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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

やはりLIBOR改革は当局主導

以前LIBORからRFRへの移行は当局のプッシュによって進むということを昨年の投稿でも書いたが、やはりその通りの状況になってきた。決して金融機関がさぼっている訳ではないと思うのだが、この移行はやはり一大作業である。技術的な問題が多すぎて罰則で追い込まない限りは改革のスピードが上がらない。

今回は英国BOE、FCA共同声明でポンド建てのLIBOR連動キャッシュプロダクトを9月末までに取りやめるようにとの指導があったと報道されている。社債や仕組債の発行にも影響が出るかもしれない。 デリバティブ取引については、ポンド建て金利スワップの利用を停止する期限を3月2日としている。 既に 大手各行の経営層に書簡が送られたようだ。来月からは、毎月移行に向けた努力を行っているという明確lな証拠の提出が求められる。 進展がない場合は、資本賦課をするというのが常套手段だが、こうなるとコストに跳ね返ってくるので、金融機関は多大なコストをかけてでも移行を進めようということになる。

今回は珍しく日本の新聞でも簡単に紹介されているので、国内でも関心が高まってくるだろうし、金融庁が同じことをしても不思議ではないだろう。

TOTUS Letterはもう必要ない

昨年夏にこのブログでも紹介したが、Volker Rule2.0により、今月からTOTUS Letterは必要なくなっている。こんな風に簡単に結論だけを書くと弁護士には怒られるが、詳細は各種弁護士事務所がサマリーを作っているのでそちらを参照して頂きたい。ここはあくまで個人が気ままに書いている日記のようなものなので。

にもかかわらず、この事実が周知徹底されていないのか、業界の中でも未だこれが必要だと思っているところが多い様である。2013年のボルカールールでは、Prop Tradingの規制から外れるには完全に米国とは無関係であるということを確約するTOTUS Representative Letterというものを米系とは結び、米国人が取引のArrangement、Negotiation、Executionに関わらないということを確認していた。

2019年の修正により、この要件を満たす必要がなくなり、TOTUS Letterがなくても、一定の免除規定を満たしている限り、引き続きTOTUS Exemptionを受けられることになっている。弁護士ではないので確固たることは言えないが、TOTUS Letterはもう必要なくなったということだと理解している。

しかし、大手ならまだしも、米国債等を取引する多くの投資家が、こうした米国の規制変更までいちいち追っていくのは無理があり、逆の立場だったら米国の投資家が日本の規制変更をそこまで見ているとは思えない。しかも英語の法律で海外の法律に従うため、まじめにやろうとすれば弁護士事務所にコストを払って分析をするところもあるのかもしれない。これだけグローバルになった金融取引で、こうした域外適用は少しでも減らして欲しいものである。

リスクオフで選好される円以外の安全資産

年始に中東に緊張が走った時、誰もが急速な円高を予想したはずである。だが実際は107円程度までの穏やかな円高にとどり、その後はすぐに110円までの円安に動いた。以前は、有事の際は安全資産といい割れる円への資金逃避が起き、円高につながるというように言われることが多かったが、徐々にこの法則が働かなくなってきている。

マイナス金利で行き場を失った資金が外貨資産に流れ、急速なリスクオフの際に円に換えるニーズがあるからと言われることもあるが、何となくしっくりこない。おそらく他国の金利も下ってきたため、円以外の選択肢が増えたと言う事なのではないか。事実、今回は円ではなくゴールドに資金が流れているようでもあり、ユーロ等の低金利通貨にも資金が向かっているように思える。こうなると日銀が介入するような急速な円高の可能性はかなり低くなっているのではないだろうか。

英国CCPのEUアクセスは6月末までに決まる

先週木曜に、英国のCCPがBrexit後にEUの投資家にアクセスを保てるかは6月までに決めたいとのコメントがESMAから出された。英国がEUの規則をほぼキープしたとしても自動的にアクセスが引き続き与えられる訳ではないという態度は依然変わっていない。

