米国GDPが4.9%に拡大すると予想され、景気回復を予想する声が多くなってきた。直近のデータを見ても着実な回復基調が見て取れる。ワクチン接種の進展と米国の1.9兆ドルの追加経済対策の影響が大きい。消費者物価指数も1.4%に上がり、原油価格上昇等から、6月には平均的に2.8%程度への上昇を予測する声が聞かれる。
10年のBreakevenは追加経済対策によって上がり始め、日本の物価連動国債までもが若干影響を受けている。その他、インフレ懸念からプラチナの価格が上がったりもしている。ビットコインの上昇にも関係しているかもしれない。
ただし、失業率だけは改善しないと見る意見が多いようだ。最近の雇用統計の影響もあるが、新規雇用数の回復が遅れるという意見が強くなっている。今年の平均的な失業率は5.3%くらいという予想で、米労働局発表の1月の失業率は6.3%であった。
景気刺激策の継続から資産価格は支えられ、株価ももうしばらくは上昇を続けるのかもしれない。インフレも2%を超えるが米国の場合はしばらくは許容範囲内だろう。日本でも同様な経済対策が続くだろうし、海外対比日本だけが引き締めに動くと円高懸念も高まる。ただし、日本だけがインフレ率が上がってこない。
海外の友人と話をしていると、米国その他の国の企業では、給料にインフレ調整がかかっている。つまり毎年2%とか3%物価上昇に合わせて基本給が上がっていく仕組みだ。例えば、2000年に給料が100、毎年3%給与上昇があると仮定すると、以下の表のように、複利効果によって20数年で給与格差は2倍になる。
海外 | 日本 | |
2000 | 100.0 | 100.0 |
2005 | 115.9 | 100.0 |
2010 | 134.4 | 100.0 |
2015 | 155.8 | 100.0 |
2020 | 180.6 | 100.0 |
2025 | 209.4 | 100.0 |
その分物価も上がっているのだから生活水準は変わらないという人もいるかもしれないが、この差は大きく、国際比較をした時の相対的な日本の地位は下がっていく。このまま行くと日本の給料は先進国中最低水準になってしまう。
定年後は物価の安いアジアに移住という話が以前あったが、そのうち物価が安く良質なサービスを受けられる日本の人気が高まり、逆に海外からの高所得高齢者の移住が加速するようになるのではないか。そうして物価が上がると日本の賃金で働く人々が苦境に陥ってしまう。何らかの防衛をしないと日本の資産は海外に買い漁られてしまうかもしれない。
逆に、海外資産に投資すればそのまま値段が上がっていく。当然為替レートである程度調整されるはずなのだが、介入によって変動が抑えられている。つまり、日本にいながら海外企業のために働き、海外資産に投資していけば、食費や生活必需品は安い日本の物価を享受することができてしまう。ネット経由で海外の仕事を請け負うのは簡単になった今、これは十分可能なのだろう。ただし、為替手数料、送金手数料、税金を考慮する必要があり、投資についても日本の証券会社の品揃え、手数料に限界があるため、海外証券口座を持つ必要がある。
物価上昇が当たり前の国では物価連動債やインフレヘッジの取引も多くなる。イギリスやオランダなど欧州ではこうした年金ファンドの金融取引が非常に活発である。日本にも物価連動国債はあるが、取引量は少なく流動性にも難がある。インフレを経験した人が少なくなっているのでヘッジなど考える人が少ないのかもしれないが、このままお金を刷り続ければ、どこかで突然物価上昇が起きてもおかしくない。
考えてみれば自分が生まれて初めてバスに乗った時の運賃は子供料金で25円だった。大卒初任給も以下のように10年ごとに上昇し続け1995年以降はほぼ横ばいである。(→参考)やはり日本経済が成長していたころは物価も上がっている。
1965年 月2.3万円
1975年 月8.4万円
1985年 月14万円
1995年 月19.4万円
2020年 月20.9万円
こう考えると、今後の年金はどうなってしまうのだろうか。海外の年金は当然物価調整が入るのでインフレがあれば需給金額も増える。二本も一応インフレ連動だったが、2004年のマクロ経済スライドの導入によって訳が分からなくなってしまった。少なくとも完全にインフレに連動しているとは思えない。
こう考えていくと、日本を取り巻く環境は厳しいが、海外と渡り合って成長する企業も少しずつでてきており、製品の品質、サービスは世界最高水準である。ただ、経済・金融関連についてはかなり遅れていると認めざるを得ない。