Basel III Endgameが大幅緩和される?

英国局は、米国での規制の状況を見極めるため、銀行資本改革を少なくとも2016年1月まで延期する予定だと報じられた。先にEUが同様の延期を発表しているため特に驚きではないが、金融業界で注目を集めてきたバーゼル3エンドゲームの延期が確実になってきた。Until at least Jan 2026と報じられていることから、さらなる延期の可能性もあるかもしれない。

直接には、英国総選挙の公示によって規制当局が動けない期間ができるため、金融機関に1年の準備期間を与えるためには延期がやむなしという結論に至ったとされている。

これとは別に、英国では再来週の9月12日に、バーゼル3.1の2度目の改訂版を公表する予定とのことである。これがほぼ最終版に近いものになると予想されている。ちなみにバーゼル3.1は英国におけるバーゼル3最終案のことを指す。おそらく3.1という呼び方を使っているのは英国だけではないだろうか。

英国、EU、米国によって、実施スケジュールは何度も延期されてきた。イングランド銀行は昨年、米国が発表した2025年6月のスケジュールに合わせてスケジュールを変更した。米国では、当初バーゼル案よりも厳しい規制を課すとして激しい論争が巻き起こり、今年初めにパウエル議長が見直しに言及したところだ。あまりに厳しい規制のため当局を相手取った訴訟を起こすとした銀行まである。

政治家も、これまでは銀行を厳しく締め付ければ人気が出たということもあり、規制強化を訴える議員が多かったが、ここへ来て逆の動きも見え始めている。米国の驚くべきところは、メディアをロビー活動に活発に使うという点である。日本のテレビでバーゼル3を廃止せよなどというCMを見ることはないが、米国では政治的なCMや業界のロビー活動に関連したCMをよく見かける。

以下の動画などは、バーゼル3によって一般市民が買うものの価格が上がる、家が買えなくなる、子供を進学させる、退職後の生活が厳しくなるなどと訴えている。日本では考えられないCMだ。

このようなCMはこれだけでなく、検索すればほかにも似たようなCMが見つかる。一般大衆に訴えかけるCMまで出てきたということは、Basel IIIがかなり骨抜きになる可能性が出てきたということなのだろうか。

こうした米国の動きを察知したEUも既にバーゼル3最終化を延期し、今回英国がこれに加わる。

それだけ資本コストが世界の金融機関の収益性にインパクトを与える重要な要素ということになる(日本はすでに3月に導入してしまったが)。東証のPBR改善要請もあったことから、今後は資本効率を重視した経営が重要になってくるが、そうなると日本でも資本コストに対する見方も変わってくるかもしれない。

AI時代の取引執行コスト

引越し、車や不動産の売買その他あらゆるサービスで相見積もりを取るのが一般的だが、金融取引でもこれはある程度同じである。しかし、だからといって自分の行いたい取引を数多くのディーラーに聞きに行くと、マーケットを動かしてしまうというのが大きな違いである。

引越し業者10社に聞いたとしても、引越し業界全体の引越代が上がるということはないが、金融取引の場合は、逆効果になることがある。したがって、流動性が低くサイズの大きい取引は、1社でExclusiveに行ったり、せいぜい2~3社に絞って取引をすることが多い。取引を受けるディーラーサイドも、他に情報が漏れない方がマーケットインパクトが少ないので、Agressiveにプライスを出せる。

引越しで多くの業者の見積もりを一括で取ることがあるように、電子取引だと多くのディーラーに情報が流れていくことがある。為替や株式などでは、これを避けるためにサイズをスライシングして小分け注文にすることも多い。金利スワップやJGBの場合は、ボイスで取引をすることになる。だが、これもテクノロジーの進歩によって将来的には解決される問題だろう。

特に為替取引においては、取引をスライスせずに一括でフルサイズの取引を行うケースが増えてきており、CBOEでは全体の1/3、360tでは7割がフルサイズオーダーになっているとも報じられている。確かに株式取引などを海外で行う時も、オーダーは一回で出したものが、時間差で色々な価格で執行されていき、最終的には一つの平均価格でまとめて報告されてくることがあるが、これも似たようなものなのだろう。