1月31日に英国がEU離脱をしても経過措置は12月末まで続くはずだが、その後の運用については不透明性が残る。LCH等が引き続きEU顧客にサービス提供を続けられるかどうかは英国ルールがEUと同等かどうかがキーになるが、これも6月までに分析を終えるようだ。

色々と警告が出されているものの当局同士が市場の分断を避けたいと思っているのは確実であり、おそらく大きな混乱なく移行が進むのではないかと思う。ただ、不測の事態に備えて巨額のコストをかけてEU域内のオペレーションを用意した金融機関にとっては、かなりの収益圧迫要因になっていることは間違いない。おそらく大丈夫とはいっても、準備を怠ると当局や取引相手からも信用されなくなるので、無駄とはわかっていても投資をせざるを得ない。

近年はこうしたコスト負担が大きくなっているように思う。ビジネスを存続させるためには致し方ないのかもしれないが、採算性を厳しく見ていくと一部のビジネス閉鎖という判断につながってもおかしくないところまで来ている。ただ、同時に参入障壁も高まっているので、今後は大手銀行が引き続き存続し、周辺ビジネスや一部のファンクションをスタートアップや小規模なベンダー等にアウトソースする姿が一般的になるのかもしれない。もちろんベンダー選定のプロセスも厳しくなっているので、何をやっても手間がかかるのは変わりないのだが。

フェイルに対する欧州規制

今年の9月から、欧州で決済のフェイルに対する規制強化が行われるというニュースが出ている。日本では、もともとフェイルに対して厳しい立場をとる投資家が多かったが、海外では1日に数百から数千件のフェイルが恒常的に発生しているのが現状である。

現状債券の3%、株式の6%と結構なフェイルが発生しているという分析もあるため、債券、株式の取引コストに影響が出てもおかしくない。現場の感覚からすると、殆どのフェイルは数日のうちに解決し、大きな問題になることは少ないが、今後は業務フローを見直す必要がある。それでも不確実性を嫌う日本ではフェイルを問題視する傾向があるので、海外よりは対応が楽かもしれない(その割には連続休暇時に未決済残高が溜まることにはあまり問題視していないのも不思議ではあるが)。

基本的には欧州内の取引についての規制だが、EuroclearやClearstreamなどで決済する証券が対象になるので日本への影響も無視できないものと思われる。

マージンが急激に縮小する中取引コストだけが嵩んでいくが、今後の取引流動性に悪影響が出ないことを願うのみである。

金融に求められる人材

South China Morning Postに金融機関の人材需要についての記事があった。オンラインバンキングへの移行に伴い、金融機関に求められる人材ニーズが変化しつつあり、今後求められている人材と既存のスキルを持った人材にミスマッチが現れているようだ。香港とシンガポールで1000人以上の採用ニーズがあるとのことだ。

求められているのは、規制を理解し、テクノロジーの知識に長けた人材で、オンラインサービス業務を推進できる人材とのことで、既存の銀行員のスキルとは合わないとのことである。またウェルスマネジメントの分野の人材獲得競争も加速しているようだ。

最近では金融に関しては日本よりアジアを含む海外の方が変化が早いので、日本でも起きているこの現象は加速していくものと思われる。というよりは、こうした人材を海外で雇用した方が世界の流れについていくには適しているだろう。

そうなると、今後は海外の人材をいかにマネジメントしていくかというスキルが必要になる。自動翻訳等により言語能力が必要なくなるかと思いきや英語はますます重要になっているようで、この点でも日本が不利な状況は続いてしまうのかもしれない。仕事の仕方も変えていかなければならなくなるのだろう。

HKのCCPが日本の銀行のために通貨スワップのクリアリングを提供?

