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邦銀のROEが急速に改善

MUFGのROE目標9%前倒し達成というニュースが出ているが、邦銀のROEが急速に改善してきた。一時は5-6%台で低迷していたものが、近年メガバンクを中心に軒並み上昇基調にある。

15%を超えているJPMなどの大手とはまだ開きはあるが、ROE向上が現場にまで浸透している米銀大手と比べても遜色ないところまで上がってきているのはさすがである。

海外だと、例えばROE向上といってトップが号令をかけても、現場のスタッフレベルでそれを真剣に目指そうという動きにはなりにくい。ROEを上げても自分の給料が上がらないのだったら、単純に収益増を目指したいというのは極めて自然である。したがって、海外大手では、何とかそれを現場の目標と一致させるために、様々な工夫が行われている。

資本に関してはアメとムチがあるが、まずはムチとして、取引承認時にROEを承認基準に加え、例えば単体でROE10%を下回る取引は却下というルールにする。当然Adjacency Revenueといって、その取引を取ることによって引受手数料も得られるといった、抱き合わせ販売のようなことが可能になる場合は、特別に承認されることがあるが、通常ROEがターゲットに満たない案件は却下される。

アメの方は、資本削減を行った営業に対してセールスクレジットという形で収益を割り当て、新規案件を取ったと同じような収益認識を可能にする方法を使うところが多い。資本コストが削減できた場合、それを何らかの形で数値化して払い出すという方法が取られる。

トレーディングサイドでは、各デスクごとにROEを計算し、それを評価体系に加えるという方法を取るところが多い。資本を正しく配賦するのは結構難しいのだが、一旦この部門別ROEが出回ると、少なくともトレーディングヘッドなどはかなり強く意識するようになる。

同じことはCVAのようなカウンターパーティーリスク、担保コストやバランスシートコストについても行われるが、こちらの方は定期的にそのコストをトレーディングデスクにチャージすることにより、日々コストを意識したトレーディング管理をするようなインセンティブ付けをするのが一般的である。当初証拠金コストが大幅に上がるものの、収入が大きいという取引があった場合、通常トレーダーはそれに飛びつくが、それによって部門別ROEが極端に下がる場合には何とか資本コストをカバーすべくプライシングを変えるようになる。

こうしたインセンティブメカニズムがないと、「まあ財務や企画には怒られるかもしれないけど、今期の収益目標を達成することの方が重要だ」ということになり、いつまでたってもROEやファンディングコストの削減ができなくなる。

こうしたインセンティブ付けなしに邦銀がここまでのROE向上を成し遂げているのだとしたら、少しやり方を変えれば世界の金融機関と戦える資本効率を達成することができるのではないか。また、ここまでくると資本効率を意識せずに経営を続けていると、中小金融機関の中には取り残されるところが出てくるというリスクもある。今後は金融機関による差も大きくなっていきそうだ。

最新G-SIBスコア

久しぶりにG-SIBスコアが近年どう変化してきたか見てみたい。欧米の銀行を青で示したが、左に行くにつれ、つまり近年になると、スコアが減少している。DBなどの減り方はかなり急激だ。それでも数年前に比べると若干再上昇しているところも多くなっている。米系はバーゼルの計算ではなく、独自のMethod2を使っているため、このバーゼルベースのスコアはあくまでも目安だが、それでも傾向はつかめる。

一方緑の中国の銀行を見ると、ABCを筆頭に相変わらずスコアが上昇している。しかし他の銀行は上昇ペースが緩やかになってきている。ついに資本コストの削減努力を始めたのか、それとも単純に景気低迷によるものなのかもしれない。

赤の日本を見ると、2020年あたりにピークを迎えた後は順調にスコアが減ってきている。MUFGはこのままいくと230の閾値を下回って一つ下のバケットに移行するかもしれない。そうすると資本チャージが0.5ポイント下がるため、ROEが上昇することになる。みずほもかなり激しくスコアを減らしてきている。日本でもようやく資本コストやG-SIBサーチャージなどを意識するような経営が根付いきたということなのだろうか。

米系のMethod2の数字も念のため確認してみる。

大手の2024年の数字だけをプロットしてみたが、CitiとGSはもう少しで730の閾値を超えそうになっており、BoAとMSも630の閾値を超えそうなところまできている。Risk.netの記事によると、BoAが679となり閾値を超え、3.5%のサーチャージ適用となったと報じられていた。同じくJPMも980となり、5%サーチャージのバケットに入ったとのことだ。証券保有額、STWF、Total Exposure、OTCデリバの想定元本が増加の原因と報じられていたが、証券保有額には株価の上昇も影響を与えるのでさもありなんといったところだろう。あれだけコンプレッションを進めているのにデリバの想定元本の影響も一定程度あるので、単純にデリバティブ取引が活況だったのだろう。

年末にコンプレッションによるデリバティブの想定元本削減が進むのは毎年のことだが、今後はスコアの計算が年末だけではなく、一定期間の平均が取られるようになる可能性もあるので、常にポジションの削減努力を継続することが求められていくことになろう。

通貨スワップのプライシング

複雑な金融商品は以前に比べて減ってきた気がするが、既存のプレーンな商品が複雑化している。例えば通貨スワップは、本邦企業がドル債を発行したり、外債投資をする際に為替リスクをヘッジする手段として一般的に使われている。しかし、以前は簡単にプライスが取得できたものが、かなり複雑になっている。

ドル円の通貨スワップに関して、プライスが異なりうる要素には以下のようなものがある。

  • 有担保か無担保か
  • 有担保の場合の適格担保(ドルなのか円なのか)
  • 金利のカーブ(JSCCカーブなのか、LCHカーブなのか)
  • SwapAgent経由か否か
  • 適格担保に現金以外が含まれるか

無担保の場合はCVAや資本コストなどが大きな割合を占める。有担保の場合はこうしたコストが少なくなるものの、資本コストは完全に無視できない上に細かいプライシングの差が生じてくる。

おそらく上記のような差によって、通貨スワップのコンペで毎回勝てないという状況が多々あると予想されるが、下手をすると一生その方向の取引は勝てないということがあり得る。

ドル円通貨スワップと言えども、グローバルではドル担保が標準となっているため、流動性が高くプライシング上は有利である。通常期にほとんど差がなくても一度何かが起きると価格差が生まれてくることもある。さらにSwapAgent経由となると、資本コストや決済コストが下がるので、特に流動性が逼迫するときにはSwapAgentベーシスなどがみられたりする。

ここで厄介なのは金利のカーブに何を使うかという点であり、まだ業界でも確固たるコンセンサスはできていないようにも思える。当然日本の金融機関であればJSCCカーブを使っていることが多く、外資系も日本ではJSCCを選択するケースが多いかもしれない。ただし、海外取引先となるとLCHカーブを使うことが多いのでベーシスリスクを抱えることになる。

