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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

レポのヘアカット問題

1年遅れになった米国債レポの清算集中規制導入を約2年後に控え、RepoのヘアカットがISDAの年次総会で話題に上がっていた。2年くらい前のにOFRのブログで紹介された、米国債レポの74%がゼロヘアカットという分析を巡る議論だ。

そもそもレポのヘアカットは金利スワップ等とは異なる発展を遂げてきた。金利スワップなど通常のOTCデリバでは、マージンコールからクローズアウトまでの期間を考慮して、10 day 99% VaRなどがIM(当初はIA)の目安として使われていた(IAはIndependent Amountの略)。つまりギャップリスクをカバーするための担保をIMとして取ろうというコンセプトである。したがって、双方にリスクが発生することから、固定金利を受けようと払おうと、信用力に劣る方がヘアカットを負担していた。

しかし、レポの場合は有担保貸付という要素があったからだろうか、お金を貸す方がヘアカットを要求するということもあり、一方が例えばプラス1%のヘアカット、他方がマイナス1%のヘアカットということもあり、しかも信用力の高い銀行サイドであってもお金を借りているのであれば、ヘアカットを負担するという慣行もあった。この場合の1%ヘアカットもVaRなどで計算しているわけではなく、どちらかというと市場慣行ということで決まっており、年限による差もあまりなかった。最近はこのマイナスヘアカットの慣行は稀になってきたと思うが、ヘアカットの水準はリスク対比かなり低めに設定されている。

金利スワップでIAを計算してきた人にとっては、レポの担保は非常に不思議な理屈で決まっていると思われていた。2年債のギャップリスクと30年債のギャップリスクは全く異なるため、金利スワップではIMに大きな差をつけている。国債を担保に受け取る時も年限によってヘアカットに差をつけるのが一般的だ。にもかかわらず、レポ取引になるとヘアカットは「適当に」決められているような印象さえ与えていた。

どれくらいヘアカットが取れているのかを調べてみようと思ってデータ分析をしてみれば、OFRが言うようにほとんどゼロヘアカットが多く、リスクに対して不十分な担保となっていることがわかる。しかし、OFRも言っているように、RepoとReverse Repoでリスクがオフセットするケースではヘアカットをパッケージでゼロにすることも多い。金利スワップのように厳密な計算をしないため、2年のRepoと10年のReverse Repoでもかなりヘアカットを減らしていたケースもあっただろう。特にヘッジファンド側も単純にレポ取引をアウトライトで行うことは少なく、金利スワップや先物と組み合わせて取引をすることが多いので、ヘアカット引き下げのプレッシャーはかなり厳しかったことが容易に想像できる。

金利スワップとレポを組み合わせてネッティングすることはできないので、ヘアカットを減らすというのは間違っているのだが、実際の破綻時には民法上の相殺ができるので、IMがなくても良いのではないかという議論がある。もちろん、プライムブローカーであらゆる取引をまとめてポートフォリオマージンしているような場合には、ある程度のIM減額は正当化されることはあるだろう。

米国債の清算集中規制のドライバーともなったベーシス取引は、国債価格と先物価格の差を取る裁定取引で、そこで使われた米国債をレポに出してファンディングをするのが通常である。ヘッジファンドがレポと先物の両方を同じディーラーと行っているときは、ディーラーがそのリスク相殺を認めレポに対してヘアカットを免じることがあったが、これもプライムブローカーのようなケースだろう。厳密には契約が違ってNetting Enforceabilityが確保されていない場合はこのようなヘアカット免除は行ってはならないと思うのだが、交渉力の強いファンドの場合はこれができているのだろう。

当局としては、国債と先物のベーシス取引が国債市場を混乱させることを恐れており、レポのヘアカットが不十分である点も問題視している。CCPでクリアリングすることが義務付けられれば、こうしたヘアカット減免などの慣行がなくなり、国債市場の安定化につながるという読みなのだろう。ほかには最低ヘアカット水準を決めるという方法もあるが、異なる年限である程度のリスクオフセットがあるものや、国債と先物、金利スワップとレポなど、どこまでオフセットを認めるかということを考え始めると結構難しい問題に突き当たる。

日本でもJGBレポのヘアカットは0.5%とか1%で、ある程度取引相手の信用力に応じて2%や3%が使われていることもあろう。しかし、日銀の適格担保要綱にあるヘアカットを見ても1年以内は1%(評価額99%)だが、30年超になると6%になっている。JGBについてもヘアカットはかなり足りていないと言えるが、これまで円金利の変動が少なかったことからあまり問題視されてこなかった。しかし、金利が上昇し、昨今のような変動が生じ始めると、日本のレポについても何らかのコントロールが必要なのかもしれない。

欧州における市場安定化策

英国の「ギルト・ショック」は、英金融当局に相当な危機感を抱かせたのだろう。2022年9月に金利が急上昇した際、多くの年金ファンドがマージンコールに応じるため、保有していた英国債の売却を余儀なくされ、それがさらに英金利の上昇に拍車をかけた。この事態を受け、英金融当局は同様の事態が再発しないよう、さまざまな対策を議論しているようだ。

その一つが、銀行以外のバイサイドに対する緊急レポ貸出の導入である。これは「CNRF(Contingent Non-Bank Financial Institution Repo Facility)」と呼ばれ、最低20億ポンドの英国債を保有するLDIファンドを対象としている。これにより、急なマージンコールが発生しても、英国債を売却せずに、同債を担保に中銀から資金の融通を受けることが可能となる。

もっとも、この制度は規模が大きく、かつレバレッジが低いLDIファンドにしか適用されず、年間手数料も発生するため、利用を希望するかどうかは慎重に判断されているようだ。また、実際に市場ショックが発生した場合、他のレポ手段よりもコストが高くなる可能性もある。

とはいえ、何かが起こった際にこのような準備があることは、リスク管理上はポジティブだといえる。過去の金融ショックの多くは、「ありえない」と考えられていた事態が現実となったことに起因しており、そのような極端なケースに備えた保険を、多少コストが高くてもあらかじめかけておくことは有意義だ。同じ対応を民間の保険会社に依頼した場合、さらに高額になるだろう。本来であれば、リスクテイクを規制で抑制するよりも、こうしたファシリティを整備するほうが、よほど市場の安定に寄与すると考えられる。

もちろん、こうした備えを中銀が用意すること自体がモラルハザードにつながるという意見もある。しかし、2022年の「トラス・ショック」のような混乱を未然に防ぐことは、中銀にとっても大きなメリットがある。

一方、欧州では、CCP(中央清算機関)に対し、金融危機時に流動性を供給する新たなプログラムが発表された。これまでCCPへの流動性供給はモラルハザードの観点から否定的に捉えられていたが、市場インフラとしてのCCPの重要性を考慮すれば、欧州当局の対応も必ずしも過剰とはいえない。もちろん、こうしたプログラムを事前に準備せず、何かが起きたときに対応すればよいという考え方もあり、日本はどちらかといえばこのタイプかもしれない。しかし、あらかじめ市場に安心感を与えることにも一定のメリットはある。特に、資本規制が厳格な海外では、このようなプログラムの存在が、対応のための資本コストを軽減し、銀行側にメリットをもたらす可能性がある。