日本の金融庁がHKEX(Hong Kong Exchange & Clearing)の子会社であるOTC Clearに対してポストトレードサービスを日本の銀行に行うライセンスを許可したとのことである。

とりあえずは決済などポストトレードサービスとのことなのだが、HKEXとしては、将来的に日本の銀行から需要の強い通貨スワップも手掛けたいとのアナウンスを出している。

HKEXは最近急速に取り扱い取引量を増やしており、メンバーになる大手銀行の数も増えてきている。LCHが通貨スワップの精算ではなくSwapAgentにシフトしたので、通貨スワップのクリアリングとなると日本のCCPが最初に手掛けることになると思っていたのだが、HKからこのようなニュースが出てくるのは意外だった。

従来から行っているUSD/HKDのような通貨に限定されると思われるが、日本の銀行からUSDHKDの需要がそんなに強いとも思えず、いったん決済の仕組みを作ってしまえばUSDJPYにも拡大することは技術的にはそんなに難しくないのではないだろうから、将来的にはドル円通貨スワップにも進出ということになるのだろうか。いずれにしてもHKEXのクリアリングサービスについてはあまり詳しくなかったのでちょっと調べてみる必要がありそうだ。

金融政策と為替変動

2019年、株式や債券マーケットの収益がそれほど悪くなかった一方、為替マーケットは本当に動かなかった。FTの記事でも為替の変動幅が1973年以降最も狭かったと報道されていた。過去に似たような状況になったのは1996年、2007年、2014年だが、いずれもその後に大きな価格変動が起きている。今回も嵐の前の静けさということなのだろうか。記事でも述べられている通り、これが起きるかどうかは中央銀行の動きにかかっていると思う。2017年にFEDが利上げに動いたときにも市場変動は大きくなったが、すべてはこの金融緩和が継続するかにかかっている。

その意味では、最近になって金融政策においてはできる限りのことをやっており、後は財政だという論調がマーケットで一般的になり始めているのが気にかかるところである。引き締めとまではいかなくても金融政策が若干でも引き締め気味になれば、これまで溜っていたマグマが一気に噴き出すとも限らない。マイナス金利政策の副作用を懸念する声が大きくなっているのも気になるところだ。

とは言え、米国では昨年のレポ金利上昇によって金融緩和の継続は既定路線となっており、昨日金曜のNY時間に公表された12月の議事録の内容を読んでも、政策変更の可能性は極めて低そうだ。少なくとも年明けしばらくは大きな変動はないということなのだろうか。

円のフラッシュクラッシュ

日本が長期の休みに入ると必ずと言って程、円のフラッシュクラッシュの記事が海外で出てくる。今回もBloombergの記事で、徳にトルコリラ/円のフラッシュクラッシュを懸念する声が紹介されている。事実、昨年1月3日にクラッシュが起きているので、このような懸念が出てくるのも不思議ではない。

記事によると日本のリテール投資家はトルコリラに最も強気とのことである。ZAR、MXN等のロングも多いので、単に高金利通貨を多く保有しているだけのようにも思えるが、日本の投資家はこうした通貨への投資を他国に比べて多く行っているようだ。

日本の祝日には証拠金を追加できずにポジション解消を余儀なくされ、急速に売りがかさみ、その結果アルゴ取引等を誘発して円高に振れるという懸念なのだろう。

今回は結局何事もなく休暇が終わりそうだが、長期の休みがある度にこのような懸念が寄せられるのは健全ではない。また、資金決済が通常より長く行われないため、Settlement Riskを気にする声も聞かれる。日本の場合はどうしても休暇を長くしようという意識が政治的に働いてしまうのかもしれないが、あまり長期の休みが続く場合は、祝日でも金融市場を開けるとか、祝日がなくても休暇を取りやすくするような方向に舵を切った方が良いと思う。同じ時期に皆が休んでも行楽地は混むだけだし、航空機代やホテル代も高くつく。休みを分散して経済活動を続けていかないと祝日の少ない欧米に比べて不利になったり、投機筋やアルゴ取引の格好の餌食になってしまう危険性もあるのではないだろうか。

1/4追記:フラッシュクラッシュとまではいかないが、一時108円割れの円高が発生し、TRYJPYは18割れ寸前のところまで来ている。やはり流動性の薄い日の円高基調は継続しているようだ。

