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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

米ドルの優位性は揺らぐか

関税に代表される昨今の政策不安定化を受けて、米国からの資金流出が起き、基軸通貨としてのドルの立場が危ぶまれるという論調が多くなっている。確かに金利スワップは、ユーロスワップがドルスワップを上回るようになってきており、ドルのシェアは下がっている。しかし為替の方はドルが依然メイン通貨として取引が行われており、これが簡単に変わるとは思いにくい。

それでもドルは主要通貨に対して弱含んでおり、以前は米10年金利が上がれば通貨高という相関関係がみられたのだが、最近はこの相関が崩れ始め、米金利が4.4%近辺で安定しているにも関わらず、ドルが弱くなってきている。

しかし、統計上は海外投資家は、4月を除けば米株や米債券などのドル資産を買い続けており、資金流出が起きているようには見えない。これはおそらくBISのペーパーが示しているように為替ヘッジによるものなのだろう。ここのところ、日本の生保も含め米国外の投資家はヘッジ比率を下げてきた。ところが突然の米通貨安に備え、これらの投資家がヘッジ比率を上げてきたというのがBISの主張である。

つまり、通貨安の懸念により米資産を売るのではなく、既存の米資産のポジションを保ったまま、為替ヘッジを増やしたということだ。したがって、米債券が売られたり米株が売られることはなく、通貨としてのドルショートが増え、ドルが下落したという分析だ。ドル安がアジア時間に起きていたため、日本や台湾などを中心にアジアの投資家がヘッジ比率を上げてきたと言われており、同じことは欧州の投資家でも見られる。

そうは言っても世界の公式外貨準備高の57%がドル建てであり、通常の決済でも引き続きドルが支配的な地位を保っている。米国への投資も進めば、ドルの地位がますます盤石になるという意見もある。ユーロにはユーロの問題があり、ドルに取って代わるような有力候補もない。ただし、今回明らかになったのは、ドルに依存しすぎるのは危険であり、これまでより真剣にリスク分散や、ドルに問題があった場合のプランを考えなければと考える投資家が増えたということだ。何かきっかけがあれば、一気にドルがその地位を失うということもあり得る。その意味で米経済が変調をきたすかどうかは、これまで以上に注目を集めることとなる。

ボラティリティの高まりによってVaR Breachの回数が増加

市場変動の高まりを受けて、VaRのバックテストにおけるVaR超過回数が増えてきた。Barclaysがこの第二四半期に5回の超過を記録したことによって、資本計算上の掛け目の上昇を招いたと報じられていたが、他の銀行でも多かれ少なかれ同じようなBreachが発生していたものと思われる。このバックテスト自体はもう30年近く前にバーゼルで導入されたものなので、ほぼこなれてきているはずなのだが、やはり昨今のボラティリティの高まりによって、各行とも見直しを迫られているようだ。とは言っても他の英銀を見ると5回も行っていないので、特にBarclaysのモデルへのインパクトが大きかったようだ。

当然英国当局が、この市場変動をトランプ関税による一時的な異常事態と判断すれば、このBreachのカウントから外す可能性もある。しかし、四半期で5回となると、すべてを除外するのは不可能だろう。これまではリーマン破綻、コロナなど、比較的例外措置を取りやすい市場変動が多かったが、最近はこうした一回のイベントというよりは、だらだらと市場変動が続くというケースが増えてきているような気がする。

規制VaRの計算においては、片側99%の信頼区間、10日の保有期間で計算されたVaR値を超えた日を1回としてカウントする。過去12か月に5回以上のBreachがあれば、資本の積み増しが要求されることになる。Var Breachというとの巨額損失が発生したかのように誤解されるが、損失の大小は問題ではなく、あくまでもモデルで想定した損失より大きかったかどうかで判断される。したがって、損失がかなり小さくても、モデルの計算する損失見込みより大きければ、それはBreachとして記録されることになる。

JPモルガンなども昨年第四四半期に2回のBreachを記録しており、その際にはトレーディング収益の不調によりVaR Breachが発生などと報じられていた。これも、トレーディング不調というよりは、モデルが予測した損失より大きい事象が2回あったというだけのことなので、報道の仕方は若干ミスリーディングである。バーゼルなので当然日本でもこうしたBreachは恒常的に発生している。ただ、関心が少ないのか、日本ではあまりこうしたニュースは報道されていない。

Var Breachを防ぐにはVaRモデルを保守的にするしかないのだが、それはそれで通常時のVaR値が上振れすることになる。ただ、ここまで市場変動が激しくなってくると、VaR BreachをしてMultiplierが上がるより、モデルの見直しをした方が良いというところが増えてきそうな気もする。簡単にやるのなら、VaRでは補足されない取引があるということでModel not in VaRなどでVaRを上振れさせておくというのもあるのかもしれない。

米国の金融規制緩和が加速してきた

米国から規制緩和の話が矢継ぎ早に報道されている。少し前とは全く規制強化を擁護する意見もあるものの、数年前とは全く様相が異なっている。米国の場合は、ほとんどのミーティングがYutube等で公開されているので、その場の聴衆の反応なども感じることができて雰囲気もつかみやすい。

特に7月22日に行われたLarge Bankに対する資本規制の包括レビューが興味深い。これは6月に就任したFRBのボウマン副議長の発案によるものだが、あらゆる方面からの専門家、ロビイストが含まれており、Open AIのAltman氏とボウマン副議長とのFireside Chatも話題になった。これまでなかった試みだ。

その中でパネル2を見てみた。いつもながらMike Mayo氏のコメントはシンプルでわかりやすい。基本的に現行の規制枠組があまりにも複雑で理解しづらく、コストも高いと批判している。信用リスク、市場リスクなどはかなり減ったものの規制リスクが増え、その規制対応のためにあまりにも多くの資金が使われているとの主張だ。全般的にBasel III endgameは所要資本を増やすためのものではなく、資本の質を高めるものにすべきというのがパネリスト共通の見解であったと思う。特に個々の資本規制は理屈が通ってはいるが、全体としてみるとダブルカウントがあったりして行き過ぎているということで意見が一致しているように見えた。

面白かったのは、FRB前副議長のRandal Quarles氏のコメントだ。資本規制の歴史を語る中で、Basel Iがなぜ導入されたかというと、日本の銀行が、少ない資本でグローバルマーケットを席巻しており、レベルプレーイングフィールドが確保するために導入したと言い切っていた。当時バーゼル規制を卒業論文にした自分にとっては驚きではない発言だが、ここまで公に認められると潔い。そして、そのバーゼル規制から米国が脱退しようという動きがあるから皮肉なものだ。司会者からも、米国が抜けたらどうなるかという質問が出ていたが、全員教科書的な回答に終始していた。

日本の銀行の優位性を削ぐためにバーゼル規制を作ったのだが、今度は米国の銀行に不利になるとそこから脱退する。何とも不思議な話で、できればこの場に日本の当局の方に参加して頂き、反論していただきたかったくらいだ(実際Risk誌で批判記事では出ているが)。

