2年前のシリコンバレーバンクの時もそうだったが、米国金利の上昇を受けて銀行収益に与える影響を懸念する声が出始めた。とはいえ、2年前にポートフォリオの精査が行われ、当局の関心も高まったため、ある程度準備ができていたところが多いものと思われる。ただし、ヘッジファンドなどでは大きな損失が出ているところがあっても不思議ではない。
その準備の影響もあったのかもしれないが、PLヒットする(損益計算書上に損益が計上される)保有方式の国債が増えている。Risk.netによると、米銀大手50行の米国債保有残高は過去最高のレベルになったとのことだが、その中でもPLヒットするTrading SecuritiesとAFSが増えている。基本的なところをおさらいしておくと、米国会計上は米国債の保有方法として1)Trading、2)AFS、3)HTMの3種類がある。
- Trading Securities: 短期保有目的。トレーディング収益が上がるのはここから。日々時価評価が必要なのでPLにヒットする。
- AFS (Available-for-Sale): トレーディング目的ではないものの満期保有ではない。日々時価会計が必要だが、未実現損益は損益計算書にヒットせずにBSのOCI(Other Comprehensive Income)で直接資本を減ずる形でのPLヒットとなる。
- HTM(Held-to-Maturity): 満期保有。時価会計、PLヒットなし。途中で売ると損失が出る。
つまり1と2の方式で米国債を持っていれば最近の金利上昇で損が出ているはずだが、3だと売却しない限り損は計上されない。シリコンバレーバンクなどは、3で持っていたので損にはならなかったのだが、流動性がなくなり、HTMを売却したため損が出て破綻に至った。
こうした市場変動が起きると金融機関の収益がぶれることになるので、あまり大きな市場変動は望ましくない。以前から何度も書いているように、米国の場合は規制がその変動拡大に拍車をかけている。SLRなどのバランスシート規制があるため、銀行としてはあまり米国債を持ちたくない。
こういった局面で銀行が金融仲介機能を果たしてスムーズな取引ができればある程度市場が行き過ぎればそれが修正されるはずである。しかし、規制や損失を恐れる経営陣が多くなってきたため、一度危機が起きると取引量を絞り始める傾向がみられる。特に資本コストの高いレポが急速に締まったりして、米国債の流動性に影響を与える。昨今では先物と現物などのベーシス取引の巻き戻しなども市場変動の拡大に寄与している。困ったことに、米国の規制なのに、これが他国の債権流動性にも影響を与えている。バランスシートを縮小せよと言われると、米国債だけでなくあらゆる資産に影響が生じるからだ。
トランプ政権がアメリカファーストを掲げるのであればSLRの対象から米国債を除いてしまうのが最も簡単で、そうすれば中国などが米国債を売り浴びせたとしてもその影響が若干弱まるかもしれない。まあここまで細かい内容が大統領まで伝わるかという問題もあるが、早速FRBからはSLRの緩和に関するコメントが出ているようだ。4月以降急速に米国債の流動性が落ちていることを考えると、この流れが加速してもおかしくない。Covidの時のような時限措置になる可能性もあるが、意外と早くUS TreasuryがSLRの計算から外れることになるのかもしれない。