米国バーゼルIII Endgameの修正が意味するもの

米国のBasel III最終案について、早ければ今月9月19日にも詳細が明らかになるという報道が相次いでいる。今回は金融業界サイドのロビー活動も、訴訟を含む前例のないレベルで展開されており、資本規制強化はアメリカ一般市民の生活を脅かすとした主張も功を奏したのか、一定の譲歩を引き出せそうな雰囲気になっている。

今回の修正案では、オペレーショナルリスクに関する規定を中心に変更が加えられるとするコメントも紹介されている。ウェルス・マネジメントやクレジットカード業務など、手数料ベースの非金利業務に対して銀行が割り当てなければならない資本の削減が見込まれている。

また、今回の修正は、以前の計画を全面的に書き直すものではないが、G-SIBの市場リスクに関して内部モデルを使える余地を広げるものになると報道されている。依然詳細な内容はわからないが、内部モデルが利用できる範囲が拡がることはリスク管理の進歩のためにも望ましいことである。

というのも、金融危機後の各種規制導入が進むにつれ、金融機関のリスク管理能力が低下しているような気がするからである。特にデリバティブリスクに精通したトップマネジメントが少数派となり、ローン残高や想定元本などのサイズのみを抑えようという動きが強くなってきた。内部モデルで自らがリスクを定義し制御していた頃とは異なり、標準法でリスクが大きいとみなされる取引に注目する傾向がますます強まっている。

こうした昨今のルールの下では、レバレッジ比率やバランスシートの制約が大きいため、単純に想定元本の大きい取引がリスキーとみなされる。単純な例を挙げれば、元本100億円で1%の固定金利と変動金利を交換するスワップと、元本10億円で10%の固定金利と変動金利を交換するスワップは同じキャッシュフローになる。しかし、元本は100億円のスワップの方が10倍大きい。これはあくまでも極端な例だが、いくらでも複雑なフォーミュラのキャッシュフローに変更することは可能である。

またVaRやPFEが実際のリスクを正しく把握してこなかったという声も大きくなっており、特に米国ではVaRからストレステストへと、リスク管理の手法のメインストリームが大きく変化しつつある。VaRやPFEは一定の確率で起きる事象なのだから、それが頻繁に起きたからといってリスク管理の失敗とは言えないと思うのだが、内容もよくわからずにPFEは適切なリスク指標ではないと報じられるケースも増えているようだ。本来であれば、VaRの限界を理解した上で、リスク制御を行えば良いものを、すべてストレステストに変えてしまうと、ストレスシナリオがどんどん極端なものになっていくだけである。

その意味でも、今回の米国のBasel III Endgameがどのように決着するかは極めて重要である。今後数週間の間に出てくる最終案に注目が集まる。