この差があるため、外資系によっては、日本では全く取引ができないといったことも発生していると思われる。または海外投資家でもより自分にとって安いプライスを得るため、LCHプライスではなくJSCCプライスで取引したいというニーズもあろう。しかし、ここでその都度プライスを選択できてしまうと、Valuation Control的には望ましくない。解約やNovationの時に価格でもめる可能性もあるので、前もってどちらの価格で合意したかを記録しておく必要もある。

ここは、これから業界スタンダードができていくのかもしれないが、おそらく会社ごとにどのカーブを使うかを決めてそれを記録に残しておくことしかできないのではないだろうか。あるいは会社によっては、本邦投資家はJSCCプライス、海外投資家とはLCHプライスのようにルールを決めてしまうところもあろう。ただ、これだと実行できる取引が一方向に偏る危険性もありトレーダーとしては避けたいところだろう。

また、こうした複雑性が生まれるということは、流動性も分断し、取引の手間もかかるため、エンドユーザーにとってもベストな価格で取引ができなくなるという可能性もある。この辺りは何らかの解決策を見つけていかないと、日本に危機が起こってジャパンプレミアムのようなものが発生した時に、通貨スワップを使えない(または法外なコストを払わされる)ところが出てくるかもしれない。同じようなことはスワップションでも起きたが、こちらは、Exercise時にSwapをJSCCで清算するのかLCHで清算するかを前もって確認するようになり、一定の解決を見た。

いずれにしても金融の安定のためには、通貨スワップに関しても何らかの標準化が必要になってくるものと思われる。

米国のスワップスプレッドは縮小するか

FRBから市場関係者が長い間注目してきたSLRについてのコメントが出始めた。極めつけはWall Street Journalにも掲載されたパウエル議長のコメントだ。2月12日の議会証言で、米国債マーケットの市場構造改革を示唆し、その中でSLRの修正が必要だと思うという趣旨のコメントをしていた。

金融危機以降こうした当局からのコメントで市場が動くようになったため、トレーダーが規制について最新情報を得るのは必須になったが、このコメントの前後にも、国債とスワップのネガティブベーシスが7-8bp動いていたようだ。日本でもCCPベーシスに関連してトレーダーがポジションを取ることがあったが、それに似たような動きを見せている。

教科書的には、国債の利回りは国の信用力を表し、LIBORが使われていた頃は特に、Swapレートは銀行の信用力を表すなどと言われていた。つまり銀行より国の信用力の方が高いのだから、国債の利回りはスワップ金利より低くなるべきである。しかし、SLRや各種バランスシート制約によって、国債を持つ方がコスト高になり、国債利回りとスワップ金利との逆転現象が起きている。

そして米国では国債と国債先物やスワップを使ったベーシストレードが盛んに行われ、当局サイドの注目も集めている。おそらく多くのトレーダーがネガティブベーシスの縮小にかけたポジションを持っているものと予想される。個人的には、CCPベーシスの時とは違い、SLRの計算から米国債を外すというニュースでそれほど大きな動きになるのは若干不思議に思える。コロナの頃は米国債がSLRの計算から除外されていたのだから、既に起きたことでもあるのだが、同じようなことを考える市場参加者が増えるとマーケットというのは動いてしまうものなのだろう。

いずれにしても、しばらくの間、こうした規制面に関するトレーダーの関心は高い状態が続くのだろう。

CVA資本規制の高度化

CVA CapitalについてBA-CVAを使う銀行が増えてきたことが業界で話題になっている。もともとBasel IIIにおいては、以下の3つの手法が提示されていた。

IMM:先進的手法であるIMM
SA-CVA:先進的手法を適用できない銀行が使う標準法
BA-CVA:小規模銀行を想定した基礎的な簡便法

しかし、モデルやオペレーション面での対応が難しかったり、当局サイドの内部モデルに対する懸念があり、IMMは廃止され、現在では標準的なSA-CVAと基礎的なBA-CVAの二つが選択肢となっている。BA-CVAではマーケットヘッジが加味されないため、多くの大手行はSA-CVAを適用すると思われていたのだが、欧州銀行の中でBA-CVAを適用するところが増えるのではないかと報道され、専門家を驚かせている。

洗練された銀行で、技術はあるもののBA-CVAを選択しているというのが話題になっている。実際に計算してみるとSA-CVAとBA-CVAの資本コストが10%程度しか変わらず、わざわざSA-CVAを適用するコストに見合わないという理由もあるとのことだ。とは言え、英国など新規制の適用開始を延期した国が多く、米国でもトランプ政権のもとで最終案がどうなるか不確実であるため、しばらく様子見というところも多いのかもしれない。いずれにしてもこの第一四半期後には当局報告の中でどの銀行がSA-CVAを適用するかが明らかになる。カナダのRBCなどは、とりあえずBA-CVAを使うが、将来的にはSA-CVAへの移行を検討するとも述べている。

当然大手銀行は内部モデルに従ってCVAのヘッジを日々行っており、SA-CVAとは比べ物にもならない業務を行っている。会計上のリスクヘッジと規制上のリスクヘッジは極力合わせていった方が良いのでSA-CVAでも不十分なくらいである。その意味では規制のCaliburatiojnを行い、SA-CVAとBA-CVAにおける所要資本に十分な差をつけてインセンティブをつけたうえで、SA-CVAの高度化を目指していくべきだと思う。10%程度の資本削減しか得られない中でコストがその10%を上回るというのであれば、SA-CVAを使うインセンティブは大きく削がれる。そして、BA-CVAを使っていると、マーケットリスクをヘッジをするインセンティブがなくなり、カウンターパーティーリスクを裸で持った方が得ということになる。

日本ですら、金融危機後の円高時にカウンターパーティーリスクが高まったときに、外資系であれば円をロングにするCVAヘッジによって、かなりの損失が抑えられたはずである。為替のみならず金利やコモディティ価格が現在のように急変動することが増えてくると、こうしたマーケットリスクヘッジのインセンティブをなくしてしまうのは問題である。ただ、この分野に関しては結構テクニカルになるので、銀行の経営トップ層の理解が浅く、優先度合いを上げようという話にならないという事情もあろう。何か危機が起きるまではそれによって責任を取らされることもないからだ。

しかし、例えば金利が1%上がったとき、為替が10%変動した時に、カウンターパーティーリスクがどの程度増えるのかというのがわからない、ヘッジもしていないというのは非常に危険な気がする。BA-CVAだとクレジットリスクのみのヘッジとなるが、多くのデリバティブに詳しくない経営者からすると、それで十分ということになりかねない。特に市場変動によってリスクがそれほど変わらないローン畑の経営陣の場合は、BA-CVAで十分という判断になったとしても不思議ではない。

同じことはあらゆる分野で起きているが、リスク管理の知識や経験が以前より失われつつあるのではないかという懸念が残る。規制資本コストが最大のコストになりつつある中、それを減らすような行動を銀行が重視するのは当然であり、規制コストが減らないのであれば、わざわざコストをかけてリスク管理の高度化をする必要はないということになると本末転倒である。何とかリスク管理を高度化させるインセンティブが残るような仕組みを作っていけないだろうか。

