台湾生保の会計基準変更が為替市場に与える影響

台湾の金融当局である金融監督委員会(FSC)から生保の為替ヘッジの会計基準を緩和するプレスリリースが出ている。この変更によって、台湾の生保は従来のように為替ヘッジによってPLをヒットさせる必要がなくなり、負債の残存期間に応じて為替差損益を定額法のような手法で償却できるようになった。

これまでも、生保が債務超過に陥りそうな時は会計規則を変えて一時的に乗り切ったことがあったが、今回はヘッジコストの高まりを受けて恒久的にこの取り扱いが認められることになるように読める。

台湾主要生保の財務諸表を見ると、その資産の多くが米国の資産(株や債券)になっている。大手は5-8割といったイメージだが、平均でも6-7割はあるのではないだろうか。そして、その約6割について為替ヘッジを行っている。おそらく多くは現地行とのオンショアのDeliverable為替フォワードを使っているのだろうが、3割程度はNDFで海外銀行とのヘッジも行っている。

このNDFヘッジには季節性があるため、外資系やヘッジファンドの収益源となってきていた。このフローが減るとなると、世界第二のNDF市場に大きな影響があるかもしれない。昨年起きたようなTWDの大きな動きも見られなくなるかもしれない。

外資系としても、昨今の地政学リスクの問題から取引量に制限がかかっていることが予想され、しかも外資系銀行がフォワードでTWDを売るサイドになりWWR(誤方向リスク)になるため、台湾生保にとってコスト高になっていたのは事実だろう。

この流れを先取りしていたのか、2025年末の統計を見るとヘッジ比率は既に6割から5割程度に減少している。生保のバランスシートは会計的に安定するだろうが、NDF市場の流動性はかなり落ちていくことになろう。既にNDFのフォワードポイントはプラスに転じ、マーケットへの影響がみられ始めている。

これによってTWDのNDF市場の縮小、流動性の低下による取引コストの上昇が危惧される。長期負債に対して短期でヘッジする必要はないという理屈もわからなくないが、非常に危うい会計の変更のようにも思える。もしドルが大暴落してドル建て資産の売却を余儀なくされれば、台湾の生保の中には破綻に瀕するところが出てくるかもしれない。何かが起きてから慌ててヘッジしにいっても、ヘッジコストも急騰しているのは間違いない。シリコンバレーバンクなども、満期保有だからといって金利ヘッジをせずに米国債を持っていたら、いざ金利上昇が始まった時に売却を余儀なくされ破綻した。同じことが起きないことを願うばかりである。

ポートフォリオ最適化にクリアリング規制免除が与えられた場合のインパクト

以前当初証拠金の最適化などで発生した金利スワップをクリアリング規制から免除するというEUの決定があったので、これができるとどの程度のインパクトがあるのかSIMM v2.8に従ってExcelで簡易計算してみる。

通常は取引先Aにリスクが集中していてIMが多いときに、リスクを取引先Bにリスクを移転させると、トータルのIMが削減できる。この時リスク移転に通常のIRSを使うと清算集中義務があるため、CCPで清算しなければならなくなる。そうなると、AからBへのリスク移転はできないため、Swaptionを使ってこれを行う。Buy Payer + Sell Receiverのシンセティックスワップを使うことが多いが、1m10yのSwaptionを例にSIMMのIMを想定元本に対する%で計算してみる。

このようにSwaptionを組み合わせた取引は、Sensitivityを計算するとVolのリスクが出てくるのだが、Strikeが同じATMのSwaptionだと、SIMMの計算上VolやCurvatureがオフセットしてゼロになり、デルタだけのリスクになり、IMはIRSと同じになる。つまり、同じ取引先とPayer+Receiverをブックすれば、IRSを使ったのと同じようにリスクが動かせる。

しかし、当然その他にボラティリティのリスクも同時に移すことも多く、また、PayerとReceiverをブックする取引先が異なる場合もあるため、この時はSIMM IMの削減幅が小さくなってしまう。それを確認するためにPayerとReceiverのSIMM IMを別々に計算すると、上のようになる。ちなみにこれは自分が担保をコールする方向での計算なので、Postする場合は結果が異なる。SIMMの計算上、Swaptionを買うときはCurvature分のIMを拠出する必要はないが、徴求する必要はある。Swaptionを売るときは逆になる。

まずPayerを買った方は相手に対してCurvature分のIMを徴求しなければならないのでIMが大きくなる。Postする方はこれがないため、拠出額は2%ちょっとになる。もちろん1m10yだからCurvatureが大きかったのだが、これが1y10yのようにExpiryまでの期間が長くなればCurvature IMは少なくなる。10y10yとかになると、CurvatureからのIMはほとんどゼロに近づく。しかし金利の動きにもよるが、その分Vol IMが増えてくる。

