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G-SIBスコアとは

以前にもG-SIBについて紹介したが、今年は特にG-SIBスコアが話題になることが多いのでおさらいをしてみたい。

まずは主要行のバーゼルG-SIBスコアを見てみる。

左から米系、欧州系、日系、中国系の過去数年10年のスコア推移を並べてみたが、国ごとの傾向が明らかに出ている。この辺りの数字はOFRのウェブサイトからダウンロードできる。

米系:順調に減少してきたがここ数年で再び上昇

欧州系:10年間順調に減少

日系:着実に上昇してきたが、ここ数年で減少に転じた

中国系:概ね一貫して上昇基調

以前のブログでは、コンプレッションやROEなどの収益率向上努力によって欧米ではスコアの削減努力が行われてきたが、日本と中国ではあまり削減努力がなされてこなかったと書いたが、最近では日系の削減努力の加速が目立つ。米系は削減努力を継続してはしているものの、ビジネスの成長によってスコアが上がっているようだ。

もう少し細かく見るためにG-SIBスコアの詳細をバーゼルのペーパーで確認してみる。

G-SIBスコアは以下の5つの構成要素からなるが、一見何が何だかよくわからないので少し詳しくバーゼルぺーパーを読んでみる。

  1. Size
  2. Interconnectedness
  3. Substitutability
  4. Complexity
  5. Cross-Jurisdictional Activities

Sizeは基本的にレバレッジ比率の計算に用いるTotal Exposureであり、銀行勘定、トレーディング勘定にかかわらず、すべてのエクスポージャーを合計したものである。デリバティブ資産と負債は別途計算しグロス計算しなければならないように読める。時価相当部分とデリバティブPFE(CEMなので、想定元本に掛け目をかけたもの)を計算に入れる。クライアントクリアリングで顧客のデフォルトリスクをCCPに保証している場合はこの計算に入れなければならない。

Interconnectednessは、金融機関同士のTotal Exposureである。銀行、証券のほかに保険、アセマネなどが含まれる。したがって、金融機関同士でデリバティブ取引を行っていると、SizeとこのInterconnectednessにカウントされてしまうようだ。さらに、CD、自ら発行した社債、自らの株式の市場価値、優先株などもここに加算される。

Complexityはレベル3アセット、OTCデリバティブ取引の想定元本が入る。つまりコンプレッションが重要になる。コンプレッションをするとSizeとInterconnectednessに含まれるDerivative PFEも減ることになるので非常に重要だ。

Substitutabilityにはカストディアンに預けてある資産、現金支払い額、株式及び社債のUnderwriting、各種取引量が入る。

Cross-Jurisdictional Activitiesは国際基準行のように海外との取引が多いところに課せられる。海外投資、海外向けローン、デリバティブ取引、外国債券、レポ、株券貸借取引などが該当する。

これは全世界共通のバーゼルルールだが、米国にはこれとは別のMethod2があり、Substitutabilityの代わりにShort Term Wholesale Fundingが使われている。これは銀行預金、担保付借入など1年未満の短期借り入れが中心になるので、預金を持たず短期資金に頼りがちな証券会社のスコアが大きくなる。もしかしたら野村證券がG-SIBから抜けたのは、バーゼルルールでこのShort Term Wholesale Fundingが入っていないからなのかもしれない。

ざっと見てみただけなのだが、かなり重複しているような印象があり、特に国際的に活発に取引を行い、金融機関との取引が多くなる大手金融機関にとってはかなり重複が激しくなる。Systematically Importantを図るのだから当然なのかもしれないが。

特にAssetとLiabilitiesをグロスで集計しているようだが、デリバティブ取引に関しては、時価のみならずPFE、想定元本まで加算されるので結構厳しい。コンプレッションが重要になる理由がよくわかる。

単に自社債や自社の株式が入っているところも興味深い。株価や社債価格が上がれば自動的にスコアが上がってしまう。その意味では米国大統領選後に米銀の株価が急上昇したことがG-SIBスコアの悪化を加速させたのかもしれない。となると、このQ4にさらなるバランスシート削減の圧力がかかったとしても不思議ではない。

米銀のMethod2のスコアを見ると、上のグラフのようにここ数年の上昇が目立つ。630点を超えると上のバケットに入り、資本賦課が高くなるので、630点の攻防が重要だが、GSなどはすでに696点に上がっており、2026年からの資本コスト上昇が避けられそうもないと3月頃に報道されていた。通常は年末に米銀がスコアをアグレッシブに削減するということが当局からも指摘されているが、今年もある程度こうしたバランスシート削減が行われそうだ。特に大統領選以降米銀の株価が急上昇しているため、スコアが予想外に大きくなってしまっている可能性が高い。

ただでさえ流動性にプレッシャーがかかる時期に、銀行が手持ちの債券や株式を売り、レポやデリバティブ取引残高を減らせば、マーケットにかなりのストレスがかかることが予想される。今年の年末は一波乱あるかもしれない。

年末にかけてドルの短期市場に混乱が起きるか

今年は年末にかけてマーケットが神経質になってきている。FRBの金融引き締めの影響でファンディングコストが上昇しているのが背景にあるが、それ以外にも銀行のバランスシート制約等によって、大手銀行が金融仲介機能を果たせなくなっているのも大きい。

Risk.netにもFFとSOFRのベーシススワップの取引量が9-10月に昨年対比4倍以上になったという記事が出ているが、それ以外にもレポや株式貸借など、短期のファンディング市場において資金ひっ迫を懸念する論調がメディアで目立ち始めた。

おそらく年末に向けてバランスシートやG-SIBスコアの上昇を抑えようという動きが、レポレートやSOFRなどの上昇とファインディングコストの上昇を招いているものと思われる。ファインディングコストの上昇を懸念するニュースが例年より多く、年末に向けて短期の資金を提供できる銀行は少なくなってくるだろうから、このままの状況が続けば、何らかの緊急資金支援が行われる可能性も否定できなくなってきているのではないだろうか。また重要な決済日にレポレートが急上昇するといった事態も想定される。

