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JGBの決済システムの未来を考える

日本国債のレポ取引のオペレーションが複雑という不満が良く聞かれる。取引の8割程度はJSCCで清算されており、清算取引の効率化はある程度進んだが、残りの2割については、電話やメールなどで担保銘柄の照合、サブカストディアンである信託銀行への決済指示も自動で流れないことが多い。

近年では海外ヘッジファンドの取引量が急増しているが、海外のようなグローバルカストディアンを経由したトライパーティーレポが実現していない。2割といっても約60兆円、1日あたりの取引高でも20-30兆円になるはずだから、無視できないサイズである。決済期間の短縮化やリアルタイム決済の流れが加速する中、何らかの改善が求められる。

そもそもJGBの決済は日銀ネットで行わなければならないが、日銀ネットは世界的に見ても極めて高度で安定したシステムだったと思う。早くからRTGSを完備し、T+1化も他国に先駆けて実現した。だが、あまりにこれが優秀だったため、海外のようにこれを補完する民間インフラが育たなかったということなのではないだろうか。また日本の事務手続きが優秀だったため、何とか手作業でミスなく作業をこなすことができてしまっていたのかもしれない。

米国などではFedwireは日銀ネットほど高度ではないが、BNYメロンなどのカストディアンが高度な計算、決済を行い、トライパーティーレポが発達したため、全体としては優れた仕組みを作り上げている。そして人手を介するとミスが多くなることから、極力自動化、システム化が進んでいる。これからデジタル資産やスマートコントラクトの利用が増えてくると、日本の優秀なマニュアル事務プロセスでは追い付かず、やはりシステム的に対応するしかなくなる。

海外投資家はこうしたプロセスに慣れているため、JGBレポに参入するとその非効率さに驚くことが多い。海外のようにグローバルカストディアンがすべての処理をするのが不可能で、日本の信託銀行をサブカストディアンとして使うため、一つレイヤーが増えてしまう。このため、SWIFTのやり取りが増えたり、時差による確認作業が発生したりするので遅れが発生する。

かと言ってグローバルカストディアンが日本の免税手続きなどを行うのは非効率であり、日銀ネットへの直接参加や信託ライセンスという高いハードルもある。JGB決済を大規模に行うオペレーション体制がなく、複雑な税務処理や国内規制対応が事実上の参入障壁となっており、結局はサブカストディアンに頼ることになろう。

実際グローバルカストディアンやユーロクリアなどのICSD(国際証券決済機関)ではJGBブリッジという仕組みにより、外で帳簿を動かす仕組みも持っている。しかしユーロクリアなどに大量のJGBの在庫を置く必要があり、日本国内にJGBを戻す際には結局フェイルが起きたりする。また、何といってもJGBの保有主体を厳格に把握しなければならないという税務上の制約が大きい。ここは海外金融機関にとってはかなり難しい問題で、サブカストディアンの機嫌を損ねたくないという感情も相まって、海外からの参入にはどうしても制約がかかってしまう。

逆に国内サブカストディアンがグローバルカストディアン並みに自動化を推進していく方が簡単なように思えるが、米国などと比べると信託銀行の数が多く、24時間対応、海外接続などの課題が残る。

これらを解決しようとするとかなりの調整が必要になるのは明らかである。こう考えると、JGBのトークン化を通じて24時間の即時決済を可能にし、サブカストディアンを介さないデジタルウォレットを使う方法しかないのかもしれない。現金の方は中銀のデジタル通貨や、ステーブルコインなどを使えば良いだろうし、海外のDiSHのような仕組みを使うこともできる。トークン化を行う際の法的裏付け、税務対応が解決すれば、これが最も近道なのかもしれない。

米国G-SIBルール改正案

Basel III endgameに関連してG-SIBに対する資本上乗せ要件の見直しも行われている。先週木曜に公開された一連の文書から、G-SIBに関する概要をまとめてみる。

米国のG-SIBスコアはBaselの原案と異なり、経済成長に合わせた調整がなかった。つまり、米国経済が成長して銀行のサイズが大きくなれば単純に全員のG-SIBスコアが上がってしまう。これは業界から長らく批判されてきたが、今般経済成長に併せて調整が行われる仕組みに変更される。

また、米国のG-SIB計算であるMethod2には、STWF(短期卸売資金:Short-term wholesale funding)が含まれており、GSやMSのような投資銀行系に多くの資本賦課が行われてきた。本来、STWFはMethod 2スコアの20%を占めるよう設計されていたが、実際には約30%に達していたので、今回はこれを20%に戻すような変更が行われている。

現行ルールでは「STWFの加重平均額 ÷ 平均RWA」という比率でスコアを算出しているため、RWAが減少するとSTWFのスコアが逆に上昇してしまっていたが、今回は、RWAの分母をなくすことで、この問題を解決しようというものである。これはトレーディング業務の比率の高いGSやMSに朗報だろう。

また、かねてから言われていたように、G-SIBスコアの計算が、年末時点の数値ではなく、日次または月次の平均値を使用する方向性へと変更になる。これによって、期末に流動性が逼迫して市場変動が大きくなることは少なくなるだろうが、一方で、常日頃からバランスシートを膨らませないように努力したり、コンプレッションなどを行っておく必要がある。

そして、従来50bpごとに資本賦課のレベルが上がるスコアの範囲を10bpごとに細分化した。急激な資本賦課の上昇を抑えるために期末になると取引を制限していたような銀行に対するプレッシャーが和らぐため、市場の流動性逼迫が起きにくくなるというメリットがある。

こうしてみると、色々と規制緩和が行われたように見えるため、政治圧力によって銀行規制が緩んでいるというよりは、どれも納得のいく変更であるため、従来から指摘されてきた問題に対処したという変更に見える。

米国Basel III最終化案

米国バーゼルIII最終化案(Endgame)の詳細が3/19に明らかになった。概ね想定通りだが、若干認識していなかった変更が含まれているように読める。

まずは、資本計算の新しい方式が提案されている。これまでは、標準的手法と内部モデルを使った先進的手法の両方を計算し、内部モデルの計算が標準的手法より資本削減につながらないようなフロアが求められていた。今後は、両方式の計算の義務付けを廃止し、拡大リスクベースアプローチ(Expanded Risk-Based Approach)なるものが使われるようになる。

大手銀行は、二つの資本計算を行い、それぞれの資本賦課の低減を図ってきた。これが一つの計算方法に統一される意義は大きい。

この手法のもとでは、住宅ローンにつき、従来の画一的なウェイトではなく、LTVに基づいてリスクウェイトを細分化することになるようだ。また、全体的に事業法人向けローンのリスクウェイトを100%から95%に引き下げ、そのうち投資適格等級の企業向けローンのリスクウェイトはさらに65%に引き下げられる。全般的に規制緩和方向に見えるが、計算方法の精緻化も併せて行っており、望ましい方向性のようにみえる。

