ISDAから契約交渉に関するサーベイが公表された。デリバティブ取引の基本契約としては完全に市民権を得たISDAマスター契約であるが、その交渉にかかる時間は思ったより短縮化されていないようだ。証拠金規制でIM拠出が義務付けられ、カストディアン契約等新たな契約が増えたという事情もあるが、それでもここまで標準化されてきたのだから、もう少し迅速に契約締結が可能かと思っていた。
おそらく規制強化と人員不足という理由もあるのだろう。また、自動化やシステム化のための予算がつけにくいという事情も関係しているかと思う。契約交渉のために積極的に人員とコストをかけるところは多くないのは事実である。
契約の中身についてみていくと、ISDAのVersionには1992年版と2002年版があるが、未だに1992年版が半数近く残っているのは驚きだ。各種猶予期間やクローズアウトのやり方などを改善した2002年版を使うべきなのだが、やはり既存のISDAの書き換えはあまり進んでいないようだ。以下が契約のバージョンごとのシェアである。一部1992年版にアドホックに改善を加えるケースもあるが、それでもたったの7%である。
56% 2002年版ISDA
39% 1992年版ISDA
7% 修正1992年版ISDA
実際にデフォルトが起きた時や、ロシアの経済制裁時などは、2002年版の方が実際には有利だった。とはいえ、やはり普段から問題なく取引ができているのだから、わざわざ面倒な契約交渉をしたくないという事情もあるので、本来であれば、新しいバージョンができたときは、一斉に変更するような仕組みが必要なのかもしれない。ISDAのプロトコルに批准することによって一斉に契約の更新を実現することは一般的なので、ISDAのバージョンについても同じことはできないのだろうか。
その他、ISDA Createなど、システム的に契約交渉を行うツールが用意されているにもかかわらず、実際に使っている人は少ないようだ。驚きなのは、80%以上のケースで、メールやWordファイルのやり取りで契約交渉を行っており、20年前からほとんど進歩していない。
契約にかかる時間であるが、半数近くが3か月以上という結果になっている。これは以前からほとんど変化しておらず、2006年との比較では若干悪化してさえいる。1年以上かかるものもあるが、ここまできたら、優先順位が低く何もしないで放っておいている状況に近いものと思われる。
本来であれば、契約に必要な重点交渉項目だけを選択することによって自動的に契約書を作成し、それを当事者間で合意できれば望ましい。そうすれば各種契約項目のデータベース化も容易にできる。そもそもISDAマスターの場合は、ローンのように銀行が一方的に与信供与をする訳ではなく、両当事者ともに与信を供与する側になりうる。このため、できるだけ両当事者に同じ条件が適用できるようにするのが望ましい。片方が信用力に極端に劣る時のみ解約条項、保証、各種トリガーを交渉する必要があるが、それ以外は標準的な条項を双方が適用すれば、本来はそれほど時間がかからないはずだ。
そしてこうした条件だけが合意できたら、あとはAIで自動的に契約を作成すればよい。細かい表現を読み込む必要性がなくなれば、英語の問題も少なくなるはずだ。こうした契約のAI化は、日本にとっても非常にメリットが大きいものと思われるので、何とか進化させたいところだ。