当然どのような取引が収益性が高いかといった分析は簡単に行えるので、それに応じて営業職員、そして顧客すら評価することは可能だろうし、AIの利用が本格化する中、こうしたことを実際にやっているところも多くなっているものと予想される。また先日8月5日のようにマーケットが一方向に動いているときは、逆張りのフローなどは、非常に助かる取引なので、Agressiveに取りたい取引となる。つまり、ヘッジファンドやFX証拠金業者のように、市場の流れに従ってパニック売りをするようなフローは、ディーラーとしても難しい取引となり、実需に基づいた取引は、ありがたい取引ということになる。

難しいのは、最初の取引を執行した後、同じ取引をほかのディーラーで執行されるというものだろう。例えば、あるディーラーが顧客から円を買った後に、さらにその顧客が断続的に円を売り続けたら、円がさらに弱くなって最初に買った円から損失が発生するということになる。もちろん、為替の流動性から考えるとこのようなことは稀かもしれないが、流動性の低い商品、あるいはサイズの大きな取引だとこうしたことが起きても不思議ではない。

これを防ぐために取引プラットフォームでは、最初のオーダーから次のオーダーまで、ディーラーに若干の時間を与えるような仕組みを導入しているところもあるようだ。これをグレーアウトピリオドというらしい。

こうしたマーケットインパクトを予測することによって、顧客サイドはベストプライスを得ることができるようになるし、ディーラーサイドも顧客に良いプライスを提供できるようになる。あるいはプラットフォーム側でマーケットインパクトを減らすような仕組みを導入することも可能だろう。いずれにしても、金融取引の執行方法というのは、今後こうした側面を考慮しながら進化していくのだろう。順番としては、流動性の高い株式や為替で起きたことが、国債や社債、デリバティブ取引に波及していくことになるのだろう。

日本国債市場の電子化は進むか

米国債のT+1化、清算集中規制への動きなど、米国債をめぐる環境は大きく変わりつつある。もし日本で同じような国債のクリアリングが義務付けられれば、オペレーション面での懸念がクローズアップされそうなものだが、取引の2/3が電子で取引されている米国債市場では、比較的スムーズに移行できるのかもしれない。

日本で清算集中義務を課すことになれば、電話で注文を出しているボイスの取引を即座にクリアリングにつなぐなどの処理が必要になるが、その前段階の準備として、やはり電子取引への移行が必要になってくると思われる。

JSDAのデータを見ると、日銀の政策変更もあり、ここ数年の取引量は大きく伸びている。特に海外からの取引の伸びが著しい。海外ファンドなどは電子取引に慣れているので、海外のフローが増えると、電子取引の割合も増えてくる。

Risk.netの3月の記事では、Dealer to Clientの電子取引の取引数シェアは2020年の30%から60%にまで伸びているのではないかという市場参加者のコメントが紹介されていた。JSDAのデータと電子取引プラットフォーム3社(Tradeweb、Bloomberg、Yensai.com)のデータから推計したとのことである。ここで注意が必要なのは、これが取引のシェアということである。つまり小規模な取引が電子で、サイズの大きい取引がボイスで行われる現状では、当然このような結果になる。では取引のシェアでみると20%に満たない。それでも2020年の12%から18%に伸びているとのことである。

これは今に始まったことではないが、日本ではサイズの大きな取引は電子ではなくボイスで行う慣行が強く残っている。ディーラーサイドでも、1チケット1億円を下回るような小口取引をボイスでマニュアル対応するのは困難だが、数百億円を超えるような大口取引であれば、ボイスで対応しても問題ない、あるいはボイスで取引したいというニーズがあるものと思われる。大口の取引がコンペにかけられるとマーケットを動かしてしまう可能性もあるからだ。

特に日本の大手銀行や生保のフローはサイズが大きいものが多いので、これらが電子にすぐに移行することはなさそうである。しかし、海外のフローの中にはそれなりのサイズのものも含まれており、こうした取引が電子で取引されるようになれば、JGBの流動性も上がってくることになる。特に最近の海外フローの増加を見ていると、これが日本で電子のシェアが上がるきっかけになるかしれない。