次にオペレーショナル・リスクの標準化であるが、自社モデルの利用が廃止され、銀行の業務量に基づいた標準的な算出方法を用いることになる。ここはもう少し読み込んでみたい。ただし、投資運用やカストディ業務などリスクが低いとされる業務についての資本賦課も低くなりそうだ。

信用リスクとオペレーショナルリスクについては、内部モデルの使用が禁止されることになるが、市場リスクについては、当局承認を条件に使用が認められる。

市場リスクについては、従来のVaRに代わり、テールリスクをより正確に捉える期待ショートフォールが導入されており、これは最近のリスク管理の変化の方向性と一致している。

CVAリスクについては、BA-CVAとSA-CVAをベースとしつつも、リスク感応度をより精緻に考慮し、国際基準に近づけた形に変更とある。BA-CVAを使っていたとしても、直接カウンターパーティーのCDSでヘッジしなくても、同一業種、地域だったりすると、限定的ながらヘッジ効果が認められるようになる。インデックスものに関しては、構成銘柄が同じセクター(業種よりも広い概念)、信用区分(投資適格、非適格の区分)にあれば、シングルネームヘッジと同じように扱い、リスクウェイトに0.7を乗じる。構成銘柄が複数のセクターにまたがる場合は、各銘柄のリスクウェイトを特定し、元本で加重平均し、0.7を乗じる。

SA-CVAでは、デルタリスク、ベガリスクを補足するので、金利、為替、オプションによる市場リスクヘッジが資本賦課を軽減させることができる。CVAヘッジを行っている銀行であれば、この効果が反映される意味は大きいので、SA-CVA導入のインセンティブは大きい。また、クライアントクリアリングの顧客レグを含めた清算取引がCVA規制の除外と書かれている。これは若干驚きだ。これでクライアントクリアリングビジネスは一気にやりやすくなるのではないか。

このほかG-SIBについての変更もあるが、別記事でまとめたい。本最終案のコメント期限は6/18となっている。そこから最終規則の公表までは数か月かかるだろうから、正式な施行日は年後半か来年になりそうだ。

中東情勢がデリバティブ市場に与える影響

戦争などが起きると、通常は安全資産が買われるのだが、今回の中東情勢はインフレ懸念を加速させ、各国金利は上昇基調となっている。米国も9月までの利下げはないという意見が支配的となり、これまで2回の可能性があると言われていた利下げの回数予測も1回とするところが多くなっている。

国債利回りの更なる上昇に備えたヘッジ取引が活発化し、DTCCのデータによると、世界の金利デリバティブ取引高は戦争の翌週1週間で20兆ドルを超え昨年の平均の約2倍となり、過去最高水準の活況を呈している。米国では、年内の利下げ観測後退から特に短中期ゾーンの金利スワップの取引増が著しい。

欧州でもウクライナ戦争時のインフレショックの連想から、金利上昇圧力が高まっているためか、米ドル金利スワップもよりも欧州通貨の金利スワップの方が取引が増えている印象がある。英国では年内利下げ期待が大きく後退し、フランスやドイツでも短期債を中心に国債が売られ、利下げどころか利上げの話まで出始め、金利が上昇している。

一方為替市場では、安全資産のドル買いがみられ、円やユーロに対してドルが強含んでいる。EUは石油の64%を輸入に頼っており、日本はほぼ100%を輸入に頼っている。一方、引き続き安全資産とされるスイスフランが強含み、対ユーロで約11年ぶりの高値を付け、介入の話すら出てきた。一時期はスイスフランとともに円が買われることもあったが、昨今では円は有事で売られることが多くなってきた。

この高いボラティリティが継続すると、ストレス損失、VaRの上昇を招くため、CCPの当初証拠金やSIMMのパラメーター変更を通じた相対取引の当初証拠金の増加が起きる可能性が高い。これまでのところ、市場変動が大規模な倒産につながるようなことにはなっていないが、同時期に起きているプライベートクレジットの変調は気になるところである。ここで何か大きなショックが起きると、各種資本規制強化の動きが出てきても不思議ではない。少なくとも、銀行内部では、ストレスシナリオの見直しの議論などが出てくるだろうし、いったいどこまでのストレスを想定してリミットや資本を積めばよいのかという問題がクローズアップされることになるだろう。

バーゼルIII Endgameの決着が近くなってきた

一昨日3/12、FEDのBowman銀行監督担当副議長が、バーゼル3​最終化及びGSIB追加資‌本要件に関する米金融当局の新提案の概要を明らかにした。2023年案では、資本コストが約19%増加すると言われ、業界から強い批判の声が聞かれていた。今回のコメントを見ると、大幅な資本増強策は事実上撤回され、全体への影響は5%未満程度のマイルドな変化となりそうだ。

これにより米6大銀は今後1年半の間に約2000億ドルもの資本を配当や自社株買いに充てることができることになる。これは株価にとってもPositiveなニュースだろう。興味深いのは、内部モデルの使用に対する制限や標準法以上への資本削減を制限するアウトプットフロアが大きく緩和されそうな点だ。

市場リスクについても過剰なリスクウェイトの見直しが予想され、内部モデルの維持が可能になり、過度の制限がなくなりそうだ。業界が求めてきた変更がすべて反映されているように見える。また、米銀のG-SIBスコアの計算を年末ではなく通年平均とする方向に変更する模様だ。これにより、年末だけでなく常にコンプレッションなどでデリバティブ元本残高を圧縮する必要が生じるようになる。

また、短期資金調達に伴うスコアの要素見直しについても触れられていた。これが緩和されると、この寄与度の大きいGoldmanとMorgan Stanleyが有利になるのではないだろうか。

そして、いわゆるクリフ効果を軽減するため、50ベーシスポイントではなく10ベーシスポイントごとに追加の資本がかかるようにするともコメントしている。これまで、一定の閾値を超えないように、必死でポジションを減らし、市場流動性に悪影響が生じていたが、これが少し緩和されるかもしれない。

銀行業界としては、提案に関​する詳細内容​の公表を待ちたい⁠との考えを表明しており予断は許さないが、おそらくかなりの部分が緩和方向に向かうものと思われる。

とはいえ、プライベートクレジットを巡る警戒感が強まるなか、資本要件が本当に銀行システムの脆弱化につながるのではないかという声も出ている。いつものことであるが、民主党の​エリザベ⁠ス・ウォーレン上院議員が早速警告を発している。来週の理事会で新たな提案が承認されるかの採決が行われるとのことなので、まずは結果を見守りたい。