海外大手銀行のテクノロジー投資

世界の大手金融機関はテクノロジー投資を着実に増やしている。2023年のマッキンゼーのレポートによると、銀行セクターのシステム投資は$650bnに上り、4%の収益増を上回る9%の伸びを見せている。米銀最大手のJPMなどは2023年にテクノロジーコストが年間$14bnと報じられ、これは日本の大手銀行の10倍以上になる。

日本企業のシステム投資についての報道を見ていると、以下のような特徴が報じられている。

日本では革新的なシステム投資を行うよりも、トラブルの少ない安定性やセキュリティが重視される。これには規制が厳しいという問題以外にも顧客が確実性を求める文化的なものもあるのかもしれない。確かに何かトラブルがあった時のダメージが大きいので、攻めの投資よりは守りの投資が重視されるのは仕方ないのだろう。

規制が厳しいかどうかについては若干疑わしいところもある。トランプ政権でどうなるかわからないが、米国の規制もかなり厳しい。しかし、海外ではシステム化や自動化を促すための規制が多いという特徴がある。STPガイダンスやリアルタイムレポーティングなどがその良い例だろう。何秒以内とか何分以内にレポーティングや決済などといった規制があるため、人手を介していては間に合わないのでシステム投資をせざるを得ないといった側面もある。

日本ではこうした規制がないのと、顧客の要求水準が高いため、マニュアルで作業しておいた方が特殊な要望に応えやすいという事情もある。人のコストが安かったこともあり、システム投資に膨大なコストをかけるよりは、人海戦術で対応する方がコストが安いという事情もあった。

しかし、人口減少と働き方改革、社会保障などのコスト増によって、これからは人件費が上がっていき、人手不足も深刻化していくだろう。税金を上げるというと大騒ぎになるが、給与明細をよく見ていると意外と社会保障関連のコストが増えているのがわかる。そうすると、海外企業並みにテクノロジーによる省力化を進めざるを得なくなる。一人の人員が働く時間も30年前と比べると格段に減った。残業で午前様になることも少なくなり、今となっては新卒の頃に隔週で土曜に出勤していたのが信じられないくらいである。

海外大手のテクノロジー投資分野を見てみると、2023年に$14bnを投資すると発表したJPMはAI、ブロックチェーン、デジタルバンキングにフォーカスして投資するとしている。同じく2023年に$8bnの投資を公表したシティは、インフラの近代化、AIやブロックチェーンなどのデジタル技術のインテグレーションがメインとしている。

BofAは2024年に$12bnを超えるテクノロジー投資と報道されており、そのうち$4bnが攻めの投資に充てられるとのことである。AI関連の投資は2022年と比べて94%増とのことで、この分野における米銀の投資拡大が顕著である。

銀行としての守りの強化もあるが、Wells Fargoは同じ年に$10bnの投資を公表しており、サイバーセキュリティ強化と次世代テクノロジーへの投資がメインとしている。日本ではMUFGグループが$1.5bnを同様の分野に投資と報じられ、中計で2023年度~2025年度の3年間で8000億円($5.3bn)の投資とされている。海外の規模には劣るが、日本でもデジタル関連を中心にIT投資が増えてきている。

AIを活用すれば議事録を作成する労力もほぼ必要なくなり、エクセルのVBAを書く必要もなくなったので、生産性はかなり上がってきている。人を減らしてシステム投資を増やす動きはますます加速し、金融は装置産業となっていくのだろう。

米国債クリアリング規制の1年延期

ここでも何度か書いてきたが、予想通り米国債の集中清算義務規制の施行延期が発表された。米国債の現物が2026年12月31日、レポが2027年6月30日に延期される。大方の予想であった2/26のSECのミーティングを待たずに、25日には早々と発表されていたところを見ると、もうかなり前から固まっていたのだろう。もしかしたらゲンスラー氏辞任の直後にはほぼ確定的になっていたのかもしれない。

これでCCPサイドもクリアリングする際の方式を固めたり、ルールブックの改正に時間をかけることができるようになる。新規参入予定のCCPも取引執行とクリアリングを分けるいわゆるDone Awayモデルの詳細を詰めることができる。どうしても金利スワップなどOTCクリアリングに慣れた身からすると取引執行をしたディーラーとクリアリングブローカーが異なることがありうるDone Awayモデルの方が馴染みやすい。執行したところがクリアリングをするということになると、多くのディーラーのプライスを比較するのが難しくなり、囲い込みができるディーラーとしてはメリットがあるだろうが、顧客はOTCと同じモデルを好むと思われる。

証拠金規制の時のようにフェーズに分けてGo Liveをするのではなく今年の年末に一斉に導入するとなると、契約やオペレーションの準備が間に合わず年末の流動性がひっ迫するリスクなども懸念されていたので、まずは一安心といったところか。ただし、特に日本やアジアの理解度や準備は遅れていたので、これで時間があるからといってこれまでの作業をストップさせるのは若干危険だろう。

米国債クリアリングに関しては、FICCとCMEが現物、レポ、先物のクロスマージンサービスを提供する予定になっているが、これに関しても銀行サイドの分析が完全には終わっていない。オフバランスのデリバティブとオンバランスのレポが資本規制上ネッティングできるかどうかは、慎重に精査する必要がある。

日本でもレポと金利スワップをパッケージで取引するヘッジファンドの中には、リスクが相殺されているのだからIMやレポのヘアカットを引き下げるべきと交渉するところもあったが、ISDAとGMRAでネッティングができるか、担保を融通しあえるかというのは全く別問題である。

クロスマージンという言葉の響きが良いからか、その効果が若干過大評価されているような気もする。確かにクロスマージンがないよりはあった方が担保効率は良くなるのだろうが、実際にそれほどクロスマージンの効果が得られていないという状況も多いのではないかと予想される。

さて、ここで1年の猶予ができたので、こうしたネッティング、クロスマージン、クリアリングの手法も含めて、何が最適なやり方なのかについての議論が活発化することになろう。

内部モデル方式の存続

銀行が自ら計算したものなど信じられないということでIRB(内部格付手法)が存続の危機に瀕している。規制上意味がないのであればリソースを割く必要はないというこで、モデルの高度化などにコストをかけないようになってきている。これまで長年蓄積してきたデータもお蔵入りになってしまっており、長年リスク管理業務に従事してきた身としては忸怩たる思いがある。

銀行が自らリスク管理能力を高めようというインセンティブを削がれてしまうのは仕組上望ましくないのだが、規制は関係なくとも銀行はIRBをメンテナンスすべきかどうかという問題が残る。標準法だけをベースに投資判断をするようになれば、リスクの高い投資をすれば資本効率が上がる。レバレッジ比率なども、リスクの高い社債でも国債でも資本コストが元本だけに依存するのなら、リスクの高い資産を持つ方が資本効率が良くなる。バーゼルのアウトプットフロアや米国Collingsフロアもあるので、ますます簡単な標準法への依存度が高まってしまっている。