ただし、米国並みの電子化を進めるには、規制面からのPushが必要な気する。なぜなら、国内の大手金融機関や生保が積極的に電子に移行するインセンティブがあまり見いだせないからである。電話で交渉してマーケットの情報を受け取ったり、各種サービスを受けながら取引する方が、取引担当者も安心だろう。ディーラーサイドも、いくらブッキングをマニュアルで行わなくてはならなくても、大口の注文はボイスで受ける方を好む気がする。

米国では、デリバティブ取引もそうだが、清算集中規制のほかにSEFの利用を義務付け、ほぼリアルタイムの取引報告を義務化している。取引を手作業でさばいていてはこうした報告に間に合わないため、否が応でもシステム投資を進めなければならなかった。日本にはETPの規制はあるものの、リアルタイムレポーティングの規制はなく、SEFのようなプラットフォームを使わなければならないという厳しい規制がない。

米国では、もちろん取引の公平性と透明性を高めるという目的のもとでこうした規制が作られたのだろうが、裏には複雑化する金融の変化に対応するため、人手を介した作業を極力排除し、金融機関にシステム投資を促すためという目的があったとするのは勘繰りすぎだろうか。

いずれにしても結果的に米銀のシステム投資は大きくなり、取引処理の自動化やシステム化が世界一進むことになった。これにAIを使った処理が加わったことで、ますます米国の優位性が高まっているようにも思える。日本でも、DX投資促進税制などが導入されているが、金融システム投資に対する税制優遇など、日本の金融機関が競争力を高められるような仕組みを作れないものだろうか。

キャリートレードとは

今回の8/5に起きた株式市場の暴落後、キャリートレードが打撃を受け、そのアンワインドが市場の動きを加速させたという記事が目立った。その後市場が回復すると、今度はヘッジファンドが円キャリートレードを復活させたという記事も出ている。

報道の中では、今回キャリートレードの60%とか75%が解消されたといったニュースも出ている。といってもどのくらいのキャリートレードが行われているかを示すデータはなく、唯一頼りにされているのがCFTCの為替先物のポジションとなっている。60%とか75%というのは、たいていこのCFTCのデータをもとに判断しているものと思われる。

ではキャリートレードとは何かというと、「低金利の通貨で調達した資金を高金利の通貨に換えて資産運用し、運用益に加えて金利の利ザヤを稼ぐ取引のこと。」といった説明が一般的である。例えば円で調達してドルの資産を買うといった行動になる。この説明だと、キャリートレードを解消するには、ドル資産を売って得たドルを円に交換し返却するというイメージとなる。

キャリーを稼ぐというのは現場でも良く使われる用語だが、何かの資産を保有することによって日々お金が入ってくる取引を指す言葉として使われる。社債を保有してクーポンが入ってくる取引が代表例だ。先ほどの定義に照らせば、為替スポット取引で円を売ってドルを買い、そのドルで米国債を買うような取引がキャリートレードの例となる。

実際にこうした取引もあるのだが、一般的に言われるキャリートレードとは、おそらく単に円を売ってドルを買うという為替取引を指していることが多い。ミセスワタナベと言われる日本の個人投資家が円を売ってドルを買う取引もキャリートレードで、単純にこの為替のポジションが解消されたと考える方がしっくりくる。個人投資家がFXでドルを買えば、スワップポイントが稼げるので、これがキャリー稼ぎになる。逆にこれを解消して円を買いにくれば、それがキャリートレードの解消となる。ヘッジファンドであれば、為替の先物やフォワード取引で円を売る取引を解消する取引だ。

したがって、円キャリートレードの解消といっても、単に円安に賭けていた取引が解消されただけということになる。特に円を売って高金利通貨であるメキシコペソやトルコリラを買うという取引が大きく影響を受ける。経済理論に従えば、ペソやリラは減価するので、ただで稼げるものはないはずなのだが、実際にはこのキャリートレードで収益を上げる投資家は多い。