5年ほど前も、FFレートとSOFRのスプレッドが300bp近くに開いたことがあったが、同じような雰囲気も感じられる。今年もSOFRは10月まで比較的落ち着いた動きを見せていたが、そこから急速に担保付のSOFRが上がり始めFF vs SOFRベーシスが開き始めた。短期資金を確保しようというニーズが急速に増えると、レポや株券貸借取引のレートが跳ね上がる。

金融危機後の規制改革によって金融市場は安全になったのは確かだが、これは主にカウンターパーティーリスクについて言えることである。市場リスクや流動性リスクについては、むしろ悪化しているようさえ思える。以前に比べて、年末や四半期ごとに短期資金がひっ迫したり、突然のマーケットが一方向に動いて止まらなくなるということが頻繁に起きるようになっている。

以前はマーケットが動き出すと、金融機関のトレーダーが逆のポジションを取ることにより、その動きにストップをかけていたが、今ではバランスシート制約、資本規制、ボルカールールによって、大手金融機関にこうしたキャパはなくなっている。ヘッジファンドや新興のマーケットメーカーが一部これを埋めているが、一方で流れに乗るシステマティックトレーディングも増えているため、全体としてはリスクが一方向に流れやすい。

トランプ政権になって、こうした市場流動性の低下が抑えられるのかに注目が集まる。

EUR IRSの取引量が全通貨最大となった

ClarusのEUR金利スワップ(金利系の先物を含む)についての最新データが公表されているが、2024年は過去最高の取引量となりそうだ。特に驚いたことにEURがUSDの金利スワップを取引量で抜くことになりそうだ。EURだけでなく、その他の通貨の金利スワップも取引量が増えており、金利マーケットについては、非常に重要な年だったと言えよう。この傾向は元本だけでなくDV01で見ても過去最高となりそうだ。

もう一つ興味深いのは、日本円の金利スワップが安定的に4位に位置していることだ。以前AUDに抜かれた時もあったが、日銀の政策変更によって金利が動き始めたこともあり、最近はAUDを上回って推移している。このままの勢いが続けばGBPを超える可能性もない訳ではない。

ヘッジファンドなど海外市場参加者が円金利市場で取引量を増やしており、日本の国内も若干取引増加の兆しがみられる。日本ではバイアンドホールドの投資家の割合が高く、債券を買ってもそのままヘッジせずにポジションを持つ投資家も多かった。しかし、米国債や米国社債で金利リスクから巨額の損失を出した国内投資家も多く、ヘッジの重要性も再認識されるようになってきている。

日本では、どうしてもデリバティブというと何か投機的なもののように思う人も多いようだ。国債を買ってそのまま持っている方が金利リスクが大きいのだが、それを金利スワップでヘッジすると、財務諸表上でデリバティブ取引について開示をしなければならない。まさかヘッジのために金利スワップを行ったことによって、デリバティブ取引残高が増え、何か怪しいことをしていると思われることはないだろうが、いまだデリバティブに抵抗感を持たれる方もいるようだ。

特にCDSとなると、信用リスクのヘッジのために保険を買っているにもかかわらず、何か怪しいことをしているというイメージが付きまとってしまう。さすがに最近はこういった認識も少なくなってきたが、デリバティブ取引が企業の収益を安定化させるツールとして認識されていくことが望まれる。

マーケットは金融規制緩和を織り込み始めた

大統領選前の10月28日にJPMのダイモンCEOが痛烈な規制批判をしていた。it’s time to fight back(反撃の時が来たと)と、あたかもトランプ大統領当選を予期していたかのような発言だった。報復を恐れて金融機関が声を上げられなくなっている、自分も脅されたと言ったニュアンスのことまで言っていた。

日本だったら考えられない大胆な発言だったが、結局大統領選の結果によって、さらにこの傾向に拍車がかかりそうだ。確かに流動性規制のOverlap問題は、解決すべき問題である。このブログでも何度か紹介してきたように、一つ一つの規制には意味があっても、複数の規制が組み合わさると極度に保守的になってしまう。

ダイモン氏自身はトランプ政権の要職につくことはないと明言しているが、トランプ氏は既にSECのゲンスラー長官の解任を約束しているし、当選後名前の上がった政府要職の候補者を見ていると、金融規制の大幅緩和が現実味を帯びている。マーケットも早速これを織り込み、当選直後の銀行株は軒並み10%以上の上昇を見せた。

Basel III Endgameなどは全て白紙撤回になるかもしれないという意見まで聞かれるようになっている。逆に欧州では米国の規制緩和によって、欧州系の銀行が不利になるのではないかと恐れられている。あまり資本を気にしないから問題は少ないのかもしれないが、すでにFRTBを導入してしまった日本でも注意が必要だ。

CCPがクリアリングブローカーになる?

以前から話はあったのだが、CMEがついに今週FCMのライセンスを取得したと発表している。当然CCPとしてのCMEからは独立した主体になるだろうし、一定の情報や資産の遮断は行われるのだろうが、CCP自身がFCMを傘下に持つというのは、新しいコンセプトである。

もちろん、銀行サイドとしては競合相手が増えるのに加え、その競合相手の親会社がルールを決めているCCPということになるので、様々な議論があろう。さすがにそんなことはしないだろうが、参加者破綻時にCCP傘下のFCMを優遇し銀行FCMが不当に扱われるなどという懸念も寄せられている。いずれにしても利益相反の問題は何らかの形でクリアにしなければならない。

この辺りがクリアになっているのであれば、完全否定されるものでもないだろうし、他の使い方もできるかもしれない。例えば、現状の仕組みでは参加者破綻時にポジションを他のFCMに移管するのがかなり困難だと思っているが、こうした際に、この新たなFCMが一時的に受け皿になることができるかもしれない。そしてそれは、ひいては市場全体の安定に資することになる。

