通貨スワップマーケットが拡大

いつも注目しているClarusの通貨スワップに関する統計によると、2024年の通貨スワップ取引数は前年比12%増加し、2018年以降、取引数は毎年少なくとも10%のペースで増加している。取引量は21%増加し、主要三通貨(EURUSD、JPYUSD、AUDUSD)では過去最高を記録した。特に、昨年過去最高を記録したドル円については、2024年も43%という驚異的な伸びを見せている。

ドル円の通貨スワップ取引数は13%増加しており、取引量の伸びが目立っている。通常、取引量が増加する理由としては、取引期間の短期化が挙げられるが、年限を見る限り、それほど短期化は見られない。つまり、単純に取引当たりのサイズが大きくなったことが原因であると言える。年限の平均は約5年で、引き続きEURなどの他の通貨よりも短い。

日本の通貨スワップには、外債発行に伴うスワップや外債投資に関連するものがある。外債投資の場合、短期の為替をロールするケースが多いが、一定の長期社債をリパックして円に倒す生命保険会社の投資などには、10年超の長期スワップが伴うこともある。

2024年は、銀行をはじめ、武田薬品工業の$3bn、NTTの$2.4bn、楽天の$2bn、ソフトバンクの$1.9bnなどが上半期のニュースで報じられた。2024年は円建ての普通社債や外債ともに過去最高の発行額となると予測されており、大規模な起債に伴う通貨スワップが影響を与えていると思われる。また、これらの取引はSEF(取引所)を経由して取引されないため、Clarusが指摘するSEFのプレゼンス低下に寄与している可能性がある。

日本では投資といえば株式が主流で、NISAでも株式投信や個別株が注目されている。しかし、金利が上昇してくると、資産運用のポートフォリオの一部として社債投資が増加する可能性がある。報道によれば、社債発行時には特に海外を中心に旺盛な需要が見られている。負債が大きな大企業にとっては、社債で一定額の資金調達を行い、銀行融資の枠を確保するという戦略が重要になるであろう。

今後も社債発行は増えていくことが予想され、それに応じて通貨スワップマーケットも順調に伸びていくことになろう。

中国の市場開放策

貿易の世界とは異なり、金融分野では中国の市場開放が進んでいる。投資家も、リターンが得られるのであれば、中国への投資意欲は引き続き一定程度見られるようだ。香港金融管理局(HKMA)は、最近、Bond Connectを通じて市場にアクセスしている投資家に対して、オフショアでのレポ取引を認めるプランを発表した。オンショアレポ市場の海外投資家への開放も、そう遠くないのかもしれない。

さらに驚くべきことに、レポ取引のマスター契約にGMRAを使用することが可能になるようだ。中国では、国際的なマスター契約ではなく独自の契約を選好する傾向があり、これが取引開始に時間とコストを要する一因となっていた。もちろん、中国独自のマスター契約であるNafmii(ナフミーと発音されることが多い)も使用できるが、GMRAも選択肢として認められることになるようだ。

また、レポ取引においては、国債の所有権が移転されることが明言されている。つまり、英国法で一般的な譲渡担保方式である「Title Transfer」方式が採用されることになる。これは、かなりグローバルスタンダードに近い方法であり、日本を含めた国際的な投資家にとっては、取引のハードルが大きく下がることを意味する。

唯一、担保の再利用が認められない方針のようなので、ファンディングコストは割高になる可能性がある。中国国債マーケットへの影響を抑えたかったのかもしれないが、将来的にはここもグローバルスタンダードに合わせてくることが期待されている。

また、いくつかのCCPが、中国国債を担保として受け入れることを検討していると報じられている。中国側も、マーケット間のつながりが強い金融市場において孤立することが得策ではないと判断したのか、一連の市場開放策が加速している。今後、金融分野において中国が一定のシェアを確保していくことが予想される。

株式リスク管理と債券リスク管理の融合

主にデリバティブ取引のフロントのFirst Line Risk管理については、株式と債券ではその管理手法に大きな違いがある。

株式デリバの場合は、十分な担保、特に当初証拠金を確保することが主流であり、担保プロセスやシステムリスクも含めて管理することが重要であるが、債券の場合は無担保の取引も多く、個別の与信管理がより重要になる。そのため、CVAなどのカウンターパーティーリスクのプライシングは主に債券取引で行われることが多く、株式の場合は、ごく少数の無担保取引に対してCVAをチャージするのが一般的だった。

