国債市場をめぐる規制の方向性は国によって異なる

決済期間短縮化、清算集中規制等、米国債の規制改革案が次々と最終化され、今後数年間の間に大きな変化が生じることとなる。また米国債の自己勘定取引を行う会社に対しても、ディーラーと同じような登録義務を課すという規制強化も議論されている。

決済期間短縮化に関しては、米国株や債券に投資する全世界の投資家が事務手続きの変更を余儀なくされるため、その影響は世界中に広がる。

特に為替取引を組み合わせて投資を行うアジアの投資家にとっては、時差の関係もあるため、事務負担はかなり大きくなる。ただ、その準備状況にはかなりばらつきがあるため、準備が遅れているところを中心に、かなりの混乱が起きるのではないかと危惧している。

米国がここまで国債市場に気を使うのは、2019年のレポショック、2020年3月の国債市場などの混乱時には、緊急介入を余儀なくされたことにあるのだろう。英国でも2022年秋にGilt Shockがあったが、やはりそのサイズからして米国債市場の混乱が与えるインパクトは他の追随を許さない。残高でみると英国債の残高は日本の半分以下である一方米国債残高は日本の4倍程度もある。

米国の場合は、金融規制によってディーラーのマーケットメークが困難になり、市場流動性が悪化したことが問題視されている。これを解決するために規制緩和が行われるのではないかという期待もあったが、結局は更に規制をかけることによって、CCPを使った流動性向上という方向性を目指すことになった。

日本では、米国ほどバランスシート制約やROEを気にするところが少ないので、ディーラーが引き続き流動性を提供している。その意味では日本の国債市場は、比較的安定していると言えよう。特に清算集中規制などの規制強化を行うという話も聞かれない。

米国では、清算集中機関の役割が今後ますます重要になってくることが予想される。現状では米国DTCCの重要性が増しているが、米国債市場ほどのサイズともなると、ある程度の競争が必要になるため、その他の清算機関の参入も予想される。CMEやIntercontinantal Exchangeなどがその候補になろう。

日本では東証/JSCCのほぼ独占状態だが、よほどの技術革新がない限り、新規参入があるようにも思えない。とは言え、他国の清算機関との比較やCPMI/IOSCOなど、海外からのプレッシャーが存在しないわけではないので、それなりに競争力を保ちつつ、技術革新への努力も続けられているように見える。

問題がない以上、規制強化をする必要性はないだろうから、たとえ米国で規制強化が進んでも、日本でJGBの清算集中規制が課されるようなことにはならないのだろうレポについては、清算集中規制を課さずともJSCCを通じた清算がすでにかなりのサイズで行われている。ヘアカットなしでレバレッジを掛けようとヘッジファンドが増えれば、何らかの議論が必要となるかもしれないが、現状ではそれほど大きな問題にはなっていない。

金融規制については世界的に歩調をそろえてレベルプレーイングフィールドを確保すべきという議論が持ち上がるが、国債周りの規制に関しては米国と日本では、異なる規制環境、オペレーションフローによって取引が続けられていくのだろう。