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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

日本株への注目は高まるか

中東問題やウィルスの話はあるものの、年始からマーケットは堅調な動きを見せている。各国中央銀行の金融政策が最大のドライバーであることは間違いないが、企業決算、地政学リスク等を考えると、市場関係者の間では極めて慎重な意見が多い。ダボス会議でも、BridgewaterのCIOのコメントにもあるように景気拡大は終わり、中央銀行は金融緩和も引締めもできないという苦しい立場に追いやられてるように見える。

マイナス金利政策については、銀行業界から多くの批判が出ているが、やはり自らの収益低下の言い訳に聞こえるのか、ロビー活動の成果は全く出ていない。最近では、マイナス金利政策の長期化が経済に与える悪影響を説明することにより、別の方面から説得を試みているように見えるが、確かにマイナス金利政策のおかげで、資金がリスク資産に急速に流れているのは事実であり、これが資産価格上昇を招いているというのも誤った指摘ではないだろう。今年だけで19兆ドルにも上るという社債のリファイナンスの規模もクレジットマーケットにとっては懸念の種である。通常のリセッションは、こうした債務不安から株価急落が誘発され、景気後退という流れを辿る。ダボス会議である投資家代表がコメとしたように、中央銀行が次のリセッションを2021年か2022年に先延ばしはしているものの、最終的には確実にそれは起きるのだろう。

過去の株価や不動産価格の動きを見ていると、今ここで投資を増やすかどうかというのは非常に難しい選択だが、投資しないリスクもある。その中で唯一過去対比それほど割高に見えないのは日本株なのかもしれない。日経平均株価では、過去20年で2回表れた月足のゴールデンクロスに近づいている。ここを達成すると、現在の価格から2割高の2万9000円付近までの上昇が視野に入るとの見方がある。確かに何かショックがあった時の傷は既に急上昇した他のセクターよりも、浅くなるのかもしれない。

米銀の変化に見る金融の方向性

米銀決算が好調である。マイナス金利、規制強化、マージンの縮小と色々なマイナス要因は挙げられるが、この10年で米銀の収入は拡大し、ROEも上昇、収益性は高まっているように見える。だが、特に好調なのは預金取扱銀行であるJPM、BAML、CITIである。規制対応、電子化等規模の経済の働く分野の重要性が増したということもあるが、今後はコマーシャルバンクの時代なのかもしれない。2000年くらいには、5大銀行の時価総額はほぼ横並びだったのが、現在でがJPMの時価が突出しており、BAML、CITIと続く、Wells Fargoなどもスキャンダルがなければもう少し好調だったかもしれない。一方マーケット業務を中心とするGS、MSの時価総額は回復したとは言え、コマーシャルバンクには及ばない。

GSはMarcusやAppleとのパートナーシップでコマーシャルバンクに参入を図っており、MSはWealth Managementへのシフトを進めている。やはりトレーディングに対する資本賦課の方が厳しかったというのが最大の理由だと思うが、顧客のニーズも伝統的な銀行業や資産運用ビジネスにシフトしているのかもしれない。ある意味当局主導でこのシフトが起きたとも言え、当局の方向性に沿ったビジネスをするところが利益を上げられるということなのだろうか。金融機関の将来を考える時に、本来どのようなビジネスを提供すべきかというよりは、資本制約の少ないビジネスは何かを考えて事業再編を考える方が成功しやすく、そうなるとすべての銀行が同じ方向に向かってしまう。そして、中小銀行よりは大銀行が有利になり、新規参入は可能なように見えて、周辺業務以外は実はそれほど進んではいない。

翻って国内を見ると、日本は伝統的にコマーシャルバンク優位の国であり、伝統的な銀行業務を得意とする点からも、もっと国際的にプレゼンスがあっても良いはずである。米銀は、Wells Fargo以外はかなりトレーディング業務を行っており、今回の決算でも実はトレーディング収益をかなり上げている。伝統的な銀行業務を活かしてトレーディングに結び付けているようにも思える。そうなると、日本でも銀行と証券をどう一体的にビジネスとして相乗効果を発揮するかというのがキーになっていくように思える。

