スワップ取引量は増えてもCCPでの元本残高が減っている

米銀のClearing Rates(全体のスワップ想定元本に占めるCleared Tradeの割合)がRisk.netで報じられていたが、特に大手銀行において、2022年くらいからこの比率が右肩下がりになっている。そして昨年末には50%未満に下がっており、特に最近の減少が最も著しい。

これは非清算取引が増えてCCPでの取引が減っている訳ではなく、Cleared Swapにおけるコンプレッションが盛んになっていることを意味する。JPMなどはコンプレッションにより9兆ドルの元本を削減しており、Clearing Ratesは50%近くになっている。GS、MS、Citiなども45%近辺にまで下がっており、Cleared Swapの元本が激しく削減されているのが伺われる。

清算集中規制によってCCPに移る取引が増え、しかも最近スワップの取引量が増えていることを考えると、このClearing Ratesが軒並み50%を割っているのはかなり驚きだ。これは資本コストに敏感な欧米金融機関特有な動きのかもしれない。今や新規取引で元本が増えても、満期を迎える取引とコンプレッションによる元本削減で、年間のスワップ元本増加がほぼゼロ近くに抑えられているようだ。

2024年のUS G-SIBスコア(Method 2)を見ると以下のようになっているが、資本コストが増える閾値である630、730、930近辺に近いところが多いように見える。これを超えないように積極的に取引元本を減らしているとしても不思議ではない。

https://www.financialresearch.gov/bank-systemic-risk-monitor

こうした規制によって明らかに金融機関の行動に変化が起き、それが市場の流動性に影響しているのが非常に興味深い。また、国によって規制が異なったり、資本コストに対するセンシティビティの差によってその影響も異なる点も注目される。

米国の関税がWWR取引に与えるインパクト

今回米国債を売り浴びせたのは中国なのか、日本の銀行なのかという話でもちきりだったが、もう一つ見逃してはならないのは、台湾である。今回米国債を売る側に回ったかどうかは定かでないが、台湾は$1.7tn ものの資金を米国資産に振り向けていると年始に報じられていた。これは台湾のGDPの2倍以上であり、台湾の債券市場全体の5倍に当たるとのことである。

以前台湾の生保のバランスシートを確認したことがあるが、大手生保は軒並み半分近くの資産を米国債券に割り当てており、その一部を為替ヘッジしていた。ほとんどはオンショアでローカルバンクとのヘッジなのだろうが、相当数のヘッジをNDFの形でグローバルバンクと行っている。

台湾生保の保険契約額は、20年前くらいはGDPの60%程度で、その他の国とそれほど変わらなかったが、ポートフォリオに関する規制の変更により、急速に契約額を増やしており、米国資産への投資を2倍以上に増やしている。つまり、米国債が暴落すれば巨額の損失を被る。しかし、それが損失として実現しないよう、時価評価をしなくて良いよう規制が変更されたりしている。これがなければほとんどの生保は債務超過になっていたのではないかと思われる。

さて、今回の関税によってこの資金が米国から外へ流れるのかに注目が集まる。確かに米国からの資金逃避も大きな問題だが、それに応じてヘッジ取引が減るかどうかにも注目したい。通常台湾生保がドル資産を買うときは、短期の為替でドルを調達し、それを数か月単位でロールしていく。したがって、ディーラーはTWDの3か月NDFなどのポジションを大量に持っている。スポットでドルを渡してフォワードでドルを返してもらう取引なので、Wrong Way Risk(WWR)取引となる。台湾に危機が起きて通貨が下落するときに取引先である台湾生保の信用力も低下し、その時にこの為替取引が大きなIn the moneyになっているからである。

大手ディーラーはWWRについてはリミットを設けて管理しているはずで、このプレッシャーが強ければCCPで清算したり当初証拠金を出したりといった工夫をするはずだが、あまりに多くの銀行が台湾生保と取引をしているため、生保側としては危機感がない。ここはいつかマーケットを揺るがす動きになるのではないかと懸念していたのだが、もしかしたら米国からの資金流出がこの状況を改善させるかもしれない。一方ではこれまで低かったヘッジ比率を上げてくるため、為替ヘッジを増やしてくるかもしれない。米国債をサポートする投資家が減るとともに、ドル売りを加速させる動きにつながるかもしれない。