そしてこのキャリートレードが為替レートの変動につながっている。しかも、市場変動によってパニックになった投資家がキャリートレードを一気に解消したり、追証によってポジション解消を余儀なくされたりするので、一般的には円高の方がスピードが速くなることが多い。為替介入時には、投機的な動きに対しては断固として対処するという声明が出される。たいていは海外ヘッジファンドを想定しているように思えるが、日本の個人投資家のFXのポジションも、一定程度の影響力を持っているのだろう。

Eurexが清算基金を15%引き上げ

EurexがDefault Fund Operational Bufferというものを9月から導入することとなったが、あまり好意的に受け入れられていないようだ。

先月7月9日に公表されたESMAのCCPに対するストレステストにおいて、Eurexの集中リスクやマーケットストレスに対する備えが十分でないという結果を受けての変更かと思われる。Eurexとしては、当局の指摘に迅速に応えたということなのだろうが、やはり拙速に対応した感は否めず、負担増の不公平感を問題視するディーラーからの反応が良くない。

集中度合いの高いポートフォリオの清算コストに対しては、以下のような不足額がESMAによって指摘されている。

ICE Clear Europe €3bn
Eurex €2bn
European Commodity Clearing €1.2bn
Euronext Clearing €0.4bn

ほかにもプロダクト別の不足額も詳細に示されており、CCPのリスク管理を見るには非常に有用なレポートとなっている。おそらくEurexはこのレポートで指摘された不足に対応するために、比較的容易に導入可能な清算基金の引き上げ(15%Up)に踏み切ったのだろう。

CCPのデフォルトマネジメントにおいては、当初証拠金(IM)と清算基金(DFまたはGF)のバランスが重要となる。特にクライアントクリアリングの顧客としては、清算基金が増えても何ら変化は生じない。CCPの仕組み上、清算基金はディーラーが拠出することになっているからだ。一方IMを増やすと顧客の拠出担保が増えるため、ディーラーにとっては影響が生じない。

したがって、DFの上昇はディーラーに不利、IMの上昇は顧客に不利(?)ということになる。ここで?を付けたのは、顧客がリスクを増やした分担保が増えるので、本当に不利と言えるかどうかは疑わしいためだ。本来自己責任原則を貫けば、リスクを増やした参加者が負担を増やすべきというのが正しい。

ではDFが増加したらその分を顧客に請求すれば良いのではないかと思われるかもしれないが、通常ディーラーは、このDFを負担する代わりにそれを手数料として請求する。手数料を上げるのは、競争上の理由から困難が伴うため、今回のような変更は単純にディーラーのリスク増、と収益源につながる。

どちらが正しいとも言えない問題なのかもしれないが、リスクの自己責任原則からすると、やはり集中リスクを加味するようIMモデルを変更する、あるいはIMのConcentration Chargeの計算を見直すというのが王道ではなかったのだろうか。

米国におけるクロスマージンの拡大

Getting to Grips with Treasury Clearingという題名で、ISDAから米国債のCCPでの清算集中規制に関して見解が示されている。一例として、FICCとCMEが米国債と金利先物で提供しているようなクロスマージンが米国の資本規制上認められていないことを問題視している。確かに実際にリスクがある程度相殺されているのだから、その効果を認めないとクロスマージンのインセンティブが削がれる。

来年末から米国債の現物が、再来年6月からレポに対してCCPでの清算義務されるようになっていく中、クロスマージンが資本削減につながらないと、銀行のバランスシート制約によって、十分な流動性が提供できるかどうかが怪しくなってくる。

また、FICCとCMEはクロスマージン制度を顧客向け取引にも拡大する予定と一部のメディアで報じられた。CMEがFCM登録されたディーラーを介して顧客取引をクリアするFCMモデルを使っているのに対し、FICCはFCMモデルとは異なるディーラーの関与度が少ないモデルを使っているため、このクロスマージンがどのようにワークするのかは明らかになっていない。そもそもCMEは自分で米国債クリアリングに参入するという話もあったので、このクロスマージンを行うことによって、そのプランをあきらめることになるのかにも注目が集まる。いずれにしてもクロスマージンの対象を拡げ、当初証拠金のみならず資本のベネフィットを与えることは、清算集中規制導入を控えて不可欠になってくると思われる。