いずれにせよ、欧州では市場流動性を高めようとする動きが徐々に見られるようになってきた。少なくとも、米国よりはまともな議論が行われているように見える。

スワップ取引量は増えてもCCPでの元本残高が減っている

米銀のClearing Rates(全体のスワップ想定元本に占めるCleared Tradeの割合)がRisk.netで報じられていたが、特に大手銀行において、2022年くらいからこの比率が右肩下がりになっている。そして昨年末には50%未満に下がっており、特に最近の減少が最も著しい。

これは非清算取引が増えてCCPでの取引が減っている訳ではなく、Cleared Swapにおけるコンプレッションが盛んになっていることを意味する。JPMなどはコンプレッションにより9兆ドルの元本を削減しており、Clearing Ratesは50%近くになっている。GS、MS、Citiなども45%近辺にまで下がっており、Cleared Swapの元本が激しく削減されているのが伺われる。

清算集中規制によってCCPに移る取引が増え、しかも最近スワップの取引量が増えていることを考えると、このClearing Ratesが軒並み50%を割っているのはかなり驚きだ。これは資本コストに敏感な欧米金融機関特有な動きのかもしれない。今や新規取引で元本が増えても、満期を迎える取引とコンプレッションによる元本削減で、年間のスワップ元本増加がほぼゼロ近くに抑えられているようだ。

2024年のUS G-SIBスコア(Method 2)を見ると以下のようになっているが、資本コストが増える閾値である630、730、930近辺に近いところが多いように見える。これを超えないように積極的に取引元本を減らしているとしても不思議ではない。

https://www.financialresearch.gov/bank-systemic-risk-monitor

こうした規制によって明らかに金融機関の行動に変化が起き、それが市場の流動性に影響しているのが非常に興味深い。また、国によって規制が異なったり、資本コストに対するセンシティビティの差によってその影響も異なる点も注目される。

米国の関税がWWR取引に与えるインパクト

今回米国債を売り浴びせたのは中国なのか、日本の銀行なのかという話でもちきりだったが、もう一つ見逃してはならないのは、台湾である。今回米国債を売る側に回ったかどうかは定かでないが、台湾は$1.7tn ものの資金を米国資産に振り向けていると年始に報じられていた。これは台湾のGDPの2倍以上であり、台湾の債券市場全体の5倍に当たるとのことである。

以前台湾の生保のバランスシートを確認したことがあるが、大手生保は軒並み半分近くの資産を米国債券に割り当てており、その一部を為替ヘッジしていた。ほとんどはオンショアでローカルバンクとのヘッジなのだろうが、相当数のヘッジをNDFの形でグローバルバンクと行っている。

台湾生保の保険契約額は、20年前くらいはGDPの60%程度で、その他の国とそれほど変わらなかったが、ポートフォリオに関する規制の変更により、急速に契約額を増やしており、米国資産への投資を2倍以上に増やしている。つまり、米国債が暴落すれば巨額の損失を被る。しかし、それが損失として実現しないよう、時価評価をしなくて良いよう規制が変更されたりしている。これがなければほとんどの生保は債務超過になっていたのではないかと思われる。

さて、今回の関税によってこの資金が米国から外へ流れるのかに注目が集まる。確かに米国からの資金逃避も大きな問題だが、それに応じてヘッジ取引が減るかどうかにも注目したい。通常台湾生保がドル資産を買うときは、短期の為替でドルを調達し、それを数か月単位でロールしていく。したがって、ディーラーはTWDの3か月NDFなどのポジションを大量に持っている。スポットでドルを渡してフォワードでドルを返してもらう取引なので、Wrong Way Risk(WWR)取引となる。台湾に危機が起きて通貨が下落するときに取引先である台湾生保の信用力も低下し、その時にこの為替取引が大きなIn the moneyになっているからである。

大手ディーラーはWWRについてはリミットを設けて管理しているはずで、このプレッシャーが強ければCCPで清算したり当初証拠金を出したりといった工夫をするはずだが、あまりに多くの銀行が台湾生保と取引をしているため、生保側としては危機感がない。ここはいつかマーケットを揺るがす動きになるのではないかと懸念していたのだが、もしかしたら米国からの資金流出がこの状況を改善させるかもしれない。一方ではこれまで低かったヘッジ比率を上げてくるため、為替ヘッジを増やしてくるかもしれない。米国債をサポートする投資家が減るとともに、ドル売りを加速させる動きにつながるかもしれない。

過去数週間の混乱の中、通常であれば米国債が下がったときに買いに入る台湾生保などからの買いが少ないという声がマーケットで聞かれる。これがどの程度のインパクトをマーケット全体に与えるかわからないが、今後の資金フローの変化の流れを見る上では注目しておきたい。

金融規制に対する財務省の影響が強まる

関税協議でも何かと話題になるベッセント財務長官だが、金融規制においても重要な役割を負っており、先月から始まったFRB、FDICなどの監督機関との非公式協議において、中心的な立場にある。

4月9日にはストレス資本バッファや地銀に対する過度な規制について再検討する旨の発言をしている。また以下の通りレバレッジ比率についてもコメントしており、この文脈から察するに行き過ぎた規制に懸念を表明しているように見える。

I have previously raised concerns about whether the leverage capital restrictions are too frequently binding.(中略)It is time that we step back and re-assess these and other costs and benefits of the liquidity framework.

同様のコメントは3月6日にも出ており、これ以外にも様々な場所で同様の発言をしているようだ。この時はSLRがバックストップというよりは最大の制約になっていると明確に述べており、これはこのブログでも何度も主張してきた業界の意見と全く同じである。

おそらく金融機関関係者とのパイプも強いだろうから、業界寄りの議論がなされるものと予想される。これまでは、ゲンスラー氏のキャラクターもあっただろうが、CFTCやSECなどが規制改革を引っ張ってきたように思うが、今後は財務省の影響力が強くなることが確実視されている。

トランプ政権の要人の中では、かなり常識人なので、関税交渉など様々な分野で引っ張り出されて多忙になることが予想されるが、何とか市場の安定化のためにも頑張ってほしいものである。

ディーラーが保守的になると市場変動は激しくなる

今回のトランプショックによって、安全資産としての米国債やドルの信頼が完全に揺らぐことになったと感じている。基軸通貨が安定しないというのは、その定義から言ってもおかしな話であるため、資金の流れが変わってしまったとしても不思議ではない。

この市場の混乱の中、ディーラーは自身のブックのヘッジに精一杯で、ワイドなプライスしか出してこなかったという声が聞かれた。顧客フローが一方向に傾いた時、そのリスクをしばらく抱えておくという行動が明らかに取れなくなってきているようだ。

