円金利市場におけるCCPのシェアに変化

第三四半期のスワップ取引量がClarusから公表されたが、円のクリアリングについて若干大きな変化が表れている。昨年第三四半期より3倍と大幅に取引量が増えているのだが、そのうちかなりの部分がLCHの伸びになっている。最近JSCCのシェアが大きくなってきていたが、昨年第三四半期と比べると、66.2%から51.5%に減っている。確か以前も半々くらいだったので、元に戻った形なのだろうが、それにしてもこの差は思ったより大きい。

確かに新たに円金利マーケットに参入してきたファンドなども多く、若干静かになってしまった国内勢よりは海外勢が元気に気はする。また海外勢が短期金利上昇にベットした取引をしているため、想定元本で見た時の取引量が大きくなっているのかもしれない。

それにしても、他の通貨についてはそれほど大きな取引増が見られるわけではないので円金利の躍進には目を見張るものがある。やはりある程度金利は動かないと、マーケットが活発化せず、取引が細って流動性が落ちてしまう。トレーダー不足もささやかれているが、健全な金利の動きは必要不可欠なのだろう。

国債取引の国際化

米国債入札では、$100mm以上のサイズの入札については、当局に報告される点を顧客に通知しなければならない。また、$2nを超えるようなサイズになると、書面で報告が必要である。そして、札を受けた営業職員はトレーダーやその他の営業職員に、顧客名などの詳細を伝えてはならない。

この辺りは規制というよりはガイダンスという形で周知徹底されることも多く、それに沿った形で金融機関内部で細かくルールを作るのが一般的だ。疑わしきは罰せられるということもあり、金融機関では保守的な運営をすることが多い。特に海外ではベストプラクティスガイドラインというものが多い。

一方日本では、禁止事項を細かく規定することが多いので、もう少しはっきりしている。この方法は不確実性がないという意味で優れているのだが、グレーゾーンを攻める人が出てくる可能性が高くなるとも言われている。実際には米国債の入札の方が、一般的には厳しく管理されていると言われている。

また、米国債売買においては、決済は原則T+1で行われ、例外はほとんどない。顧客がT+1で払えない、払いたくないという理由で決済期間を延ばすことが原則禁じられているからだ。日本だと、顧客の移行を重視するからか、比較的柔軟な対応がなされている。米国債に清算集中規制が課されると、更に日米の慣行の差が開くことになる。

米国債では電子取引のシェアが極めて高いが、日本では特に大きなサイズの取引を中心にボイストレーディングが主流となっている。決済期間の延長や、人手を介するマニュアル処理が多いことも原因となっているのかもしれない。

日本国債に関してはよく「村」という言葉が使われてきた通り、ある程度特殊な世界となっている。昨今では日本の円金利市場に対する海外からの関心が高まっているが、やはり今後はある程度グローバルな取引慣行に併せていくことが必要になってくるのだろう。

米国債クリアリング規制の施行開始タイミング

米国債のクリアリング規制延期の話をしたばかりだが、ゲンスラーSEC長官が早速これを否定するコメントをしていた。今週月曜10/21のSIFMAの年次総会で、2025年末まで時間は十分にあるとして予定通り施行開始すべきと主張した。SECしかもゲンスラー氏の発言とあっては重みが少し異なる。

かなり強い口調で延期を否定していることから、各方面にもプレッシャーはかかっているだろうし、金融機関サイドも、当初スケジュール通りに作業を進める必要がある。とは言っても、ルールの承認が得られていない以上、内容が確定しておらず、システム開発が滞ってしまうのは事実なので、かなり厳しい状況であることに変わりはない。

もしかしたら、無理やり当局サイドも今年中にすべての承認を終わらせるべく必死で作業を加速させているのかもしれない。12月後半は休みが入ることから、残された時間はあと1ヶ月ちょっとである。

インドの証拠金規制も延期?

規制導入までの期間については1年が目安になっていると別記事で述べたが、これはあくまでも米国やEUの話。インドでは証拠金規制導入まで1ヵ月を切ったが、いまだにカストディアン契約について詳細が固まっていない。

もともとのルールが今年5月に公表されてから半年の期間での施行開始だったが、証拠金規制が他国でかなり前に導入されていることを考えると、対応は可能なのではないかと思っていた。しかしこのままの状況では11月8日の施行開始がかなり危ぶまれている。

そもそも、インドにおいてはかなりルールが異なることもあり、ディーラーサイドの準備に時間がかかる傾向がある。現状カストディアンのサービスは上場物商品に限られており、OTCの商品に関してどのような法的フレームワークが適用されるか今だにはっきりしない。このため、ISDAはRBI宛にレターを送り、規制導入の延期を要望している。

