ISDA SwapsInfo(2025第二四半期)総括

ISDAのSwapsInfoから第二四半期の取引動向を確認してみたい。レポとのP9に四半期ごとの取引量と取引数のグラフがあるが、今年に入ってから順調に取引が増えている。このデータは、CFTCの規制に基づいてDTCCのSDR報告に含まれているデータである。したがって、昨年Q4に行われたCFTCのブロックサイズの変更により取引が増えたという事情もあるかもしれない(一応脚注9にhistorical data has been restated to reflect corrections made in the databaseとあるが、ブロックサイズの変更まで調整されているのかはよくわからなかった)。

ここで、取引の想定元本はQ1より減少しているが、取引数はさらに伸びている。つまり、より小口の取引が増えたということなのだろう。トランプ大統領のLiberation Dayが4/2ということを考えると、その後の市場混乱にもかかわらず、取引の想定元本はQ1に比べて減少したということになる。

テナー毎の割合を見ると、特に短期が増えたという訳はなく、万遍なく増えているように見える。取引数宇で見ると若干5年超の取引の比率が増えているようだ。

清算取引の割合は、元本ベースで85.9%、取引数ベースで87.2%まで順調に増加している。SEFについても元本ベースで55%、取引数ベースで77.5%となっている。

通貨別でみると、USDが最も大きく、EUR、GBPと続く。BISのデータではEURの方が大きかったが、これはこのデータがCFTCベースだからかもしれない。

CDSのデータを見ると、インデックスCDSの伸びがIRSに比べても著しく伸びているが、シングルネームはそれほど増えていない。

いずれにしても、今年は依然高水準でデリバティブ取引が行われているようだ。市場が少し落ち着きを見せ始めた夏以降どのように変化していくかに注目が集まる。

米ドルの優位性は揺らぐか

関税に代表される昨今の政策不安定化を受けて、米国からの資金流出が起き、基軸通貨としてのドルの立場が危ぶまれるという論調が多くなっている。確かに金利スワップは、ユーロスワップがドルスワップを上回るようになってきており、ドルのシェアは下がっている。しかし為替の方はドルが依然メイン通貨として取引が行われており、これが簡単に変わるとは思いにくい。

それでもドルは主要通貨に対して弱含んでおり、以前は米10年金利が上がれば通貨高という相関関係がみられたのだが、最近はこの相関が崩れ始め、米金利が4.4%近辺で安定しているにも関わらず、ドルが弱くなってきている。

しかし、統計上は海外投資家は、4月を除けば米株や米債券などのドル資産を買い続けており、資金流出が起きているようには見えない。これはおそらくBISのペーパーが示しているように為替ヘッジによるものなのだろう。ここのところ、日本の生保も含め米国外の投資家はヘッジ比率を下げてきた。ところが突然の米通貨安に備え、これらの投資家がヘッジ比率を上げてきたというのがBISの主張である。

つまり、通貨安の懸念により米資産を売るのではなく、既存の米資産のポジションを保ったまま、為替ヘッジを増やしたということだ。したがって、米債券が売られたり米株が売られることはなく、通貨としてのドルショートが増え、ドルが下落したという分析だ。ドル安がアジア時間に起きていたため、日本や台湾などを中心にアジアの投資家がヘッジ比率を上げてきたと言われており、同じことは欧州の投資家でも見られる。

そうは言っても世界の公式外貨準備高の57%がドル建てであり、通常の決済でも引き続きドルが支配的な地位を保っている。米国への投資も進めば、ドルの地位がますます盤石になるという意見もある。ユーロにはユーロの問題があり、ドルに取って代わるような有力候補もない。ただし、今回明らかになったのは、ドルに依存しすぎるのは危険であり、これまでより真剣にリスク分散や、ドルに問題があった場合のプランを考えなければと考える投資家が増えたということだ。何かきっかけがあれば、一気にドルがその地位を失うということもあり得る。その意味で米経済が変調をきたすかどうかは、これまで以上に注目を集めることとなる。

ボラティリティの高まりによってVaR Breachの回数が増加

市場変動の高まりを受けて、VaRのバックテストにおけるVaR超過回数が増えてきた。Barclaysがこの第二四半期に5回の超過を記録したことによって、資本計算上の掛け目の上昇を招いたと報じられていたが、他の銀行でも多かれ少なかれ同じようなBreachが発生していたものと思われる。このバックテスト自体はもう30年近く前にバーゼルで導入されたものなので、ほぼこなれてきているはずなのだが、やはり昨今のボラティリティの高まりによって、各行とも見直しを迫られているようだ。とは言っても他の英銀を見ると5回も行っていないので、特にBarclaysのモデルへのインパクトが大きかったようだ。