こうした簡便法はあくまでもやりすぎを防ぐためのバックストップであり、本来のリスク管理はより高度な内部管理を行っていくことが重要だと思う。銀行の経営陣のリスク管理能力が高ければ、リスキーな取引に対するコントロールが効くかもしれないが、特にデリバティブリスクとなると、ローン、M&Aなどの畑から昇進してきた経営層や、社外取締役の意見が強くなり、細かなリスク管理が行えなくなってきているところが増えているようにも見える。

昨今のコストカット圧力を考えると、何らかの形でIRBを存続させるようなインセンティブを与えた方が良いとは思う。銀行が信用できないというのなら、標準法で資本賦課を行うのはやむを得ないのかもしれないが、過去20年間に蓄積したデータやノウハウを残すためにも、IRBを使うインセンティブを何らかの形で残した方が良い。

銀行サイドも特に海外では巨額の罰金が科されるため、当局をあざむくような行動は取れなくなってきているし、それによって信用を失って破綻の危機に瀕する可能性もある。銀行不信は米国民主党に強かったため、共和党政権かでは少しましになるかもしれないが、今のうちに本来どのような規制が望ましいのかを再考すべき時が来ているのだろう。

JGBリパックのリスク管理について金融庁が警鐘を鳴らしている

金融庁が地方銀行に対し、国債仕組み貸し出しのリスク管理強化を要請したというニュースが報じられた。最初はよくわからなかったが、要するにJGBリパのことだった。SPC(特別目的会社)を設立して国債を入れ、その裏でデリバティブ取引を行うなどと書かれると、怪しい商品に見えるかもしれないが、実際は単純に金利スワップなどのデリバティブ取引を債券の形で行うだけの商品であり、これは日本では昔から活発に取引されているものだ。

一部の報道では、SPCから先で行われているスワップ取引の詳細が地方銀行側には明かされず、ブラックボックスになっているとされているが、さすがにそのようなことはないだろう。

金融機関内部でも、役員クラスがデリバティブに詳しくない場合、仕組みやストラクチャードなどという言葉に嫌悪感を示すことがあるが、こうした報道だけを見ると、再び地方銀行が複雑なリスクを取っているような印象を与えることになる。確かに、複雑なペイオフを持つ商品が売られることもあるが、実際には極めて単純な仕組みであることがほとんどだ。

それよりも、単純に国債を購入して金利スワップで変動金利にするアセットスワップを選んだ方がよいのだが、そうすると金利スワップの時価評価が毎日必要になるため、JGBリパが好まれる傾向にある。JGBリパにすれば、満期保有有価証券として時価評価を避けることが可能だからだ。また、ローン残高として計上できるという理由もあるかもしれない。また、英文のISDAマスター契約の締結や担保管理が煩雑であるという事情も影響している。しかし、SPCの組成や各種契約にかかるコストを考えると、デリバティブ取引をするよりは割高になることは確かだ。

いずれにしても、他国ではそれほどポピュラーな商品ではなく、日本における取引量が突出していることは間違いないだろう。

確かにデリバティブが含まれているため、どんな取引でも可能であり、複雑な商品が地方銀行や信用金庫に売られている場合もあるかもしれない。最近ではフィデューシャリー・デューティーを意識しなければならないため、金融機関側でも慎重になっているはずだ。しかし、もし地方銀行や信用金庫がリスクを理解せずに取引を行っているのであれば、それは改善しなければならない。

とはいえ、そろそろ面倒くさがらずにISDA契約を締結し、証拠金規制に従って担保授受を行い、時価評価を実施するという正攻法に切り替えた方が良いのではないだろうか。金利スワップを用いて金利リスクを適切に管理することは重要である。時価評価を行っていなかった国債ポートフォリオから巨額の損失を出して破綻したシリコンバレーバンクの例もある。

日本でも、デリバティブが投機の象徴ではなく、適切なリスク管理のためのツールとして広く理解されることが望まれる。

米国債クリアリングの準備が進まない

通常、規制施行開始の1年前までに詳細が固まっていない場合は、規制の施行延期が行われることが多いと思っていたが、米国債のクリアリング規制に関しては今のところ延期の話が出てこない。トランプ政権の影響も、まだデリバティブ規制などに及んできていない。

クリアリングブローカーである金融機関は、顧客との契約を年末までに変更しなければならないが、CCPサイドのルールブックも最近変更されたばかりで、その内容を精査して、契約のひな型を作るにはもう少し時間がかかる。顧客資産の分別管理、クリアリングを行わなず執行だけを行うディーラーを使えるようにするモデルなど、いまだ固まっていない内容が多い。

現状ではFICCが唯一のCCPだが、CME、ICEなどが参入をすることになっている。それぞれのCCPがどのようなモデルになるのか、それに応じてどのように分別管理や担保管理のやり方を決めなければならないが、あまりに時間が少ない。SIFMAが標準的な契約のテンプレートを作成しようとしているが、この作業にはまだ時間がかかりそうだ。

金融機関サイドでは、ネッティングオピニオンなどを取って、どの程度の資本コストになるかを正確に予測するのも重要である。FICCとCMEは国債取引、レポ、先物間でのクロスマージンを提供する予定だが、クリアリングのそれぞれの顧客レベルでクロスマージンのベネフィットが得られるかも精査しなければならない。

また、改革が約束されていたSLRについても何らアナウンスがでておらず、G-SIBサーチャージの引き続き制約となる。金融機関サイドも、いくら規制だから顧客を助けるためにクリアリングを提供しようと頑張っても、資本コストが大きく赤字になるようだと、今一つ本腰を入れて作業が進めにくい。これはOTCクリアリングでも明らかになったことである。CCPでの集中清算を進めようと努力したら、あまりにも資本コストがかかるため、ビジネスとして成り立たなくなる可能性は否定できない。

こうした数々の課題を考えると、やはり延期しかないのではないかと思えてくる。そうなると来年6月が国債、再来年末がレポというタイムラインが適当なのではないだろうか。延期されないとなると、日本でも対象となる市場参加者が一定程度いるため、これから急ピッチで契約やオペレーションの準備を整えなければならないだろう。

政治的リスクとデリバティブ解約権

今年のISDAの目標の一つに1998 FX Definitionsの改訂が含まれている。ロシアのウクライナ侵攻を受けて為替市場で混乱が生じたが、これに対応するため、市場標準の確立が望まれている。これはロシアルーブルへの対応にとどまらず、中国や台湾などの取引がどのように扱われるかという点で、アジアにとっても非常に重要である。

