米国規制の更なる緩和

先日ポストした米国SLRの変更のほかに、米国債をレバレッジエクスポージャーから除外するという緩和の話も進んでいる。また、G-SIBスコアの米国特有のMethod2についての見直しの話も出始めた。

グローバルバンクに適用されるG-SIBのMethod1は、相対指標なので、銀行全体の規模が大きくなれば、各行のスコアは変わらない。一方米国のMethod2は絶対指標なので、全体のパイが大きくなれば、全員のスコアが増えてしまう。そうすると、経済が大きくなる、あるいはデリバティブ市場が拡大すれば、米国以外のG-SIBスコアには変更がないが、米銀のスコアだけが市場規模の拡大に併せて増加してしまい、より多くの資本を積むことが要求される。

おそらく制度設計の段階では、このような市場規模拡大期には、適宜調整を行うということだったのだろうが、これまで一度も変更は行われていない。昨今では市場変動の拡大に併せてヘッジニーズも増え、デリバティブ市場は着実に拡大している。このままいくと、米銀のスコアだけが増えて、必要資本も増えてしまうことになる。

特に第一四半期の結果を見ると米銀のG-SIBスコアは軒並みかなりの増加を見せている。年末に一旦スコアが下がって第一四半期にその反動で急増するというのはいつものことだが、今年はその増加幅が例年に比べて大きい。

そもそも規制によって年末に銀行が取引を縮小し、年始に取引を再開するというのは、市場の安定に資するとは言えない。単に規制が作り出したUnintended Consequenceである。年末になると、当初証拠金やリスクを増やしてまでも想定元本を減らしに行くようなところが出てくるかもしれない。金融機関としては、資本コストを下げるために当然の行動ということなのかもしれないが、市場にとっては悪影響を及ぼすことになるほか、銀行のリスク管理上も本来は望ましくない。

データがないので詳しくはわからないが、年末は元本削減のコンプレッションが増える一方、元本の増える可能性のある証拠金の最適化やリスク最適化が減っているのではないだろうか。証拠金コストや資本コストが海外ほど重視されていない日本ではこうした動きは見られないだろうが、海外大手行が取引を絞れば円金利、為替市場に対しても何らかの影響が出てくることが予想される。

その意味でも今回見直しの機運が高まっているのは市場にとっては良いニュースと言える。特に現状の米国政権下では、近い将来に見直しが入るのではないかと予想される。

日本におけるストレステストの強化

先月、地銀を対象としたストレス時対応力の強化に向けたモニタリングレポートが金融庁から出されているが、同時期にLBOローンに係るモニタリングレポート粉飾等予兆管理態勢の高度化に向けたアクション・プログラムなども公表されている。金融庁サイドの異動の時期に併せて年間の集大成として出しているのだろうか、いずれにしても地銀を中心とした金融機関のリスク管理高度化を求める動きが加速しているように見える。

4月に出されたカウンターパーティー信用リスク管理に関するガイドラインでも触れられていたが、グループ管理やすべてのビジネスラインを含むストレステストが重要というメッセージを良く目にするようになってきた。すべてのビジネスラインや拠点を含んだエクスポージャー計算ができないと、本当の意味でのリスクが計測できない。

そもそも海外現法の場合はプライシングモデルが異なるといったことがあると、同じ取引であってもグループ内で評価方法が異なるということになってしまう。欧米の監査においては確実にアウトなのだが、日本においては、システムや与信管理のグループ内統合については、これまで厳しく言われてこなかった。しかし、グループ全体でエクスポージャー計算やストレステストをしようと思うと、不完全な結果になってしまう。また、ブックする拠点を変えれば収益が上がるということも起きてしまう。もちろん、そんなことを行うところはないだろうが、内部取引でリスクを各拠点間で最適化している欧米金融機関と同じことを行うのが困難になってしまう。

今回のストレステストに関するモニタリングレポートにおいては、望ましくない事例が「懸念事例」として紹介されているので、今後はこうした事例に当てはまらないようにストレステストを強化する必要がある。そして「参考事例」として模範事例も紹介されている。

たとえば、軽微なストレスシナリオしか考慮していない、ストレス時でも自己資本比率が十分かどうかの検証が不十分、アクションプランが未検討、営業部門が不関与、ストレステストが経営判断のツールとして使われていない、グループの対象範囲が規定にないといった問題のある金融機関が一定数、または少数ながらあったという結果になっている。

おそらく海外のストレステストに関するガイドラインなども参考にしているのだろう。グローバルガイドラインと似たような内容の指摘が散見される。ただし、こうしたガイドラインが出たからと言って、コンサルや第三者に丸投げして体裁だけ整えていると、経営陣の理解が足りないという批判を受けることになる。

海外当局も経営陣に対しては、リスク管理に関して細かい質問を常に投げかけている。したがって、JPモルガンなど大手銀行のトップなどは、規制やリスクに関して異様に詳しい。特にストレステストの結果によって配当や自社株買いに制限がかかってしまう米国などでは、かなりのリソースをこうしたリスク分析に割いている。株主総会でもリスクやストレステストに関する議論をトップ自らが引っ張っている。経営陣がリスクを把握するツールとしてはストレステストは極めて有効な分析である。

