米国におけるクロスマージンの拡大

Getting to Grips with Treasury Clearingという題名で、ISDAから米国債のCCPでの清算集中規制に関して見解が示されている。一例として、FICCとCMEが米国債と金利先物で提供しているようなクロスマージンが米国の資本規制上認められていないことを問題視している。確かに実際にリスクがある程度相殺されているのだから、その効果を認めないとクロスマージンのインセンティブが削がれる。

来年末から米国債の現物が、再来年6月からレポに対してCCPでの清算義務されるようになっていく中、クロスマージンが資本削減につながらないと、銀行のバランスシート制約によって、十分な流動性が提供できるかどうかが怪しくなってくる。

また、FICCとCMEはクロスマージン制度を顧客向け取引にも拡大する予定と一部のメディアで報じられた。CMEがFCM登録されたディーラーを介して顧客取引をクリアするFCMモデルを使っているのに対し、FICCはFCMモデルとは異なるディーラーの関与度が少ないモデルを使っているため、このクロスマージンがどのようにワークするのかは明らかになっていない。そもそもCMEは自分で米国債クリアリングに参入するという話もあったので、このクロスマージンを行うことによって、そのプランをあきらめることになるのかにも注目が集まる。いずれにしてもクロスマージンの対象を拡げ、当初証拠金のみならず資本のベネフィットを与えることは、清算集中規制導入を控えて不可欠になってくると思われる。

また、バーゼルⅢ EndgameやG-SIBサーチャージについても、CVAに関する一部ルール変更やG-SIBの複雑性と相互関連性スコアの調整も主張している。ほかにもSLRのようなリスクセンシティブではない指標がディーラーのマーケットメークを阻害している点も挙げられており、いずれも市場機能の回復には極めて重要な指摘だと思われる。

米国には、金融デリバティブ、クリアリングなどのあらゆる問題を取り扱うGMACという会議体があり、当局も積極的に関与している。GMACでの議論の内容は、Yutubeでも公開されている。また、ISDA、SIFMA、FIAがそれぞれ専任の職員を雇用して、こうしたロビー活動にあたっている。日本にも国債取引に関しては、様々な会議体があるが、デリバティブとなるとLIBOR改革時の委員会以外にはあまり目立ったものはない。日本でもGMACのような開かれた場での議論があっても良いのではないだろうか。

エンドユーザー同士のレポ

担保ニーズの高まりにより、エンドユーザー同士でレポ取引や株券貸借取引を行うPeer-to-Peer(P2P)サービスが脚光を浴び始めているという記事があった。IMには現金以外も使えるが、VMは通常現金に限定されているため、大きな市場変動時に資産を現金化して担保コールに応えるという行動が、市場の変動をさらに加速させてしまうことが問題になっている。

担保用の現金確保には、手持ちの資産を担保にした短期借入が有効である。また、銀行借入に加えて、レポ取引や株券貸借取引が一般的に行われてきたが、規制強化によって銀行がこうした取引を行うことが困難になった。これが市場の変動をさらに大きくしているが、これぞまさに規制のunintended consequenceといえよう。

それでは銀行を通さずにバイサイド同士でレボやストックローンを行おうではないかということで、冒頭のP2Pの話につながってきた。今後は、バイサイドの多くも対象となる米国債レボの清算集中規制導入を控えて重要課題になっている。

バイサイド同士の証券貸借取引に関しては、2014年から、米国およびカナダの有力根金ファンドが定期的に集まってSecurities Financingについて議論を重ねてきた。2020年には有力バイサイド35社が非営利団体であるGPFA(Global Peer Financing Association)を設立した。設立メンバーはCalPERSなどの大手米国年金ファンドが中心になっているが、Webにある地図を見ると日本のメンバーも入っているように見える。

P2Pになると、バイサイド同士がGMRAなどのマスター契約を締結し、お互いに取引をすることとなるが、ダイレクトに無格付けの相手方の信用リスクをとることになるので、カウンターパーティーリスクの管理が必要となる。

2022年にステートストリートが立ち上げたVenturiでは、ステートストリートがCCPのようにカウンターパーティーリスクの保証を行うので、バイサイド同士が取引相手のリスクを気にすることなく取引ができる。つまり、参加者はステートストリートにてフェースすることになり、相手方のバイサイドのカウンターパーティーリスクを負わない。また、担保の時価評価、取引報告や担保管理サービスも一体になっている。

先日紹介したFSBのレポートでも、バイサイドに対して担保拠出のための流動性確保を課題として挙げているが、P2Pを含め、あらゆる流動性確保の手段を準備しておくことが重要になる。

大手バイサイドの中には銀行並みのシステム、オペレーション機能を持つところがあるため、P2Pのハードルはそれほど大きくないだろうが、すべてを銀行に頼ってきた中小ファンドにとっては、Venturiのようなサービスは極めて有効だろう。タクシー会社を介することなく、ユーザー同士がつながるライドシェアや、ホテルや不動産会社を介さずユーザー同士をつなぐAirbnbなどと同じようなことが、金融業界にも起きているということなのかもしれない。

残念ながら、GPFAやVenturiがどの程度の取引を行っているかは定かではないが、まさに現代のニーズに合ったサービスかと思う。日本でも地銀が持っているJGBを海外ファンドに貸し出すといった需要は極めて大きいものと思われる。地銀がヘッジファンドのカウンターパーティーリスクをとるのは難しいが、CCPやVenturiのようなプラットフォームを挟めば、ビジネスとして成り立つかもしれない。

ここまで規制が強化された金融においては、無駄をなくす努力、リソースの最適化が非常に重要になってくる。日本でこうしたサービスを生み出そうという動きがないのが残念だが、今後の重要課題の一つだろう。