トークン化証券にかかる資本規制

トークン化証券を銀行が扱うと資本にどのような影響を与えるかというのは、業界の注目でもあった。この度、銀行資本要件において、トークン化証券に追加手当が不要になることを米国当局が明確化したという記事が出ている。トークン化証券を扱ったとしても銀行の資本要件において特段追加的な手当ては必要ないとのことである。一見トークン化証券をサポートするような印象を与えるが、要は既存の金融商品と同じ資本賦課となり、追加の資本負担はないという意味のようだ。

FRBのアナウンスメントによると、米国当局は、自己資本規制において、Technology Neutralな立場を取ると述べているにとどまる。つまり、証券の発行、取引にどのような技術が使われていたとしても、資本規制上の取り扱いは変わらないというニュアンスなのだろう。

ある意味当然なのだが、債券などの既存の資産をトークン化したからといって資本の扱いが変わるわけではなく、原資産にかかる資本コストと同等になる。トークン化証券を原資産とするデリバティブについても、もとの証券と同じコストになるという至極当然に扱いとなっている。

また、担保として使う場合についても言及されており、適格要件を満たしていれば、信用リスクを削減する効果を持つことが明記されており、原資産と同じヘアカットが適用されるとある。

ここで一つ疑問に思うのが、ヘアカットというのは、その資産を現金化する際にかかる期間とその間の資産変動に基づいて決まる。トークン化したからといってボラティリティがそれほど変わるとは思えないが、現金化にかかる期間は短縮される可能性はある。特にT+1とかT+2で決済されているような資産でも、トークン化すれば瞬時に決済することが可能になるため、ヘアカットは低くて良いのではないかという議論が出る可能性がある。ただし、本当に直ちに換金できるかどうかは定かではないので、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

いずれにしても、トークン化資産がデリバティブ取引の担保として使われるようになる日も近い気がしてきた。

レポ取引のクリアリング義務化は米国以外にも拡がるか

米国では来年6月にはレポ取引の清算集中義務が始まる。FICCへの直接参加者が行う米国債レポが対象となるが、ディーラー間のみならずディーラーとバイサイド間の取引も含まる。これまでは一つの国が動けばその他の国も追随するというのが一般的だったが、今回はこれが他の国でも導入されるかどうかは、微妙な状況である。

特に英国や欧州では市場構造が米国と異なるため、義務化というよりは、インセンティブをつけることによって自発的なクリアリングの方向性を模索しているように見える。

米国の場合、オーバーナイトの取引が中心で、様々な参加者によるフローがあるため、CCPを通じたネッティング効果が極めて大きい。しかし、英国・欧州では、年金基金などの資金の借り手と、MMFなどの資金の貸し手のニーズが一方的になりやすく、取引もオーバーナイトよりは期間の長いターム物が中心となる。したがって、CCPを介しても期待されるほどのネッティング効果が得られないと言われている。

また、米国ではMMFの運用資産が7.2兆ドルと巨額なのに対し、英国ではMMFの占める割合は1%程度と極めて低くなっている。同様に日本でも多様な市場参加者がレポを行っている訳ではなく、大手金融機関中心のマーケットとなっている。欧州同様、既に6割程度が自発的にクリアリングされており、クリアリング比率が4割程度にとどまる米国とは状況が異なる。

このような状況において米国に追随して清算義務化を行うと、プロシクリカリティを誘発し、預金者や年金加入者にコスト増のしわ寄せが行くという意見が、ICMAやISDAなどの業界団体からも出されている。

英国中銀もレポ市場の強靭化に関する議論文書を公表し、清算集中の拡大を検討しているが、業界としては義務化より構造的な障壁を取り除くことによる自発的な清算集中を訴えている。欧州CCPの幹部からも、欧州では既に自発的なクリアリングで透明性の高いプロセスが確立しているのであえて清算集中義務は必要ないとのコメントまで飛び出している。

おそらくここで残る問題は、デリバティブ取引に義務付けられている当初証拠金にあたるヘアカット問題だろう。レポ市場では適切なヘアカットが取られていないため、信用危機時に連鎖倒産が起きる可能性は残っている。特に大手バイサイドは非常に強い交渉力を持っており、ヘアカットの低いところに取引が流れるのを嫌って、市場変動に比べて十分なヘアカットが取れていない取引が多いものと予想される。ただし、商品は異なるものの、アルケゴスでIMをディスカウントしたCSにポジションが集中し、危機につながったのは記憶に新しい。

単純にヘアカットを上げると、年金受給者にコスト転嫁するのかという議論も持ち上がるだろう。したがって、現物や先物、金利スワップなどとのネッティングを確立し、クロスマージンを減らした上で、十分なヘアカットが確保できるようにしていくのがベストな方向性なのだろう。

米国債レポのクリアリング義務化による影響

来年から米国債のクリアリングが義務化され、レポについても来年6月末から義務化となる。これによってどの程度のインパクトがあるか常に気になっていたのだが、OFRのブログで大手米銀6行のSLRが2000億ドル以上削減されるとの見通しが示されている。6行合計でレポが7470億ドルから5400億ドルへ、リバースレポが6340億ドルから4270億ドルへと減少するとされており、これはかなりの減少だ。OFRの公式見解ではないとしているものの、かなり信頼性のある数字だと思う。

昨年の8月までの一日平均取引量のうち、米国債レポの約45%がクリアリングされていたが、清算集中義務化が行われていれば、これが約77%まで上昇していただろうとのことである。残りの23%のうち約8割が関連会社間の取引とのことで、残りがオプション付の特殊なレポということになる。ちなみに日本では既に6割近くがクリアリングされていると記憶してるので、他国に引けを取らない割合が既にクリアリングされている。

この残高減少は主にCCPに取引を集中させることによって得られるネッティング効果によるものである。A社に国債を貸して、B社から同じ国債を同じ期間借りていた場合、それをCCPで清算すれば、オフセットしてゼロになる。

また、興味深いことに日々のレポ残高を見てみると、四半期末などにポジションを減らして規制資本を下げようとする、いわゆるWindow Dressingがみられない。つまり、常日頃からSLRが増えすぎないような管理を行っており、期末にだけポジションを落とすようなことは米銀は行ってないということだ。

当然レポのクリアリング義務化が行われれば、様々なコスト増が発生するだろうが、ネッティング効果やカウンターパーティーリスクの削減により、市場安定化に帰するものと思われる。

英国デジタル証券サンドボックス(DSS)

世界中でDLTを証券の発行、決済、取引に活用しようという動きが活発になってきた。英国では、英国中銀と金融当局であるFCAが共同でDSS(デジタル証券サンドボックス)という規制上の実証環境を運営している。