日本でもIM規制導入時には業界でワーキンググループを作ってかなりの議論を行った。日本の信託方式の検討、海外カストディアンが日本でサービスを行う際の法的フレームワークなど、1年以上準備に時間をかけていたと思う。その意味では、日本の場合規制導入を延期することが少なく、期限を決めたらそれを全力で守ろうとする。欧米の場合1年が目安と書いたが、日本の場合にこのような目安は存在しない。まじめな国民性の表れなのだろう。

日本の場合は代替的コンプライアンス(Substutited Compliance)の議論にもかなり時間を割いたが、インドの場合もある程度の代替的コンプライアンスが現地支店に認められるようだが、大手銀行のインド支店、現地法人、または海外法人経由の取引がそれぞれどのような扱いになるか、一つ一つ検討して取引をしなければならない。

インドのCCPがQCCP(適格CCP)として認められないために資本コストが大きくなるという問題もあったが、今後証拠金規制やその他の規制についても一つ一つ分析をしていく必要がある。中国やインドでネッティングが認められるようになったのは大きな一歩であるが、それ以降の規制対応については、まだまだ注意が必要である。

米国債クリアリング規制延期?

2025年末の米国債のクリアリング義務付け開始まであと1年1か月となってきた。その割にはまだDone With、Done Awayモデルの議論に結論がついていない。

Done With/Awayとは、通常顧客が取引のプライスを複数のディーラーに取りに行くときに使われることがである。ディーラーとしては自分が出したプライスで決まると、Done withまたは単にDoneとなるが、他のディーラーがより良いプライスを出したため、コンペで負けるような場合、Done Awayまたは単にAwayという。Doneになった場合は、Cover(2番目に良かったプライス)を聞いて自分が極端に良いプライスを出していなかったかを確認したりする。

OTCクリアリングの世界では、自らがクリアリングブローカーとなることによって、取引のExecutionも自分のところで行うよう働きかけることが禁じられている。少なくともClearing BrokerとExecution Brokerは対等にプライスで競わなければならない。クリアリングをしていない他のディーラー(Execution Broker)が不利にならないよう、適切な競争を担保するための仕組みである。

OTCクリアリングの世界の方がなじみがあるので、Done Awayを求めるバイサイドの意見も良くわかる。FICCの米国債クリアリングでは、Done withが認められている。つまり、ClearingとExecutionをセットで売り込むことができる。CMEやICEなど、新たに米国債クリアリングに参入しようとしているCCPは、OTCと同じようにDone Awayモデルを目指しているようだ。

FICCも各種ルール変更を計画しているようだが、この段階でもまだ内容が明らかになっておらず、当局承認も得られていないようだ。経験上、米国やEUにおいては、こうしたルールの確定は1年前までに行われていることが多い。つまり、2025年末という期限はかなり厳しくなっていると言える。仕組みが確定していないとシステム開発もできないし、各種ベンダーとの接続作業も本格的には進められない。

こうなると、米国債のクリアリングは2026年6月末、レポクリアリングは2026年末などに延期されるかもしれない。また他のCCPの承認プロセスが遅れれば、更に延期という話にもなりそうだ。

NDFのクリアリング

Clarusのデータによると、NDFのクリアリングが増えている。特に今年に入ってからの伸びが著しい。NDFはNon Deliverableなので、TWDとかKRWといった通貨が多いのだが、上位5通貨で85%を占めている。

グラフを見るとわかりやすいが、一日平均$50bn程度だった取引量が、$65bnまで増えてきている。よく見ると本来Non DeliverableではないJPYやEURが入っているのに気づかれると思うが、個人的にはここからJPYやEURといったDelivarableな通貨のNDFがどれくらい増えてくるかに興味を持っている。

当然こうした通貨は、普通の為替フォワードを取引すれば証拠金規制の対象外なので、ファンディングコストを考えるとクリアリングするメリットはない。しかし、取引相手がCCPに変わるので、カウンターパーティーリスクがなくなり、その分所要資本も減る。

昨今では、CCARなどのストレステスト、G-SIBスコア、クレジットリミット、資本コストなどが重要になってくるので、IMのコスト増につながったとしてもリスクや資本を減らせるので、クリアリングのニーズも出てきている。ただし、ファンディングコストの計算は容易でも、資本コストの計算に手間取ってなかなか前に進めないディーラーも多いようだ。

一応LCHのSmart Clearingはこうしたニーズに応えるために、すべての為替取引をクリアするのではなく、ちょうどこうしたリソースが最適化できるように一部取引のクリアリングを行う仕組みである。利用は伸びているうだが、まだクリティカルマスには届いていないようだ。ただ、一旦大手ディーラーが使い始めると、一気に爆発的に使われ始める可能性はある。