2018年末の米銀G-Sibスコアはどのように変化したか

米銀が2018年末にどの程度G-Sibスコアを減らしたかというニュースがRisk.netに出ていた。G-Sibスコアによって年末のバランスシートの使い方が変わり、それによって市場へのインパクトもあることから近年特に注目が集まっている。

特に規模を表わすスコアについては、各社の戦略を反映してかかなり異なる様相を呈している。規模スコアは、オンバランスのエクスポージャー、デリバティブ取引、SFT、オフバランス項目のクレジットエクスポージャー相当分の4つのカテゴリからなるが、GSがほとんどのカテゴリでスコアを減らしている。MSとState Streetも同様に規模縮小を進めているようだが、JPMとBNYは反対に規模スコアを伸ばしている。JPMは増加分のほとんどがレポ取引のようだ。記事にも書かれている通り、デリバティブエクスポージャーを減らすと、規模、相互連関性、複雑性スコアに影響があるため、各社とも特にここの削減に毎年力を入れているように見える。

全般的にデリバティブエクスポージャーを減らしてそれをレポ等に振り向けているようだが、このデータは一年遅れの2018年末のものであるため、ここでレポが膨らんだことからスコアの削減に本腰を入れたところがあったから9月の混乱が起きたというのは勘ぐり過ぎだろうか。いずれにしても2019年末にどう変化しているかに注目が集まる。

ベイルイン対象のSNP債の発行が欧州で急増

2019年に欧州系銀行が発行したベイルイン債がEUR100bnに達した模様とのことで、これは過去最高額である。 SNP債(Senior nonpreferred債)が中心だが、これは非優先シニア債とでも訳すのだろうか、銀行が危機に瀕した際には株式に変換されたり、銀行の損失を処理するために使われる債券である。金融危機時に税金投入をして批判を浴びた際に新たに導入が進められたリスクの高い債券である。

システミックリスクのあるとされる大手銀行は、2022年までにリスクウェイト資産の18%のベイルイン債を確保しなければならないことになっている。欧州ではMRELというハードルを設けて中小銀行に対しても十分なベイルイン債の保有を義務付けている。欧州のあらゆる国がSNP債の導入を進めていることから、今年2020年もこのSNP債の発行は高いレベルで続くことになると予想される。当然リスクの高い債券なのだが、昨今のマイナス金利債券と金融緩和から、投資家の需要も高く、順調に消化されている。これも一旦危機が起きると急に価格が暴落する資産の一つだろうが、しばらくは底堅い状況が続きそうだ。

年末のドル資金逼迫が無事回避された

懸念されていた年末の短期金利暴騰は起きなかった。米国FRBの大量資金供給により、混乱なく年明けを迎えることができたようだ。2019年最終日のレポ金利は1.55%くらいから1.88%に上昇したが、昨年末の6%と比べると極めて落ち着いた動きだった。

12月31日の翌日物の資金供給は$25.6bnとなり、これ以外にターム物の$230bnがマーケットに供給された形になっている。引き続きFEDの資金供給は継続されるものと思われ、正常化には程遠いというのがマーケットのコンセンサスではないかと思われる。今年もFEDの動きには注目が集まる。

規制が作り出した新たなマーケット

バランスシートの制約から、通常のレポ以外の方法による取引が増えてきた。GSがTRSを、JPMがSponsored repoを使うことにより、バーゼル上の資本制約をクリアしているという記事がFTで紹介されている。これによって年末の資金逼迫解消にも一役買うのではないかという報道されている。Sponsored repoやG-SIBスコアについては以前もこのブログで紹介したが、確かにこれによってバランスシートの拡大を抑えながら取引を継続することは可能になる。

TRSの方は、おそらくヘッジファンド等から国債を購入し、それをMMF等に資金の出し手に売却するとともに、そのパフォーマンスやファンディングコストをTRSの形でやり取りすることにより、経済的にはレポと全く同じ目的を達成するというものだろう。