その他やはり知識の豊富さを見せつけたのが、GSのSheara Fredman氏だった。内容的にかなりマニアックではあったが、パウエル議長を始め当局の要職者が出席する中、具体的な数字を挙げて、嫌味にならない程度に効果的なロビー活動を展開していた。規制の国際統一に関しては、事業会社に対するCVA免除などで当局間の対応が分かれている点なども指摘していた。このようなハイレベルのパネルでCVAという言葉が何度も出てきているのは興味深かった。

Fredman氏は、ストレステストとBasel III Endgameのダブルカウントについてかなり発言に時間を割いていたが、法的リスクやシステムトラブルから発生するOperational RiskがCCARストレステストから$180bn、Basel III endgameの一部であるオペレーショナルリスクRWAから$150bnダブルカウントされているが、過去10年のG-SIBから発生したリスクは$100bnに満たないとのことだ($100bnには数字の取れないオペレーショナルリスクは含まれていない)。これ以外にもCVA RWAや市場リスクRWAでかなりの重複計算があるということだ。

またFRTBとCCARストレステストに含まれているGMS(Global Market Shock)についても、同じような計算をしながら統一性がない点を問題視していた。両方とも極端だがあり得る経済ショックを使っているが、ショックの度合や流動性を図る期間などに細かい差がある。

そして、いずれもリーマンショック時をベースとしたシナリオを使っているが、金融危機以降どの程度改革があったかを考慮していない。たとえば、CLOやモーゲージローンなどの証券化商品については、LTVも当時から全く異なり、モーゲージの借り手のFICOなどの属性も全く異なる。各種の保守的な前提条件が重なることにより、100の債券を買うと120の資本を求められるケースもある。しかもこうしたケースがかなりの資産で起きているとのことだ。

パネルディスカッションとはいえ、こうした主張が当局トップに対して行える場があり、それが広く公開されているというのはうらやましい限りだ。同時にここまで細かいテクニカルな話が、こうした重要な会議で話されているというのは、ある意味米国の強みなのかもしれない。トランプ政権の意向を受け、無理やり規制を緩和するという話が多いかと思ったのだが、意外とバランスの取れた議論が行われており、米国がBasel IIIから抜ける可能性は低いのではないかという印象を受けた。もちろんトランプ大統領がどう判断するかは全く未知数だが。

英国のCCPガイダンス修正案

英国中銀(BOE)が市場の安定化のため、CCPの新たなガイダンス策定作業を行っており、今はそのコメント期間となっている(期限は今年11/18)関税ショックによって変動証拠金が多いところで149%増、当初証拠金も全体で3.6%の増加となっており、突如証拠金を手当てする必要性が市場のボラティリティを大きくするのではないかというのはもっともな懸念である。

BOEから出ている実際の文書はEnsuring the resilience of CCPsというタイトルで公表されているが、非常に長文で内容も多岐にわたる。もともと欧州EMIR規制で定められてたものを英国版EMIRとして援用しているが、今後独自色が強まる可能性もある。

まず目を引くのは、当初証拠金についての提案である。CCPの証拠金計算手法の詳細を開示し、市場参加者が必要担保額の増加を前もって予測できるようにするという提案が含まれている。そして、これを既存の清算会員のみならず、クライアントクリアリングの顧客、または潜在的な参加者に対しても公開するよう提案している。内容的には、モデルの設計、運用、前提とその限界、主要パラメーターの詳細などの開示が求められている。各参加者側でも同じモデルを構築できるレベルの情報ということなのだろうが、大手のCCPでは概ね対応済の内容かと思われる。

変動証拠金については、日中証拠金の頻度を上げることはリスク管理上重要と認めつつ、参加者の流動性に影響を与えることから、日中コールのプロセスとタイミングに関する情報提供を要求している。そして、プロシクリカリティを評価するための分析、ガバナンス等の悌吾を義務付けている。これらは、裏を返せば、市場参加者がCCPのモデルをよく理解して、自らの流動性計画に織り込むようにというメッセージとも取れる。

更に、このブログでも主張してきたポーティングの実効性確保のための提案も数多く盛り込まれている。実際に破綻が起きたときに、2日といった短期間で他のブローカーにリスク分析を依頼し、ポジションを引き受けてもらうのは、極めて困難だと思われる。このため、今回は破綻訓練にポーティングを含めることを義務付けるよう提案がなされている。そして、顧客の同意なしにCCPがポーティングを開始できるようにするという提案もある。これを嫌がる顧客はいるだろうが、確かにこれができないと、オムニバス口座の1人の顧客が同意しなかったために、誰もポーティングが行えないという懸念があるため、安定的にデフォルト処理を進めるには不可欠なのかもしれない。

その他様々な提案が含まれているが、時間のある時にもう少し読み進めてみたい。

SA-CVAのRWA削減努力が実り始めた

少し前にDanske BankのCVA Capitalの減少が話題になった。昨年からCVAに関する所要資本が半分になり、10年前と比べると1/10くらいに減少している。この削減のほとんどがSA-CVAから来ているようで、個別CDSやTRSによるヘッジも同じように増えていることから、ようやく資本コストを意識したヘッジが、大手以外でも幅広く本格的に行われるようになってきたと言えるのかもしれない。

これでRWA全体に占めるCVA RWAの割合が10年前の2.5%から0.25%にまで縮小した。BA-CVAを適用しているポートフォリオからの削減幅は小さくほとんどがSA-CVAからの削減となっている。日本の大手ではローンのRWAがほとんどではあるものの、CVA RWAの割合は2%台後半で、地銀でも1%を超えているところが多い。したがって、日本でも同じような資本削減効果が達成できるのかもしれない。特にSA-CCRを適用している大手銀行、証券会社は同じような資本削減を試してみる価値はある。

Danskeの場合、CVAのRWAが約228.7mmとかなり小さくなってきたが、これは日本の大手地銀よりも小さい。以前は日本のメガと同じくらいのRWAだったのが、ここまで減ってくるというのは、ヘッジ以外の削減効果もあったのだろうが、それでもヘッジによる削減幅は相当なものなのだろう。

日本の場合はBA-CVAを適用しているところもまだ多く、なかなかヘッジでRWAを減らすのは難しいが、SA-CVAを適用している先進行では、今後こうしたリスク削減の動きもみられるようになっていくかもしれない。また、きちんとヘッジの効果が反映できることが確認できれば、BA-CVAからSA-CVAへの移行も活発化するのかもしれない。

金利上昇によって資本コストが重要に

金融庁の「バーゼル規制の概要」が6/14に更新された。バーゼル規制導入の経緯からその詳細、加えてレバレッジ比率、LCR、NSFRなどの各種資本規制についても非常にわかりやすくまとめられている。また、銀行ごとのSIBバッファ、内部格付手法採用行のリストも掲載されている。個人的には、バーゼル2から3になって各手法がどのように変わったか、どの手法であれば金融庁の承認が必要なのかについて赤字で示しているP14が非常にわかりやすい。

