ボラティリティの高まりによってVaR Breachの回数が増加

市場変動の高まりを受けて、VaRのバックテストにおけるVaR超過回数が増えてきた。Barclaysがこの第二四半期に5回の超過を記録したことによって、資本計算上の掛け目の上昇を招いたと報じられていたが、他の銀行でも多かれ少なかれ同じようなBreachが発生していたものと思われる。このバックテスト自体はもう30年近く前にバーゼルで導入されたものなので、ほぼこなれてきているはずなのだが、やはり昨今のボラティリティの高まりによって、各行とも見直しを迫られているようだ。とは言っても他の英銀を見ると5回も行っていないので、特にBarclaysのモデルへのインパクトが大きかったようだ。

当然英国当局が、この市場変動をトランプ関税による一時的な異常事態と判断すれば、このBreachのカウントから外す可能性もある。しかし、四半期で5回となると、すべてを除外するのは不可能だろう。これまではリーマン破綻、コロナなど、比較的例外措置を取りやすい市場変動が多かったが、最近はこうした一回のイベントというよりは、だらだらと市場変動が続くというケースが増えてきているような気がする。

規制VaRの計算においては、片側99%の信頼区間、10日の保有期間で計算されたVaR値を超えた日を1回としてカウントする。過去12か月に5回以上のBreachがあれば、資本の積み増しが要求されることになる。Var Breachというとの巨額損失が発生したかのように誤解されるが、損失の大小は問題ではなく、あくまでもモデルで想定した損失より大きかったかどうかで判断される。したがって、損失がかなり小さくても、モデルの計算する損失見込みより大きければ、それはBreachとして記録されることになる。

JPモルガンなども昨年第四四半期に2回のBreachを記録しており、その際にはトレーディング収益の不調によりVaR Breachが発生などと報じられていた。これも、トレーディング不調というよりは、モデルが予測した損失より大きい事象が2回あったというだけのことなので、報道の仕方は若干ミスリーディングである。バーゼルなので当然日本でもこうしたBreachは恒常的に発生している。ただ、関心が少ないのか、日本ではあまりこうしたニュースは報道されていない。

Var Breachを防ぐにはVaRモデルを保守的にするしかないのだが、それはそれで通常時のVaR値が上振れすることになる。ただ、ここまで市場変動が激しくなってくると、VaR BreachをしてMultiplierが上がるより、モデルの見直しをした方が良いというところが増えてきそうな気もする。簡単にやるのなら、VaRでは補足されない取引があるということでModel not in VaRなどでVaRを上振れさせておくというのもあるのかもしれない。