Sponsored repoは、ヘッジファンド、MMF双方がFICCに置き換わるため、ネッティングが可能になり、バランスシートの拡大を防げる。

おそらく来年以降はこうした形の取引が主流になり、従来型のレポ取引は縮小していくことになるだろう。

Sponsored repoは確かにCCPが取引相手となるため、リスクも少なくなるが、TRSの方は技術的に形が変わっただけなので、規制上の扱いがこうも違うというのは不思議な気もするが、これも規制が作り出した新たなマーケットということなのだろう。

為替スワップの取引量が拡大している

英国中銀が先週出したレポートで中小銀行やヘッジファンドが為替スワップに依存したドル調達を増やしていると指摘している。どこかで聞いたような話だが、ドル調達をFX Swapで行うのは何も日本に限った話ではないらしい。ロンドンで取引されている為替スワップのうち約2/3が一週間といった短期の取引になっているとのことだ。

先般紹介したBISの指摘と同じで、より多くの市場参加者が為替スワップによるドル調達を増やしている。FTの記事では、Currency Swapと書かれているが、ここで伸びているのはスポット取引とフォワード取引を組み合わせたFX Swapである。Currency Swapというとどうしても普通の通貨スワップを想像してしまう。

商品ごとに見ると、49%が為替スワップ、30%がスポット取引となっており、通貨別ではEURUSDが34%、GBPUSDが16%を占めている。JPYUSDは3年前の14%からシェアを落として12%となっている。

Brexitの混乱の最中に、ロンドンが為替取引のメイン市場としてプレゼンスを上げているのが興味深い。過去3年の間に一日の取引量が5割増しになっている。

為替取引が増えた理由としては、クロスボーダーのレンディングが増えたこと、取引の電子化がその要因として挙げられている。

ここまで短期の為替取引が増えてくると、ドル調達について各当局が不安視し始めるのも無理はない。米国レポ市場における混乱もこの不安に拍車をかけている。とは言え、リーマン破たん時ですら3ヶ月のフォワード為替を取ることに何ら支障はなかったので、(当然b/oは上昇しコストは上がるだろうが)ドル調達ができないほどに短期のフォワード為替市場が崩壊するとは考えにくい。ただし、ストレステストのシナリオにドル調達のリスクを加味する様になると、何等かの資金手当てをするニーズが今後は強くなっていくのかもしれない。

社債価格は暴落するか

米国のハイイールド債価格が急激に下がるとMoody’sが木曜に警告を発している。2019年の価格上昇によって、企業業績がそれほど好転しない中、リスクに応じた価格が適正価格を超えたという主張だ。確かに、ここまで価格が上昇し信用スプレッドがタイトになってくると、一たび信用不安が起きたときには激しい価格の下落が起きる可能性は高い。あらゆる信用リスクモデルからしても、現在の価格は正当化できないほどに上昇している。

ただ、こうしたモデルの問題はそれがいつ起きるかを予想できないということにある。あらゆる金融商品の価格は、ある程度需要と供給によって決まり、例え価格が不当に高かったとしても需要があればその価格が下落することはない。そして社債保有者が不安に駆られると理論価格を超えて価格が下落する。

現在のように金融緩和でじゃぶじゃぶになった資金の行き場がなくなっているときは、どうしてもこういったマーケットに資金が流れ込んでしまう。その意味からすると、今しばらくはこのままの状態が続く可能性も高いものと思われる。

それよりも心配なのは、中国、南米等のドル建て債券ではないだろうか。ハイイールド債の発行額はこの5年で倍増したが、その多くは中国企業によるものだ。今年に至っては半分くらいが中国のものとなっている。アジアのハイイールド債は未だ7%を超える利回りを出しており、資金流入が継続している。来年は欧米のファンドがアジアのハイイールド債への投資を増やすという声もよく聞かれる。