ロシアと同様にアジアでは、オンショアとオフショアで市場が分かれている国が多く、政治的リスクが顕在化した場合、これらの市場で分断が起きることが予想される。海外では、このような危機に備えてどのような対応を取るべきかについて当局の関心が強いが、日本でも同様の対応方針を決めておく必要がある。

万が一、台湾に対する軍事侵攻があった場合、為替市場では大きな混乱が起こるだろう。台湾ドルの暴落、西側諸国の経済制裁、中国の外貨流出禁止などが発生する可能性が高い。中国企業と取引をしていた場合、経済制裁によってデリバティブ取引の支払いができなくなり、デフォルトが発生する。この場合、支払えないのは西側諸国側であり、デフォルトが発生するのは中国企業ではなく、米国や日本サイドである。ただし、デフォルトではなくIllegalityとなる可能性が高いが、米国や日本サイドがAffected Partyになる点は変わらない。

このような場合、中国企業は期限前解約を行うことができ、その際の価格決定権も持つことになる。オフショア市場は混乱しながらも価格を得ることができるだろうが、オンショア市場は比較的落ち着いているかもしれないも価格がオフショアの投資家には見えずらい。いずれにしても、解約価格がどのように決まるかは予測が難しい。現在でもオンショアCNYとオフショアCNHでは価格差があり、裁定取引が活発に行われているが、政治的混乱時にそのスプレッドがどの程度乖離するかは予測できない。また、資金の国外流出が禁じられた場合、担保が受け取れるかも不確実である。

FX Definitionsの話に戻ると、この定義集の中で、Disruption Eventがどのように規定されるかが注目されている。ウクライナ危機はDisruption Eventに該当しなかったため、自動的に取引を解約することはできず、各社ごとに交渉して解約の道を模索するしかなかった。

為替取引の場合、ロシアの時のように経済制裁が発生しても、何らかの猶予期間が設けられることが多い。確かロシアの時は米国が3ヶ月、英国が1ヶ月だったと思われるが、この期間内に期限が到来する取引は満期を待てばよいとされる。市場の規模を考えると、中国元の場合は3ヶ月程度が与えられる可能性があるが、保守的に1ヶ月としてプランを策定する企業が多いだろう。

本来であれば、猶予期間内に満期を迎えない取引については、自動的に解約手続きを進めることができるようにしておくほうが不確実性が少なくなる。経済制裁におけるIllegalityの行使については、どちらをAffected Partyとするのか、双方をAffected Partyに指定することができるのか、または解約価格について共通の価格決定メカニズムを設けるなどの手当てが望ましいと考えられる。

通貨スワップマーケットが拡大

いつも注目しているClarusの通貨スワップに関する統計によると、2024年の通貨スワップ取引数は前年比12%増加し、2018年以降、取引数は毎年少なくとも10%のペースで増加している。取引量は21%増加し、主要三通貨(EURUSD、JPYUSD、AUDUSD)では過去最高を記録した。特に、昨年過去最高を記録したドル円については、2024年も43%という驚異的な伸びを見せている。

ドル円の通貨スワップ取引数は13%増加しており、取引量の伸びが目立っている。通常、取引量が増加する理由としては、取引期間の短期化が挙げられるが、年限を見る限り、それほど短期化は見られない。つまり、単純に取引当たりのサイズが大きくなったことが原因であると言える。年限の平均は約5年で、引き続きEURなどの他の通貨よりも短い。

日本の通貨スワップには、外債発行に伴うスワップや外債投資に関連するものがある。外債投資の場合、短期の為替をロールするケースが多いが、一定の長期社債をリパックして円に倒す生命保険会社の投資などには、10年超の長期スワップが伴うこともある。

2024年は、銀行をはじめ、武田薬品工業の$3bn、NTTの$2.4bn、楽天の$2bn、ソフトバンクの$1.9bnなどが上半期のニュースで報じられた。2024年は円建ての普通社債や外債ともに過去最高の発行額となると予測されており、大規模な起債に伴う通貨スワップが影響を与えていると思われる。また、これらの取引はSEF(取引所)を経由して取引されないため、Clarusが指摘するSEFのプレゼンス低下に寄与している可能性がある。

日本では投資といえば株式が主流で、NISAでも株式投信や個別株が注目されている。しかし、金利が上昇してくると、資産運用のポートフォリオの一部として社債投資が増加する可能性がある。報道によれば、社債発行時には特に海外を中心に旺盛な需要が見られている。負債が大きな大企業にとっては、社債で一定額の資金調達を行い、銀行融資の枠を確保するという戦略が重要になるであろう。

今後も社債発行は増えていくことが予想され、それに応じて通貨スワップマーケットも順調に伸びていくことになろう。

中国の市場開放策

貿易の世界とは異なり、金融分野では中国の市場開放が進んでいる。投資家も、リターンが得られるのであれば、中国への投資意欲は引き続き一定程度見られるようだ。香港金融管理局(HKMA)は、最近、Bond Connectを通じて市場にアクセスしている投資家に対して、オフショアでのレポ取引を認めるプランを発表した。オンショアレポ市場の海外投資家への開放も、そう遠くないのかもしれない。

さらに驚くべきことに、レポ取引のマスター契約にGMRAを使用することが可能になるようだ。中国では、国際的なマスター契約ではなく独自の契約を選好する傾向があり、これが取引開始に時間とコストを要する一因となっていた。もちろん、中国独自のマスター契約であるNafmii(ナフミーと発音されることが多い)も使用できるが、GMRAも選択肢として認められることになるようだ。

また、レポ取引においては、国債の所有権が移転されることが明言されている。つまり、英国法で一般的な譲渡担保方式である「Title Transfer」方式が採用されることになる。これは、かなりグローバルスタンダードに近い方法であり、日本を含めた国際的な投資家にとっては、取引のハードルが大きく下がることを意味する。

唯一、担保の再利用が認められない方針のようなので、ファンディングコストは割高になる可能性がある。中国国債マーケットへの影響を抑えたかったのかもしれないが、将来的にはここもグローバルスタンダードに合わせてくることが期待されている。

また、いくつかのCCPが、中国国債を担保として受け入れることを検討していると報じられている。中国側も、マーケット間のつながりが強い金融市場において孤立することが得策ではないと判断したのか、一連の市場開放策が加速している。今後、金融分野において中国が一定のシェアを確保していくことが予想される。

株式リスク管理と債券リスク管理の融合

主にデリバティブ取引のフロントのFirst Line Risk管理については、株式と債券ではその管理手法に大きな違いがある。

株式デリバの場合は、十分な担保、特に当初証拠金を確保することが主流であり、担保プロセスやシステムリスクも含めて管理することが重要であるが、債券の場合は無担保の取引も多く、個別の与信管理がより重要になる。そのため、CVAなどのカウンターパーティーリスクのプライシングは主に債券取引で行われることが多く、株式の場合は、ごく少数の無担保取引に対してCVAをチャージするのが一般的だった。

