスクについて言えることである。市場リスクや流動性リスクについては、むしろ悪化しているようさえ思える。以前に比べて、年末や四半期ごとに短期資金がひっ迫したり、突然のマーケットが一方向に動いて止まらなくなるということが頻繁に起きるようになっている。

以前はマーケットが動き出すと、金融機関のトレーダーが逆のポジションを取ることにより、その動きにストップをかけていたが、今ではバランスシート制約、資本規制、ボルカールールによって、大手金融機関にこうしたキャパはなくなっている。ヘッジファンドや新興のマーケットメーカーが一部これを埋めているが、一方で流れに乗るシステマティックトレーディングも増えているため、全体としてはリスクが一方向に流れやすい。

トランプ政権になって、こうした市場流動性の低下が抑えられるのかに注目が集まる。

EUR IRSの取引量が全通貨最大となった

ClarusのEUR金利スワップ(金利系の先物を含む)についての最新データが公表されているが、2024年は過去最高の取引量となりそうだ。特に驚いたことにEURがUSDの金利スワップを取引量で抜くことになりそうだ。EURだけでなく、その他の通貨の金利スワップも取引量が増えており、金利マーケットについては、非常に重要な年だったと言えよう。この傾向は元本だけでなくDV01で見ても過去最高となりそうだ。

もう一つ興味深いのは、日本円の金利スワップが安定的に4位に位置していることだ。以前AUDに抜かれた時もあったが、日銀の政策変更によって金利が動き始めたこともあり、最近はAUDを上回って推移している。このままの勢いが続けばGBPを超える可能性もない訳ではない。

ヘッジファンドなど海外市場参加者が円金利市場で取引量を増やしており、日本の国内も若干取引増加の兆しがみられる。日本ではバイアンドホールドの投資家の割合が高く、債券を買ってもそのままヘッジせずにポジションを持つ投資家も多かった。しかし、米国債や米国社債で金利リスクから巨額の損失を出した国内投資家も多く、ヘッジの重要性も再認識されるようになってきている。

日本では、どうしてもデリバティブというと何か投機的なもののように思う人も多いようだ。国債を買ってそのまま持っている方が金利リスクが大きいのだが、それを金利スワップでヘッジすると、財務諸表上でデリバティブ取引について開示をしなければならない。まさかヘッジのために金利スワップを行ったことによって、デリバティブ取引残高が増え、何か怪しいことをしていると思われることはないだろうが、いまだデリバティブに抵抗感を持たれる方もいるようだ。

特にCDSとなると、信用リスクのヘッジのために保険を買っているにもかかわらず、何か怪しいことをしているというイメージが付きまとってしまう。さすがに最近はこういった認識も少なくなってきたが、デリバティブ取引が企業の収益を安定化させるツールとして認識されていくことが望まれる。

マーケットは金融規制緩和を織り込み始めた

大統領選前の10月28日にJPMのダイモンCEOが痛烈な規制批判をしていた。it’s time to fight back(反撃の時が来たと)と、あたかもトランプ大統領当選を予期していたかのような発言だった。報復を恐れて金融機関が声を上げられなくなっている、自分も脅されたと言ったニュアンスのことまで言っていた。

日本だったら考えられない大胆な発言だったが、結局大統領選の結果によって、さらにこの傾向に拍車がかかりそうだ。確かに流動性規制のOverlap問題は、解決すべき問題である。このブログでも何度か紹介してきたように、一つ一つの規制には意味があっても、複数の規制が組み合わさると極度に保守的になってしまう。

ダイモン氏自身はトランプ政権の要職につくことはないと明言しているが、トランプ氏は既にSECのゲンスラー長官の解任を約束しているし、当選後名前の上がった政府要職の候補者を見ていると、金融規制の大幅緩和が現実味を帯びている。マーケットも早速これを織り込み、当選直後の銀行株は軒並み10%以上の上昇を見せた。

Basel III Endgameなどは全て白紙撤回になるかもしれないという意見まで聞かれるようになっている。逆に欧州では米国の規制緩和によって、欧州系の銀行が不利になるのではないかと恐れられている。あまり資本を気にしないから問題は少ないのかもしれないが、すでにFRTBを導入してしまった日本でも注意が必要だ。

CCPがクリアリングブローカーになる?

