米国債の清算集中規制が1年延期になった際は、一旦安堵の声が聞かれていたが、気が付くともう6月近くになり、延期となった期限までもう1年半ほどになってきた。昨今の米国債市場の混乱を考えると、この清算集中規制導入は市場にかなりの影響を及ぼすものと思われるため、そろそろまた本腰を入れて準備に取り掛からなくてはならない時期になってきたと言えよう。
しかし、どのようなモデルでクリアリングを行うのか、法的強制力の確認などの議論があまり固まってこない。金利スワップなどのクリアリングであればかなりの議論があって、業界を挙げた検討がなされてきたが、それと比べると若干拍子抜けだ。デリバティブのときにISDAが議論をリードしていたが、米国債となると若干ISDAの範疇から外れるからなのだろうか。デリバティブの世界に慣れてしまった市場参加者からすると、顧客資産の分別やLegal Enfociabilityなどにおいて、FICCの提案に違和感を感じているようにも見える。
バイサイドの中には、自分が拠出した担保が、参加者破綻時に費消されてしまうのではないかと懸念をしているところもあるようだ。もちろんそんなことはないのだろうが、デリバティブの時のように分別管理や顧客資産保護についての議論が煮詰まっていないようにも見える。
色々なモデルが議論されてはいるものの、バイサイドにとって現状ではFICCのSponsored Repoを使うしか選択肢がない。しかし、銀行がこれを全ての参加者に本当に提供できるのだろうか。Sponsored Repoを提供してもそれほど利ザヤが厚いとは思えない。バイサイドの中には、取引執行とクリアリングを分離するDone Away Modelしかやりたくないというといころも多いが、これには他のCCPの参入、ルールブックの書き換えが必要となる。
FICCがIMと清算基金をともに一つのファンドに拠出するように求めていることも関係しているのかもしれない。現状のSponsored Repomモデルを使えば、バイサイドが清算基金を負担しなくても良いので、その懸念はないのだが、今度は銀行側の負担が大きくなる。
バイサイドがSponsored Repoモデルを使い続けることは可能としたものの、銀行にとってはコストが高いモデルなのでそれをチャージせざるを得ない。また、FICCの新ルールで導入されるSponsored Repoモデル+分別保管モデルを使い、拠出した担保が参加者破綻等に使われないようにすることもできる。しかし本当にそれが確保されるのかというと、ISDAのネッティングオピニオンのような、業界全体が安心感を得られるような法的オピニオンがない。実際に破綻が起きた時に、裁判で自分の拠出金がそのまま戻ってくるという保証が100%ある訳ではない。
Done Away Tradeを可能にするデリバティブのエージェントに近いモデルも提案されてはいるものの、詳細が完全に固まっているとも思えない。そうすると個々のディーラーと顧客との交渉次第ということにもなりかねず、契約交渉に時間がかかってしまう。
以前から言われていることなのだが、株式のや債券の現物の取引所とデリバティブの取引所では、その対応の仕方に大きな差がある。金利スワップのクリアリングに際しては、現物系に比べると、よりユーザーの意見も取り入れながらもきちんとリスク管理を行うという方針が貫かれているようにも思える。
日本でもレポのクリアリングとIRSのクリアリングの仕組みは結構異なっていたが、JSCCへの一本化ができたことにより、大きな問題は起きていない。米国でも現物系でありながら、デリバティブの清算にもうまく対応してきたCMEの経験なども踏まえてモデルを作っていく必要があるのだろう。
そんな中、米国ではさらなる規制緩和に向けた発言が注目された。SLRの分母であるレバレッジエクスポージャーから米国債を除くという議論が長年続けられてきたが、先週金曜、夏にかけて何らかの動きがある可能性があるとのコメントがベッセント財務長官からあった。今回は本当に米国債除外が進むのかもしれず、そうなると米銀には追い風になる。
まだまだ米国債を巡る動向からは目が離せない。