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資産運用プログレスレポートが伝える危機感

今年も金融庁から「資産運用業高度化プログレスレポート2023」が公表された。政府サイドでもNISA拡充などのプランがあることからか、かなり突っ込んだ内容になっており、各所で話題になっている。内容は至極もっともであるが、見る人が見ればかなり辛辣な内容ともいえる。

表現はマイルドにはなっているものの、要は以下のようなことを問題視している。

  • 自分の企業グループの商品を売らせて手数料を稼ぐことが目的になっており、顧客本位でない。
  • 顧客の利益よりは、グループ内の人事上の処遇を優先している。
  • 素人が人事異動で担当になるだけで本当のプロが運用していない。経営トップが素人。
  • その時々で話題性のあるファンドを作っては手数料を稼ごうとするため、リターンの芳しくないファンドが量産されコストがかさむ。
  • 独立系運用会社が少なく、ほとんどが大手銀行や証券会社グループに牛耳られている。
  • システムベンダー間の不十分な競争によって資産運用業のコストが高くなっている。

これは、日本の終身雇用、企業系列経営を真っ向から否定しているようにも見える。日本の大企業ではシニア層のポジションを準備するために、系列の会社や取引先の役員等に人をはめ込むことが人事部の大事な仕事の一つとなっている。ジェネラリストを養成するという目的の下で頻繁な人事異動が行われる。OBOGの行き先を増やすためにシステム会社に代表されるグループ企業を量産しており、若干テクノロジーが遅れていたとしてもそこを使わざるを得ない。

システム会社や資産運用会社を新規で立ち上げたとしても、系列企業のサービスを使わざるを得ない日本では、たとえサービスに優れていたとしても算入することが困難である。日本でベンチャーが育たないのは、人材の流動性や資金確保の問題以外に、一度大企業に入ったらその人たちを一生守るという日本の雇用システムに起因しているのかもしれない。

海外からの参入に対しては、日本語対応、日本の法律対応のほか、過剰とも言われる日本のサービス水準についていけず断念するところが多い。こうしてガラパゴス化してしまったために不利益を被っているのは個人なのだろう。

では、海外のサービスを使えば良いのだが、金融庁への登録がない海外証券会社を使うと、上場株を買っても未上場株として税務申告をする必要があったり、損失繰越や損益通算などの税制面において不利益が発生する。世界でこれだけ様々なETFがあるのに、いまだに手数料の高い日本の投信を買わざるを得なくなる。

今回のプログレスレポートはこうした問題点をきちんと把握し、それに対する対応策を模索している。そうしないとNISAを拡充しても大手金融グループを支えるだけで終わってしまうという危機感がにじみ出ている。今後どのような変化が起きるかに注目したい。

リアルタイム取引が金融を変える

SNSによって信用不安が広がり金融を揺るがしたことが、今回のG7でも取り上げられた。24時間いつでも預金が引き出せるようになり、急速な資金流出への対応が課題とされた。

ビットコインなども既に24/7(週7日24時間)取引が可能であり、為替もほぼ24/5である。クレジットカードはいつでも使えるし、PayPayやLine Payでの資金移動も24/7だ。米国ではオンライン証券が個人向けに株式の24時間取引も可能にするところが現れている。

海外では日中のレポ取引も始まり、クロスボーダーでも取引が可能なところまで来ている。こうしたレポが広がれば急な資金ニーズに対応できる。金利が急上昇した時などに手持ちの国債によって資金調達を行いマージンコールにも対応することができる。分散型台帳技術(DLT)を使って決済を行えば、レポ金利なども分単位で計算できる。

ISDAの年次総会でこうしたリアルタイム取引について議論が盛り上がっているようであり、5年から10年すれば、ほとんどの資産が24/7で取引できるようになるかもしれないという意見も聞かれた。海外では、NYやSingaporeなど、24時間に近いところまで取引時間を拡げようという動きがある。JPXも取引時間の延長や休日取引の範囲を広げている。そのうち取引時間内、時間外取引などという言葉も死語になるかもしれない。

こうした技術をマージンコールにも使えるようにして、決済リスクも極限まで減らせば、金融システムに発生するリスクが少なくなる。ここまでテクノロジーを使った決済などが活発に議論されている中、日本の状態は若干心配だ。システム投資額が日本は極端に少なく、基幹システムもレガシーシステムが数多く残っており、最新のテクノロジーを利用したシステムに置き換わる速度が遅い。

確かに海外では、金融機関の社員が独立して金融システム会社を興すことが多いが、日本ではこうした動きは見られない。日本進出を検討するスタートアップもみられるが、企業系列のシステム会社の寡占状態を突き崩すのは困難という結論になってしまっているところが多い。とは言え、今後の金融のカギを握るのはテクノロジーであることは間違いないので、テクノロジーの進歩にはついていかないと日本の金融自体が地盤沈下してしまう危険性もある。

中国 Swap Connect始動

先月4/28に中国のPRCがSwap Connectのルールブックを最終化したことを受け、稼働開始が近づいてきた。5/15が開始日とみられている。

中国のオンショア金利とオフショア金利にはかなり大きな差があったが、これが手練してくるかどうかに注目が集まる。現時点ではこの差は4bp程度だが、それでも以前に比べればかなり縮まってきた。オフショアの方がb/oもワイドで流動性もなかったことにより、China Access Tradeというオンショアとオフショアをつなぐ取引が行われてきたが、このマーケットに大きな変化が起きることになりそうだ。

一部の制限付きながら、これで海外投資家も中国のオンショアCNY金利スワップ市場にアクセスができることになる。実際の取引はBond Connectと同様にTradewebまたはBloomberg経由で行われる。海外投資家はHKEXのOTC Clearに、中国国内投資家は上海クリアリングハウス(SCH)にフェースすることになるが、OTCCとSCHが相互接続をする形となる。

取引量については、一日CNY20bnという制限が付くが、ネッティング後なので当面は問題のないサイズだろうが、クリアリングリミットはOTCCととSCHのネッティング後でCNY4bnとなっている。感覚的には少し足りない気もするが、今後の見直しも示唆されていることから、取引量が増えてくれば柔軟に変更が行われるものと思われる。