以前から話はあったのだが、CMEがついに今週FCMのライセンスを取得したと発表している。当然CCPとしてのCMEからは独立した主体になるだろうし、一定の情報や資産の遮断は行われるのだろうが、CCP自身がFCMを傘下に持つというのは、新しいコンセプトである。

もちろん、銀行サイドとしては競合相手が増えるのに加え、その競合相手の親会社がルールを決めているCCPということになるので、様々な議論があろう。さすがにそんなことはしないだろうが、参加者破綻時にCCP傘下のFCMを優遇し銀行FCMが不当に扱われるなどという懸念も寄せられている。いずれにしても利益相反の問題は何らかの形でクリアにしなければならない。

この辺りがクリアになっているのであれば、完全否定されるものでもないだろうし、他の使い方もできるかもしれない。例えば、現状の仕組みでは参加者破綻時にポジションを他のFCMに移管するのがかなり困難だと思っているが、こうした際に、この新たなFCMが一時的に受け皿になることができるかもしれない。そしてそれは、ひいては市場全体の安定に資することになる。

今回のアナウンスを受けて、銀行FCMと完全に競合するというよりは、少し別のステータスを持ったFCMを準備して、システム全体としての安定性を確保するという選択肢もあるのではないかと思った。また、CCPのグループ企業だけでなく、バイサイドやベンダー、その他マーケットメーカーなどが様々な形で参入してくるのも望ましいだろう。

特に、今やCCPは新たなToo Big To Failと言われるようになってきているので、それぞれの特色を出しながら、多様なクリアリングブローカーが参入してくるのは望ましいことと言えよう。ただし、G-SIBsやレバレッジ比率規制など、大手銀行が不利にならないよう、規制を調整する必要は出てくるものと思われる。

シャドーバンキング規制強化の流れ

最近マーケットが一方向に動くことが多くなってきた。以前であれば、金融機関がマーケットメーキングの一環としてポジションを抱えることにより、ショックアブソーバーの役割を果たしていたが、各種規制の影響で制限がかかり、マーケットが一方向に動き出したら止まらなくなるということが増えている。

他の要因として、動き出したら流れに乗るというモメンタム系のヘッジファンドが増えてきたことも影響していると報じられている。こういったファンドは、何かイベントが発生してマーケットが大きく動き出すと、ポジションを増やしたり、急速にアンワインドをすることがあるが、これがマーケットの動きを加速させてしまう。

特にAIやアルゴ取引などで自動的に取引を執行するような場合は、瞬時にポジションが解約されていく。海外マーケットなどでは、電子取引の割合がここ数年で増えているが、こうしたファンドの取引量の増加によるところも大きいものと思われる。

今回日本の選挙ではそれほど大きな市場変動はなかったが、為替の動きなどに対しては一定のヘッジファンドのフローの影響があったのかもしれない。いずれにしても、日本ではこうしたファンドが少なく、電子取引も少ないので海外ほど影響は顕著ではない。しかし、為替や一部先物取引のように、海外プレーヤーのシェアが高くなってくると、こうした影響は徐々に無視できなくなっていく。

一定のモメンタム系のシグナルが発生すると、多くの市場参加者が同じ取引をしようとする。それに対応するマーケットメーカーとしては、うかつにこうした取引を受けてしまうと、さらに市場が動いて大きく損失を出す危険性がある。

個人的にはヘッジファンドの存在意義の一つは市場流動性を高めることにあると思っていたのだが、ほかのマクロ系ファンドとは異なり、モメンタム系ファンドは、市場の効率化に資しているのか疑わしいと感じている。したがって、マーケットメーカーとしては、こうしたフローに適切なリスクチャージをしていくことが重要になるものと思われるが、透明性、公平性、競争上の問題からなかなかこれも難しい。

海外では、レポ市場で国債を借りてショートし、先物をロングするといったベーシストレードが流行っているが、ファンドがこうした取引戦略をとることも多い。米国では既に問題となっているが、この取引がワークするには、非常に大きなサイズで取引をする必要がある。厳格なバランスシート規制を受ける金融機関であれば、こうした取引を増やすとG-SIBスコアやBSが膨らんでしまうのでなかなかできない。しかし、規制の緩いヘッジファンドは簡単にできてしまう。