FEDの資金供給はQEと同じ効果をもたらしている

FTにFEDの資金供給はQEかそうでないかという記事が出ている。昨年10月にFEDが資金供給を行った際に、パウエル長官はこれはQE(Quantitative Easing、量的緩和)ではないとしきりに強調していたが、マーケットでは実質的にQEだという受け止め方をする人が多い。これを機に株価をはじめとする資産価格は上昇し、株価上昇は今も続いている。前回QEの終了を図ったのは2017年の10月だが、しばらくして株価は伸び悩み2018年秋以降から下降トレンドに入ってしまった。今回はレポによる資金供給に加え、$60bnの短期国債を購入し続けている。

QEとなると長期金利を下げ、安全資産から株式等のリスクのある資産へのシフトを促す目的で行われるが、今回はそうした目的ではないとFEDは主張している。そして1年以内の短期の国債を購入することで、長期金利への影響は限定的ということで、QEではないというロジックにしているようだ。確かに10年国債金利は10月移行逆に上昇しているが、結局FEDが短期国債の購入を増やして資金をじゃぶじゃぶに供給したため、お金の行き場がなくなり、それが株式等のリスク資産に流れている。

おそらく目的としてはQEではなく、短期資金市場で起きた混乱に対処するための方策だったのかもしれないが、結局QEと同じ結果をもたらしている。FTで紹介されているコメントの通り、後はこれを取りやめる時にマーケットがどのように受け止めるかということが重要になってくる。FEDとしてはかなり厳しい状況に追い込まれているように思えるが、いったいどのようにしてこれを正常化させていくのだろうか。そしてその時に株価はどうなってしまうのだろうか。

CCPの清算基金

ナスダックの清算基金が棄損し、清算参加者が損失を被った件以降、CCPの安全性に対する注目が高まったが、今般Risk.netで大手CCPの清算基金の構成についての記事が出ている。これを見ると、それぞれのCCPによってかなりリスクが異なっているように見える。安全第一のところは中央銀行や分別された預金が主であるが、ここで少しでも収益をひねり出そうというところは社債やAgency Bondに投資をしたり、リバースレポでYieldを享受しているところもある。

日本のCCPであるJSCCの場合は、43%が中央銀行預金、31%が国債で、安全性を重視しているように見えるが、Eurexのように社債に振り向けているところもある。

FMI原則はあるものの、確かに清算基金の構成までを制限する規制はないため、このようなばらつきがあるのかもしれないが、CCPの安定性にもかかわることなので、今後は何らかのルールができていくのかもしれない。

ある程度CCP間の競争によって技術革新を促すことも必要なのだろうが、何において競争するかCCPの場合はよくわからなくなってしまう。当然証拠金や清算基金が少なければ、コストが安くなり、一部の参加者はそれにメリットを感じるかももしれない。一方リスクが高まればそれを気にする大手や保守的な参加者はそのCCPを敬遠するかもしれない。では利益を上げているCCPが良いかというと、証拠金や清算基金を利ザヤの稼げる資産に投資することも可能だが、その資産が棄損するリスクもある。とはいっても利益が出ないCCPはそれだけで安全性がなくなる。

市場参加者からすると、同じ商品で複数CCPがあるとマーケットの分断が起きる。現状であれば国内参加者から固定受け金利スワップをJSCCで行ったものはJSCCの参加者とでなければ完全なヘッジができない。これをLCHでヘッジしてしまうとCCPベーシスという新たなリスクを取ることになってしまうので、以前より市場分断が起きている。こうなると、国のインフラとして一つのCCPにまとめた方が楽ではないかという意見も出てくる。

今更一つのCCPにまとめることは不可能だろうから、何とかCCPの相互接続、リスク移転ができるように進めていくのが一番ではないだろうか。当局を巻き込んだ大がかりな議論になるだろうが、昨今の流動性では、これを進める価値はあると思う。

金融引締めが先かバブル崩壊が先か?