JSCCと同じようにISDAなどのマスター契約がなくてもSwap Connect経由の取引ができるようになっているが、JSCCと同様にDCO登録がないので、US顧客のクライアントクリアリングができない。

オンショアへのアクセストレードは、大手金融機関の収益源になっていたと思われることから、今後のダイナミクスの変化に注目が集まるが、透明性と流動性が向上することから市場にとっては望ましい変化である。

以前日本の金利スワップ市場の規模がAUDを下回って世界5位になったと書いたが、CNYは現在世界10位である。CAD、CZK、NZDを追い抜くのは時間の問題だが、そうなるとJPYも追い越して世界のトップクラスの取引量を占めるようになるのは時間の問題だろう。

日本の金融国際化へ向けた動きが加速し始めた

経済諮問会議の第5回の会議結果が公表されているが、かなり具体的な内容に踏み込んでいる。金融に関しては、「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」が添付資料として掲載されている。戦略分野への投資促進、スタートアップハブ形成、高度外国人材の呼び込みなどが謳われている。

金融に関しては、国際金融センターとしての機能強化や高度人材や資金の呼び込みがメインだが、特別にタスクフォースを創設し、不断の努力を続けていく方向性になっている。

これまでは、中国経済の急成長から、香港や上海にアジア拠点を作る動きが中心だったが、ここへ来て政治的リスクを重視し、拠点を中国以外に移そうという意見もちらほら聞かれるようになってきた。当然シンガポールが最大の候補なのだが、日本の安定性を見直す動きも見られ始めている。これまで何度も掛け声だけにとどまっていた日本の国際金融都市構想を推し進める最後のチャンスになるかもしれない。

Brexitによって英国からEUへ拠点を移す動きが加速し始め、香港もかつてほどの勢いがなくなってきた。相変わらずNYの一人勝ちは変わらないが、シンガポールの他にもっと日本が見直されても良いと思う。外国語による授業の充実も謳われているが、やはり金融業界にいると英語は不可欠と言わざるを得ない。現時点では、シンガポール、韓国、インド、マレーシアなど、英語に問題のないアジア系が、グローバル銀行でもかなりの地位を占めるようになっている。残念ながら日本人の幹部級はあまりに少ない。

これについては、今10歳前後の世代から思い切った教育を施せば、10年後にはかなり大きな動きになることから、ある程度の即効性がある。コストは高いがインターナショナルスクールが急速に増えているのも朗報だ。本年度中にAIを活用した新たな翻訳システムを確立し来年度に本格導入というプランも含まれているが、こうした技術進歩も日本にとっては追い風になる。

資本コストや株価を意識した経営についても触れられているが、日本企業が本気でROE向上を目指せば、日本株にはアップサイドが見込まれるし、自然と海外投資も入ってくるだろう。

金融庁の国際金融センター構想も着実に成果を上げつつあり、拠点開設サポートオフィスの機能、体制強化も提案されている。どこまでできるか不明だが、税についても「国際金融センターに向けた税制上の課題の把握については、クロスボーダー投資の活性化に係る手続面の課題の把握をはじめとして、必要な見直しに向けた対応を行う。」と書かれている。

せっかくここまで機運が盛り上がってきたので、ここは一気に英国のビッグバンのような改革に持っていければ日本の未来も明るい。アジアが今後世界経済のメインセンターになる可能性は極めて高いため、その流れを日本でもCaptureするためには、今が最も大事な時期と言えよう。

流動性強化は本当に金融の安定につながるのか

SVB破綻、CSの救済などを経て各国当局から規制強化の話が矢継ぎ早に出ている。SVBのレビューなどは日本の新聞でも報道されている。当たり前のことではあるが、LCRとNSFRなどの流動性規制の強化が提案されている。確かにトランプ政権において中小銀行に対する流動性規制の対象範囲が狭められたことは一つの原因だろうが、流動性規制をこれ以上厳格しても本当に意味があるかは不明である。

どこの銀行でも起きている議論だろうが、ストレステストの前提が甘すぎたのではないかということで、各種シナリオの見直しが行われている。金利が突然2%上がったらどうなるか、天然ガスの価格が3倍になったらどうするか、為替レートが30%動いたらどうなるかなど、いくらでもストレスシナリオを増やすことは可能である。

ただ、金利2%変動に備えてカウンターパーティーリスクを制限したり、その分の現金をリザーブしていくとなると、そのビジネスからは撤退した方が良いという結論に近づく。LCRも似たような議論で、掛け目を厳しくしたり、現状の100%要件を200%にすれば良いではないかという単純な議論が出てくる。ただ、これがどこまで行ったらビジネスとして成り立たなくなるかという意見はあまり聞かれない。米国債の場合は2%の変動はさもありなんという感じかもしれないが、これが日本国債にも適用されるとそれは違うのではないかと思うのだが、この状況下ではそれが絶対に起きないと言い切るのも難しい。

特に大手国際行場合は、ディールごとに収益率を計算しており、厳格なROEハードルが存在している。規制が厳格すればさらに米国債の在庫を持ちにくくなるだろうし、レポに対する制限もかかる。そしてそれが市場流動性を脅かしさらなる市場変動を加速させる。

例えば日本の10年国債を5000億円在庫にもった時に金利が200bp上昇すれば、1000億円の損失が出る。個人的には損失が$1bnを超えると確実に国際的なメディアで記事が出てしまうので、1000億円というのは重要な閾値である。そうすると各銀行が5000億円程度しか在庫を抱えられないということになる。実際は200bp変動をベースにリミットを決めている銀行ばかりではないと思われるので、日本ではこれが起きていないが、米国ではおそらくこのような状況になっている。

