EUR IRSの取引量が全通貨最大となった

ClarusのEUR金利スワップ(金利系の先物を含む)についての最新データが公表されているが、2024年は過去最高の取引量となりそうだ。特に驚いたことにEURがUSDの金利スワップを取引量で抜くことになりそうだ。EURだけでなく、その他の通貨の金利スワップも取引量が増えており、金利マーケットについては、非常に重要な年だったと言えよう。この傾向は元本だけでなくDV01で見ても過去最高となりそうだ。

もう一つ興味深いのは、日本円の金利スワップが安定的に4位に位置していることだ。以前AUDに抜かれた時もあったが、日銀の政策変更によって金利が動き始めたこともあり、最近はAUDを上回って推移している。このままの勢いが続けばGBPを超える可能性もない訳ではない。

ヘッジファンドなど海外市場参加者が円金利市場で取引量を増やしており、日本の国内も若干取引増加の兆しがみられる。日本ではバイアンドホールドの投資家の割合が高く、債券を買ってもそのままヘッジせずにポジションを持つ投資家も多かった。しかし、米国債や米国社債で金利リスクから巨額の損失を出した国内投資家も多く、ヘッジの重要性も再認識されるようになってきている。

日本では、どうしてもデリバティブというと何か投機的なもののように思う人も多いようだ。国債を買ってそのまま持っている方が金利リスクが大きいのだが、それを金利スワップでヘッジすると、財務諸表上でデリバティブ取引について開示をしなければならない。まさかヘッジのために金利スワップを行ったことによって、デリバティブ取引残高が増え、何か怪しいことをしていると思われることはないだろうが、いまだデリバティブに抵抗感を持たれる方もいるようだ。

特にCDSとなると、信用リスクのヘッジのために保険を買っているにもかかわらず、何か怪しいことをしているというイメージが付きまとってしまう。さすがに最近はこういった認識も少なくなってきたが、デリバティブ取引が企業の収益を安定化させるツールとして認識されていくことが望まれる。

マーケットは金融規制緩和を織り込み始めた

大統領選前の10月28日にJPMのダイモンCEOが痛烈な規制批判をしていた。it’s time to fight back(反撃の時が来たと)と、あたかもトランプ大統領当選を予期していたかのような発言だった。報復を恐れて金融機関が声を上げられなくなっている、自分も脅されたと言ったニュアンスのことまで言っていた。

日本だったら考えられない大胆な発言だったが、結局大統領選の結果によって、さらにこの傾向に拍車がかかりそうだ。確かに流動性規制のOverlap問題は、解決すべき問題である。このブログでも何度か紹介してきたように、一つ一つの規制には意味があっても、複数の規制が組み合わさると極度に保守的になってしまう。

ダイモン氏自身はトランプ政権の要職につくことはないと明言しているが、トランプ氏は既にSECのゲンスラー長官の解任を約束しているし、当選後名前の上がった政府要職の候補者を見ていると、金融規制の大幅緩和が現実味を帯びている。マーケットも早速これを織り込み、当選直後の銀行株は軒並み10%以上の上昇を見せた。

Basel III Endgameなどは全て白紙撤回になるかもしれないという意見まで聞かれるようになっている。逆に欧州では米国の規制緩和によって、欧州系の銀行が不利になるのではないかと恐れられている。あまり資本を気にしないから問題は少ないのかもしれないが、すでにFRTBを導入してしまった日本でも注意が必要だ。

CCPがクリアリングブローカーになる?

以前から話はあったのだが、CMEがついに今週FCMのライセンスを取得したと発表している。当然CCPとしてのCMEからは独立した主体になるだろうし、一定の情報や資産の遮断は行われるのだろうが、CCP自身がFCMを傘下に持つというのは、新しいコンセプトである。

もちろん、銀行サイドとしては競合相手が増えるのに加え、その競合相手の親会社がルールを決めているCCPということになるので、様々な議論があろう。さすがにそんなことはしないだろうが、参加者破綻時にCCP傘下のFCMを優遇し銀行FCMが不当に扱われるなどという懸念も寄せられている。いずれにしても利益相反の問題は何らかの形でクリアにしなければならない。

この辺りがクリアになっているのであれば、完全否定されるものでもないだろうし、他の使い方もできるかもしれない。例えば、現状の仕組みでは参加者破綻時にポジションを他のFCMに移管するのがかなり困難だと思っているが、こうした際に、この新たなFCMが一時的に受け皿になることができるかもしれない。そしてそれは、ひいては市場全体の安定に資することになる。

