欧州CCPの新スキームEATM

以前欧州のクリアリングでエージェントモデルを導入しようとする動きについて紹介したが、2020年から続くこの検討も最終段階を迎えているようだ。

残念ながら参加できなかったのだが、6/19にFIAでプレゼンがあった。European Agent Trustee Model(EATM)と呼ばれるこのスキームを使えば、欧州でメインのプリンスパルモデルよりも資本コストが下がる。そもそもプリンシパルモデルでは、ディーラーが顧客とCCPの間に立って取引をするため、想定元本がダブルでかかってくる。一方エージェントモデルでは、基本的には顧客とCCPとのダイレクトな取引となるため、ディーラーの取引元本にカウントされないというメリットがある。

元本がダブルでカウントされるということは、SLRなどの資本コストが高くなるうえ、G-SIBSスコアの計算上不利になる。このため、コストの高いクライアントクリアリング業務から撤退するディーラーが相次いでいる。

もっとも以前紹介した通り、米国ではこのエージェントモデルに対しても資本賦課を上げようという動きがあるのも事実である。幅広くCCPでの清算集中を促しておきながら、清算集中を支援するクライアントクリアリング業務に対して資本規制を強めるのは本末転倒との批判が起きている。

EATMには英国法とドイツ法の2種類があるようだが、これはCCPの属する国ではなく、市場参加者の属する法域によって決まるようだ。LCHでは英国法のリーガルオピニオンと当局承認の取得を進めている。英国の市場参加者は、英国版のスキームによってLCHとEurexに参加できるようになるようだ。

Brexit後の域内CCPの拡大を目指している欧州にとっては、英国からクリアリングのシェアを欧州に移すためには、無視できないプロジェクトである。Eurexはロンドンの顧客シェアを拡大させるため、金利スワップについて英国の顧客向けにサービスを始める予定だ。健全なCCP間の競争があれば、このようにお互いがサービスの充実に向けて検討をするので、これは市場にとっても望ましいことである。

この新たなエージェントモデルはプリンシパルモデルに取って代わるものではなく、併用されるものである。参加者破綻時にポーティングをする際にもエージェントモデルからプリンシパルモデルへの変更が可能となっている。したがって、現在プリンシパルモデルを適用している場合にBack upブローカーを選定しようとしたら、別にプリンシパルモデルを提供できるブローカーにこだわる必要はない。

米国が極端な規制に向かう中、欧州でユーザー目線にたった仕組みができてくれば、昨今ように米系が上位を独占する動きに変化が表れるかもしれない。または規制の制約の少ない日本などが、もう少しプレゼンスを高めれられれば良いのだが。