株式デリバの場合は、通常商品と年限などに従った標準当初証拠金テーブルに従って担保を取るのが重要となる。株式オプションなどでは、オプションプレミアムのX倍を徴収したり、取引所が決める証拠金の3倍を取るなどといった慣行もある。

一方債券の場合は、金利のデルタリスクなど、ある程度単純なリスクについては標準テーブルを使うが、例えば2年のペイヤースワップションの売りと10年のレシーバースワップションの買い(デュレーションニュートラル)といった取引も多く、すべてのパターンをテーブルに入れるのが困難となる。また取引のバリエーションも多く、デュレーションニュートラルにならなかったり、金利スワップやレポとパッケージにしたいという要望も多く、当初証拠金の計算が複雑になる。

したがって、こうしたパッケージ取引については、全取引をモデルに入れてVaRを計算したり、シナリオを想定してストレス時にも十分な担保が確保できるよう精査をする。しかし、取引相手であるヘッジファンドやバイサイドからは当初証拠金が多いというクレームが入ることも多く、一筋縄ではいかない。

ヘッジファンドのトレーダーなどは商品やリスクには非常に詳しいが、リスク管理の専門家ではないので、プレミアムを払ったオプションを買ったのになぜ当初証拠金を出さなけばいけないのかといった初歩的なクレームをしてくる。払ったプレミアムが担保として即時に返されるというところまでは、担保オペレーションに詳しくないと気が回らないようだ。

それでもほかの銀行はそんな当初証拠金を取らないとか、もっと低い金額しか提示してこないと交渉が始まることもあるが、そうなるとCVAが発生するため、債券の場合はCVAチャージをかける。ヘッジファンドのトレーダーは、IMに文句はつけるものの、担保コストよりは取引のプライシングにセンシティブなので、CVAをチャージすると他のディーラーに流れていく。あるいはブラフだった場合はそのまま取引に至ることも多い。

したがって、リスクをきちんと評価せずにCVAを取らなかったところは、こうした取引を集中的に行うことになり、何かストレスが起きた時に巨額損失を被ることになる。いわゆる逆選択の問題だ。

しかし、株式商品の場合は、当初証拠金の交渉になった場合に、CVAをチャージしてプライシングに反映させるという慣行は、業界全体であまりないように思う。したがって、顧客関係を重視してIMを引き下げたところにリスクが集中する。若干プライシングを悪くして他の競合ディーラーに本当にもっていくかどうかを調べることもできない。そもそも、取引を一つ一つモデリングして、リスクを評価している時間もない。特に電子取引が進んでくると、個別にIMを計算してリスク評価をするのは困難になってくる。

したがって、株式の1st Lineのリスクマネージャーは、債券ほどリスクに詳しい必要はなく、それよりは、システムやプロセスの知識が必要になる。システムやプロセスの管理には人も必要なので、株式の場合は1st Lineのリスク管理者の人数も多くなる。またリスク管理者という名前で呼んでいないところも多いだろう。

このような状況だと、例えばアルケゴスのような巨額の集中ポジションを持っている顧客がいた場合、元本のX%という当初証拠金を取ることが唯一のリスク管理方法となり、ポジションの集中度合いや、参照資産である株式のボラティリティなどを詳しく評価していなかったことは予想に難くない。流動性の低い債券の場合は社債の発行額に対して参照資産のサイズが大きすぎないかというチェックは常識なのだが、流動性の高い株式の場合は、有名上場企業の場合こうしたチェックが必要ないことも多い。

しかし、おそらく債券系のフロントオフィスリスクマネージャーであれば、アルケゴスの取引を見た時にポートフォリオベースでストレステストを行い、当初証拠金が十分かどうかを検証し、新規取引にCVAチャージをかけて取引をAwayとすることができたのではないだろうか。つまり、あそこまでのサイズになると、債券型の個別分析が必要になっていたのだと思う。

一方で取引の自動化、電子化は、為替や国債を中心に進んできており、株式型のリスク管理が求められるようになってきている。特に近年では、最大のリスクはシステムリスクやサイバーリスクであると考えられる。マーケットが混乱にしているときに、大規模システム障害やサイバーアタックがあった場合のリスクは計り知れない。