今後は日本でも様々なストレステストが行われることになっていくだろうが、コンサルやベンダー丸投げではなく、実効性のあるリスク管理強化が求められる。

担保動向の変化~ISDA Margin Surveyより

今日は久々にISDA Margin Surveyを見てみる。まずはSurveyに参加している大手ディーラーが受け取った担保額を確認してみると、VMは市場変動に合わせて動いているが、IMが着実に増えているのが確認できる。

当初証拠金のマージン規制が2016年から段階適用されているので当然ではあるが、2022年9月のIMビックバンまで、以下のように閾値が下がる程度に併せてIMが増えているのがわかる。

Phase 1 2016年9月 €3tn
Phase 2 2017年9月 €2.25tn
Phase 3 2018年9月 €1.5tn
Phase 4 2019年9月 €750bn
Phase 5 2021年9月 €50bn
Phase 6 2022年9月 €8bn

IM規制の導入が一段落したからなのか2023年から2024年にかけてIMの金額が横ばいとなったように見える。あるいはIM最適化の広がりによって増加に歯止めがかかっているのかもしれない。

以前は全体の担保額に対するIMの割合は10%程度だったが、今では約30%となった。マーケットの変動幅の拡大とデリバティブ取引の増加によって証拠金規制の対象となる市場参加者は今年も増えているので、新規IMによる担保増とIM最適化による担保減によって、今後の担保額が変動していくのだろう。

もう一つ特筆すべきなのが、IMに対する現金比率の低下である。以前は2割くらいが現金だったが、今では約1割となっており、国債担保が広く使われている。一方Other Seruciriesに分類される社債などの比率も35%に増えているのが興味深い。証券の方が倒産隔離が容易だからという理由もあるが、担保拠出コストの高まりによって、極力現金以外を使おうという動きがみられる。驚くことに、VMにおいても現金比率が8割程度から7割を切るところまで下がってきている。

現金以外の担保を拠出すれば、ディスカウントの影響で取引のプライスが悪化するのだが、そのデメリットを上回るコストベネフィットがあるということなのだろう。特に規制VMではない現金担保の場合は遂に6割を切るところまで来ている。

英国のGilt Shockでも明らかになったように、突然の市場変動で巨額の担保を求められると、保有している債券などの資産を現金化する必要がある。キャッシュリッチではない事業会社や、投資資産の売却を余儀なくされるファンドにとっては現金担保は使い勝手が悪い。今後も現金以外の担保を利用したいというニーズには根強いものがあるようだ。

清算集中規制の例外が認められた

タイトルだけ見ると、若干誤解を招くかもしれないが、欧州で一部のバニラスワップがクリアリング規制の対象外になったと報じられた。もう少し詳しく言うと、当初証拠金最適化に伴って発生したスワップについてはクリアリングしなくても良いということだ。

当初証拠金が右肩上がりで増え続ける中、複数の市場参加者のポジションに最適化アルゴリズムを走らせることにより、各社の必要証拠金額を下げるということが、欧米を中心に行われてきた。しかし、CCPに溜まった一方向の取引を最適化するには、そのリスクを一部相対取引に移して、CCPのIMと相対のSIMMの合計を減らすことが必要になる。だが、相対でスワップをブックすることは清算集中義務に反するので、スワップションを使って何とかこれを行ってきた。

規制の趣旨からいって、マーケットに存在する集中リスクを下げ、CCPに溜まったリスクも減らすことができるので、市場の安定化に資するはずなのだが、規制の条文を杓子定規に読むと、スワップが使えないばかりか、スワップションを使ったとしても規制の趣旨に反する(?)という保守的な考え方も可能だった。とはいえ、さすがにスワップションは問題ないだろうと考えるところが多かったため、何とか証拠金削減が行われてきたのだが、多数のスワップションをブックするのは結構手間であり、プロセスが複雑になるので、証拠金削減の効果が少なくなってしまっていた。今般単純なスワップを相対でブックすることが認められたので、今後は、当初証拠金がより大きく削減できることになる。

記事によると、英国においても同様の免除が近々導入される見込みで、少し遅れて米国SECやCFTCも同じ免除措置を検討しているとのことだ。

こうなると今年末または来年初めには欧米全てにおいて、免除が認められることになるため、市場に存在している当初証拠金が格段に減る可能性がある。ただし、日本については何も記事には書かれておらず、双方が免除を受けていないと削減ができないので、あくまでも欧米の銀行間同士でのみ削減が可能になる。しかし、邦銀の欧米現法は、この免除の恩恵を受けられることになるのだろう。

おそらく日本は当局も欧米並みにコンプレッションを推奨するガイダンスを出しておらず、金融機関自体もこういったコストに敏感ではなかったので、それほどニーズがなかったのかもしれない。しかし、ようやく金利も上がり始め担保のファンディングコスト削減が課題となってきているので、日本でも同様の免除措置が認められることが重要になってくる。そうしないと、日本の金融機関との取引だけがコスト高になって流動性にアクセスしずらくなる可能性がある。