これまでのように取引所とカストディアンなど様々な機能が分散されていたが、DSS内では一つの企業がすべての役割を担うことができる。対象資産としては、国債、社債、株式、CP、投資信託、排出権などで、資産の裏付けのない暗号資産やデリバティブ取引は対象外となっている。

ここで発行されたデジタル証券は、レポ取引やデリバティブ取引の担保として使うことができる。ポストトレード処理の迅速化とコスト削減が可能になり、金融機関やバイサイドなどの市場参加者全体に利益をもたらし、発行体にとっては資金調達が容易で「深い」資本市場へのアクセスが可能になる。

このDSSは2024年9月に開始され、2029年1月8日まで(または2028年12月まで)運用予定となっている。参加申請期限は2027年3月頃だが、既に大手銀行、取引所、DLTを活用する多くのスタートアップ企業がテスト段階であるゲート1を通過している。

米国でも米国債をトークン化しようという動きがみられており、世界中で決済周りの革新が起きている。特に米国では国債の決済はFEDであるものの、DTCC、FICC、トライパーティーとなる銀行など、既に分散型で運用されており、民間を巻き込んだ柔軟な制度設計ができる可能性が高い。証券の保有もブローカーが間接保有することが多い。英国でもDSSを皮切りに業界を巻き込んだ革新を起こそうとしている。

こうなると日本も出遅れてはならないと思うのだが、日本の場合は権限を中央銀行に集中される中央集権型なので、法改正などハードルが高くなる。英国のように日銀と金融庁がこうした動きを主導するのもかなり難しそうだ。日本の場合は日銀ネット上で振替法に基づく直接記録体系をとっていたと思うので、米国とは異なるアプローチが必要になるのだろう。

日本の場合は、レポ取引なども取引主体が限られており、そもそも日銀が多くの国債を保有してきたため、他国のようなトライパーティーレポなどの発展も起きてこなかったため、DLT導入インセンティブは他国ほど高くないのかもしれない。また、日銀がどこまで外部基盤への接続を認めるかという問題もあるが、これも他国よりはハードルが高いだろう。

とはいえ、日銀の保有比率が今後減少していること、グローバルな市場参加者が日本国債への興味を示し始めていることから、今後は状況が急速に変わっていく可能性がある。おそらく日銀ネットを外すことは不可能に近いだろうが、日銀ネットと接続する形で米国債型のトークン化を進めていく必要があるように思う。

DLTによって決済が容易になれば、資金不足による破綻、連鎖倒産などを防ぐことができ、金融市場の流れが円滑になる。市場変動がここまで多くなってくると必要担保額がさらに増加していくが、デジタル資産を適格担保に含めることができればトークン化したMMFなどを担保に出せるようにもなってくる。また決済期間短縮化が進めばリアルタイムFX、リアルタイムレポなども容易に行えるようになる。ここ1年の進歩を見ていると1~2年後にはこうしたことが海外では実現している可能性が高い。日本でも海外に後れを取らないよう、準備を進めておいた方が良いと思われる。

ステーブルコインがもたらすデリバティブ市場変革

ステーブルコインの発行量が増加し、為替取引への応用が議論されている。様々なデジタル資産がチェーン上で取引されるようになり、即時決済も可能になってきたので、当然の議論だと思うが、それでも金融の現場ではまだ慎重派が多いように思う。確かに、ブロックチェーン上で取引されるオンチェーンの取引の場合は、自社のウォレット内で残高が移動するものが中心で、実際の為替や送金に使われているケースは極めて少ない。

あとは現金や株式債券といった資産がリアルタイムで動けば良いのだが、これはある程度実現している。例えばSwapAgentにおける決済は、SwapAgentが銀行内に用意した信託口座の中で、参加者の所有権を移転することによって決済を行っている。つまり、資金の引き出しや送金は行われず、SwapAgentが指示を出した通りに所有権が帳簿上瞬時に移転しているだけである。これを応用すれば資金を簡単に移すことができるので、リアルタイムFXなども可能なのではないかと思ってしまう。

国債についても所有権を書き換えれば良いだけなのだが、国債を保管する場所の制約もあるため、そのままでは使いにくい。その場合、国債をトークン化してオンチェーンに持っていけば問題は解決できる。また現金についてもトークン化によってオンチェーンの世界に移せば、すべてが即時決済できるようになる。このようにして、現金、国債などのデジタルツインを作れば、決済のあり方が完全に変わる。国際送金なども、一旦現地通貨をデジタル通貨にしてオンチェーン上で別の国に動かしてまた元の通貨に戻せばよい。手数料も現在と比べるとかなり安くなる。

それにしてもこの世界になると、新興企業がサービスが多すぎて、名前がこんがらがってくる。ここで少し名前を整理してみる。

ステーブルコイン発行体

  • Thether(USDT)
  • Circle(USDC/EIRC/USYC)
  • Paxos(USDP/PYUSD)
  • MakerDAO(DAI)
  • First Digital(FDUSD)

ブロックチェーン

  • Ethereum
  • Tron
  • Solana
  • Polygon
  • Canton

若干例を挙げただけでこれらの他にも数多くの発行体、チェーンがある。そして銀行自体が構築しているコインや決済システムも存在しており、まさに玉石混合の様相を呈している。これ以外にも、取引所が様々な取り組みを始めている。

そして今月には、CFTCがデリバティブ取引の証拠金にステーブルコインを担保として受け入れることができるというアナウンスメントを出している。ISDAやFRBからもデリバティブ取引の担保にデジタル資産を使う方向性に関して様々なコメントが出ている。

これまでこうした動きが出ても、またかという感じでしばらく先の話という印象で聞いていたが、今回ばかりは実現に向けて動き出すかもしれない。技術的にはすべてが可能であり、それを海外当局が後押しする動きがみられ始めてきたからだ。

日本だとライドシェアの際にあった既存業界からの反対運動などの動きがみられるだろうから、政府が主導しない限り新しいことはなかなか進まなかった。しかし、最近の大手行のステーブルコイン発行に向けた動きについては、片山金融相からの支援コメントが出ている。ひょっとすると今回ばかりはかなりのスピードをもって市場に変革が起きるかもしれない。

まずはリアルタイムFX、リアルタイムレポなどからはじめて、デリバティブ取引の担保の分野に広げていくのが良いかと思う。

デジタル資産の適格担保化

先週ECBが、DLTネットワーク上で発行される債券を含むトークン化された証券を、ユーロシステムの中銀オペレーションにおける担保として利用可能とする方針を発表したと報じられた。今年の3月末からサポートされると書かれている。

当面は、通常の担保要件を満たすことに加え、トークン化された担保が TARGET2で決済できること、およびCSDを通じて発行されていること が条件となる。TARGETとはTrans-European Automated Real-time Gross Settlement Express Transfer Systemの略で、ECBと17の欧州中銀で構成されるユーロシステム運営する資金決済システムである。第二世代のシステムということで2がついている。デリバティブの祝日カレンダーでTarget2と書かれているのを認識されている方も多いだろう。