日本ではよくサラリーマンリスクという言葉があったが、同じことがグローバルの大手銀行で発生している。つまり、大きな顧客フローがあって、トレーダーとしてはそのリスクを持ち続けたいと思ったとしても、マーケットがさらにアゲンストに動いて巨大損失を出してしまうと自らの職が危うくなる。たとえそれ以上マーケットが一方向に行く可能性が1%に満たないと思ったとしても、そのリスクは取れない。当然、シニアマネジメントやリスク管理部門からはヘッジしろという圧力がかかる。したがって、いくらヘッジコストが法外に高かったとしてもそれをヘッジしにいく。

昔は確率が50/50より良いならリスクを取ってその取引をすると言っていたトレーダーがいたが、こうした市場変動が起きた時、今では大きく負ける可能性が1%でもあるなら避けに行くトレーダーが増えた。規制当局としても、市場危機を防ぐためにトレーダーの過度なリスクテイクを抑えるのが重要なのだが、あまりに抑えすぎると市場変動が激しくなり、さらに厳格なリスク管理を求めなければならないというジレンマに陥る。

実際は、今回の関税のように突然90日の猶予が発表されて市場が戻り、ヘッジコストが無駄になると同時に、大きな収益を上げる機会を逃すことになる。しかし、かといってトレーダーが責められることはない。一方リスクを抱え続けて万が一巨額損失が発生すれば職を失う。確率的には勝てると確信していた取引でも、サラリーマンとしてはヘッジするしかない。規制によってバランスシートコストが高くなったとか、ボルカールールによって自己勘定でリスクを抱えにくくなったという理由ももちろんあるが、それ以上に金融機関側のリスクアペタイトがなくなってきているのも大きい。

唯一の例外はCVAヘッジだ。さすがに今回の変動はカウンターパーティーリスクに端を発したものではなく、ヘッジコストがあまりに高かったので、逐一ヘッジをしなかったディーラーが多かったようだ。これはCVAデスクに関しては、その他のトレーダーほどサラリーマンリスクが低いというのが関係しているのではないかと思う。しかし、そのCVAトレーダーが本気でヘッジし始めたら危険である。それが本当の危機の始まるとなるかもしれない。

以前であれば、マーケットが一方向に動いた時に、銀行がリスクを抱えることによって極端な動きに歯止めをかけていたが、現在これは望めなくなってきた。そして望ましくないリスクを抱えてしまったエンドユーザーがそれを外そうと銀行に行ったところで、非常にワイドなコストを取られるか、希望するサイズすべてを取引できない可能性が高くなる。平常時にはあれだけ競ってシャープなプライスを出そうとしてきたディーラーが、突然何も顧みず価格をワイドにしてくる。

以前にもましてマーケットの変動幅が激しくなっているのはこうした理由もあると思う。今回はSafe Heavenと言われるスイスフランや日本円などが上昇したが、このボラティリティをヘッジするためのCall OptionやRisk Reversalなどの流動性が十分でなく、EURUSDにまで波及した。そして、普段は安定しており流動性が高いはずのEURUSDですら、Volatilityが急上昇し流動性が枯渇した。

ディーラはショートガンマポジションの解消のためVolatilityを買わなければならず、それがさらに市場の変動を加速させる。今後しばらくはこうした動きが続くだろう。しかもこれが突然起きるので、ディーラーはVol Shortのポジションなどを普段から持つのが難しくなる。そうすると、今後は事業会社などVolの供給者をもう少しカバーしておく必要が出てくるのだろう。このように、危機時に誰が流動性を供給できるかというのを眺めた上で、ポジションを取っていかなければならない。また常日頃からポジションをきれいにしておく努力を怠ってはならない。

そして、今後はドルが基軸通貨であるという前提を疑ってかかる必要があり、米国債や米ドルが安全資産であるとはとても言えなくなってしまった。ここから世界の資金の流れが大きく変わってしまうのだろうか。

MVAの計算とプライシング慣行

金利上昇に従い当初証拠金のファンディングコストが話題になることが多くなってきた。外資系や先進的な邦銀では、ファンディングコストが何らかの形でトレーディングデスクに割り振られていることが多いので、トレーダーとしても、あまりに大きな担保コストがかかる取引に対しては、きちんとコストをカバーしようとするインセンティブが働く。

通常はその取引によってどの程度担保が増加するかはSIMMモデルを使えれば簡単に計算できる。既存のポートフォリオがかなり大きく分散が効いている場合には、追加コストがあまり大きくならないこともある。反対方向のリスクがすでに多ければ、当初証拠金を減らすこともある。こうした場合は、トレーダーとしてはほぼミッドで取りに行ったとしてもコストセーブにつながるため、かなり強気のプライスが出せる。

さらに、その取引から発生するリスクをどのようにヘッジするかも重要だ。もし反対ヘッジによって一定のCCPに対するIMが上がってしまう場合にはそのコストをカバーしなければならない。例えばドル円通貨スワップを顧客と行い、ドル金利のリスクを内部のドルデスクと行った場合、ドル金利のトレーダーとしては、CCPへのマージンコストを通貨スワップのトレーダーにチャージしたいと思うだろう。そうしないと単なるコスト増になってしまうからだ。ただ、自分が顧客とドル金利スワップを行う時は、それをチャージしない場合などもあり得る。通貨スワップトレーダーにとっては不公平な話だが、こういう話はどこでもあるのではないだろうか。

一方で、ヘッジファンドのように短期でポジションを動かすプレーヤーの場合は、その取引が数か月で解約されることも多い。このような場合は、たとえいつ解約するかわからなくてもIMチャージを下げても良いという心理が働く。また、IMの最適化に参加している外資系ディーラーとの取引であれば、定期的にIMを減らすことが可能になっているので、さらに強気なプライスを提示しやすい。CCPで清算されている取引やSwapAgent経由の取引などはネッティング効果もあるので、これもプライスを下げることができる。

また、スワップションの場合は権利行使まではスワップションとしてのSIMMのIM、権利行使後はCCPで清算されるのでCCPのIMという形で分けて計算をする。これも中途解約や最適化への参加によってプライスは変わる。

いずれにしても10年満期のスワップについて10年分のIMの増加効果を計算してしまうと、コンペで負ける可能性が高くなる。ヘッジ会計適用のスワップなどで絶対に解約がない取引であれば保守的にプライシングした方が良いかもしれないが、通常は中途解約や最適化が可能だ。したがって、競合相手のプライスも見ながら落としどころを探っていく作業が発生する。もちろんサイズの小さい取引でこんな計算をいちいち行うのは不可能なので、小さいものは無視したり、適当に0.1bpなどプライスを若干悪くするということが行われていると思う。

そしてこれに資本コストもかかってくるからさらに複雑だ。こちらはトレーダーレベルにチャージされることは少ないだろうが、部門別ROEなどの指標が悪化するため、完全に無視はできない。G-SIBスコアを下げなければならない時や、年度末などでバランスシートがタイトになったときなどは、こうしたIMや資本コストの高い取引からプライスを悪化させることも多い。

MVAやKVAは、理論的にしっかりと計算できるCVAとは異なり、かなりアートの世界になっている。ディーラーとしては収益の源泉とすることもできるのかもしれないが、デリバティブ市場の透明性と流動性を高めるには、これらは極力少ない方が望ましいのだろう。

