日銀の利上げとFEDの利下げにより金利差が縮小したにもかかわらず、為替は円安方向に進んだ。これ以上の日本の利上げと米国利下げは当面ないと思われたのかもしれないが、一つだけ確実に変化しているのは、為替のヘッジコストである。ヘッジコストが下がればバイサイドや保険会社などがヘッジ比率を上げてくる可能性がある。ヘッジ比率が5%上がれば$1.4tnのフローが増えるというコメントも報道されている。
証拠金規制(VM)の対象になる生保などは有担保で取引をしているだろうが、小規模の金融機関や事業会社などは無担保で取引をしているところも多いため、銀行としては資本コストが大きくなる。
以前のCEM(カレントエクスポージャー方式)が適用されていた頃は1年未満の為替取引は元本の1%がEADだったが、SA-CCRになってからこれが満期によってより精緻に計算されるようになった。試しに$10mm FX Forward取引のEADをSA-CCRとCEMで比較してみる。横軸は満期(月)、縦軸はドルベースのEADである。

SA-CCRにおける為替取引のSF(Supervisory Factor)は4%であり、アルファ係数1.4がかかるので、EADは$10mm*1.4*4%*MFとなる。MF(Maturity Factor)はsqrt(満期)で計算される。SA-CCRになると、6か月取引ではCEMの時の約4倍、1年取引では5.6倍に跳ね上がる。これが2022年に米系がSA-CCRを本格適用した時にマーケットでb/oが急上昇した理由である。
このような資本コストに対して収益が少ないため、特に無担保為替取引はディーラーにとっても悩ましい商品となってしまっている。外資系などは為替のトレーダーを日本においているところは少なくなっており、為替のセールスは以前のように稼げなくなっている。日本の場合は無担保の比率も多く、競争も激しい上に、オペレーション的に特殊対応が多いためコスト高になっている。日本では日々のトレーディングで資本コストを気にする慣行があまりないが、今後これが大きな問題になってくる可能性がある。
またこうした取引は月末やIMM Dateに集中する傾向もあり、ディーラーにとっては、継続的に流動性を供給し続けるのが課題となっている。流動性の逼迫のみならず、オペレーショナルリスクや決済リスクなども同時に発生してしまうからだ。
取引ニーズが急上昇している中、SA-CCRなどの資本コストが逼迫している現状を見ると、何らかの市場危機が起きた際に、円滑な流動性へのアクセスが制限されてもおかしくない。特にドル調達ニーズの高い日本やアジアの国々にとっては死活問題となり得る。市場動向の変化が為替市場にどのような影響を及ぼすか引き続きモニタリングしていく必要がある。