また、ロイターで報道されているように、ECBの発表を受けた英国中銀に対する質疑応答でも、英国版EMIRの中で、トークン化担保をどのように取り扱うかを明確にする方針を2026年に公表する予定であると回答されている。

英国では、トークンされた銀行預金を使って即時決済を実現するブロックチェーンの決済プラットフォームの発表もあったばかりである。

以前から話には出ていたものの、ここへ来てデジタル通貨を巡る動きが活発化してきた。CCPや相対デリバティブ取引の担保にデジタル通貨が使われるようになるのも時間の問題となってきた。これによって決済期間の短縮や資金移動のスピードが早まれば、MPORの削減通じた当初証拠金や資本賦課の引き下げがついに実現するかもしれない。

台湾生保の会計基準変更が為替市場に与える影響

台湾の金融当局である金融監督委員会(FSC)から生保の為替ヘッジの会計基準を緩和するプレスリリースが出ている。この変更によって、台湾の生保は従来のように為替ヘッジによってPLをヒットさせる必要がなくなり、負債の残存期間に応じて為替差損益を定額法のような手法で償却できるようになった。

これまでも、生保が債務超過に陥りそうな時は会計規則を変えて一時的に乗り切ったことがあったが、今回はヘッジコストの高まりを受けて恒久的にこの取り扱いが認められることになるように読める。

台湾主要生保の財務諸表を見ると、その資産の多くが米国の資産(株や債券)になっている。大手は5-8割といったイメージだが、平均でも6-7割はあるのではないだろうか。そして、その約6割について為替ヘッジを行っている。おそらく多くは現地行とのオンショアのDeliverable為替フォワードを使っているのだろうが、3割程度はNDFで海外銀行とのヘッジも行っている。

このNDFヘッジには季節性があるため、外資系やヘッジファンドの収益源となってきていた。このフローが減るとなると、世界第二のNDF市場に大きな影響があるかもしれない。昨年起きたようなTWDの大きな動きも見られなくなるかもしれない。

外資系としても、昨今の地政学リスクの問題から取引量に制限がかかっていることが予想され、しかも外資系銀行がフォワードでTWDを売るサイドになりWWR(誤方向リスク)になるため、台湾生保にとってコスト高になっていたのは事実だろう。

この流れを先取りしていたのか、2025年末の統計を見るとヘッジ比率は既に6割から5割程度に減少している。生保のバランスシートは会計的に安定するだろうが、NDF市場の流動性はかなり落ちていくことになろう。既にNDFのフォワードポイントはプラスに転じ、マーケットへの影響がみられ始めている。

これによってTWDのNDF市場の縮小、流動性の低下による取引コストの上昇が危惧される。長期負債に対して短期でヘッジする必要はないという理屈もわからなくないが、非常に危うい会計の変更のようにも思える。もしドルが大暴落してドル建て資産の売却を余儀なくされれば、台湾の生保の中には破綻に瀕するところが出てくるかもしれない。何かが起きてから慌ててヘッジしにいっても、ヘッジコストも急騰しているのは間違いない。シリコンバレーバンクなども、満期保有だからといって金利ヘッジをせずに米国債を持っていたら、いざ金利上昇が始まった時に売却を余儀なくされ破綻した。同じことが起きないことを願うばかりである。

ポートフォリオ最適化にクリアリング規制免除が与えられた場合のインパクト

以前当初証拠金の最適化などで発生した金利スワップをクリアリング規制から免除するというEUの決定があったので、これができるとどの程度のインパクトがあるのかSIMM v2.8に従ってExcelで簡易計算してみる。

通常は取引先Aにリスクが集中していてIMが多いときに、リスクを取引先Bにリスクを移転させると、トータルのIMが削減できる。この時リスク移転に通常のIRSを使うと清算集中義務があるため、CCPで清算しなければならなくなる。そうなると、AからBへのリスク移転はできないため、Swaptionを使ってこれを行う。Buy Payer + Sell Receiverのシンセティックスワップを使うことが多いが、1m10yのSwaptionを例にSIMMのIMを想定元本に対する%で計算してみる。

このようにSwaptionを組み合わせた取引は、Sensitivityを計算するとVolのリスクが出てくるのだが、Strikeが同じATMのSwaptionだと、SIMMの計算上VolやCurvatureがオフセットしてゼロになり、デルタだけのリスクになり、IMはIRSと同じになる。つまり、同じ取引先とPayer+Receiverをブックすれば、IRSを使ったのと同じようにリスクが動かせる。

しかし、当然その他にボラティリティのリスクも同時に移すことも多く、また、PayerとReceiverをブックする取引先が異なる場合もあるため、この時はSIMM IMの削減幅が小さくなってしまう。それを確認するためにPayerとReceiverのSIMM IMを別々に計算すると、上のようになる。ちなみにこれは自分が担保をコールする方向での計算なので、Postする場合は結果が異なる。SIMMの計算上、Swaptionを買うときはCurvature分のIMを拠出する必要はないが、徴求する必要はある。Swaptionを売るときは逆になる。

まずPayerを買った方は相手に対してCurvature分のIMを徴求しなければならないのでIMが大きくなる。Postする方はこれがないため、拠出額は2%ちょっとになる。もちろん1m10yだからCurvatureが大きかったのだが、これが1y10yのようにExpiryまでの期間が長くなればCurvature IMは少なくなる。10y10yとかになると、CurvatureからのIMはほとんどゼロに近づく。しかし金利の動きにもよるが、その分Vol IMが増えてくる。

Receiverの方は売りでCallサイドなのでCurvature IMがない。つまり、Payerの買いを取引先A、Receiverの売りを取引先Bとブックした場合は、4%+3%で合計で7%のIMをコールすることになる。IRSだと5%弱なので、IMが40%増になっている。

まとめると、クリアリング規制免除が認められれば、7%の担保が5%に減る。ただし、PayerとReceiverを同じ取引先と行っていればそこまで変化はない。どの程度こうした取引先のSplitがあるかわからないが、最小で0、最大で40%の削減が見込まれるので、ざっくり10-20%のIM削減効果と言えるのだろう。それよりも、2つのSwaptionを一つのIRSに置き換えられるというオペレーション上のメリットが大きいのだろう。

英国中銀のNew Year Resolution

英国中銀のラムスデン副総裁が、新年のResolutionとして非銀行セクターの破綻処理(Resolution)に関する取り組みについて議論をしているというニュースがあった。ヘッジファンドのようなNBFIについてかと思ったらクリアリングハウスの破綻処理の仕組みとある。しかし、スピーチ原文を読んでみると、より広範囲なトピックを扱っている。