海外では資本バッファが重要になっており、通常の資本コストのみならずストレス時の損失を加味する形に代わってきている。これにより、取引リミットにストレス損失を組み込む動きも活発に見られる。日本の資本バッファは金融庁のバーゼル規制の概要P5に記載があるが、国際統一基準行に対する4つのバッファーが適用されている。

将来のストレスに備えた資本保全バッファーが2.5%なので、これはかなり大きい。海外で話題になるカウンター・シクリカル・バッファー(CCyB)については日本はゼロとなっている。また期末の取引流動性にまで影響を及ぼすG-SIBsバッファーについては、MUFGが1.5%、みずほ、SMFGが1%、D-SIBsバッファーは、SMTB、農中、野村、大和に0.5%が適用されている。

ちょっと興味をひかれたので主要行のリスクウェイトアセットを調べてみた(単位10億円)。銀行によってデータの時点が若干揃っていないが、大手が70兆円から110兆円程度、大手地銀は一桁兆円となっている。

資本構成を見てみると、予想通り信用リスクRWAが最大で6-7割を占めている。マーケットリスクRWAやカウンターパーティーリスクRWAには銀行ごとに差がある。大手はカウンターパーティーリスクとCVAリスクを合わせて5~10兆円だが、地銀はほとんどこのリスクがないが、一部でCVAリスクが大きくなっている。ただし、CVAリスクについては、まだ銀行によって計算の方法に差があるのかもしれない。

信用リスクRWAが大きいのは海外大手も同じだが、Credit Risk RWAが全体に占める割合で見ると、海外の銀行の方がむしろ大きいかもしれない。海外の場合、コントロール可能な市場リスクやCVAリスクなどを減らすべく、決算期末に大規模なRWA削減が行われるが、日本ではこうした動きはまだ見られない。ここには示していないが、証券会社の場合は信用リスクRWAが減り、メインが市場リスクやカウンターパーティーリスクにシフトする。

RORA(RWAに対する利益)の国際比較をすると米国や英国が1%後半にあるのに対し、日本の国際基準行14の平均は1%を下回り世界で最低レベルとなっている。イタリアやスペインなどでも1.5%は超えている。ただし、これまで資本効率を意識してこなかったことを考えると今後の上昇余地は大きい。「資本コストや株価を意識した経営」が叫ばれるようになってきたことから、後はどこが先に動くかという段階になっているように思える。

円金利がついに上昇し始め、金利リスクに関する資本規制についての見直しも入ってくる可能性がある。シリコンバレーバンクの例などもあるため、少なくとも当局検査などで説明を求められる可能性は高い。金利リスク分に対して資本を確保していく必要も出てくるだろう。こうなると、キャッシュリッチだからという理由では不十分となり、金利リスクのヘッジ戦略や、限られたリソースの最適化が急務となるだろう。

米国規制の更なる緩和

先日ポストした米国SLRの変更のほかに、米国債をレバレッジエクスポージャーから除外するという緩和の話も進んでいる。また、G-SIBスコアの米国特有のMethod2についての見直しの話も出始めた。

グローバルバンクに適用されるG-SIBのMethod1は、相対指標なので、銀行全体の規模が大きくなれば、各行のスコアは変わらない。一方米国のMethod2は絶対指標なので、全体のパイが大きくなれば、全員のスコアが増えてしまう。そうすると、経済が大きくなる、あるいはデリバティブ市場が拡大すれば、米国以外のG-SIBスコアには変更がないが、米銀のスコアだけが市場規模の拡大に併せて増加してしまい、より多くの資本を積むことが要求される。

おそらく制度設計の段階では、このような市場規模拡大期には、適宜調整を行うということだったのだろうが、これまで一度も変更は行われていない。昨今では市場変動の拡大に併せてヘッジニーズも増え、デリバティブ市場は着実に拡大している。このままいくと、米銀のスコアだけが増えて、必要資本も増えてしまうことになる。

特に第一四半期の結果を見ると米銀のG-SIBスコアは軒並みかなりの増加を見せている。年末に一旦スコアが下がって第一四半期にその反動で急増するというのはいつものことだが、今年はその増加幅が例年に比べて大きい。

そもそも規制によって年末に銀行が取引を縮小し、年始に取引を再開するというのは、市場の安定に資するとは言えない。単に規制が作り出したUnintended Consequenceである。年末になると、当初証拠金やリスクを増やしてまでも想定元本を減らしに行くようなところが出てくるかもしれない。金融機関としては、資本コストを下げるために当然の行動ということなのかもしれないが、市場にとっては悪影響を及ぼすことになるほか、銀行のリスク管理上も本来は望ましくない。

データがないので詳しくはわからないが、年末は元本削減のコンプレッションが増える一方、元本の増える可能性のある証拠金の最適化やリスク最適化が減っているのではないだろうか。証拠金コストや資本コストが海外ほど重視されていない日本ではこうした動きは見られないだろうが、海外大手行が取引を絞れば円金利、為替市場に対しても何らかの影響が出てくることが予想される。

その意味でも今回見直しの機運が高まっているのは市場にとっては良いニュースと言える。特に現状の米国政権下では、近い将来に見直しが入るのではないかと予想される。

日本におけるストレステストの強化

先月、地銀を対象としたストレス時対応力の強化に向けたモニタリングレポートが金融庁から出されているが、同時期にLBOローンに係るモニタリングレポート粉飾等予兆管理態勢の高度化に向けたアクション・プログラムなども公表されている。金融庁サイドの異動の時期に併せて年間の集大成として出しているのだろうか、いずれにしても地銀を中心とした金融機関のリスク管理高度化を求める動きが加速しているように見える。

4月に出されたカウンターパーティー信用リスク管理に関するガイドラインでも触れられていたが、グループ管理やすべてのビジネスラインを含むストレステストが重要というメッセージを良く目にするようになってきた。すべてのビジネスラインや拠点を含んだエクスポージャー計算ができないと、本当の意味でのリスクが計測できない。

そもそも海外現法の場合はプライシングモデルが異なるといったことがあると、同じ取引であってもグループ内で評価方法が異なるということになってしまう。欧米の監査においては確実にアウトなのだが、日本においては、システムや与信管理のグループ内統合については、これまで厳しく言われてこなかった。しかし、グループ全体でエクスポージャー計算やストレステストをしようと思うと、不完全な結果になってしまう。また、ブックする拠点を変えれば収益が上がるということも起きてしまう。もちろん、そんなことを行うところはないだろうが、内部取引でリスクを各拠点間で最適化している欧米金融機関と同じことを行うのが困難になってしまう。

今回のストレステストに関するモニタリングレポートにおいては、望ましくない事例が「懸念事例」として紹介されているので、今後はこうした事例に当てはまらないようにストレステストを強化する必要がある。そして「参考事例」として模範事例も紹介されている。

たとえば、軽微なストレスシナリオしか考慮していない、ストレス時でも自己資本比率が十分かどうかの検証が不十分、アクションプランが未検討、営業部門が不関与、ストレステストが経営判断のツールとして使われていない、グループの対象範囲が規定にないといった問題のある金融機関が一定数、または少数ながらあったという結果になっている。