株式デリバの場合は、通常商品と年限などに従った標準当初証拠金テーブルに従って担保を取るのが重要となる。株式オプションなどでは、オプションプレミアムのX倍を徴収したり、取引所が決める証拠金の3倍を取るなどといった慣行もある。

一方債券の場合は、金利のデルタリスクなど、ある程度単純なリスクについては標準テーブルを使うが、例えば2年のペイヤースワップションの売りと10年のレシーバースワップションの買い(デュレーションニュートラル)といった取引も多く、すべてのパターンをテーブルに入れるのが困難となる。また取引のバリエーションも多く、デュレーションニュートラルにならなかったり、金利スワップやレポとパッケージにしたいという要望も多く、当初証拠金の計算が複雑になる。

したがって、こうしたパッケージ取引については、全取引をモデルに入れてVaRを計算したり、シナリオを想定してストレス時にも十分な担保が確保できるよう精査をする。しかし、取引相手であるヘッジファンドやバイサイドからは当初証拠金が多いというクレームが入ることも多く、一筋縄ではいかない。

ヘッジファンドのトレーダーなどは商品やリスクには非常に詳しいが、リスク管理の専門家ではないので、プレミアムを払ったオプションを買ったのになぜ当初証拠金を出さなけばいけないのかといった初歩的なクレームをしてくる。払ったプレミアムが担保として即時に返されるというところまでは、担保オペレーションに詳しくないと気が回らないようだ。

それでもほかの銀行はそんな当初証拠金を取らないとか、もっと低い金額しか提示してこないと交渉が始まることもあるが、そうなるとCVAが発生するため、債券の場合はCVAチャージをかける。ヘッジファンドのトレーダーは、IMに文句はつけるものの、担保コストよりは取引のプライシングにセンシティブなので、CVAをチャージすると他のディーラーに流れていく。あるいはブラフだった場合はそのまま取引に至ることも多い。

したがって、リスクをきちんと評価せずにCVAを取らなかったところは、こうした取引を集中的に行うことになり、何かストレスが起きた時に巨額損失を被ることになる。いわゆる逆選択の問題だ。

しかし、株式商品の場合は、当初証拠金の交渉になった場合に、CVAをチャージしてプライシングに反映させるという慣行は、業界全体であまりないように思う。したがって、顧客関係を重視してIMを引き下げたところにリスクが集中する。若干プライシングを悪くして他の競合ディーラーに本当にもっていくかどうかを調べることもできない。そもそも、取引を一つ一つモデリングして、リスクを評価している時間もない。特に電子取引が進んでくると、個別にIMを計算してリスク評価をするのは困難になってくる。

したがって、株式の1st Lineのリスクマネージャーは、債券ほどリスクに詳しい必要はなく、それよりは、システムやプロセスの知識が必要になる。システムやプロセスの管理には人も必要なので、株式の場合は1st Lineのリスク管理者の人数も多くなる。またリスク管理者という名前で呼んでいないところも多いだろう。

このような状況だと、例えばアルケゴスのような巨額の集中ポジションを持っている顧客がいた場合、元本のX%という当初証拠金を取ることが唯一のリスク管理方法となり、ポジションの集中度合いや、参照資産である株式のボラティリティなどを詳しく評価していなかったことは予想に難くない。流動性の低い債券の場合は社債の発行額に対して参照資産のサイズが大きすぎないかというチェックは常識なのだが、流動性の高い株式の場合は、有名上場企業の場合こうしたチェックが必要ないことも多い。

しかし、おそらく債券系のフロントオフィスリスクマネージャーであれば、アルケゴスの取引を見た時にポートフォリオベースでストレステストを行い、当初証拠金が十分かどうかを検証し、新規取引にCVAチャージをかけて取引をAwayとすることができたのではないだろうか。つまり、あそこまでのサイズになると、債券型の個別分析が必要になっていたのだと思う。

一方で取引の自動化、電子化は、為替や国債を中心に進んできており、株式型のリスク管理が求められるようになってきている。特に近年では、最大のリスクはシステムリスクやサイバーリスクであると考えられる。マーケットが混乱にしているときに、大規模システム障害やサイバーアタックがあった場合のリスクは計り知れない。

今後は株式型と債券型のリスク管理を融合させて、標準化された取引を大量にプロセルする場合は株式型の管理を、特殊な取引やサイズの大きい取引はリスク管理に精通したリスクマネージャーが個別に詳細な分析を行うといったことが必要になってくるように思う。

米国債の現物の清算集中規制施行開始を控えて、銀行などのFCM経由ではなく、自らCCPのメンバーとなることを検討する市場参加者が増えている。銀行であれば、レバレッジ比率規制やG-SIB規制などに従うため、相応の資本コストを要求されるが、新たなメンバーにはこうした規制がかからないことが多く不公平ということで、当然既存のFCMである銀行からは、不満の声が聞かれる。同じことをしているのだから、新規参入をするマーケットメイカーやバイサイドに対しても同様の規制をかけるべきだという議論だ。

至極もっともな主張であるが、そもそも顧客のためにクリアリングをする際にグロスの想定元本で資本賦課をするレバレッジ比率規制や、顧客のために拠出した担保に応じて資本コストがかかる現行規制が実態に即していないように思う。もともとすべてのOTC取引を中央清算するというのが狙いだったのに、それに従って清算すれば、大きな資本コストがかかるというのも無理筋な話だ。銀行の主張も理解できるが、そもそも保守的すぎる規制を銀行以外にも適用するのは、少し厳しすぎるのかもしれない。

しかもこうした資本コストは清算取引に限ってデザインされたものではなく、大きな資本規制の中の一項目に過ぎない。CCPの直接参加者が銀行以外にも広がっている現状に鑑みれば、本来銀行規制というよりは、各CCPのルールで公平性を担保していくものだと思われる。特にIMや清算基金などのCCPのリスク管理ツールは商品ごとに異なるはずであり、一律の資本規制よりは、リスクに即した細かな対応を取ることができる。

その意味では、米国債の清算にはそれほど大きな資本は必要ないかもしれないが、レポであればギャップリスクをカバーするためにより資本コストがかかるのは当然だ。CCPサイドでは商品ごとのリスクの大きさに応じて当初証拠金(IM)を取っており、いざデフォルトが発生すれば、多くの場合そのIMで損失をカバーできるようになっている。確かにIMが足りず、清算基金にまで手を付けるケースが散見されるが、リーマン破綻時などにもリーマンの拠出したIMで損失がすべてカバーできたのも事実である。

本来はリスクに応じたIMをしっかり取っておき、清算基金に対して資本賦課をかけるというのが筋なのだろう。ただし、G-SIBスコアは影響の大きな銀行に対して計算されるものなので、クリアリングのサイズに応じてある程度考慮されるのは仕方ないだろう。ただし、想定元本に依存したスコアの計算方法は改めても良いかもしれない。

