CVA RWAに対する各国当局の扱いが異なってきた

Basel III endgameという言葉が注目されて随分経ったが、米国では、業界からの反発やトランプ政権の発足もあり、徐々に緩和方向への動きがみられている。特に米国では、当局がデリバティブポートフォリオについて注目をするというのもあり、全体としてのRWAが小さかったとしても、細かい項目についてかなりの精査が必要になり、活発に資本コントロールが行わている。

日本の場合は、ローンによるRWAが大部分を占め、デリバティブRWAが相対的に小さいという理由から、あまりデリバティブRWAにフォーカスが当たらないが、JPMやバンカメのレポートを見ると、ローンRWAの占める割合は日本とそう変わらない。だが、最近では、日本でも大手中心にROEを経営目標とする風潮が強くなり、資本コストに対する意識が変わってきた。グローバルマーケットで、海外大手銀行と競争していくためには、他国の規制にも注意を払っておく必要がある。

カウンターパーティーリスクに関しては、大手はSA-CVA、小規模行はBA-CVAというのが一般的になりつつあるが、CVAヘッジを適切に行うところは、金利スワップのヘッジ効果が認められるSA-CVAのメリットが圧倒的に大きい。特に米国では、BA-CVAのエクスポージャー計算にSA-CCRのみが利用可能となっており、内部モデルが使えないことから、大手は必然的にSA-CVAを選択することになる。

また、欧州ではCCPでの清算取引がCVA RWAから免除されるが、米国では対顧客ポジションがカウントされる。つまり、米国では、顧客-銀行-CCPという取引の場合に、銀行-CCPのレグにはCVA RWAは必要ないが、顧客-銀行のレグにCVA RWAがかかってきてしまう。大手銀行はクライアントクリアリングにおいて顧客のために清算をする場合、会計CVAを計上しておらず、通常CVAチャージもかけない。このCVAにかかる資本コストも明示的にはチャージしていないところが多いものと思われる。

米銀大手は、CVAを計上すると、会計上の損益がブレるのを防ぐため、それをCDS、金利、為替、コモディティなどの原資産でヘッジしているが、これが規制上のCVAの計算とは全く異なってしまっているのである。若干の差が生じるのはやむを得ないが、規制CVAと会計CVAがある程度一致していないと、ヘッジのインセンティブが損なわれ、経済的な潜在損失が大きくなってしまう。

また、先日紹介したISDA、SIFMA等のレターにもあるようにSTMとCTMのネッティングも業界にとっては大きな問題だ。米国では、清算取引については、STMのものをCTMとして扱い他のポートフォリオとネットすることが可能だが、相対取引にこれは認められていない。特にSTMについては、リーマンショック後の各種規制が施行された後に導入された概念なので、各国の規制において多くの不整合が生じている。本来であれば、STMの登場に従い各種法律を書き換えるべきなのだが、内容がテクニカルなので、大きな話題になりにくいのだろう。

実はここの微妙な差でプライシングに差がついており、取引流動性が偏るケースも増えてきているため、各国の規制の方向性を揃えておく努力は必要であり、日本のようにまじめな国が損しないように目を光らせておく必要がある。

バーゼルのCentral Bank Survey 2025‐金利編

BISのTriennial Central Bank Surveyの金利系商品についての統計を見ている。まずは全体像から。金利商品は2019年のFRAの急増がアノマリーとなっているが、それを除けば順調に右肩辺りで成長しており、特にここ3年の伸びが著しく、トータルで3年前対比約60%増となっている。2019年のFRAはよく覚えていないのだが、まだ4月だとコロナ前なので、3月のFOMCで利上げ収束観測が出てFRA-OISスプレッドがタイトになった時期だろうか。

為替と異なるのは通貨ごとの取引量である。昨今ではUSDではなくEURの金利商品が最大の取引量となっている。特にこの3年でEURは約2倍に増えている。さらに顕著なのが日本円で、なんと7.8倍へと急増し、AUDを抜いて第四位となった。他のCCPのデータなどを見ても同じような伸びが確認できる。GBPを抜いて三位になるかもという期待もあったが、意外とGBPも健闘しており、約3倍と取引量が増えている。

取引主体別でみると、圧倒的にその他金融の割合が大きく、市場全体の75%を超えている。金利スワップに関しては、既に銀行中心の取引から、マーケットメーカーやヘッジファンド、バイサイドへと主役が移っている。

取引地域についてみてみると、圧倒的に英国が強い。やはりBrexit後も金利に関してはロンドンの地位が強い。日本も3.5倍になっているが、かなり小さく、オーストラリアやシンガポールにも及ばない。ドイツが地味に2.4倍に伸ばしているのも注目だ。

YCCの下で日本円金利トレーディングは終焉を迎えたという声も多かったが、政策変更によりようやく日本円本来の姿に戻ってきた。海外からは開かれていないというイメージが付きまとっているが、資産運用立国を目指す金融庁の後押しもあり、注目度が高まり、日本への旬出も少しずつ増えてきた。他国の状況を見ていても、やはりこうした市場づくりには国としての後押しが欠かせないのだろう。

バーゼルのCentral Bank Survey 2025‐為替編

3年ごとに公表されるBaselのTriennial Central Bank Surveyが出ているので、今回も簡単にまとめてみたい。まずは、為替取引から見てみる。このデータは4月の一日平均の取引量を調べたものだが、4月というとTrump Liberation dayのあった月である。したがって、通常より取引が多かった可能性もあるので、少し割り引いてみる必要があるかもしれない。

まずは全体の取引量を見てみると、以下のようにSpot、Fowardを中心に3年前の約30%増になっている。中でもForward、通貨スワップが伸びており、伸び率でみるとOptionその他も倍以上になっている。一方、FX Swapがほぼ横ばいなのも興味深い。

取引主体別にみるとその他金融との取引が最も伸びているが、ここはヘッジファンドや銀行以外のマーケットメーカーが中心だろう。

次に通貨スワップにフォーカスしてみると、約40%の伸びで、その他金融の伸びが大きい。また、実額は小さいものの、非金融も3倍近くに伸びている。債券発行や実需ヘッジなど、事業会社のフローも増加していたのかもしれない。

通貨ごとの取引量を見ていると、ドルが依然として強く、その傾向はむしろ強まっているように見える。円は第三位の地位を保っているが、中国元やスイスフランの伸びが大きくなっている。

取引される通貨ペアを調べてみると、USDJPYはUSDEURに次ぐ第二位のペアとなっているが、驚くことに第三位がUSDCNYになっている。USDGBPなどを一気に追い越した形だ。

取引執行を地域別にみると、以前英国が強く、全体の38%で首位、次に米国が19%で続く。そのあとはシンガポールと香港で、二つ合わせると米国とほぼ同じ水準になっている。為替市場に関しては、英国、米国、香港+シンガポールという3極になっており、日本の割合は3.5%にとどまっている。香港は頭打ちになっているが、シンガポールの躍進が進んでいる。

トランプ関税ショックの影響もあるだろうが、為替の取引量が順調に伸びていることが確認できる。ここからは特にドル離れは見て取れない。景気減速にも関わらず中国のプレゼンスは引き続き上がってきている。市場という意味ではアジアはシンガポールが為替の拠点としてはメインになってきているように見える。取引主体も銀行からその他のプレーヤーへの分散がみられる。