おそらく海外のストレステストに関するガイドラインなども参考にしているのだろう。グローバルガイドラインと似たような内容の指摘が散見される。ただし、こうしたガイドラインが出たからと言って、コンサルや第三者に丸投げして体裁だけ整えていると、経営陣の理解が足りないという批判を受けることになる。

海外当局も経営陣に対しては、リスク管理に関して細かい質問を常に投げかけている。したがって、JPモルガンなど大手銀行のトップなどは、規制やリスクに関して異様に詳しい。特にストレステストの結果によって配当や自社株買いに制限がかかってしまう米国などでは、かなりのリソースをこうしたリスク分析に割いている。株主総会でもリスクやストレステストに関する議論をトップ自らが引っ張っている。経営陣がリスクを把握するツールとしてはストレステストは極めて有効な分析である。

今後は日本でも様々なストレステストが行われることになっていくだろうが、コンサルやベンダー丸投げではなく、実効性のあるリスク管理強化が求められる。

担保動向の変化~ISDA Margin Surveyより

今日は久々にISDA Margin Surveyを見てみる。まずはSurveyに参加している大手ディーラーが受け取った担保額を確認してみると、VMは市場変動に合わせて動いているが、IMが着実に増えているのが確認できる。

当初証拠金のマージン規制が2016年から段階適用されているので当然ではあるが、2022年9月のIMビックバンまで、以下のように閾値が下がる程度に併せてIMが増えているのがわかる。

Phase 1 2016年9月 €3tn
Phase 2 2017年9月 €2.25tn
Phase 3 2018年9月 €1.5tn
Phase 4 2019年9月 €750bn
Phase 5 2021年9月 €50bn
Phase 6 2022年9月 €8bn

IM規制の導入が一段落したからなのか2023年から2024年にかけてIMの金額が横ばいとなったように見える。あるいはIM最適化の広がりによって増加に歯止めがかかっているのかもしれない。

以前は全体の担保額に対するIMの割合は10%程度だったが、今では約30%となった。マーケットの変動幅の拡大とデリバティブ取引の増加によって証拠金規制の対象となる市場参加者は今年も増えているので、新規IMによる担保増とIM最適化による担保減によって、今後の担保額が変動していくのだろう。

もう一つ特筆すべきなのが、IMに対する現金比率の低下である。以前は2割くらいが現金だったが、今では約1割となっており、国債担保が広く使われている。一方Other Seruciriesに分類される社債などの比率も35%に増えているのが興味深い。証券の方が倒産隔離が容易だからという理由もあるが、担保拠出コストの高まりによって、極力現金以外を使おうという動きがみられる。驚くことに、VMにおいても現金比率が8割程度から7割を切るところまで下がってきている。

現金以外の担保を拠出すれば、ディスカウントの影響で取引のプライスが悪化するのだが、そのデメリットを上回るコストベネフィットがあるということなのだろう。特に規制VMではない現金担保の場合は遂に6割を切るところまで来ている。

英国のGilt Shockでも明らかになったように、突然の市場変動で巨額の担保を求められると、保有している債券などの資産を現金化する必要がある。キャッシュリッチではない事業会社や、投資資産の売却を余儀なくされるファンドにとっては現金担保は使い勝手が悪い。今後も現金以外の担保を利用したいというニーズには根強いものがあるようだ。

清算集中規制の例外が認められた

タイトルだけ見ると、若干誤解を招くかもしれないが、欧州で一部のバニラスワップがクリアリング規制の対象外になったと報じられた。もう少し詳しく言うと、当初証拠金最適化に伴って発生したスワップについてはクリアリングしなくても良いということだ。

当初証拠金が右肩上がりで増え続ける中、複数の市場参加者のポジションに最適化アルゴリズムを走らせることにより、各社の必要証拠金額を下げるということが、欧米を中心に行われてきた。しかし、CCPに溜まった一方向の取引を最適化するには、そのリスクを一部相対取引に移して、CCPのIMと相対のSIMMの合計を減らすことが必要になる。だが、相対でスワップをブックすることは清算集中義務に反するので、スワップションを使って何とかこれを行ってきた。

規制の趣旨からいって、マーケットに存在する集中リスクを下げ、CCPに溜まったリスクも減らすことができるので、市場の安定化に資するはずなのだが、規制の条文を杓子定規に読むと、スワップが使えないばかりか、スワップションを使ったとしても規制の趣旨に反する(?)という保守的な考え方も可能だった。とはいえ、さすがにスワップションは問題ないだろうと考えるところが多かったため、何とか証拠金削減が行われてきたのだが、多数のスワップションをブックするのは結構手間であり、プロセスが複雑になるので、証拠金削減の効果が少なくなってしまっていた。今般単純なスワップを相対でブックすることが認められたので、今後は、当初証拠金がより大きく削減できることになる。

記事によると、英国においても同様の免除が近々導入される見込みで、少し遅れて米国SECやCFTCも同じ免除措置を検討しているとのことだ。

こうなると今年末または来年初めには欧米全てにおいて、免除が認められることになるため、市場に存在している当初証拠金が格段に減る可能性がある。ただし、日本については何も記事には書かれておらず、双方が免除を受けていないと削減ができないので、あくまでも欧米の銀行間同士でのみ削減が可能になる。しかし、邦銀の欧米現法は、この免除の恩恵を受けられることになるのだろう。

おそらく日本は当局も欧米並みにコンプレッションを推奨するガイダンスを出しておらず、金融機関自体もこういったコストに敏感ではなかったので、それほどニーズがなかったのかもしれない。しかし、ようやく金利も上がり始め担保のファンディングコスト削減が課題となってきているので、日本でも同様の免除措置が認められることが重要になってくる。そうしないと、日本の金融機関との取引だけがコスト高になって流動性にアクセスしずらくなる可能性がある。

第一四半期の米銀G-SIBスコア

以前G-Sibスコアの上昇が市場に影響を与えたという記事を書いたことがあったが、年末を超えその後スコアがどうなったかを確認してみたい。

2024年第四四半期から2025年第一四半期への米国のMethod2のスコアを推移を見てみる。

JPM: 980 -> 1113
Citi: 683 -> 757
GS: 693 ->744
BofA: 679 -> 712
MS: 589 – > 650

資本コストが上がる閾値が630、730であることを考えると、Citi、GS、MSなどはコストの上がる次のバケットに上がっている。年末は何とかスコアの上昇を抑えようという努力が伺われたのだが、それが外れて第一四半期はいずれも大幅上昇となっている。通常第一四半期はスコアが高くなる傾向があるので、当然ここから年末に向けて削減努力が続けられていくものと思われる。しかし、今年の上昇幅は例年に比べてもかなり大きめだ。それにしても2020年くらいまでは何とか横ばいで抑えられてきたG-Sibスコアが、確実に上昇トレンドに入ってきたように見える。特にJPMの上昇が激しい。

