資本コストが金融業界の最大のフォーカスとなる中、ISDAがSLRやG-SIBスコアの計算から米国債ポジションを除外することを求めるレターを出している。コロナショック時に、これらの免除が一時的に認められたが、これが米国債の流動性向上に一役買ったのは間違いない。
感染終息後の免除の恒久化が期待されていたものの、結局2021年3月に免除が終了したが、その際に当局が全体的な見直し作業に着手するとコメントしていた。この辺りの経緯は以前もこのブログでも紹介した。だが、その後見直しの議論が盛り上がった形跡はなく、Basel III endgameの中では、この免除については全く触れられていなかった。いったいどうなってしまったのかと思っている市場参加者が多かったため、先述したレターにつながった。
ここへ来て当局サイドからのコメントも増えてきたようだが、FRBに預けられている連邦準備金をSLRの計算から外すことは問題なくとも、これを米国債にまで広げるかどうかについては依然議論の余地があるようだ。シリコンバレーバンクなど米地銀が米国債ポジションから巨額損失を出して危機に陥ったことを考えればやむを得ないのかもしれない。
だが、この問題はSLRの議論とは切り離して考えるべきではないかと個人的には思う。そもそも、IRRBBのように、銀行勘定で保有する米国債の金利リスクに対する資本賦課のフレームワークが米国にないのが問題なのであり、SLRの問題とは別に考えるべきである。
自国の国債をレバレッジ比率から除外するのは、コロナショック時には他国でも一般的に行われていた。米国なら米国債、日本ならJGBというように、自国発行の国債のみについて免除を与えるのは仕方ないのだが、ここまでクロスボーダーの活動が増えている金融においては、本来はグローバルにおける調整が必要なのだろう。ただ、これは政治的に難しい。また、国際的に高格付の国債のみを外すということになると、財政懸念の大きな日本は不利になる。国債の格下げがショックをもたらす可能性が出てくるからだ。
話を米国に戻すと、特に中小銀行の金利リスクに対する規制の緩かった米国では、当局が言うように連邦準備預金のみを免除し、米国債はストレス時に免除しプロシクリカリティの抑制を図る方が望ましいのかもしれない。あるいは、金利リスクに対する規制を強化して、常時免除を模索するという方法もあろう。ただ、そうすると米国債の流動性が低下し、市場ボラティリティが高止まりすることを許容しなければならない。市場ボラティリティが上がると当初証拠金が増え金融全体としてのコストが上がってしまう。
その意味では、日本の規制は非常にうまくいっていると言えるのかもしれない。一部米国債で損失を発生させた金融機関もあるが、全体で見れば特に大きな危機を発生させることはなく、日銀のコントロールのお陰とは言え円金利のボラティリティは落ち着いており、比較的低コストで取引ができている。あまり資本コストを気にせず流動性を提供できる銀行が多いのもプラスに働いている。
ただ、徐々に資本コストの重要性が理解されてきていることから、日本においても、レバレッジ比率から国債を除くかどうかについての議論を海外並みに行っても良いかもしれない。特に今後金利上昇が見込まれる中、海外からは日本の金利上昇にベットする取引が増えてきている。このような投機的圧力が一時的に市場混乱を引き起こす可能性は否定できず、国債の売り圧力を抑える仕組みは今のうちから整えておく必要はあろう。
そのためにもレバレッジ比率の計算からJGBを恒久的に除外しておくのは、一つの選択肢だと思う。当然米国地銀のようなことにならないよう金利リスクに注意する必要があるが、日本で米国のようなことは起きないようにも思う。
現状のように日銀がほとんどの国債を保有していれば問題は少ないが、今後買い入れを減らす方針なのだから、いよいよこうした議論が大事になってくる。海外勢は国債先物やレポによってこうした取引をすることも多いので、国債現物市場のみならず、他の商品も併せてみていく必要があろう。