今回のアナウンスを受けて、銀行FCMと完全に競合するというよりは、少し別のステータスを持ったFCMを準備して、システム全体としての安定性を確保するという選択肢もあるのではないかと思った。また、CCPのグループ企業だけでなく、バイサイドやベンダー、その他マーケットメーカーなどが様々な形で参入してくるのも望ましいだろう。

特に、今やCCPは新たなToo Big To Failと言われるようになってきているので、それぞれの特色を出しながら、多様なクリアリングブローカーが参入してくるのは望ましいことと言えよう。ただし、G-SIBsやレバレッジ比率規制など、大手銀行が不利にならないよう、規制を調整する必要は出てくるものと思われる。

シャドーバンキング規制強化の流れ

最近マーケットが一方向に動くことが多くなってきた。以前であれば、金融機関がマーケットメーキングの一環としてポジションを抱えることにより、ショックアブソーバーの役割を果たしていたが、各種規制の影響で制限がかかり、マーケットが一方向に動き出したら止まらなくなるということが増えている。

他の要因として、動き出したら流れに乗るというモメンタム系のヘッジファンドが増えてきたことも影響していると報じられている。こういったファンドは、何かイベントが発生してマーケットが大きく動き出すと、ポジションを増やしたり、急速にアンワインドをすることがあるが、これがマーケットの動きを加速させてしまう。

特にAIやアルゴ取引などで自動的に取引を執行するような場合は、瞬時にポジションが解約されていく。海外マーケットなどでは、電子取引の割合がここ数年で増えているが、こうしたファンドの取引量の増加によるところも大きいものと思われる。

今回日本の選挙ではそれほど大きな市場変動はなかったが、為替の動きなどに対しては一定のヘッジファンドのフローの影響があったのかもしれない。いずれにしても、日本ではこうしたファンドが少なく、電子取引も少ないので海外ほど影響は顕著ではない。しかし、為替や一部先物取引のように、海外プレーヤーのシェアが高くなってくると、こうした影響は徐々に無視できなくなっていく。

一定のモメンタム系のシグナルが発生すると、多くの市場参加者が同じ取引をしようとする。それに対応するマーケットメーカーとしては、うかつにこうした取引を受けてしまうと、さらに市場が動いて大きく損失を出す危険性がある。

個人的にはヘッジファンドの存在意義の一つは市場流動性を高めることにあると思っていたのだが、ほかのマクロ系ファンドとは異なり、モメンタム系ファンドは、市場の効率化に資しているのか疑わしいと感じている。したがって、マーケットメーカーとしては、こうしたフローに適切なリスクチャージをしていくことが重要になるものと思われるが、透明性、公平性、競争上の問題からなかなかこれも難しい。

海外では、レポ市場で国債を借りてショートし、先物をロングするといったベーシストレードが流行っているが、ファンドがこうした取引戦略をとることも多い。米国では既に問題となっているが、この取引がワークするには、非常に大きなサイズで取引をする必要がある。厳格なバランスシート規制を受ける金融機関であれば、こうした取引を増やすとG-SIBスコアやBSが膨らんでしまうのでなかなかできない。しかし、規制の緩いヘッジファンドは簡単にできてしまう。

こうしたファンドに銀行規制と似たような規制をかけようという話も出ているが、当然ファンドサイドからは反対意見が出ている。投資家のコストが上がり経済における資金の流れを阻害するという理由だ。英国中銀のBailey総裁が、今週火曜のスピーチでシャドーバンキングに対する規制強化を再度訴えていたが、銀行がここまで規制を受ける中、一部のファンドがフリーライドをすることは不公平であるため、ある程度の規制は必要なのだろう。

確かにファンドといっても様々なものがあり、一律厳しい規制をかけるのは望ましくないのだが、現状市場の公平性の観点からいって、規制が厳しいところとそうでないところでかなりの違いが出ているのは確かである。ファンドは銀行の「顧客」であるため、特に大手のファンドになってくると、銀行に対して圧力をかけて有利な条件を引き出そうというところもあるかもしれない。アルケゴスのケースでも明らかになったように、競争上の理由、ファンドからの圧力で担保を引き下げてしまうということが現に起きている。

証拠金規制によって随分改善されたが、ヘッジファンドとの当初証拠金の交渉は難航することが多い。シャドーバンキングの規制強化の流れは加速しているが、ここまでファンドの立場が強くなってくると銀行だけ規制しても不十分ということがありうる。ある程度銀行以外に対する規制強化もやむを得ないのだろう。

円金利市場におけるCCPのシェアに変化

第三四半期のスワップ取引量がClarusから公表されたが、円のクリアリングについて若干大きな変化が表れている。昨年第三四半期より3倍と大幅に取引量が増えているのだが、そのうちかなりの部分がLCHの伸びになっている。最近JSCCのシェアが大きくなってきていたが、昨年第三四半期と比べると、66.2%から51.5%に減っている。確か以前も半々くらいだったので、元に戻った形なのだろうが、それにしてもこの差は思ったより大きい。

確かに新たに円金利マーケットに参入してきたファンドなども多く、若干静かになってしまった国内勢よりは海外勢が元気に気はする。また海外勢が短期金利上昇にベットした取引をしているため、想定元本で見た時の取引量が大きくなっているのかもしれない。

それにしても、他の通貨についてはそれほど大きな取引増が見られるわけではないので円金利の躍進には目を見張るものがある。やはりある程度金利は動かないと、マーケットが活発化せず、取引が細って流動性が落ちてしまう。トレーダー不足もささやかれているが、健全な金利の動きは必要不可欠なのだろう。

国債取引の国際化

米国債入札では、$100mm以上のサイズの入札については、当局に報告される点を顧客に通知しなければならない。また、$2nを超えるようなサイズになると、書面で報告が必要である。そして、札を受けた営業職員はトレーダーやその他の営業職員に、顧客名などの詳細を伝えてはならない。