最近では急激な市場変動が大きくなり、VaRやPEモデルではこうしたテイルイベントをカバーできないという批判が高まり、ストレスシナリオをベースとしたリスク管理が重要になってきており、これがビジネスの最大の制約となりつつある。特に為替は一方向にポジションが傾く傾向もあり、為替レートが一時的に急変動した場合のストレスロスはかなり大きくなる。

このため、相対取引の為替フォワードから発生するデルタを、逆方向の為替取引で打ち返し、もともとのデルタをNDFでCCPと構築するという取引が有効になる。こうすると、相対取引の相手方に持っていたデルタがニュートラルになり、CCP向けのデルタに置き換えられる。CCPに対しては、従来必要のなかったIMが必要になるが、相対取引にかかっていたカウンターパーティーリスクがなくなるため、信用枠が開放され、資本コストも削減できる。

特に日本の取引はドル調達の方向に偏る傾向があるので、信用不安や市場変動によって取引ができなくなることを避けるためにも、あらゆる方策を検討し始めておいても良いのではないかと思われる。

RRUC

FRBの肝煎りでRRUCという団体が米国で立ち上げられた。これはReference Rate Use Committee の略でARRCを想起させる。事実、新しく立ち上げられたウェブサイトによると、Libor 改革とARRCのrecommendationから得た教訓に基づき、レファレンスレートの利用に関するベストプラクティスを確立することを目的とした会議体とのことである。最初のミーティングが今週10/9にあったようだ。

メンバーは大手銀行の専門家を主体にFRBの市場グループからも5人が参加している。FRBといっても、メンバーを見ると以前野村やドイチェで活躍したMichelle Nealなど、業界の専門家が入っている。日本でもこのような会議体で専門的な議論が活発に交わされればと思う。日銀の日本円金利指標に関する検討委員会が似たようなものではあったが、米国の方がもう少し権限が強いように感じる。特にARRCなどは規制当局の一部のようにみている市場参加者も多かった。

米国の場合銀行と当局の間で回転ドアのように人が行き来することがあるが、これは大学と銀行、政治と銀行の間でも良く見られる。これが望ましいことなのかは議論の余地があろうが、少なくとも専門家が同じ言語で議論を戦わせることになるので、議論のレベルが高くなる傾向がある。日本でも専門家が当局サイドに流れることはあるが、あくまでもアドバイザーのような役割で、当局の重役候補になるようなケースは海外より少ない。

さて、ARRCというと、ターム物SOFRのインターバンクでの取引解禁をめぐる議論が思い出されるが、Risk.netでは、今回のRRUCがこの問題に決着をつけるようなことはなさそうだという意見が紹介されていた。クレジットセンシティブレートについての議論よりも、SOFRがどのように算出され、使われるか、期末に変動しがちな点などを議論することになりそうだ。

こうなると、ターム物SOFRは当局からのアナウンスが出ない限りは現状維持が続くことになりそうだ。つまり、そう簡単にディーラー間でのターム物SOFRが取引されるようになる可能性は極めて低くなったと言えるのかもしれない。

金融とAI

金融はほぼ装置産業になっているといっても過言ではなく、IT、リスク管理、法令順守などに巨額の投資が必要となり、それをすべて揃えないと営業が難しい。そして、何か大きなシステムトラブルが起きると、一気に顧客や当局の信頼を損ねかねない。新しく銀行を一から作って参入するにはハードルが高すぎるので、その意味では参入障壁が高い安定業種とも言える。

本来であれば、ITの進歩やAIの利用による恩恵を受ける業種なのだが、情報漏洩リスクなどのコンプライアンス問題によってこれが難しくなってきている。

例えば、スマホ一つあれば、名刺スキャン、議事録作成、ChatGBPを使った文書作成などが簡単にできるのだが、グローバルに展開する大手金融機関でこれらを認めているところは少ない。名刺管理ソフト一つとっても、外資系の場合、情報管理の懸念から自社開発しなければならないが、いかんせんニーズがあるのが日本だけなので、結局手入力という非効率な業務が生まれる。

世の中のツールにアクセスできれば、英語のミーティングなどは録音してサマリーや議事録を簡単に作れる。翻訳ソフト以前に比べると格段に進歩した。文書を作成してAIに校正をお願いすれば、誤字脱字やテニオハも一瞬で修正することもできる。

会社の仕事以外では、自宅でこうしたツールを使って効率的に物事が進められるのに、一旦職場に足を踏み入れると、昔の世界に戻ったようで、もどかしさを感じる方も多いのではないだろうか。

当然大手銀行では社内で翻訳ソフトやAIによる業務支援ツールを開発しているのだが、やはりオープンソースで日々進歩していく世の中のツールにはどうしても遅れをとってしまう。またこうした内部開発のコストも無視できない。