今後は株式型と債券型のリスク管理を融合させて、標準化された取引を大量にプロセルする場合は株式型の管理を、特殊な取引やサイズの大きい取引はリスク管理に精通したリスクマネージャーが個別に詳細な分析を行うといったことが必要になってくるように思う。

米国債の現物の清算集中規制施行開始を控えて、銀行などのFCM経由ではなく、自らCCPのメンバーとなることを検討する市場参加者が増えている。銀行であれば、レバレッジ比率規制やG-SIB規制などに従うため、相応の資本コストを要求されるが、新たなメンバーにはこうした規制がかからないことが多く不公平ということで、当然既存のFCMである銀行からは、不満の声が聞かれる。同じことをしているのだから、新規参入をするマーケットメイカーやバイサイドに対しても同様の規制をかけるべきだという議論だ。

至極もっともな主張であるが、そもそも顧客のためにクリアリングをする際にグロスの想定元本で資本賦課をするレバレッジ比率規制や、顧客のために拠出した担保に応じて資本コストがかかる現行規制が実態に即していないように思う。もともとすべてのOTC取引を中央清算するというのが狙いだったのに、それに従って清算すれば、大きな資本コストがかかるというのも無理筋な話だ。銀行の主張も理解できるが、そもそも保守的すぎる規制を銀行以外にも適用するのは、少し厳しすぎるのかもしれない。

しかもこうした資本コストは清算取引に限ってデザインされたものではなく、大きな資本規制の中の一項目に過ぎない。CCPの直接参加者が銀行以外にも広がっている現状に鑑みれば、本来銀行規制というよりは、各CCPのルールで公平性を担保していくものだと思われる。特にIMや清算基金などのCCPのリスク管理ツールは商品ごとに異なるはずであり、一律の資本規制よりは、リスクに即した細かな対応を取ることができる。

その意味では、米国債の清算にはそれほど大きな資本は必要ないかもしれないが、レポであればギャップリスクをカバーするためにより資本コストがかかるのは当然だ。CCPサイドでは商品ごとのリスクの大きさに応じて当初証拠金(IM)を取っており、いざデフォルトが発生すれば、多くの場合そのIMで損失をカバーできるようになっている。確かにIMが足りず、清算基金にまで手を付けるケースが散見されるが、リーマン破綻時などにもリーマンの拠出したIMで損失がすべてカバーできたのも事実である。

本来はリスクに応じたIMをしっかり取っておき、清算基金に対して資本賦課をかけるというのが筋なのだろう。ただし、G-SIBスコアは影響の大きな銀行に対して計算されるものなので、クリアリングのサイズに応じてある程度考慮されるのは仕方ないだろう。ただし、想定元本に依存したスコアの計算方法は改めても良いかもしれない。

こうすれば、CCPに参加するメンバー間での不公平感はなくなり、メンバーも着実に増え、金融全体の効率化に資するものと思われる。実際、バイサイドがデフォルトオークションに参加したことにより、ポジション解消がスムーズに行えたケースもある。

あとは、日中に大きなリスクを取って日の終わりにはポジションがフラットになるため清算基金がかからないRelative Value Fundのエクスポージャーであるが、これは日中のリスクをリアルタイムでモニタリングし、拠出されたIMに対して一定の上限を設けるなどの仕組みが必要になるのだろう。

デリバティブ取引のみならまだしも、米国債のような巨大なマーケットの清算集中が始まると、CCPの直接参加者が増えてくるのは必然の流れかと思う。それに応じて規制やCCPのルールも進化していかなければならないのだろう。

AMERIBORのAFXをICEが買収

年末年始が日本ほど長くない海外では、この時期でも様々な動きがみられる。今年はICEのAFX買収のニュースが飛び込んできた。AFX(American Financial Exchange)は日本でそれほど知名度が高いわけではないが、LIBOR改革時にクレジットセンシティブレートの代表格であるAMERIBORのレートが話題になった。一時はAMERIBORを参照するスワップなども増え始め、米国地銀のローン金利として一定の支持を得ていた。

LIBOR改革でリスクフリーレートはSOFRやTONAに移行したが、こうしたリスクフリーレートで貸し出しを行っていると、銀行に何らかのショックがあった場合に、銀行の貸出金利に比べ調達コストが上がってしまうため、銀行の経営環境が一気に悪化するとして、銀行の信用コストを反映したレートが求められた。AMERIBORは、1000行以上の米国銀行の無担保借り入れコストを反映した金利インデックスとなっているので、銀行危機が起きればレートが必然的に上昇する。それにつれて貸出金利も上昇すれば、銀行の収益に与えるダメージを軽減することができる。