この辺りは規制というよりはガイダンスという形で周知徹底されることも多く、それに沿った形で金融機関内部で細かくルールを作るのが一般的だ。疑わしきは罰せられるということもあり、金融機関では保守的な運営をすることが多い。特に海外ではベストプラクティスガイドラインというものが多い。

一方日本では、禁止事項を細かく規定することが多いので、もう少しはっきりしている。この方法は不確実性がないという意味で優れているのだが、グレーゾーンを攻める人が出てくる可能性が高くなるとも言われている。実際には米国債の入札の方が、一般的には厳しく管理されていると言われている。

また、米国債売買においては、決済は原則T+1で行われ、例外はほとんどない。顧客がT+1で払えない、払いたくないという理由で決済期間を延ばすことが原則禁じられているからだ。日本だと、顧客の移行を重視するからか、比較的柔軟な対応がなされている。米国債に清算集中規制が課されると、更に日米の慣行の差が開くことになる。

米国債では電子取引のシェアが極めて高いが、日本では特に大きなサイズの取引を中心にボイストレーディングが主流となっている。決済期間の延長や、人手を介するマニュアル処理が多いことも原因となっているのかもしれない。

日本国債に関してはよく「村」という言葉が使われてきた通り、ある程度特殊な世界となっている。昨今では日本の円金利市場に対する海外からの関心が高まっているが、やはり今後はある程度グローバルな取引慣行に併せていくことが必要になってくるのだろう。

米国債クリアリング規制の施行開始タイミング

米国債のクリアリング規制延期の話をしたばかりだが、ゲンスラーSEC長官が早速これを否定するコメントをしていた。今週月曜10/21のSIFMAの年次総会で、2025年末まで時間は十分にあるとして予定通り施行開始すべきと主張した。SECしかもゲンスラー氏の発言とあっては重みが少し異なる。

かなり強い口調で延期を否定していることから、各方面にもプレッシャーはかかっているだろうし、金融機関サイドも、当初スケジュール通りに作業を進める必要がある。とは言っても、ルールの承認が得られていない以上、内容が確定しておらず、システム開発が滞ってしまうのは事実なので、かなり厳しい状況であることに変わりはない。

もしかしたら、無理やり当局サイドも今年中にすべての承認を終わらせるべく必死で作業を加速させているのかもしれない。12月後半は休みが入ることから、残された時間はあと1ヶ月ちょっとである。

インドの証拠金規制も延期?

規制導入までの期間については1年が目安になっていると別記事で述べたが、これはあくまでも米国やEUの話。インドでは証拠金規制導入まで1ヵ月を切ったが、いまだにカストディアン契約について詳細が固まっていない。

もともとのルールが今年5月に公表されてから半年の期間での施行開始だったが、証拠金規制が他国でかなり前に導入されていることを考えると、対応は可能なのではないかと思っていた。しかしこのままの状況では11月8日の施行開始がかなり危ぶまれている。

そもそも、インドにおいてはかなりルールが異なることもあり、ディーラーサイドの準備に時間がかかる傾向がある。現状カストディアンのサービスは上場物商品に限られており、OTCの商品に関してどのような法的フレームワークが適用されるか今だにはっきりしない。このため、ISDAはRBI宛にレターを送り、規制導入の延期を要望している。

日本でもIM規制導入時には業界でワーキンググループを作ってかなりの議論を行った。日本の信託方式の検討、海外カストディアンが日本でサービスを行う際の法的フレームワークなど、1年以上準備に時間をかけていたと思う。その意味では、日本の場合規制導入を延期することが少なく、期限を決めたらそれを全力で守ろうとする。欧米の場合1年が目安と書いたが、日本の場合にこのような目安は存在しない。まじめな国民性の表れなのだろう。

日本の場合は代替的コンプライアンス(Substutited Compliance)の議論にもかなり時間を割いたが、インドの場合もある程度の代替的コンプライアンスが現地支店に認められるようだが、大手銀行のインド支店、現地法人、または海外法人経由の取引がそれぞれどのような扱いになるか、一つ一つ検討して取引をしなければならない。

インドのCCPがQCCP(適格CCP)として認められないために資本コストが大きくなるという問題もあったが、今後証拠金規制やその他の規制についても一つ一つ分析をしていく必要がある。中国やインドでネッティングが認められるようになったのは大きな一歩であるが、それ以降の規制対応については、まだまだ注意が必要である。

米国債クリアリング規制延期?

2025年末の米国債のクリアリング義務付け開始まであと1年1か月となってきた。その割にはまだDone With、Done Awayモデルの議論に結論がついていない。

Done With/Awayとは、通常顧客が取引のプライスを複数のディーラーに取りに行くときに使われることがである。ディーラーとしては自分が出したプライスで決まると、Done withまたは単にDoneとなるが、他のディーラーがより良いプライスを出したため、コンペで負けるような場合、Done Awayまたは単にAwayという。Doneになった場合は、Cover(2番目に良かったプライス)を聞いて自分が極端に良いプライスを出していなかったかを確認したりする。

OTCクリアリングの世界では、自らがクリアリングブローカーとなることによって、取引のExecutionも自分のところで行うよう働きかけることが禁じられている。少なくともClearing BrokerとExecution Brokerは対等にプライスで競わなければならない。クリアリングをしていない他のディーラー(Execution Broker)が不利にならないよう、適切な競争を担保するための仕組みである。

OTCクリアリングの世界の方がなじみがあるので、Done Awayを求めるバイサイドの意見も良くわかる。FICCの米国債クリアリングでは、Done withが認められている。つまり、ClearingとExecutionをセットで売り込むことができる。CMEやICEなど、新たに米国債クリアリングに参入しようとしているCCPは、OTCと同じようにDone Awayモデルを目指しているようだ。

FICCも各種ルール変更を計画しているようだが、この段階でもまだ内容が明らかになっておらず、当局承認も得られていないようだ。経験上、米国やEUにおいては、こうしたルールの確定は1年前までに行われていることが多い。つまり、2025年末という期限はかなり厳しくなっていると言える。仕組みが確定していないとシステム開発もできないし、各種ベンダーとの接続作業も本格的には進められない。

