AIが金融を変える

ESMAからEUの証券市場のおけるAIの活用についてのレポートが出ている。取引執行やポストトレード処理の最適化に人工知能が使われることが多くなり、大量執行時のマーケットインパクトやフェイルが減少しているとのことだ。AIがどのような局面で使われるかを詳述しているので、日本でも参考になるだろう。

やはりメインは取引執行時のマーケットインパクトの低減だが、これは取引コストの減少につながるので、マージンの低下に悩む金融機関やブローカーにとっては非常に重要である。投資家目線では、取引前に価格がどのように動くかというシグナルを分析し、投資機会を特定する局面でも使えると書かれている。

こうなると信頼性の高いデータをどこまで蓄積するかが重要になる。金融機関や取引所には膨大なデータが眠っているはずなのだが、使い勝手の良い形でそれが蓄積されているとはいいがたい。こうしたデータ分析に関しては小売り業界、IT業界の方が進んでおり、最近では金融機関とテクノロジー企業の連携も目立つ。SDRなどはかなり幅広く分析されているが、リアルタイムレポーティングなどは米系のデータが中心になるため、若干偏ったサンプルになる。特に日本のデータが最も得られにくい。当初はETPのデータなども参照していたが、ETP業者ごとに分かれているのと、該当取引があまりにも少ないため、これを利用しているところは少ないと思われる。

ChatGPTのような対話型のAIは実は金融機関内ではかなり前から存在しており、「次の日銀会合はいつですか」とか、「Amazonの直近の決算は?」などと聞けば、AIが自動で返信してくれるツールは5年くらい前から存在していた。これが今ではかなり高度化して、かなりの質問に答えてくれるようになってきた。ChatGPTが米国の有名大の期末試験で使われまくっていることが問題になっているが、学校側では、提出物がAIで書かれたかどうかを判別するAIを使っていたりする。ここまでくれば、ほとんどの顧客対応はAIで可能になってくる。

米国の銀行に電話したら、声のトーンから個人認証ができてしまうのにも驚いた。当初適当な内容を1分くらいしゃべって登録しただけなのだが、完ぺきな精度で本人確認ができるらしい。この技術が既に完成されているのであればオレオレ詐欺なども防げるのかもしれない。

他にも過去の販売実績を参考に、営業職員のPCに自動的に「そろそろこの商品をこの顧客に勧めてはいかがでしょう」なんてメッセージが出る。そのうち自動的にAIが電話やメールを送るようになるだろう。こうしたことを既に行っている銀行もおそらくあるだろう。

そんな中、米ドルを日本の銀行間で国内送金しようとしたら、ネットではできず郵送のみの対応と言われてびっくりした。日本の金融処理も在宅勤務が増えて改善してきたが、更なる進歩が期待される。