こう考えると実は日本の規制というのは実によくワークしているのではないか。海外が米国債の評価損のことを騒ぎ立てるずっと前から、地銀の外債投資に関しての懸念は当局が指摘しており、普通に新聞紙上でも話題になっていた。そして、LCRやNSFRなどの比率を調整する前から個別の指導が入っていたことが予想される。一律の基準を決めるよりは個別の状況に合わせながら危機管理をする体制が、バブル崩壊による金融危機を経験することによって確立しているのかもしれない。海外の銀行危機を受けて日本は大丈夫かとう質問が来るたびに、複雑な気分になっている国内のリスク管理は多いのではないだろうか。

Standard CSAの手法がSwapAgentで復活

先日Standard CSAのような仕組みで通貨スワップに円担保が出せれば良いのにというコメントをしたが、これは既に可能になっているようだ。Risk.netが報じているように、ドイツのKfWがEURUSDの通貨スワップの変動証拠金(VM)に対してEUR担保を出しているものの、SwapAgentを使うことによってUSDディスカウントが行えるようになったとのことだ。

記事の中では、このTransportation Currencyを使う手法は、きわめて複雑でディーラーサイドにもリスクだというコメントも紹介されているが、10年ちょっと前にStandard CSAの仕組みについてさんざん議論をした人たちにとっては、いまさら何をという感じだろう。当時緊急時にはドルだけでなく円も出せるようにとEmergency Collateral Clauseを入れるべく議論が盛り上がったのが懐かしく思い出される。

当時は証拠金規制の導入によって、Standard CSAは完全に忘れ去られてしまったが、これが後にこのような形で実現するとは誰が予測しただろう。その意味では、SwapAgentの努力は賞賛に値する。

この担保通貨の違いは、日本でも大きな問題になっており、ドル円通貨スワップを行うエンドユーザーにとっては、クロスガンマのヘッジ、流動性の分断もあり、コスト高の一因になっている。ただでさえ、緊急時に備えて確保しておかなければならないドルを担保に出すというのは、日本の市場参加者にとってはハードルが高い。これが円担保でドルディスカウントの通貨スワップの流動性を享受できるのであれば、日本の通貨スワップ市場にとっても朗報である。

現状日本ではSwapAgentの利用はそれほど進んでいないが、これで頻繁に通貨スワップを行うエンドユーザーへと広がる可能性が出てきた。そもそも日本は流動性に比して商品が多すぎてリスクとコストがかさんでしまう構造になっているので、こうした標準化が可能になるのは望ましいことである。これまでは円担保の通貨スワップ市場とドル担保の通貨スワップ市場の流動性が分断されてしまっていたからだ。

確かに拠出された円現金を為替取引によって日々ドルに換える手続きは面倒に思われるだろうが、自動化してしまえば、ある程度対応可能だ。通貨スワップの60-70%がSwapAgent経由になったという意見もみられるので、今後は通貨スワップの主流がSwapAgent経由になっていく可能性が高い。まだ日本での利用は少ないが、円担保が使えるのであれば利用価値が高まる。そしてほとんどの取引がSwapAgentに移れば、CCPベーシスのようにSwapAgent vs. Bilateral Basisなども生まれるかもしれない。

大手行の中でこれに参加しているのはバンカメくらいのようだが、KfWのような大手市場参加者がSwapAgent限定で取引を始めればその他のディーラーも対応せざるを得なくなる。ヘッジファンドでもこれに追随するところが出てくるだろう。そして日本の市場参加者が本格的に参入してくると、いよいよSwapAgent経由の通貨スワップが主流になる。担保コールのDisputeもなくなり、様々なプロセスが標準化されるため、事務コストのかかる日本においても注目が高まってくることになるだろう。

Diversityが金融の進化を促す

海外銀行では、10年くらい前からテクノロジー企業との人材交流が増え、辞めた同僚がAmazonやGoogleに転職したり、逆にこうしたGAFAMのような企業から銀行に入ってくる人も増えた。もともと法律事務所や会計事務所から銀行に来る人は多かったが、こうした異業種からの人材が金融サービスに革新を起こすことも多い。

既存の考え方に慣れきっている古参の社員からは、突拍子もない意見、革新的な意見が出てくることが少ないが、こうした制約を持たない外部人材を議論に加えると思わぬ化学変化を起こすことが多い。会議を招集する時に同じような人を集めるだけでなく、敢えて素人とも取れる人を入れることがある。同じようなグループで集まると、既存サービスの延長の議論になることが多く、全く新しいアイデアが生まれてこないからである。ロケットの材料費が全体の2%と知って、素人ながら「これだったら自分でもつくれるんじゃね?」と思ったイーロンマスクのような例もある。

だいぶ前に読んでなるほどと思った「多様性の科学」がKindle Unlimitedになっているが、巷でよく言われるDiversityの利点をうまく説明している。

日本でDiversityというとGenderの話が中心になってしまうが、本来は異なるバックグランドを持つ、多様な考え方を持つ人を集めることによって生まれる相乗効果が重要である。日本では単なる数合わせのようになっており、Diversityを確保することに効果があると信じている人が少ないような印象を受けるが、この本はそうした考え方を変えてくれる良書だと思う。

この観点からすると、終身雇用で同じようなバックグランドを集めてしまうとこうした化学変化が起きにくい。楽天銀行の上場があったが、こうした異業種からの銀行参入はそれなりに金融の進歩に貢献しているように思う。

海外の人に良く言われるのだが、日本の会議はその点では異質で、どうしてもプレゼンが一方的になり、意見交換が少なくなってしまう。「議論が盛り上がる」イコール「会議の成功」と捉える人が海外には多いので、「どこがいけなかったんだろう」と会議の後で聞かれることが多い。海外の会議では一言も発しないと逆に気まずいので、日本人にとってはかなりハードルが高くなる。英語が完璧な人でもこれは大変なことらしいので、日本の文化や教育によるものなのだろう。

最近では日本でも中途採用の増加、異業種からの参入、副業の許容といった、本当の意味での意見のDiversityが起き始めている。金融のようなサービス業ではこうした多様性による意見の化学反応は今後も重要になってくると思う。