こうなると、米国債のクリアリングは2026年6月末、レポクリアリングは2026年末などに延期されるかもしれない。また他のCCPの承認プロセスが遅れれば、更に延期という話にもなりそうだ。

NDFのクリアリング

Clarusのデータによると、NDFのクリアリングが増えている。特に今年に入ってからの伸びが著しい。NDFはNon Deliverableなので、TWDとかKRWといった通貨が多いのだが、上位5通貨で85%を占めている。

グラフを見るとわかりやすいが、一日平均$50bn程度だった取引量が、$65bnまで増えてきている。よく見ると本来Non DeliverableではないJPYやEURが入っているのに気づかれると思うが、個人的にはここからJPYやEURといったDelivarableな通貨のNDFがどれくらい増えてくるかに興味を持っている。

当然こうした通貨は、普通の為替フォワードを取引すれば証拠金規制の対象外なので、ファンディングコストを考えるとクリアリングするメリットはない。しかし、取引相手がCCPに変わるので、カウンターパーティーリスクがなくなり、その分所要資本も減る。

昨今では、CCARなどのストレステスト、G-SIBスコア、クレジットリミット、資本コストなどが重要になってくるので、IMのコスト増につながったとしてもリスクや資本を減らせるので、クリアリングのニーズも出てきている。ただし、ファンディングコストの計算は容易でも、資本コストの計算に手間取ってなかなか前に進めないディーラーも多いようだ。

一応LCHのSmart Clearingはこうしたニーズに応えるために、すべての為替取引をクリアするのではなく、ちょうどこうしたリソースが最適化できるように一部取引のクリアリングを行う仕組みである。利用は伸びているうだが、まだクリティカルマスには届いていないようだ。ただ、一旦大手ディーラーが使い始めると、一気に爆発的に使われ始める可能性はある。

最近では急激な市場変動が大きくなり、VaRやPEモデルではこうしたテイルイベントをカバーできないという批判が高まり、ストレスシナリオをベースとしたリスク管理が重要になってきており、これがビジネスの最大の制約となりつつある。特に為替は一方向にポジションが傾く傾向もあり、為替レートが一時的に急変動した場合のストレスロスはかなり大きくなる。

このため、相対取引の為替フォワードから発生するデルタを、逆方向の為替取引で打ち返し、もともとのデルタをNDFでCCPと構築するという取引が有効になる。こうすると、相対取引の相手方に持っていたデルタがニュートラルになり、CCP向けのデルタに置き換えられる。CCPに対しては、従来必要のなかったIMが必要になるが、相対取引にかかっていたカウンターパーティーリスクがなくなるため、信用枠が開放され、資本コストも削減できる。

特に日本の取引はドル調達の方向に偏る傾向があるので、信用不安や市場変動によって取引ができなくなることを避けるためにも、あらゆる方策を検討し始めておいても良いのではないかと思われる。

RRUC

FRBの肝煎りでRRUCという団体が米国で立ち上げられた。これはReference Rate Use Committee の略でARRCを想起させる。事実、新しく立ち上げられたウェブサイトによると、Libor 改革とARRCのrecommendationから得た教訓に基づき、レファレンスレートの利用に関するベストプラクティスを確立することを目的とした会議体とのことである。最初のミーティングが今週10/9にあったようだ。

メンバーは大手銀行の専門家を主体にFRBの市場グループからも5人が参加している。FRBといっても、メンバーを見ると以前野村やドイチェで活躍したMichelle Nealなど、業界の専門家が入っている。日本でもこのような会議体で専門的な議論が活発に交わされればと思う。日銀の日本円金利指標に関する検討委員会が似たようなものではあったが、米国の方がもう少し権限が強いように感じる。特にARRCなどは規制当局の一部のようにみている市場参加者も多かった。

米国の場合銀行と当局の間で回転ドアのように人が行き来することがあるが、これは大学と銀行、政治と銀行の間でも良く見られる。これが望ましいことなのかは議論の余地があろうが、少なくとも専門家が同じ言語で議論を戦わせることになるので、議論のレベルが高くなる傾向がある。日本でも専門家が当局サイドに流れることはあるが、あくまでもアドバイザーのような役割で、当局の重役候補になるようなケースは海外より少ない。

さて、ARRCというと、ターム物SOFRのインターバンクでの取引解禁をめぐる議論が思い出されるが、Risk.netでは、今回のRRUCがこの問題に決着をつけるようなことはなさそうだという意見が紹介されていた。クレジットセンシティブレートについての議論よりも、SOFRがどのように算出され、使われるか、期末に変動しがちな点などを議論することになりそうだ。

こうなると、ターム物SOFRは当局からのアナウンスが出ない限りは現状維持が続くことになりそうだ。つまり、そう簡単にディーラー間でのターム物SOFRが取引されるようになる可能性は極めて低くなったと言えるのかもしれない。

金融とAI

金融はほぼ装置産業になっているといっても過言ではなく、IT、リスク管理、法令順守などに巨額の投資が必要となり、それをすべて揃えないと営業が難しい。そして、何か大きなシステムトラブルが起きると、一気に顧客や当局の信頼を損ねかねない。新しく銀行を一から作って参入するにはハードルが高すぎるので、その意味では参入障壁が高い安定業種とも言える。

本来であれば、ITの進歩やAIの利用による恩恵を受ける業種なのだが、情報漏洩リスクなどのコンプライアンス問題によってこれが難しくなってきている。

例えば、スマホ一つあれば、名刺スキャン、議事録作成、ChatGBPを使った文書作成などが簡単にできるのだが、グローバルに展開する大手金融機関でこれらを認めているところは少ない。名刺管理ソフト一つとっても、外資系の場合、情報管理の懸念から自社開発しなければならないが、いかんせんニーズがあるのが日本だけなので、結局手入力という非効率な業務が生まれる。