こうすれば、CCPに参加するメンバー間での不公平感はなくなり、メンバーも着実に増え、金融全体の効率化に資するものと思われる。実際、バイサイドがデフォルトオークションに参加したことにより、ポジション解消がスムーズに行えたケースもある。

あとは、日中に大きなリスクを取って日の終わりにはポジションがフラットになるため清算基金がかからないRelative Value Fundのエクスポージャーであるが、これは日中のリスクをリアルタイムでモニタリングし、拠出されたIMに対して一定の上限を設けるなどの仕組みが必要になるのだろう。

デリバティブ取引のみならまだしも、米国債のような巨大なマーケットの清算集中が始まると、CCPの直接参加者が増えてくるのは必然の流れかと思う。それに応じて規制やCCPのルールも進化していかなければならないのだろう。

AMERIBORのAFXをICEが買収

年末年始が日本ほど長くない海外では、この時期でも様々な動きがみられる。今年はICEのAFX買収のニュースが飛び込んできた。AFX(American Financial Exchange)は日本でそれほど知名度が高いわけではないが、LIBOR改革時にクレジットセンシティブレートの代表格であるAMERIBORのレートが話題になった。一時はAMERIBORを参照するスワップなども増え始め、米国地銀のローン金利として一定の支持を得ていた。

LIBOR改革でリスクフリーレートはSOFRやTONAに移行したが、こうしたリスクフリーレートで貸し出しを行っていると、銀行に何らかのショックがあった場合に、銀行の貸出金利に比べ調達コストが上がってしまうため、銀行の経営環境が一気に悪化するとして、銀行の信用コストを反映したレートが求められた。AMERIBORは、1000行以上の米国銀行の無担保借り入れコストを反映した金利インデックスとなっているので、銀行危機が起きればレートが必然的に上昇する。それにつれて貸出金利も上昇すれば、銀行の収益に与えるダメージを軽減することができる。

一時期はICEのBank Yield indexやBloombergのBSBYなど複数のクレジットセンシティブレートが存在していたが、IOSCOからのサポートが得られず、最近はあまり話が聞かれなくなっていた。SOFRに代わるメインインデックスとして使うのは難しくても、何らかの金融ショックが起きた時にのみ代替として使う道も模索していたようだ。

このままクレジットセンシティブレートは下火になっていくと思っていたが、数々の金融指標を持つICEによる買収により、AMERIBORが若干延命されるかもしれない。とは言え、米国の一部のマーケットで使われるのみで、成功したとしてもTIBOR程度の地位に収まるように思う。

それにしても欧州で同じような銀行の信用リスクを織り込んだ指標の話が活発になされなかったのが興味深い。欧州では、€STRのようなリスクフリーレートの貸し出しが増えているのだろうか。その点日本はグレーな部分も使いながらうまく対応していると言えるのかもしれない。

住宅ローン金利などを見てもそうだが、TONAなどに連動している訳ではなく、一般的な金利指標とは異なる動きをしているが、それほど大きな不満が出ているわけではない。おそらく日本の銀行危機が起きれば、円金利が上がらなかったとしてもローン金利を上げられるような仕組みになっているのだろう。とは言っても銀行が多いので、あまり極端なことを行えば借り換えが起きてしまう。

米国だとすぐに透明性だとか公平性ということが言われるが、どのようなモデルが望ましいのかはよくわからないところである。

信用リスク移転マーケットの発展に必要なこと

Credit Risk Transferについて耳にすることが多くなってきた。当初は証券化商品を担当する部門から、ローンのリスクトランスファーに関連するディールの話を聞くことが多かったが、そこからデリバティブへの応用という形で話が進んできた。以前からデリバティブ取引のRisk Transferに携わってきた身としては若干不可解に思えてしまうが、もしかしたら、ずっと下火だったリスク移転の話がここから盛り上がりを見せるのかもしれない。

昨年後半にFRBがリスク移転についての要件をQ&Aの中で明確にしたことから、SRT(Synthetic Risk Transfer)の形で米国で注目が集まった。これをデリバティブ取引にも広げて、資本削減やG-SIBスコアの削減などを図る動きが欧州でも活発化してきたのが昨年の初めくらいからである。

デリバティブ取引のリスク移転についておさらいすると、金融危機前後にCDSとともにCCDSがいくつか取引され、こうした取引が技術的に難しいという場合は、保証やRisk Participationが使われた。昨今でもコモディティの世界では普通にFourth Trigger CDSが取引されている。これは通常の3CE(3つのクレジットイベント)に加え、ISDA上のデフォルトを4つ目のクレジットイベントに加えるというものだ。

昔は信用枠をリリースしたり、リスク集中を避けるためにクレジットリスクを減らそうという動きが中心だったが、近年ではリスクを減らすというよりは資本コストを減らすためにこうした取引が行われることが多くなってきた。当然厳しい資本規制下にあるのは大銀行になるが、こうした規制の影響を受けない保険会社やアセマネなどのバイサイドやヘッジファンドなどがリスクを取れば、Win Winとなる。または国際基準行などのように厳しい資本規制の対象とならない地銀など、その他金融機関がリスクを取ってリターンを上げることもできる。

リスク移転の最も簡単で確実な方法は、取引をそのまま移してしまうNovationだ。しかし、通常は相手方に知られずにヘッジしたいというニーズが多く、CDS、CCDSなどサイレントでできるリスク移転が好まれる。本来であれば、より取引を継続的に行い長期的に顧客サービスを提供するために、一部リスクを外したいと言えば、顧客である事業会社なども理解してくれそうなものだが、銀行の営業としては、大事な顧客にリスクを他に移すということはなかなか言いずらいというのが現状だろう。

また、リスク移転は相対での取引となることが多く、なかなかお互いのニーズがマッチするような状況を見つけるのが難しい。何かオークションのようなプロセスや、いくつかの投資家のマッチングをするようなサービスがあれば、マーケットが膨らむかもしれない。そして、マッチング後もMTMの計算支援、デフォルト時の判定等まで弁護士と協力して公平なプロセスを確立できれば、金融の発展に資するものと思われる。

日本には社債市場の発展が必要

海外でクレジット関連のETFや先物取引量が増加してきている。もともと多くの企業が銀行借り入れよりも社債によって資金調達を行っていたため、社債市場の規模は海外の方が圧倒的に発展している。日本が間接金融中心のために劣っているわけではないが、目まぐるしく変化する現在の環境において、社債によって機動的に資金調達を行える方が望ましい。経済発展の初期には、銀行が重厚長大産業に集中的に資金を投入することに意味があったが、米国ではITベンチャーへの資金提供を行うベンチャーキャピタルが重要な役割を果たしており、これらの企業は銀行ローン以外にも社債を積極的に発行している。

日本でも楽天などが10%を超える金利で巨額のドル建て社債を発行したことが話題となったが、ドル社債であれば、世界中の投資家から資金を調達できる。日本には銀行が多いものの、融資方針はどこも似通っており、10%以上のリターンが見込める場合でも、借り入れ可能な金額には限度がある。一方、海外の投資家であれば、10%のリターンが得られる社債には様々な投資家が資金を提供するだろう。

