レポのヘアカット問題

1年遅れになった米国債レポの清算集中規制導入を約2年後に控え、RepoのヘアカットがISDAの年次総会で話題に上がっていた。2年くらい前のにOFRのブログで紹介された、米国債レポの74%がゼロヘアカットという分析を巡る議論だ。

そもそもレポのヘアカットは金利スワップ等とは異なる発展を遂げてきた。金利スワップなど通常のOTCデリバでは、マージンコールからクローズアウトまでの期間を考慮して、10 day 99% VaRなどがIM(当初はIA)の目安として使われていた(IAはIndependent Amountの略)。つまりギャップリスクをカバーするための担保をIMとして取ろうというコンセプトである。したがって、双方にリスクが発生することから、固定金利を受けようと払おうと、信用力に劣る方がヘアカットを負担していた。

しかし、レポの場合は有担保貸付という要素があったからだろうか、お金を貸す方がヘアカットを要求するということもあり、一方が例えばプラス1%のヘアカット、他方がマイナス1%のヘアカットということもあり、しかも信用力の高い銀行サイドであってもお金を借りているのであれば、ヘアカットを負担するという慣行もあった。この場合の1%ヘアカットもVaRなどで計算しているわけではなく、どちらかというと市場慣行ということで決まっており、年限による差もあまりなかった。最近はこのマイナスヘアカットの慣行は稀になってきたと思うが、ヘアカットの水準はリスク対比かなり低めに設定されている。

金利スワップでIAを計算してきた人にとっては、レポの担保は非常に不思議な理屈で決まっていると思われていた。2年債のギャップリスクと30年債のギャップリスクは全く異なるため、金利スワップではIMに大きな差をつけている。国債を担保に受け取る時も年限によってヘアカットに差をつけるのが一般的だ。にもかかわらず、レポ取引になるとヘアカットは「適当に」決められているような印象さえ与えていた。

どれくらいヘアカットが取れているのかを調べてみようと思ってデータ分析をしてみれば、OFRが言うようにほとんどゼロヘアカットが多く、リスクに対して不十分な担保となっていることがわかる。しかし、OFRも言っているように、RepoとReverse Repoでリスクがオフセットするケースではヘアカットをパッケージでゼロにすることも多い。金利スワップのように厳密な計算をしないため、2年のRepoと10年のReverse Repoでもかなりヘアカットを減らしていたケースもあっただろう。特にヘッジファンド側も単純にレポ取引をアウトライトで行うことは少なく、金利スワップや先物と組み合わせて取引をすることが多いので、ヘアカット引き下げのプレッシャーはかなり厳しかったことが容易に想像できる。

金利スワップとレポを組み合わせてネッティングすることはできないので、ヘアカットを減らすというのは間違っているのだが、実際の破綻時には民法上の相殺ができるので、IMがなくても良いのではないかという議論がある。もちろん、プライムブローカーであらゆる取引をまとめてポートフォリオマージンしているような場合には、ある程度のIM減額は正当化されることはあるだろう。

米国債の清算集中規制のドライバーともなったベーシス取引は、国債価格と先物価格の差を取る裁定取引で、そこで使われた米国債をレポに出してファンディングをするのが通常である。ヘッジファンドがレポと先物の両方を同じディーラーと行っているときは、ディーラーがそのリスク相殺を認めレポに対してヘアカットを免じることがあったが、これもプライムブローカーのようなケースだろう。厳密には契約が違ってNetting Enforceabilityが確保されていない場合はこのようなヘアカット免除は行ってはならないと思うのだが、交渉力の強いファンドの場合はこれができているのだろう。

当局としては、国債と先物のベーシス取引が国債市場を混乱させることを恐れており、レポのヘアカットが不十分である点も問題視している。CCPでクリアリングすることが義務付けられれば、こうしたヘアカット減免などの慣行がなくなり、国債市場の安定化につながるという読みなのだろう。ほかには最低ヘアカット水準を決めるという方法もあるが、異なる年限である程度のリスクオフセットがあるものや、国債と先物、金利スワップとレポなど、どこまでオフセットを認めるかということを考え始めると結構難しい問題に突き当たる。

日本でもJGBレポのヘアカットは0.5%とか1%で、ある程度取引相手の信用力に応じて2%や3%が使われていることもあろう。しかし、日銀の適格担保要綱にあるヘアカットを見ても1年以内は1%(評価額99%)だが、30年超になると6%になっている。JGBについてもヘアカットはかなり足りていないと言えるが、これまで円金利の変動が少なかったことからあまり問題視されてこなかった。しかし、金利が上昇し、昨今のような変動が生じ始めると、日本のレポについても何らかのコントロールが必要なのかもしれない。