米国の関税がWWR取引に与えるインパクト

今回米国債を売り浴びせたのは中国なのか、日本の銀行なのかという話でもちきりだったが、もう一つ見逃してはならないのは、台湾である。今回米国債を売る側に回ったかどうかは定かでないが、台湾は$1.7tn ものの資金を米国資産に振り向けていると年始に報じられていた。これは台湾のGDPの2倍以上であり、台湾の債券市場全体の5倍に当たるとのことである。

以前台湾の生保のバランスシートを確認したことがあるが、大手生保は軒並み半分近くの資産を米国債券に割り当てており、その一部を為替ヘッジしていた。ほとんどはオンショアでローカルバンクとのヘッジなのだろうが、相当数のヘッジをNDFの形でグローバルバンクと行っている。

台湾生保の保険契約額は、20年前くらいはGDPの60%程度で、その他の国とそれほど変わらなかったが、ポートフォリオに関する規制の変更により、急速に契約額を増やしており、米国資産への投資を2倍以上に増やしている。つまり、米国債が暴落すれば巨額の損失を被る。しかし、それが損失として実現しないよう、時価評価をしなくて良いよう規制が変更されたりしている。これがなければほとんどの生保は債務超過になっていたのではないかと思われる。

さて、今回の関税によってこの資金が米国から外へ流れるのかに注目が集まる。確かに米国からの資金逃避も大きな問題だが、それに応じてヘッジ取引が減るかどうかにも注目したい。通常台湾生保がドル資産を買うときは、短期の為替でドルを調達し、それを数か月単位でロールしていく。したがって、ディーラーはTWDの3か月NDFなどのポジションを大量に持っている。スポットでドルを渡してフォワードでドルを返してもらう取引なので、Wrong Way Risk(WWR)取引となる。台湾に危機が起きて通貨が下落するときに取引先である台湾生保の信用力も低下し、その時にこの為替取引が大きなIn the moneyになっているからである。

大手ディーラーはWWRについてはリミットを設けて管理しているはずで、このプレッシャーが強ければCCPで清算したり当初証拠金を出したりといった工夫をするはずだが、あまりに多くの銀行が台湾生保と取引をしているため、生保側としては危機感がない。ここはいつかマーケットを揺るがす動きになるのではないかと懸念していたのだが、もしかしたら米国からの資金流出がこの状況を改善させるかもしれない。一方ではこれまで低かったヘッジ比率を上げてくるため、為替ヘッジを増やしてくるかもしれない。米国債をサポートする投資家が減るとともに、ドル売りを加速させる動きにつながるかもしれない。

過去数週間の混乱の中、通常であれば米国債が下がったときに買いに入る台湾生保などからの買いが少ないという声がマーケットで聞かれる。これがどの程度のインパクトをマーケット全体に与えるかわからないが、今後の資金フローの変化の流れを見る上では注目しておきたい。

金融規制に対する財務省の影響が強まる

関税協議でも何かと話題になるベッセント財務長官だが、金融規制においても重要な役割を負っており、先月から始まったFRB、FDICなどの監督機関との非公式協議において、中心的な立場にある。

4月9日にはストレス資本バッファや地銀に対する過度な規制について再検討する旨の発言をしている。また以下の通りレバレッジ比率についてもコメントしており、この文脈から察するに行き過ぎた規制に懸念を表明しているように見える。

I have previously raised concerns about whether the leverage capital restrictions are too frequently binding.(中略)It is time that we step back and re-assess these and other costs and benefits of the liquidity framework.

同様のコメントは3月6日にも出ており、これ以外にも様々な場所で同様の発言をしているようだ。この時はSLRがバックストップというよりは最大の制約になっていると明確に述べており、これはこのブログでも何度も主張してきた業界の意見と全く同じである。

おそらく金融機関関係者とのパイプも強いだろうから、業界寄りの議論がなされるものと予想される。これまでは、ゲンスラー氏のキャラクターもあっただろうが、CFTCやSECなどが規制改革を引っ張ってきたように思うが、今後は財務省の影響力が強くなることが確実視されている。

トランプ政権の要人の中では、かなり常識人なので、関税交渉など様々な分野で引っ張り出されて多忙になることが予想されるが、何とか市場の安定化のためにも頑張ってほしいものである。