海外では格付けの低い企業も頻繁に社債を発行しており、社債を参照資産としたETFも増えてきている。今年は特に社債の先物取引量が急増している。電子取引の増加に伴い、社債市場のマーケットメイクを行うCitadelやJane Streetなどの参入もあり、流動性がますます高まっている。日本では「NISAで投資」といえば「株」が一般的だが、海外では「債券」をポートフォリオに加えることが極めて一般的である。

近年、CBOE、CME、Eurexなど、海外取引所も社債の先物取引を相次いで取り扱い始めている。特にEurexの今年の成功が注目されている。ETFの取引量が増えたため、先物取引がやりやすくなったという背景もある。先物市場の発展には、ETFの流動性が不可欠だとの声も多い。また、海外ではCDSの流動性も高く、リスク管理には社債のショート、ETF、先物、TRSなど様々なツールが利用されている。

日本では社債発行量が極端に少なく、社債をショートすることもできない。ほとんどの社債は満期保有を前提とした投資家によって保有され、頻繁に社債を売買する市場参加者は少ないため、取引量が増えにくい。銀行からローンが引けなかった場合に社債市場にアクセスするのは、大企業に限られる。もっとも、楽天のようにドル債を発行すれば、厚みのある海外資本市場へアクセスすることは可能である。しかし、為替リスクのヘッジも必要とあり、通貨スワップ取引などのセットアップが必要となる。その意味では為替ヘッジの必要のない米国は有利である。

投資家の観点から見ると、社債への投資を考える人は少なく、多くの資金は株式に向かう。NISAで投資できる投資信託のほとんどは海外社債を基にしたもので、日本の社債に投資できる商品はほとんど存在しない。また、投資信託は多いものの、ETFは少なく、しかも海外のように手数料が安くないため、ETFのメリットは少ないかもしれない。もしETFがもう少し増えれば、引け値や投信の基準価格に振り回されることも減るだろう。

「貯蓄から投資へ」という流れは着実に進んでいるように見えるが、次に起きる変化として、銀行から証券へ、ローンから社債へ、株式投資から分散投資への移行も必然的に進むだろう。

米国投資家のJSCCへのアクセス

米上院議員が米国投資家が日本のJSCCにアクセスできるよう求めたレターをCFTCに送ったと報じられた。また、BlacRockやシタデルなどがメンバーとなっているCommittee on Capital Market Regulation も同様のレターを送っている。日本円の金利スワップの清算を認めることで、米国の顧客の取引コストとリスクを軽減することができるとしている。

特にJSCCスワップを取引できる能力の重要性が経済的に増しているとも書いているが、これは日銀の政策変更によって金利変動が大きくなっていることを指しているのだろう。

今回のレターを送ったBoozman議員は以前にも同様のリクエストをCFTCに出しているが、CFTCのBehnam長官は議論を約束したものの、その方向性については、明確なコメントはしていなかったように思う。円金利が変動するようになり、ヘッジニーズが増したことから、多くのバイサイドがJSCCへのアクセスに注目し始めたことにより、ついに米国内の意見がまとまってきたように見える。JSCCとしても長年地道に会話を続けてきたのだろうが、やはりユーザーである資産運用会社などの米国投資家からのリクエストに、米上院議員からのサポートが加わるとなると心強い。

他に正式にDCO登録をしているCCPがいる中、Exempt DCOのステータスでJSCCだけが認められるのはおかしいという意見も出ていたが、日本の倒産法のもとでは、どんなに努力をしてもDCO登録はかなり困難のように思える。

業界のためには、垣根なくスムーズな取引が行われることが望ましく、そうでないと流動性が分断してしまう。そもそも日本円金利は2種類のTIBORがあったり、様々なベーシスリスクが多く、海外参加者からはトリッキーなマーケットとみられていた。しかし、LIBORもTONAに移行し、ZTIBORもなくなるため、少し流動性が集中してきた。LCH/JSCCベーシスの変動も少なくなれば、さらに流動性が上がる。流動性が上がると、市場の厚みが増し、極端な市場変動も起きにくくなるだろう。

トランプ政権の発足とそれに伴う人事変更による不透明感は残るが、是非とも不必要な市場分断が少なくなることを願いたい。規制による市場分断は、百害あって一利なしだと思う。

G-SIBが流動性に与えるインパクト

毎年年末になると流動性が逼迫してくるが、今年は特にその影響が大きそうだ。特にG-SIBの問題についての話になることが多く、様々な報道でも問題が指摘されている。大統領選後米銀の株価が急上昇したことにより、G-SIBスコアが上がってしまったことが関係しているのではないかという話を以前したが、金利スワップの取引量が増えていることも要因の一つかもしれない。

特に欧州のようにプリンシパルモデルを使っていると、CCPと顧客の間に立って取引をするブローカーにとっては、取引量がCCP側と顧客側でダブルでカウントされる。顧客のためにクリアリングをすればするほど、所要資本が増えてしまう。その他の資本計算上はCCP向けのリスクウェイトが低くなっているケースがあるが、G-SIBの場合は単なる想定元本である。つまり自らリスクを取ってポジションを取るよりも、顧客のためにCCPに繋いであげる方がより不利になるということである。

欧州Eurexでは、この問題を解決するために米国のようなエージェントモデルであるEATM(European Agent Trustee Model)を導入し、ダブルカウントを避けようという動きが継続しているが、ドイツの源泉税の関係で難航しているらしい。一方イギリスではこの問題は発生しないようだ。

しかしここまで市場流動性に影響が生じてくるとG-SIBの計算式も見直した方が良いのではないかと思えてくる。CCPに清算集中せよと言っておきながら、それをサポートしようとすると、資本コストが急増してしまうというのは不思議な話だ。

マーケットが急変したときに、以前であれば銀行がある程度の在庫を抱えながら市場インパクトを吸収していた。最近では、市場が急変動した場合には銀行は指をくわえて静観する以外にない。なかなか売れない資産を顧客から抱えて、市場が落ち着いたときに売却するということは、現在の規制環境下ではほぼ難しい。売れない資産を買ってしまった瞬間にレバレッジ比率が悪化し、NSFRやLCRにも悪影響が及び、G-SIBスコアの上昇に従って資本コストも増えてしまうからだ。

銀行が本来の役割を果たせなくなった分をシャドーバンキングがカバーしてきたのだが、当然シャドーバンキングのサイズが大きくなってくると、それに対する規制が強化される。だが、それが銀行に戻るかというとそういうわけではないので、結局は市場の流動性が悪化するという当たり前の結果になっている。

G-SIBスコアは細かく見ていくと、ダブルカウント、トリプルカウントではないかという項目も多い。今年の状況を見ていると、何らかの改善が望まれる。