キャリートレードとは

今回の8/5に起きた株式市場の暴落後、キャリートレードが打撃を受け、そのアンワインドが市場の動きを加速させたという記事が目立った。その後市場が回復すると、今度はヘッジファンドが円キャリートレードを復活させたという記事も出ている。

報道の中では、今回キャリートレードの60%とか75%が解消されたといったニュースも出ている。といってもどのくらいのキャリートレードが行われているかを示すデータはなく、唯一頼りにされているのがCFTCの為替先物のポジションとなっている。60%とか75%というのは、たいていこのCFTCのデータをもとに判断しているものと思われる。

ではキャリートレードとは何かというと、「低金利の通貨で調達した資金を高金利の通貨に換えて資産運用し、運用益に加えて金利の利ザヤを稼ぐ取引のこと。」といった説明が一般的である。例えば円で調達してドルの資産を買うといった行動になる。この説明だと、キャリートレードを解消するには、ドル資産を売って得たドルを円に交換し返却するというイメージとなる。

キャリーを稼ぐというのは現場でも良く使われる用語だが、何かの資産を保有することによって日々お金が入ってくる取引を指す言葉として使われる。社債を保有してクーポンが入ってくる取引が代表例だ。先ほどの定義に照らせば、為替スポット取引で円を売ってドルを買い、そのドルで米国債を買うような取引がキャリートレードの例となる。

実際にこうした取引もあるのだが、一般的に言われるキャリートレードとは、おそらく単に円を売ってドルを買うという為替取引を指していることが多い。ミセスワタナベと言われる日本の個人投資家が円を売ってドルを買う取引もキャリートレードで、単純にこの為替のポジションが解消されたと考える方がしっくりくる。個人投資家がFXでドルを買えば、スワップポイントが稼げるので、これがキャリー稼ぎになる。逆にこれを解消して円を買いにくれば、それがキャリートレードの解消となる。ヘッジファンドであれば、為替の先物やフォワード取引で円を売る取引を解消する取引だ。

したがって、円キャリートレードの解消といっても、単に円安に賭けていた取引が解消されただけということになる。特に円を売って高金利通貨であるメキシコペソやトルコリラを買うという取引が大きく影響を受ける。経済理論に従えば、ペソやリラは減価するので、ただで稼げるものはないはずなのだが、実際にはこのキャリートレードで収益を上げる投資家は多い。

そしてこのキャリートレードが為替レートの変動につながっている。しかも、市場変動によってパニックになった投資家がキャリートレードを一気に解消したり、追証によってポジション解消を余儀なくされたりするので、一般的には円高の方がスピードが速くなることが多い。為替介入時には、投機的な動きに対しては断固として対処するという声明が出される。たいていは海外ヘッジファンドを想定しているように思えるが、日本の個人投資家のFXのポジションも、一定程度の影響力を持っているのだろう。

Eurexが清算基金を15%引き上げ

EurexがDefault Fund Operational Bufferというものを9月から導入することとなったが、あまり好意的に受け入れられていないようだ。

先月7月9日に公表されたESMAのCCPに対するストレステストにおいて、Eurexの集中リスクやマーケットストレスに対する備えが十分でないという結果を受けての変更かと思われる。Eurexとしては、当局の指摘に迅速に応えたということなのだろうが、やはり拙速に対応した感は否めず、負担増の不公平感を問題視するディーラーからの反応が良くない。

集中度合いの高いポートフォリオの清算コストに対しては、以下のような不足額がESMAによって指摘されている。

ICE Clear Europe €3bn
Eurex €2bn
European Commodity Clearing €1.2bn
Euronext Clearing €0.4bn

ほかにもプロダクト別の不足額も詳細に示されており、CCPのリスク管理を見るには非常に有用なレポートとなっている。おそらくEurexはこのレポートで指摘された不足に対応するために、比較的容易に導入可能な清算基金の引き上げ(15%Up)に踏み切ったのだろう。

CCPのデフォルトマネジメントにおいては、当初証拠金(IM)と清算基金(DFまたはGF)のバランスが重要となる。特にクライアントクリアリングの顧客としては、清算基金が増えても何ら変化は生じない。CCPの仕組み上、清算基金はディーラーが拠出することになっているからだ。一方IMを増やすと顧客の拠出担保が増えるため、ディーラーにとっては影響が生じない。

したがって、DFの上昇はディーラーに不利、IMの上昇は顧客に不利(?)ということになる。ここで?を付けたのは、顧客がリスクを増やした分担保が増えるので、本当に不利と言えるかどうかは疑わしいためだ。本来自己責任原則を貫けば、リスクを増やした参加者が負担を増やすべきというのが正しい。

ではDFが増加したらその分を顧客に請求すれば良いのではないかと思われるかもしれないが、通常ディーラーは、このDFを負担する代わりにそれを手数料として請求する。手数料を上げるのは、競争上の理由から困難が伴うため、今回のような変更は単純にディーラーのリスク増、と収益源につながる。

どちらが正しいとも言えない問題なのかもしれないが、リスクの自己責任原則からすると、やはり集中リスクを加味するようIMモデルを変更する、あるいはIMのConcentration Chargeの計算を見直すというのが王道ではなかったのだろうか。