8月に起きた市場変動に対するBISの分析

先月8月5日の市場変動についてのBISの分析ペーパーが出ている。基本的には各種報道されている通り、キャリートレードの巻き返しが主要因としている。株式や各種オプション取引も、急激な市場変動がないということを前提としたストラテジーなので、一旦市場変動が起きると急速にポジション解約が進み、市場変動が増幅される。

しかも、近年は高速取引が増えているほか、市場変動がVMのみならずIM所要額をも引き上げるため、さらに変動が加速する。このペーパーの著者も言っているように、市場が落ち着いているときに巨額のポジションが蓄積され、それが一気に解約されるというリスクが高まっている。

レバレッジのかかったキャリートレードは、8月5日に至るまで相当に大きくなっており、それが一気に解約されているが、最も大きかったが、円ショートのポジションだった。これだけが原因ではないだろうが、結局最も大きく変動したのが日本株だった。きっかけは前の週の日銀の政策変更と米雇用統計だったが、この二つともそれほど大きなトリガーとは言えない。ポジションが大きくなりすぎると、ちょっとしたニュースでも急激な市場変動が起きる。

著者は8月5日までに蓄積された投機的な円キャリートレードのポジションは$14bn程度としているが、実際はデリバティブポジションなども併せて$160bn程度はあったと予想している。このポジション解消の動きの要因として、FX業者による個人投資家のポジション解消を挙げている。つまり、メディアで報道されている分析をデータで実証した形になっている。そして、円やスイスフランといったキャリートレードの常連とされる通貨以外にも、中国元、マレーシアリンギットがFunding通貨として使われていると推測している。

マージンコールによって引き起こされるプロシクリカリティについても言及されており、市場変動によってIMが増えたものとしてJSCCの株式インデックスのIMが60‐80%の増加、国債先物のIMが43%増加した点を挙げている。

全般的にこうした金融市場におけるリスクテイクが高まっている点を著者は懸念している。マーケットが落ち着いた後も、レバレッジを効かせたポジションの一部が急速に再構築されている点も指摘されている。こうした市場変動は金融システムの構造的変化を反映しているとの主張はもっともであるが、さすがに規制強化がこれを引き起こしているまでは書いていないようだ。

キャリートレードは昔から存在しており、日本でも急速な円高が起きないことを前提とした輸入企業の為替ヘッジ(にレバレッジを加えたもの)が原因で、リーマンショック後に多くの中小企業が破綻した。為替取引にレバレッジをかけていなければ今も存続していたと思われる企業も多い。

構造変化により、あの時と同じことがより簡単い起こりやすい状況になっているというのだから、一層注意が必要ということなのだろう。今回の相場でもそうだったが、マーケットはオーバーシュートしやすくなっているため、一時的には思いもよらぬ変動が起きる可能性があり、それが突如巨額のマージンコールを引き起こしてしまう。

為替介入は批判されることも多いが、ここまで市場変動が激しくなってくると、要は株式市場のサーキットブレーカーと同じようなものなのだから、頻繁に行われない限り、もう少し正当化されても良いのかもしれない。