今回のアナウンスを受けて、銀行FCMと完全に競合するというよりは、少し別のステータスを持ったFCMを準備して、システム全体としての安定性を確保するという選択肢もあるのではないかと思った。また、CCPのグループ企業だけでなく、バイサイドやベンダー、その他マーケットメーカーなどが様々な形で参入してくるのも望ましいだろう。

特に、今やCCPは新たなToo Big To Failと言われるようになってきているので、それぞれの特色を出しながら、多様なクリアリングブローカーが参入してくるのは望ましいことと言えよう。ただし、G-SIBsやレバレッジ比率規制など、大手銀行が不利にならないよう、規制を調整する必要は出てくるものと思われる。

シャドーバンキング規制強化の流れ

最近マーケットが一方向に動くことが多くなってきた。以前であれば、金融機関がマーケットメーキングの一環としてポジションを抱えることにより、ショックアブソーバーの役割を果たしていたが、各種規制の影響で制限がかかり、マーケットが一方向に動き出したら止まらなくなるということが増えている。

他の要因として、動き出したら流れに乗るというモメンタム系のヘッジファンドが増えてきたことも影響していると報じられている。こういったファンドは、何かイベントが発生してマーケットが大きく動き出すと、ポジションを増やしたり、急速にアンワインドをすることがあるが、これがマーケットの動きを加速させてしまう。

特にAIやアルゴ取引などで自動的に取引を執行するような場合は、瞬時にポジションが解約されていく。海外マーケットなどでは、電子取引の割合がここ数年で増えているが、こうしたファンドの取引量の増加によるところも大きいものと思われる。

今回日本の選挙ではそれほど大きな市場変動はなかったが、為替の動きなどに対しては一定のヘッジファンドのフローの影響があったのかもしれない。いずれにしても、日本ではこうしたファンドが少なく、電子取引も少ないので海外ほど影響は顕著ではない。しかし、為替や一部先物取引のように、海外プレーヤーのシェアが高くなってくると、こうした影響は徐々に無視できなくなっていく。

一定のモメンタム系のシグナルが発生すると、多くの市場参加者が同じ取引をしようとする。それに対応するマーケットメーカーとしては、うかつにこうした取引を受けてしまうと、さらに市場が動いて大きく損失を出す危険性がある。

個人的にはヘッジファンドの存在意義の一つは市場流動性を高めることにあると思っていたのだが、ほかのマクロ系ファンドとは異なり、モメンタム系ファンドは、市場の効率化に資しているのか疑わしいと感じている。したがって、マーケットメーカーとしては、こうしたフローに適切なリスクチャージをしていくことが重要になるものと思われるが、透明性、公平性、競争上の問題からなかなかこれも難しい。

海外では、レポ市場で国債を借りてショートし、先物をロングするといったベーシストレードが流行っているが、ファンドがこうした取引戦略をとることも多い。米国では既に問題となっているが、この取引がワークするには、非常に大きなサイズで取引をする必要がある。厳格なバランスシート規制を受ける金融機関であれば、こうした取引を増やすとG-SIBスコアやBSが膨らんでしまうのでなかなかできない。しかし、規制の緩いヘッジファンドは簡単にできてしまう。

こうしたファンドに銀行規制と似たような規制をかけようという話も出ているが、当然ファンドサイドからは反対意見が出ている。投資家のコストが上がり経済における資金の流れを阻害するという理由だ。英国中銀のBailey総裁が、今週火曜のスピーチでシャドーバンキングに対する規制強化を再度訴えていたが、銀行がここまで規制を受ける中、一部のファンドがフリーライドをすることは不公平であるため、ある程度の規制は必要なのだろう。

確かにファンドといっても様々なものがあり、一律厳しい規制をかけるのは望ましくないのだが、現状市場の公平性の観点からいって、規制が厳しいところとそうでないところでかなりの違いが出ているのは確かである。ファンドは銀行の「顧客」であるため、特に大手のファンドになってくると、銀行に対して圧力をかけて有利な条件を引き出そうというところもあるかもしれない。アルケゴスのケースでも明らかになったように、競争上の理由、ファンドからの圧力で担保を引き下げてしまうということが現に起きている。

証拠金規制によって随分改善されたが、ヘッジファンドとの当初証拠金の交渉は難航することが多い。シャドーバンキングの規制強化の流れは加速しているが、ここまでファンドの立場が強くなってくると銀行だけ規制しても不十分ということがありうる。ある程度銀行以外に対する規制強化もやむを得ないのだろう。