過去数週間の混乱の中、通常であれば米国債が下がったときに買いに入る台湾生保などからの買いが少ないという声がマーケットで聞かれる。これがどの程度のインパクトをマーケット全体に与えるかわからないが、今後の資金フローの変化の流れを見る上では注目しておきたい。

金融規制に対する財務省の影響が強まる

関税協議でも何かと話題になるベッセント財務長官だが、金融規制においても重要な役割を負っており、先月から始まったFRB、FDICなどの監督機関との非公式協議において、中心的な立場にある。

4月9日にはストレス資本バッファや地銀に対する過度な規制について再検討する旨の発言をしている。また以下の通りレバレッジ比率についてもコメントしており、この文脈から察するに行き過ぎた規制に懸念を表明しているように見える。

I have previously raised concerns about whether the leverage capital restrictions are too frequently binding.(中略)It is time that we step back and re-assess these and other costs and benefits of the liquidity framework.

同様のコメントは3月6日にも出ており、これ以外にも様々な場所で同様の発言をしているようだ。この時はSLRがバックストップというよりは最大の制約になっていると明確に述べており、これはこのブログでも何度も主張してきた業界の意見と全く同じである。

おそらく金融機関関係者とのパイプも強いだろうから、業界寄りの議論がなされるものと予想される。これまでは、ゲンスラー氏のキャラクターもあっただろうが、CFTCやSECなどが規制改革を引っ張ってきたように思うが、今後は財務省の影響力が強くなることが確実視されている。

トランプ政権の要人の中では、かなり常識人なので、関税交渉など様々な分野で引っ張り出されて多忙になることが予想されるが、何とか市場の安定化のためにも頑張ってほしいものである。

ディーラーが保守的になると市場変動は激しくなる

今回のトランプショックによって、安全資産としての米国債やドルの信頼が完全に揺らぐことになったと感じている。基軸通貨が安定しないというのは、その定義から言ってもおかしな話であるため、資金の流れが変わってしまったとしても不思議ではない。

この市場の混乱の中、ディーラーは自身のブックのヘッジに精一杯で、ワイドなプライスしか出してこなかったという声が聞かれた。顧客フローが一方向に傾いた時、そのリスクをしばらく抱えておくという行動が明らかに取れなくなってきているようだ。

日本ではよくサラリーマンリスクという言葉があったが、同じことがグローバルの大手銀行で発生している。つまり、大きな顧客フローがあって、トレーダーとしてはそのリスクを持ち続けたいと思ったとしても、マーケットがさらにアゲンストに動いて巨大損失を出してしまうと自らの職が危うくなる。たとえそれ以上マーケットが一方向に行く可能性が1%に満たないと思ったとしても、そのリスクは取れない。当然、シニアマネジメントやリスク管理部門からはヘッジしろという圧力がかかる。したがって、いくらヘッジコストが法外に高かったとしてもそれをヘッジしにいく。

昔は確率が50/50より良いならリスクを取ってその取引をすると言っていたトレーダーがいたが、こうした市場変動が起きた時、今では大きく負ける可能性が1%でもあるなら避けに行くトレーダーが増えた。規制当局としても、市場危機を防ぐためにトレーダーの過度なリスクテイクを抑えるのが重要なのだが、あまりに抑えすぎると市場変動が激しくなり、さらに厳格なリスク管理を求めなければならないというジレンマに陥る。

実際は、今回の関税のように突然90日の猶予が発表されて市場が戻り、ヘッジコストが無駄になると同時に、大きな収益を上げる機会を逃すことになる。しかし、かといってトレーダーが責められることはない。一方リスクを抱え続けて万が一巨額損失が発生すれば職を失う。確率的には勝てると確信していた取引でも、サラリーマンとしてはヘッジするしかない。規制によってバランスシートコストが高くなったとか、ボルカールールによって自己勘定でリスクを抱えにくくなったという理由ももちろんあるが、それ以上に金融機関側のリスクアペタイトがなくなってきているのも大きい。

唯一の例外はCVAヘッジだ。さすがに今回の変動はカウンターパーティーリスクに端を発したものではなく、ヘッジコストがあまりに高かったので、逐一ヘッジをしなかったディーラーが多かったようだ。これはCVAデスクに関しては、その他のトレーダーほどサラリーマンリスクが低いというのが関係しているのではないかと思う。しかし、そのCVAトレーダーが本気でヘッジし始めたら危険である。それが本当の危機の始まるとなるかもしれない。

