日本国債市場の電子化は進むか

米国債のT+1化、清算集中規制への動きなど、米国債をめぐる環境は大きく変わりつつある。もし日本で同じような国債のクリアリングが義務付けられれば、オペレーション面での懸念がクローズアップされそうなものだが、取引の2/3が電子で取引されている米国債市場では、比較的スムーズに移行できるのかもしれない。

日本で清算集中義務を課すことになれば、電話で注文を出しているボイスの取引を即座にクリアリングにつなぐなどの処理が必要になるが、その前段階の準備として、やはり電子取引への移行が必要になってくると思われる。

JSDAのデータを見ると、日銀の政策変更もあり、ここ数年の取引量は大きく伸びている。特に海外からの取引の伸びが著しい。海外ファンドなどは電子取引に慣れているので、海外のフローが増えると、電子取引の割合も増えてくる。

Risk.netの3月の記事では、Dealer to Clientの電子取引の取引数シェアは2020年の30%から60%にまで伸びているのではないかという市場参加者のコメントが紹介されていた。JSDAのデータと電子取引プラットフォーム3社(Tradeweb、Bloomberg、Yensai.com)のデータから推計したとのことである。ここで注意が必要なのは、これが取引のシェアということである。つまり小規模な取引が電子で、サイズの大きい取引がボイスで行われる現状では、当然このような結果になる。では取引のシェアでみると20%に満たない。それでも2020年の12%から18%に伸びているとのことである。

これは今に始まったことではないが、日本ではサイズの大きな取引は電子ではなくボイスで行う慣行が強く残っている。ディーラーサイドでも、1チケット1億円を下回るような小口取引をボイスでマニュアル対応するのは困難だが、数百億円を超えるような大口取引であれば、ボイスで対応しても問題ない、あるいはボイスで取引したいというニーズがあるものと思われる。大口の取引がコンペにかけられるとマーケットを動かしてしまう可能性もあるからだ。

特に日本の大手銀行や生保のフローはサイズが大きいものが多いので、これらが電子にすぐに移行することはなさそうである。しかし、海外のフローの中にはそれなりのサイズのものも含まれており、こうした取引が電子で取引されるようになれば、JGBの流動性も上がってくることになる。特に最近の海外フローの増加を見ていると、これが日本で電子のシェアが上がるきっかけになるかしれない。

ただし、米国並みの電子化を進めるには、規制面からのPushが必要な気する。なぜなら、国内の大手金融機関や生保が積極的に電子に移行するインセンティブがあまり見いだせないからである。電話で交渉してマーケットの情報を受け取ったり、各種サービスを受けながら取引する方が、取引担当者も安心だろう。ディーラーサイドも、いくらブッキングをマニュアルで行わなくてはならなくても、大口の注文はボイスで受ける方を好む気がする。

米国では、デリバティブ取引もそうだが、清算集中規制のほかにSEFの利用を義務付け、ほぼリアルタイムの取引報告を義務化している。取引を手作業でさばいていてはこうした報告に間に合わないため、否が応でもシステム投資を進めなければならなかった。日本にはETPの規制はあるものの、リアルタイムレポーティングの規制はなく、SEFのようなプラットフォームを使わなければならないという厳しい規制がない。

米国では、もちろん取引の公平性と透明性を高めるという目的のもとでこうした規制が作られたのだろうが、裏には複雑化する金融の変化に対応するため、人手を介した作業を極力排除し、金融機関にシステム投資を促すためという目的があったとするのは勘繰りすぎだろうか。

いずれにしても結果的に米銀のシステム投資は大きくなり、取引処理の自動化やシステム化が世界一進むことになった。これにAIを使った処理が加わったことで、ますます米国の優位性が高まっているようにも思える。日本でも、DX投資促進税制などが導入されているが、金融システム投資に対する税制優遇など、日本の金融機関が競争力を高められるような仕組みを作れないものだろうか。