先物でも中国が躍進

CFFEX(中国金融期貨交易所)が既存の2年物、5年物、10年物に加えて、30年物の金利先物を上場した。引受証券会社が金利リスクをヘッジしたり投資家のリスクヘッジに使われることになる。保険会社や年金基金が長期債のリスクヘッジにも使えるので、これによって長期債の流動性向上も期待される。現状の取引量は10年が50%、5年が30%、2年が20%とバランスよく分散している。米国でも2y, 5y, 10y, Ultra 10y, T-Bond (15-25y), Ultra T-Bond (25-30y)と多彩な年限での取引が行われているが、中国もこれに近づいていく。

翻って日本の状況をみると一応中期(5年)、長期(10年)、超長期(20年)の3種があるが、実質的に10年しか取引されていない。10年ほど前に20年を盛り上げようという機運が高まり、若干取引が行われたが、その後すぐにしぼんでしまった。最近でも制度改革を行って取引量拡大の機運がみられたが、あまり成功しているとはいいがたい。5年に至っては、ほとんど話題にも上らない。

10年物の長期国債先物の投資家層は、以前は半分以下だった海外投資家のシェアが今では7割くらいに上昇している。これに伴いナイトセッションの取引も増え、全体の2割を占めるまでになっている。海外投資家は先物取引に慣れているので、もう少し他の年限を触ってもよさそうなものだが、流動性が低いため本格的参入に至っていない。とは言え、流動性が上がれば取引をしたいという声も聞かれるので、国内大手行が取引を始めれば、意外とすんなりと取引増が期待できるのかもしれない。

全世界の国債マーケットをみると、総額$62tのうち、1位の米国が22tn、2位の日本が8.5tn、3位の中国が8.4tn程度となっており、この3か国で63%を占める。昨今の伸びをみるとおそらく現時点では中国が2位になっているだろう。日本もこれだけ大きな国債マーケットを有しているのだが、なぜか先物が使われない。先物の日中平均取引量でみると、米国が$477bn、日本が$76bn、中国が$28bnなのだが、中国の最近の伸びが著しい。

日本では、現物の国債取引を行うか、長期国債一本で取引をする投資家ばかりである。年限が実質的に10年しかないため、オートヘッジなどもやりにくく、電子取引に移行しにくい。このままだと、米国や中国に大きな後れを取ってしまうだろう。

ARRCがTerm SOFRについての方針変更!

ARRCが昨日突然ガイダンスを発表し、債券などのヘッジ目的以外でも、バイサイドがTerm SOFRを使うことを認めた。これまでは、Cash Assetのヘッジについてのみという条件だったため、ディーラーがベーシスリスクを抱えてしまい、プライスも悪くなっていた。とは言え、ディーラー間の自由なヘッジを認めるところまでは行っておらず、バイサイド向けの取引のみが対象となる。

日本でも、本当にCash Assetのヘッジかどうかを顧客に確認するプロセスが必要で、取引時の障害となっていたので、この確認が必要なくなったことは朗報だ。最近は、海外の金融機関は規制に関して相当ナーバスになっており、少しでもガイダンスに違反するような疑いがあれば取引をしないという風潮になっていたのでなおさらだ。

これでベーシスが開き過ぎた時にはヘッジファンド等が反対方向の取引を行うことができるようになり、裁定が働くことになる。Term SOFRの取引量がかなりの勢いで増加しており、6月末のUSD LIBOR公表停止も控えているため、更に流動性が上がることが予想される。

ディーラーサイドでは、取引ニーズが一方向だったため、ポジションがたまりリスクリミットに抵触しているところも多かっただろう。それにしてもあれだけ否定的なコメントを出していた当局が、突然態度を変えたのは若干驚きだ。当然業界からは制限を緩和する声が高まっていたが、直近海外から聞こえてきたのは反対意見ばかりだったので、何となく唐突感がある。銀行にこのリスクが溜まり、急激な金利変動に伴うベーシスの動きで、損失を出すところが多いことを懸念したのだろうか。もしかしたら今回の変更はSVBのおかげなのかもしれない。

これで米国ではTerm物がある程度のプレゼンスを保ち続けることが明らかになった。日本では、ターム物はまだそれほど盛り上がっていないが、5/29にはOSEのTONA先物が上場される。TFXのTONA先物もちらほらと取引が観測されている。今後の動向に注目が集まる。

米国債の市場変動を避けるには

2020年3月に、安全資産であるはずの米国債が前例のないクラッシュを起こしたが、この後も米国債、米国金利の変動は続いている。リスクの高い資産保有に対する規制はかなり強化されてきたが、安全資産である米国債の保有からここまでのリスクが発生するとは想定されていなかったのだろう。

今回OFRから“Fragility of Safe Asset Market”という論文が出ている。この分析では、「安全性を重視する投資家」、「流動性を重視する投資家」、「バランスシート制約のあるブローカー」という3種類の登場人物の動きをモデルしている。

通常は何か市場ストレスが生じると、流動性を重視する投資家が米国債などの安全資産を売却するが、それが安全資産を重視する投資家によって買われる。この両者でバランスを取ることによって市場に対するインパクトは和らげられるはずである。実際コロナショック初期ではこの通りの動きが起き、米国債価格は上昇した。しかし3月中旬になると、株価の下落に伴って米国債価格も下落し、市場がパニックに陥った。

本来であれば、現金への逃避(Dash for Cash)が起きて安全資産が売られても、市場流動性に問題がなければ、安全資産を重視する投資家がその売りを吸収するが、ディーラーにバランスシート制約があると、積極的に市場仲介機能を果たすことができなくなり、潤滑な取引が行われなくなってしまう。このような状況では将来的に売れないリスクを気にする投資家が早めの資産売却を試み、更に状況を悪化させる。ブローカーの仲介能力に限りがあることを知っているので、今日よりも明日は更にブローカーが在庫を抱えられなくなっていることを予想して、できるだけ早く売ろうとしてしまう。まさにSelf-Fulfilling Prophecyだ。