スコアの詳細を見るとやはりデリバティブの想定元本の貢献度が大きいようだ。これはコンプレッションによって削減可能であり、通常大手銀は、常日頃からコンプレッションをしやすい取引を意識して取引を行っている。したがって、たとえ第一四半期でスコアが伸びたとしても、例年のように年末に削減できる可能性が大きい。

しかし、トランプ関税の影響で市場のボラティリティが上昇しており、その他の削減が難しい項目のスコアが上がってくる可能性が高い。別途公表されたSLRの緩和によってリスクベースではない資本計算上は余裕が生まれてくるだろうが、G-Sibについては引き続き注意を払っていく必要がある。

JPMのダイモンCEOがSLRの緩和がすべての問題を解決するわけではないと述べていたのは、こうしたその他の規制が複雑に絡み合っているからであろう。

米国SLRがついに緩和

既に6/17に原案が公表されていたが、25日の公開会合で、ついにSLRの緩和が確実となった。60日のパブコメはあるものの、ほぼ原案に近い形での緩和が実現するものと思われる。この緩和が米国債の流動性を高めることにはならないという反対意見もあったようだが、現場で取引をしていた人であれば、これがどれだけ市場流動性供給の妨げになってきたかは明らかだろう。

特にこのブログでも何度も主張してきたように、SLRはあくまでもリスクベースの資本規制に対するバックストップであるべきで、Binding Constraintになってはならないという原則が強く謳われている。そのため、実際各行のSLR要件がリスクベースの資本要件より厳しくならないように調整されている。

これまで公表されている情報によると、SLRバッファをUSのMethod1の半分に設定するとのことである。これまで3%+2%のバッファ(預金取り扱い銀行の場合は全体で6%)で5%が米国SLRの最低要件だったが、この2%のバッファ部分が下がることで全体の要件が1.5%程度下がることになり、5%が3.5% – 4.5%に下がる。

一部報道ではこれによって$210bnの所要資本削減になると大々的に報じられているが、これは若干誤解を招く表現である。先ほども述べた通り、SLRをバックストップにするというのが原則なので、当然リスクベースの資本要件は順守しなければならない。つまりリスクベースの資本要件とSLRの両方を計算した上で、厳しい方に従うということなので、リスクベースの資本要件よりSLR要件が厳しかった部分のみがこの変更の恩恵を受ける。

BPIの計算によるとこの削減幅は$7.1bnということになり、$210bnよりは格段に少なくなる。じゃあ、ほとんど影響がないかというと、心理的にはかなり大きな違いがあると思う。現場でSLRを気にしていた身からすると、想定元本に依存した資本要件の呪縛から逃れられるのはかなり大きい。コロナショック時に米国債をレバレッジ比率の計算から除く時限措置が導入されたときのことを思い出して頂ければ、いかに市場ストレス時にこの変更が重要かおわかりいただけただろう。

もちろんSLRが廃止された訳ではないので、引き続き想定元本をベースとしたリスク計算は続けなければならないのだが、これで国債取引やレポ取引の流動性は(特に市場ストレス環境において)向上することになる。米国外における米系のプレゼンスを考えると、日本国債市場の流動性にとっても有利に働くように思う。

SA-CVAは広がるか

SA-CVAになって、マーケットリスクヘッジやCDSによるヘッジの一部を資本計算に反映できるようになったことにより、リスク管理の実務と資本計算が近づくことになった。内部モデルを使った方式とは異なり、大手銀行が行っているヘッジのすべてが反映されている訳ではないのだが、それでも大きな進歩である。

とは言え、他の標準法とは異なり、欧州ではSA-CVAの適用に当局承認を求めているようで、モデルの検証や銀行に立ち入っての検査などが行われているらしい。CVAに関して自信をもって当局に語れる人材はそう多くなく、専門家というと、社内のクオンツが最もモデルには詳しいのだろうが、ヘッジの仕方や会計的な扱いにまで通じている訳ではなく、当局対応に慣れているという訳でもない。

欧州では標準法であるSA-CVAをあきらめて基礎的手法であるBA-CVAを適用するところが増えているという記事も以前見られたが、こういった当局対応などに関するコストが原因となっているのかもしれない。おそらくSA-CVAはコストがかかる割りにはベネフィットが少ないので簡便法で良いという判断になっているのだろう。

通常の標準法というのは、資本削減幅が限定的である代わりに、当局承認が必要なく当局が決めた方法に従って計算すれば良いという簡便法が多い。しかし、SA-CVAについては、標準法の中では若干計算が難しく、きっちりと当局が精査すべきという意見もあるのだが、そうするとBA-CVAで良いのではないかということになってしまう。

FRTBに関して言えば、市場リスクフレームワークにおいて同じことが起きており、3行を除くほとんどの欧州銀行がコストのかかるIMA(内部モデル方式)ではなく標準法で十分なのではないかという判断を下している。

ある程度厳しく精査していく必要はあるのだろうが、それが厳しすぎると誰も高度な手法を使おうと思わなくなる。そして、資本計算が実際のリスク管理と乖離したり、業界全体のリスク管理能力を低下させることにつながる可能性もある。どの程度厳しくするかについて正解はないのだろうが、この調整を誤ると金融業界にとって望ましくない結果となる危険性もある。SA-CVAについては何とか多くの銀行が適用できる方向に動いてほしいものである。

世界のデリバティブ市場のトレンド

バーゼルのOTCデリバティブ取引の統計情報が更新されているので、ここ10年の動きをおさらいしてみる。

まずは全体の取引元本だが、昨年2024年下期の想定元本は約$700tnで、ここ10年では$500tnから$700tnへと40%増加している。特に直近2年間の伸びが大きい。いつも上半期で増えて下半期に減るというサイクルを繰り返しているが、年末のコンプレッションの影響が大きいものと思われる。

為替取引は全体の10%程度だが、取引量は10年で倍に迫る勢いになってきており、徐々にシェアが増加している。Spot/Forwardほどではないものの通貨スワップの取引量も順調に伸びており、デュレーションを考慮すると通貨スワップのリスク量の伸びはより大きいものと予想される。それほど伸びていなかった通貨オプションが、直近2年で急速に増えている。

取引主体別にみると銀行などのディーラーのシェアは、ここ2年を除けばほぼ横ばいで、その他金融に分類されるファンドやマーケットメーカーなどの取引が10年で倍増しており、今やディーラーをはるかに凌ぐ取引量となっている。CCPのシェアは為替については小さいが着実に増加しており、全体の15%に迫っている。

通貨別ではやはりドルが圧倒的なシェアを占めており、次いでEUR、JPY、GBPという順番になっている。近年は横ばいだったJPYの取引量が若干増えつつある。為替取引に関して言うとUSDとEURの差は依然として大きい。

次に全体の8割近くを占める金利商品だが、こちらは10年で約20%増で、上期に増えて下期に減るという傾向が為替よりも顕著だ。オプションは横ばい、FRAは若干減少傾向にあるので、増加分はほぼ金利スワップに集中している。

金利についても取引主体のメインはその他金融だが、そのほとんどはCCPである。満期ごとの取引量を見ると長期より短期取引の伸びが大きい。1年未満の取引については上期下期の変動が激しく、年末に資本削減やG-SIBスコア削減のために、短期取引のコンプレッションが活発に行われているのが伺われる。