当然英国当局が、この市場変動をトランプ関税による一時的な異常事態と判断すれば、このBreachのカウントから外す可能性もある。しかし、四半期で5回となると、すべてを除外するのは不可能だろう。これまではリーマン破綻、コロナなど、比較的例外措置を取りやすい市場変動が多かったが、最近はこうした一回のイベントというよりは、だらだらと市場変動が続くというケースが増えてきているような気がする。

規制VaRの計算においては、片側99%の信頼区間、10日の保有期間で計算されたVaR値を超えた日を1回としてカウントする。過去12か月に5回以上のBreachがあれば、資本の積み増しが要求されることになる。Var Breachというとの巨額損失が発生したかのように誤解されるが、損失の大小は問題ではなく、あくまでもモデルで想定した損失より大きかったかどうかで判断される。したがって、損失がかなり小さくても、モデルの計算する損失見込みより大きければ、それはBreachとして記録されることになる。

JPモルガンなども昨年第四四半期に2回のBreachを記録しており、その際にはトレーディング収益の不調によりVaR Breachが発生などと報じられていた。これも、トレーディング不調というよりは、モデルが予測した損失より大きい事象が2回あったというだけのことなので、報道の仕方は若干ミスリーディングである。バーゼルなので当然日本でもこうしたBreachは恒常的に発生している。ただ、関心が少ないのか、日本ではあまりこうしたニュースは報道されていない。

Var Breachを防ぐにはVaRモデルを保守的にするしかないのだが、それはそれで通常時のVaR値が上振れすることになる。ただ、ここまで市場変動が激しくなってくると、VaR BreachをしてMultiplierが上がるより、モデルの見直しをした方が良いというところが増えてきそうな気もする。簡単にやるのなら、VaRでは補足されない取引があるということでModel not in VaRなどでVaRを上振れさせておくというのもあるのかもしれない。

米国の金融規制緩和が加速してきた

米国から規制緩和の話が矢継ぎ早に報道されている。少し前とは全く規制強化を擁護する意見もあるものの、数年前とは全く様相が異なっている。米国の場合は、ほとんどのミーティングがYutube等で公開されているので、その場の聴衆の反応なども感じることができて雰囲気もつかみやすい。

特に7月22日に行われたLarge Bankに対する資本規制の包括レビューが興味深い。これは6月に就任したFRBのボウマン副議長の発案によるものだが、あらゆる方面からの専門家、ロビイストが含まれており、Open AIのAltman氏とボウマン副議長とのFireside Chatも話題になった。これまでなかった試みだ。

その中でパネル2を見てみた。いつもながらMike Mayo氏のコメントはシンプルでわかりやすい。基本的に現行の規制枠組があまりにも複雑で理解しづらく、コストも高いと批判している。信用リスク、市場リスクなどはかなり減ったものの規制リスクが増え、その規制対応のためにあまりにも多くの資金が使われているとの主張だ。全般的にBasel III endgameは所要資本を増やすためのものではなく、資本の質を高めるものにすべきというのがパネリスト共通の見解であったと思う。特に個々の資本規制は理屈が通ってはいるが、全体としてみるとダブルカウントがあったりして行き過ぎているということで意見が一致しているように見えた。

面白かったのは、FRB前副議長のRandal Quarles氏のコメントだ。資本規制の歴史を語る中で、Basel Iがなぜ導入されたかというと、日本の銀行が、少ない資本でグローバルマーケットを席巻しており、レベルプレーイングフィールドが確保するために導入したと言い切っていた。当時バーゼル規制を卒業論文にした自分にとっては驚きではない発言だが、ここまで公に認められると潔い。そして、そのバーゼル規制から米国が脱退しようという動きがあるから皮肉なものだ。司会者からも、米国が抜けたらどうなるかという質問が出ていたが、全員教科書的な回答に終始していた。

日本の銀行の優位性を削ぐためにバーゼル規制を作ったのだが、今度は米国の銀行に不利になるとそこから脱退する。何とも不思議な話で、できればこの場に日本の当局の方に参加して頂き、反論していただきたかったくらいだ(実際Risk誌で批判記事では出ているが)。

その他やはり知識の豊富さを見せつけたのが、GSのSheara Fredman氏だった。内容的にかなりマニアックではあったが、パウエル議長を始め当局の要職者が出席する中、具体的な数字を挙げて、嫌味にならない程度に効果的なロビー活動を展開していた。規制の国際統一に関しては、事業会社に対するCVA免除などで当局間の対応が分かれている点なども指摘していた。このようなハイレベルのパネルでCVAという言葉が何度も出てきているのは興味深かった。