こうしたファンドに銀行規制と似たような規制をかけようという話も出ているが、当然ファンドサイドからは反対意見が出ている。投資家のコストが上がり経済における資金の流れを阻害するという理由だ。英国中銀のBailey総裁が、今週火曜のスピーチでシャドーバンキングに対する規制強化を再度訴えていたが、銀行がここまで規制を受ける中、一部のファンドがフリーライドをすることは不公平であるため、ある程度の規制は必要なのだろう。

確かにファンドといっても様々なものがあり、一律厳しい規制をかけるのは望ましくないのだが、現状市場の公平性の観点からいって、規制が厳しいところとそうでないところでかなりの違いが出ているのは確かである。ファンドは銀行の「顧客」であるため、特に大手のファンドになってくると、銀行に対して圧力をかけて有利な条件を引き出そうというところもあるかもしれない。アルケゴスのケースでも明らかになったように、競争上の理由、ファンドからの圧力で担保を引き下げてしまうということが現に起きている。

証拠金規制によって随分改善されたが、ヘッジファンドとの当初証拠金の交渉は難航することが多い。シャドーバンキングの規制強化の流れは加速しているが、ここまでファンドの立場が強くなってくると銀行だけ規制しても不十分ということがありうる。ある程度銀行以外に対する規制強化もやむを得ないのだろう。

円金利市場におけるCCPのシェアに変化

第三四半期のスワップ取引量がClarusから公表されたが、円のクリアリングについて若干大きな変化が表れている。昨年第三四半期より3倍と大幅に取引量が増えているのだが、そのうちかなりの部分がLCHの伸びになっている。最近JSCCのシェアが大きくなってきていたが、昨年第三四半期と比べると、66.2%から51.5%に減っている。確か以前も半々くらいだったので、元に戻った形なのだろうが、それにしてもこの差は思ったより大きい。

確かに新たに円金利マーケットに参入してきたファンドなども多く、若干静かになってしまった国内勢よりは海外勢が元気に気はする。また海外勢が短期金利上昇にベットした取引をしているため、想定元本で見た時の取引量が大きくなっているのかもしれない。

それにしても、他の通貨についてはそれほど大きな取引増が見られるわけではないので円金利の躍進には目を見張るものがある。やはりある程度金利は動かないと、マーケットが活発化せず、取引が細って流動性が落ちてしまう。トレーダー不足もささやかれているが、健全な金利の動きは必要不可欠なのだろう。

国債取引の国際化

米国債入札では、$100mm以上のサイズの入札については、当局に報告される点を顧客に通知しなければならない。また、$2nを超えるようなサイズになると、書面で報告が必要である。そして、札を受けた営業職員はトレーダーやその他の営業職員に、顧客名などの詳細を伝えてはならない。

この辺りは規制というよりはガイダンスという形で周知徹底されることも多く、それに沿った形で金融機関内部で細かくルールを作るのが一般的だ。疑わしきは罰せられるということもあり、金融機関では保守的な運営をすることが多い。特に海外ではベストプラクティスガイドラインというものが多い。

一方日本では、禁止事項を細かく規定することが多いので、もう少しはっきりしている。この方法は不確実性がないという意味で優れているのだが、グレーゾーンを攻める人が出てくる可能性が高くなるとも言われている。実際には米国債の入札の方が、一般的には厳しく管理されていると言われている。

また、米国債売買においては、決済は原則T+1で行われ、例外はほとんどない。顧客がT+1で払えない、払いたくないという理由で決済期間を延ばすことが原則禁じられているからだ。日本だと、顧客の移行を重視するからか、比較的柔軟な対応がなされている。米国債に清算集中規制が課されると、更に日米の慣行の差が開くことになる。

米国債では電子取引のシェアが極めて高いが、日本では特に大きなサイズの取引を中心にボイストレーディングが主流となっている。決済期間の延長や、人手を介するマニュアル処理が多いことも原因となっているのかもしれない。