シリコンバレーバンクやクレディスイスの例を挙げ、破綻処理はできる限りResponsiveなものであるべきというのが、スピーチの趣旨となっている。頑健な破綻処理体制があれば、銀行の所要ティア1資本を5%程度削減することが可能とのことだ。

とはいえ、今月からは破綻処理計画を策定しなければならない銀行の閾値が従来の150-250億ポンドから250-400億ポンドに引き上げられている。そして閾値近辺の銀行が破綻した場合は他の銀行への譲渡を想定することにより、通常の資本要件以上の準備金であるMREL(Minimum Requirement for Own Funds and Eligible Liabilities)の保持を求めないこととしている。つまり小規模行の負担軽減が図られている。

他にも先月から預金保険の保護限度額も85,000ポンドから120,000ポンドへ引き上げられている。1800万円が2500万円になったようなものなので、日本の1000万円よりはかなり大きい。そもそも日本は、細かい修正はあったものの、40年前の1986年から1000万円である。インフレが一般的な英国では5年ごとに見直しが行われる。103万円の壁が引き上げられたように、これから様々なものを引き上げていかなければならないだろう。

その後確かにCCPの破綻計画についてのコメント、システム上重要なステーブルコインの保有者保護のため、裏付け資産を信託で保有することが検討されている。

全般的に、破綻計画は重要としているものの、小規模行に優しい変更や、預金保険限度額引き上げ、資産保護の検討など、規制強化を目指しているようには取れない。昨今グローバルでは、規制を強化するというよりは、現実的な対応が目立ってきていることから、次の危機が起きるまでは、大きな規制強化の動きはないように感じる。

FRTBの更なる延期を求める声が強まっている

新年明けて1/6にISDAなどの業界団体から、EUの市場リスク資本フレームワークに関する市中協議に対するコメントが発表されている。米国や英国での導入が遅れていることから、欧州も来年2027年1月に延期することを歓迎するとともに、さらなる緩和を求めている。

準備ができたところから完全移行しても良いが、他国と足並みをそろえたいところは、現行バーゼル2.5の継続使用を認めるようにとの要望も含まれている。また、所要資本が急増する銀行に対する激変緩和措置として、Capital Neutrality Multiplierというものが提案されているが、これを業界統一のMultiplierではなく、個々の銀行の状況を反映させて設定できるようにするオプションを支持している。また、一時は全く使えなくなるのではないかと懸念された内部モデル方式の採用を促進すべきとの要望もみられる。

トランプ政権発足後、様々なルールが変わってしまったように感じる。自国ファーストの政治のもとでは、国際銀行規制を厳格化するのは困難になっていくのではないだろうか。当然どこかの国が資本規制を緩めれば、その国の銀行は競争上優位に立ち、厳格な規制が適用される国の銀行は不利益を被ってしまう。FRTBに関しては一足先に導入してしまった日本が不利にならないよう、声を上げていく必要があるのだろう。

今回の意見書は、PL AttributionやNMRFなど、これまで問題視されていた項目も引き続き改善点として挙げられているが、それ以外にもREITの取り扱い、カーボン取引の相関パラメーター、トレーディング勘定に残せるような重要性閾値の提案など、かなり具体的な要望も含まれている。各行が、インパクトを計算した結果、個別に要望を上げているのだろう。

米国も延期や規制緩和の方向を動くだろうから、それに合わせて欧州も緩和や延期の方向に議論が進みそうだ。米国は様々な国際協調の取り組みから離脱しつつあるが、金融におけるバーゼルなどのイニシアティブからも距離を置き始めることになるのだろうか。

為替取引の増加に市場は対応できるか

日銀の利上げとFEDの利下げにより金利差が縮小したにもかかわらず、為替は円安方向に進んだ。これ以上の日本の利上げと米国利下げは当面ないと思われたのかもしれないが、一つだけ確実に変化しているのは、為替のヘッジコストである。ヘッジコストが下がればバイサイドや保険会社などがヘッジ比率を上げてくる可能性がある。ヘッジ比率が5%上がれば$1.4tnのフローが増えるというコメントも報道されている。

証拠金規制(VM)の対象になる生保などは有担保で取引をしているだろうが、小規模の金融機関や事業会社などは無担保で取引をしているところも多いため、銀行としては資本コストが大きくなる。

以前のCEM(カレントエクスポージャー方式)が適用されていた頃は1年未満の為替取引は元本の1%がEADだったが、SA-CCRになってからこれが満期によってより精緻に計算されるようになった。試しに$10mm FX Forward取引のEADをSA-CCRとCEMで比較してみる。横軸は満期(月)、縦軸はドルベースのEADである。

SA-CCRにおける為替取引のSF(Supervisory Factor)は4%であり、アルファ係数1.4がかかるので、EADは$10mm*1.4*4%*MFとなる。MF(Maturity Factor)はsqrt(満期)で計算される。SA-CCRになると、6か月取引ではCEMの時の約4倍、1年取引では5.6倍に跳ね上がる。これが2022年に米系がSA-CCRを本格適用した時にマーケットでb/oが急上昇した理由である。

このような資本コストに対して収益が少ないため、特に無担保為替取引はディーラーにとっても悩ましい商品となってしまっている。外資系などは為替のトレーダーを日本においているところは少なくなっており、為替のセールスは以前のように稼げなくなっている。日本の場合は無担保の比率も多く、競争も激しい上に、オペレーション的に特殊対応が多いためコスト高になっている。日本では日々のトレーディングで資本コストを気にする慣行があまりないが、今後これが大きな問題になってくる可能性がある。

またこうした取引は月末やIMM Dateに集中する傾向もあり、ディーラーにとっては、継続的に流動性を供給し続けるのが課題となっている。流動性の逼迫のみならず、オペレーショナルリスクや決済リスクなども同時に発生してしまうからだ。

取引ニーズが急上昇している中、SA-CCRなどの資本コストが逼迫している現状を見ると、何らかの市場危機が起きた際に、円滑な流動性へのアクセスが制限されてもおかしくない。特にドル調達ニーズの高い日本やアジアの国々にとっては死活問題となり得る。市場動向の変化が為替市場にどのような影響を及ぼすか引き続きモニタリングしていく必要がある。

MVAを加味したトレーディング

SIMMの計算をおさらいしていて思ったのだが、意外と相関の影響が大きい。今回は$10mmのドル金利スワップとJPY1.5bnの円金利スワップの二つだけがあると仮定してIM計算を行ってみた。両方とも同じ年限と仮定してSwapの年限毎にIM金額をプロットしてみる。本来IRSはCCPで清算しなければならないが、ここでは相対としてSIMMの計算を行う。金利は12/18のOISカーブに適宜線形補間を行ってSensitivityを計算した。