一部業務をスタートアップにアウトソースしようと思ってもThird Party Venderリスクマネジメントに対する規制が強化されているので、アウトソースを進めるにも手間がかかる。

こうした環境の中では、革新的なサービスが大銀行から生まれるのは極めて難しくなっているのではないだろうか。デリバティブのフローなどは、銀行からより規制の少ないマーケットメーカーに移り始めており、バランスシートが使えない銀行は富裕層向けの資産運用ビジネスに舵を切っている。

確かに昨今では、〇〇Payによる決済、送金の割合が増え、税金や公共料金の支払いなども、かなりの部分が銀行を介さずできるようになってきた。銀行窓口をほとんど訪れたことがない人も多数いる。銀行だけを規制しておけばよかった時代は終わり、今後は規制の対象範囲もこうした環境変化に即して変わっていくことになるのだろう。

ISDA SIMM v2.7による担保額の変化

SIMM Version 2.7が公表された。これはISDA SIMMモデルの定期的アップデートだか、今回から2021-2023年のデータが対象となり、2020年のコロナショック時のデータが除かれることになるため、ほぼ初めてといって良いくらい必要担保が減る可能性がある。2008-2009年のデータはストレス期を代表するデータとして残るが、それでもかなりの削減となりそうだ。

これによってIMが減れば、€50mm(米国では$50mm、日本では50億円)の閾値を下回ってIMを出さなくてもよくなるバイサイドなどが出てくるかもしれない。

Risk.netでは20%減という分析結果が報道されているが、既にオフセットが大きい大手ディーラーの削減幅はそこまでないかもしれないとのことである。

リスクウェイトの詳細を見てみる。円金利商品については1mと3m、10-20yが若干増えているが、6m, 1y, 3yが減っている。いずれも1-2ポイントなので、あまり影響は大きくなさそうだ。ドルやユーロについては、1-5yが増えているが、15yが-5ポイント、20yが-4ポイントと大きく減っている。このインパクトは結構ありそうだ。

クレジット商品も概ねリスクウェイトが小さくなっているが、ハイイールドの金融債とテクノロジー、テレコムセクターのリスクが上がっている。全般的にはかなりの削減になりそうだ。

一方ハイイールドのRMBS/CMBSなどは1300から2900へと2倍以上に増えており、今回最も影響を受ける商品になりそうだ。株式は概ね小さくなっている。コモディティも貨物、北米電力などを中心に小さくなっている。為替はボラティリティの高い通貨についてリスクウェイトが上昇している。またブラジルレアル(BRL)がHigh Volatility通貨の分類から外れる一方、アルゼンチンペソ(ARS)がここに加わったので、BRLを取引する市場参加者のIMが減るが、ARSを取引する市場参加者には不利になる。

実際に新しいパラメーターでIMを計算してみると違いが良くわかるが、全般的にIMとしてカストディアンに眠ることになる担保が少なくなるのは市場関係者には朗報だろう。これで急な市場変動が起きて批判が起きるのが若干懸念されるが。

中国国債がCCPの適格担保に

LCHが、来年から中国国債₍CGB)を担保として受け入れる予定とRisk誌が報じた。当面はドル建てとユーロ建のもののみとなるが、その後オフショアの人民元建ての国債も受け入れることを検討しているとのことだ。

グローバルでは、非現金担保の占める割合が60%であるのに対し、アジアでは20%だそうだ。昨今現金以外の担保ニーズが急速に高まっていることを考えると、アジアの市場参加者にとって歓迎すべき動きだろう。

あまり普段から見ないデータなので間違っているかもしれないが、これらの国債のサイズをちょっと調べてみると、ドル建てとユーロ建てのCGBが$41bn、オフショア人民元建てが$18bnであるようにみえる。昨年の外貨建てCGB発行額が$60bnくらいだったと思うので何か抜けているかもしれない。若干の誤差はあるだろうが、中国のサイズからするとかなり少ない印象だ。オンショアの中国国債が$14tnだとするとその0.4%しかない。

逆に言うとオンショアCGBが適格担保になればかなりのマーケットインパクトとなる。HKEXなどではオンショアCGBを受け入れることは問題ないだろうが、グローバルCCPがこれをどの程度認めるようになるかに注目が集まる。

中国は昔からオンショアのCGBへのアクセスが難しく、ディーラーがアクセストレードと称してTRSのような形で、CGBや社債などのリターンを提供してきた。一方でオフショアの債券が海外投資家向けに販売されていたが、オンショアとオフショアのベーシスが大きく、この裁定取引で収益を上げる取引をするタイプのトレーダーも多い。

Bond Connectなど、一連の市場開放政策を受けて徐々に市場環境が変わりつつあるが、デリバティブのネッティングも可能になったこともあり、今後はこうした国際化の流れが加速するかもしれない。