日本国債に関してはよく「村」という言葉が使われてきた通り、ある程度特殊な世界となっている。昨今では日本の円金利市場に対する海外からの関心が高まっているが、やはり今後はある程度グローバルな取引慣行に併せていくことが必要になってくるのだろう。

米国債クリアリング規制の施行開始タイミング

米国債のクリアリング規制延期の話をしたばかりだが、ゲンスラーSEC長官が早速これを否定するコメントをしていた。今週月曜10/21のSIFMAの年次総会で、2025年末まで時間は十分にあるとして予定通り施行開始すべきと主張した。SECしかもゲンスラー氏の発言とあっては重みが少し異なる。

かなり強い口調で延期を否定していることから、各方面にもプレッシャーはかかっているだろうし、金融機関サイドも、当初スケジュール通りに作業を進める必要がある。とは言っても、ルールの承認が得られていない以上、内容が確定しておらず、システム開発が滞ってしまうのは事実なので、かなり厳しい状況であることに変わりはない。

もしかしたら、無理やり当局サイドも今年中にすべての承認を終わらせるべく必死で作業を加速させているのかもしれない。12月後半は休みが入ることから、残された時間はあと1ヶ月ちょっとである。

インドの証拠金規制も延期?

規制導入までの期間については1年が目安になっていると別記事で述べたが、これはあくまでも米国やEUの話。インドでは証拠金規制導入まで1ヵ月を切ったが、いまだにカストディアン契約について詳細が固まっていない。

もともとのルールが今年5月に公表されてから半年の期間での施行開始だったが、証拠金規制が他国でかなり前に導入されていることを考えると、対応は可能なのではないかと思っていた。しかしこのままの状況では11月8日の施行開始がかなり危ぶまれている。

そもそも、インドにおいてはかなりルールが異なることもあり、ディーラーサイドの準備に時間がかかる傾向がある。現状カストディアンのサービスは上場物商品に限られており、OTCの商品に関してどのような法的フレームワークが適用されるか今だにはっきりしない。このため、ISDAはRBI宛にレターを送り、規制導入の延期を要望している。

日本でもIM規制導入時には業界でワーキンググループを作ってかなりの議論を行った。日本の信託方式の検討、海外カストディアンが日本でサービスを行う際の法的フレームワークなど、1年以上準備に時間をかけていたと思う。その意味では、日本の場合規制導入を延期することが少なく、期限を決めたらそれを全力で守ろうとする。欧米の場合1年が目安と書いたが、日本の場合にこのような目安は存在しない。まじめな国民性の表れなのだろう。

日本の場合は代替的コンプライアンス(Substutited Compliance)の議論にもかなり時間を割いたが、インドの場合もある程度の代替的コンプライアンスが現地支店に認められるようだが、大手銀行のインド支店、現地法人、または海外法人経由の取引がそれぞれどのような扱いになるか、一つ一つ検討して取引をしなければならない。

インドのCCPがQCCP(適格CCP)として認められないために資本コストが大きくなるという問題もあったが、今後証拠金規制やその他の規制についても一つ一つ分析をしていく必要がある。中国やインドでネッティングが認められるようになったのは大きな一歩であるが、それ以降の規制対応については、まだまだ注意が必要である。

米国債クリアリング規制延期?

2025年末の米国債のクリアリング義務付け開始まであと1年1か月となってきた。その割にはまだDone With、Done Awayモデルの議論に結論がついていない。

Done With/Awayとは、通常顧客が取引のプライスを複数のディーラーに取りに行くときに使われることがである。ディーラーとしては自分が出したプライスで決まると、Done withまたは単にDoneとなるが、他のディーラーがより良いプライスを出したため、コンペで負けるような場合、Done Awayまたは単にAwayという。Doneになった場合は、Cover(2番目に良かったプライス)を聞いて自分が極端に良いプライスを出していなかったかを確認したりする。

OTCクリアリングの世界では、自らがクリアリングブローカーとなることによって、取引のExecutionも自分のところで行うよう働きかけることが禁じられている。少なくともClearing BrokerとExecution Brokerは対等にプライスで競わなければならない。クリアリングをしていない他のディーラー(Execution Broker)が不利にならないよう、適切な競争を担保するための仕組みである。