米国債急落がSLR緩和の追い風に

2年前のシリコンバレーバンクの時もそうだったが、米国金利の上昇を受けて銀行収益に与える影響を懸念する声が出始めた。とはいえ、2年前にポートフォリオの精査が行われ、当局の関心も高まったため、ある程度準備ができていたところが多いものと思われる。ただし、ヘッジファンドなどでは大きな損失が出ているところがあっても不思議ではない。

その準備の影響もあったのかもしれないが、PLヒットする(損益計算書上に損益が計上される)保有方式の国債が増えている。Risk.netによると、米銀大手50行の米国債保有残高は過去最高のレベルになったとのことだが、その中でもPLヒットするTrading SecuritiesとAFSが増えている。基本的なところをおさらいしておくと、米国会計上は米国債の保有方法として1)Trading、2)AFS、3)HTMの3種類がある。

  1. Trading Securities: 短期保有目的。トレーディング収益が上がるのはここから。日々時価評価が必要なのでPLにヒットする。
  2. AFS (Available-for-Sale): トレーディング目的ではないものの満期保有ではない。日々時価会計が必要だが、未実現損益は損益計算書にヒットせずにBSのOCI(Other Comprehensive Income)で直接資本を減ずる形でのPLヒットとなる。
  3. HTM(Held-to-Maturity): 満期保有。時価会計、PLヒットなし。途中で売ると損失が出る。

つまり1と2の方式で米国債を持っていれば最近の金利上昇で損が出ているはずだが、3だと売却しない限り損は計上されない。シリコンバレーバンクなどは、3で持っていたので損にはならなかったのだが、流動性がなくなり、HTMを売却したため損が出て破綻に至った。

こうした市場変動が起きると金融機関の収益がぶれることになるので、あまり大きな市場変動は望ましくない。以前から何度も書いているように、米国の場合は規制がその変動拡大に拍車をかけている。SLRなどのバランスシート規制があるため、銀行としてはあまり米国債を持ちたくない。

こういった局面で銀行が金融仲介機能を果たしてスムーズな取引ができればある程度市場が行き過ぎればそれが修正されるはずである。しかし、規制や損失を恐れる経営陣が多くなってきたため、一度危機が起きると取引量を絞り始める傾向がみられる。特に資本コストの高いレポが急速に締まったりして、米国債の流動性に影響を与える。昨今では先物と現物などのベーシス取引の巻き戻しなども市場変動の拡大に寄与している。困ったことに、米国の規制なのに、これが他国の債権流動性にも影響を与えている。バランスシートを縮小せよと言われると、米国債だけでなくあらゆる資産に影響が生じるからだ。

トランプ政権がアメリカファーストを掲げるのであればSLRの対象から米国債を除いてしまうのが最も簡単で、そうすれば中国などが米国債を売り浴びせたとしてもその影響が若干弱まるかもしれない。まあここまで細かい内容が大統領まで伝わるかという問題もあるが、早速FRBからはSLRの緩和に関するコメントが出ているようだ。4月以降急速に米国債の流動性が落ちていることを考えると、この流れが加速してもおかしくない。Covidの時のような時限措置になる可能性もあるが、意外と早くUS TreasuryがSLRの計算から外れることになるのかもしれない。

CCPの証拠金計算に関するベストプラクティスが示すもの

1月にCCPの証拠金の透明性向上を目的としたベストプラクティスがIOSCOから出されている。突然予期せざるマージンコールが発生して資金不足に陥るところがないよう、こうした情報開示は必要不可欠である。EUでは証拠金のシミュレーションツールにバイサイドもアクセスできることを求めているが、今回のペーパーでは、クリアリングブローカーへのアクセスを求めた上で、クライアントにも開示されればなお望ましいという書き方になっており、こちらの方が現実的な対応となっている。

この証拠金シミュレーションツールはCCPのストレスシナリオやIMの各要素(ベースIM、流動性アドオンなど)の計算も含まれている。モデルの詳細、プロシクリカリティ防止策、バックテストなど、かなり詳細な開示を求めている。今後社内でIMモデルやその他のモデルを作成するときのチェックリストとしても使えるだろう。また、IMのモデルなど、日本では海外ほどバックテストについての規制がないが、海外の傾向に併せてもう少しバックテストも重視しておいた方が良いだろう。

Risk.netでも、各国当局間で、流動性を提供できる参加者を増やし、決済インフラへの参加要件を緩和し、ネッティング効率を高めたりして、取引コストを下げるべく努力していると書かれている。今回のペーパーも含めて、各国当局間で、マージンコールによる流動性逼迫への対応策が色々と協議されているように思える。そしてNBFIなどに対する規制要件の厳格化も進んでいるので、バイサイドも含めた各市場参加者にこうした分析の高度化を求めているようだ。

一方で、このベストプラクティスの話に絡めてIOSCOの高官がサイバーリスクにも言及していたのが興味深い。次の危機はカウンターパーティーリスクやマーケットリスクから発生するのではなく、サイバーリスクから発生するだろうという趣旨の発言があった。確かに最近水面下でもサイバーリスクが高まっているのが伺われ、今後大きな事故が起きたとしても不思議ではない。海外金融機関でもサイバー対策にかなりの予算を割り当て始めているが、日本でも今後経営課題の一つとなっていくのだろう。

邦銀のROEが急速に改善

MUFGのROE目標9%前倒し達成というニュースが出ているが、邦銀のROEが急速に改善してきた。一時は5-6%台で低迷していたものが、近年メガバンクを中心に軒並み上昇基調にある。

15%を超えているJPMなどの大手とはまだ開きはあるが、ROE向上が現場にまで浸透している米銀大手と比べても遜色ないところまで上がってきているのはさすがである。

海外だと、例えばROE向上といってトップが号令をかけても、現場のスタッフレベルでそれを真剣に目指そうという動きにはなりにくい。ROEを上げても自分の給料が上がらないのだったら、単純に収益増を目指したいというのは極めて自然である。したがって、海外大手では、何とかそれを現場の目標と一致させるために、様々な工夫が行われている。

資本に関してはアメとムチがあるが、まずはムチとして、取引承認時にROEを承認基準に加え、例えば単体でROE10%を下回る取引は却下というルールにする。当然Adjacency Revenueといって、その取引を取ることによって引受手数料も得られるといった、抱き合わせ販売のようなことが可能になる場合は、特別に承認されることがあるが、通常ROEがターゲットに満たない案件は却下される。

アメの方は、資本削減を行った営業に対してセールスクレジットという形で収益を割り当て、新規案件を取ったと同じような収益認識を可能にする方法を使うところが多い。資本コストが削減できた場合、それを何らかの形で数値化して払い出すという方法が取られる。

トレーディングサイドでは、各デスクごとにROEを計算し、それを評価体系に加えるという方法を取るところが多い。資本を正しく配賦するのは結構難しいのだが、一旦この部門別ROEが出回ると、少なくともトレーディングヘッドなどはかなり強く意識するようになる。