当局や格付機関からの警告にも拘らず、しばらくは社債市場のバブルは継続するような気もする。

規制により金融機関の意思決定が遅くなってきている

FEDが行ったアンケート調査の結果、多くの大手銀行がレポ金利高騰の理由として規制による制約を上げているという報道が出ている。同時に3/5の銀行は、9月の金利上昇は技術的なもので、一時的な要因によるものと回答している。

そして、個人的にはこれが最も重要だと思うが、ほとんどの銀行が、例え金利が高騰したとしても、すぐに行動に移せないと答えている。多くの銀行がこうした金利上昇の機会を捉えるには最低1日必要であり、3/4の銀行は1週間程度必要としている。

規制でバランスシートを減らさなければならないというニーズは確かにあるが、それでも10%にもなればさすがに少しくらい資金供給をしても良いと思っていたのだが、銀行上層部からバランスシートを減らせという号令がかかっているときに、社内の承認を取るのに時間がかかってしまうということなのだろう。

銀行はすべてにおいて社内のプロセスに時間がかかるようになっており、例え収益機会があったとしてもすぐに行動に移せない。ひたすらあらゆる部門の承認を取る必要があり、またそうした承認権限は一部の上昇部に集中しているため、直ちに動けなくなっているものと思われる。

もしかしたら規制の最大の悪l影響は、金融機関の意思決定能力を削いでしまったということなのかもしれない。自動化、電子化の流れの中で、マーケットは急速に変化しており、素早い対応が求められるようになっているものの、金融規制により、チェック項目が増えた上、罰金やレピュテーションリスクを恐れて、身動きが取れなくなっている。ここまでくると、金融機関ではなく機動的に動ける新規参入組の方が今後の金融の高度化を担う中心勢力になっていくのかもしれない。

マイナス金利政策の副作用

スウェーデンの中央銀行がマイナス金利政策の脱却を目指し、政策金利を5年ぶりにマイナスからゼロにまで上げた。マイナス金利が恒常化すると経済活動に影響を及ぼし副作用が出るという趣旨のことを述べている。マイナス金利政策をいかにして終わらすかについて頭を悩ませている他国にとって試金石となるだろう。ほかの国でも何となく副作用を気にする声が高まっているように思う。マイナス金利政策は全体としては失敗という論調が一般的になっていく可能性もある。

ただ、スウェーデンの場合はマイナス金利政策からの脱却は目指すものの資産買入は継続する予定だ。金融緩和は継続して金利引き下げ効果は狙うものの、金利をマイナスにするのは良くないということなのだろうか。

金利をマイナスにして通貨安にすればその国の企業にとってはプラスの効果があるとされてきたが、おそらくその効果がスウェーデンでは現れていないという点が大きいのかもしれない。

確かに日本でも、金融緩和で膨らんだ現金を、低金利から外債やプラス金利の社債等に振り向ける企業は多く、これが円安圧力となっているものと思われる。以前はリスクオフになると、この資金が日本に還流する為急速な円高になるということが起きていたが、最近はこうした動きが緩んできたように思う。ユーロ等円以外のキャリー通貨が現れたことも一因かもしれないが、やはりいくら安全とは言ってもマイナス金利の資産に資金を振り向けるということがなくなっているのかもしれない。日銀決定会合ではひとまず金融政策の現状維持が確認されたが、今後の動向に注目したい。

CCPの参加者デフォルトに対する保険

米国のCCPのICEが参加者デフォルト時の保険導入を決めた。以前からこのような蓋然性の低いリスクに対しては保険が最適と思っていたのだが、これがさらに進めば、金融市場全体の安定に資するものと思われる。この保険は、デフォルトウォーターフォール上、CCPの負担部分である所謂SITG(Skin in the game)と非デフォルト参加者の精算基金の間に位置する。メンバーデフォルト時に直ちに保険会社から支払いが行われるわけではなさそうなので、とりあえずは非デフォルトメンバーが資金を一時的に負担するものの、その後保険で払い戻されるという仕組みのようだ。