OTCクリアリングの世界の方がなじみがあるので、Done Awayを求めるバイサイドの意見も良くわかる。FICCの米国債クリアリングでは、Done withが認められている。つまり、ClearingとExecutionをセットで売り込むことができる。CMEやICEなど、新たに米国債クリアリングに参入しようとしているCCPは、OTCと同じようにDone Awayモデルを目指しているようだ。

FICCも各種ルール変更を計画しているようだが、この段階でもまだ内容が明らかになっておらず、当局承認も得られていないようだ。経験上、米国やEUにおいては、こうしたルールの確定は1年前までに行われていることが多い。つまり、2025年末という期限はかなり厳しくなっていると言える。仕組みが確定していないとシステム開発もできないし、各種ベンダーとの接続作業も本格的には進められない。

こうなると、米国債のクリアリングは2026年6月末、レポクリアリングは2026年末などに延期されるかもしれない。また他のCCPの承認プロセスが遅れれば、更に延期という話にもなりそうだ。

NDFのクリアリング

Clarusのデータによると、NDFのクリアリングが増えている。特に今年に入ってからの伸びが著しい。NDFはNon Deliverableなので、TWDとかKRWといった通貨が多いのだが、上位5通貨で85%を占めている。

グラフを見るとわかりやすいが、一日平均$50bn程度だった取引量が、$65bnまで増えてきている。よく見ると本来Non DeliverableではないJPYやEURが入っているのに気づかれると思うが、個人的にはここからJPYやEURといったDelivarableな通貨のNDFがどれくらい増えてくるかに興味を持っている。

当然こうした通貨は、普通の為替フォワードを取引すれば証拠金規制の対象外なので、ファンディングコストを考えるとクリアリングするメリットはない。しかし、取引相手がCCPに変わるので、カウンターパーティーリスクがなくなり、その分所要資本も減る。

昨今では、CCARなどのストレステスト、G-SIBスコア、クレジットリミット、資本コストなどが重要になってくるので、IMのコスト増につながったとしてもリスクや資本を減らせるので、クリアリングのニーズも出てきている。ただし、ファンディングコストの計算は容易でも、資本コストの計算に手間取ってなかなか前に進めないディーラーも多いようだ。

一応LCHのSmart Clearingはこうしたニーズに応えるために、すべての為替取引をクリアするのではなく、ちょうどこうしたリソースが最適化できるように一部取引のクリアリングを行う仕組みである。利用は伸びているうだが、まだクリティカルマスには届いていないようだ。ただ、一旦大手ディーラーが使い始めると、一気に爆発的に使われ始める可能性はある。

最近では急激な市場変動が大きくなり、VaRやPEモデルではこうしたテイルイベントをカバーできないという批判が高まり、ストレスシナリオをベースとしたリスク管理が重要になってきており、これがビジネスの最大の制約となりつつある。特に為替は一方向にポジションが傾く傾向もあり、為替レートが一時的に急変動した場合のストレスロスはかなり大きくなる。

このため、相対取引の為替フォワードから発生するデルタを、逆方向の為替取引で打ち返し、もともとのデルタをNDFでCCPと構築するという取引が有効になる。こうすると、相対取引の相手方に持っていたデルタがニュートラルになり、CCP向けのデルタに置き換えられる。CCPに対しては、従来必要のなかったIMが必要になるが、相対取引にかかっていたカウンターパーティーリスクがなくなるため、信用枠が開放され、資本コストも削減できる。

特に日本の取引はドル調達の方向に偏る傾向があるので、信用不安や市場変動によって取引ができなくなることを避けるためにも、あらゆる方策を検討し始めておいても良いのではないかと思われる。

RRUC

FRBの肝煎りでRRUCという団体が米国で立ち上げられた。これはReference Rate Use Committee の略でARRCを想起させる。事実、新しく立ち上げられたウェブサイトによると、Libor 改革とARRCのrecommendationから得た教訓に基づき、レファレンスレートの利用に関するベストプラクティスを確立することを目的とした会議体とのことである。最初のミーティングが今週10/9にあったようだ。