結果は上の通りで、リスクウェイトの差があるため、ドル金利スワップのIMは円金利スワップの2倍近くになっており、単独で30年スワップだとドル金利スワップが$1.2mm、円金利スワップが$630kとなっている。両方とも払い(受けでも同じ結果)として一緒のポートフォリオに入れてIM計算をしたのがグレー、オフセットする反対方向の取引として計算したものが黄色である。

30年スワップでみると、同方向なら$1.5mm、オフセットする方向なら$1.1mmとなっている。これは相関係数が0.35になっているからだが、もう少し相関が高くても良いような感覚に陥ってしまう。

ここで注意すべきは、Separateと書いた薄いブルーの線だ。これはドル金利スワップと円金利スワップを異なるカウンターパーティーと取引した場合、つまり同じポートフォリオに入っておらずネッティングができない場合である。30年だとIM合計が$1.8mmに跳ね上がる。

つまり、こうした二つの金利スワップを行うなら、同じカウンターパーティーと行った方がIM的には有利ということだ。SIMMのVarsionが変わる時に相関係数が0.35から増えればさらにその効果が大きくなる。当然取引を集中させてしまうと50億円のIM Thresholdを超えてくるので、ある程度分散したほうが良いが、IM Thresholdを超えているカウンターパーティーが多い場合は、極力取引を集中させた方がIMは少なくなる。これがMVAの計算が複雑になる理由である。また、集中リスクが増えるため、SA-CCRなどの資本が増えたり、大口リミットに抵触する可能性もある。

ただし、IMの最適化に参加している場合は、こうした集中リスクを後で減らし、IMも減らすことができるので、MVAをフルでチャージするのはやりすぎということになる。最適化に参加していないところはNovationや解約をしないとポジションが移せないので、MVAを考慮するのが正しいのだろうが、ここまでの計算を精緻に行うのは進んだシステムがないとかなり困難だろう。またSIMMのVersion変更時にパラメーターの変更があれば、その時にMVAも変わってしまう。

今回は相対を仮定してSIMM計算を行ったが、実際はCCPでクリアされる取引なので、IMの水準や相関の前提はCCPによって異なる。AIでかなりのことができるようになってきたので、こうした各種パラメーターを考慮した上でクリアするCCPや取引相手を選ぶ仕組みなども作れるのかもしれない。

SIMM v2.8を使ったMVAの試算

久しぶりにSIMMの証拠金計算をバージョン2.8の文書を使っておさらいしたい(何もツールにアクセスできないので間違っていたらすみません。誤りがあれば指摘願います)。

まずは簡単な10年のドルIRSのSIMMを計算する。ドルはRegular Currencyなので、10年のリスクウェイトは60である。したがって、割引率を無視して10年IRSのDV01を$10,000と仮定すれば$10k*60で$600k、つまり元本の6%となる。

グローバル大手行の社内ファンディングコストは1%~2%を使うところが多いため、単純化のため1%と仮定すると、このスワップにかかる担保コストは6bp runningとなる。大手ではこれをMVAとして日々計算しているところが多いものと思われる。

年間6bpのコストがかかるということは、6bprはb/oに入れないと赤字ということだ。ファンディングコストがトレーディングデスクにチャージされるところが多くなっているため、最低限このコストをプライスインしなければならない。ただし、既存のポジションとオフセットすることによりIMが減るケースもあるので、本来はポートフォリオベースで考えなければならない。

ディスカウントを無視するのは正確ではないと言われそうなので、4%のフラットカーブを使って再計算すると、デュレーションが7.6年程度になるため、担保コストは6bprから4.6bprに減る。

では円金利スワップの場合はどうだろうか。計算方法は同じだが、円は低ボラティリティ通貨に分類されているため、リスクウェイトが29とUSDの半分程度になっている。同じくファンディングコスト1%でマージンコストを計算すると2.9bprとなる。円の場合のディスカウントレートは以下のTONAを前提として計算した。
1年 1.0%
5年 1.5%
10年 1.8%
20年 2.5%
30年 3.0%

それではここまでの計算をグラフに示してみる。概ねSIMMのリスクウェイトとデュレーションをかけたものに近い形となっている。ドルの方が2倍近くコストが大きいのは円がLow Volatility通貨に分類されているからである。つまり、円の金利変動が激しくなり、ドルやその他の通貨と同じようにRegular Currencyに分類されれば、IMコストが倍近くに跳ね上がることになる。

ここまで計算してみて、次にポートフォリオ効果が気になったので、以下のような方向がオフセットするUSDとJPYの金利スワップ取引があった場合にマージンコストがどうなるか計算してみた。

10 year JPY1.5bn IRS, pay fix
10 year USD10mm IRS, rec fix

為替は1ドル150円として計算した。

先ほどと同じ金利カーブを使うと、それぞれのスワップのDV01はドルが$8.1k、円が$9.1kとなり、MVAはUSD IRSが4.85bpr、JPY IRSが2.64bprとなった。固定受けと払いでオフセットがあるので、IMはこの合計ではなく、相関係数0.35で相殺効果が得られ、4.63bprとなる。これを各年限毎に計算してプロットすると以下のようになる。グレーの線がUSD IRSとJPY IRSを同時に取引した場合のIMである。

思ったより大きな減少ではないものの、USD IRSだけを取引した時に比べ、反対方向のJPY IRSを一緒に取引したほうがIMが少なくなっている。まあ相関が0.35なのでこの程度なのかもしれない。

次に2年10年のようなカーブ取引を考えてみる。SIMMのバケットは2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、3年、5年、10年、15年、20年、30年となっている。6年とか7年のように定義されていない年限のものについては、SA-CCRの資本計算のようのオフセットできるかというとそういう訳ではなく、何らかの方法で補間して計算する必要がありそうだ。

では20年固定払いドル金利スワップと、25年固定受けドル金利スワップをそれぞれ取引した場合と、パッケージで取引した場合のIMを比較すると、以下のように単独では非常に大きかった担保コストがパッケージにすることによりかなり安くなっている。他通貨のオフセットに比べると削減幅が大きい。

20年ドル固定金利払いスワップ単体 8.9bpr
25年ドル固定受け金利スワップ単体 10.8bpr
上記20年と25年のスワップを同時に行った場合 2bpr

ここで清算取引と比べたらどうなのだろうと思ったので、開示のあるJSCCのデータと比較してみる。清算取引はMPORが短くなるが、プロシクリカリティを避けるためにIMが下がりすぎないようにしていたり、極端な市場変動シナリオを加えている。したがって、SIMMよりIMの所要額が大きくなることもある。ただし、CCPの場合はネッティングが行われる可能性が高くなるので、一般的にここで示すイメージよりはIMコストは低くなるはずである。