Fredman氏は、ストレステストとBasel III Endgameのダブルカウントについてかなり発言に時間を割いていたが、法的リスクやシステムトラブルから発生するOperational RiskがCCARストレステストから$180bn、Basel III endgameの一部であるオペレーショナルリスクRWAから$150bnダブルカウントされているが、過去10年のG-SIBから発生したリスクは$100bnに満たないとのことだ($100bnには数字の取れないオペレーショナルリスクは含まれていない)。これ以外にもCVA RWAや市場リスクRWAでかなりの重複計算があるということだ。

またFRTBとCCARストレステストに含まれているGMS(Global Market Shock)についても、同じような計算をしながら統一性がない点を問題視していた。両方とも極端だがあり得る経済ショックを使っているが、ショックの度合や流動性を図る期間などに細かい差がある。

そして、いずれもリーマンショック時をベースとしたシナリオを使っているが、金融危機以降どの程度改革があったかを考慮していない。たとえば、CLOやモーゲージローンなどの証券化商品については、LTVも当時から全く異なり、モーゲージの借り手のFICOなどの属性も全く異なる。各種の保守的な前提条件が重なることにより、100の債券を買うと120の資本を求められるケースもある。しかもこうしたケースがかなりの資産で起きているとのことだ。

パネルディスカッションとはいえ、こうした主張が当局トップに対して行える場があり、それが広く公開されているというのはうらやましい限りだ。同時にここまで細かいテクニカルな話が、こうした重要な会議で話されているというのは、ある意味米国の強みなのかもしれない。トランプ政権の意向を受け、無理やり規制を緩和するという話が多いかと思ったのだが、意外とバランスの取れた議論が行われており、米国がBasel IIIから抜ける可能性は低いのではないかという印象を受けた。もちろんトランプ大統領がどう判断するかは全く未知数だが。

英国のCCPガイダンス修正案

英国中銀(BOE)が市場の安定化のため、CCPの新たなガイダンス策定作業を行っており、今はそのコメント期間となっている(期限は今年11/18)関税ショックによって変動証拠金が多いところで149%増、当初証拠金も全体で3.6%の増加となっており、突如証拠金を手当てする必要性が市場のボラティリティを大きくするのではないかというのはもっともな懸念である。

BOEから出ている実際の文書はEnsuring the resilience of CCPsというタイトルで公表されているが、非常に長文で内容も多岐にわたる。もともと欧州EMIR規制で定められてたものを英国版EMIRとして援用しているが、今後独自色が強まる可能性もある。

まず目を引くのは、当初証拠金についての提案である。CCPの証拠金計算手法の詳細を開示し、市場参加者が必要担保額の増加を前もって予測できるようにするという提案が含まれている。そして、これを既存の清算会員のみならず、クライアントクリアリングの顧客、または潜在的な参加者に対しても公開するよう提案している。内容的には、モデルの設計、運用、前提とその限界、主要パラメーターの詳細などの開示が求められている。各参加者側でも同じモデルを構築できるレベルの情報ということなのだろうが、大手のCCPでは概ね対応済の内容かと思われる。

変動証拠金については、日中証拠金の頻度を上げることはリスク管理上重要と認めつつ、参加者の流動性に影響を与えることから、日中コールのプロセスとタイミングに関する情報提供を要求している。そして、プロシクリカリティを評価するための分析、ガバナンス等の悌吾を義務付けている。これらは、裏を返せば、市場参加者がCCPのモデルをよく理解して、自らの流動性計画に織り込むようにというメッセージとも取れる。

更に、このブログでも主張してきたポーティングの実効性確保のための提案も数多く盛り込まれている。実際に破綻が起きたときに、2日といった短期間で他のブローカーにリスク分析を依頼し、ポジションを引き受けてもらうのは、極めて困難だと思われる。このため、今回は破綻訓練にポーティングを含めることを義務付けるよう提案がなされている。そして、顧客の同意なしにCCPがポーティングを開始できるようにするという提案もある。これを嫌がる顧客はいるだろうが、確かにこれができないと、オムニバス口座の1人の顧客が同意しなかったために、誰もポーティングが行えないという懸念があるため、安定的にデフォルト処理を進めるには不可欠なのかもしれない。

その他様々な提案が含まれているが、時間のある時にもう少し読み進めてみたい。

SA-CVAのRWA削減努力が実り始めた

少し前にDanske BankのCVA Capitalの減少が話題になった。昨年からCVAに関する所要資本が半分になり、10年前と比べると1/10くらいに減少している。この削減のほとんどがSA-CVAから来ているようで、個別CDSやTRSによるヘッジも同じように増えていることから、ようやく資本コストを意識したヘッジが、大手以外でも幅広く本格的に行われるようになってきたと言えるのかもしれない。