メンバーは大手銀行の専門家を主体にFRBの市場グループからも5人が参加している。FRBといっても、メンバーを見ると以前野村やドイチェで活躍したMichelle Nealなど、業界の専門家が入っている。日本でもこのような会議体で専門的な議論が活発に交わされればと思う。日銀の日本円金利指標に関する検討委員会が似たようなものではあったが、米国の方がもう少し権限が強いように感じる。特にARRCなどは規制当局の一部のようにみている市場参加者も多かった。

米国の場合銀行と当局の間で回転ドアのように人が行き来することがあるが、これは大学と銀行、政治と銀行の間でも良く見られる。これが望ましいことなのかは議論の余地があろうが、少なくとも専門家が同じ言語で議論を戦わせることになるので、議論のレベルが高くなる傾向がある。日本でも専門家が当局サイドに流れることはあるが、あくまでもアドバイザーのような役割で、当局の重役候補になるようなケースは海外より少ない。

さて、ARRCというと、ターム物SOFRのインターバンクでの取引解禁をめぐる議論が思い出されるが、Risk.netでは、今回のRRUCがこの問題に決着をつけるようなことはなさそうだという意見が紹介されていた。クレジットセンシティブレートについての議論よりも、SOFRがどのように算出され、使われるか、期末に変動しがちな点などを議論することになりそうだ。

こうなると、ターム物SOFRは当局からのアナウンスが出ない限りは現状維持が続くことになりそうだ。つまり、そう簡単にディーラー間でのターム物SOFRが取引されるようになる可能性は極めて低くなったと言えるのかもしれない。

金融とAI

金融はほぼ装置産業になっているといっても過言ではなく、IT、リスク管理、法令順守などに巨額の投資が必要となり、それをすべて揃えないと営業が難しい。そして、何か大きなシステムトラブルが起きると、一気に顧客や当局の信頼を損ねかねない。新しく銀行を一から作って参入するにはハードルが高すぎるので、その意味では参入障壁が高い安定業種とも言える。

本来であれば、ITの進歩やAIの利用による恩恵を受ける業種なのだが、情報漏洩リスクなどのコンプライアンス問題によってこれが難しくなってきている。

例えば、スマホ一つあれば、名刺スキャン、議事録作成、ChatGBPを使った文書作成などが簡単にできるのだが、グローバルに展開する大手金融機関でこれらを認めているところは少ない。名刺管理ソフト一つとっても、外資系の場合、情報管理の懸念から自社開発しなければならないが、いかんせんニーズがあるのが日本だけなので、結局手入力という非効率な業務が生まれる。

世の中のツールにアクセスできれば、英語のミーティングなどは録音してサマリーや議事録を簡単に作れる。翻訳ソフト以前に比べると格段に進歩した。文書を作成してAIに校正をお願いすれば、誤字脱字やテニオハも一瞬で修正することもできる。

会社の仕事以外では、自宅でこうしたツールを使って効率的に物事が進められるのに、一旦職場に足を踏み入れると、昔の世界に戻ったようで、もどかしさを感じる方も多いのではないだろうか。

当然大手銀行では社内で翻訳ソフトやAIによる業務支援ツールを開発しているのだが、やはりオープンソースで日々進歩していく世の中のツールにはどうしても遅れをとってしまう。またこうした内部開発のコストも無視できない。

一部業務をスタートアップにアウトソースしようと思ってもThird Party Venderリスクマネジメントに対する規制が強化されているので、アウトソースを進めるにも手間がかかる。

こうした環境の中では、革新的なサービスが大銀行から生まれるのは極めて難しくなっているのではないだろうか。デリバティブのフローなどは、銀行からより規制の少ないマーケットメーカーに移り始めており、バランスシートが使えない銀行は富裕層向けの資産運用ビジネスに舵を切っている。

確かに昨今では、〇〇Payによる決済、送金の割合が増え、税金や公共料金の支払いなども、かなりの部分が銀行を介さずできるようになってきた。銀行窓口をほとんど訪れたことがない人も多数いる。銀行だけを規制しておけばよかった時代は終わり、今後は規制の対象範囲もこうした環境変化に即して変わっていくことになるのだろう。