DRR(Digital Regulatory Reporting: DRR)とは

DRRとは、取引情報などの規制報告の標準化を目指すもので、複雑なデリバティブ取引の報告規則を、コンピューターが直接実行できるオープンソースコードに変換するものである。ISDA主導で導入が進んでいる画期的なプロジェクトなのだが、まだ国内での認知度は必ずしも高いとは言えない。

しかし、ここまで規制や報告要件が複雑化していく現在の環境において、規制を業界レベルで解釈して統一見解を得られたゴールデンソースに基づくコードを自社システムに組み込めるのだから、報告違反で罰金を支払うといったリスクが小さくなる。過去にもデリバティブの取引報告義務違反はBarclays、JPM、DB、BofA、DTCCなどで実際に起きており、罰金額も数十億円に上ることが多い。

通常各金融機関はコンプライアンス担当を置いて、各国の報告規制を細かく解釈し、漏れのないよう対応を行っている。そして、規制に変更があれば、それを直ちに把握して報告システムに変更を加えなければならない。DRRを使えば、このような報告システムのメンテナンスが容易になり、コンプライアンス担当の負荷軽減につながる。

DRRは2022年11月に、CFTCの報告規則変更に先駆けて初めて導入されたが、その後、オーストラリア、EU、日本、シンガポール、英国の改正規則にも対応範囲を広げ、カナダや香港の要件も含まれる予定となっている。これで主要9法域における11の報告規則をサポートすることになり、規制が改正されるたびにコードが修正されていくことになっている。データの一貫性が業界全体で担保されるため、当局サイドにとってもデータの扱いが容易になるといったメリットもある。

CFMやCRIFファイルなどもそうだが、ISDAでは様々なデータの標準化のイニシアティブを主導しており、おかげで、かなりのプロセスが簡素化されている。日本では、Suica、PayPay、楽天Pay、au Pay、ファミペイ、ゆうちょPay、メルペイ、d払いなど、数えきれない支払い方法があり、店舗側もそれに対応するが大変だ。海外ではこんなにたくさんの支払い方法があるところはあまり見たことがない。しかし、金融取引においては、標準化によって得られるコストセーブは計り知れない。その意味でもISDAの行っているデータ標準化は非常に重要な取り組みだと思う。