同じことはCVAのようなカウンターパーティーリスク、担保コストやバランスシートコストについても行われるが、こちらの方は定期的にそのコストをトレーディングデスクにチャージすることにより、日々コストを意識したトレーディング管理をするようなインセンティブ付けをするのが一般的である。当初証拠金コストが大幅に上がるものの、収入が大きいという取引があった場合、通常トレーダーはそれに飛びつくが、それによって部門別ROEが極端に下がる場合には何とか資本コストをカバーすべくプライシングを変えるようになる。

こうしたインセンティブメカニズムがないと、「まあ財務や企画には怒られるかもしれないけど、今期の収益目標を達成することの方が重要だ」ということになり、いつまでたってもROEやファンディングコストの削減ができなくなる。

こうしたインセンティブ付けなしに邦銀がここまでのROE向上を成し遂げているのだとしたら、少しやり方を変えれば世界の金融機関と戦える資本効率を達成することができるのではないか。また、ここまでくると資本効率を意識せずに経営を続けていると、中小金融機関の中には取り残されるところが出てくるというリスクもある。今後は金融機関による差も大きくなっていきそうだ。

最新G-SIBスコア

久しぶりにG-SIBスコアが近年どう変化してきたか見てみたい。欧米の銀行を青で示したが、左に行くにつれ、つまり近年になると、スコアが減少している。DBなどの減り方はかなり急激だ。それでも数年前に比べると若干再上昇しているところも多くなっている。米系はバーゼルの計算ではなく、独自のMethod2を使っているため、このバーゼルベースのスコアはあくまでも目安だが、それでも傾向はつかめる。

一方緑の中国の銀行を見ると、ABCを筆頭に相変わらずスコアが上昇している。しかし他の銀行は上昇ペースが緩やかになってきている。ついに資本コストの削減努力を始めたのか、それとも単純に景気低迷によるものなのかもしれない。

赤の日本を見ると、2020年あたりにピークを迎えた後は順調にスコアが減ってきている。MUFGはこのままいくと230の閾値を下回って一つ下のバケットに移行するかもしれない。そうすると資本チャージが0.5ポイント下がるため、ROEが上昇することになる。みずほもかなり激しくスコアを減らしてきている。日本でもようやく資本コストやG-SIBサーチャージなどを意識するような経営が根付いきたということなのだろうか。

米系のMethod2の数字も念のため確認してみる。

大手の2024年の数字だけをプロットしてみたが、CitiとGSはもう少しで730の閾値を超えそうになっており、BoAとMSも630の閾値を超えそうなところまできている。Risk.netの記事によると、BoAが679となり閾値を超え、3.5%のサーチャージ適用となったと報じられていた。同じくJPMも980となり、5%サーチャージのバケットに入ったとのことだ。証券保有額、STWF、Total Exposure、OTCデリバの想定元本が増加の原因と報じられていたが、証券保有額には株価の上昇も影響を与えるのでさもありなんといったところだろう。あれだけコンプレッションを進めているのにデリバの想定元本の影響も一定程度あるので、単純にデリバティブ取引が活況だったのだろう。

年末にコンプレッションによるデリバティブの想定元本削減が進むのは毎年のことだが、今後はスコアの計算が年末だけではなく、一定期間の平均が取られるようになる可能性もあるので、常にポジションの削減努力を継続することが求められていくことになろう。

通貨スワップのプライシング

複雑な金融商品は以前に比べて減ってきた気がするが、既存のプレーンな商品が複雑化している。例えば通貨スワップは、本邦企業がドル債を発行したり、外債投資をする際に為替リスクをヘッジする手段として一般的に使われている。しかし、以前は簡単にプライスが取得できたものが、かなり複雑になっている。

ドル円の通貨スワップに関して、プライスが異なりうる要素には以下のようなものがある。

  • 有担保か無担保か
  • 有担保の場合の適格担保(ドルなのか円なのか)
  • 金利のカーブ(JSCCカーブなのか、LCHカーブなのか)
  • SwapAgent経由か否か
  • 適格担保に現金以外が含まれるか

無担保の場合はCVAや資本コストなどが大きな割合を占める。有担保の場合はこうしたコストが少なくなるものの、資本コストは完全に無視できない上に細かいプライシングの差が生じてくる。

おそらく上記のような差によって、通貨スワップのコンペで毎回勝てないという状況が多々あると予想されるが、下手をすると一生その方向の取引は勝てないということがあり得る。

ドル円通貨スワップと言えども、グローバルではドル担保が標準となっているため、流動性が高くプライシング上は有利である。通常期にほとんど差がなくても一度何かが起きると価格差が生まれてくることもある。さらにSwapAgent経由となると、資本コストや決済コストが下がるので、特に流動性が逼迫するときにはSwapAgentベーシスなどがみられたりする。

ここで厄介なのは金利のカーブに何を使うかという点であり、まだ業界でも確固たるコンセンサスはできていないようにも思える。当然日本の金融機関であればJSCCカーブを使っていることが多く、外資系も日本ではJSCCを選択するケースが多いかもしれない。ただし、海外取引先となるとLCHカーブを使うことが多いのでベーシスリスクを抱えることになる。

この差があるため、外資系によっては、日本では全く取引ができないといったことも発生していると思われる。または海外投資家でもより自分にとって安いプライスを得るため、LCHプライスではなくJSCCプライスで取引したいというニーズもあろう。しかし、ここでその都度プライスを選択できてしまうと、Valuation Control的には望ましくない。解約やNovationの時に価格でもめる可能性もあるので、前もってどちらの価格で合意したかを記録しておく必要もある。

ここは、これから業界スタンダードができていくのかもしれないが、おそらく会社ごとにどのカーブを使うかを決めてそれを記録に残しておくことしかできないのではないだろうか。あるいは会社によっては、本邦投資家はJSCCプライス、海外投資家とはLCHプライスのようにルールを決めてしまうところもあろう。ただ、これだと実行できる取引が一方向に偏る危険性もありトレーダーとしては避けたいところだろう。

また、こうした複雑性が生まれるということは、流動性も分断し、取引の手間もかかるため、エンドユーザーにとってもベストな価格で取引ができなくなるという可能性もある。この辺りは何らかの解決策を見つけていかないと、日本に危機が起こってジャパンプレミアムのようなものが発生した時に、通貨スワップを使えない(または法外なコストを払わされる)ところが出てくるかもしれない。同じようなことはスワップションでも起きたが、こちらは、Exercise時にSwapをJSCCで清算するのかLCHで清算するかを前もって確認するようになり、一定の解決を見た。

いずれにしても金融の安定のためには、通貨スワップに関しても何らかの標準化が必要になってくるものと思われる。

米国のスワップスプレッドは縮小するか

FRBから市場関係者が長い間注目してきたSLRについてのコメントが出始めた。極めつけはWall Street Journalにも掲載されたパウエル議長のコメントだ。2月12日の議会証言で、米国債マーケットの市場構造改革を示唆し、その中でSLRの修正が必要だと思うという趣旨のコメントをしていた。