世の中のツールにアクセスできれば、英語のミーティングなどは録音してサマリーや議事録を簡単に作れる。翻訳ソフト以前に比べると格段に進歩した。文書を作成してAIに校正をお願いすれば、誤字脱字やテニオハも一瞬で修正することもできる。

会社の仕事以外では、自宅でこうしたツールを使って効率的に物事が進められるのに、一旦職場に足を踏み入れると、昔の世界に戻ったようで、もどかしさを感じる方も多いのではないだろうか。

当然大手銀行では社内で翻訳ソフトやAIによる業務支援ツールを開発しているのだが、やはりオープンソースで日々進歩していく世の中のツールにはどうしても遅れをとってしまう。またこうした内部開発のコストも無視できない。

一部業務をスタートアップにアウトソースしようと思ってもThird Party Venderリスクマネジメントに対する規制が強化されているので、アウトソースを進めるにも手間がかかる。

こうした環境の中では、革新的なサービスが大銀行から生まれるのは極めて難しくなっているのではないだろうか。デリバティブのフローなどは、銀行からより規制の少ないマーケットメーカーに移り始めており、バランスシートが使えない銀行は富裕層向けの資産運用ビジネスに舵を切っている。

確かに昨今では、〇〇Payによる決済、送金の割合が増え、税金や公共料金の支払いなども、かなりの部分が銀行を介さずできるようになってきた。銀行窓口をほとんど訪れたことがない人も多数いる。銀行だけを規制しておけばよかった時代は終わり、今後は規制の対象範囲もこうした環境変化に即して変わっていくことになるのだろう。

ISDA SIMM v2.7による担保額の変化

SIMM Version 2.7が公表された。これはISDA SIMMモデルの定期的アップデートだか、今回から2021-2023年のデータが対象となり、2020年のコロナショック時のデータが除かれることになるため、ほぼ初めてといって良いくらい必要担保が減る可能性がある。2008-2009年のデータはストレス期を代表するデータとして残るが、それでもかなりの削減となりそうだ。

これによってIMが減れば、€50mm(米国では$50mm、日本では50億円)の閾値を下回ってIMを出さなくてもよくなるバイサイドなどが出てくるかもしれない。

Risk.netでは20%減という分析結果が報道されているが、既にオフセットが大きい大手ディーラーの削減幅はそこまでないかもしれないとのことである。

リスクウェイトの詳細を見てみる。円金利商品については1mと3m、10-20yが若干増えているが、6m, 1y, 3yが減っている。いずれも1-2ポイントなので、あまり影響は大きくなさそうだ。ドルやユーロについては、1-5yが増えているが、15yが-5ポイント、20yが-4ポイントと大きく減っている。このインパクトは結構ありそうだ。

クレジット商品も概ねリスクウェイトが小さくなっているが、ハイイールドの金融債とテクノロジー、テレコムセクターのリスクが上がっている。全般的にはかなりの削減になりそうだ。

一方ハイイールドのRMBS/CMBSなどは1300から2900へと2倍以上に増えており、今回最も影響を受ける商品になりそうだ。株式は概ね小さくなっている。コモディティも貨物、北米電力などを中心に小さくなっている。為替はボラティリティの高い通貨についてリスクウェイトが上昇している。またブラジルレアル(BRL)がHigh Volatility通貨の分類から外れる一方、アルゼンチンペソ(ARS)がここに加わったので、BRLを取引する市場参加者のIMが減るが、ARSを取引する市場参加者には不利になる。

実際に新しいパラメーターでIMを計算してみると違いが良くわかるが、全般的にIMとしてカストディアンに眠ることになる担保が少なくなるのは市場関係者には朗報だろう。これで急な市場変動が起きて批判が起きるのが若干懸念されるが。

中国国債がCCPの適格担保に

LCHが、来年から中国国債₍CGB)を担保として受け入れる予定とRisk誌が報じた。当面はドル建てとユーロ建のもののみとなるが、その後オフショアの人民元建ての国債も受け入れることを検討しているとのことだ。

グローバルでは、非現金担保の占める割合が60%であるのに対し、アジアでは20%だそうだ。昨今現金以外の担保ニーズが急速に高まっていることを考えると、アジアの市場参加者にとって歓迎すべき動きだろう。

あまり普段から見ないデータなので間違っているかもしれないが、これらの国債のサイズをちょっと調べてみると、ドル建てとユーロ建てのCGBが$41bn、オフショア人民元建てが$18bnであるようにみえる。昨年の外貨建てCGB発行額が$60bnくらいだったと思うので何か抜けているかもしれない。若干の誤差はあるだろうが、中国のサイズからするとかなり少ない印象だ。オンショアの中国国債が$14tnだとするとその0.4%しかない。

逆に言うとオンショアCGBが適格担保になればかなりのマーケットインパクトとなる。HKEXなどではオンショアCGBを受け入れることは問題ないだろうが、グローバルCCPがこれをどの程度認めるようになるかに注目が集まる。

中国は昔からオンショアのCGBへのアクセスが難しく、ディーラーがアクセストレードと称してTRSのような形で、CGBや社債などのリターンを提供してきた。一方でオフショアの債券が海外投資家向けに販売されていたが、オンショアとオフショアのベーシスが大きく、この裁定取引で収益を上げる取引をするタイプのトレーダーも多い。

Bond Connectなど、一連の市場開放政策を受けて徐々に市場環境が変わりつつあるが、デリバティブのネッティングも可能になったこともあり、今後はこうした国際化の流れが加速するかもしれない。

中銀に頼った流動性計画が可能になった?