最も興味深いのが通貨別の統計だが、2年ほど前からUSDとEURが逆転している。トランプ関税の話が出る前からUSDからEURへのシフトが起きていたのがわかる。そして、長期低迷していたJPYの取引量が過去2年で急増し始め、昨年下期にはついにGBPを抜き、EUR、USDに次ぐ3位に躍り出ている。

株式デリバに関しては、全体の1%と小さいが、2024年までのデータを見る限り米国の独壇場だ。近年ではEquity OptionやFowardの取引量も増えている。

以上、為替デリバや株式デリバはUSD中心だが、金利デリバについてはEURへのシフトが著しい。現状の米国の財政状況を見ていると、今後本当に米国債からの逃避も継続していくのかもしれない。JPYについては、金融政策正常化を受けてようやく本来の位置に戻りつつあり、為替の世界では常にUSD、EURに次ぐ3番手だったが、金利スワップに関しても、英ポンドを抜いてUSD、EURに次ぐ地位を確立しつつある。特に足元の変化が大きいので、今年このトレンドが続くかどうかに注目したい。

24時間トレーディング

昨年9月に米国NSCCが取引時間を拡大し、それまで夜中の1時半までだった取引期限を朝4時とした。来年2026年からは土日を除いた24時間オープンが予定されている。NASDAQも来年からの24時間トレーディングについて当局承認待ち状態にある。既にオーバーナイトの取引を行っている市場もあることから、将来的には24時間トレーディングが普通になっていくのだろうが、これがOTCデリバとなると今一つ不安感をぬぐい切れない。

先物や為替取引などではリアルタイムマージンを導入して24時間プライムブローカーサービスなどが行われてきたが、リスクマネジャーとしては気が気でなかった。実際に日本の市場参加者でも夜中の2時にアラートが発せられることもあり、契約上は担保が入ってこなければ即時強制終了という条項はあるものの、実務的には様々な問題が発生する。強制終了せざるを得ない個人投資家の場合はこれが標準なのだろうが、そこそこ大きな機関投資家となると、長期の顧客関係もあり、なかなか判断に迷うことが多くなる。単なるオペレーションの遅延ということも多い。

頻繁に発生する為替の急激な変動、数年前の電力、天然ガス、ニッケル等のコモディティ価格の急変、英国トラス政権を失脚させた英国債ショックなどが寝ている間に発生した時に、取引所や金融機関がそれに問題なく対応できるかが重要になってくる。ここまでくると、24時間体制でモニタリングのできるシステムや決済フローを構築する必要があるが、いくらテクノロジーが進歩したといっても、今の状況では、まだ人の力が必要である。24時間稼働をするには日本でシフトを組むのは現実的でなく、海外時間でのオペレーション体制も整えておく必要がある。

当然デリバティブ取引については先の話になるのだろうが、メールでマージンコールをかけて、時価が合うかどうかを照合し、送金手続きを行うという処理では間に合わないことは明らかである。そもそもお互いが取引時価を別々に計算してそれを合わせていては不可能なので、誰かが中立公平なプライスを提供してくれることが不可欠になる。とは言え、技術的には全く難しくなく、決済についてもリアルタイム決済への移行が確実なので、将来的には夢物語とは言えない。寝ている間の極度の市場変動についても、一定のサーキットブレーカーを設ければ対応可能だと思われる。

ただし、そうなる前に各金融機関がシステム投資を怠らず、将来的な金融変革に備えておかなければならない。欧米には遅れているとはいえ、日本でも人手不足が深刻になりつつあるためか、これまで人海戦術で対応してきた部分を積極的に自動化しようという動きが活発になってきている。こうして決済リスクが減ればMPOR(Margin Period of Risk)を減らして必要証拠金や所要資本を引き下げることも可能になるかもしれない。特にアジアの金融機関がこうした対応で急速にキャッチアップする中、こうした対応はますます重要になってくるだろう。

円金利スワップ市場が世界4位に?

久しぶりに日本円の金利スワップ市場のデータを見てみる。JSCCのWebsiteの統計情報から以前作成したグラフに最近のデータを加えてみると、取引が爆発的に増加しているのが一目瞭然である。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs_archive/index.html

2022年くらいまでほぼ一定だったのだが、2年ほど前から取引が増加し、昨年は過去最高となっている。この勢いは今年に入っても続いており、関税ショックのあった4月は過去最高を更新しているように見える。日銀の金融政策正常化だけでこれほどまでに変わるというのも驚きだが、これが円市場の正常な位置づけと言えるのかもしれない。

それにしても月間200兆円程度だったものが、一気に1,000兆円レベルまで急増するというのはかなりのものである。ついに日本のCCPの取引量もここまで来たかと思うと感慨深いものがある。2025年の5月までの実績ではドルベースで約$31.5tnとなるが、全通貨のクリアリング実績が$750tnだとすると全体の4%くらい、他のCCPの円スワップを加えると8%くらいの地位を占めるまでになってきている。円金利市場の全体像としては、おそらくUSDとEURが3~4割程度ずつのシェアを占めており、次がGBPの10-15%という感じだろう。その次はAUDだったが、このペースだと既に円がAUDを抜いているものと思われる。そうすると、金利スワップでは円が4番目に取引量の多い通貨ということになる。

もう少しデータを詳しく見ていくと、0-2年の短期取引の増加が著しいことがわかる。全体に占める0-2年の取引は一昨年が27%だったのが今年は60%を超えている。一昨年22%あった10年超の取引は8%にしか満たない。したがって、想定元本で見ると取引量が爆増しているように見えるが、デュレーションベースではより穏やかな上昇ということになろう。

短期取引が急増しているのは、日銀の利上げを見越してまずは短期から上昇していくという思惑だったものと思われる。中でも海外ファンドを中心に短期を払う取引が急増しており、その反対方向のヘッジフローがJSCCに流れてきているものと推測される。そう考えると他のCCPではさらに短期が多くなっており、昨今の円金利市場の取引増は短期に偏った一時的な増加という可能性もある。とは言え全てが一時的な動きとは考えにくいため、金利上昇によって想定元本が1年前の3倍になっているが、リスク量でみると約2倍といったような状況なのだろう。

もう一つ、時間があったのでコンプレッションの実績を一つ一つ入力してみた(入力ミスがあったらすみません)。

新規取引の3割程度のコンプレッションが行われているように見受けられ、着実にコンプレッションによる想定元本削減も進んでいる。USDやEURでは通常この数字が7割程度なので、日本円はまだまだといったところだが、それでも毎週コンプレッションを行っているようなUSDやEURに劣るのは当然である。特に海外では、Baselルールの他にもコンプレッションを促すようなガイダンスも存在している。また、JSCCとLCHの今年の取引数と新規取引量を比べるとほぼ同額なのだが、5月末の残高でみるとJSCCが2倍以上大きい。JSCCの方が長期の取引が多いのと、過去の蓄積があるものと思われるが、コンプレッションによる元本削減額の差もあるのかもしれない。