一時期はICEのBank Yield indexやBloombergのBSBYなど複数のクレジットセンシティブレートが存在していたが、IOSCOからのサポートが得られず、最近はあまり話が聞かれなくなっていた。SOFRに代わるメインインデックスとして使うのは難しくても、何らかの金融ショックが起きた時にのみ代替として使う道も模索していたようだ。

このままクレジットセンシティブレートは下火になっていくと思っていたが、数々の金融指標を持つICEによる買収により、AMERIBORが若干延命されるかもしれない。とは言え、米国の一部のマーケットで使われるのみで、成功したとしてもTIBOR程度の地位に収まるように思う。

それにしても欧州で同じような銀行の信用リスクを織り込んだ指標の話が活発になされなかったのが興味深い。欧州では、€STRのようなリスクフリーレートの貸し出しが増えているのだろうか。その点日本はグレーな部分も使いながらうまく対応していると言えるのかもしれない。

住宅ローン金利などを見てもそうだが、TONAなどに連動している訳ではなく、一般的な金利指標とは異なる動きをしているが、それほど大きな不満が出ているわけではない。おそらく日本の銀行危機が起きれば、円金利が上がらなかったとしてもローン金利を上げられるような仕組みになっているのだろう。とは言っても銀行が多いので、あまり極端なことを行えば借り換えが起きてしまう。

米国だとすぐに透明性だとか公平性ということが言われるが、どのようなモデルが望ましいのかはよくわからないところである。

信用リスク移転マーケットの発展に必要なこと

Credit Risk Transferについて耳にすることが多くなってきた。当初は証券化商品を担当する部門から、ローンのリスクトランスファーに関連するディールの話を聞くことが多かったが、そこからデリバティブへの応用という形で話が進んできた。以前からデリバティブ取引のRisk Transferに携わってきた身としては若干不可解に思えてしまうが、もしかしたら、ずっと下火だったリスク移転の話がここから盛り上がりを見せるのかもしれない。

昨年後半にFRBがリスク移転についての要件をQ&Aの中で明確にしたことから、SRT(Synthetic Risk Transfer)の形で米国で注目が集まった。これをデリバティブ取引にも広げて、資本削減やG-SIBスコアの削減などを図る動きが欧州でも活発化してきたのが昨年の初めくらいからである。

デリバティブ取引のリスク移転についておさらいすると、金融危機前後にCDSとともにCCDSがいくつか取引され、こうした取引が技術的に難しいという場合は、保証やRisk Participationが使われた。昨今でもコモディティの世界では普通にFourth Trigger CDSが取引されている。これは通常の3CE(3つのクレジットイベント)に加え、ISDA上のデフォルトを4つ目のクレジットイベントに加えるというものだ。

昔は信用枠をリリースしたり、リスク集中を避けるためにクレジットリスクを減らそうという動きが中心だったが、近年ではリスクを減らすというよりは資本コストを減らすためにこうした取引が行われることが多くなってきた。当然厳しい資本規制下にあるのは大銀行になるが、こうした規制の影響を受けない保険会社やアセマネなどのバイサイドやヘッジファンドなどがリスクを取れば、Win Winとなる。または国際基準行などのように厳しい資本規制の対象とならない地銀など、その他金融機関がリスクを取ってリターンを上げることもできる。

リスク移転の最も簡単で確実な方法は、取引をそのまま移してしまうNovationだ。しかし、通常は相手方に知られずにヘッジしたいというニーズが多く、CDS、CCDSなどサイレントでできるリスク移転が好まれる。本来であれば、より取引を継続的に行い長期的に顧客サービスを提供するために、一部リスクを外したいと言えば、顧客である事業会社なども理解してくれそうなものだが、銀行の営業としては、大事な顧客にリスクを他に移すということはなかなか言いずらいというのが現状だろう。

また、リスク移転は相対での取引となることが多く、なかなかお互いのニーズがマッチするような状況を見つけるのが難しい。何かオークションのようなプロセスや、いくつかの投資家のマッチングをするようなサービスがあれば、マーケットが膨らむかもしれない。そして、マッチング後もMTMの計算支援、デフォルト時の判定等まで弁護士と協力して公平なプロセスを確立できれば、金融の発展に資するものと思われる。