昨日9/26に行われたFRBのBarr副議長のスピーチが興味深い。これまで金融当局は、銀行がストレス時にも自ら資金を確保し、存続できるように計画を立てなければならないというスタンスであった。つまり、銀行の内部流動性ストレステストにおいて、中央銀行に頼ることは許されないという、ある意味当然ともいえる前提となっていた。

また、中銀から流動性供与を受けたとなると、その銀行が危ないのではないかという憶測を呼ぶため、かなり危機的な状況になっても、中銀に助けを求めたくないといういわゆる”Stigma”の問題もあった。しかし、このため破綻してしまっては元も子もないので、FRBは中銀の流動性供給プログラムはどんどん使ってほしいという方向に変化してきた。

米国シリコンバレーバンクが迅速に連銀の資金供与を受けることができずに破綻したことを受け、FRBは普段からこのプログラムにアクセスできるよう、様々な改善をしてきた。今回は銀行が自ら危機時に対応するための流動性を確保すべきと述べてはいるものの、流動性ストレス時のプランに連銀窓口貸付や政府のレポプログラムが使えると断言している。

日本でも、銀行危機が起きたときは、日銀が最後の貸し手として緊急資金供与を行うだろうということは暗黙の了解となっていたと思う。だからこそ最後の貸し手と呼ばれていたはずだ。ただし、日銀に頼ったプランを立てるのはおかしいので、こうした資金にアクセスできないという前提で、流動性ストレス時のプランを立てるのが通常であった。しかし、コロナショック時には、日銀もStigmaを気にせず流動性供給プログラムを使ってほしいというニュアンスのことを述べており、実際にアクセスした銀行も多かった。

ここ2年くらいでこの流れは明らかになりつつあったが、今回はっきりと中銀に頼っても良いということが米国で明らかになったので、その他の国の金融規制にも影響を与えることは間違いない。おそらく日本でも同じような変化が起きてくるのだろう。

スピーチの内容はYouTubeでも見られるが、質疑応答でも確実にStigmaはないと言い切っており、今後は銀行の流動性計画のあり方が大きく変わることになる。最後にSLRについての質問も出ていたが、何も決まっていないというゼロ回答だったのが少し残念だったか、何らかの検討はされているようなので今後のアナウンスに注目したい。

円金利スワップの取引量が急増?

円金利スワップの取引量増加が著しい。JSCCの統計情報を見ると、昨年ほぼ倍に増えた取引量が、今年更に倍近くになるペースで取引されている。2024年については、8月までのペースが続くとしてAnnualizeしてみると以下のようになる。ものすごい伸び率である。Durationではなく元本であり、おそらく短期の取引が伸びていることを考えると、リスク量の伸びはここまでではないだろうが、それでも目を引くグラフである。

マイナス金利政策とYCCの終了によって金利が動く世界になったからという理由もあるが、それにしても不思議なくらいの増加であり、ちょっと実感と合わない。

円金利スワップと言えば、2010年頃は全通貨の金利スワップの6%近くを占めていたのだが、最近は2%程度に減っており、英、オーストラリアの後塵を拝していた。果たしてこれで円金利スワップの復活となるのだろうか。

JSCCで清算された取引だけだと偏るかもしれないので、金融庁の店頭デリバティブ取引情報も見てみる。こちらは日本の決算期である3月末において金融商品取引業者等から報告を受けているデータなので、時期と対象会社が少し異なるが、概ねのトレンドはつかめる。2024年分はまだ公表されていないので2023年までだが、これを見ると、先ほどのグラフほどには2023年も伸びていない。こちらも単位は兆円である。

金商業者等なので、外資系の日本法人は含まれているのだろうが、海外エンティティ経由の取引はおそらく入っていない。また平均取引残高3000億円未満の市場参加者のデータも含まれていない。ただ、金融庁のデータも90%はCCPとの取引なので、ここまで異なるのも違和感がある。そうするとJSCCはクライアントクリアリングが急速に伸びているのだろうか。

確かに2024年は急速に伸びているが、2023年は前年の倍近くにはなっているものの、実際の取引量で見ると100兆円に満たない増加である。

JSCCのデータはAとBの取引を2件としてカウントするだろうが、金融庁の取引情報はこのダブルカウントを除いていたか定かではない。時間のある時に調べてみたい。

2024/10/3追記:JSCCの統計データは片道だったようです。ただし来月11月から変更されるとアナウンスされています。

いずれにしても2023年は円金利スワップの取引量がかなり増加したが、今年は更にその増加が加速しているということは言えそうだ。この動きが続くのかどうか注目していきたい。

レバレッジ比率規制の緩和の議論が進まない

バーゼルendgameの緩和の話が注目を集める一方で、レバレッジ比率の話が出てこない。そもそも、3年前に米国SLRについてコロナ禍の一時的緩和が延長されなかった時には、かなりのマーケットインパクトが予想された。しかし、当局が同時にレビューを行うことを約束し、将来的な恒久的緩和の道を残したことにより、市場の変動を抑えたという印象があった。だが、その後どのような検討が行われているかについての情報が少ない。

そんな中、Bank Policy InstituteがWeb上で問題提起を行っていた。書かれてことは至極もっともな内容で、同意する点が多いので、ここで改めて紹介しておく。

レバレッジ比率は、その定義上、リスクベースの自己資本規制を補完するバックストップとして設計された。つまり、あくまでもバックストップであり、これがBinding Constraintとなってはならない性質のものである。もしこれが最大の制約となれば、ディーラーは米国債のような安全資産のマーケットメークを行うより、リスクの高い債券を売買した方が資本効率が高いこととなる。

おそらく制度設計当初はこれほどの影響があるとは思わなかったのだろうが、財政赤字の増加と金融緩和によって、米国債と連邦準備預金が予想以上に増えたのが第一の誤算である。つまりこの増加分を誰かが保有しなければならないのだが、SLR設計当初はここまで残高が増えることは想定されていなかった。実際に2020年4月にはコロナウィルス拡大によって、SLRの計算から米国債と準備預金を一時的に外したが、これが銀行のマーケットメイク能力を高めたことには疑いの余地がない。

