取引を一般公開すると流動性は上がるのか

1年前のクレディスイスショック時に、ドイツ銀行のCDSスプレッドが極度にワイドニングしたことを受けて、CDS市場の透明性を高めるために報告規制を強化すべきという声が上がったが、その後あまり進展はないようだ。そもそもの発端は、CDSスプレッドの拡大が、ドイツ銀行の株価急落を誘発したため、CDS市場の透明性確保が急務と認識されたことにある。

具体的にはGSIBsに認定された銀行を参照するCDSについてポストトレードの透明性向上を求めるペーパーがEUから出された。米国でもいわゆるRule 10B-1によってCDS取引のポジションを公に公開するというルールについての議論が注目されたこともある。

金融取引を極力開示して透明性を高めることが、市場の活性化と正常化につながるという意見が欧米では良く聞かれるのだが、これは流動性の観点から慎重に検討すべきである。もちろん、株式や為替のような流動性の高い取引については、極力開示を進めることによって透明性が高まることは否定しない。ただ、リテールの取引が皆無であり、プロ投資家同士の間で取引される、流動性の低い取引が開示されたからといって、同じようなメリットがあるとは限らない。

特に、特定の投資家に取引が集中するコモディティなどでは、その取引内容が明らかになった時点で、誰が取引をしたのかが、その分野に詳しい人に明らかになってしまうことがある。また、米国規制上は開示義務が米国スワップディーラーにかかるが、円金利などの取引が日本時間に行われた場合、日本でスワップディーラー登録を行っている市場参加者は限られていることから、誰が取引をしたかが何となくプロにはわかってしまうということもある。

CDSも同じく流動性に欠けるため、取引開示規制を強化すれば、流動性が更に低下してしまうという懸念がある。昨年のドラフトでは、GSIBsを参照するシングルネームCDSは、欧州のPre Trade Transparencyの対象となるのではないかと言われていた。つまり、取引約定前に執行可能なプライスを公開しなければならないということである。流動性のないCDS市場においてこの要件はかなり厳しい。

また、欧州Mifirでは、ポストトレードでも取引内容を当局だけでなく一般公開する修正案が提案されたことがあったが、流動性のないシングルネームCDSには、4週間の報告猶予や免除が設けられており、CCPで行われた取引も除外されていた。しかしそれもドイツ銀行のCDSショックによって一瞬潮目が変わりかけた。

日本では、取引データを一般公開することに対して、欧米ほどの意見が聞かれない。ETP規制はあるが、免除規定も多くあまり大きな障害にはなっていない。確かに流動性がそれほど高くない日本で、報告規制を強化してもそれほどメリットはないので、欧米に遅れないよう一応の仕組みだけ整備しておけば良いのかもしれない。

特に流動性のない商品の場合は、まず取引を抑えることよりも、流動性を高める努力をするのが重要である。取引更改が流動性向上につながるのなら良いが、現状CDSに関してはそうは思えない。日本については、それはCDSのみならず、スワップションや通貨スワップについても言えることなのかもしれない。