金融危機以降こうした当局からのコメントで市場が動くようになったため、トレーダーが規制について最新情報を得るのは必須になったが、このコメントの前後にも、国債とスワップのネガティブベーシスが7-8bp動いていたようだ。日本でもCCPベーシスに関連してトレーダーがポジションを取ることがあったが、それに似たような動きを見せている。

教科書的には、国債の利回りは国の信用力を表し、LIBORが使われていた頃は特に、Swapレートは銀行の信用力を表すなどと言われていた。つまり銀行より国の信用力の方が高いのだから、国債の利回りはスワップ金利より低くなるべきである。しかし、SLRや各種バランスシート制約によって、国債を持つ方がコスト高になり、国債利回りとスワップ金利との逆転現象が起きている。

そして米国では国債と国債先物やスワップを使ったベーシストレードが盛んに行われ、当局サイドの注目も集めている。おそらく多くのトレーダーがネガティブベーシスの縮小にかけたポジションを持っているものと予想される。個人的には、CCPベーシスの時とは違い、SLRの計算から米国債を外すというニュースでそれほど大きな動きになるのは若干不思議に思える。コロナの頃は米国債がSLRの計算から除外されていたのだから、既に起きたことでもあるのだが、同じようなことを考える市場参加者が増えるとマーケットというのは動いてしまうものなのだろう。

いずれにしても、しばらくの間、こうした規制面に関するトレーダーの関心は高い状態が続くのだろう。

CVA資本規制の高度化

CVA CapitalについてBA-CVAを使う銀行が増えてきたことが業界で話題になっている。もともとBasel IIIにおいては、以下の3つの手法が提示されていた。

IMM:先進的手法であるIMM
SA-CVA:先進的手法を適用できない銀行が使う標準法
BA-CVA:小規模銀行を想定した基礎的な簡便法

しかし、モデルやオペレーション面での対応が難しかったり、当局サイドの内部モデルに対する懸念があり、IMMは廃止され、現在では標準的なSA-CVAと基礎的なBA-CVAの二つが選択肢となっている。BA-CVAではマーケットヘッジが加味されないため、多くの大手行はSA-CVAを適用すると思われていたのだが、欧州銀行の中でBA-CVAを適用するところが増えるのではないかと報道され、専門家を驚かせている。

洗練された銀行で、技術はあるもののBA-CVAを選択しているというのが話題になっている。実際に計算してみるとSA-CVAとBA-CVAの資本コストが10%程度しか変わらず、わざわざSA-CVAを適用するコストに見合わないという理由もあるとのことだ。とは言え、英国など新規制の適用開始を延期した国が多く、米国でもトランプ政権のもとで最終案がどうなるか不確実であるため、しばらく様子見というところも多いのかもしれない。いずれにしてもこの第一四半期後には当局報告の中でどの銀行がSA-CVAを適用するかが明らかになる。カナダのRBCなどは、とりあえずBA-CVAを使うが、将来的にはSA-CVAへの移行を検討するとも述べている。

当然大手銀行は内部モデルに従ってCVAのヘッジを日々行っており、SA-CVAとは比べ物にもならない業務を行っている。会計上のリスクヘッジと規制上のリスクヘッジは極力合わせていった方が良いのでSA-CVAでも不十分なくらいである。その意味では規制のCaliburatiojnを行い、SA-CVAとBA-CVAにおける所要資本に十分な差をつけてインセンティブをつけたうえで、SA-CVAの高度化を目指していくべきだと思う。10%程度の資本削減しか得られない中でコストがその10%を上回るというのであれば、SA-CVAを使うインセンティブは大きく削がれる。そして、BA-CVAを使っていると、マーケットリスクをヘッジをするインセンティブがなくなり、カウンターパーティーリスクを裸で持った方が得ということになる。

日本ですら、金融危機後の円高時にカウンターパーティーリスクが高まったときに、外資系であれば円をロングにするCVAヘッジによって、かなりの損失が抑えられたはずである。為替のみならず金利やコモディティ価格が現在のように急変動することが増えてくると、こうしたマーケットリスクヘッジのインセンティブをなくしてしまうのは問題である。ただ、この分野に関しては結構テクニカルになるので、銀行の経営トップ層の理解が浅く、優先度合いを上げようという話にならないという事情もあろう。何か危機が起きるまではそれによって責任を取らされることもないからだ。

しかし、例えば金利が1%上がったとき、為替が10%変動した時に、カウンターパーティーリスクがどの程度増えるのかというのがわからない、ヘッジもしていないというのは非常に危険な気がする。BA-CVAだとクレジットリスクのみのヘッジとなるが、多くのデリバティブに詳しくない経営者からすると、それで十分ということになりかねない。特に市場変動によってリスクがそれほど変わらないローン畑の経営陣の場合は、BA-CVAで十分という判断になったとしても不思議ではない。

同じことはあらゆる分野で起きているが、リスク管理の知識や経験が以前より失われつつあるのではないかという懸念が残る。規制資本コストが最大のコストになりつつある中、それを減らすような行動を銀行が重視するのは当然であり、規制コストが減らないのであれば、わざわざコストをかけてリスク管理の高度化をする必要はないということになると本末転倒である。何とかリスク管理を高度化させるインセンティブが残るような仕組みを作っていけないだろうか。

海外大手銀行のテクノロジー投資

世界の大手金融機関はテクノロジー投資を着実に増やしている。2023年のマッキンゼーのレポートによると、銀行セクターのシステム投資は$650bnに上り、4%の収益増を上回る9%の伸びを見せている。米銀最大手のJPMなどは2023年にテクノロジーコストが年間$14bnと報じられ、これは日本の大手銀行の10倍以上になる。

日本企業のシステム投資についての報道を見ていると、以下のような特徴が報じられている。

日本では革新的なシステム投資を行うよりも、トラブルの少ない安定性やセキュリティが重視される。これには規制が厳しいという問題以外にも顧客が確実性を求める文化的なものもあるのかもしれない。確かに何かトラブルがあった時のダメージが大きいので、攻めの投資よりは守りの投資が重視されるのは仕方ないのだろう。

規制が厳しいかどうかについては若干疑わしいところもある。トランプ政権でどうなるかわからないが、米国の規制もかなり厳しい。しかし、海外ではシステム化や自動化を促すための規制が多いという特徴がある。STPガイダンスやリアルタイムレポーティングなどがその良い例だろう。何秒以内とか何分以内にレポーティングや決済などといった規制があるため、人手を介していては間に合わないのでシステム投資をせざるを得ないといった側面もある。

日本ではこうした規制がないのと、顧客の要求水準が高いため、マニュアルで作業しておいた方が特殊な要望に応えやすいという事情もある。人のコストが安かったこともあり、システム投資に膨大なコストをかけるよりは、人海戦術で対応する方がコストが安いという事情もあった。

しかし、人口減少と働き方改革、社会保障などのコスト増によって、これからは人件費が上がっていき、人手不足も深刻化していくだろう。税金を上げるというと大騒ぎになるが、給与明細をよく見ていると意外と社会保障関連のコストが増えているのがわかる。そうすると、海外企業並みにテクノロジーによる省力化を進めざるを得なくなる。一人の人員が働く時間も30年前と比べると格段に減った。残業で午前様になることも少なくなり、今となっては新卒の頃に隔週で土曜に出勤していたのが信じられないくらいである。

