G-SIBが流動性に与えるインパクト

毎年年末になると流動性が逼迫してくるが、今年は特にその影響が大きそうだ。特にG-SIBの問題についての話になることが多く、様々な報道でも問題が指摘されている。大統領選後米銀の株価が急上昇したことにより、G-SIBスコアが上がってしまったことが関係しているのではないかという話を以前したが、金利スワップの取引量が増えていることも要因の一つかもしれない。

特に欧州のようにプリンシパルモデルを使っていると、CCPと顧客の間に立って取引をするブローカーにとっては、取引量がCCP側と顧客側でダブルでカウントされる。顧客のためにクリアリングをすればするほど、所要資本が増えてしまう。その他の資本計算上はCCP向けのリスクウェイトが低くなっているケースがあるが、G-SIBの場合は単なる想定元本である。つまり自らリスクを取ってポジションを取るよりも、顧客のためにCCPに繋いであげる方がより不利になるということである。

欧州Eurexでは、この問題を解決するために米国のようなエージェントモデルであるEATM(European Agent Trustee Model)を導入し、ダブルカウントを避けようという動きが継続しているが、ドイツの源泉税の関係で難航しているらしい。一方イギリスではこの問題は発生しないようだ。

しかしここまで市場流動性に影響が生じてくるとG-SIBの計算式も見直した方が良いのではないかと思えてくる。CCPに清算集中せよと言っておきながら、それをサポートしようとすると、資本コストが急増してしまうというのは不思議な話だ。

マーケットが急変したときに、以前であれば銀行がある程度の在庫を抱えながら市場インパクトを吸収していた。最近では、市場が急変動した場合には銀行は指をくわえて静観する以外にない。なかなか売れない資産を顧客から抱えて、市場が落ち着いたときに売却するということは、現在の規制環境下ではほぼ難しい。売れない資産を買ってしまった瞬間にレバレッジ比率が悪化し、NSFRやLCRにも悪影響が及び、G-SIBスコアの上昇に従って資本コストも増えてしまうからだ。

銀行が本来の役割を果たせなくなった分をシャドーバンキングがカバーしてきたのだが、当然シャドーバンキングのサイズが大きくなってくると、それに対する規制が強化される。だが、それが銀行に戻るかというとそういうわけではないので、結局は市場の流動性が悪化するという当たり前の結果になっている。

G-SIBスコアは細かく見ていくと、ダブルカウント、トリプルカウントではないかという項目も多い。今年の状況を見ていると、何らかの改善が望まれる。

米国の一人勝ちはいつまで続くか

米国大統領選挙後の米国株への資金流入額が、月$140bnに急増した。これは近年稀に見る水準の投資資金の流入で、2000年以降最高とのことである。本来であれば関税はインフレを誘発し、FEDの利下げが難しくなるという連想が働くはずなのだが、米国株以外に選択肢がないということなのかもしれない。

どこから資金が流れてきたかというと、欧州株から$14bn、Emerging Marketsから$8bn、日本から、$6bn、中国から$4bnとなっている。これで今年の米国株への資金流入は過去最高となり、今後もこの傾向が続くという楽観的な意見が強くなってきた。このペースが続くと予想する声は少ないが、それでも来年も一定の資金流入があると予想するアナリストが多い。Investors Intelligenceの強気指標も最高水準の62.9%となっている。

ファンダメンタルズを見ていると確かにそれを裏付けるようなデータが多い。しかし、ここまで多くの人が強気になると、一度その反動が起きると大きな流れを引き起こすのがマーケットの常である。そろそろ米国株の割合を減らした方が良いとは誰もが言えることだが、そのタイミングをぴたりと当てるのは非常に難しい。

一方、ロンドンの株式市場では、今年に入って新規上場が18社あったが、上場廃止や移管によって88社の企業が退出している。これは金融危機以降最大の退出であり、多くの企業がNYに流れてしまっている。新規上場も過去15年間で最低となり、若干危機的な状況になってきた。ロンドン証取に上場する企業は金融危機以降30%も減少している。

しかも、来年も更にNYへ移行するのではないかと言われる企業が多くなっている。アメリカファーストを訴えるトランプ新大統領のもとでこの流れは加速するのかもしれない。

英国の株価指数であるFTSE100も米国S&P500などに比べるとパフォーマンスがかなり悪く、完全に米国株独り勝ちの様相となっている。

とはいえ、英国も手をこまねいてみているだけではなく、様々な市場改革に乗り出している。資金調達額という意味では英国は未だ世界3位の水準にあり、市場の危機感を感じているからこそ、規制や市場の透明性を高めるために努力を行っている。未だ効果が見られないという批判もあろうが、こうした改革がすぐに結果を生むことは難しい。数年後に何らかの形で結果が出てくることになると思う。