また、バーゼルⅢ EndgameやG-SIBサーチャージについても、CVAに関する一部ルール変更やG-SIBの複雑性と相互関連性スコアの調整も主張している。ほかにもSLRのようなリスクセンシティブではない指標がディーラーのマーケットメークを阻害している点も挙げられており、いずれも市場機能の回復には極めて重要な指摘だと思われる。

米国には、金融デリバティブ、クリアリングなどのあらゆる問題を取り扱うGMACという会議体があり、当局も積極的に関与している。GMACでの議論の内容は、Yutubeでも公開されている。また、ISDA、SIFMA、FIAがそれぞれ専任の職員を雇用して、こうしたロビー活動にあたっている。日本にも国債取引に関しては、様々な会議体があるが、デリバティブとなるとLIBOR改革時の委員会以外にはあまり目立ったものはない。日本でもGMACのような開かれた場での議論があっても良いのではないだろうか。

エンドユーザー同士のレポ

担保ニーズの高まりにより、エンドユーザー同士でレポ取引や株券貸借取引を行うPeer-to-Peer(P2P)サービスが脚光を浴び始めているという記事があった。IMには現金以外も使えるが、VMは通常現金に限定されているため、大きな市場変動時に資産を現金化して担保コールに応えるという行動が、市場の変動をさらに加速させてしまうことが問題になっている。

担保用の現金確保には、手持ちの資産を担保にした短期借入が有効である。また、銀行借入に加えて、レポ取引や株券貸借取引が一般的に行われてきたが、規制強化によって銀行がこうした取引を行うことが困難になった。これが市場の変動をさらに大きくしているが、これぞまさに規制のunintended consequenceといえよう。

それでは銀行を通さずにバイサイド同士でレボやストックローンを行おうではないかということで、冒頭のP2Pの話につながってきた。今後は、バイサイドの多くも対象となる米国債レボの清算集中規制導入を控えて重要課題になっている。

バイサイド同士の証券貸借取引に関しては、2014年から、米国およびカナダの有力根金ファンドが定期的に集まってSecurities Financingについて議論を重ねてきた。2020年には有力バイサイド35社が非営利団体であるGPFA(Global Peer Financing Association)を設立した。設立メンバーはCalPERSなどの大手米国年金ファンドが中心になっているが、Webにある地図を見ると日本のメンバーも入っているように見える。

P2Pになると、バイサイド同士がGMRAなどのマスター契約を締結し、お互いに取引をすることとなるが、ダイレクトに無格付けの相手方の信用リスクをとることになるので、カウンターパーティーリスクの管理が必要となる。

2022年にステートストリートが立ち上げたVenturiでは、ステートストリートがCCPのようにカウンターパーティーリスクの保証を行うので、バイサイド同士が取引相手のリスクを気にすることなく取引ができる。つまり、参加者はステートストリートにてフェースすることになり、相手方のバイサイドのカウンターパーティーリスクを負わない。また、担保の時価評価、取引報告や担保管理サービスも一体になっている。

先日紹介したFSBのレポートでも、バイサイドに対して担保拠出のための流動性確保を課題として挙げているが、P2Pを含め、あらゆる流動性確保の手段を準備しておくことが重要になる。

大手バイサイドの中には銀行並みのシステム、オペレーション機能を持つところがあるため、P2Pのハードルはそれほど大きくないだろうが、すべてを銀行に頼ってきた中小ファンドにとっては、Venturiのようなサービスは極めて有効だろう。タクシー会社を介することなく、ユーザー同士がつながるライドシェアや、ホテルや不動産会社を介さずユーザー同士をつなぐAirbnbなどと同じようなことが、金融業界にも起きているということなのかもしれない。

残念ながら、GPFAやVenturiがどの程度の取引を行っているかは定かではないが、まさに現代のニーズに合ったサービスかと思う。日本でも地銀が持っているJGBを海外ファンドに貸し出すといった需要は極めて大きいものと思われる。地銀がヘッジファンドのカウンターパーティーリスクをとるのは難しいが、CCPやVenturiのようなプラットフォームを挟めば、ビジネスとして成り立つかもしれない。