これでRWA全体に占めるCVA RWAの割合が10年前の2.5%から0.25%にまで縮小した。BA-CVAを適用しているポートフォリオからの削減幅は小さくほとんどがSA-CVAからの削減となっている。日本の大手ではローンのRWAがほとんどではあるものの、CVA RWAの割合は2%台後半で、地銀でも1%を超えているところが多い。したがって、日本でも同じような資本削減効果が達成できるのかもしれない。特にSA-CCRを適用している大手銀行、証券会社は同じような資本削減を試してみる価値はある。

Danskeの場合、CVAのRWAが約228.7mmとかなり小さくなってきたが、これは日本の大手地銀よりも小さい。以前は日本のメガと同じくらいのRWAだったのが、ここまで減ってくるというのは、ヘッジ以外の削減効果もあったのだろうが、それでもヘッジによる削減幅は相当なものなのだろう。

日本の場合はBA-CVAを適用しているところもまだ多く、なかなかヘッジでRWAを減らすのは難しいが、SA-CVAを適用している先進行では、今後こうしたリスク削減の動きもみられるようになっていくかもしれない。また、きちんとヘッジの効果が反映できることが確認できれば、BA-CVAからSA-CVAへの移行も活発化するのかもしれない。

金利上昇によって資本コストが重要に

金融庁の「バーゼル規制の概要」が6/14に更新された。バーゼル規制導入の経緯からその詳細、加えてレバレッジ比率、LCR、NSFRなどの各種資本規制についても非常にわかりやすくまとめられている。また、銀行ごとのSIBバッファ、内部格付手法採用行のリストも掲載されている。個人的には、バーゼル2から3になって各手法がどのように変わったか、どの手法であれば金融庁の承認が必要なのかについて赤字で示しているP14が非常にわかりやすい。

海外では資本バッファが重要になっており、通常の資本コストのみならずストレス時の損失を加味する形に代わってきている。これにより、取引リミットにストレス損失を組み込む動きも活発に見られる。日本の資本バッファは金融庁のバーゼル規制の概要P5に記載があるが、国際統一基準行に対する4つのバッファーが適用されている。

将来のストレスに備えた資本保全バッファーが2.5%なので、これはかなり大きい。海外で話題になるカウンター・シクリカル・バッファー(CCyB)については日本はゼロとなっている。また期末の取引流動性にまで影響を及ぼすG-SIBsバッファーについては、MUFGが1.5%、みずほ、SMFGが1%、D-SIBsバッファーは、SMTB、農中、野村、大和に0.5%が適用されている。

ちょっと興味をひかれたので主要行のリスクウェイトアセットを調べてみた(単位10億円)。銀行によってデータの時点が若干揃っていないが、大手が70兆円から110兆円程度、大手地銀は一桁兆円となっている。

資本構成を見てみると、予想通り信用リスクRWAが最大で6-7割を占めている。マーケットリスクRWAやカウンターパーティーリスクRWAには銀行ごとに差がある。大手はカウンターパーティーリスクとCVAリスクを合わせて5~10兆円だが、地銀はほとんどこのリスクがないが、一部でCVAリスクが大きくなっている。ただし、CVAリスクについては、まだ銀行によって計算の方法に差があるのかもしれない。

信用リスクRWAが大きいのは海外大手も同じだが、Credit Risk RWAが全体に占める割合で見ると、海外の銀行の方がむしろ大きいかもしれない。海外の場合、コントロール可能な市場リスクやCVAリスクなどを減らすべく、決算期末に大規模なRWA削減が行われるが、日本ではこうした動きはまだ見られない。ここには示していないが、証券会社の場合は信用リスクRWAが減り、メインが市場リスクやカウンターパーティーリスクにシフトする。

RORA(RWAに対する利益)の国際比較をすると米国や英国が1%後半にあるのに対し、日本の国際基準行14の平均は1%を下回り世界で最低レベルとなっている。イタリアやスペインなどでも1.5%は超えている。ただし、これまで資本効率を意識してこなかったことを考えると今後の上昇余地は大きい。「資本コストや株価を意識した経営」が叫ばれるようになってきたことから、後はどこが先に動くかという段階になっているように思える。

円金利がついに上昇し始め、金利リスクに関する資本規制についての見直しも入ってくる可能性がある。シリコンバレーバンクの例などもあるため、少なくとも当局検査などで説明を求められる可能性は高い。金利リスク分に対して資本を確保していく必要も出てくるだろう。こうなると、キャッシュリッチだからという理由では不十分となり、金利リスクのヘッジ戦略や、限られたリソースの最適化が急務となるだろう。