このように流動性を重視する投資家の行動が早まると同時にその規模が拡大すると、安全性を重視する投資家の買いニーズを大きく上回り、そこにブローカーのバランスシート制約が加わって価格急落が起きるという結論だ。その意味では、コロナショックで行われたSLRの緩和はディーラーのバランスシート制約を緩め、市場安定に一役買ったということになる。

これを改善させるには規制を緩めてディーラーのバランスシート許容度を上げて市場機能を復活させるというのが最も簡単なのだろうが、政治的に銀行の規制緩和は難しいだろう。この論文では、当局による介入及びそのアナウンスメント効果の他、ディーラーに頼らないAll to Allのプラットフォームの活用を拡げることを推奨している。確かに投資家同士が仲介業者を介さずに取引できるようになればブローカーののバランスシート制約は関係なくなる。

本来であればSLRの計算から安全資産である国債を恒久的に除外すれば良いような気もするのだが。。。

FRTBは日本が先行

FRTBの施行時期としては、欧米が2025年1月、日本が2024年3月と言われていたが、ここへきて、米国の施行時期が遅れるのではないかと言う憶測が出始めた。欧州は2015年1月から始まる決算期と言うことなので、実際の公表は2025年の第一四半期末である3月末時点から始まる。

日本の場合は、2024年3月から始まるが、G-SIBに分類されるメガバンクと大手証券会社から適用開始となり、地銀等は2025年3月まで猶予がある。

実は、香港が日本より早い2023年7月の適用開始なのだが、こちらは海外エンティティを使った取引がメインであるため、それほど大きな問題にはなっていない。日本の場合は、そこそこ国内ブッキングが多いので、おそらく世界で最初に大きな影響が出る国となるだろう。内容についても、日本はオリジナルのバーゼルの文言に従ったルールになる可能性が高いが、欧米などでは、資本負荷が軽減される方向に変更されることも多い。

メガバンクなどは、市場リスクよりも、信用リスク資本がメインだろうが、トレーディング比率の高い証券会社にはインパクトがあるかもしれない。

これまでの日本の対応を見ていると、標準的手法よりも内部モデル方式(IMA)を目指すところが多いものと推測される。また、当初はIMAだが、モデルの準備ができたビジネスからIMAに移行するという段階適応も考えられる。RWAの試算結果があまり公表されておらず、今のところクオンツ部門でのモデル構築にフォーカスが当たっている段階だと思うが、試算結果が出てくると、ビジネスへの影響を気にする意見が出てくることが予想される。そして標準法からIMAへの移行に向けたプレッシャーが高まるのだろう。

欧米の施行があまりに遅れたり、負担軽減を図るような変更が加えられる場合には、レベルプレーイングフィールドの確保のため、日本でもなんらかの考慮が必要になるかもしれない。

銀行危機を受けた規制強化のインパクト

一時の混乱期は出したようだが、銀行危機の影響は根強く残っている。JPMのジェイミーダイモン氏が言うように、ここから始まる規制強化による景気への悪影響も懸念される。今回のSVB(Silicon Valley Bank)のような流動性危機に対しては、本来であればLCR(流動性カバレッジ比率)が効果を発揮するはずだったが、資産額$700bn未満のSVBはLCRの対象外だった。LCRは、ストレス期に30日分の資金流出に備えるべく、HQLA(適格流動資産:High Quality Liquid Asset)を持っていなければならないと言うものであり、急な資金流出があったとしても、30日は持ちこたえられると言う計算になっている。

HQLAの大部分は中銀預金だが、米国債も含まれている。当然規制の趣旨からすると、HQLAに入る資産は時価評価されるべである。しかし、ルール上はHTM(満期保有証券:Held to Maturity)の利用を禁じてはいない。これだと、実際に資金流出があったときに、米国債の時間が急落していれば、HQLAが充分でないことになってしまう。このHTMをHQLAに入れることが認められるかということは、以前から議論されていたが、今回の銀行危機によって、さらに議論が盛り上がってきた。

現場、米国では、HTMをHQLAに含めることが禁じられておらず、HQLAのうち、どの程度までならHTMが認められるかというリミットもない。中小銀行の場合は、AFS(売却可能証券:Available for Sales)すら時価評価しなくて良いが、大手行の場合は、HTMを少しでも売却すると、すべてのHTMをAFSに分類しなければならなくなる。SVBの場合資産の90%程度を時価評価していなかったというのだから驚きだ。確か欧州の銀行では平均20%程度だったという調査結果もあったと思う。

欧州EBAのガイダンスによると、原価で計上されているHTMであっても、条件を満たせばHQLAに加えられるが、適切なヘアカット後の時価で計算すべきと読める。そして常にモニタリングをしたり、レポマーケットへのアクセスを確保したり、緊急時に売却可能ということを確認すべきとされている。

さらに3月21日にはECBから、LCRの計算にHTMは入れるべきではないとのコメントが出ている。満期まで保有するはずのHTMをなぜ時価評価しなければならないのかという意見もあったが、LCRが急な資金流出に対応できるだけの流動資産を持っていることを義務付けるものなので、価格下落時に売却したら資金不足になってしまう。

通常は、レポによって資金調達をすることもできる。また、FEDの90日のDiscount Window、欧州なら、翌日物ファンディングプログラムなどを使うこともできる。ただし、資金決済には時間がかかるので市資金ショートのリスクもある。とはいえ、1日とか2日なのだが、モバイルバンキングのスピードにはかなわない。

ただし、レポ市場は、ボラティリティーが高い上、バランスシート規制の影響で取引しづらい。資産額$700bn未満の銀行をLCR適用除外とした規制緩和が問題だったという意見ももっとも、規制強化によって、大手行がバランスシートを圧縮し、レポ取引や米国債の取引を減らして流動性が悪化したのも事実である。

規制が重要であることは間違いないが、銀行のバランスシート規制を強めると、市場の流動性が低下する。特に昨今では銀行経営者が極端にRisk Averseになっているため、以前のようにマーケットメーカーが流動性を供与することができなくなり、その不足分を政府や中銀が補っている。今回は中小銀行の規制強化(というよりはトランプ政権で緩和された規制を元に戻す)が必要だが、これを機に大手銀行に対する規制も強化するということになると、流動性に影響が及び景気悪化を招く。これがジェイミーダイモン氏が強調したかったことなのだろう。