その後、FRBからはSLR緩和のコメントはいくつか出ているが、おそらくFDICやOCCなど、その他の当局との調整がついていないのだろう。

以下の図はリスクベースの資本規制とSLRのどちらの手法で資本余力があるかを比較したものである。CitiとWellsを除けばリスクベースの方が余力が大きくなっている。つまり、SLRの方がBinding Constrantになっているということを示している。

https://bpi.com/wp-content/uploads/2024/07/Figure2_slr.png

こうした制約により米国債市場の流動性が落ちているため、レバレッジ比率規制の修正は不可欠となっている。調整方法としては以下のような方法が紹介されている。

  1. 最低要件の3%は維持したまま、eSLRのバッファである2%を半減させる。
  2. SLRの分母から米国債と準備預金を除く
  3. トレーディング勘定で保有されている米国債を計算から除く
  4. 財務省のリバースレポをSLRから除外する

いずれに選択肢についても、その理由が詳しく説明されているが、確かに既に別のところで資本要件が課されているので、それぞれ緩和できてもおかしくはない。だが、3や4はかなりハードルが高いことが予想される。準備預金については日本を含め除外されているところも多いことから、2の選択肢は比較的検討しやすい。ただ米国債すべてとなると、他の当局が難色を示すかもしれない。

なぜ半分かという理論づけが弱いが、バッファを2%から1%に減らすというのは、意外と進めやすいかもしれない。そもそも日本を含むその他の国は3%の最低要件のみを適用しており、米国だけがバッファを設けている。この辺りはトランプ氏が大統領となった場合には緩和されやすいのかもしれない。

いずれにしても政府債務がこれだけ膨らんで、米国債の流動性が脅かされている中、Basel III Endgameの緩和によってSLRが更に制約になるのは望ましくない。やはりレバレッジ比率はあくまでもバックストップであるべきである。

COVID-19 のパンデミックによる市場の機能不全に対応してFRB が米国債を大量に購入したことに対応するために行われた。現金と国債をSLR の分母から外すことで,FRB は銀行がこれらの資産に対して保有する必要のある資本の額を事実上引き下げ,危機の間,財務省市場と経済を支えるために銀行のバランスシートを自由にした。2021年3月に一時的なSLR 緩和措置が終了した後、FRBはSLRのいくつかの修正 案について近々意見を募集すると表明した[3] が、3年以上経った現在も公開協議は開 始されていない。

DeepL.com(無料版)で翻訳しました。

Basel III Endgameのインパクト

FRBのBarr副議長から、米国Basel III Endgameの緩和についてのアナウンスがあり珍しく日本の新聞でも報道された。大銀行に対する資本負荷の増加が当初の19%から9%に減るだろうとのことで、かなりの譲歩となる。資産規模2500億ドル以下の中堅銀行をバーゼル規制から除外するという内容も含まれている。昨年シリコンバレーバンク破綻後から比べるとかなりのトーンダウンとなった。

修正案の内容は各種メディアで洩れ伝えられてきたが、講演の内容をFRBのウェブサイトで改めて確認すると、かなり興味深いものとなっている。講演の冒頭で、自己資本規制が強化されれば、銀行のコスト増を招き、ひいてはそれが家計、企業、顧客に転嫁されると述べており、米国の一般市民への影響を懸念したような言い方になっている。

資本強化によって、住宅を初購入する人、マイノリティの地域社会、低・中所得の借り手が影響を受けることを懸念するといったコメントもあり、世論を気にした言い回しが目立つ。実際に住宅購入者に配慮した緩和もなされている。

金融業界にとって重要なのは、「市場リスクとデリバティブ」と題したセクションだが、まず内部モデルを使うインセンティブを高めるよう配慮されている点が目を引く。これはリスク管理のレベルを高めるために重要だ。

そしてクライアントクリアリングに対する資本要件を大幅に緩和するとも書かれている。クリアリング顧客向けのCVAが削減され、G-SIBスコアの計算からもクライアントクリアリングの取引が除外されるものと思われる。クライアントクリアリングの未上場企業に対するリスクウェイトも下がりそうだ。これは、信用力が高いものの上場していないファンドやPrivate Equityなどに対する取引に有利に働く。

また、レポの最低ヘアカット導入も欧州同様見送られることとなった。全般的に、言い方は悪いが銀行の完全勝利といった内容だ。しかし、金融危機後に進めてきた規制強化によってCCPでの清算を進めてきたため、清算取引に対する資本賦課を緩和するのは理にかなっている。シリコンバレーバンク破綻後に行き過ぎた規制強化が、数々の議論を経て落ち着くべきところに落ち着いたという感じだ。

ある程度この緩和を予測していたためか、大手銀行がすでに資本増強を見送り始めているとも報じられている。JPMなどは、直近16億ドルの優先株の償還を迎えた後は、1/4以上の資本が減少する。BoAも13%削減、GSやウェルスファーゴなどについてもTier1資本の削減が見込まれる。特に資本規制強化を見越してTier1を積み上げてきた分が必要なくなるので、大手行の経営に余力が生まれROE向上の余地が生まれる。

その割にはこの発言後大手銀行の株価は上がるどころか下がったところを見ると、市場としてはもう少し大胆な緩和を予想していたのかもしれない。しかし、個人的にはこれくらいの緩和が適当だったのではないかという印象だ。足元では第三四半期の業績不安から銀行株が売られたという事情もあるので、ここから銀行株は持ち直す可能性もある。

米国の規制後退を予見して、EUと英国も最終化を先送りにしてきたが、今後はどの程度厳しい規制が入るかというよりは、どこまで緩和されるかという点に焦点が移る。もちろん、ここで大きな市場ショックや銀行危機が発生すれば全く逆回転するだろうが。

金融機関の対応も大きく変わることになるが、海外の場合は人員配置にまで影響が及ぶので混乱が大きい。膨張し続けるリスク管理部門の人員増加に歯止めがかかるかもしれないが、内部モデルを担当していたクオンツの人員削減は止まるかもしれない。金融機関の経営は、市場動向や顧客ニーズというよりは、規制の方向に注意を払うことがより重要になってしまったように思う。