世界の資産価格はFEDに依存しているという記事があったが、全くその通りだと思う。2年ほど前にバランスシート縮小を始めた際に、マーケットはすぐさま反応し、結局量的緩和が続けられることになった。その間株価は上昇を続けてきており、特に昨年9月のレポショックの後は更なる資金供給が続けられている。当然国債を購入する方法ではなくレポによる資金供給であり、FEDもこれはQEではないとしつこく念押ししていたが、効果としては同じものがある。結局バランスシートが10%増加したのだから大したものである。こうなると当然金利は下がるし、株価は上がっていく。

こうした流動性は伝統的な貸付などの銀行活動から供給されているというよりは、レポ取引、デリバティブ取引等によって賄われており、資金供給先としては中央銀行を先頭にソブリンウェルスファンド、ヘッジファンド、アセマネ、キャッシュリッチな企業等が挙げられる。

QEを終了させようとして市場が混乱した経験や、レポ金利が10%以上に跳ね上がった経験を持つFEDとしては、本音ではバランスシートの縮小をしたいものの、最後までQEを続けなければならないのではないだろうか。特に利上げを極端に嫌うトランプ政権のもとでは、いくら中央銀行の独立性といっても、なかなか難しいという事情もある。米国以外の国も、他に先駆けて資産縮小に舵を切れば、自国通貨高を招く懸念からなかなか動けない。

もしかしたら金融引き締めによってバブルが大崩壊した90年代の日本のような状況なのかもしれない。おそらくそれを恐れたFEDは早めに対処したかったのかもしれないが、市場変動が思ったより大きかったため、結局緩和継続を余儀なくされている。

しばらくは、いくら景気が過熱しても大統領選もあるため、あまりドラスティックな動きはできないだろう。そのため、後1年くらいは株価上昇は続くのかもしれないが、何かのきっかけでバブル崩壊が起きてもおかしくないのかもしれない。

やはりLIBOR改革は当局主導

以前LIBORからRFRへの移行は当局のプッシュによって進むということを昨年の投稿でも書いたが、やはりその通りの状況になってきた。決して金融機関がさぼっている訳ではないと思うのだが、この移行はやはり一大作業である。技術的な問題が多すぎて罰則で追い込まない限りは改革のスピードが上がらない。

今回は英国BOE、FCA共同声明でポンド建てのLIBOR連動キャッシュプロダクトを9月末までに取りやめるようにとの指導があったと報道されている。社債や仕組債の発行にも影響が出るかもしれない。 デリバティブ取引については、ポンド建て金利スワップの利用を停止する期限を3月2日としている。 既に 大手各行の経営層に書簡が送られたようだ。来月からは、毎月移行に向けた努力を行っているという明確lな証拠の提出が求められる。 進展がない場合は、資本賦課をするというのが常套手段だが、こうなるとコストに跳ね返ってくるので、金融機関は多大なコストをかけてでも移行を進めようということになる。

今回は珍しく日本の新聞でも簡単に紹介されているので、国内でも関心が高まってくるだろうし、金融庁が同じことをしても不思議ではないだろう。

TOTUS Letterはもう必要ない

昨年夏にこのブログでも紹介したが、Volker Rule2.0により、今月からTOTUS Letterは必要なくなっている。こんな風に簡単に結論だけを書くと弁護士には怒られるが、詳細は各種弁護士事務所がサマリーを作っているのでそちらを参照して頂きたい。ここはあくまで個人が気ままに書いている日記のようなものなので。

にもかかわらず、この事実が周知徹底されていないのか、業界の中でも未だこれが必要だと思っているところが多い様である。2013年のボルカールールでは、Prop Tradingの規制から外れるには完全に米国とは無関係であるということを確約するTOTUS Representative Letterというものを米系とは結び、米国人が取引のArrangement、Negotiation、Executionに関わらないということを確認していた。

2019年の修正により、この要件を満たす必要がなくなり、TOTUS Letterがなくても、一定の免除規定を満たしている限り、引き続きTOTUS Exemptionを受けられることになっている。弁護士ではないので確固たることは言えないが、TOTUS Letterはもう必要なくなったということだと理解している。

しかし、大手ならまだしも、米国債等を取引する多くの投資家が、こうした米国の規制変更までいちいち追っていくのは無理があり、逆の立場だったら米国の投資家が日本の規制変更をそこまで見ているとは思えない。しかも英語の法律で海外の法律に従うため、まじめにやろうとすれば弁護士事務所にコストを払って分析をするところもあるのかもしれない。これだけグローバルになった金融取引で、こうした域外適用は少しでも減らして欲しいものである。