今回は個人的にざっと計算しただけだが、本来トレーダーはこうしたファンディングコストについて、イメージを持った上でプライシングしているのだろう。おそらく社内システムを使って精緻に計算すれば、どのカウンターパーティーならいくら上乗せするかといったことが瞬時に判断できるようなツールを作ることはそう難しくないものと思われる。

Fourth-trigger CDSが一般的になってきた

グロバール大手銀行ではこれまでも普通に使われてきたForth Trigger CDSであるが、ここへ来てすそ野が広がってきているようだ。Risk.netで紹介されていた記事でも、少なくとも10社以上が既に取引をしており、大手行はほぼすべてこれを利用していると報じられている。米系銀行では特に珍しいものではなかったが、これが欧州系にも広がるとともに、売り手にも拡がりがみられる。

日本においても、CDSの取引されていない企業のCVAリスクをヘッジするため、邦銀やファンドなどからCDSを買うといった動きは20年近く前からあった。信用力の高くないヘッジファンドからProtectionを買うというのは不思議に思われるかもしれないが、担保で保全することにより、CVAを減らし、資本コストを下げることが可能である。

このRorth Trigger CDSは、通常のCDSのクレジットイベント(CE)である倒産、支払い不履行、リストラクチャリングの3CEに加えて、ISDAのデフォルトをCEに入れるものである。

以前からあった問題としては、業界標準契約が確立していないため、交渉に時間がかかるというものがあるが、それでも実際に契約を作ってみると既存のCDSのテンプレートに若干の変更を施すだけなので、意外と時間がかからないことが多い。しかし、海外ヘッジファンドなどで細かいところに突っ込みだすと合意ができないということも往々にしてある。本来であれば業界標準テンプレートがあれば望ましいのだが、これまではそこまでのニーズがなかった。

しかし、徐々にこうした取引が一般的になってきたのであれば、何らかの標準化を考えても良いかもしれない。そして将来的には資本や証拠金の最適化のように、第三者がCVAリスクの最適化アルゴリズムなどを提供できるようになるかもしれない。

そしてその第三者が何らかの手法によりクレジットスプレッドデータを提供できれば、CVAを日々時価評価することもできる。資本計算上このヘッジを考慮することもこうした透明性の高いデータがあった方がやりやすい。

CVA慣行の拡がりとFourth Trigger CDSなどのヘッジツールの拡大の動きからすると、今後信用リスク移転も活発になっていくかもしれない。これまでの最適化は大手銀行間でリスクを融通しあうのが精一杯だったが、保険会社やヘッジファンドなども含めて最適化ができるようになれば、信用リスクの集中によって市場混乱が起きる可能性が低くなるものと思われる。引き続き市場の動向に注目したい。

適応型プライシングが変える為替トレーディングが

為替取引の適応型プライシングが話題になることが多くなってきたので少し前のペーパーになるが、バーゼルの為替執行アルゴリズムと市場機能についての内容をおさらいしておく。昨今では為替取引のかなりの部分が何らかの市場執行アルゴリズムに基づいて行われるようになってきた。

電子取引においては、市場のニュースや変動などを的確にとらえてプライシングを自動的に変更する仕組みは既に一般的になったが、どの顧客フローが最も価値があるかなども瞬時に把握できるような仕組みが揃いつつある。2010年頃から使われ始め、このバーゼルのペーパーが出された5年前の2020年には、市場取引の約1~2割がアルゴ取引に基づくものとされている。

BISの2022年時点のデータでは、スポットFXの75%がアルゴ取引だとされている。これは銀行間や大手機関投資家間の取引に関するものと思われるので、バイサイドや小口投資家の取引は含まれていないだろうが、それでもアルゴ取引のシェアは半分を超えているだろうし、2025年の現在では7割近くになっていたとしてもおかしくない。

初期のアルゴ取引は、単に大規模注文を分割して執行するという簡単なものが中心だったが、最近ではAdaptive Pricdingと言われる、市場の変化に応じて戦略を変える適応型のアルゴが増えてきている。ディーラーサイドでは、外部にプライスを取りに行く前に、他の顧客フローとぶつけてInternalizeすることによって執行コストを削減することができるため、為替トレーディングにおいてはなくてはならないものとなっている。

バーゼルのペーパーでも指摘されている通り、これらの取引は取引所やブローカーを経由せずに行われ、統計データに反映されないものも存在するため、実際の取引の全体像を見えにくくしている。しかし、流動性が迅速に提供されている限り、市場機能が損なわれている訳ではないので、特に問題視はされていない。一方で、取引前、リアルタイムのデータ、TCAなどのポストトレード分析能力がない銀行は、市場から取り残される危険性が指摘されている。

コロナショック時は特に適応型プライシングを中心としたアルゴ取引は非常にうまく機能し、通常の相対取引に比べて良好な執行実績を示した。ただし、こうしたアルゴが一斉に動くことにより、プロシクリカリティ的な動きを誘発し、市場混乱につながる危険性も指摘されている。

特に最近は経済指標が為替マーケットを動かすというよりは、トランプのTweetが市場に与える影響の方が格段に大きい。こうしたTweetが出た瞬間にアルゴが適応できなければ、大きな損失を被ってしまう。市場のVolatilityがすっかり変わってしまったにもかかわらず、いつも通りのQuoteを出し続ければ、ヘッジファンドの標的になってしまう。これを避けるには、何かニュースが出たらQuoteを止めたり、Bid-offerをワイドにしたりすれば良いのだろうが、そういった銀行は為替市場のプロのマーケットメーカーとは呼べないだろう。

今では多くの大手銀がSNSのコメントなどにも対応できるよう工夫をしており、瞬時にプライシングを変化させるようになっている。為替市場で収益を上げるためには、もはやトレーダーの良しあしというよりは、こうしたアルゴの質による勝負になっているところもある。特に最近は、G10のリニアなリスクを担当するトレーダーで、数十年前のように大きく儲けられるトレーダーはあまり見たことない。

今年4月のトランプ「解放の日」の後などはボラティリティが5倍とか6倍に上がり、執行コストも数倍に跳ね上がった。大手銀行は何とかマーケットメークを続けるべく市場に流動性を供給し続けたが、そこでうまく乗り切れたところもあっただろうが、適切なプライシングができず損失を被ってしまったところもあったものと思われる。

特に方向性が偏りがちなアジアの銀行やバイサイドの中にはうまく流動性にアクセスできなかったところもあったかもしれない。ディーラーのマーケットメーク能力が下がってきている昨今の市場環境においては、いつでも流動性にアクセスできることの重要性が以前にもまして高まっている。