昨年9月に米国NSCCが取引時間を拡大し、それまで夜中の1時半までだった取引期限を朝4時とした。来年2026年からは土日を除いた24時間オープンが予定されている。NASDAQも来年からの24時間トレーディングについて当局承認待ち状態にある。既にオーバーナイトの取引を行っている市場もあることから、将来的には24時間トレーディングが普通になっていくのだろうが、これがOTCデリバとなると今一つ不安感をぬぐい切れない。
先物や為替取引などではリアルタイムマージンを導入して24時間プライムブローカーサービスなどが行われてきたが、リスクマネジャーとしては気が気でなかった。実際に日本の市場参加者でも夜中の2時にアラートが発せられることもあり、契約上は担保が入ってこなければ即時強制終了という条項はあるものの、実務的には様々な問題が発生する。強制終了せざるを得ない個人投資家の場合はこれが標準なのだろうが、そこそこ大きな機関投資家となると、長期の顧客関係もあり、なかなか判断に迷うことが多くなる。単なるオペレーションの遅延ということも多い。
頻繁に発生する為替の急激な変動、数年前の電力、天然ガス、ニッケル等のコモディティ価格の急変、英国トラス政権を失脚させた英国債ショックなどが寝ている間に発生した時に、取引所や金融機関がそれに問題なく対応できるかが重要になってくる。ここまでくると、24時間体制でモニタリングのできるシステムや決済フローを構築する必要があるが、いくらテクノロジーが進歩したといっても、今の状況では、まだ人の力が必要である。24時間稼働をするには日本でシフトを組むのは現実的でなく、海外時間でのオペレーション体制も整えておく必要がある。
当然デリバティブ取引については先の話になるのだろうが、メールでマージンコールをかけて、時価が合うかどうかを照合し、送金手続きを行うという処理では間に合わないことは明らかである。そもそもお互いが取引時価を別々に計算してそれを合わせていては不可能なので、誰かが中立公平なプライスを提供してくれることが不可欠になる。とは言え、技術的には全く難しくなく、決済についてもリアルタイム決済への移行が確実なので、将来的には夢物語とは言えない。寝ている間の極度の市場変動についても、一定のサーキットブレーカーを設ければ対応可能だと思われる。
ただし、そうなる前に各金融機関がシステム投資を怠らず、将来的な金融変革に備えておかなければならない。欧米には遅れているとはいえ、日本でも人手不足が深刻になりつつあるためか、これまで人海戦術で対応してきた部分を積極的に自動化しようという動きが活発になってきている。こうして決済リスクが減ればMPOR(Margin Period of Risk)を減らして必要証拠金や所要資本を引き下げることも可能になるかもしれない。特にアジアの金融機関がこうした対応で急速にキャッチアップする中、こうした対応はますます重要になってくるだろう。