AT1はSub CDSでカバーされるか問題

CSのAT1がCDSでカバーされるかどうかという判断をめぐる混乱から、CDSスプレッドが乱高下した。CSの1年物Subordinated CDSスプレッドは、一時3000 bpまで急上昇したが、CSのSubがAT1をカバーしないことが明らかになった後は、以前のレベルに戻っている。

スイスのAT1は、自己資本比率があらかじめ定められた水準を下回り、元本の一部または全部が毀損したり、強制的に株式転換される条項が付与されているため、CoCo債(偶発転換社債)とも呼ばれていた。通常の債権と比較して、ハイリスクであるため、高い利回り水準となる場合が多い。

2014年にISDAの定義集が変更された際に、CoCo Supplementが作られ、CoCo債の毀損や株式転換時に、政府介入によるクレジットイベントがトリガーできるようになった。だが、このSupplementはティア2債をカバーするためのものであり、それよりもさらに劣後するAT1をカバーすることを意図したものではなく、参照資産には含まれていないという意見が一般的である。

他のを欧州債とは異なり、スイスの場合は当局の要件により、Contingent Featureがついていた。政府介入によるクレジットイベントがティア2のCoCo債についているという事実は、当時は広く認識されていたため、スイスのSubordinated CDSはスプレッドもワイドだった。

しかし、2015年頃からFINMAが損失吸収に関する新しいルールを発表し、レバレッジ比率の3.5%をCET 1で、残りの1.5%をAT1で賄うようになり、その後2019年にG-SIBsにTLAC規制が導入され、スイスのCoCo債が他の欧州債と同様に扱われるようになった。そしてスイスのSub CDSは他の欧州Sub CDSよりもタイトに取引されるようになった。

2014年には、スイスの特殊性はある程度議論されていたと思うのだが、最近は確かに全く問題になっていなかった。やはり銀行救済には様々なパターンがあるため、取引時にはよく商品性を理解し、当局がどのような対応を取れるかについても分析した上で投資することが肝要ということなのだろう。

会計が銀行のリスク管理に与える影響

シリコンバレーバンク(SVB)破綻の顛末が明らかになってきたが、Risk.netにも出ているように、やはり会計が一役買っていたようだ。CVAの会計計上が認められる前はヘッジも本気で行っておらず、CVA度外視で取引を取りに行く行動が見られたのと似ている。

SVBが預金を倍増させ、それを米国債やMBSに投資した際に、HTMにするかAFSにするかという選択ができたが、AFSを金利スワップで、ヘッジしてもヘッジ会計適用が難しかった。一方、HTMにしておけば、ヘッジ会計の適用はできないが時価損失が発生するのは避けられる。ちなみにHTM(Held to Maturity)は満期保有目的の有価証券で、AFS(Available for Sales)は売却可能証券を指す。HTMは償却原価で会計計上されるので市場変動の影響を受けないが、AFSは公正価値で計上されるので、金利変動があれば価格が変わり損益が発生する。

ヘッジ会計の適用が難しいことが最大の理由では無かったかもしれないが、SVBは、保有債券をAFSに入れてヘッジする道を模索するより、すべてHTMに入れることを選択してしまった。このため、大量に預金解約請求があった時にHTMを時価で売却せざるを得なくなり、巨額損失を発生させた。

米国会計基準では、昨年末にHTMに対するヘッジ会計適用の要件を緩めたのだが、少しタイミングを遅れたようだ。SVBは、ある程度金利ヘッジもしていたのだが、これ以上金利が上がらないと見込んだのか、ヘッジをしていなかった。その上、一部保有債券をHTMからAFSに移し、金利スワップのヘッジも減らしていたようだ。いわゆるLast-of-layer方式によるものである。これは、今多くのHTMを持っていたとしても、例えば10年後に持っていると予想されるポジション分しかヘッジ会計が認められないというものだ。この方式は3月に変更されたが、この変更も若干遅かったようだ。

大手であれば、会計上の損失を許容してもヘッジすることが多いが、中小企業の中にはこれを嫌ってヘッジをしなかったところも多かったのだろう。「ヘッジをする」イコール「HTM」とみなされ、ヘッジ会計が適用できなくなるリスクを気にしたのかもしれない。

今回のケースは、単純なALMの失敗、中小銀行に対する規制緩和が影響したという声も多いが、こうした細かな会計規則の影響も大きかったのではないかと思われる。ちなみに欧州でも2014年まではHTMの金利ヘッジに対するヘッジ会計を適用は認められていなかったが、これがあまりに杓子定規という批判を受けて、IFRS9への移行が行われ、HTMの分類の仕方に変更が行われた。

これにより、欧州や英国では、従前HTMに分類されていた一部の債券について、ヘッジ会計の適用が可能になった。したがって、欧州の銀行ではSVBのようにすべてをHTMに分類しヘッジもしないという判断に至るケースは少ないのではないかと思われる。米国も会計規則の変更により、今後は同じような処理になることは少なくなるだろうが、それにしてもタイミングが悪かった。やはり会計基準というのは、銀行の行動にかなりの影響を与えるため、非常に重要である。

OTCから先物へのシフト

欧州のCCPであるEurexが満期を自由に選べる為替の先物を上場すると報じられた。Flexible FX Futuresとも呼ばれるこの商品はシンガポールでは既に2018年から主にUSD vs CNHで取引されている(CNHはオフショアのDerivarable為替)。

一般的に先物の場合は期間が統一されており、一般的にIMM Dateを満期としているが、この満期をOTCのように自由に選べるようにしたものだ(IMM DateについてはMAC Swapの記事を参照頂きたい)。昨年1月以降、米銀がCA-CCRに移行し、為替取引に対する資本コストが増加してしまったが、相対取引ではなく、取引所取引にしてこのコスト削減を図ろうという動きの一環だ。EFP(Exchange for Physical)とこのFlexible FX Futureを組み合わせることによって、バイサイドとの相対取引を何とか取引所に移行できないかという試みである。

