CFTCのBob Wasserman氏が、CCPのクライアントクリアリングにおけるバックアップブローカーについて、12/11のGMACで懸念を表明した。クリアリングブローカーである銀行の破綻時に顧客ポジションを他のディーラーにスムーズに移せるとは思っている市場参加者は少ないと思うが、当局サイドもこれを認めている。Bob Wasserman氏はクリアリングの仕組みについてはかなり詳しい方なので、よく現実が見えているということなのだろう。当局としては異例ともいえるかもしれないが、厳しい資本規制がこのPortingを難しくしていると認めている。
上位10社のブローカーが全体の80%をクリアリングしているというのは、確かに問題である。昨今の資本規制とその収益性の低さから、クライアントクリアリングビジネスから撤退するディーラーが増え、撤退までいかなくともリスク許容度を減らしているところは多いものと推測される。リミットを引き下げているところもあるため、清算集中規制がない商品については、CCPからOTCに取引を移すところもあるというコメントも聞かれる。資本規制だけが問題ではないものの、規制強化が市場参加者をクリアリングから相対に押しやっているというのは皮肉な話だ。
特にArchegos以降、クライアントクリアリングに対する懸念も大きくなり、昨今のストレステスト重視も相まって、クリアリングがさらに厳しくなっている印象がある。Archegosで問題になったのはクリアリングされた取引ではなかったのだが、巨額のポジションとなると、必ずクライアントクリアリングのポジションが問題になってしまう。昨今のボラティリティが高まっているのは事実ではあるが、極端なシナリオを想定してリスクが大きいと判断するのは、クライアントクリアリングに関しては、少し行き過ぎているような感覚がある。
まずArchegosレポートで指摘されたようなStatic MarginがCCPでは発生しない。各CCPとも市場のボラティリティに併せて当初証拠金を見直しているため、CCPのIMはダイナミックに変動する。これを無視しして、例えば金利が2%突然上がった場合の想定損失額をベースに議論をするのは間違っているように思う。当然そんなことが100%起きないとは言えないため、なかなか認められないのだが、そのようなシナリオをベースにするならそもそもクライアントクリアリングビジネスは成り立たない。また、そんな状況で破綻参加者の傘下にあるポジションを受け入れようなどと言うディーラーがどこにいるのだろうか。
こうした極端なシナリオを想定して各ディーラーが保守的にリスクを見るようになると、クリアリングの仕組みが崩壊してしまうだろう。当然中央銀行や政府に頼った仕組みを作るのは望ましくないが、戦争や天変地異で市場が大きく変動した時に備え、証拠金や資本を積んでおくというのは不可能なレベルに近づきつつある。システムが存続不可能になるレベルまでディーラーが保守的になるのを防ぐために、ある程度の国のバックアップが必要ということを認めるのは、行き過ぎなのだろうか。