リスクオフで選好される円以外の安全資産

年始に中東に緊張が走った時、誰もが急速な円高を予想したはずである。だが実際は107円程度までの穏やかな円高にとどり、その後はすぐに110円までの円安に動いた。以前は、有事の際は安全資産といい割れる円への資金逃避が起き、円高につながるというように言われることが多かったが、徐々にこの法則が働かなくなってきている。

マイナス金利で行き場を失った資金が外貨資産に流れ、急速なリスクオフの際に円に換えるニーズがあるからと言われることもあるが、何となくしっくりこない。おそらく他国の金利も下ってきたため、円以外の選択肢が増えたと言う事なのではないか。事実、今回は円ではなくゴールドに資金が流れているようでもあり、ユーロ等の低金利通貨にも資金が向かっているように思える。こうなると日銀が介入するような急速な円高の可能性はかなり低くなっているのではないだろうか。

英国CCPのEUアクセスは6月末までに決まる

先週木曜に、英国のCCPがBrexit後にEUの投資家にアクセスを保てるかは6月までに決めたいとのコメントがESMAから出された。英国がEUの規則をほぼキープしたとしても自動的にアクセスが引き続き与えられる訳ではないという態度は依然変わっていない。

1月31日に英国がEU離脱をしても経過措置は12月末まで続くはずだが、その後の運用については不透明性が残る。LCH等が引き続きEU顧客にサービス提供を続けられるかどうかは英国ルールがEUと同等かどうかがキーになるが、これも6月までに分析を終えるようだ。

色々と警告が出されているものの当局同士が市場の分断を避けたいと思っているのは確実であり、おそらく大きな混乱なく移行が進むのではないかと思う。ただ、不測の事態に備えて巨額のコストをかけてEU域内のオペレーションを用意した金融機関にとっては、かなりの収益圧迫要因になっていることは間違いない。おそらく大丈夫とはいっても、準備を怠ると当局や取引相手からも信用されなくなるので、無駄とはわかっていても投資をせざるを得ない。

近年はこうしたコスト負担が大きくなっているように思う。ビジネスを存続させるためには致し方ないのかもしれないが、採算性を厳しく見ていくと一部のビジネス閉鎖という判断につながってもおかしくないところまで来ている。ただ、同時に参入障壁も高まっているので、今後は大手銀行が引き続き存続し、周辺ビジネスや一部のファンクションをスタートアップや小規模なベンダー等にアウトソースする姿が一般的になるのかもしれない。もちろんベンダー選定のプロセスも厳しくなっているので、何をやっても手間がかかるのは変わりないのだが。

フェイルに対する欧州規制

今年の9月から、欧州で決済のフェイルに対する規制強化が行われるというニュースが出ている。日本では、もともとフェイルに対して厳しい立場をとる投資家が多かったが、海外では1日に数百から数千件のフェイルが恒常的に発生しているのが現状である。

現状債券の3%、株式の6%と結構なフェイルが発生しているという分析もあるため、債券、株式の取引コストに影響が出てもおかしくない。現場の感覚からすると、殆どのフェイルは数日のうちに解決し、大きな問題になることは少ないが、今後は業務フローを見直す必要がある。それでも不確実性を嫌う日本ではフェイルを問題視する傾向があるので、海外よりは対応が楽かもしれない(その割には連続休暇時に未決済残高が溜まることにはあまり問題視していないのも不思議ではあるが)。

基本的には欧州内の取引についての規制だが、EuroclearやClearstreamなどで決済する証券が対象になるので日本への影響も無視できないものと思われる。

マージンが急激に縮小する中取引コストだけが嵩んでいくが、今後の取引流動性に悪影響が出ないことを願うのみである。

金融に求められる人材

South China Morning Postに金融機関の人材需要についての記事があった。オンラインバンキングへの移行に伴い、金融機関に求められる人材ニーズが変化しつつあり、今後求められている人材と既存のスキルを持った人材にミスマッチが現れているようだ。香港とシンガポールで1000人以上の採用ニーズがあるとのことだ。

求められているのは、規制を理解し、テクノロジーの知識に長けた人材で、オンラインサービス業務を推進できる人材とのことで、既存の銀行員のスキルとは合わないとのことである。またウェルスマネジメントの分野の人材獲得競争も加速しているようだ。

最近では金融に関しては日本よりアジアを含む海外の方が変化が早いので、日本でも起きているこの現象は加速していくものと思われる。というよりは、こうした人材を海外で雇用した方が世界の流れについていくには適しているだろう。

そうなると、今後は海外の人材をいかにマネジメントしていくかというスキルが必要になる。自動翻訳等により言語能力が必要なくなるかと思いきや英語はますます重要になっているようで、この点でも日本が不利な状況は続いてしまうのかもしれない。仕事の仕方も変えていかなければならなくなるのだろう。

HKのCCPが日本の銀行のために通貨スワップのクリアリングを提供?