以前であれば、マーケットが一方向に動いた時に、銀行がリスクを抱えることによって極端な動きに歯止めをかけていたが、現在これは望めなくなってきた。そして望ましくないリスクを抱えてしまったエンドユーザーがそれを外そうと銀行に行ったところで、非常にワイドなコストを取られるか、希望するサイズすべてを取引できない可能性が高くなる。平常時にはあれだけ競ってシャープなプライスを出そうとしてきたディーラーが、突然何も顧みず価格をワイドにしてくる。

以前にもましてマーケットの変動幅が激しくなっているのはこうした理由もあると思う。今回はSafe Heavenと言われるスイスフランや日本円などが上昇したが、このボラティリティをヘッジするためのCall OptionやRisk Reversalなどの流動性が十分でなく、EURUSDにまで波及した。そして、普段は安定しており流動性が高いはずのEURUSDですら、Volatilityが急上昇し流動性が枯渇した。

ディーラはショートガンマポジションの解消のためVolatilityを買わなければならず、それがさらに市場の変動を加速させる。今後しばらくはこうした動きが続くだろう。しかもこれが突然起きるので、ディーラーはVol Shortのポジションなどを普段から持つのが難しくなる。そうすると、今後は事業会社などVolの供給者をもう少しカバーしておく必要が出てくるのだろう。このように、危機時に誰が流動性を供給できるかというのを眺めた上で、ポジションを取っていかなければならない。また常日頃からポジションをきれいにしておく努力を怠ってはならない。

そして、今後はドルが基軸通貨であるという前提を疑ってかかる必要があり、米国債や米ドルが安全資産であるとはとても言えなくなってしまった。ここから世界の資金の流れが大きく変わってしまうのだろうか。

MVAの計算とプライシング慣行

金利上昇に従い当初証拠金のファンディングコストが話題になることが多くなってきた。外資系や先進的な邦銀では、ファンディングコストが何らかの形でトレーディングデスクに割り振られていることが多いので、トレーダーとしても、あまりに大きな担保コストがかかる取引に対しては、きちんとコストをカバーしようとするインセンティブが働く。

通常はその取引によってどの程度担保が増加するかはSIMMモデルを使えれば簡単に計算できる。既存のポートフォリオがかなり大きく分散が効いている場合には、追加コストがあまり大きくならないこともある。反対方向のリスクがすでに多ければ、当初証拠金を減らすこともある。こうした場合は、トレーダーとしてはほぼミッドで取りに行ったとしてもコストセーブにつながるため、かなり強気のプライスが出せる。

さらに、その取引から発生するリスクをどのようにヘッジするかも重要だ。もし反対ヘッジによって一定のCCPに対するIMが上がってしまう場合にはそのコストをカバーしなければならない。例えばドル円通貨スワップを顧客と行い、ドル金利のリスクを内部のドルデスクと行った場合、ドル金利のトレーダーとしては、CCPへのマージンコストを通貨スワップのトレーダーにチャージしたいと思うだろう。そうしないと単なるコスト増になってしまうからだ。ただ、自分が顧客とドル金利スワップを行う時は、それをチャージしない場合などもあり得る。通貨スワップトレーダーにとっては不公平な話だが、こういう話はどこでもあるのではないだろうか。

一方で、ヘッジファンドのように短期でポジションを動かすプレーヤーの場合は、その取引が数か月で解約されることも多い。このような場合は、たとえいつ解約するかわからなくてもIMチャージを下げても良いという心理が働く。また、IMの最適化に参加している外資系ディーラーとの取引であれば、定期的にIMを減らすことが可能になっているので、さらに強気なプライスを提示しやすい。CCPで清算されている取引やSwapAgent経由の取引などはネッティング効果もあるので、これもプライスを下げることができる。

また、スワップションの場合は権利行使まではスワップションとしてのSIMMのIM、権利行使後はCCPで清算されるのでCCPのIMという形で分けて計算をする。これも中途解約や最適化への参加によってプライスは変わる。

いずれにしても10年満期のスワップについて10年分のIMの増加効果を計算してしまうと、コンペで負ける可能性が高くなる。ヘッジ会計適用のスワップなどで絶対に解約がない取引であれば保守的にプライシングした方が良いかもしれないが、通常は中途解約や最適化が可能だ。したがって、競合相手のプライスも見ながら落としどころを探っていく作業が発生する。もちろんサイズの小さい取引でこんな計算をいちいち行うのは不可能なので、小さいものは無視したり、適当に0.1bpなどプライスを若干悪くするということが行われていると思う。