$600mmを超えるような清算基金のうち$25mmだけが保険で保証されるということなので、それほど大きな変更ではないが、世界のCCPにデフォルトウォーターフォールの在り方に一石を投じる仕組みだと思う。特に今回の保険の優れたところは、非デフォルトメンバーの精算基金が費消される前に保険が効くという点である。

CCPの参加者たるディーラーは、Contingent Fundingに対して資本を積む必要あるため、いくらあり得ないようなシナリオだったとしても、日々ファンディングコストや資本コストを負担している。この負担が保険によって軽減できるのであれば、クリアリングにポジションをシフトさせるインセンティブが生まれ、よりカウンターパーティーリスクや資本コストを削減できることになる。

保険会社にとっても、蓋然性の低さからして地震保険や台風の保険などよりはよっぽど理にかなったビジネスのように思える。まだまだ世界的に広がるにはハードルは高いと思われるが、ついにCCPの参加者破綻保険が実現したことは喜ばしい限りであり、今後も似たような発展が続くことが望まれる。

Brexit後のデリバティブ市場

かねてからの予想通り、EUがLCHなどのCCPに対するアクセスをBrexit後1年間延長することになりそうだ。3月で免除期限が来るはずだったが、1月31日に離脱となると2021年1月末まではデリバティブ市場に混乱は生じない模様だ。
同時に先週木曜には、EUからは、1月からESMAなどの規制当局により強力権限を与えるとのアナウンスも出ている。EU域内にラストリゾートとしてクリアリング業務を移管する可能性にも触れている。

CCP以外にもCompressionベンダーや周辺業務を行う会社もロンドンに数多く存在しており、以前不透明感は残るが、ひとまず当局はデリバティブ市場におけるクリアリングハウスの重要性には理解を示しているようだ。

しかしここまでCCPがデリバティブ市場の中心的インフラになってくると、CCPに対する規制はこれからも厳しくなるだろうし、どこまで営利企業であり続けられるかという疑問も出てくる。ある程度競争原理を働かせるべきということで複数CCPが存在している訳だが、その理由は利益水準を競うものではなく、リスク管理、安定性等において競い合うようになっている。

顧客獲得競争という意味では、極力手数料を下げ、所要担保額も下げれば、参加者を増やすこともできるかもしれないが、現状そのようなことをすれば当局から目を付けられるだけでなく、大手の参加者から批判の声が上がる。完全な資本主義とは異なる微妙なバランスのインセンティブシステムが出来上がっているように思う。もしかしたら銀行も同じ方向に進んでいるのかもしれない。

米国レポレート急騰に関するBISの分析

9月の米国レポレートの急騰の原因については、法人税支払い、当日の巨額決済、LCR等の規制、オペレーショナルエラー等様々な理由が挙げられているが、今月公表されたBISのQuarterly Reportでは一連の説明を試みている。主に以下のような分析だが、概ねマーケットの実感とも一致する。一部規制のインパクトにも触れているのが興味深い。

  • 米国レポ市場の資金の出し手は米銀大手4行に集中している。
  • これら4大銀の流動性は米国債に偏ってきており、資金提供能力が悪化している。
  • 同時にヘッジファンド等のレバレッジプレーヤーからの資金需要が旺盛になっている。
  • FRBの大規模資産購入によって銀行は準備預金を増やしていたが、2017年10月以降の買入縮小に伴い、現金から米国債に資金を大幅にシフトさせた。4大銀の国債保有は銀行が保有する国債全体の50%を超え、上位25行でカウントすると90%に至った。
  • FEDのバランスシート拡大がマネーマーケットの機能不全を招いた。以前のような短期市場を取引する経験のあるトレーダーがいなくなり、マーケットメーカーが少なくなり、これにLCR等の規制が加わり銀行が資金を融通するよりもためておくインセンティブが生まれた。
  • スポンサードレポによってMMFがHedge Fund等に資金を流すフローが生まれたが、9月からリミットの関係もあるのかMMFが資金提供を渋り始めた。

金持ちの銀行を利する規制緩和を闇雲に批判するのではなく、こうした客観的な分析に基づく規制改革が進むことに期待したい。