しかし、取引元本が大きくなってしまうということはG-SIBスコアやレバレッジ比率の観点からコストの高い取引とみなされてしまうため、何とかAUDを超えて、GBP並みのコンプレッション比率までもっていければ、円金利スワップマーケットの流動性向上にも資するものと思われる。

さらに、USDやEURでは、昨今のボラティリティの増加によって当初証拠金が増えているはずにもかかわらず、その増加幅が抑制されている。これは数年前から増えてきた当初証拠金の最適化によるものと思われる。USDとEURの他ではGBPでも削減が進み始めている。JSCCでも、こうした海外で行われているコンプレッションや最適化を行う仕組みは既に導入済である。ドルへの信頼が揺らぐ中、EURなど他の通貨へのシフトが今後も続くものと予想され、金利スワップに関してはEURが最大通貨になるのはほぼ確実かと思われる。EURとUSDの支配的地位はなかなか揺るがないが、それに続く通貨としてポンドと円がメインになっていく、いや円が3番目の通貨になっていくというのも、あながち無理な話ではないだろう。

米国債クリアリング規制はスムーズに進むか

米国債の清算集中規制が1年延期になった際は、一旦安堵の声が聞かれていたが、気が付くともう6月近くになり、延期となった期限までもう1年半ほどになってきた。昨今の米国債市場の混乱を考えると、この清算集中規制導入は市場にかなりの影響を及ぼすものと思われるため、そろそろまた本腰を入れて準備に取り掛からなくてはならない時期になってきたと言えよう。

しかし、どのようなモデルでクリアリングを行うのか、法的強制力の確認などの議論があまり固まってこない。金利スワップなどのクリアリングであればかなりの議論があって、業界を挙げた検討がなされてきたが、それと比べると若干拍子抜けだ。デリバティブのときにISDAが議論をリードしていたが、米国債となると若干ISDAの範疇から外れるからなのだろうか。デリバティブの世界に慣れてしまった市場参加者からすると、顧客資産の分別やLegal Enfociabilityなどにおいて、FICCの提案に違和感を感じているようにも見える。

バイサイドの中には、自分が拠出した担保が、参加者破綻時に費消されてしまうのではないかと懸念をしているところもあるようだ。もちろんそんなことはないのだろうが、デリバティブの時のように分別管理や顧客資産保護についての議論が煮詰まっていないようにも見える。

色々なモデルが議論されてはいるものの、バイサイドにとって現状ではFICCのSponsored Repoを使うしか選択肢がない。しかし、銀行がこれを全ての参加者に本当に提供できるのだろうか。Sponsored Repoを提供してもそれほど利ザヤが厚いとは思えない。バイサイドの中には、取引執行とクリアリングを分離するDone Away Modelしかやりたくないというといころも多いが、これには他のCCPの参入、ルールブックの書き換えが必要となる。

FICCがIMと清算基金をともに一つのファンドに拠出するように求めていることも関係しているのかもしれない。現状のSponsored Repomモデルを使えば、バイサイドが清算基金を負担しなくても良いので、その懸念はないのだが、今度は銀行側の負担が大きくなる。

バイサイドがSponsored Repoモデルを使い続けることは可能としたものの、銀行にとってはコストが高いモデルなのでそれをチャージせざるを得ない。また、FICCの新ルールで導入されるSponsored Repoモデル+分別保管モデルを使い、拠出した担保が参加者破綻等に使われないようにすることもできる。しかし本当にそれが確保されるのかというと、ISDAのネッティングオピニオンのような、業界全体が安心感を得られるような法的オピニオンがない。実際に破綻が起きた時に、裁判で自分の拠出金がそのまま戻ってくるという保証が100%ある訳ではない。

Done Away Tradeを可能にするデリバティブのエージェントに近いモデルも提案されてはいるものの、詳細が完全に固まっているとも思えない。そうすると個々のディーラーと顧客との交渉次第ということにもなりかねず、契約交渉に時間がかかってしまう。

以前から言われていることなのだが、株式のや債券の現物の取引所とデリバティブの取引所では、その対応の仕方に大きな差がある。金利スワップのクリアリングに際しては、現物系に比べると、よりユーザーの意見も取り入れながらもきちんとリスク管理を行うという方針が貫かれているようにも思える。

日本でもレポのクリアリングとIRSのクリアリングの仕組みは結構異なっていたが、JSCCへの一本化ができたことにより、大きな問題は起きていない。米国でも現物系でありながら、デリバティブの清算にもうまく対応してきたCMEの経験なども踏まえてモデルを作っていく必要があるのだろう。

そんな中、米国ではさらなる規制緩和に向けた発言が注目された。SLRの分母であるレバレッジエクスポージャーから米国債を除くという議論が長年続けられてきたが、先週金曜、夏にかけて何らかの動きがある可能性があるとのコメントがベッセント財務長官からあった。今回は本当に米国債除外が進むのかもしれず、そうなると米銀には追い風になる。

まだまだ米国債を巡る動向からは目が離せない。

レポのヘアカット問題

1年遅れになった米国債レポの清算集中規制導入を約2年後に控え、RepoのヘアカットがISDAの年次総会で話題に上がっていた。2年くらい前のにOFRのブログで紹介された、米国債レポの74%がゼロヘアカットという分析を巡る議論だ。

そもそもレポのヘアカットは金利スワップ等とは異なる発展を遂げてきた。金利スワップなど通常のOTCデリバでは、マージンコールからクローズアウトまでの期間を考慮して、10 day 99% VaRなどがIM(当初はIA)の目安として使われていた(IAはIndependent Amountの略)。つまりギャップリスクをカバーするための担保をIMとして取ろうというコンセプトである。したがって、双方にリスクが発生することから、固定金利を受けようと払おうと、信用力に劣る方がヘアカットを負担していた。

しかし、レポの場合は有担保貸付という要素があったからだろうか、お金を貸す方がヘアカットを要求するということもあり、一方が例えばプラス1%のヘアカット、他方がマイナス1%のヘアカットということもあり、しかも信用力の高い銀行サイドであってもお金を借りているのであれば、ヘアカットを負担するという慣行もあった。この場合の1%ヘアカットもVaRなどで計算しているわけではなく、どちらかというと市場慣行ということで決まっており、年限による差もあまりなかった。最近はこのマイナスヘアカットの慣行は稀になってきたと思うが、ヘアカットの水準はリスク対比かなり低めに設定されている。

金利スワップでIAを計算してきた人にとっては、レポの担保は非常に不思議な理屈で決まっていると思われていた。2年債のギャップリスクと30年債のギャップリスクは全く異なるため、金利スワップではIMに大きな差をつけている。国債を担保に受け取る時も年限によってヘアカットに差をつけるのが一般的だ。にもかかわらず、レポ取引になるとヘアカットは「適当に」決められているような印象さえ与えていた。