急激な為替変動によってカウンターパーティーリスクが増えるのを避けることもできる。SVBの破綻やCSとUBSの合併によって、カウンターパーティーリスクが再度注目を集めるようになったが、結局のところ、こうしたリスクを避けるにはCCPや先物へのシフトを進めるのが最も簡単だ。危機になると、当然CSのような取引先を避けようという動きが出てくるが、それでもCCP経由の金利スワップについては、全く影響は出ていなかったはずである。

一方、コモディティ取引では、急増するマージンを嫌い取引所からOTCへという逆の動きがみられるのは懸念材料だ。コモディティCCPの参加者には、大手銀行というよりはコモディティ専門ブローカーやエンドユーザーが名を連ね、CCPの頑健性を高めるよりは、マージンや清算基金を減らしたいという声の方が大きくなってしまう。金利やCDSなどの他のCCPとはかなり雰囲気が違ってくる。ここはある程度当局の介入が必要なのだろう。

しかし、今回のCS騒動でも明らかになったが、やはり担保コストはかかるものの、CCPや先物は金融の安定性を高めるには不可欠である。本来は担保は極力現金などの流動性の高い資産に限るべきだと思っていたが、もしかしたら、ある程度幅広い適格担保を許容して、急激なマージンコールの急増によるプロシクリカリティを招くことなく、安定的な取引ができる方向を目指すべきなのではないかと思うようになってきた。

まずはできるだけ多くの商品を取引所やCCPにシフトさせ、CCPで清算できないようなスワップションや通貨スワップなどは、LCHのSwapAgentのような方法で、できるだけ標準的なプロセスのメリットを享受できるようにし、その上でOptimizationによりリスク削減を行う。VMについてはプライシングの問題もあるので基本現金なのだろうが、IMについては適切なヘアカットを設けた上で適格担保を拡げ、クロスマージンなどの担保削減手法も活用すべきだ。

VMについても、以前のStandard CSAで使ったような方法を取ることにより、USD IRSに対してJPY Cashを出せれば、日本の参加者がドル調達に困難を来たすリスクが小さくなる。現時点では、これが今後のあるべき方向性というような気がする。

ターム物SOFRは主流にならない

インターバンクのターム物SOFRの取引が制限されていることに対する不満の声が大きくなっているが、3/8にFRBの高官から、ターム物SOFRの利用を広く認めることは未来永劫認めないだろうとのコメントがあった。あくまでも限定的な利用に止めるべきであり、これが変わることは考えにくいとのことだ。

当初は今年くらいには利用が広がるだろうと思っていたのだが、この感じだと本当にターム物金利の利用拡大は難しそうだ。LIBORの二の舞を踏んではならないというのはもっともなのだが、不正リスクは限りなく低くなっているように思うのだが、しかたないのだろう。

日本ではターム物金利であるTORFに対して、このようなコメントが聞かれることは少なく、むしろ拡大を期待する声すらある。ただし、顧客ニーズはそれほど大きくないので、あまり問題になることはなさそうだ。

インターバンク市場での取引が制限される以上ヘッジが難しくなるため、ヘッジコストは高くなるだろう。マーケットにストレスがかかればターム物と後決めSOFRのベーシスが大きく動き、大きな損失が発生する可能性もある。ディーラーとしてはその利用に慎重にならざるを得ない。リスクリミットも限定的なサイズになる。レベル3資産になり、資本コストがかさむという問題もある。

LIBOR改革後のEuriborの行方

円にTONAとTIBORがあるように、EURにもEuriborとESTRがある。お欧州では当初金利スワップはEuriborが主流で、ESTRへのシフトは限定的であった。ただし、通貨スワップではESTRがメインで使われるようになったため、金利指標が分断されてしまった。

ただし、USDLIBORの公表停止を控えて、ESTRの取引も増えてきたようだ。TradeWebの統計では、ESTRのシェアは14%から23%と過去1年で10%近く増えている。しかも、比較的長期のスワップが増えている。当初は短期のスワップにしか使われないのではないかと思われていたが、意外と長期も健闘している。

マーケットでもいつかはすべてESTRに移行するだろうという声が多いものの、それが直ちに起きると考えている訳ではなさそうだ。あるコンサル会社のアンケートによると2025年末くらいという意見が多いとのことなので、後3年弱はこのままということになる。

当局からも移行を促す声は出ておらず、当然Euriborの管理をしているEMMIは長期的に使われることを想定している。一応信用リスクを含んだCredit Sensitive Rateなので、地銀等からは一定のニーズがあるのではないかという意見もある。

Euriborも一応不正が起きないような改革が行われており、以前のように、銀行から提示されたレートから決めるのではなく、極力実取引に基づく指標にしようという努力はなされ、BMR(欧州ベンチマーク規制)の要件を満たしている。ただし、いかんせん取引量が少なく、本当に不正の余地がないのか定かではない。パネル行もピーク時の半分程度に減ってしまっている。実取引の最低サイズの引き下げも行われ、計算に使える取引を増やそうという試みもあったが、1日平均にすると35取引、金額にして€350mm程度しかない。

以前はよくFixingリスクが話題になり、突然トレーディング損失が発生することがあったが、LIBOR改革後はこれがなくなった。TIBORやEuriborでは今でもこれが発生する。Euribor vs ESTRベーシスリスクなどもあるので、リスク管理者としては一つに統一してもらった棒がシンプルだ。まずは流動性の低い1か月物や1年物から始め、徐々に移行していくのが望ましいように思う。

リアルマネーなども徐々にESTRに移行しているようであり、年金や保険の割引率に使われる金利がESTRになる日もそう遠くない気がする。当然Euriborを使い続けたいという市場参加者も相当数いることから、移行が簡単に進むとは考えていないが、マーケットの透明性を高め、流動性を上げるためには金利指標を統一するのは極めて重要な課題だと思う。