海外大手のテクノロジー投資分野を見てみると、2023年に$14bnを投資すると発表したJPMはAI、ブロックチェーン、デジタルバンキングにフォーカスして投資するとしている。同じく2023年に$8bnの投資を公表したシティは、インフラの近代化、AIやブロックチェーンなどのデジタル技術のインテグレーションがメインとしている。

BofAは2024年に$12bnを超えるテクノロジー投資と報道されており、そのうち$4bnが攻めの投資に充てられるとのことである。AI関連の投資は2022年と比べて94%増とのことで、この分野における米銀の投資拡大が顕著である。

銀行としての守りの強化もあるが、Wells Fargoは同じ年に$10bnの投資を公表しており、サイバーセキュリティ強化と次世代テクノロジーへの投資がメインとしている。日本ではMUFGグループが$1.5bnを同様の分野に投資と報じられ、中計で2023年度~2025年度の3年間で8000億円($5.3bn)の投資とされている。海外の規模には劣るが、日本でもデジタル関連を中心にIT投資が増えてきている。

AIを活用すれば議事録を作成する労力もほぼ必要なくなり、エクセルのVBAを書く必要もなくなったので、生産性はかなり上がってきている。人を減らしてシステム投資を増やす動きはますます加速し、金融は装置産業となっていくのだろう。

米国債クリアリング規制の1年延期

ここでも何度か書いてきたが、予想通り米国債の集中清算義務規制の施行延期が発表された。米国債の現物が2026年12月31日、レポが2027年6月30日に延期される。大方の予想であった2/26のSECのミーティングを待たずに、25日には早々と発表されていたところを見ると、もうかなり前から固まっていたのだろう。もしかしたらゲンスラー氏辞任の直後にはほぼ確定的になっていたのかもしれない。

これでCCPサイドもクリアリングする際の方式を固めたり、ルールブックの改正に時間をかけることができるようになる。新規参入予定のCCPも取引執行とクリアリングを分けるいわゆるDone Awayモデルの詳細を詰めることができる。どうしても金利スワップなどOTCクリアリングに慣れた身からすると取引執行をしたディーラーとクリアリングブローカーが異なることがありうるDone Awayモデルの方が馴染みやすい。執行したところがクリアリングをするということになると、多くのディーラーのプライスを比較するのが難しくなり、囲い込みができるディーラーとしてはメリットがあるだろうが、顧客はOTCと同じモデルを好むと思われる。

証拠金規制の時のようにフェーズに分けてGo Liveをするのではなく今年の年末に一斉に導入するとなると、契約やオペレーションの準備が間に合わず年末の流動性がひっ迫するリスクなども懸念されていたので、まずは一安心といったところか。ただし、特に日本やアジアの理解度や準備は遅れていたので、これで時間があるからといってこれまでの作業をストップさせるのは若干危険だろう。

米国債クリアリングに関しては、FICCとCMEが現物、レポ、先物のクロスマージンサービスを提供する予定になっているが、これに関しても銀行サイドの分析が完全には終わっていない。オフバランスのデリバティブとオンバランスのレポが資本規制上ネッティングできるかどうかは、慎重に精査する必要がある。

日本でもレポと金利スワップをパッケージで取引するヘッジファンドの中には、リスクが相殺されているのだからIMやレポのヘアカットを引き下げるべきと交渉するところもあったが、ISDAとGMRAでネッティングができるか、担保を融通しあえるかというのは全く別問題である。

クロスマージンという言葉の響きが良いからか、その効果が若干過大評価されているような気もする。確かにクロスマージンがないよりはあった方が担保効率は良くなるのだろうが、実際にそれほどクロスマージンの効果が得られていないという状況も多いのではないかと予想される。

さて、ここで1年の猶予ができたので、こうしたネッティング、クロスマージン、クリアリングの手法も含めて、何が最適なやり方なのかについての議論が活発化することになろう。

内部モデル方式の存続

銀行が自ら計算したものなど信じられないということでIRB(内部格付手法)が存続の危機に瀕している。規制上意味がないのであればリソースを割く必要はないというこで、モデルの高度化などにコストをかけないようになってきている。これまで長年蓄積してきたデータもお蔵入りになってしまっており、長年リスク管理業務に従事してきた身としては忸怩たる思いがある。

銀行が自らリスク管理能力を高めようというインセンティブを削がれてしまうのは仕組上望ましくないのだが、規制は関係なくとも銀行はIRBをメンテナンスすべきかどうかという問題が残る。標準法だけをベースに投資判断をするようになれば、リスクの高い投資をすれば資本効率が上がる。レバレッジ比率なども、リスクの高い社債でも国債でも資本コストが元本だけに依存するのなら、リスクの高い資産を持つ方が資本効率が良くなる。バーゼルのアウトプットフロアや米国Collingsフロアもあるので、ますます簡単な標準法への依存度が高まってしまっている。

こうした簡便法はあくまでもやりすぎを防ぐためのバックストップであり、本来のリスク管理はより高度な内部管理を行っていくことが重要だと思う。銀行の経営陣のリスク管理能力が高ければ、リスキーな取引に対するコントロールが効くかもしれないが、特にデリバティブリスクとなると、ローン、M&Aなどの畑から昇進してきた経営層や、社外取締役の意見が強くなり、細かなリスク管理が行えなくなってきているところが増えているようにも見える。

昨今のコストカット圧力を考えると、何らかの形でIRBを存続させるようなインセンティブを与えた方が良いとは思う。銀行が信用できないというのなら、標準法で資本賦課を行うのはやむを得ないのかもしれないが、過去20年間に蓄積したデータやノウハウを残すためにも、IRBを使うインセンティブを何らかの形で残した方が良い。

銀行サイドも特に海外では巨額の罰金が科されるため、当局をあざむくような行動は取れなくなってきているし、それによって信用を失って破綻の危機に瀕する可能性もある。銀行不信は米国民主党に強かったため、共和党政権かでは少しましになるかもしれないが、今のうちに本来どのような規制が望ましいのかを再考すべき時が来ているのだろう。

JGBリパックのリスク管理について金融庁が警鐘を鳴らしている

金融庁が地方銀行に対し、国債仕組み貸し出しのリスク管理強化を要請したというニュースが報じられた。最初はよくわからなかったが、要するにJGBリパのことだった。SPC(特別目的会社)を設立して国債を入れ、その裏でデリバティブ取引を行うなどと書かれると、怪しい商品に見えるかもしれないが、実際は単純に金利スワップなどのデリバティブ取引を債券の形で行うだけの商品であり、これは日本では昔から活発に取引されているものだ。

一部の報道では、SPCから先で行われているスワップ取引の詳細が地方銀行側には明かされず、ブラックボックスになっているとされているが、さすがにそのようなことはないだろう。

