既に6/17に原案が公表されていたが、25日の公開会合で、ついにSLRの緩和が確実となった。60日のパブコメはあるものの、ほぼ原案に近い形での緩和が実現するものと思われる。この緩和が米国債の流動性を高めることにはならないという反対意見もあったようだが、現場で取引をしていた人であれば、これがどれだけ市場流動性供給の妨げになってきたかは明らかだろう。
特にこのブログでも何度も主張してきたように、SLRはあくまでもリスクベースの資本規制に対するバックストップであるべきで、Binding Constraintになってはならないという原則が強く謳われている。そのため、実際各行のSLR要件がリスクベースの資本要件より厳しくならないように調整されている。
これまで公表されている情報によると、SLRバッファをUSのMethod1の半分に設定するとのことである。これまで3%+2%のバッファ(預金取り扱い銀行の場合は全体で6%)で5%が米国SLRの最低要件だったが、この2%のバッファ部分が下がることで全体の要件が1.5%程度下がることになり、5%が3.5% – 4.5%に下がる。
一部報道ではこれによって$210bnの所要資本削減になると大々的に報じられているが、これは若干誤解を招く表現である。先ほども述べた通り、SLRをバックストップにするというのが原則なので、当然リスクベースの資本要件は順守しなければならない。つまりリスクベースの資本要件とSLRの両方を計算した上で、厳しい方に従うということなので、リスクベースの資本要件よりSLR要件が厳しかった部分のみがこの変更の恩恵を受ける。
BPIの計算によるとこの削減幅は$7.1bnということになり、$210bnよりは格段に少なくなる。じゃあ、ほとんど影響がないかというと、心理的にはかなり大きな違いがあると思う。現場でSLRを気にしていた身からすると、想定元本に依存した資本要件の呪縛から逃れられるのはかなり大きい。コロナショック時に米国債をレバレッジ比率の計算から除く時限措置が導入されたときのことを思い出して頂ければ、いかに市場ストレス時にこの変更が重要かおわかりいただけただろう。
もちろんSLRが廃止された訳ではないので、引き続き想定元本をベースとしたリスク計算は続けなければならないのだが、これで国債取引やレポ取引の流動性は(特に市場ストレス環境において)向上することになる。米国外における米系のプレゼンスを考えると、日本国債市場の流動性にとっても有利に働くように思う。