クレジットセンシティブレートの終焉

BloombergからBSBYの公表停止に関する市中協議があった。当局からの意見募集でないConsultationを市中協議と訳すのは何となく違和感があるが、10/13まで市場参加者の意見募集が行われる。これが決まれば、クレジットセンシティブレート自体がなくなっていく可能性もある。

米国ではLIBOR改革によってリスクフリーレートであるSOFRへの移行が行われたが、銀行の信用スプレッドを含まないリスクフリーレートをベンチマークとしていると、銀行の調達コストが上がったとしてもそれを貸出金利に反映させられないとして、信用リスクを含んだクレジットセンシティブレートが複数作られた。

この中ではAmeriborとBSBYが比較的使われてきていたのだが、それでも取引量が細っており、結局Credit Sensitive Rateは必要ないという結論になるのだろうか。ただ、今回の背景には市場のニーズ低下というよりは、当局の意向が影響したように思う。もともとは7月にIOSCOが国際的なベンチマーク基準を満たしているかどうかに疑問を呈したのが大きい。十分な取引量に裏打ちされていないという点が最大の懸念ということなのだろう。

しかし、その他の国にはこうした少ない取引データに裏打ちされた金利指標は数多く存在する。複数の金利指標が存在する日本もその例外ではない。先日住宅ローンの金利更改時に長プラという言葉を久しぶりに聞いたが、日本にも様々な金利指標が存在する。何となくIOSCOがCredit Sensitive Rateを狙い撃ちしていような感もあるが、よほどSOFRへの流動性集中が必要ということなのだろう。裏を返せば、LIBORスキャンダルを二度と起こしてはならないという当局の強い姿勢の表れなのかもしれない。

Bloomberg社としては、BSBYの頑健性についての分析を行い、監査も得たうえで指標としての透明性確保をしてきたつもりだったのだが、取引量が細ってきていることもあり、今回の意見募集となったようだ。レート自体は1年程度公表されるが、ここで公表停止が決まれば、新たな取引に使われることがなくなる。

今回のケースもそうだが、つくづく海外は標準化に重きを置いていると感じる。日本は顧客のニーズがあれば、必死でカスタマイズをして、それに応えようとする文化がある。信用リスクを含んだレートが必要であれば、金融機関はそのニーズに応えようとすべきであるという意識が働き、当局からそれを妨げる動きは見られない。ドルより小さなマーケットであるにもかかわらず、2つのTIBOR、TONA、TORF、2つのTONA先物と、JSCC金利とLCH金利のように様々な指標が存在している。

住宅ローンの変動金利も短プラ連動とはされているが、ゼロ金利政策下でも、交渉しない限りずっと下がっていない。短プラは1年未満の短期貸し出しにおける最優遇金利で各銀行が金利を決められることになっている。その意味では日本では米国とは異なり、短プラで利ザヤを確保できるのでクレジットセンシティブレートの必要性が低いということなのだろうか。

どれか一つに流動性を集中させるべきという議論もあまり聞かれない。細々とでも良いから、使う人がいるのだからそのまま置いておけばよいのではないかというスタンスだ。米国であれば市場操作の可能性や、指標をメンテナンスしていくコストが問題になるところだ。

いずれにしても金利に対する考え方は日本と海外でずいぶん異なっているように思う。ネット銀行の参入による競争もあるが、海外に比べると銀行にとって優しい仕組みなのかもしれない。その分シリコンバレーバンクのような危機は起きないという意味で一長一短なのかもしれないが。