Receiverの方は売りでCallサイドなのでCurvature IMがない。つまり、Payerの買いを取引先A、Receiverの売りを取引先Bとブックした場合は、4%+3%で合計で7%のIMをコールすることになる。IRSだと5%弱なので、IMが40%増になっている。

まとめると、クリアリング規制免除が認められれば、7%の担保が5%に減る。ただし、PayerとReceiverを同じ取引先と行っていればそこまで変化はない。どの程度こうした取引先のSplitがあるかわからないが、最小で0、最大で40%の削減が見込まれるので、ざっくり10-20%のIM削減効果と言えるのだろう。それよりも、2つのSwaptionを一つのIRSに置き換えられるというオペレーション上のメリットが大きいのだろう。

英国中銀のNew Year Resolution

英国中銀のラムスデン副総裁が、新年のResolutionとして非銀行セクターの破綻処理(Resolution)に関する取り組みについて議論をしているというニュースがあった。ヘッジファンドのようなNBFIについてかと思ったらクリアリングハウスの破綻処理の仕組みとある。しかし、スピーチ原文を読んでみると、より広範囲なトピックを扱っている。

シリコンバレーバンクやクレディスイスの例を挙げ、破綻処理はできる限りResponsiveなものであるべきというのが、スピーチの趣旨となっている。頑健な破綻処理体制があれば、銀行の所要ティア1資本を5%程度削減することが可能とのことだ。

とはいえ、今月からは破綻処理計画を策定しなければならない銀行の閾値が従来の150-250億ポンドから250-400億ポンドに引き上げられている。そして閾値近辺の銀行が破綻した場合は他の銀行への譲渡を想定することにより、通常の資本要件以上の準備金であるMREL(Minimum Requirement for Own Funds and Eligible Liabilities)の保持を求めないこととしている。つまり小規模行の負担軽減が図られている。

他にも先月から預金保険の保護限度額も85,000ポンドから120,000ポンドへ引き上げられている。1800万円が2500万円になったようなものなので、日本の1000万円よりはかなり大きい。そもそも日本は、細かい修正はあったものの、40年前の1986年から1000万円である。インフレが一般的な英国では5年ごとに見直しが行われる。103万円の壁が引き上げられたように、これから様々なものを引き上げていかなければならないだろう。

その後確かにCCPの破綻計画についてのコメント、システム上重要なステーブルコインの保有者保護のため、裏付け資産を信託で保有することが検討されている。

全般的に、破綻計画は重要としているものの、小規模行に優しい変更や、預金保険限度額引き上げ、資産保護の検討など、規制強化を目指しているようには取れない。昨今グローバルでは、規制を強化するというよりは、現実的な対応が目立ってきていることから、次の危機が起きるまでは、大きな規制強化の動きはないように感じる。

FRTBの更なる延期を求める声が強まっている

新年明けて1/6にISDAなどの業界団体から、EUの市場リスク資本フレームワークに関する市中協議に対するコメントが発表されている。米国や英国での導入が遅れていることから、欧州も来年2027年1月に延期することを歓迎するとともに、さらなる緩和を求めている。

準備ができたところから完全移行しても良いが、他国と足並みをそろえたいところは、現行バーゼル2.5の継続使用を認めるようにとの要望も含まれている。また、所要資本が急増する銀行に対する激変緩和措置として、Capital Neutrality Multiplierというものが提案されているが、これを業界統一のMultiplierではなく、個々の銀行の状況を反映させて設定できるようにするオプションを支持している。また、一時は全く使えなくなるのではないかと懸念された内部モデル方式の採用を促進すべきとの要望もみられる。

トランプ政権発足後、様々なルールが変わってしまったように感じる。自国ファーストの政治のもとでは、国際銀行規制を厳格化するのは困難になっていくのではないだろうか。当然どこかの国が資本規制を緩めれば、その国の銀行は競争上優位に立ち、厳格な規制が適用される国の銀行は不利益を被ってしまう。FRTBに関しては一足先に導入してしまった日本が不利にならないよう、声を上げていく必要があるのだろう。

今回の意見書は、PL AttributionやNMRFなど、これまで問題視されていた項目も引き続き改善点として挙げられているが、それ以外にもREITの取り扱い、カーボン取引の相関パラメーター、トレーディング勘定に残せるような重要性閾値の提案など、かなり具体的な要望も含まれている。各行が、インパクトを計算した結果、個別に要望を上げているのだろう。

米国も延期や規制緩和の方向を動くだろうから、それに合わせて欧州も緩和や延期の方向に議論が進みそうだ。米国は様々な国際協調の取り組みから離脱しつつあるが、金融におけるバーゼルなどのイニシアティブからも距離を置き始めることになるのだろうか。