ここまで規制が強化された金融においては、無駄をなくす努力、リソースの最適化が非常に重要になってくる。日本でこうしたサービスを生み出そうという動きがないのが残念だが、今後の重要課題の一つだろう。

リスク管理業務に起きている変化

4月にLloyds Bankがリスク管理部門の人員削減を行ったことが大きく報道され話題になった。FTの記事(Lloyds Bank axes risk staff after executives complain they are a ‘blocker’)のタイトルからわかるように、リスク管理部門がビジネスのBlocker、つまりビジネスを妨げているという苦情があったからという、金融ではよくある話だ。

こんなニュースが出ると米国などでは当局から睨まれそうなものだが、実際の中身を見てみると、Non Financial Riskが重要とコメントしていたり、あらなたにリスク管理の仕事を130新設していたりと、完全に減らすというよりは人員配置の見直しに近い。

このニュースを受けてRisk.netではほかの会社にもヒアリングをしていたようだ。20社にヒアリングをして少なくとも4社が似たようなことを検討していると報じている。人が増えれば重要度も増すというコンセプトのもと、2線のリスク管理部門がEmpire Buidlingのため、人員増強を図ってきたと証言するコメントも見られる。

だが、Lloydsの記事にもあるように、重要なリスクの性質が変わってきたというのが他の銀行でも確認されている。やはり、サイバーリスク、データ管理、外注先のリスク管理など、Non Financial Riskの対象範囲が広がってきている。

Financial Riskだと3線管理はほぼ定着していると思うが、Non Financial Riskの3線管理となると、銀行によってやり方がずいぶん異なるようだ。そもそもNon Financial Riskのスキルはマーケットリスクやカウンターパーティーリスク管理とは異なり、あまり専門家というのが存在していない。法務コンプライアンス部門や、オペレーションなどから人をフロントに移して対応していることが多いようだ。

日本の銀行では1.5線という言葉が使われることが多かったが、海外でも1.5 lineというコンセプトが生まれつつある。特に新しい分野のリスクについては、既存の2線の部門に完全にフィットするところがなく、フロントで様々なリスクを日々管理する方向になっていることが多いようだ。2線は、リーガルコンプライアンス、IT、オペレーションなどと担当が厳密に分かれているが、データ漏洩のリスクはITなのかコンプライアンスなのかといった議論にもなるので、フロントですべてのNon Financial Riskをカバーした方が話が早いのかもしれない。

こうしたリスクに関しては、日本の銀行の方が対応に長けているのかもしれない。海外ではリスク管理者についても専門性が重視され、市場リスク管理の専門家はずっと市場リスク管理を担当することが多い。日本では、様々な部署を経験することが多く、例えばサイバーリスクがフォーカスになれば、新しいチームを作って担当を付けることも容易である。

特に新しい分野で専門家が存在しないようなリスク管理業務に関しては、適切な人員を選びチームを作って稼働させることが簡単にできる。また、海外でよくあるEmpire Buildingというのが日本では起きにくい。人事部が適切な人員配置を検討するので、誰かひとりが人を増やしてパワーバランスを変えるのは困難である。

以前はNemawashi文化、判断が遅いと批判されたが、今や規制強化によってグローバルバンクでも根回しは必須になっている。誰もApproveと言いたくないので判断も遅くなった。こうなってくると実は日本の金融にもチャンスがあるのかもしれない。

通貨スワップのIM

証拠金規制導入時に、為替取引までIMを拠出するのは困難という抵抗を受け、スポットFXとフォワード為替取引がIMの対象外となった。そこまでは良かったのだが、それなら通貨スワップも同じようなものではないかということで、元本交換部分のみを計算から除くことで落ち着いた。証拠金規制は、導入から年数が経ち、すっかり事務フローとしても確立したのだが、今となってみると、同じ取引のうち一部だけを除くというのは、極めて無理なプロセスに思える。