そしてこれに資本コストもかかってくるからさらに複雑だ。こちらはトレーダーレベルにチャージされることは少ないだろうが、部門別ROEなどの指標が悪化するため、完全に無視はできない。G-SIBスコアを下げなければならない時や、年度末などでバランスシートがタイトになったときなどは、こうしたIMや資本コストの高い取引からプライスを悪化させることも多い。

MVAやKVAは、理論的にしっかりと計算できるCVAとは異なり、かなりアートの世界になっている。ディーラーとしては収益の源泉とすることもできるのかもしれないが、デリバティブ市場の透明性と流動性を高めるには、これらは極力少ない方が望ましいのだろう。

米国債急落がSLR緩和の追い風に

2年前のシリコンバレーバンクの時もそうだったが、米国金利の上昇を受けて銀行収益に与える影響を懸念する声が出始めた。とはいえ、2年前にポートフォリオの精査が行われ、当局の関心も高まったため、ある程度準備ができていたところが多いものと思われる。ただし、ヘッジファンドなどでは大きな損失が出ているところがあっても不思議ではない。

その準備の影響もあったのかもしれないが、PLヒットする(損益計算書上に損益が計上される)保有方式の国債が増えている。Risk.netによると、米銀大手50行の米国債保有残高は過去最高のレベルになったとのことだが、その中でもPLヒットするTrading SecuritiesとAFSが増えている。基本的なところをおさらいしておくと、米国会計上は米国債の保有方法として1)Trading、2)AFS、3)HTMの3種類がある。

  1. Trading Securities: 短期保有目的。トレーディング収益が上がるのはここから。日々時価評価が必要なのでPLにヒットする。
  2. AFS (Available-for-Sale): トレーディング目的ではないものの満期保有ではない。日々時価会計が必要だが、未実現損益は損益計算書にヒットせずにBSのOCI(Other Comprehensive Income)で直接資本を減ずる形でのPLヒットとなる。
  3. HTM(Held-to-Maturity): 満期保有。時価会計、PLヒットなし。途中で売ると損失が出る。

つまり1と2の方式で米国債を持っていれば最近の金利上昇で損が出ているはずだが、3だと売却しない限り損は計上されない。シリコンバレーバンクなどは、3で持っていたので損にはならなかったのだが、流動性がなくなり、HTMを売却したため損が出て破綻に至った。

こうした市場変動が起きると金融機関の収益がぶれることになるので、あまり大きな市場変動は望ましくない。以前から何度も書いているように、米国の場合は規制がその変動拡大に拍車をかけている。SLRなどのバランスシート規制があるため、銀行としてはあまり米国債を持ちたくない。

こういった局面で銀行が金融仲介機能を果たしてスムーズな取引ができればある程度市場が行き過ぎればそれが修正されるはずである。しかし、規制や損失を恐れる経営陣が多くなってきたため、一度危機が起きると取引量を絞り始める傾向がみられる。特に資本コストの高いレポが急速に締まったりして、米国債の流動性に影響を与える。昨今では先物と現物などのベーシス取引の巻き戻しなども市場変動の拡大に寄与している。困ったことに、米国の規制なのに、これが他国の債権流動性にも影響を与えている。バランスシートを縮小せよと言われると、米国債だけでなくあらゆる資産に影響が生じるからだ。

トランプ政権がアメリカファーストを掲げるのであればSLRの対象から米国債を除いてしまうのが最も簡単で、そうすれば中国などが米国債を売り浴びせたとしてもその影響が若干弱まるかもしれない。まあここまで細かい内容が大統領まで伝わるかという問題もあるが、早速FRBからはSLRの緩和に関するコメントが出ているようだ。4月以降急速に米国債の流動性が落ちていることを考えると、この流れが加速してもおかしくない。Covidの時のような時限措置になる可能性もあるが、意外と早くUS TreasuryがSLRの計算から外れることになるのかもしれない。

CCPの証拠金計算に関するベストプラクティスが示すもの

1月にCCPの証拠金の透明性向上を目的としたベストプラクティスがIOSCOから出されている。突然予期せざるマージンコールが発生して資金不足に陥るところがないよう、こうした情報開示は必要不可欠である。EUでは証拠金のシミュレーションツールにバイサイドもアクセスできることを求めているが、今回のペーパーでは、クリアリングブローカーへのアクセスを求めた上で、クライアントにも開示されればなお望ましいという書き方になっており、こちらの方が現実的な対応となっている。