CSのAT1全損がもたらす市場インパクト

CSが発行した、AT1(その他Tier1債)である170億ドルを当局が無価値化したことを受け、AT1債市場に対する投資家の評価が根本から変わりつつある。従来のウォーターフォールを崩す形で株式よりも一応債券に分類されるAT1債が先に毀損した今回のケースは市場でも驚きをもって受け止められている。

確かに常識で考えればおかしい話かもしれないが、債券のタームシートをみれば当局に裁量があると書かれているので、こうした事が起きる可能性があるということは認識ができたはずだ(それが実際に起きることを予見できたかどうかは別問題ではあるが)。

先月出版されたカウンターパーティーリスクマネジメント第3版のP454にも「社債投資を行う際は、どの銀行の社債かということのほかに、どこのエンティティーが発行しているか、またその発行した国の法制では、どの順番で債務が毀損していくかを分析する必要がある。」そして、「実際にベイルインのプロセスはその場になってみないと確定しないことも多く、そのリスクを正しく見積もるのは極めて困難である。」と書かれている。今回発生したのはまさにこれに該当する。おそらく多くの投資家は、大銀行にしては金利が高いという理由で、詳細な分析をすることなく投資をしていたのではないかと思われる。

AT 1 の場合は、以下の2つのトリガーがある。

  • NVE(Non-Viability Event)トリガー

これは、企業がゴーイングコンサーンとして継続運営されるために、外部からの資本注入を要する場合にトリガーされるもので、当局の裁量で決められる。

  • CET1 トリガー

ティア1自己資本比率が一定のレベル以下になったらトリガーされる。

そして、これらのトリガーにヒットすると、社債が全損扱いとなるか、株式転換される。CSの場合は、ティア1比率が7%を下回るか、当局がNVEトリガーを認定すれば全損扱いとできることになっていた。これはスイス特有のもので、英国やEU当局からは、これはスイス特有のもので、AT1が株式より先に毀損することはないとコメントしている。米国からはまだ何のアナウンスメントもないが、先程紹介したカウンターパーティーリスクマネジメント第三版にも書かれている通り、持株会社が最初に毀損する形なので、同様の問題は発生しない。

ここへ来て、多くのアナリストが各国の法制を分析した上でAT1のリスクの再評価をしようという試みがみられる。一般的には日本を含むアジアではCSのようなリスクは少なそうだ。特に日本ではメガバンクのAT1にCSのようなウォーターフォールの逆転が起きる可能性は極めて低いように見える。損失を被った投資家からは訴訟の話も出ているが、あそこまでしっかりと契約に明記されていると、どのような論理で争うのか、興味深いところである。

中堅銀行に対する規制強化が始まる

次の金融危機は、規制強化の影響をもろに受けた大手銀行以外のところから起きると、このブログで何度か書いてきたが、もともとはシャドーバンキングのようなところを想定していた。SBBのような中堅銀行からこのような損失が出るとは、予想できなかったが、やはり銀行と言うのは、いちど危機が起きると不安の連鎖が起き、ついにはCSのような大規模銀行にも影響が及んでしまう。

冷静に数字だけを見れば、CSには十分な流動性バッファがあるように見えるのだが、ここまで世間の疑心暗鬼が重なってくると、資金流出が加速して、危機に陥らないとも限らない。これが金融機関経営の難しいところである。

中堅銀行に対しては、2017年から18年ごろに総資産$250bnに満たない銀行持ち株会社と$75bnを下回るノンバンクに対して、一部の資本、流動性規制やストレステストの要件緩和が行われた。SVBは$200bnを少し上回るくらいなので、この緩和の恩恵を受けていたものと思われる。

当然のことながら、こうした中小銀行に対する規制強化が声高に叫ばれている。また、総資産$700bn超の銀行に対しては、TLACを含む流動性規制がかけられているが、当初はこの閾値を$250bnまで下げるという話も出ていたが、これだとSVBのような規模の銀行をカバーできないことから、直近の報道では$100bnから$250bnの銀行ちも広げられると思われる。 LCRについても同様に対象銀行が広がる可能性が高い。このような規制強化は金融市場にどのような変化をもたらすのだろうか。

預金保険対象外の部分については、最低預入期間を設けたり、定期預金を増やそうとインセンティブが働く。途中解約のペナルティーなども上がっていくだろう。ファンディング、コストや資本コストが上がるため、銀行の収益性に関してはネガティブである。ただし大手銀行はすでにこのような規制の影響受けているので、インパクトは限定的だ。と言うよりは、中小銀行から預金が移ってくる可能性もあるので、大手銀行にとってはプラスの影響すらあるかもしれない。

こうした規制コストに対応できない銀行が出てくる可能性もあり、銀行の統廃合がさらに加速する可能性もある。

いずれにしてもToo Big to Failをターゲットにしていたこれまでの規制は、大きく方針変更せざるをえなくなり、今後の焦点は中小銀行にもフォーカスが当たっていることになろう。

米国債の流動性に注目が集まる

久しぶりに臨戦体制となった1週間だった。リーマンショックの初期と似たような雰囲気にも思えたが、マーケット変動は当時に比べても拡大してるように思えた。

特に取引流動性の枯渇が著しい。最も流動性があると思われていた米国債ですら、かなり乱高下し、取引スプレッドが上昇し、取引にかかる時間も長くなった。これがスワップやオプション取引にも波及している。

ICEのボラティリティーインデックスなどを見ても、コロナショック初期の変動を超えている。実は米国債の流動性問題が、各種資産やデリバティブ取引の変動を拡大させ、危機を増幅してるのかもしれない。ここまでの変動はかつてなかったと言う声も多く、ヘッジファンドが損失を被っていると言う報道も多い。スワップのb/oが4倍になったと言う報道もあった。ショートポジションをとっていたCTAの損失拡大も報じられている。

ここから更なる規制強化が予想されるが、それが流動性低下を加速される危険性もあるのではないか。実はこちらの方がリスクという気もする。規制強化により米国際取引から撤退をする投資家や銀行が増えると、市場流動性はさらに低下するだろう。それが金融全体にとって良いのかどうかよくわからないところである。