クライアントクリアリングビジネスの将来

米国で、クライアントクリアリングの取引にCVA Capitalをチャージすべきという話が出ている。CCPへのシフトを奨励する一方で、その取引をRiskyなものとして扱うことには違和感があるが、この点に関しては米国のスタンスは一貫している。

クライアントクリアリングにはCCPと顧客の間にブローカーが入るプリンシパルモデルと、CCPと顧客が直接取引をするが、その履行をディーラーが保証するエージェントモデルがある。プリンシパルモデルは主に欧州で広がり、米国は先物の流れでエージェントモデルが主流となっている。実際に取引相手とならないということで、エージェントモデルの方が資本コストが低く、欧州ではエージェントモデルへの変更が議論されていたくらいだ。今回はこのエージェントモデルでもCVA Capitalのコストがかかることになる。

エージェントモデルにおいては、ディーラーが保証を提供している形だが、保証はオフバランスシート項目であり、すでにデフォルトリスクに対する資本賦課がなされている。これにCVA Capitalを追加するのはダブルカウントとも言える。また、CVA CapitalはバーゼルIII標準法に含まれていないが、この変更により新たにCVA Capitalも追加になるという話もある。

クライアントクリアリングに関しては、顧客のポジションがレバレッジ比率計算の対象となるということで、資本コストがかさみ、いくつかのディーラーがクライアントクリアリングビジネスから撤退している。欧州では、顧客の拠出するIMはレバレッジ比率の計算から除外されているが、米国にはこのような措置はない。これで更にCVA Capitalまでとなると、いくつかビジネスの見直しを行うディーラーが出てきてもおかしくない。これまで比較的CVAに対する免除規定の多かった欧州が米国に追随する可能性は低いと思われるので、これは米国特有の問題となる。

さらに、CCPの参加者破綻時に、顧客がポジションを他のディーラーに移管(ポーティング)できるかどうかについては、すでに多くの疑問が呈されている。ここで更に資本規制強化が重なると、このポーティングという仕組み自体がワークしなくなる可能性がある。CSの時はUBSがすべて引き受けたから何とかなったが、CSのような巨大なポジションを短期間で受け入れることのできるディーラーは限られてくるだろう。そして、それを受けることによって多額の資本コストがかかるのであれば、ポジションの引き受けに躊躇するのが普通だろう。つまり今後大きな銀行危機が起きた時は、資本コスト増加を避けるためにポジションの移管がスムーズに行われず、該当ポジションが一斉解約されることになり、ますます市場の危機が増幅される可能性がある。

今回の提案にがFIAがレターを出しているが、バーゼルIIIエンドゲームと言われる米国の一連の規制強化によって、資本コストが22.4%増になると警告している(うちCVA Capitalのインパクトが8.1%増)。このほかにエージェントモデルで清算したクライアントクリアリングの取引を、GSIB Surchargeにも含めるという提案も出されており、このインパクトは58%増、つまりすべての改革が実現されると資本コストが80.5%増という、かなりの資本規制強化となる。ここまで何とか耐えてきたブローカーも、本気でビジネスの継続可能性を再精査する必要が出てくることが予想される。

本件改革案に対するコメント期限はすでに1月に終了しており、施行開始が来年7月と言われていることから、今年のどこかで最終案が出てくるものと思われる。米国だけの話とは言え、業界を揺るがすような変更になる可能性があるので、最終案には注目が集まる。