日本の金融庁がHKEX(Hong Kong Exchange & Clearing)の子会社であるOTC Clearに対してポストトレードサービスを日本の銀行に行うライセンスを許可したとのことである。

とりあえずは決済などポストトレードサービスとのことなのだが、HKEXとしては、将来的に日本の銀行から需要の強い通貨スワップも手掛けたいとのアナウンスを出している。

HKEXは最近急速に取り扱い取引量を増やしており、メンバーになる大手銀行の数も増えてきている。LCHが通貨スワップの精算ではなくSwapAgentにシフトしたので、通貨スワップのクリアリングとなると日本のCCPが最初に手掛けることになると思っていたのだが、HKからこのようなニュースが出てくるのは意外だった。

従来から行っているUSD/HKDのような通貨に限定されると思われるが、日本の銀行からUSDHKDの需要がそんなに強いとも思えず、いったん決済の仕組みを作ってしまえばUSDJPYにも拡大することは技術的にはそんなに難しくないのではないだろうから、将来的にはドル円通貨スワップにも進出ということになるのだろうか。いずれにしてもHKEXのクリアリングサービスについてはあまり詳しくなかったのでちょっと調べてみる必要がありそうだ。

金融政策と為替変動

2019年、株式や債券マーケットの収益がそれほど悪くなかった一方、為替マーケットは本当に動かなかった。FTの記事でも為替の変動幅が1973年以降最も狭かったと報道されていた。過去に似たような状況になったのは1996年、2007年、2014年だが、いずれもその後に大きな価格変動が起きている。今回も嵐の前の静けさということなのだろうか。記事でも述べられている通り、これが起きるかどうかは中央銀行の動きにかかっていると思う。2017年にFEDが利上げに動いたときにも市場変動は大きくなったが、すべてはこの金融緩和が継続するかにかかっている。

その意味では、最近になって金融政策においてはできる限りのことをやっており、後は財政だという論調がマーケットで一般的になり始めているのが気にかかるところである。引き締めとまではいかなくても金融政策が若干でも引き締め気味になれば、これまで溜っていたマグマが一気に噴き出すとも限らない。マイナス金利政策の副作用を懸念する声が大きくなっているのも気になるところだ。

とは言え、米国では昨年のレポ金利上昇によって金融緩和の継続は既定路線となっており、昨日金曜のNY時間に公表された12月の議事録の内容を読んでも、政策変更の可能性は極めて低そうだ。少なくとも年明けしばらくは大きな変動はないということなのだろうか。

円のフラッシュクラッシュ

日本が長期の休みに入ると必ずと言って程、円のフラッシュクラッシュの記事が海外で出てくる。今回もBloombergの記事で、徳にトルコリラ/円のフラッシュクラッシュを懸念する声が紹介されている。事実、昨年1月3日にクラッシュが起きているので、このような懸念が出てくるのも不思議ではない。

記事によると日本のリテール投資家はトルコリラに最も強気とのことである。ZAR、MXN等のロングも多いので、単に高金利通貨を多く保有しているだけのようにも思えるが、日本の投資家はこうした通貨への投資を他国に比べて多く行っているようだ。

日本の祝日には証拠金を追加できずにポジション解消を余儀なくされ、急速に売りがかさみ、その結果アルゴ取引等を誘発して円高に振れるという懸念なのだろう。

今回は結局何事もなく休暇が終わりそうだが、長期の休みがある度にこのような懸念が寄せられるのは健全ではない。また、資金決済が通常より長く行われないため、Settlement Riskを気にする声も聞かれる。日本の場合はどうしても休暇を長くしようという意識が政治的に働いてしまうのかもしれないが、あまり長期の休みが続く場合は、祝日でも金融市場を開けるとか、祝日がなくても休暇を取りやすくするような方向に舵を切った方が良いと思う。同じ時期に皆が休んでも行楽地は混むだけだし、航空機代やホテル代も高くつく。休みを分散して経済活動を続けていかないと祝日の少ない欧米に比べて不利になったり、投機筋やアルゴ取引の格好の餌食になってしまう危険性もあるのではないだろうか。