金融機関内部でも、役員クラスがデリバティブに詳しくない場合、仕組みやストラクチャードなどという言葉に嫌悪感を示すことがあるが、こうした報道だけを見ると、再び地方銀行が複雑なリスクを取っているような印象を与えることになる。確かに、複雑なペイオフを持つ商品が売られることもあるが、実際には極めて単純な仕組みであることがほとんどだ。

それよりも、単純に国債を購入して金利スワップで変動金利にするアセットスワップを選んだ方がよいのだが、そうすると金利スワップの時価評価が毎日必要になるため、JGBリパが好まれる傾向にある。JGBリパにすれば、満期保有有価証券として時価評価を避けることが可能だからだ。また、ローン残高として計上できるという理由もあるかもしれない。また、英文のISDAマスター契約の締結や担保管理が煩雑であるという事情も影響している。しかし、SPCの組成や各種契約にかかるコストを考えると、デリバティブ取引をするよりは割高になることは確かだ。

いずれにしても、他国ではそれほどポピュラーな商品ではなく、日本における取引量が突出していることは間違いないだろう。

確かにデリバティブが含まれているため、どんな取引でも可能であり、複雑な商品が地方銀行や信用金庫に売られている場合もあるかもしれない。最近ではフィデューシャリー・デューティーを意識しなければならないため、金融機関側でも慎重になっているはずだ。しかし、もし地方銀行や信用金庫がリスクを理解せずに取引を行っているのであれば、それは改善しなければならない。

とはいえ、そろそろ面倒くさがらずにISDA契約を締結し、証拠金規制に従って担保授受を行い、時価評価を実施するという正攻法に切り替えた方が良いのではないだろうか。金利スワップを用いて金利リスクを適切に管理することは重要である。時価評価を行っていなかった国債ポートフォリオから巨額の損失を出して破綻したシリコンバレーバンクの例もある。

日本でも、デリバティブが投機の象徴ではなく、適切なリスク管理のためのツールとして広く理解されることが望まれる。

米国債クリアリングの準備が進まない

通常、規制施行開始の1年前までに詳細が固まっていない場合は、規制の施行延期が行われることが多いと思っていたが、米国債のクリアリング規制に関しては今のところ延期の話が出てこない。トランプ政権の影響も、まだデリバティブ規制などに及んできていない。

クリアリングブローカーである金融機関は、顧客との契約を年末までに変更しなければならないが、CCPサイドのルールブックも最近変更されたばかりで、その内容を精査して、契約のひな型を作るにはもう少し時間がかかる。顧客資産の分別管理、クリアリングを行わなず執行だけを行うディーラーを使えるようにするモデルなど、いまだ固まっていない内容が多い。

現状ではFICCが唯一のCCPだが、CME、ICEなどが参入をすることになっている。それぞれのCCPがどのようなモデルになるのか、それに応じてどのように分別管理や担保管理のやり方を決めなければならないが、あまりに時間が少ない。SIFMAが標準的な契約のテンプレートを作成しようとしているが、この作業にはまだ時間がかかりそうだ。

金融機関サイドでは、ネッティングオピニオンなどを取って、どの程度の資本コストになるかを正確に予測するのも重要である。FICCとCMEは国債取引、レポ、先物間でのクロスマージンを提供する予定だが、クリアリングのそれぞれの顧客レベルでクロスマージンのベネフィットが得られるかも精査しなければならない。

また、改革が約束されていたSLRについても何らアナウンスがでておらず、G-SIBサーチャージの引き続き制約となる。金融機関サイドも、いくら規制だから顧客を助けるためにクリアリングを提供しようと頑張っても、資本コストが大きく赤字になるようだと、今一つ本腰を入れて作業が進めにくい。これはOTCクリアリングでも明らかになったことである。CCPでの集中清算を進めようと努力したら、あまりにも資本コストがかかるため、ビジネスとして成り立たなくなる可能性は否定できない。

こうした数々の課題を考えると、やはり延期しかないのではないかと思えてくる。そうなると来年6月が国債、再来年末がレポというタイムラインが適当なのではないだろうか。延期されないとなると、日本でも対象となる市場参加者が一定程度いるため、これから急ピッチで契約やオペレーションの準備を整えなければならないだろう。

政治的リスクとデリバティブ解約権

今年のISDAの目標の一つに1998 FX Definitionsの改訂が含まれている。ロシアのウクライナ侵攻を受けて為替市場で混乱が生じたが、これに対応するため、市場標準の確立が望まれている。これはロシアルーブルへの対応にとどまらず、中国や台湾などの取引がどのように扱われるかという点で、アジアにとっても非常に重要である。

ロシアと同様にアジアでは、オンショアとオフショアで市場が分かれている国が多く、政治的リスクが顕在化した場合、これらの市場で分断が起きることが予想される。海外では、このような危機に備えてどのような対応を取るべきかについて当局の関心が強いが、日本でも同様の対応方針を決めておく必要がある。

万が一、台湾に対する軍事侵攻があった場合、為替市場では大きな混乱が起こるだろう。台湾ドルの暴落、西側諸国の経済制裁、中国の外貨流出禁止などが発生する可能性が高い。中国企業と取引をしていた場合、経済制裁によってデリバティブ取引の支払いができなくなり、デフォルトが発生する。この場合、支払えないのは西側諸国側であり、デフォルトが発生するのは中国企業ではなく、米国や日本サイドである。ただし、デフォルトではなくIllegalityとなる可能性が高いが、米国や日本サイドがAffected Partyになる点は変わらない。

このような場合、中国企業は期限前解約を行うことができ、その際の価格決定権も持つことになる。オフショア市場は混乱しながらも価格を得ることができるだろうが、オンショア市場は比較的落ち着いているかもしれないも価格がオフショアの投資家には見えずらい。いずれにしても、解約価格がどのように決まるかは予測が難しい。現在でもオンショアCNYとオフショアCNHでは価格差があり、裁定取引が活発に行われているが、政治的混乱時にそのスプレッドがどの程度乖離するかは予測できない。また、資金の国外流出が禁じられた場合、担保が受け取れるかも不確実である。

FX Definitionsの話に戻ると、この定義集の中で、Disruption Eventがどのように規定されるかが注目されている。ウクライナ危機はDisruption Eventに該当しなかったため、自動的に取引を解約することはできず、各社ごとに交渉して解約の道を模索するしかなかった。

為替取引の場合、ロシアの時のように経済制裁が発生しても、何らかの猶予期間が設けられることが多い。確かロシアの時は米国が3ヶ月、英国が1ヶ月だったと思われるが、この期間内に期限が到来する取引は満期を待てばよいとされる。市場の規模を考えると、中国元の場合は3ヶ月程度が与えられる可能性があるが、保守的に1ヶ月としてプランを策定する企業が多いだろう。

本来であれば、猶予期間内に満期を迎えない取引については、自動的に解約手続きを進めることができるようにしておくほうが不確実性が少なくなる。経済制裁におけるIllegalityの行使については、どちらをAffected Partyとするのか、双方をAffected Partyに指定することができるのか、または解約価格について共通の価格決定メカニズムを設けるなどの手当てが望ましいと考えられる。