MUFGのROE目標9%前倒し達成というニュースが出ているが、邦銀のROEが急速に改善してきた。一時は5-6%台で低迷していたものが、近年メガバンクを中心に軒並み上昇基調にある。
15%を超えているJPMなどの大手とはまだ開きはあるが、ROE向上が現場にまで浸透している米銀大手と比べても遜色ないところまで上がってきているのはさすがである。
海外だと、例えばROE向上といってトップが号令をかけても、現場のスタッフレベルでそれを真剣に目指そうという動きにはなりにくい。ROEを上げても自分の給料が上がらないのだったら、単純に収益増を目指したいというのは極めて自然である。したがって、海外大手では、何とかそれを現場の目標と一致させるために、様々な工夫が行われている。
資本に関してはアメとムチがあるが、まずはムチとして、取引承認時にROEを承認基準に加え、例えば単体でROE10%を下回る取引は却下というルールにする。当然Adjacency Revenueといって、その取引を取ることによって引受手数料も得られるといった、抱き合わせ販売のようなことが可能になる場合は、特別に承認されることがあるが、通常ROEがターゲットに満たない案件は却下される。
アメの方は、資本削減を行った営業に対してセールスクレジットという形で収益を割り当て、新規案件を取ったと同じような収益認識を可能にする方法を使うところが多い。資本コストが削減できた場合、それを何らかの形で数値化して払い出すという方法が取られる。
トレーディングサイドでは、各デスクごとにROEを計算し、それを評価体系に加えるという方法を取るところが多い。資本を正しく配賦するのは結構難しいのだが、一旦この部門別ROEが出回ると、少なくともトレーディングヘッドなどはかなり強く意識するようになる。
同じことはCVAのようなカウンターパーティーリスク、担保コストやバランスシートコストについても行われるが、こちらの方は定期的にそのコストをトレーディングデスクにチャージすることにより、日々コストを意識したトレーディング管理をするようなインセンティブ付けをするのが一般的である。当初証拠金コストが大幅に上がるものの、収入が大きいという取引があった場合、通常トレーダーはそれに飛びつくが、それによって部門別ROEが極端に下がる場合には何とか資本コストをカバーすべくプライシングを変えるようになる。
こうしたインセンティブメカニズムがないと、「まあ財務や企画には怒られるかもしれないけど、今期の収益目標を達成することの方が重要だ」ということになり、いつまでたってもROEやファンディングコストの削減ができなくなる。
こうしたインセンティブ付けなしに邦銀がここまでのROE向上を成し遂げているのだとしたら、少しやり方を変えれば世界の金融機関と戦える資本効率を達成することができるのではないか。また、ここまでくると資本効率を意識せずに経営を続けていると、中小金融機関の中には取り残されるところが出てくるというリスクもある。今後は金融機関による差も大きくなっていきそうだ。