どれくらいヘアカットが取れているのかを調べてみようと思ってデータ分析をしてみれば、OFRが言うようにほとんどゼロヘアカットが多く、リスクに対して不十分な担保となっていることがわかる。しかし、OFRも言っているように、RepoとReverse Repoでリスクがオフセットするケースではヘアカットをパッケージでゼロにすることも多い。金利スワップのように厳密な計算をしないため、2年のRepoと10年のReverse Repoでもかなりヘアカットを減らしていたケースもあっただろう。特にヘッジファンド側も単純にレポ取引をアウトライトで行うことは少なく、金利スワップや先物と組み合わせて取引をすることが多いので、ヘアカット引き下げのプレッシャーはかなり厳しかったことが容易に想像できる。

金利スワップとレポを組み合わせてネッティングすることはできないので、ヘアカットを減らすというのは間違っているのだが、実際の破綻時には民法上の相殺ができるので、IMがなくても良いのではないかという議論がある。もちろん、プライムブローカーであらゆる取引をまとめてポートフォリオマージンしているような場合には、ある程度のIM減額は正当化されることはあるだろう。

米国債の清算集中規制のドライバーともなったベーシス取引は、国債価格と先物価格の差を取る裁定取引で、そこで使われた米国債をレポに出してファンディングをするのが通常である。ヘッジファンドがレポと先物の両方を同じディーラーと行っているときは、ディーラーがそのリスク相殺を認めレポに対してヘアカットを免じることがあったが、これもプライムブローカーのようなケースだろう。厳密には契約が違ってNetting Enforceabilityが確保されていない場合はこのようなヘアカット免除は行ってはならないと思うのだが、交渉力の強いファンドの場合はこれができているのだろう。

当局としては、国債と先物のベーシス取引が国債市場を混乱させることを恐れており、レポのヘアカットが不十分である点も問題視している。CCPでクリアリングすることが義務付けられれば、こうしたヘアカット減免などの慣行がなくなり、国債市場の安定化につながるという読みなのだろう。ほかには最低ヘアカット水準を決めるという方法もあるが、異なる年限である程度のリスクオフセットがあるものや、国債と先物、金利スワップとレポなど、どこまでオフセットを認めるかということを考え始めると結構難しい問題に突き当たる。

日本でもJGBレポのヘアカットは0.5%とか1%で、ある程度取引相手の信用力に応じて2%や3%が使われていることもあろう。しかし、日銀の適格担保要綱にあるヘアカットを見ても1年以内は1%(評価額99%)だが、30年超になると6%になっている。JGBについてもヘアカットはかなり足りていないと言えるが、これまで円金利の変動が少なかったことからあまり問題視されてこなかった。しかし、金利が上昇し、昨今のような変動が生じ始めると、日本のレポについても何らかのコントロールが必要なのかもしれない。

欧州における市場安定化策

英国の「ギルト・ショック」は、英金融当局に相当な危機感を抱かせたのだろう。2022年9月に金利が急上昇した際、多くの年金ファンドがマージンコールに応じるため、保有していた英国債の売却を余儀なくされ、それがさらに英金利の上昇に拍車をかけた。この事態を受け、英金融当局は同様の事態が再発しないよう、さまざまな対策を議論しているようだ。

その一つが、銀行以外のバイサイドに対する緊急レポ貸出の導入である。これは「CNRF(Contingent Non-Bank Financial Institution Repo Facility)」と呼ばれ、最低20億ポンドの英国債を保有するLDIファンドを対象としている。これにより、急なマージンコールが発生しても、英国債を売却せずに、同債を担保に中銀から資金の融通を受けることが可能となる。

もっとも、この制度は規模が大きく、かつレバレッジが低いLDIファンドにしか適用されず、年間手数料も発生するため、利用を希望するかどうかは慎重に判断されているようだ。また、実際に市場ショックが発生した場合、他のレポ手段よりもコストが高くなる可能性もある。

とはいえ、何かが起こった際にこのような準備があることは、リスク管理上はポジティブだといえる。過去の金融ショックの多くは、「ありえない」と考えられていた事態が現実となったことに起因しており、そのような極端なケースに備えた保険を、多少コストが高くてもあらかじめかけておくことは有意義だ。同じ対応を民間の保険会社に依頼した場合、さらに高額になるだろう。本来であれば、リスクテイクを規制で抑制するよりも、こうしたファシリティを整備するほうが、よほど市場の安定に寄与すると考えられる。

もちろん、こうした備えを中銀が用意すること自体がモラルハザードにつながるという意見もある。しかし、2022年の「トラス・ショック」のような混乱を未然に防ぐことは、中銀にとっても大きなメリットがある。

一方、欧州では、CCP(中央清算機関)に対し、金融危機時に流動性を供給する新たなプログラムが発表された。これまでCCPへの流動性供給はモラルハザードの観点から否定的に捉えられていたが、市場インフラとしてのCCPの重要性を考慮すれば、欧州当局の対応も必ずしも過剰とはいえない。もちろん、こうしたプログラムを事前に準備せず、何かが起きたときに対応すればよいという考え方もあり、日本はどちらかといえばこのタイプかもしれない。しかし、あらかじめ市場に安心感を与えることにも一定のメリットはある。特に、資本規制が厳格な海外では、このようなプログラムの存在が、対応のための資本コストを軽減し、銀行側にメリットをもたらす可能性がある。

いずれにせよ、欧州では市場流動性を高めようとする動きが徐々に見られるようになってきた。少なくとも、米国よりはまともな議論が行われているように見える。

スワップ取引量は増えてもCCPでの元本残高が減っている

米銀のClearing Rates(全体のスワップ想定元本に占めるCleared Tradeの割合)がRisk.netで報じられていたが、特に大手銀行において、2022年くらいからこの比率が右肩下がりになっている。そして昨年末には50%未満に下がっており、特に最近の減少が最も著しい。

これは非清算取引が増えてCCPでの取引が減っている訳ではなく、Cleared Swapにおけるコンプレッションが盛んになっていることを意味する。JPMなどはコンプレッションにより9兆ドルの元本を削減しており、Clearing Ratesは50%近くになっている。GS、MS、Citiなども45%近辺にまで下がっており、Cleared Swapの元本が激しく削減されているのが伺われる。

清算集中規制によってCCPに移る取引が増え、しかも最近スワップの取引量が増えていることを考えると、このClearing Ratesが軒並み50%を割っているのはかなり驚きだ。これは資本コストに敏感な欧米金融機関特有な動きのかもしれない。今や新規取引で元本が増えても、満期を迎える取引とコンプレッションによる元本削減で、年間のスワップ元本増加がほぼゼロ近くに抑えられているようだ。

2024年のUS G-SIBスコア(Method 2)を見ると以下のようになっているが、資本コストが増える閾値である630、730、930近辺に近いところが多いように見える。これを超えないように積極的に取引元本を減らしているとしても不思議ではない。

https://www.financialresearch.gov/bank-systemic-risk-monitor

こうした規制によって明らかに金融機関の行動に変化が起き、それが市場の流動性に影響しているのが非常に興味深い。また、国によって規制が異なったり、資本コストに対するセンシティビティの差によってその影響も異なる点も注目される。