1/4追記:フラッシュクラッシュとまではいかないが、一時108円割れの円高が発生し、TRYJPYは18割れ寸前のところまで来ている。やはり流動性の薄い日の円高基調は継続しているようだ。

2018年末の米銀G-Sibスコアはどのように変化したか

米銀が2018年末にどの程度G-Sibスコアを減らしたかというニュースがRisk.netに出ていた。G-Sibスコアによって年末のバランスシートの使い方が変わり、それによって市場へのインパクトもあることから近年特に注目が集まっている。

特に規模を表わすスコアについては、各社の戦略を反映してかかなり異なる様相を呈している。規模スコアは、オンバランスのエクスポージャー、デリバティブ取引、SFT、オフバランス項目のクレジットエクスポージャー相当分の4つのカテゴリからなるが、GSがほとんどのカテゴリでスコアを減らしている。MSとState Streetも同様に規模縮小を進めているようだが、JPMとBNYは反対に規模スコアを伸ばしている。JPMは増加分のほとんどがレポ取引のようだ。記事にも書かれている通り、デリバティブエクスポージャーを減らすと、規模、相互連関性、複雑性スコアに影響があるため、各社とも特にここの削減に毎年力を入れているように見える。

全般的にデリバティブエクスポージャーを減らしてそれをレポ等に振り向けているようだが、このデータは一年遅れの2018年末のものであるため、ここでレポが膨らんだことからスコアの削減に本腰を入れたところがあったから9月の混乱が起きたというのは勘ぐり過ぎだろうか。いずれにしても2019年末にどう変化しているかに注目が集まる。

ベイルイン対象のSNP債の発行が欧州で急増

2019年に欧州系銀行が発行したベイルイン債がEUR100bnに達した模様とのことで、これは過去最高額である。 SNP債(Senior nonpreferred債)が中心だが、これは非優先シニア債とでも訳すのだろうか、銀行が危機に瀕した際には株式に変換されたり、銀行の損失を処理するために使われる債券である。金融危機時に税金投入をして批判を浴びた際に新たに導入が進められたリスクの高い債券である。

システミックリスクのあるとされる大手銀行は、2022年までにリスクウェイト資産の18%のベイルイン債を確保しなければならないことになっている。欧州ではMRELというハードルを設けて中小銀行に対しても十分なベイルイン債の保有を義務付けている。欧州のあらゆる国がSNP債の導入を進めていることから、今年2020年もこのSNP債の発行は高いレベルで続くことになると予想される。当然リスクの高い債券なのだが、昨今のマイナス金利債券と金融緩和から、投資家の需要も高く、順調に消化されている。これも一旦危機が起きると急に価格が暴落する資産の一つだろうが、しばらくは底堅い状況が続きそうだ。

年末のドル資金逼迫が無事回避された

懸念されていた年末の短期金利暴騰は起きなかった。米国FRBの大量資金供給により、混乱なく年明けを迎えることができたようだ。2019年最終日のレポ金利は1.55%くらいから1.88%に上昇したが、昨年末の6%と比べると極めて落ち着いた動きだった。

12月31日の翌日物の資金供給は$25.6bnとなり、これ以外にターム物の$230bnがマーケットに供給された形になっている。引き続きFEDの資金供給は継続されるものと思われ、正常化には程遠いというのがマーケットのコンセンサスではないかと思われる。今年もFEDの動きには注目が集まる。

規制が作り出した新たなマーケット

バランスシートの制約から、通常のレポ以外の方法による取引が増えてきた。GSがTRSを、JPMがSponsored repoを使うことにより、バーゼル上の資本制約をクリアしているという記事がFTで紹介されている。これによって年末の資金逼迫解消にも一役買うのではないかという報道されている。Sponsored repoやG-SIBスコアについては以前もこのブログで紹介したが、確かにこれによってバランスシートの拡大を抑えながら取引を継続することは可能になる。

