CVA資本規制の高度化

CVA CapitalについてBA-CVAを使う銀行が増えてきたことが業界で話題になっている。もともとBasel IIIにおいては、以下の3つの手法が提示されていた。

IMM:先進的手法であるIMM
SA-CVA:先進的手法を適用できない銀行が使う標準法
BA-CVA:小規模銀行を想定した基礎的な簡便法

しかし、モデルやオペレーション面での対応が難しかったり、当局サイドの内部モデルに対する懸念があり、IMMは廃止され、現在では標準的なSA-CVAと基礎的なBA-CVAの二つが選択肢となっている。BA-CVAではマーケットヘッジが加味されないため、多くの大手行はSA-CVAを適用すると思われていたのだが、欧州銀行の中でBA-CVAを適用するところが増えるのではないかと報道され、専門家を驚かせている。

洗練された銀行で、技術はあるもののBA-CVAを選択しているというのが話題になっている。実際に計算してみるとSA-CVAとBA-CVAの資本コストが10%程度しか変わらず、わざわざSA-CVAを適用するコストに見合わないという理由もあるとのことだ。とは言え、英国など新規制の適用開始を延期した国が多く、米国でもトランプ政権のもとで最終案がどうなるか不確実であるため、しばらく様子見というところも多いのかもしれない。いずれにしてもこの第一四半期後には当局報告の中でどの銀行がSA-CVAを適用するかが明らかになる。カナダのRBCなどは、とりあえずBA-CVAを使うが、将来的にはSA-CVAへの移行を検討するとも述べている。

当然大手銀行は内部モデルに従ってCVAのヘッジを日々行っており、SA-CVAとは比べ物にもならない業務を行っている。会計上のリスクヘッジと規制上のリスクヘッジは極力合わせていった方が良いのでSA-CVAでも不十分なくらいである。その意味では規制のCaliburatiojnを行い、SA-CVAとBA-CVAにおける所要資本に十分な差をつけてインセンティブをつけたうえで、SA-CVAの高度化を目指していくべきだと思う。10%程度の資本削減しか得られない中でコストがその10%を上回るというのであれば、SA-CVAを使うインセンティブは大きく削がれる。そして、BA-CVAを使っていると、マーケットリスクをヘッジをするインセンティブがなくなり、カウンターパーティーリスクを裸で持った方が得ということになる。

日本ですら、金融危機後の円高時にカウンターパーティーリスクが高まったときに、外資系であれば円をロングにするCVAヘッジによって、かなりの損失が抑えられたはずである。為替のみならず金利やコモディティ価格が現在のように急変動することが増えてくると、こうしたマーケットリスクヘッジのインセンティブをなくしてしまうのは問題である。ただ、この分野に関しては結構テクニカルになるので、銀行の経営トップ層の理解が浅く、優先度合いを上げようという話にならないという事情もあろう。何か危機が起きるまではそれによって責任を取らされることもないからだ。

しかし、例えば金利が1%上がったとき、為替が10%変動した時に、カウンターパーティーリスクがどの程度増えるのかというのがわからない、ヘッジもしていないというのは非常に危険な気がする。BA-CVAだとクレジットリスクのみのヘッジとなるが、多くのデリバティブに詳しくない経営者からすると、それで十分ということになりかねない。特に市場変動によってリスクがそれほど変わらないローン畑の経営陣の場合は、BA-CVAで十分という判断になったとしても不思議ではない。

同じことはあらゆる分野で起きているが、リスク管理の知識や経験が以前より失われつつあるのではないかという懸念が残る。規制資本コストが最大のコストになりつつある中、それを減らすような行動を銀行が重視するのは当然であり、規制コストが減らないのであれば、わざわざコストをかけてリスク管理の高度化をする必要はないということになると本末転倒である。何とかリスク管理を高度化させるインセンティブが残るような仕組みを作っていけないだろうか。

海外大手銀行のテクノロジー投資

世界の大手金融機関はテクノロジー投資を着実に増やしている。2023年のマッキンゼーのレポートによると、銀行セクターのシステム投資は$650bnに上り、4%の収益増を上回る9%の伸びを見せている。米銀最大手のJPMなどは2023年にテクノロジーコストが年間$14bnと報じられ、これは日本の大手銀行の10倍以上になる。

日本企業のシステム投資についての報道を見ていると、以下のような特徴が報じられている。

日本では革新的なシステム投資を行うよりも、トラブルの少ない安定性やセキュリティが重視される。これには規制が厳しいという問題以外にも顧客が確実性を求める文化的なものもあるのかもしれない。確かに何かトラブルがあった時のダメージが大きいので、攻めの投資よりは守りの投資が重視されるのは仕方ないのだろう。

規制が厳しいかどうかについては若干疑わしいところもある。トランプ政権でどうなるかわからないが、米国の規制もかなり厳しい。しかし、海外ではシステム化や自動化を促すための規制が多いという特徴がある。STPガイダンスやリアルタイムレポーティングなどがその良い例だろう。何秒以内とか何分以内にレポーティングや決済などといった規制があるため、人手を介していては間に合わないのでシステム投資をせざるを得ないといった側面もある。

日本ではこうした規制がないのと、顧客の要求水準が高いため、マニュアルで作業しておいた方が特殊な要望に応えやすいという事情もある。人のコストが安かったこともあり、システム投資に膨大なコストをかけるよりは、人海戦術で対応する方がコストが安いという事情もあった。

しかし、人口減少と働き方改革、社会保障などのコスト増によって、これからは人件費が上がっていき、人手不足も深刻化していくだろう。税金を上げるというと大騒ぎになるが、給与明細をよく見ていると意外と社会保障関連のコストが増えているのがわかる。そうすると、海外企業並みにテクノロジーによる省力化を進めざるを得なくなる。一人の人員が働く時間も30年前と比べると格段に減った。残業で午前様になることも少なくなり、今となっては新卒の頃に隔週で土曜に出勤していたのが信じられないくらいである。

海外大手のテクノロジー投資分野を見てみると、2023年に$14bnを投資すると発表したJPMはAI、ブロックチェーン、デジタルバンキングにフォーカスして投資するとしている。同じく2023年に$8bnの投資を公表したシティは、インフラの近代化、AIやブロックチェーンなどのデジタル技術のインテグレーションがメインとしている。

BofAは2024年に$12bnを超えるテクノロジー投資と報道されており、そのうち$4bnが攻めの投資に充てられるとのことである。AI関連の投資は2022年と比べて94%増とのことで、この分野における米銀の投資拡大が顕著である。

銀行としての守りの強化もあるが、Wells Fargoは同じ年に$10bnの投資を公表しており、サイバーセキュリティ強化と次世代テクノロジーへの投資がメインとしている。日本ではMUFGグループが$1.5bnを同様の分野に投資と報じられ、中計で2023年度~2025年度の3年間で8000億円($5.3bn)の投資とされている。海外の規模には劣るが、日本でもデジタル関連を中心にIT投資が増えてきている。

AIを活用すれば議事録を作成する労力もほぼ必要なくなり、エクセルのVBAを書く必要もなくなったので、生産性はかなり上がってきている。人を減らしてシステム投資を増やす動きはますます加速し、金融は装置産業となっていくのだろう。