この証拠金シミュレーションツールはCCPのストレスシナリオやIMの各要素(ベースIM、流動性アドオンなど)の計算も含まれている。モデルの詳細、プロシクリカリティ防止策、バックテストなど、かなり詳細な開示を求めている。今後社内でIMモデルやその他のモデルを作成するときのチェックリストとしても使えるだろう。また、IMのモデルなど、日本では海外ほどバックテストについての規制がないが、海外の傾向に併せてもう少しバックテストも重視しておいた方が良いだろう。

Risk.netでも、各国当局間で、流動性を提供できる参加者を増やし、決済インフラへの参加要件を緩和し、ネッティング効率を高めたりして、取引コストを下げるべく努力していると書かれている。今回のペーパーも含めて、各国当局間で、マージンコールによる流動性逼迫への対応策が色々と協議されているように思える。そしてNBFIなどに対する規制要件の厳格化も進んでいるので、バイサイドも含めた各市場参加者にこうした分析の高度化を求めているようだ。

一方で、このベストプラクティスの話に絡めてIOSCOの高官がサイバーリスクにも言及していたのが興味深い。次の危機はカウンターパーティーリスクやマーケットリスクから発生するのではなく、サイバーリスクから発生するだろうという趣旨の発言があった。確かに最近水面下でもサイバーリスクが高まっているのが伺われ、今後大きな事故が起きたとしても不思議ではない。海外金融機関でもサイバー対策にかなりの予算を割り当て始めているが、日本でも今後経営課題の一つとなっていくのだろう。

邦銀のROEが急速に改善

MUFGのROE目標9%前倒し達成というニュースが出ているが、邦銀のROEが急速に改善してきた。一時は5-6%台で低迷していたものが、近年メガバンクを中心に軒並み上昇基調にある。

15%を超えているJPMなどの大手とはまだ開きはあるが、ROE向上が現場にまで浸透している米銀大手と比べても遜色ないところまで上がってきているのはさすがである。

海外だと、例えばROE向上といってトップが号令をかけても、現場のスタッフレベルでそれを真剣に目指そうという動きにはなりにくい。ROEを上げても自分の給料が上がらないのだったら、単純に収益増を目指したいというのは極めて自然である。したがって、海外大手では、何とかそれを現場の目標と一致させるために、様々な工夫が行われている。

資本に関してはアメとムチがあるが、まずはムチとして、取引承認時にROEを承認基準に加え、例えば単体でROE10%を下回る取引は却下というルールにする。当然Adjacency Revenueといって、その取引を取ることによって引受手数料も得られるといった、抱き合わせ販売のようなことが可能になる場合は、特別に承認されることがあるが、通常ROEがターゲットに満たない案件は却下される。

アメの方は、資本削減を行った営業に対してセールスクレジットという形で収益を割り当て、新規案件を取ったと同じような収益認識を可能にする方法を使うところが多い。資本コストが削減できた場合、それを何らかの形で数値化して払い出すという方法が取られる。

トレーディングサイドでは、各デスクごとにROEを計算し、それを評価体系に加えるという方法を取るところが多い。資本を正しく配賦するのは結構難しいのだが、一旦この部門別ROEが出回ると、少なくともトレーディングヘッドなどはかなり強く意識するようになる。

同じことはCVAのようなカウンターパーティーリスク、担保コストやバランスシートコストについても行われるが、こちらの方は定期的にそのコストをトレーディングデスクにチャージすることにより、日々コストを意識したトレーディング管理をするようなインセンティブ付けをするのが一般的である。当初証拠金コストが大幅に上がるものの、収入が大きいという取引があった場合、通常トレーダーはそれに飛びつくが、それによって部門別ROEが極端に下がる場合には何とか資本コストをカバーすべくプライシングを変えるようになる。

こうしたインセンティブメカニズムがないと、「まあ財務や企画には怒られるかもしれないけど、今期の収益目標を達成することの方が重要だ」ということになり、いつまでたってもROEやファンディングコストの削減ができなくなる。

こうしたインセンティブ付けなしに邦銀がここまでのROE向上を成し遂げているのだとしたら、少しやり方を変えれば世界の金融機関と戦える資本効率を達成することができるのではないか。また、ここまでくると資本効率を意識せずに経営を続けていると、中小金融機関の中には取り残されるところが出てくるというリスクもある。今後は金融機関による差も大きくなっていきそうだ。