これによって、証拠金計算のみならず、ポートフォリオの最適化や資本計算等の障害にもなっている。特に通貨スワップには、CSAの通貨による割引率の違いやMTM条項の有無、ブッキングの方法、ベースカレンシーの違いなど様々な問題がある。

MTM条項とは、四半期ごとに為替の動きに対応して元本をリセットするものである。ブッキングの問題とは、例えばEURJPYの通貨スワップをそのまま一つの取引としてブックするか、USDJPYとEURUSDに分けてブックするかという問題である。ベースカレンシー問題は、現状のようにドル金利が高い状況では、ドルで計算する米銀にとって、ドルクーポンの為替リスクはないが、円をベースとする邦銀の場合はこれが大きくなるという問題である。また米銀にとっては、USDJPYのMTM通貨スワップより、EURJPYのMTM通貨スワップの方がIMが大きくなる。

こうした手間を省くため、いくつかの為替フォワードに分解すれば、証拠金規制のIM計算の対象外にすることもできてしまう。

MTM条項付のスワップに関しては、ISDAからガイドラインが出ている。MTM条項がついているということは、四半期ごとに元本がリセットされるため、元本が変更になった分について四半期ごとに支払いが起きる。これはある意味元本交換のようなものなのだから、IMの計算の対象外ではないかと思う人もいるが、これは間違いである。

つまり、取引時点で確定している元本交換についてはSIMMの計算から除くことができるが、その時点では確定していない、フォワードからImplyされるようなキャッシュフローは、IMの計算に含むということである。もっと厳密にいうと、リセットしたばかりの次の支払額はFixされているのでSIMMの計算から除き、それ以降のまだFixされていないものはSIMMの計算に入れるということになる。

規制上の定義では、any risks or risk factors associated with the foreign exchange transactions associated with the fixed exchange of principal embedded in a cross-currency swapにはIMが必要とされている。ここでいうfixedは取引時点で固まっているキャッシュフローを指すという理解であり、その時点でfixされていない将来の支払いは除くことができないというロジックである。

通常債券発行時に事業会社などと行う通貨スワップは、固定vs固定のNon MTMのスワップになることが多い。ディーラーとしては、四半期ごとのリセットがないため、スワップのエクスポージャーが大きくなり、その分バランスシートや資本を使うことになる。このため、ディーラーは標準的な変動vs変動のMTM条項付のスワップを好む。コンプレッションなどの効率も高くなる。だが、このSIMMのガイドラインに従えば、マーケット標準のMTM条項付の変動vs変動の通貨スワップの方がIM負担が大きくなってしまうのである。

例えば、事業会社との通貨スワップのコストを抑えるために、最適化を行いマーケットスタンダードの変動vs変動のMTM条項付スワップを反対方向で入れると、IMが逆に増えるということになってしまい、為替のリスクは大きく軽減されるにもかかわらず、Optimizationなどしない方が良いということになる。実質的なリスクは減るのに、元本交換がSIMMから除かれているがために、IMが増えてしまうのである。

昨今では証拠金削減、資本コスト削減のためにあらゆる最適化取引が検討され、金融機関のバランスシートコストやポートフォリオとしてのリスクを小さくするような努力が行われているが、元本交換を除いてしまったがために、IM計算がリスク削減を反映しなくなってしまっているのである。そしてこの差を利用すれば、リスクが増えるがIMが減ることが起きてしまうのである。

通常の為替でも、NDFだとIMがかかるが、現物決済の為替フォワードにしてしまえば、IMはゼロになってしまう。現物決済の方が決済リスクがあるのでリスクは大きいはずなのだが、NDFだけ不当にコスト高になっているといっても過言ではない。

以前は、CCPで決済リスクを取るのは困難ということだったのだが、実際は現物やレポ、そして一部のCCPでは為替取引や通貨スワップもクリアリングするようになってきている。このような状況の中、清算集中規制もIM規制もかからないから楽だという理由で、為替取引が極端に増えるのはあまり健全とは言えない。大きな事故が起きる前に、為替取引についても清算集中やIMの規制をかけるべきなのではないだろうか。これは、VMすら取らない無担保為替取引の多い日本では特に重要な課題である。