TRSの方は、おそらくヘッジファンド等から国債を購入し、それをMMF等に資金の出し手に売却するとともに、そのパフォーマンスやファンディングコストをTRSの形でやり取りすることにより、経済的にはレポと全く同じ目的を達成するというものだろう。

Sponsored repoは、ヘッジファンド、MMF双方がFICCに置き換わるため、ネッティングが可能になり、バランスシートの拡大を防げる。

おそらく来年以降はこうした形の取引が主流になり、従来型のレポ取引は縮小していくことになるだろう。

Sponsored repoは確かにCCPが取引相手となるため、リスクも少なくなるが、TRSの方は技術的に形が変わっただけなので、規制上の扱いがこうも違うというのは不思議な気もするが、これも規制が作り出した新たなマーケットということなのだろう。

為替スワップの取引量が拡大している

英国中銀が先週出したレポートで中小銀行やヘッジファンドが為替スワップに依存したドル調達を増やしていると指摘している。どこかで聞いたような話だが、ドル調達をFX Swapで行うのは何も日本に限った話ではないらしい。ロンドンで取引されている為替スワップのうち約2/3が一週間といった短期の取引になっているとのことだ。

先般紹介したBISの指摘と同じで、より多くの市場参加者が為替スワップによるドル調達を増やしている。FTの記事では、Currency Swapと書かれているが、ここで伸びているのはスポット取引とフォワード取引を組み合わせたFX Swapである。Currency Swapというとどうしても普通の通貨スワップを想像してしまう。

商品ごとに見ると、49%が為替スワップ、30%がスポット取引となっており、通貨別ではEURUSDが34%、GBPUSDが16%を占めている。JPYUSDは3年前の14%からシェアを落として12%となっている。

Brexitの混乱の最中に、ロンドンが為替取引のメイン市場としてプレゼンスを上げているのが興味深い。過去3年の間に一日の取引量が5割増しになっている。

為替取引が増えた理由としては、クロスボーダーのレンディングが増えたこと、取引の電子化がその要因として挙げられている。

ここまで短期の為替取引が増えてくると、ドル調達について各当局が不安視し始めるのも無理はない。米国レポ市場における混乱もこの不安に拍車をかけている。とは言え、リーマン破たん時ですら3ヶ月のフォワード為替を取ることに何ら支障はなかったので、(当然b/oは上昇しコストは上がるだろうが)ドル調達ができないほどに短期のフォワード為替市場が崩壊するとは考えにくい。ただし、ストレステストのシナリオにドル調達のリスクを加味する様になると、何等かの資金手当てをするニーズが今後は強くなっていくのかもしれない。

社債価格は暴落するか

米国のハイイールド債価格が急激に下がるとMoody’sが木曜に警告を発している。2019年の価格上昇によって、企業業績がそれほど好転しない中、リスクに応じた価格が適正価格を超えたという主張だ。確かに、ここまで価格が上昇し信用スプレッドがタイトになってくると、一たび信用不安が起きたときには激しい価格の下落が起きる可能性は高い。あらゆる信用リスクモデルからしても、現在の価格は正当化できないほどに上昇している。

ただ、こうしたモデルの問題はそれがいつ起きるかを予想できないということにある。あらゆる金融商品の価格は、ある程度需要と供給によって決まり、例え価格が不当に高かったとしても需要があればその価格が下落することはない。そして社債保有者が不安に駆られると理論価格を超えて価格が下落する。

現在のように金融緩和でじゃぶじゃぶになった資金の行き場がなくなっているときは、どうしてもこういったマーケットに資金が流れ込んでしまう。その意味からすると、今しばらくはこのままの状態が続く可能性も高いものと思われる。

それよりも心配なのは、中国、南米等のドル建て債券ではないだろうか。ハイイールド債の発行額はこの5年で倍増したが、その多くは中国企業によるものだ。今年に至っては半分くらいが中国のものとなっている。アジアのハイイールド債は未だ7%を超える利回りを出しており、資金流入が継続している。来年は欧米のファンドがアジアのハイイールド債への投資を増やすという声もよく聞かれる。

当局や格付機関からの警告にも拘らず、しばらくは社債市場のバブルは継続するような気もする。