SIMM v2.8を使ったMVAの資産試算

久しぶりにSIMMの証拠金計算をバージョン2.8の文書を使っておさらいしたい(何もツールにアクセスできないので間違っていたらすみません。誤りがあれば指摘願います)。

まずは簡単な10年のドルIRSのSIMMを計算する。ドルはRegular Currencyなので、10年のリスクウェイトは60である。したがって、割引率を無視して10年IRSのDV01を$10,000と仮定すれば$10k*60で$600k、つまり元本の6%となる。

グローバル大手行の社内ファンディングコストは1%~2%を使うところが多いため、単純化のため1%と仮定すると、このスワップにかかる担保コストは6bp runningとなる。大手ではこれをMVAとして日々計算しているところが多いものと思われる。

年間6bpのコストがかかるということは、6bprはb/oに入れないと赤字ということだ。ファンディングコストがトレーディングデスクにチャージされるところが多くなっているため、最低限このコストをプライスインしなければならない。ただし、既存のポジションとオフセットすることによりIMが減るケースもあるので、本来はポートフォリオベースで考えなければならない。

ディスカウントを無視するのは正確ではないと言われそうなので、4%のフラットカーブを使って再計算すると、デュレーションが7.6年程度になるため、担保コストは6bprから4.6bprに減る。

では円金利スワップの場合はどうだろうか。計算方法は同じだが、円は低ボラティリティ通貨に分類されているため、リスクウェイトが29とUSDの半分程度になっている。同じくファンディングコスト1%でマージンコストを計算すると2.9bprとなる。円の場合のディスカウントレートは以下のTONAを前提として計算した。
1年 1.0%
5年 1.5%
10年 1.8%
20年 2.5%
30年 3.0%

それではここまでの計算をグラフに示してみる。概ねSIMMのリスクウェイトとデュレーションをかけたものに近い形となっている。ドルの方が2倍近くコストが大きいのは円がLow Volatility通貨に分類されているからである。つまり、円の金利変動が激しくなり、ドルやその他の通貨と同じようにRegular Currencyに分類されれば、IMコストが倍近くに跳ね上がることになる。

ここまで計算してみて、次にポートフォリオ効果が気になったので、以下のような方向がオフセットするUSDとJPYの金利スワップ取引があった場合にマージンコストがどうなるか計算してみた。

10 year JPY1.5bn IRS, pay fix
10 year USD10mm IRS, rec fix

為替は1ドル150円として計算した。

先ほどと同じ金利カーブを使うと、それぞれのスワップのDV01はドルが$8.1k、円が$9.1kとなり、MVAはUSD IRSが4.85bpr、JPY IRSが2.64bprとなった。固定受けと払いでオフセットがあるので、IMはこの合計ではなく、相関係数0.35で相殺効果が得られ、4.63bprとなる。これを各年限毎に計算してプロットすると以下のようになる。グレーの線がUSD IRSとJPY IRSを同時に取引した場合のIMである。

思ったより大きな減少ではないものの、USD IRSだけを取引した時に比べ、反対方向のJPY IRSを一緒に取引したほうがIMが少なくなっている。まあ相関が0.35なのでこの程度なのかもしれない。

次に2年10年のようなカーブ取引を考えてみる。SIMMのバケットは2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、3年、5年、10年、15年、20年、30年となっている。6年とか7年のように定義されていない年限のものについては、SA-CCRの資本計算のようのオフセットできるかというとそういう訳ではなく、何らかの方法で補間して計算する必要がありそうだ。

では20年固定払いドル金利スワップと、25年固定受けドル金利スワップをそれぞれ取引した場合と、パッケージで取引した場合のIMを比較すると、以下のように単独では非常に大きかった担保コストがパッケージにすることによりかなり安くなっている。他通貨のオフセットに比べると削減幅が大きい。

20年ドル固定金利払いスワップ単体 8.9bpr
25年ドル固定受け金利スワップ単体 10.8bpr
上記20年と25年のスワップを同時に行った場合 2bpr

ここで清算取引と比べたらどうなのだろうと思ったので、開示のあるJSCCのデータと比較してみる。清算取引はMPORが短くなるが、プロシクリカリティを避けるためにIMが下がりすぎないようにしていたり、極端な市場変動シナリオを加えている。したがって、SIMMよりIMの所要額が大きくなることもある。ただし、CCPの場合はネッティングが行われる可能性が高くなるので、一般的にここで示すイメージよりはIMコストは低くなるはずである。

今回は個人的にざっと計算しただけだが、本来トレーダーはこうしたファンディングコストについて、イメージを持った上でプライシングしているのだろう。おそらく社内システムを使って精緻に計算すれば、どのカウンターパーティーならいくら上乗せするかといったことが瞬時に判断できるようなツールを作ることはそう難しくないものと思われる。